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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 018
管理番号 1078378 
審判番号 無効2002-35063 
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-22 
確定日 2003-05-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第3259174号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3259174号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3259174号商標(以下「本件商標」という。)は、平成6年7月20日に登録出願され、「ETNIES」の文字を横書きしてなり、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」を指定商品として、同9年2月24日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第24号証(枝番号を含む。)及び参考資料1ないし6を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号及び同第15号の該当性について
(1)請求人は、本件商標が出願される以前から米国を中心に需要者の間に広く認識されている「ETNIES」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)を使用してきている。
(2)引用商標に係る商品は、主にスケートボード用シューズ及びウエア(Tシャツ、パーカー等)であって(甲第3号証)、スケートボード選手により使用されるような品質の高い製品であり、スケートボード関連商品の取引者、需要者、特にスケートボードの愛好者に広く知られ、以後、アウトドアウエア、バッグ類に関しても知られるようになったものである。
そして、「ETNIES」シューズは、Natas Kaupas,Eric Dressen,Jason Rogers,SaI Barbier及び請求人であるPierre Andre Senizergues(ピエール・アンドレ・セニゼルゲ)らの有名スケートボード・チャンピオンによって使用されていたのである。スケートボードは米国のカリフォルニアがメッカであり、請求人の販売会社であるETNIES AMERICA(以下「エトニーズ社」という。)が営業を行なっている。
「ETNIES」は、1989年にスケートボード・チャンピオンのNatas Kaupasのシューズをデザインしたものである。Natas Kaupasは当時、世界で最も優れたスケートボード選手であったが、「ETNIES」のNATASモデルはスケートボード界で初めて特定の選手のためにデザインされたものである。
(3)請求人は、全世界的に本件商標を出願、登録し、使用している(甲第4号証1及び2)。日本では、請求人自らは販売しておらず、被請求人ほかの販売店を通して行っていたが、被請求人が「ETNIES」商標を無断出願したことに対しては甲第5号証に示す書簡に述べられているとおりである(甲第5号証訳文参照)。
(4)「ETNIES」製品は、米国のみならず、わが国においても、本件商標が出願された平成6年7月20日以前に、甲第5号証及び甲第8号証に示す複数の販売店を通じて販売されていた。商標「ETNIES」が当該製品の取引者、需要者の間で既に周知となっていた事実は、以下に示すとおりである。
甲第6号証の1ないし8は、請求人の「ETNIES」商標に係る製品が、1992年1月1日以前から取引きされ、販売されていたことを示す各地のスケートボード販売業者の証明書8通である。
「ETNIES」ブランドのシューズ及び被服は、わが国でも1990年以来複数の販売店を通じて販売されている。本件商標出願以前に商標「ETNIES」が請求人により使用されていた事実を示す証拠として、請求人の日本における販売店との間の1990年ないし1992年の取引書類の写しを添付する(甲第8号証)。これらの商品問い合わせ、注文書、送り状等により、請求人が商標「ETNIES」の正当な所有者であり、日本の販売店もそのように認識していたことは明らかである。
「ETNIES」製品は「Transworld SKATEbording」というスケートボードの専門雑誌に広告が掲載されているが(甲第9号証)、1989年から1992年の間、日本でも毎年7300冊以上販売されている。証拠として、当該雑誌の代表者の証明書を添付する(甲第10号証)。7300冊という部数は、当該雑誌がスケートボードという非常に限定されたスポーツの専門誌であることを考えると、決して少ない部数ではない。
同じく、日本でも頒布されている国際的スケートボード専門誌「THRASHER」にも「ETNIES」商標に係る製品の広告が掲載されているが、1991年11月号の表紙には、スケートボード選手が「ETNIES」シューズを履いている写真が掲載されている(甲第11号証)。これらの専門雑誌は、被請求人のように運動用具に関する業務を行っている会社は必ず目を通す雑誌である。
上記証拠により、「ETNIES」商標が米国での使用及びわが国での1990年以来の使用により、本件商標の出願時には既に、わが国のスケートボード関連商品の取引者、需要者の間に広く認識されていた商標であることが明らかである。
(5)被請求人は、1993年に請求人に接触以来、日本におけるETNIES製品の販売を行っている。請求人は、株式会社レバンテからの連絡により、被請求人が「ETNIES」商標の出願をしたことを知り、被請求人に書簡を送っている(甲第12号証)。
したがって、被請求人は、本件商標出願時には、商標「ETNIES」に係る請求人の商品を知っており、該商標の正当権利者が請求人であるとの認識の上で、「ETNIES」に関する商品の問い合わせをしたり、資料を請求したりし、あげくには請求人所有の「ETNIES」や図形からなる商標を無断出願したのである。
(6)以上のとおり、本件商標が被請求人によって、スケートボード靴、運動靴、アウトドアウェアー、バッグ類をはじめとして、これらと関連のある商品分野で使用されるときは、請求人の商標との間で商品の出所の混同を生じるおそれがあることは明白である。
現に、東京高裁判決においても、米国VANS社が被請求人の「ETNIES」を使用した商品を請求人の商品であると誤認し、警告書を送付してきたこと(甲第13号証の1及び2参照)などは現実の混同の事実を裏付けるものであると認定している(参考資料4の判決)。
なお、甲第17号証のBOON3月号等から明らかなように、被請求人は、カバン類についても「エトニーズのバックがなけりゃ始まらない」などとし、「エトニーズといえば、スケートボード用スニーカーとして超有名だけど、それだけではなかったのだ。ストリート御用達の人気バックも作っていたのでした」などの宣伝文句に見られるように、現実に請求人の商標・商品にただ乗りし、混同行為を行なっている。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当する商標である。

2 商標法第4条第1項第19号及び同第7号の該当性について
以上に述べたところから、被請求人は、本件商標を不正の目的をもって登録したことは明らかであるが、それ以外にも、被請求人が不正な意図で本件商標を登録し、ただ乗り行為を行なっていたことは、被請求人が東京高裁(資料4の判決)にて自ら提出した証拠のコピーである甲第16号証の1ないし甲第20号証から明らかである。
よって、被請求人のこのような行為は、請求人の著名な商標との間に誤認混同を生じさせるばかりか、商標法第4条第1項第19号にも該当するものである。
さらに、本件は外国人の周知・著名商標を横取り登録した典型的事案であり、商標法第4条第1項第7号にも該当する。

3 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第7号及び同第19号の規定に違反してされたものであるから、商標法第46条第1項の規定により、無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第36号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
商標法第4条第1項第10号によって本件商標の登録が無効になるためには、「ETNIES」商標が出願時、既に、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であったこと(以下「周知性」という)及び「ETNIES」商標が請求人の上記商品と同一若しくは類似する商品について使用されていること(以下「商品の類似性」という)の2つが必要となる。
(1)周知性について
被請求人が本件商標を出願した1994年当時、請求人が主としてスケートボード用シューズに使用していた引用商標は、日本だけでなく、アメリカにおいてさえ一般需要者、取引者に全く知られていない商標であった。
この点について、請求人は、周知性を立証する証拠として甲第3号証ないし甲第11号証を提出しているが、以下の通り、周知性を立証する証拠とはなり得ない。
請求人は、引用商標の各国出願・登録リスト及び登録証(甲第4号証)を提出し、請求人は全世界的に引用商標を出願、登録し使用していると主張する。
しかし、甲第4号証の1にリストアップされた商標中、本件商標の出願日(1994年7月20日)前に出願されている請求人所有の「ETNIES」商標は、ポルトガル、スペイン、スイスの3ヶ国だけである。またこれらの国において引用商標を使用したことを証明する証拠は全く提出されていない。したがって、甲第4号証は、本件商標の出願時に請求人の商標が周知であったことを立証する証拠とはなり得ない。
次に、請求人は、請求人の代理人弁護士の手紙(甲第5号証)を提出し、日本において、1992年以前にレバンテを含む8社と取引があったと主張する。
しかし、レバンテが本件商標の出願日前に我が国において、請求人商品を販売した事実は全くない。上記請求人の代理人弁護士の手紙は、その他の内容も事実と異なる主観的記載が多く、請求人の主張を立証する証拠とはなり得ない。
また、請求人は、請求人の販売会社からのレター(甲第6号証)により、引用商標に係る商品が本件商標出願前から取引され、販売されていたことを示していると主張する。
しかし、甲第6号証は、いずれの書面も単に、「当社はETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを証明する。」との文章にサインが添えられているにすぎず、各書面の作成者がスケートボードの販売業者であるとすれば、請求人及び請求人の販売会社とは卸売と小売という密接な関係にあること等の事実を考慮すれば、請求人が、各書面の作成者に書面の内容を指定した上でその作成を依頼し、そうした依頼に応じて作成されたものであることは明らかである。したがって、これらの書面は、その信用性が極めて乏しく、しかも、同号証は商品の販売ではなく、カタログ頒布を証明するにとどまるものである。
更に、請求人は、1988年から1995年にかけて「ETNIES」チームに所属した世界選手権チームライダーの氏名リストを提出して、甲第9号証の1992年8月号掲載広告に使用したスケーター2人が上記チームライダーに含まれていることを挙げ、その宣伝効果の大なることを主張する。
しかし、スケートボードが本件商標出願後に急速に広まったとはいえ、出願当時は若者一般がスケートボードの世界選手権チームライダーの名前や顔まで知っていたわけではなく、米国のスケートボード競技まで知っているものは極く少数であり、ましてや、かばん類等の需要者、取引者については全く知られていなかったのであるから、甲第7号証は、何ら周知性を立証する証拠とはならない。
請求人が提出した甲第8号証は、請求人と日本のスケートボード用具の取扱業者(6社)間の単なる問い合わせや、やりとりの文書がほとんどであり、わずかに含まれているエトニーズ社からの送り状の販売総数もごく僅かで、しかも、これら証拠はすべて1991年の約1年間のみの書類であり、加えて、極めて小規模の会社であって、スケートボード用具の業界においてほとんど知られていない零細な会社がほとんどであるから、このような当時の請求人会社や取引会社の規模及び取引の規模からみても、1990年から本件商標出願時までの引用商標の使用が日本及び外国においてこれを周知・著名とするに足るものであったとは認めがたい。
更に、請求人は、米国のスケートボード専門誌に掲載された広告(甲第9及び11号証)を提出し、これにより、引用商標が本件商標の出願前、我が国のスケートボード関連商品の取引者、需要者、特にスケートボードの愛好者の間に広く認識されていたと主張する。
しかし、引用商標の広告は2種類のスケートボード専門雑誌に8回と14回掲載されたのみであり、これが米国周知を立証するに足るものでないことは明かである。ましてや我が国においては、7300冊輸入されているとしても、日本における販売数の証明はなく、はたして、これら英語の専門雑誌を我が国のスケートボード愛好者の多くが読んでいるのか疑問である。さらに、本件商標の指定商品の需要者、取引者を対象にすれば、米国のスケートボード専門誌の購読者は1%にも満たないであろう。
以上の通り、請求人が提出した証拠のみによっては、引用商標が、スケートボード業界でさえ果たして周知・著名であったと言えるのかさえ不明であり、仮に同業界で周知・著名であったとしても、本件商標の出願当時、日本においては同業界自体が極く少人数の限られた範囲であり、少なくとも本件商標の指定商品である「バッグ類、袋物、携帯用化粧道具入れ」の需要者・取引者には全く知られていない商標であった。
以上の通り、引用商標が、広く需要者の間に知られていた商標として商標法第4条第1項第10号により他人の登録を排除できる様な周知性の要件を充たすものでないことは明らかである。
(2)商品の類似性について
請求人は、引用商標はかばん類にも広く使用されていると主張しているが、本件商標の出願当時に引用商標がかばん類に使用されていることを立証する証拠は提出されていない。
また、仮に、引用商標がスケートボード用ウエアに使用されているとしても、スケートボード自体の需要者は、若者の中でもごく一部に限られるのに対し、本件商標の指定商品である「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」等の需要者は、こうした若者に限られるわけではないから、スケートボード用ウエアと本件商標の指定商品とは需要者の範囲が一致しているとは言えないし、両者は生産部門も販売部門も異なる非類似の商品である。
以上の通り、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する商標ではない。

2 商標法第4条第1項第15号について
請求人は、引用商標は本件商標出願前において請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた商標であり、スケートボード用靴、運動靴、アウトドアウエア、バッグ類に使用されていたものであるから、両商標間に商品の出所の混同が生ずると主張する。
しかし、本件商標出願時、日本において引用商標が一般需要者・取引者にほとんど知られていない無名の商標であったこと、本件商標出願時、引用商標が「バッグ類」等本件商標の指定商品に使用されていたことを示す証拠は全く提出されていないことは、前述の通りである。
また、引用商標が、仮にスケートボード用具の取引業者間では周知・著名であったとしても、スケートボード業界という極く狭い限られた範囲における極く小人数のことであり、本件商標の指定商品である「バッグ類、袋物、携帯用化粧道具入れ」の需要者・取引者にはほとんど知られていない商標であるから、本件商標をバッグ類等に使用した場合に商品の出所の混同が生じるおそれなどなかったと言える。
請求人は、混同を裏付ける証拠として甲第13号証を提出し、米国VANS社が「ETNIES」商標を使用した被請求人の「靴」を請求人が販売した商品であると誤認したと主張するが、本件商標の指定商品は「靴」ではなく「バッグ類、袋物、携帯用化粧道具入れ」である。また、重要なことは、甲第13号証は、本件商標の出願時ではなく、出願後3年も後の誤認事件を本件商標の出願当時の「混同のおそれ」の認定の根拠として利用しようとするものであって失当である。

3 商標法第4条第1項第19号について
(1)周知性について
本号においては、日本国内又は外国において需要者の間に広く認識されている有名商標であることが必要となるが、既に述べたとおり、本件商標が出願された当時、日本国内はもとより、アメリカをはじめとする海外においても、引用商標は全く無名であった。
したがって、本号の要件を満たすものではない。
(2)不正の目的について
請求人が、本件商標が第4条第1項第19号における「不正の目的」を有する出願であると主張する根拠は、請求人提出の参考資料3及び4の審判及び判決が「被請求人は靴の輸入販売に積極的に取り組んでいたことなどからしても、被請求人が引用商標を知って出願したと推認するに難くない」「本件訴訟に入る前に、代理人同士の内容証明における交渉において、請求人からは引用商標を使用するに至った経緯が示されたのに対し、被請求人からは何ら示されていないことなどからしても被請求人が本件商標を独自で採用したとする主張は採択し難い」と認定したこと、及び甲第16号証ないし甲第20号証における被請求人による「ETNIES」商標の使用態様が、引用商標の使用態様とそっくりであることから、これらから被請求人が請求人の著名商標を横取りし、これにただ乗りするため出願したものであることが推定される旨主張する。
しかし、本件商標は、請求人が独自で採択したものであり、不正の目的をもって出願したものではなく、本件商標の出願当時、引用商標は、米国においても日本においても需要者に広く知られている商標ではなかった。本件商標の採択の経緯を審決や訴訟前の交渉において特に説明しなかったのは、請求人が独自に採択した商標であっても、採択後、特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室・平成8年改正工業所有権法の解説143頁に記載されているような不正の目的を持って出願した場合は同号に該当するとされるべきであり、結局、独自に採択した商標であるか否かは同号の直接の要件にはなっていないからである。
次に、本件商標の出願当時、引用商標は周知・著名ではなかったこと及び本件商標は被請求人が独自に採択したものであり、不正の目的をもって出願したものではないことを説明する。
(a)本件商標出願時に、引用商標の周知・著名性が認められないこと
乙第6号証及び乙第7号証は、米国のスポーツシューズ市場における1987年〜1989年と1992年〜1994年の上位ブランド25位をそれぞれ示したものであるが、本件商標出願当時、スケートボード用靴としてアメリカにおいて周知のブランドであるバンズ(VANS)、エアウオーク(AIRWALK)はこのランキング表に名を連ねているが、引用商標は25位迄の順位に全く入ってきていない。
日本においても、本件商標の出願当時、スケートボード専門店は極く少数であり、スケートボード用靴の販売量のかなりの割合が、一般の靴店におけるものであったところ、平成4年1月当時、スケートボード靴を商品として取り扱っていた非常に多くの靴の小売等に関わる会社が「ETNIES」というブランドについては当時全く聞いたことがなく、かなり後になって「ETNIES」というブランドが請求人の商標としてではなく、被請求人の商標として知るようになったことを認めている(乙第10、14、15号証)。
なお、これら多数の会社の中には、例えば、靴の小売り業の1990年度1991年度での売上高で第1位のチヨダ、第2位の靴のマルトミ、第12位のボヌール商事、第26位のワシントン靴店(富山)、第73位の千足屋といった会社(乙第11号証)や、靴の卸売業の1990年度ないし1991年度の売上高で第5位のアシックス商事、第11位の丸大、第17位のコマリヨー(被請求人)、第55位のアキレス東京販売、第56位の丸喜といった会社(乙第12号証)や、靴の製造業の1992年度の法人所得ランキングで第1位のアキレス、第2位の(株)アシックス、第3位の月星化成(株)といった会社(乙第13号証)も含まれている。
なお、このうち、アシックス(株)は、スケートボード用靴として著名な「AIRWALK」を取り扱っている会社であり、また、乙第10号証の報告書にも、乙第14号証及び乙第15号証の報告書にも出てくる(株)ライフギアコーポレーションは、同じくスケートボード用靴として著名な「VANS」を取り扱っている会社である。
また、平成4年当時、かなりのシェアを占めるスケートボード用靴の輸入、卸売りを行っていた(株)ライフギアコーポレーションの担当者であった加藤氏及び宮本氏においても、平成4年1月当時、「ETNIES」というブランドについては全く聞いたことがないということである。上記両氏は、平成4年以前からスケートボード用靴の輸入を取り扱ってきた人物で、いわばスケートボード用靴の取扱業者においては第一人者といえる人物であるが、かかる人物においてさえ、被請求人が「ETNIES」商標を靴について最初に出願した平成4年1月当時、「ETNIES」というブランドについては知らなかったということである(乙第14,15号証)。
また、請求人が引用商標を使用し始めたのは、エトニース社を設立した1990年と考えられるが(乙第5号証)、1994年3月には閉業しており、新たに設立した会社で引用商標の使用を再開したのであるが、1996年10月には「ETNIES」商標を放棄することを一旦決定し、当時この決定を各国取引者へ伝えている(乙第14号証)。
以上の事実からみても、引用商標が本件商標出願当時、周知・著名性を獲得する程度に、外国においても日本国内においても使用、宣伝が重ねられてきたと認めることは到底できない。
(b)被請求人の本件商標の使用に至る経緯
被請求人は、1995年創業のフットウエア専門の商社であるが(なお、甲第14号証によれば、1956年に創業、1970年にコマリョーに社名変更とある。)、流通業務のみならず独自に新商品を開発し、自社ブランドを付してオリジナル商品として販売する企画販売業務も行っているところ、本件商標は、当時開発した自社の新商品に使用するため、1991年に被請求人の代表者河瀬徹が考案した。
被請求人は、1991年当時既に10数件の商標を使用していたが、マーケティングにおけるブランドの重要性に着目し、自社開発の靴に使用するためヒットするネーミングを検討していた。その際先ず着目した点が、靴の有名ブランドは語尾に「S」のつくものが多いということであった。即ち、「Adidas」、「Asics」、「Guess」、「keds」、「Vans」等である。
そこで被請求人代表者河瀬徹が、語尾に「S」のつく語で何かよい言葉はないかと考えていたところ、たまたま以前から知っていたスニーカーの周知・著名商標の「ETONIC」を見かけ(乙第7号証、乙第17号証)、これにヒントを得て、その語尾をモデファイし、語調がなめらかで呼称し易い「S」付き商標として考え出したのが「ETNIES」の標章である。
被請求人は、本件商標を考えついた1991年から、既に本件商標を付した靴を台湾で製造し、日本に輸入して本件商標を使用してきた。
1991年当時の古い帳簿類については既に保管されていないが、残っている1992年の帳簿類(乙第18号証及び乙第19号証)から、例えば、本件商標「ETNIES」の標章の付された靴を台湾から3880足輸入していることが明らかであり、このことから被請求人が「ETNIES」の標章を自社商品に使用していたことが明らかである。
なお、上記乙第18号証のSUGI TRADING CO.及び乙第19号証のSUGIとは、台湾の靴等のメーカーであり、該会社との当時の取引は「ETNIES」ブランドの靴の取引であり、乙第20号証の契約先「SUGI」の合計1万2000足も本件商標「ETNIES」の標章の付された靴の取引である。
また、乙第21号証ないし乙第34号証から明らかなとおり、被請求人は、請求人商品を輸入・販売するようになる前は、引用商標の態様とは明らかに異なる、背景に楕円形の歯車状の図形が付された筆記体の「ETNIES」を、自己の商品に付して使用してきた。
(c)本件商標が不正目的をもって出願されたものでないこと
上記の如く、被請求人は、1993年、1994年に至るまで、自社製品に使用するため自社で考案した本件商標「ETNIES」を自社製品の靴に使用し、独自のブランドとしてその付された商品を販売してきた。
ところが、1993年に被請求人は、雑誌「BOON」に株式会社レバンテ(以下「レバンテ」という。)が本件商標と同じ商標を付した商品の広告を掲載しているのを発見した。
そこで、被請求人がレバンテに連絡をとって話したところ、掲載商品はエトニーズ社の商品であり、レバンテはその商品の取扱店であるとのことであった。そこで、被請求人は、エトニーズ社にFAXを送ったところエトニーズ社から乙第12号証(甲第12号証の誤記と認められる)のFAXが届いたのである。被請求人は、このようにして初めてエトニーズ社の存在及び本件商標と同一商標が使用されていることを知ったのである。
その後これがきっかけで、被請求人は、エトニーズ社から「ETNIES」商標を付した靴の輸入販売を行うようになった。
本件商標は、エトニーズ社の存在及び同社が本件商標と同一商標を使用していることを知った後の出願であるが、本件商標は、その前から被請求人が独自で採択して自己の商標として使用していた商標であり、請求人も自己の商品を日本で販売するに当たり、被請求人にロイヤリティーを支払う旨申し出ているのであり、「ETNIES」商標の被請求人の所有を認めていたのである(甲第12号証)。このような状況において、被請求人は「ETNIES」を靴に次いでバッグ類にも出願した。
その後、被請求人は、請求人商品の輸入・販売を行うと共に、請求人の要請もあって、非常に多額の広告・宣伝費を投じて請求人商品の広告・宣伝を行うと共に(乙第35、36号証)、請求人商品を輸入・販売するに際して、日本での類似商標に対する防衛のために、請求人商品に付されている図形商標などについて商標出願を行ったが、これら図形商標を現在は全く使用していない。
被請求人が請求人商品のために費やした宣伝・広告費は、1994年は約1000万円、1995年は約2000万円、1996年は約1800万円となっており、このような被請求人の宣伝・広告、営業努力によって、本件商標出願時以降、「ETNIES」というブランドが徐々に日本で知られるようになってきた。
請求人の「ETNIES」商標が元々日本において周知・著名であったのであれば、被請求人がわざわざ多額の費用をかけて宣伝・広告する必要などなかった。
したがって、本件商標出願後、「ETNIES」商標が請求人のブランドとして認識されるようになったか、被請求人のブランドとして認識されるようになったかはともかくとして、本件商標出願時において「ETNIES」商標が請求人の商標として周知でなかったことは紛れもない事実である。
更に、請求人は、乙第16号証のとおり、1996年10月に、一旦引用商標を放棄することを決定している。
また、請求人は、被請求人が日本において「ETNIES」商標の商標権を取得し使用していることを知りながら、無効審判を提起することなく何年も取引関係をもって放置していたにもかかわらず、「ETNIES」商標が被請求人の宣伝・広告により広く知られるに至った1998年になって、初めて無効審判を提起してきた。
かかる経緯からして、請求人は、本件商標の出願時には需要者に対して広く知れ渡っていない自己の商標に対して、当所は大きな価値を感じていなかったと考えられる。請求人は、被請求人と取引のある間は、被請求人の多額の宣伝・広告や、営業活動の利益を享受するだけでなく、被請求人所有の本件商標の存在を認めておきながら、被請求人の努力により商標が日本で知られるようになり、同時にスケートボード自体が時流にのって急速に広まったことにより、請求人商品の売上げも増大してきたことにより、被請求人との取引がなくなった途端、被請求人が宣伝・広告、販売活動によって形成してきた本件商標の信用を労せず手に入れるため無効審判を提起してきたとしか考えられない。
以上のような出願の経緯及び出願前後の状況から判断すれば、本件商標を被請求人が請求人に高額で買い取らせるため、或いは代理店契約締結を強制するため、出所表示機能を稀釈化したり、名声を毀損するというような不正目的をもって、本件商標を出願したなどということは全くあり得ないことであることは明らかである。
請求人は、被請求人が宣伝・広告において、引用商標の使用態様をそっくり真似た模倣行為を行っていることから推測して、最初から請求人の名声を利用しようとして本件商標を出願したのであると主張しているが、被請求人が「ETNIES」商標を最初に出願したのは靴についての1992年であり、前述の通り、これを自社製品に使用していたが、その後、上記したような経緯で請求人商品を輸入・販売するようになり、請求人の要請もあって請求人商品の宣伝・広告を行い、販売活動を行っていたのであるから、これを模倣行為とする請求人の主張は当たらない。
このように、本件商標の出願後の宣伝・広告に関しては、その間の状況の変化や特別な事情が存在するのであるが、本件商標の出願時においては「不正の目的」に該当する事情など一切存在しなかった。
以上の如く、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する商標ではない。

4 商標法第4条第1項第7号について
請求人は、「本件商標は他人の外国商標を先取りして登録したものとして、国際信義に反する商標として商標法4条1項7号にも該当する」と主張する。
しかし、「他人の外国商標を先取りして商標登録する場合」については、前記の如く、周知性不正の目的を要件として商標法第4条第1項第19号で無効とされ、更に、外国商標に周知性がなくとも、不正の目的即ち、信義則違反の商標の登録を取り消すためには同法第53条の2が設けられている。取消対象となる信義則違反の商標とは、出願人がその外国商標に関する権利を有する者と信義則を守らなければならない特別な関係、即ち代理人等の特別の関係にあった場合である。両規定は例示規定ではあるが、これらに該当せず、なおかつ、排除されるべき商標として商標法第4条第1項第7号を適用するためには、当然、上記両規定と同等以上の公序良俗違反がなければならないところ、本件商標の場合、被請求人は前述のとおり、被請求人代表者が独自に考えた本件商標と同一標章を本件商標の出願前の1992年1月29日にそれぞれ「はき物等」及び「運動具等」を指定商品として出願していたのであり、それらの出願時である1992年1月当時、引用商標は全く無名の商標であった。また、当時、被請求人は、請求人と代理人等の特別な関係は一切なく、かつ、請求人の商品を販売したこともないのは勿論、互いに接触したことも全くなかった。その後、本件商標出願前の1993年に請求人が被請求人にFAXを送ってきたのが請求人との最初の接触であった。
このような事実から明らかなとおり、本件商標の出願は、他人の商標の名声に便乗しようとするような不正競争の目的で行われたものでもなければ、商標法上不正目的とされる信義則違反も存在しない。しかも、商標法第4条第1項第7号の「公序良俗」は、本来的には商標法上の秩序との関連において理解されるべき規定であるから、本件商標に関し商標法第4条第1項第7号が成立する余地は全くない。

5 まとめ
以上のとおり、請求人の主張する根拠は、いずれもその要件を充たしておらず、本件商標は、その登録を無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 請求人提出の甲各号証に基づく事実認定
(1)甲第3号証は、請求人の「ETNIES」製品についての1993年版のカタログであり、該カタログには「etnies」の商標のもとに、靴、帽子、ジャケット等の商品が掲載されており、本件商標が出願される以前から、「ETNIES/etnies」商標は、米国を中心に使用されていたことを認めることができる。
(2)甲第4号証の1及び2は、請求人の「ETNIES」商標についての各国への出願・登録の状況リスト及び各国登録証の写しであり、1989年にはスイス、スペイン、ポルトガル、タイ国、台湾、1991年には米国、1992年にはギリシャ等、世界の相当数の国において登録されていたことを認めることができる(なお、当初の登録名義人は、請求人の関連会社であるGYR DESIGNERS,Rautureau Apple Shoesであるものもあり、そのうち、現在は名義が請求人に移転しているものもある)。
(3)甲第6号証は、米国におけるスケートボードの取扱業者による証明書と認められるところ、
甲第6号証の1の書面には「………HAD RECEIVED ETNIES CATALOGUES AND PRODUCT BEFORE JANUARY 1,1992.」(………エトニーズのカタログと製品を1992年1月1日以前に受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の2の書面には「………WE RECEIVED ETNIES CATALOGS IN OUR COMPANY BEFORE THE DATE OF JANUARY 1992.」(………私たちはエトニーズのカタログを1992年1月以前に会社で受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の3の書面には「………We received ETNIES catalogues before January 1992.」(………私たちはエトニーズのカタログを1992年1月以前に受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の4の書面には「………had received Etnies catalogs prior to January 1,1992.」(………エトニーズのカタログを1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の5の書面には「………RECEIVED CATALOGS AND ORDER FORMSBEARING THE ETNIES NAME AND LOGO PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズの名称とロゴに関係するカタログと注文票を1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の6の書面には「………DID RECEIVE … ABOUT ETNIES SKATEBOADSHOES PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズのスケートボード用の靴に関する…を1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
甲第6号証の8の書面には「………RECEIVED CATALOGS BEARING THE NAME OFETNIES PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズの名称に関係するカタログを1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
(4)甲第8号証の1の(1)は、MORIMURA BROS.(U.S.A.)社(本号証の(7)及び(8)により日本にも事務所を構えていると認められる。)によるETNIES USA社(以下、単に「エトニーズ社」と記す。)宛の1991年10月8日付の書面と認められるところ、ここには「OUR MAJOR CUSTOMERS ARE EXPECTING TO SHOW YOUR SHOES TO RETAILERS TO HAVE QUICK MARKETING IN JAPAN」(わが社の顧客たちが、貴社の靴を小売商に提示して日本で速やかに流通させることを期待しています旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(7)の書面によれば、本件商標出願以前に両社間で業務に関する書面のやりとりが行われていたことが認められる。
(5)甲第8号証の2の(1)は、東京都世田谷区所在のADVANCE MARKETING社によるエトニーズ社宛の1990年11月8日付の書面と認められるところ、ここには「WE ARE CURRENTLY SELLING VANS HERE BUT MANY OF OUR DEALERS ASKED ABOUT THE ETNIES.WE LIKE TO REPRESENT YOUR SHOES IN JAPAN………」(わが社は現在はVANS社の商品を販売しているが、わが社の多くの取引先からエトニーズについて聞かれている。貴社の靴を日本で取扱代理したい旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(10)の書面によれば、本件商標出願以前に両社間で業務に関する書面のやりとりが行われていたことが認められる。
(6)甲第8号証の3の(2)は、埼玉県所沢市所在のPROLINE社によるエトニーズ社宛の1991年3月2日付の書面と認められるところ、ここには「Is this shoes avalable NOW?」(この靴がすぐ入手できますか?)との記述及び「ETNIES」のロゴが付された商品「靴」の写真が表示されていることが認められ、また、同号証の(1)、(3)、(4)、(5)によれば、両社間でエトニーズ社の取り扱いに係る商品「靴」に関する書面(商品送り状を含む)のやりとりが行われていたことが認められる。
(7)甲第8号証の4によれば、本件商標出願前に、大阪府大阪市所在のSENRI BOEKI社とエトニーズ社との間で、互いの業務に関する書面のやりとりが行われたことが認められる。
(8)甲第8号証の5の(1)は、エトニーズ社による大阪府大阪市所在のHASCO INTERNATIONAL社宛の1991年9月25日付の書面と認められるところ、ここには「We are able to fill your order of etnies footwear」(わが社は、貴社によるエトニーズの靴の注文に応じることができます旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(5)によれば、1991年9月ないし1992年2月にかけて、両社間で業務に関する書面のやりとりが行われたことが認められる。
(9)甲第9号証は、米国のスケートボード専門雑誌「TRANSWORLD SKATEboarding」の1991年4月から11月号の写しと認められ、また、甲第11号証は、米国のスケートボード専門雑誌「THRASHER」の1990年2月から1991年12月号の写しと認められるところ、これらによれば、本件商標出願前に米国において、商品「スケートボード用靴」に引用商標「ETNIES(etnies)」が使用されていたことが認められる。
そして、甲第10号証(「TRANSWORLD SKATEboarding」誌の代表者の証明書)によれば、甲第9号証のスケートボード専門雑誌「TRANSWORLD SKATEboarding」は、1989年から1992年の間、我が国においても毎年7300冊以上販売されていたことを認めることができる。
(10)甲第12号証は、請求人からコマリョー宛ての1993年12月28日付けの書簡であり、この書面には、エトニーズ社は世界的に「ETNIES」製品を販売している者であること、コマリョーによる「ETNIES」商標の出願・登録の有無・状況、両者間で取引が行われる場合の条件、合意に達しなかった場合の措置などについて記載されていることを認めることができる。
(11)甲第13号証の1及び2は、本件商標の登録査定後の事柄に関するものではあるが、米国のVANS社とエトニーズ社及びSoleTechnology社(エトニーズ社の関連会社と推認し得る)との間における商標権侵害通告に関する書簡と認められるところ、甲第13号証の1は、米国VANS社がSoleTechnology社に対して同社が日本及び米国で販売している商品「靴」はVANS社の商標権を侵害するので該商品の販売中止を申し入れる旨の1997年9月17日付の通告書と認められ、同号証の2は、SoleTechnology社が米国VANS社宛に、指摘を受けている商品「靴」は、SoleTechnology社が販売しているのではなく日本の「Komaryo」社が販売しているものであり、SoleTechnology社は該商品の製造・販売・流通には関わっていない旨を述べた書簡と認められるものであって、これらの書簡によれば、平成9年の秋の時点で、米国のVANS社は、日本で、「ETNIES」商標が付されて販売されている「Komaryo」社の商品「靴」の出所について、それがあたかもSole Technology社の取扱いに係るものであるかのように現実に出所の混同をしていたことが認められる。

2 被請求人の業務に関する情報
甲第14号証の名古屋市中小企業情報センター(名古屋市千種区吹上2-6-3所在)掲載に係るインターネット情報「”情報なごや”で最近取り上げた企業一覧」中の「(株)コマリョー」の頁(http://www.info-c.city.nagoya.jp/company/nov/komaryo.html)には以下の記載が認められる。
「・・コマリョーは小間物卸から履物卸になった『小間重商店』から河瀬社長が1956年に独立して中村区に作った会社である。独立のきっかけは河瀬社長が『ヘップサンダル』の流行を予見したことにある。急速にアメリカナイズされていく当時の世相の変化の芽を鋭くとらえ、それを自分の商売に即してどう活用すべきかを考え、独立のチャンスとしたのである。・・河瀬社長の時代の変化の芽を捉える鋭い目の一端を紹介しておこう。当時まだ少なかったカタカナの『コマリョー』にしたのが1970年。・・同社が輸入品を扱い始めたのは今から15〜16年前の1980年代初頭である。そのきっかけとなった一つが、同社が靴分野へ進出を計った際、当時の日本国内の生産流通系列に阻まれて靴の仕入れ先を国内で確保出来なかったことである。社長は当時の業界では珍しかった輸入品への積極的取り組みという形でこの難関に取り組んだのである。・・同社の輸入先は欧米、アジアにまたがって世界20ケ国に及ぶが、その海外ネットワークは商社に頼らず同社で構築したものである。・・」。

3 引用商標の周知・著名性について
上記1において認定した事実によれば、引用商標「ETNIES」は、かってスケートボードの世界チャンピオンであった請求人のデザインに係るスケートボード用靴を中心として、本件商標出願前には既に、米国において使用されており、スイス、スペイン、ポルトガル、タイ国、台湾、米国、ギリシャ等、世界の相当数の国において登録されており、引用商標が付された商品(靴、帽子、ジャケット等)のカタログが頒布され、雑誌「TRANSWORLD SKATEBOARDING」(当時の日本国内での販売部数は年間7000部余り)、「THRASHER」にそれら商品の一部が掲載されており、請求人の関連するエトニーズ社と日本のスケートボード用具の取扱業者(5社)との間で、「ETNIES」商標が使用された「スケートボード用靴」に関する取引交渉が行われていたことが認められるのであり、これらの事実に照らしてみれば、引用商標は、本件商標の出願時には既に、日本のスケートボード用具を扱う業者から注目され、これら業者の間で広く知られるに至っていたものと認定することができる。
この点について、被請求人は、甲第6号証の書面はその信用性が極めて乏しく、ETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを立証する証拠とはなり得ないこと、また、請求人の提出した証拠により、エトニーズ社と取引をしたと認められる者は、いずれも事業規模が小規模で、零細な業者にすぎないこと、更に、乙第10号証、乙第14号証及び乙第15号証を提出して、日本において、靴を取り扱う業者(なお、この中には、株式会社チヨダ、株式会社アシックス、アキレス株式会社など、業界の最大手が含まれている。)の担当者の多くが平成4年当時、引用商標の存在を知らなかったことを挙げて、引用商標は広く知られていたものとはいえない旨主張している。
しかしながら、甲第6号証に係る証明書は、あらかじめ用意された画一的な書面にサインをしたものではなく、それぞれの内容が異なり、使用している用紙も異なるものであって、また、手書のものもあることから、請求人が各書面の作成者に書面の内容を指定した上で作成を依頼したとする主張には根拠がない。むしろ、事業規模の小さい会社でさえ、数社もがエトニーズ社の製品に注目していたということは、かえって、スケートボード用具に関わる日本の業者の間で、引用商標が広く知られるに至っていたことの証左ともなり得るものである。
また、上記乙第14号証及び乙第15号証の2通の報告書は別にしても、乙第10号証として提出されている82通の報告書は、その作成者が関わってきたとする商品名は手書きで記載されており、その中には、特にスケートボード用靴を扱っていたと記載されているものはなく、その他の記載は全て不動文字として既に印刷されているものにすぎないから、各報告書の作成者がスケートボード用靴のブランドあるいはその動向について、どの程度精通していたか明らかではなく、また、同報告書が単に、その作成者の9年近くも前の記憶を述べたものにすぎないことを考慮すると、前記各乙号証をもってしても、引用商標が本件商標出願当時、日本国内でスケートボード用具に関わる業者の間で広く知られるに至っていたとの認定を覆すことはできない。

4 本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、前記のとおり、「ETNIES」の欧文字を横書きした構成からなるものである。
他方、請求人の使用に係る引用商標は、前記したとおり、「ETNIES」あるいは「etnies」の欧文字からなるものであり、請求人の主張によれば、フランス語で「民族」を意味する「ETHNIE」の語から発想された造語と認められるものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、観念については比較すべくもないが、「エトニーズ」の称呼を同じくし、綴り字も同じくするものであるから、両商標は互いに同一又は類似する商標である。

5 商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」について
商標法第4条第1項第19号は「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定してるが、ここにいう「不正の目的」とは、当該条文に明記されている目的以外にも、例えば取引上の信義則に反するような事情が存するもとで出願された商標についても「不正の目的」に該当すると解すべきである。
これを本件についてみるに、被請求人は、本件商標の出願当時の事情を答弁書において種々述べており、その中で、本件商標は、エトニーズ社の存在及び同社が本件商標と同一商標を使用していることを知った後の出願であるが、「ETNIES」商標は、被請求人の代表者が1991年に独自に考案したものである旨主張している。
しかしながら、本件商標が出願された当時の状況は、前記第4の3において述べたとおり、請求人の使用に係る引用商標「ETNIES」は本件商標の出願前には既に、米国において使用されており、1989年にはスイス、スペイン、ポルトガル、タイ国、台湾、1991年には米国において既に登録されており、引用商標が付された商品(靴、帽子、ジャケット等)のカタログが頒布され、雑誌「TRANSWORLD SKATEBOARDING」、「THRASHER」にそれら商品の一部が掲載されており、甲第8号証の2によれば、1990年11月には既に、日本のスケートボード用具の取扱業者がエトニーズ社宛てに「ETNIES製品について多くの取引者から問合わせがある」旨の書簡が送られており、甲第8号各証によれば、他にも日本の5社が1990年暮れから1991年にかけて、エトニーズ社との間で、エトニーズ社の取り扱いに係る「ETNIES」の商標が使用された商品「スケートボード用靴」に関する取引交渉が行われていたものである。
そして、このような状況のもとにおいて、甲第14号証(株式会社コマリョーについてのインターネット情報)によれば、被請求人は、急速にアメリカナイズされていく世相の変化にも注意を払い、関心を寄せ、輸入品への積極的な取り組みを行い、輸入先も欧米、アジアにまたがって世界20ケ国に及び、その海外ネットワークも商社に頼らず自ら構築したものである旨記載されている。
これらのことを総合してみれば、被請求人は、我が国ばかりでなく、米国を含む海外における靴等の市場調査の過程において、引用商標の存在を知ったものと推認するに難くなく、被請求人が請求人の業務に係る「ETNIES」製品の存在を全く知らないで、自ら独自に「ETNIES」商標を考案したとの主張は、俄に首肯し難いところである。
仮に、被請求人がエトニーズ社からのFAXにより、初めてエトニーズ社の存在及び引用商標が使用されていることを知ったものとしても、その時以降、被請求人は、引用商標が請求人の使用に係るものであることを知っていたことになるから、被請求人が引用商標の存在を知っていて本件商標の出願をしたという事実は否定できない。
また、被請求人は、請求人が自己の商品を日本で販売するに当たり、被請求人にロイヤリティーを支払う旨申し出ており、「ETNIES」商標を被請求人が所有することを認めていた旨主張している。
しかしながら、甲第12号証(請求人から被請求人へ宛てた書簡)によれば、「ETNIES」商標についての出願・登録の状況の問い合わせとともに、取引関係が成立した場合のロイヤリティーについても記載されてはいるが、同時に、合意が成立しなかった場合の措置にも言及されており、少なくとも、この書簡のみをもって、請求人が被請求人に対して、靴、バッグ類について「ETNIES」商標の所有までをも認めたものとは到底認められない。
加えて、被請求人は、請求人が運動靴について「ETNIES」の商標とともに使用している「E」をデザイン化した如き構成からなる図形商標に類似する商標についても第25類の被服あるいは靴類等を指定商品として出願し、登録を得ていた事実がある(なお、当該商標に係る登録第3272237号商標及び登録第3335037号商標は、いずれも商標法第4条第1項第7号違反を理由にその登録を無効とする審決がなされ、確定している)。
以上によれば、被請求人は、引用商標の存在を知り、それを付した請求人(エトニーズ社を含む)の製品が日本でも人気を博する蓋然性があると予測、期待した上で、同社に商談を持ちかけ、同社が誠実に対応するという状況の下で、交渉における自己の立場を有利にするためなどの目的で、本件商標の出願をしたものといわざるを得ない。
してみれば、このような事情のもとになされた本件商標の出願行為は、請求人との関係において取引上の信義則に反するものというべきであって、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」に該当するものといわなければならない。

6 結論
以上を総合してみれば、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたというべきであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-03-27 
結審通知日 2003-04-01 
審決日 2003-04-15 
出願番号 商願平6-73750 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (018)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大島 護寺光 幸子 
特許庁審判長 滝沢 智夫
特許庁審判官 小林 薫
岩崎 良子
登録日 1997-02-24 
登録番号 商標登録第3259174号(T3259174) 
商標の称呼 エトニース、エトニエス 
代理人 松見 厚子 
代理人 幡 茂良 
代理人 日比 紀彦 
代理人 清末 康子 
代理人 小出 俊實 
代理人 岸本 瑛之助 
代理人 石川 義雄 
代理人 吉野 日出夫 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 宮永 栄 
代理人 渡辺 彰 

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