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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10030審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10028審決取消請求事件 判例 商標
無効200435027 審決 商標
無効200435030 審決 商標
無効200435028 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 025
管理番号 1076723 
審判番号 審判1999-35278 
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-06-07 
確定日 2001-07-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第3371034号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3371034号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成6年5月18日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同11年1月8日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第81号証を提出している。
1.請求人が引用する商標
「本件商標が商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第8号及び同第7号の規定に該当するものであり、同法第46条第1項の規定によりその登録は無効とされるべきものである。」として、請求人が引用する商標は、別掲(1)(以下、「引用A商標」という。)及び別掲(2)(以下、「引用B商標」という。)のとおりの構成よりなり、それぞれの使用役務及び使用商品を「空手の教授,空手道場の提供,空手道場の運営の指導,空手着,Tシャツ,トレーニングスーツ,プロフェッショナルパンツ,ハーフパンツ,ジョギングジャンバー,ウインドブレーカー,下駄,書籍,雑誌,録画済ビデオテープ」とするものである。
2.本件審判の請求の主体について
引用商標は、遅くとも、大山倍達が極真会本部を設立した1963年(昭和38年)頃より使用を開始したものであり、審判請求時である現在まで、大山倍達およびその後継者によって継続的に使用されているものである。継続的に使用している主体としては請求人である国際空手道連盟極真会館および藤原康晴等を含んでいる。
なお、本件審判の請求人である国際空手道連盟極真会館は権利能力なき社団であり、同じく、請求人である藤原康晴他6名は、個人で国内各地において空手道場を主催する者であり且つ上記団体の構成員でもある。
国際空手道連盟極真会館も、前記と同様に故大山倍達が1963年(昭和38年)に創設した団体である。しかしながら、1994年に大山倍達が急逝した後は、残された人材を核に組織を再編し従前通りの活動を継続していた。(甲第3号証ないし同第77号証)
審判請求人は故大山倍達の事業の正当な後継者であるが、この事は、本件商標権者が申し立てた危急時遺言の確認が、東京家庭裁判所の審判によって否認されたことによっても明らかになったと考えられる。本件商標権者は、あたかも本件商標権者だけが唯一の事業の後継者であるかのように振る舞い、その拠り所を危急時遺言に求めていたが、遺言自体が否認された以上、本件商標権者だけが事業の後継者である正当性はもはやないと言わざるを得ない。(下記8.において詳述)
3.引用商標の採択・使用の経緯について
(1)商標権者の通称と本名
本件商標の商標掲載公報および原簿によれば、商標権者は「文 章圭」となっているが、出願時の出願人の氏名は「松井章圭」であった。「文 章圭」は「松井章圭」の本名である。「文 章圭」は、韓国国籍を有し特別永住者として外国人登録された外国人であり、平素は本名「文 章圭」ではなく、通称名「松井章圭」で活動している。
(2)「極真会館」「極真会」「極真空手」の文字について
審判請求人の一人である、国際空手道連盟極真会館の商標「極真会館」「極真会」は、故大山倍達(平成6年4月26日死去)が創設した直接打撃制によるルールを取り入れた空手道を教授又は修業をする武道家、道場主、道場生等の集まりの団体を表わすものである。
本件商標は、請求人および故大山倍達の所有(現在は承継人が所有)に係る商標「極真会」およびこれに由来する商標「極真会館」と全く同一であり、請求人および故大山倍達の所有の商標を盗用登録したものである。
大山倍達氏は、それまでは相手の身体に直接触れる直前で止める事を原則としていた寸止めルールではなく、別の空手道を提唱した。上記直接打撃制によるルールを取り入れた真剣勝負の空手道を表現するのに、従前の空手道と区別するために、早くから「極真」という文字を用い、上記ルールを「極真ルール」といい、さらに「極真空手」「極真会」「極真会館」「極真奨学会」などの独自の表示や名称を用いた。
そして、大山倍達氏が創設したこれらの表示や名称及びその活動は、少なくとも「空手の教授」及びそれに関連する商品及び役務については、大山倍達氏の名の下で使用し、育てられ、今日まで発展してきたものである。甲各号証に示される広汎な活動により、「極真」又は「極真空手」「極真会」と言えば「大山倍達」、「大山倍達」と言えば「極真」又は「極真空手」「極真会」というような観念が少なくとも空手界では、本件商標の出願以前より生じていた。
これにより、上記「極真」を要部とする表示や名称が日本全国に広まり、空手界では「極真」を要部とする商標については、商品又は役務の類似範囲について強力な自他識別力を有するに至り、例え商品・役務が類似しない商品・役務に引用商標を使用したとしても、出所混同を生ずる恐れがあるものとなるに至ったものである。
4.本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、請求人が使用している引用A商標と全く同一であり、事業の後継者を標榜して盗用登録したものであるから、本件商標と引用A商標は類否を詳細に論ずるまでもなく同一のものであります。
5.商標法第4条第1項第15号および第10号の規定に該当する
(1)審判請求人の業務および営業活動
請求人の業務および営業活動については、上記3.において述べた通りである。
(2)引用商標の著名性
請求人の引用商標は、本件商標の登録出願以前において既に著名性を獲得していた。著名性を立証する証拠として「極真力ラテ年鑑」、月刊「パワー空手」、月刊「極真魂」、「オープントーナメント全日本空手道選手権大会プログラム」、「オープントーナメント全世界空手道選手権大会プログラム」等における各種記事、商品及び役務などの広告を提出する。(甲第4号証、甲第18号証等々参照)
(3)出所混同のおそれ
上述の通り、審判請求人は引用商標を、空手の教示を初めとする多くの役務および空手関連の商品に使用している事実、および本件商標の出願以前より著名性を獲得している事実が明示されたものである。また、故大山倍達の後継者を標傍する本件商標権者が本件商標の指定役務にその商標を使用した場合は、その役務について、あたかも故大山倍達の業務であるかのような出所の混同を生ずるおそれがあるものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号および同第10号の規定に該当する。
6.商標法第4条第1項第8号の規定に該当する
本件商標は、故大山倍達の創設した空手の指導を目的とする団体の名称であり、ひいては請求人を指称する名称とも評価できるものである。また、本件商標の出願以前より、すでに長年に亘り使用されてきたものであり請求人を含む故大山倍達の後継者を指称するものと認識されているものである。そして、本件商標は、請求人の承諾を得ることなく出願されたものであるので、商標法第4条第1項第8号の規定に該当する。
7.商標法第4条第1項第7号の規定に該当する
本件商標権者は、故大山倍達の後継人を僭称する者であるが、その根拠とされた危急時遺言は家庭裁判所の審判において否認されている。
松井章圭が、過去において、請求人、国際空手道連盟極真会館の構成員(一支部長、一道場主)であったことは事実と考えられるが、故大山倍達氏の正統な後継者でないことは明らかである。
登録第4027346号商標「極真会館」、同第4027344号商標「極真会」および同第4146029号商標「国際極真空手道連盟」の審査において、特許庁は、「本願商標は、指定役務との関係において、大山倍達氏(極真会館館長)が指導、普及させた大山空手(極真)に関する団体の意を想起させる『極真会』の文字を書してなるところ、技芸・スポーツの教授など、とりわけ空手の教授において知られる団体の名称を、何等かの関係があるものとも認められない一個人である出願人が自己の商標として独占使用することは穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」と判断して拒絶理由通知を発している。
これに対し、本件商標権者である松井章圭が提出した意見書には、財団法人極真奨学会の承諾書が添付されており、梅田嘉明が上記財団の代表者として著名・捺印している。しかしながら、梅田嘉明は、上記財団の理事の一人であるに止まり、代表権限を有するものではない。(甲第80号証の登記簿謄本、参照)
さらに、梅田は、家庭裁判所において否認された危急時遺言2通の証人の1人でもある。上記遺言2通は、東京家庭裁判所が、上記遺言2通が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なかったものであり、東京家庭裁判所による確認が得られず、効力が発生しなかったことが確定したものである。上記遺言の証人として梅田嘉明が著名・捺印している事実から推測すると、梅田嘉明が代表者として署名した承諾書は有効性を有する真正の承諾書とは認められないものである。また、梅田が仮に財団法人極真奨学会の代表者であったとしても、請求人または故人の財産を承継した者の所有する引用商標に関して承諾書を発行する権限を有しないことは明らかである。
本件商標は、請求人等の未登録周知商標を権限のない者が盗用して登録したものである。本件商標の商標権者は、極真会あるいは極真会館または大山倍達氏の正統な後継者の地位を有するものではないので、周知商標の使用主の正統な承継人でない者がその周知商標を自己の業務に係る商品又は役務に無断で使用することにより、商標を使用する者の業務上の信用を害するものであって、商標法の精神により維持される商品又は役務の流通社会の秩序を害するものであるから、同法第4条第1項第7号に該当するものである。
8.危急時遺言の否認について
本件商標権者は、故大山倍達の後継者を僭称することにより、本件商標を出願・登録した経緯がある。本件商標権者が後継者であると主張する根拠であった危急時遺言が家庭裁判所の審判によりその認証が否認されたことにより本件商標権者である松井章圭は本件商標権者であることを主張する論拠を失ったことになり、本件商標は直ちに抹消登録するか、もしくは正当な権利者に返還されなければならない。
本件無効審判において危急時遺言の真正が否定されたことは重大な問題点であるので、1項を設けて、故大山倍達の危急時遺言について詳述する。
本件商標権者等は、故大山倍達が平成6年4月19日に作成したとされる死亡危急時方式による遺言2通の確認を求め、平成6年5月9日に東京家庭裁判所に遺言確認を申立てた(甲第73号証)。東京家庭裁判所は、慎重審理の結果この審判において、危急時遺言の確認を否認した。
審決書では、『・・・付き添っていた家族も退出させ、前記証人5名以外の者は排除した状態で極めて長時間かけて作成された本件遺言は、遺言者が遺言事項の全部につき自由な判断のもとにその内容を決定したものか否かという点で疑問が強く残るというほかないから、遺言者の真意に出たるものと確認することが困難である。よって、本件申立てを却下することとし、主文のとおり審判する。』と判示した。(甲第73号証参照)
商標登録権利者等は、東京高等裁判所に即時抗告を提出した。
抗告事件の決定書でも、東京高裁は、商標権者等の抗告を却下している。その決定書において、『当裁判所も、本件遺言は遺言者の真意に出たものであると認めることが困難であり、その確認を求める抗告人の申立ては却下せざるを得ないものと判断する。その理由は、次に記載するほか原審判説示のとおりであるから、これを引用する。』とし、抗告理由について次のように言及している。『・・・そして、このように証人らの利害に大きくかかわる本件遺言の内容が、反対の立場にある遺言者の家族が遺言がなされることを知らされないまま、既に体力、気力ともに衰えた遺言者を、証人らが長時間取り囲む中で決定されたというのであるから、それが遺言者の自由な意思決定によるものであるというためには、これを証するに足りる事実関係が認められなければならない。しかし、抗告人が当審で提出した証拠を含めて、すべての資料を検討しても、本件遺言が遺言者の真意に出たものであることを裏付けるに足りる事実関係は認められないのであり、当裁判所も原審と同様に、本件遺言は遺言者の真意に出たものであると認めることが困難であると言わざるをえない。』そして、結論として『そうすると、抗告人の申立てを却下した原審判は相当で、本件抗告は理由がない。よって、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。』との決定が平成8年10月16日に下されている。商標権者等は、さらに、最高裁判所にも特別抗告をしたが、この特別抗告も却下されている。
この結果、平成7年3月31日に出された東京家庭裁判所の遺言確認申立事件の審判は確定した。(確定日 平成8年10月21日)
これにより、本件商標の登録権利者は極真会館および国際空手道連盟の代表者の地位を有していなかったし、現在もその代表者の地位を有していない事が明らかになった。上記大山倍達の死亡危急時方式による遺言の有効、無効に関する極真会館及び国際空手道連盟内部の混乱については、「パワー空手」「ゴング格闘技」に記事が記載されている。(甲第76号証、同第77号証参照)
また平成7年4月5日の支部長協議会で松井章圭氏(効力が発生していない大山倍達氏の遺言に基づいて館長に就任していた)が極真会館館長を解任されたことが記載されている。(甲第77号証参照)
9.答弁書に対する弁駁
(1)被請求人は、被請求人の空手の教授・普及の活動をもって、大山倍達の組織した国際空手道同盟極真会を承継したものであると主張している。
被請求人が、空手の教授・普及の活動を行っていたことは認めることができるとしても、それが大山倍達の組織した国際空手道同盟極真会を大山倍達氏の遺志により承継して行われたとの主張は容易に首肯できない。
被請求人は、大山倍達氏の遺志により後継者に指名されたと主張しているが、その根拠とされる危急時遺言は、裁判所によって否認されている。危急時遺言が否認されている以上、遺志により後継者に指名されたということはできない。
被請求人は、後に否認される危急時遺言を利用して、あたかも後継者であると根拠なく自ら主張して活動をしていただけであり、その後館長職を辞する結果となった事実は大変重要な事であって無視することはできないと考えられる。
被請求人は、館長職を辞した前後を問題にすることなく、大山倍達氏の後継者であってと論じているが,事実に反する主張となったと理解せざるをえない。
(2)危急時遺言の否認
被請求人は危急時遺言が否認されたのは、「証人の欠格にすぎない」と述べているが、これは一方的な評価であり、正しい理解とはかけ離れている。東京家庭裁判所の審判では、「方式順守の点からその効力を否定するのが相当であるというだけでなく」と述べた後に、「その実質に着目すると、(中略)、遺言者が自由な判断のもとにその内容を決定したか否かという点で疑問が強く残るというほかない」と判断している。危急時遺言が否認されたのは、形式においても実体においても、自由な意思に基づく遺言とは言えないからであり、被請求人の主張するような、「証言人の欠格事由に該当するというものにすぎない」ものではない。被請求人はこの点を誤解しているか若しくは故意に歪曲しているのではないかと言わざるを得ない。
被請求人の主張とは反対に、被請求人が後継者であると主張できる根拠は全面的に危急時遺言にあるのであって、その遺言が否定されたことにより被請求人の後継者であるとする主張の根拠は失われたと評価せざるを得ない。
被請求人は、裁判所が否認せざるを得ないような危急時遺言をもって、自らの正統性を主張してきたものであり、その後、館長職を辞する結果となったのであり遺言が否認された事実を全く無視して自らの活動が全て後継者としての活動であると主張することはできないと考えざるを得ない。
(3)結語
以上の通り、被請求人は、自己の活動は大山倍達氏の後継者としての活動であると主張して証拠を提出しているが、被請求人は後継者であると自ら主張しているだけであり、この点で他の多くの継続使用者と同様に国際空手道連盟極真会とは、「他人」である事は間違いない。したがって、被請求人は、請求人(国際空手道連盟極真会)等が現在行っている業務に係る商標を、後継者として認められない「他人」であるにもかかわらず権限無く登録したことは否定できない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第8号および同第7号の規定に該当し、同第46条によって無効とされるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べるとともに、証拠方法として乙第1号証ないし同第126号証を提出している。
1.本件無効審判請求書において、請求人は、本件商標「極真会館」が、故大山倍達氏によって創立され請求人の一人「国際空手道連盟極真会館」(以下、「請求人団体」という。)が継承した空手団体の使用に係る周知著名な商標「極真会」「極真会館」と同一又は類似であって指定商品又は指定役務についても抵触するから商標法第4条第1項第10号に該当し、また、本件商標を被請求人が「空手の教授」及びそれに関連する商品又は役務について使用する場合には出所の混同を生ずるおそれがあるから同第15号に該当し、また、本件商標が請求人団体の名称の略称として認識されている名称「極真会」「極真会館」と同一又は類似であって請求人団体の承諾を得ることなく出願されているから同第8号に該当し、さらに、本件商標が公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあるから同第7号に該当すると主張している。
しかしながら、以下の理由から、請求人の主張には承服できない。
2.被請求人は、故大山倍達氏によって創出され1964年に発足した空手団体である国際空手道連盟極真会館(以下、「極真会館」という)の代表者である(乙第126号証)。請求人団体は、平成7年に発足し極真会館と同名の「国際空手道連盟極真会館」を名乗っているにすぎず、極真会館とは別の団体である。しかして、商標法第4条第1項第10号・第15号・第8号がそれぞれ所謂私益的規定と解され周知著名商標等の所有者の経済的・人格的利益の保護を目的としていること、および同第7号が他人の商標を盗用・剽窃して出願された場合においても適用されうると解されていることからすれば、ある登録商標が、対比される周知著名商標との関係において商標法第4条第1項第10号・第15号・第8号・第7号に該当するか否かは、その登録商標の出願及び使用の基礎をなす社会的事実、すなわちその登録商標の使用者と当該周知著名商標の使用者との間に実質的同一性があるか否かによって決すべきである。
3.故大山倍達氏によって創出された直接打撃制を特色とする空手団体である極真会館は、1954年5月に東京都豊島区目白の自宅裏に開設された野天道場「大山道場」をその起源とする。故大山倍達氏は、その後東京都豊島区池袋のバレエスタジオにおける稽古を中心とした活動に加え、海外各国への遠征を経てその勢力を拡大し、1964年6月極真会館本部(東京都豊島区西池袋3丁目3番9号)を竣工させ、同月に「国際空手道連盟極真会館」、すなわち極真会館を正式に発足させた。その後現在に至るまでの極真会館ないし極真会の活発な活動は周知のとおりであり、極真会館の使用に係る商標「極真会館」及び「極真会」が、遅くとも本件商標の出願日以前に、役務「空手の指導」について日本国内において周知著名であったことは、被請求人もこれを争うものではない。
4.他方、被請求人は、1976年(昭和51年)に13歳で極真会館に入門して以降、1980年に若干17歳で第12回全日本選手権に初出場し4位に入賞、以後3位、3位、8位と毎年入賞し、1984年第3回オープントーナメント全世界空手道選手権大会(極真会館主催)で3位入賞、1985年第17回全日本選手権で優勝、1986年極限の荒行といわれる100人組手を完遂、1986年第18回全日本選手権で優勝、1987年第4回オープントーナメント全世界空手道選手権大会(極真会館主催、日本武道館)で優勝するなど、その卓越した格闘技術により極真会館を代表する選手として第一線で活躍し、選手としての第一線を退いた現在でも、その輝かしい戦績と名声とはなお比肩する者がない。また被請求人は、既に選手として活躍中の時代から、極真空手の次世代を担うべき若手の指導育成にも尽力している。例えば被請求人は、故大山倍達氏の委嘱を受けてイタリアはじめ世界各国の道場に指導員として派遣されているほか、本部直轄浅草道場の責任者を務め(1991年)、また極真会又は極真会館が主催する各種大会において指導員、模範演技者、支部長代表委員、実行委員長等を勤め、本件商標の周知性の確立に関して貢献してきた。そして、被請求人が故大山倍達氏の直接指導が特色である極真会館総本部道場(東京都豊島区西池袋3丁目3番9号)において、「大山総裁のお膝元」といわれる「帯研」(黒帯の道場生を対象とした週一度の特別指導)を担当していたことや、故大山倍達氏の闘病中の極真会館の行事に被請求人が大山氏の代理として出席していたことなどは、被請求人が生前の故大山倍達氏から特に厚い信望を得ていたことを裏づけるものである。そして故大山倍達氏は1994年4月に肺癌により急逝されたが、被請求人はその遺志により極真会館の後継者に指名され、同年5月に極真会館館長に就任し、以後一層盛んな事業活動を継続して現在に至っている。(乙第1号証ないし同第93号証)
これらからは、被請求人が故大山倍達氏に重用されていたこと、同氏の逝去後直ちに被請求人が極真会館の館長に就任したこと、極真会館の分裂騒動の後においても被請求人が大会・合宿などの各種内部行事や海外訪問などの対外的行事において故大山倍達氏が行っていたのと同様の極真会館の代表としての役割を果たしていること、及び、被請求人が故大山倍達氏により建設され同氏の存命中からの活動拠点であった極真会館総本部道場(東京都豊島区西池袋3丁目3番9号)において活動を継続していることが読み取れる。
また、極真空手年鑑第13号「極真カラテ93」(乙第92号証)及び同年鑑第14号「極真力ラテ94」(乙第93号証)には、極真会館の道場案内が記載されているが、両者の内容から、故大山倍達氏存命中の各支部の指導員の編成が、被請求人の館長就任後にも実質的同一性を保持していることが理解できる。このような全国の支部・同好会および道場の一覧は、前述した乙第1号証〜乙第84号証の「月刊パワー空手」及び「ワールド空手」に毎号掲載されているが、これらによっても、被請求人を館長とする極真会館が、上記分裂騒動に合わせて若干の変動はあるものの、依然大きな勢力を保持し続け現在に至っていることが理解されよう。
5.極真会館の重要な事業として、各種の選手権大会の主催があり、特に故大山倍達氏の存命中から、全日本大会は毎年、世界大会は4年毎に、それぞれ行われる習わしになっている。これらの大会は1969年の第1回全日本大会から1993年の第25回全日本大会まで継続して開催されており(乙第94号証)、第7回全日本大会は第1回世界大会を兼ね、第4回及び第5回の世界大会はそれぞれ第19回及び第23回の全日本大会を兼ねている。そして、これらの全ての大会では故大山倍達氏が大会実行委員長を務めていた。
この点、故大山倍達氏逝去後においても、極真会館の主催する同氏存命中と同様の各種選手権大会が、被請求人を大会実行委員長として乙第95号証ないし同第104号証のとおり継続して開催されている。
これらの事実から、故大山倍達氏の存命中に行われていた各種の選手権大会に係る事業が、極真会館により同氏の逝去後も従前との実質的同一性をもって継続され、かつこれらの全てについて、被請求人が極真会館の代表者として大会実行委員長を務めていることが明らかである。特に、故大山倍達氏の存命中の最後の大会となった第25回全日本大会の際の大会会長故福田赴夫元首相および大会名誉会長塩次氏・大会審議委員長梅田氏(乙第94号証)が、被請求人の館長就任後の第26回全日本大会(乙第95号証)においてもそれぞれ同様の役員を務めていたことは、両大会の実質的同一性を端的に示すものである。
6.極真会館は、複数の業者に商品「空手着及び帯」の製造を依託しているが、これら商品「空手着及び帯」に付するための「KYOKUSHIN」の欧文字や極真会館のシンボルマークである通称極真マーク(白抜きの円環を中央に配した濃色の十字星を円形の輪郭で囲んでなる図形)の表された布製タグは、極真会館とは別個に設立された営利目的の法人である有限会社極真(東京都豊島区西池袋三丁目3番9号)の委託により株式会社パリオ(東京都台東区浅草橋5丁目12番6号)が製造し(乙第106号証)、有限会社極真を通じて空手着製造業者に販売している。そして、この有限会社極真の代表者は、被請求人である(乙第105号証)。このような布製タグが付された商品「空手着及び帯」の販売は、主として株式会社イサミ(埼玉県久喜市西528-2番地、乙第107号証)及び株式会社東京守礼堂(東京都台東区柳橋1丁目10番9号、乙第108号証)により需要者に直接、あるいは販売代理店である株式会社建武堂(東京都豊島区東池袋1丁目5番1号、乙第109号証)及び日本武道具株式会社(東京都台東区柳橋2丁目61番7号、乙第110号証)を通じて行われている。
また空手着以外の商品、すなわち商品「プロフェッショナルパンツ,Tシャツ,トレーナー,ベルト,スポーツタオル,カフス,タイピン,ネクタイ,シール・ステッカー」等については、極真会館はテイクファイプ満沢(代表者満沢勉、東京都保谷市東町4丁目10番21号、乙第111〜113号証)に製造販売を委託している。
さらに、商品「録画済みビデオテープ」については、極真会館は株式会社メディアエイト(東京都中央区日本橋人形町2丁目28番2号三友ビル3階、乙第114・115号証)に製造販売を委託している。
そして、これら乙第106〜110号証、乙第113号証及び乙第115号証に示されるとおり、これら各種商品の製造販売が、極真会館の依託により故大山倍達氏の逝去後も従前との実質的同一性をもって継続され、かつ被請求人を代表者とする極真会館がこれらの取引にあたっていること、ならびにこれらの業者において、故大山倍達氏が代表者であった極真会館の現在の代表者が、被請求人であると認識されていることが明らかである。
なお、これらの各種商品の製造販売については、請求人もこれら業者の雑誌広告写し等の証拠を甲各号証として提出しているが、それら証拠は被請求人が館長を務める極真会館が各業者に製造を依託ないし許諾している事実(かかる事実は被請求人も当然に認めるところである)を示すものではあっても、極真会館と請求人団体との実質的同一性ないし関連性は何ら示されていないのであるから、そのような証拠に基づく請求人の主張は当を得ない。
7.乙第116・117号証には1996年に新設された会員制度が説明されている。この会員制度は故大山倍達氏の存命中には存在せず、被請求人の発案により新たに導入されたものであるが、1996年4月15日の登録開始から2000年1月14日に至るまでその登録会員数は26,292名を数え、会員には乙第118号証及び乙第119号証に示されるような会員証及び手帳が発行され、館長である被請求人を頂点とした明確で近代的な組織作りが図られている。極真会館が日本国内のみならず世界各国に広がった極真空手を組織的に集約しその中心として活動を行なっていること、および被請求人がその代表者であることは、このことからも明らかである。
8.被請求人は極真会館の認知度を高め社会的地位を確立すべく、テレビ等の各種マスコミにおける広告宣伝活動を積極的に行っている。(乙第83号証、同第120号証ないし同第124号証)
9.上述した乙第1号証ないし乙第26号証に係る雑誌「月刊パワー空手」(1995年3月号をもって廃刊)は、極真会館に密接な関連を有する雑誌として故大山倍達氏が発行人となって出版されていたが、同氏の逝去後廃刊までの間は、同誌につき被請求人が発行人となっていた(各号証裏表紙参照)。また、乙第27号証ないし乙第84号証に係る雑誌「ワールド空手」は、前記「月刊パワー空手」の廃刊後に同誌の執筆編集要員および販路を、故大山倍達氏存命中の1993年8月号から同誌の発行に全面的に協力(乙第8号証)していた(株)びいぶる出版社がそっくり引き継ぐ形で創刊され、現在まで継続して出版されている。しかしてこれらの事実は、被請求人を館長とする極真会館が故大山倍達氏存命中の出版事業を実質的同一性をもって継続していることを示すものである。
10.ところで、極真会館がこれほどの規模と名声とを得ているのにもかかわらず、その事業に関して使用される商標の保護は、故大山倍達氏の生前には全く考慮されていなかった。この点被請求人は、極真会館を近代的な組織に改革するためには権利関係の確定及び名称使用の確保が急務であり、商標登録の取得が必要であると感じるに至った。しかし極真会館はいわゆる法人格なき社団であり、商標登録に係る権利享有主体とはなり得ず、したがって極真会館に係る商標の保護を求める場合には、その館長が商標出願を行い商標登録を取得するほかない。本件商標はこのような理由から被請求人個人の名義で出願された次第である。
被請求人が、極真会館の代表者として同会館に代わり取得した日本及び外国における商標登録及び出願は、被請求人が極真会館の代表者として、商標に係る保護の取得に努力を借しまなかったことを示すと同時に、日本及び外国特許庁において、国際的にも周知著名な「極真会」「極真会館」、極真会館のシンボルマークである極真マーク、および極真会館に密接な関係を有し同会館を直ちに連想させる「極真空手」「KYOKUSHIN」「MAS OYAMA」等の各商標について、被請求人が登録を受けるにつき正当な権限を有するとの一応の評価が、一貫してなされていることを示すものに他ならない。
11.請求人は、故大山倍達氏の遺言書の成立性に関する議論と、分裂騒動の結果として請求人団体が設立され一見二つの極真会館が存在するかのような異常事態とに乗じて、あたかも被請求人が何ら権限を有しないかのように主張しているが、かかる主張は事実に反し、前述したように、遺言書の成立性にかかわらず、被請求人が故大山倍達氏の生前から信望を得、組織を構成する支部長、指導員、道場生の総意により、他の誰にも増して後継者として強く推挙されたのであり、このことは極真会館の館長として故大山倍達氏の死後5年以上の長きの間揺るぎない館長の地位を保持継続し得た事実からも明白であり、この極真会館の代表者としての地位を疑うべき合理的理由は存在しないというべきである。
もちろん、故大山倍達氏という極めてカリスマ性の強い人物の逝去後、若き後継者である被請求人を中心とした指導体制が、大組織の全ての構成員から漏れなく支持されないであろうことも容易に想像され、これが一部の分裂組織として枝分かれした事実は認めるが、これによって極真会館の館長としての被請求人の立場が法律的に消滅するという論理には到底与することができない。
なお、遺言書については東京家庭裁判所において遺言確認を否認され、抗告審及び特別抗告審についても棄却・却下されたことは被請求人においてもこれを否定しないが、この遺言確認の否認の理由は、遺言書の署名者のうち1名に受遺者に準ずる利害関係がありこれが民法第974条3号に定める証言人の欠格事由に該当するというものにすぎず(甲第73号証)、この審理において遺言書に列挙された個々の内容が遺言者の真意であるかの検討、とりわけ故大山倍達氏によって創出された極真会館及び関連事業の後継者が被請求人であるか否かについての実質的な検討・判断は、第一審・抗告審及び特別抗告審のいずれにおいても行われていない。したがって、上記遺言確認が否認されたことを根拠に、被請求人に対する指名自体が故大山倍達氏の意向でなかったと断ずることはできない。また、請求人団体が極真会館及び関連事業の正当な継承者であるとの根拠をなすべき遺言、証言ないし書証は存在しないし、そのような事実を窺わせる状況証拠すら、請求人の提出に係る全書証を精読しても全く見当たらない。
12.なお、本件商標登録に対する異義申立人であった大山智弥子氏は、故大山倍達氏の未亡人であるが、この大山智弥子氏と被請求人との間においては既に和解が成立し(平成11年2月17日付)、今般大山智弥子氏は極真会館が主催する世界選手権大会およびその打ち上げパーティーに列席され(乙第83号証第17頁、同第84号証第36頁)、また1999年の本部道場の移転に際しても花環をお贈り下さるに至っており(乙第75号証第7頁)、上記分裂騒動以来極真会館とは袂を分かっていた大山智弥子氏を中心とする一派についても、遠からぬ将来には極真会館の主催に係る各種選手権大会に合流することが期待されているところである。
13.このように、請求人団体が極真会館の正当な継承者であるとの請求人の主張は事実に反し、また、上述のとおり極真会館及び関連事業は被請求人の館長就任後においても故大山倍達氏存命中の事業との実質的同一性をもって継続されている。しかして、極真会館が上述のとおり法人格なき社団であってそもそも権利享有主体として商標法第4条第1項第15号・第10号及び第8号にいう「他人」に該当するか疑義がある上、被請求人が、故大山倍達氏の事業との実質的同一性をもって継続されている極真会館の代表者たる館長の地位にあることが少なくとも事実上明らかであるから、このような被請求人に対し極真会館が前記各号にいう「他人」にあたるとは到底云い得ないというべきである。
また、本件商標の出願過程において提出された財団法人極真奨学会の承諾書(甲第79号証)につき、審判請求人は署名者である理事梅田氏に当該承諾書を発行する権限がない旨を主張するが、法人の理事は法人の事務について当然に代表権を有し(民法第53条、大審院判決大正7年3月7日・民録24-427、乙第125号証)、かつ同財団に係る登記簿において理事の代表権を制限すべき特段の規定は存在しないから(甲第80号証)、かかる請求人の主張は失当である。他方、甲第5号証第8頁の「財団法人極真奨学会・極真会館道則」第1条における「本館は、財団法人極真奨学会極真会館と称し」との記載からみれば、財団法人極真奨学会は極真会館と表裏一体をなす組織ということができ、そのことと財団法人の一般的性格とを考え併せれば、財団法人極真奨学会は、法人格のない極真会館に代わりその財産を管理する団体とみるのが相当である。また、請求人においてこれに反する立証は何らなされていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号・第10号及び第8号のいずれにも該当しない。
また、以上の事実からすれば、本件商標が他人の商標を盗用・剽窃して出願されたものとは到底云い得ず、その他本件商標が矯激卑猥な図形を含む等、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれありと解すべき事情は存在しないから、本件登録商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当しない。
14.これを要するに、本件商標は極真会館の代表者たる被請求人によって出願され登録されたものであり、かつ本件商標の登録について財団法人極真奨学会の明示の承諾を得ているものであるから、商標法第4条第1項第15号・第10号および第8号のいずれにも該当せず、また、本件商標は故大山倍達氏によって創立され存続し被請求人が代表者を務める極真会館との関係において公の秩序または善良の風俗を害するおそれがないから同第7号にも該当しない。

第4 当審の判断
1.「極真会」、「極真会館」、「極真空手」の名称等について
「現代用語の基礎知識2001」(自由国民社発行 1329頁)において、「極真空手」の見出しのもと「大山倍達が1964(昭和39)年に創設した国際空手道連盟極真会館が統括する空手の俗称。技を相手の体の寸前で止めて勝敗を競う寸止めルールを採用する『伝統空手』に対し、極真空手は新たなフルコンタクトルールを提唱した。素手素足で直接相手に攻撃を加え、ノックダウンによって勝敗を決めるという方式は80年代を経て空手界の主流となった。現在、極真会館は単一流派として世界最大の規模を誇る。」の記載がある。
また、請求人の提出に係る甲各号証及び被請求人の提出に係る乙各号証によれば、「大山倍達氏は、1947年9月に京都市で開かれた戦後初の全日本空手道選手権に出場して優勝し、各地での修業を経た後、1954年5月東京都豊島区目白の自宅庭に大山道場の看板を出し、1956年6月に大山道場を東京都豊島区池袋にあったバレエ団の練習スタジオに移転し、ここで極真力ラテの原型が形作られる。その後、大山道場は発展を続け、1964年6月に極真会館本部を竣工させ、同月に『国際空手道連盟極真会館』を正式に発足させた。その後、各種の選手権大会を開催する等活発に活動し、1988年9月滋賀支部の発足を最後として、我国のすべての都道府県に極真会館組織が確立した。このようにして、大山倍達氏が創設した直接打撃制の武道力ラテは、日本を始め世界各地で発展した。そして、1994年4月26日に、大山倍達氏は肺癌のため逝去した。以上のようにして、故大山倍達が創設した空手道を教授又は修業する武道家、道場主、道場生等の集まりの団体といえる『極真会館』ないし『極真会』が、『極真会』、『極真会館』、『国際空手道連盟』等の名称の下に、空手の教授、普及、発展に携わってきたことが認められ、その活発な活動により、該団体の使用に係る商標『極真会館』『極真会』等が、遅くとも本件商標の出願時には既に『空手の教授を中心とする技芸・スポーツ又は知識の教授』等の役務を表示するものとして、空手愛好家を中心とする需要者の間に認識されるに至っていた。」ことが認められ、この点について請求人及び被請求人において争いはない。
しかし、大山倍達氏の逝去後における「極真会館」「極真会」等の名称に関する商標権の主体について争いがあるので、以下検討する。
(1)「死亡危急時方式の遺言書の確認」が否認されたことについて
請求人は、「被請求人は、自己の活動は大山倍達氏の後継者としての活動であり、大山倍達氏の遺志により後継者に指名されたと主張しているが、被請求人が後継者であると主張できる根拠は全面的に危急時遺言にあるのであって、その遺言が裁判所によって否認されているものであるから、遺志により後継者に指名されたということはできない。」旨主張している。
請求人の提出に係る甲第73号証ないし同第75号証によれば、遺言書については東京家庭裁判所において遺言確認を否認され、抗告審及び特別抗告審についても棄却・却下されたことは事実であるが、この審理において遺言書に列挙された個々の内容が遺言者の真意であるかの検討、とりわけ故大山倍達氏によって創出された極真会館及び関連事業の後継者が被請求人であるか否かについての実質的な検討・判断は、第一審・抗告審及び特別抗告審のいずれにおいても行われていないことが認められる。
そうとすれば、上記遺言確認が否認されたことのみをもって被請求人に対する指名自体が故大山倍達氏の意向でなかったと断ずることはできない。
また、請求人団体等が極真会館及び関連事業の正当な継承者であるとの根拠をなすべき遺言、証言ないし書証、また、そのような事実を窺わせる状況証拠等を、請求人は何ら提出していない。
(2)財団法人極真奨学会の承諾書について
請求人は、本件と関連した事件において提出されている財団法人極真奨学会の承諾書(甲第79号証)につき、署名者である理事梅田氏に当該承諾書を発行する権限がない旨を主張するが、法人の理事は法人の事務について当然に代表権を有し(民法第53条、大審院判決大正7年3月7日・民録24-427、乙第125号証)、かつ同財団に係る登記簿において理事の代表権を制限すべき特段の規定は存在しないから(甲第80号証)、請求人の主張は採用できない。他方、甲第5号証第8頁の「財団法人極真奨学会・極真会館道則」第1条における「本館は、財団法人極真奨学会極真会館と称し」との記載からみれば、財団法人極真奨学会は極真会館と表裏一体をなす組織ということができ、そのことと財団法人の一般的性格とを考え併せれば、財団法人極真奨学会は、法人格のない極真会館に代わりその財産を管理する団体とみるのが相当である。また、請求人においてこれに反する立証は何らなされていない。
(3)商標権者と「極真会」「極真会館」の名称等との関係について
被請求人(商標権者)の提出に係る乙第1号証ないし同第93号証によれば、被請求人が故大山倍達氏に重用されていたこと、同氏の逝去後直ちに被請求人が極真会館の館長に就任したこと、極真会館の分裂騒動の後においても被請求人が大会・合宿などの各種内部行事や海外訪問などの対外的行事において故大山倍達氏が行っていたのと同様の極真会館の代表としての役割を果たしていること、故大山倍達氏存命中の各支部の指導員の編成が、被請求人の館長就任後にも実質的同一性を保持していること、及び、故大山倍達氏により建設され同氏の存命中からの活動拠点であった極真会館総本部道場(東京都豊島区西池袋3丁目3番9号)において被請求人が活動を継続していることが認められる。
同じく乙第94号証ないし同第104号証によれば、故大山倍達氏の存命中、同氏がすべて大会実行委員長を務めていた「オープントーナメント全日本空手道選手権大会」、「オープントーナメント全世界空手道選手権大会」等の各種の選手権大会に係る事業が、極真会館により同氏の逝去後も従前との実質的同一性をもって継続され、かつこれらのすべてについて、被請求人が極真会館の代表者として大会実行委員長を務めていることが明らかである。
さらに、同じく乙第105号証ないし同第115号証によれば、「極真会館」に関する「空手着及び帯」等の商品がいくつかの業者により製造販売されているが、これら各種商品の製造販売が、極真会館の依託により故大山倍達氏の逝去後も従前との実質的同一性をもって継続され、かつ被請求人を代表者とする極真会館がこれらの取引にあたっていること、ならびにこれらの業者において、故大山倍達氏が代表者であった極真会館の現在の代表者が、被請求人であると認識されていることが認められる。
なお、これらの各種商品の製造販売については、請求人もこれら業者の雑誌広告写し等の証拠を甲各号証として提出しているが、請求人は、それら証拠と請求人団体との実質的同一性ないし関連性を何ら示していない。
また、乙第1号証ないし同第84号証によれば、極真会館に密接な関連を有する雑誌の発行に関して、雑誌「月刊パワー空手」(1995年3月号をもって廃刊、乙第1号証ないし同第26号証)は、故大山倍達氏が発行人、同氏の逝去後廃刊までの間は被請求人が発行人となって出版されており、また、雑誌「ワールド空手」(乙第27号証ないし同第84号証)は、前記「月刊パワー空手」の廃刊後に同誌の執筆編集要員および販路を、故大山倍達氏存命中の1993年8月号から同誌の発行に全面的に協力(乙第8号証)していた(株)びいぶる出版社がそっくり引き継ぐ形で創刊され、現在まで継続して出版されている事実が認められ、被請求人を館長とする極真会館が故大山倍達氏存命中の出版事業を実質的同一性をもって継続しているとみるのが相当である。
(4)以上によれば、故大山倍達氏により創出され1964年に発足した空手団体である国際空手道連盟極真会館が使用する商標「極真会館」、「極真会」等は、被請求人が代表者(館長)である「国際空手道連盟極真会館」が行う事業等により継続使用されているものとみるのが相当である。
2.本件商標の商標法第4条第1項第10号及び同第15号の該当の可否について
本件商標は、別掲(1)のとおり、「極真会館」の漢字を横書きしてなると認められるところ、該文字と社会通念上同一と認め得る文字からなる標章が、故大山倍達氏が創設した空手道を教授又は修業する武道家、道場主、道場生等の集まりの団体といえる極真会及び極真会館により使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、「空手の教授を中心とする技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務等を表示するものとして、空手愛好家を中心とする需要者の間に認識されるに至っていたものといわざるを得ない。
そして、本件商標の商標権者である松井章圭こと文章圭と故大山倍達氏が創設した前記極真会及び極真会館とは、上記認定のとおり、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に規定する「他人の業務に係る商品若しくは(又は)役務・・・」にいう「他人」の関係には該当しないとみるのが相当である。
したがって、請求人が使用する引用各商標の周知性、本願商標と引用各商標との出所の混同のおそれの有無等を判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものとはいうことはできない。
3.本件商標の商標法第4条第1項第8号該当の可否について
請求人は、「本件商標は、故大山倍達の創設した空手の指導を目的とする団体の名称であり、請求人を含む故大山倍達の後継者を指称するものと認識されているものであるから、商標法第4条第1項第8号の規定に該当し、その登録は無効とされるべきである。」旨主張する。
しかしながら、本件商標の商標権者である松井章圭こと文章圭が、上記認定のとおり、本件商標と無関係な「他人」ということはできないから、商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称・・・」にいう「他人」ということはできない。
4.本件商標の商標法第4条第1項第7号該当の可否について
本件商標が上記の法条に該当するか否かについてみるに、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般道徳観念に反するような場合、あるいは他の法律によってその使用が禁止されている商標等が含まれるものと解されるところ、本件商標がこれに該当するものとは認められないし、また、上記で認定のとおり、商標権者は本件商標に少からず関係を有する者といい得るから、本件商標は、これを商標権者がその指定商品に使用しても、商品の流通社会の秩序を害するおそれがあるとも認められない。
5.結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第8号及び同第7号のいずれの規定にも違反されて登録されたものではないから、その登録は同法第46条第1項の規定により無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 <別掲>

(1)本件商標及び引用A商標



(2)引用B商標


審理終結日 2001-04-26 
結審通知日 2001-05-15 
審決日 2001-06-05 
出願番号 商願平6-48933 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (025)
T 1 11・ 25- Y (025)
T 1 11・ 271- Y (025)
T 1 11・ 23- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 涌井 幸一箕輪 秀人 
特許庁審判長 滝沢 智夫
特許庁審判官 酒井 福造
田口 善久
登録日 1999-01-08 
登録番号 商標登録第3371034号(T3371034) 
商標の称呼 キョクシンカイカン 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 高松 薫 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 石田 純 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 高松 薫 
代理人 高松 薫 
代理人 高松 薫 
代理人 金山 敏彦 
代理人 高松 薫 
代理人 吉田 研二 
代理人 高松 薫 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 高松 薫 
代理人 広瀬 文彦 

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