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審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835464 審決 商標
無効200235271 審決 商標
審判19951811 審決 商標
異議199891314 審決 商標
審判199911793 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 120
管理番号 1075483 
審判番号 無効2001-35481 
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-29 
確定日 2003-04-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第2719193号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2719193号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2719193号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成4年1月17日に登録出願され、第20類「家具、畳類、建具、屋内装置品、屋外装置品、記念カップ類、葬祭用具」を指定商品として、平成9年1月31日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用商標
請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2691725号商標は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、平成2年8月21日に登録出願され、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年8月31日に設定登録されたものである。同じく、登録第4235214号商標は、別掲(3)に示すとおりの構成よりなり、平成9年11月5日に登録出願され、第20類「家具、貯蔵槽類(金属製又は石製のものを除く。)、プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。)、カーテン金具、金属代用のプラスチック製締め金具、くぎ・くさび・ナット・ねじくぎ・びょう・ボルト・リベット及びキャスター(金属製のものを除く。)、座金及びワッシャー(金属製・ゴム製又はバルカンファイバー製のものを除く。)、錠(電気式又は金属製のものを除く。)、木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器、葬祭用具、荷役用パレット(金属製のものを除く。)、養蜂用巣箱、クッション、座布団、まくら、マットレス、愛玩動物用ベッド、アドバルーン、犬小屋、うちわ、買物かご、額縁、家庭用水槽(金属製又は石製のものを除く。)、きゃたつ及びはしご(金属製のものを除く。)、工具箱(金属製のものを除く。)、小鳥用巣箱、ししゅう用枠、植物の茎支持具、食品見本模型、人工池、すだれ、ストロー、スリーピングバッグ、せんす、装飾用ビーズカーテン、タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。)、つい立て、ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。)、旗ざお、ハンガーボード、びょうぶ、ベンチ、帽子掛けかぎ(金属製のものを除く。)、盆(金属製のものを除く。)、マネキン人形、麦わらさなだ、木製又はプラスチック製の立て看板、郵便受け(金属製又は石製のものを除く。)、揺りかご、幼児用歩行器、洋服飾り型類、美容院用いす、理髪用いす、石こう製彫刻、プラスチック製彫刻、木製彫刻、あし、い、おにがや、きょう木、しだ、すげ、すさ、竹、竹皮、つる、とう、麦わら、木皮、わら、きば、鯨のひげ、甲殻、さんご、人工角、ぞうげ、角、歯、べっこう、骨、海泡石、こはく」及び第24類「織物、メリヤス生地、フェルト及び不織布、オイルクロス、ゴム引防水布、ビニルクロス、ラバークロス、レザークロス、ろ過布、布製身の回り品、織物製テーブルナプキン、ふきん、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製いすカバー、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、シャワーカーテン、テーブル掛け、どん帳、織物製トイレットシートカバー、遺体覆い、経かたびら、黒白幕、紅白幕、布製ラベル、ビリヤードクロス、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」を指定商品として、平成11年1月29日に設定登録されたものである。以下、これらを合わせて「引用商標」という。

3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証を提出した。
(1)請求人の使用する「POLO」標章及び「馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形」標章など所謂「POLO」ブランドの歴史及びその著名性について
(ア)請求人は、米国ニューヨーク州所在のリミテッド パートナーシップであり、被服や眼鏡、フレグランスその他のファッション関連商品について、関連会社やライセンシー及び販売店を通して世界的な規模で製造及び販売に携わっているものである。
請求人がライセンシーや販売店等を通じて製造販売している商品は、請求人の主な構成員であり世界的に著名なデザイナーであるラルフ・ローレンによってデザインされたものである。英国の伝統を基調としそれに機能性を加えたデザインと、卓越した製造技術並びに一貫した品質管理による良質の製品は、本拠地である米国のみならず、日本を含む数十カ国に及ぶ世界の国々において、多くの消費者から高い評価を得ており、現在では世界的規模でファッション関連事業を展開している。
(イ)請求人商品のデザイナーであるラルフ・ローレンは、1939年米国ニューヨーク州ブロンクスで生まれ、学業を終えたのち手袋やネクタイ等のセールスを経験し、1967年(昭和42)ネクタイ製造販売会社である「ボー・ブランメル」に入社した。そこで自らデザインしたネクタイを販売する新しい会社を任されるようになり、彼のデザインした幅広のネクタイに「POLO」のラベルを付すとともにその会社名を「ポロ・ファッションズ」とした。それはポロ競技が当時の裕福な階級に限定された排他的なスポーツであり、そのスタイルにおいても高級・高雅性をイメージさせたからである。そして彼のデザインした幅広のネクタイが評判となり、1968年(昭和43)「POLO」標章を付したラルフ・ローレンのネクタイがニューヨークの大手百貨店であるブルーミングデールで販売され高価であったにもかかわらず大好評を博した。因みに、当時ブルーミングデールで商品にデザイナーブランドが付けられて販売されていたのはクリスチャン・ディオールのみであった。
ラルフ・ローレンは1968年(昭和43)独立し「ポロ・ファッションズ社」を新たに設立しその年自らデザインしたスーツを発表した。以後精力的にメンズウエアのデザインを発表し、1970年(昭和45)には早くもファッション界のアカデミー賞とも称される「コティ・アメリカン・ファッション・クリティックス賞」のベスト・メンズウエア・デザイナー賞を受賞した。そしてその後は順調に業績を伸ばした結果、当時はデパートのメンズ部門がデザイナーに個人のブティックを与えることは前例にない時代であったがブルーミングデールを初めとする全米の有名デパート等に自らのブティックを出店していった。
また、婦人用商品は、1971年(昭和46)婦人用のシャツブラウスのデザインを皮切りに1972年(昭和47)には婦人服のフル・コレクションを発表してメンズウエアでの高い評価と並んで小売業者や顧客たちの間で爆発的な人気を呼ぶに至った。そして紳士用の商品には「POLO」又は「POLO by RALPH LAULEN」の標章を使用していたが婦人用には「Ralph Lauren」と「馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形(以下「ポロプレーヤーマーク」という。)」の標章を使用することにした。なお、1972年(昭和47)頃からメンズウエアも含めラルフ・ローレンの全商品にポロプレーヤーマークを付すようにした。
そして、ラルフ・ローレンは、1973年(昭和48)に映画「華麗なるギャツビー」の衣装を担当したことから広く世界の人々にその名を知られるようになり、デザイナーとしての名声が不動のものとなった。それとともに、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品に使用する標章「POLO」並びに「POLO by RALPH LAULEN」及び「ポロプレーヤーマーク」は所謂「POLO」ブランドと称されるとともに(時には「Ralph Lauren」標章も含め称される場合がある。)、それら「POLO」ブランドを冠した商品は、被服に続いて眼鏡やフレグランスなどのファッション関連商品、ホーム・ファニシング、レザーグッズ、ゴルフ用品などに亘ってトータルに展開してきており、「POLO」ブランドは、請求人のブランドとして遅くとも1970年代前半には米国はもとより全世界的に著名となっていた。
(ウ)以上から明らかなように、被請求人が本件商標を出願した当時は、既に「POLO」ブランドは米国で成功を収めており、ラルフ・ローレンのデザインし「POLO」ブランドを付した商品が米国で盛んに販売されていた。
(2)「POLO」ブランドを付した請求人商品の日本における著名性
米国における成功を受けて「POLO」ブランドを付した請求人商品が、日本において展開されるようになった経緯は以下のとおりである。また、その過程において請求人商品は「Polo」、「ポロ」と総称又は略称されることが多くなった。
(ア)日本における「POLO」ブランドの最初のライセンシーは、菱屋株式会社であり1975年(昭和50)「POLO」標章を付したネクタイの製造販売を開始した。ついで、1976年(昭和51)株式会社西武百貨店がメンズウエアについてライセンス契約を結び、直ちに販売を開始し、以後1978年(昭和53)レディースウエア、1980年(昭和55)ボーイズウエア、1982年(昭和57)ガールズウエア及びレザーグッズ、1985年(昭和60)寝具等ホーム・ファニシング、1994年(平成6)ゴルフ用被服及び小物、1997年(平成9)幼児服及びジーンズ製品の販売をそれぞれ開始し、精力的に請求人の商品を展開してきている。
(イ)西武百貨店は、上記ライセンス商品の展開にあわせて新聞・雑誌等のメディアを通じて請求人商品の広告宣伝に力を注いだ。すなわち、1977年(昭和52)から1987年(昭和62)まで毎年4000万円〜1億1800万円の宣伝・販促費を投じており、1988年(昭和63)西武百貨店の請求人商品を取り扱う部門が独立し、株式会社ポロ・ラルフローレン・ジャパンが設立されてからは毎年4億1100万円〜13億7700万円の宣伝・販促費を費やして請求人商品の普及に努めている。なお、かかる宣伝活動の際も「POLO」ブランドが使用されていることは勿論である。かかる広告宣伝活動の結果、日本における請求人商品の売上げは、1977年(昭和52)の5億6000万円を皮切りに毎年前年度を大幅に上回る伸びを示し、現在では年間900億円近い売上げを誇る日本でも有数の人気の高いブランドの一つとなっている。因みに、請求人の「POLO」ブランドが、請求人商品を示すものとして極めて短期間に日本における周知・著名性を獲得していることを示すものとして昭和63年から平成元年にかけて「POLO」又は「ポロプレーヤーマーク」を付した偽ブランド商品が第三者によって大量に販売され摘発されるという事件が発生したほどである。
(ウ)以上から明らかなように、被請求人が本件商標を出願した以前から既にラルフ・ローレンがデザインし「POLO」ブランドを付した商品が日本において盛んに販売されており、「POLO」ブランド及びその略称「ポロ」の著名性は確立していた。
(3)本件商標が請求人の使用標章「ポロプレーヤーマーク」と混同を生ずる理由
(ア)本件商標は、図形と文字とから構成されたものであるが、図形部分は、圧倒的に顕著に表されており左右に配した文字との関連性もないところから、図形部分自体が独立して商品の出所を識別するための標識として機能し得るといえるものである。しかして、該図形は、斜め右方に向いた馬に乗り上体を屈めてマレット(打球槌)でボールを捉えようとするポロ競技プレーヤーを全体として動的なタッチでシルエット風に黒色で表してなるものである。一方、請求人が使用する「ポロプレーヤーマーク」は、斜め左方に向いた馬に乗り上体をやや屈めてマレット(打球槌)を振り下ろそうとするポロ競技プレーヤーを全体として動的なタッチで黒色を基調に表してなるものである。しかして、両図形は、子細に見れば差異を有するが、ともに走るが如き馬及び馬に乗ってマレットを操っているポロ競技プレーヤーを全体として躍動的動きを看取させる図柄で黒色を基調に描いてなる点において構成の軌を一にするものであり、全体の外観において紛らわしいものといい得るものである。
そうとすると、上述したとおり「POLO」ブランドの一である「ポロプレーヤーマーク」はラルフローレンのデザインに係る商品を表すものとしてその周知・著名性の程度は非常に高いものであり、また、本件指定商品中の家具や絨毯、カーテン等の屋内装置品等はデザインが重要な要素とされるものであるところ、請求人はそれらと同一又は近似する分野の商品であるホーム・ファニシング等をも取扱っていることから、取引者・需要者が本件商標に接した場合は、ラルフローレンのデザインに係る請求人の「ポロプレーヤーマーク」標章を想起、連想するというのが相当である。
(イ)上記の主張は、最高裁判所平成12年(行ヒ)第172号事件、東京高等裁判所平成11年(行ケ)第267号事件、同平成11年(行ケ)第333号事件の判決に徴して首肯できることである。さらに、本件商標と同一構成からなる被請求人の商願平3-122109号(審判9-3255、11行ケ418-訴取下)、商願平3-122108号(審判7-1811、12行ケ309-訴取下)及び本件商標の図形部分のみを構成要素とする商願平1-26956号(審判6-2334、11行ケ402-訴取下)及び本件商標の図形部分を構成要素の一部とする商願平3-122113号(審判9-3256、11行ケ419-訴取下)は、何れも請求人の使用標章である「ポロプレーヤーマーク」と混同すると判断された審決が確定している。
(ウ)以上述べたとおり、本件商標は、これをその指定商品に使用した場合は、取引者・需要者をして請求人または請求人と経済的又は組織的に何らかの関系がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(4)以上述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、無効とすべきものである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求人は、引用商標として「馬に乗ったポロ競技プレーヤーの図形」標章を挙げており、上記の図形標章を含めて「POLO」ブランドと呼び、「POLO」ブランドの著名性を述べている。しかしながら、その記載は文字商標「POLO」(正確には「Polo/by Ralph Lauren」)に関する記述であり、具体的に図形について触れられている部分は第4頁第11行目と第6頁第5行目だけであり、図形商標についての著名性がこれらの主張によって十分に証明されたとは考えられない。
また、混同を生ずる理由について、図形が構成の軌を一にすると述べている。
しかしながら、本件商標の図形は、黒いシルエット図形で、右向きの馬の上にポロの競技者が下を見ながら真下にあるポロの玉を、下向きに降ろしたマレットで正に打たんとしている図であり、馬の足とマレットが混在し、全体として動きを感じさせる図形である。
これに対して、請求人の図形は、やや左向きの馬の図形で、右足を上げた状態の馬の上にポロ競技のプレーヤーが体を伸ばしてマレットを右手の上方に高々と振り上げている図形であり、振り上げられたマレットは競技者の左肩上まで持ち上げられており、このマレットが上方に突出していることが他のポロに関する図形と比較して特徴的な部分である。
請求人は、「走るが如き馬及び馬に乗ってマレットを操っているポロプレイヤーを全体として躍動的動きを看取させる図柄」において構成の軌を一にすると述べているが、競技中のポロプレーヤーを表すかぎり、必ず「走るが如き馬及び馬に乗ってマレットを操っている」ものであり、それだけでは到底、「構成の軌を一にする」といえるものではない。
本件図形では、馬の足とマレットが混在し、全体として動きを感じさせる点に特徴があり、引用図形では、マレットが右手の上方に高々と振り上げられ上方に突出していることに特徴がある。両者を対比すれば容易に区別される全く異なった図形であり、構成の軌を一にすると評価できるものではないし、時と所を別にして思い起こしてみても混同を生ずる図形とは考えられない。
(2)図形商標の並存例
本件商標は、1992年1月17日付の出願であるが、本件商標の図形と同一の図形を含む商標が、旧第23類において、1991年10月31日付で出願され、商標登録第2657767号として登録され現在も権利が存続している(乙第1号証)。
上記の商標権は、商標法第4条第1項第15号の審査基準が変更される前の審査により登録されたものであるが、登録後においても、時計・眼鏡を指定商品とする上記の登録商標と、請求人の商品の間に出所混同が生じているという事実は全く存在しておらず、現実の出所混同を軽視するような審査基準の変更が必要であったかを疑うものである。
上記の商標権は、登録後すでに8年を経過しており、本件商標と同一の図形について、被請求人の業務上の信用が化体しているものである。本件商標の図形に接する需要者・取引者は、容易に上記の商標登録権利者が商品を展開したと考えることはあっても、構成の軌を一にするものではない引用図形と関連ある商標であると考えることはない。被請求人が営々と築き上げた業務上の信用の保護が十分に考慮されるべきものである。
特に図形商標の類否では、本件商標の図形と引用図形では類似しないと判断するのが通例であった。
さらに、従来の商標法第4条第1項第15号の判断では、商品が同一であれば類似と判断される商標であって、商品が同一・類似の外側にあるときに「混同」を認定していた。これに対して、新審査基準では「類似」の概念を用いることなく混同を論じているが、従来「類似」とは考えられなかった図形商標同士において混同が生ずるおそれがあることは極めて稀であると考えられる。本件がそのような稀な例であるかは、市場における取引の実態を十分に考慮して判断されることを望むものである。
現実に混同が生じていないものについて「おそれ」があるとして、登録を拒絶する等は、真に産業の発達を目指しているとはいい難いものである。
審査基準の改定によっても、現実に混同を生じない商標にまで、商標法第4条第1項第15号の適用をすべきものでないことは商標法の法目的から考えても明らかである。
(3)出所混同の不可能性
(ア)本件商標及び引用商標はそれぞれ、ポロ競技者を表したものであり、ポロプレーヤーを表したという共通点以上に両者が類似するものでないことは、両図形を対比してみれば、自ずと明らかである。
本件商標及び、引用図形の表すポロ競技は既に映画や各種の宣伝活動で一般に広く親しまれている(乙第2号証の1)。なお、ポロ競技は「ペルシア起源の騎乗球技。現今のものは、四人ずつ二組に分れ、一個の木のボールを馬上から長柄の槌(マレット)で相手側のゴールへ打ち込み合って勝負を争う。」と岩波書店「広辞苑」にも紹介されている(乙第2号証の2)。
(イ)審査基準
公開された特許庁の審査基準において、商標法第4条第1項第15号の規定については、「他人の著名な商標と結合した商標」の取扱いとして、「他人の著名な商標と結合した商標は原則として出所混同を生ずるおそれがあるものと推認して取扱うものとする」と記載されている。
しかしながら、審査基準は「原則として推認して取扱う」としているだけであり、具体的には、ただし書きを設けて、現実に混同を生じないものについては商標法第4条第1項第15号の適用を排除している。ただし書きでは、「既成の語の一部となっているもの」「出所の混同のおそれがないことが明白なもの」を除く、と記載している(乙第3号証)。
この審査基準に照らすと、本件商標は、他人の著名商標自体を含んでいるものではなく、他人の著名な商標と類似する商標でもない。
また、その指定商品との関係において、引用図形が著名性を獲得していると考えられるのは、被服、眼鏡等である。なお、眼鏡について、本件商標と同一の図形の商標が被請求人により登録されている事実は、先に述べたとおりである。
引用図形が被服・眼鏡において著名性を獲得したとしても、本件商標の指定商品は「家具,畳類,建具,屋内装置品,記念カップ,葬祭用具」であり、これらの商品は、生産部門も、販売部門も、原材料も、用途も、需要者の範囲においてもいずれも一致するものではないので、その商品は混同を生ずるおそれは全くないものである。
(ウ)先判決例
特許庁の審査では、「POLO」といえば、必ず「ザ ポロ/ローレン カンパニー」の著名商標と取扱っているが、東京高裁平成12(行ケ)40判決及び同平成12(行ケ)41判決では、「ザ ポロ/ローレン カンパニー」は、「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン POLO by RALPH LAUREN」の形で商標を使用しており、「POLO」「ポロ」の商標を専ら使用しているのではないと判断されている(乙第4号証及び乙第5号証)。
また、研究社「英和商品名辞典」においては「Polo/ポロ」の項目ではなく、「Polo by Ralph Lauren」の項目を立てて記載している(乙第6号証)。
また、最高裁平成12(行ヒ)172判決の補足意見では、『「ポロ」は語源的には普通名称なので、商標の出所表示機能がある程度減殺されている。「ポロ」の語を含んでいるときでもラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示が含まれているときは商標法第4条第1項第15号該当性が否定され、登録を受ける余地があるというべき』と真理を突く貴重な意見が判示されている(乙第7号証)。
これらの判決例は、いずれも「POLO」の文字商標に関するものであるが、ポロ競技者を表した図形商標においては、さらに図形としての類似性を厳密に検討して判断すべきものである。
(エ)著名商標の保護を考える余り、第三者の正当な商標権の登録を妨げることが無いように、あくまでも営利団体(会社)の利益の追求に混乱を生じさせないように取扱うことが肝要と考えられる。
(4)被請求人(商標権者)とポロ競技
(ア)米国ポロ協会/United States Polo Associationの活動
米国ポロ協会(別訳:全米ポロ協会)は、「ザ ポロ/ローレン カンパニー」が「POLO」商標を採用する以前(1890年設立)から存在しているアメリカでも著名なポロスポーツの統括団体の名称である。
U.S.Polo Associationは、1890年に創設されたアメリカ、カナダにおけるポロスポーツの統括団体である。この種の組織としては、ゴルフのUSPG(United States ProfessionaI Golf)や、テニスのUSTA(United States Tennis Association)や、フットボールのNFL(National Football League)、バスケットボールのNBA(National Basketball Association)等々と同様の組織である。
現在は、これらの団体は独自に、その協会名を使用して、スポーツ関連商品のライセンスビジネスを行い、それらの物販から得た利益を各スポーツの振興に役立てているのが実情である。したがって、各スポーツ団体は、それぞれ、その協会名で商標の登録をしており、日本でも多くの公報に各団体からの申請が登録公告されている。
なお、商標権者の親会社が米国におけるポロ・スポーツの統括団体であることを示す資料として、「2000年国際ポロカレンダー・ダイレクトリー」を提出するので参照されたい。ダイレクトリーにおいて、米国のポロクラブの先頭に商標権者の協会の名前があり、その後に各州別にポロ団体が紹介されている(乙第8号証)。
(イ)商標権者の活動
商標権者は米国ポロ協会の下部組織であり、米国ポロ協会が上記の諸団体と同様に積極的に推進している商標等の積極活用を具体化する為の団体である。すなわち、日本において数多くのライセンシーに使用権を付与して、その利益を米国ポロ協会に還元している。
商標権者は、日本国内において、現在、株式会社ユーエスピーエージャパンをマスターライセンシーとし(1997年以前においては、株式会社ロスモーリ)、20社を越すサブ・ライセンシーを擁している。
そのサブ・ライセンシーとしては、内外衣料製品(株)、兼吉(株)、ポプラ(株)、アルプス・力ワムラ(株)、(有)ナカエ、(株)山豊、(株)サロンジエ、(株)タ力イシ、(株)タムラコーポレーション、フェニックスコーポレーション(株)、(株)小山等々が挙げられる。
その取り扱い商品は、メンズ、レディースウエアー、アンダーウエア-、帽子、ハンカチ、エプロン、革小物、ベルト、バッグ、時計、傘、サンダル等に及んでいる(乙第9号証)。
また、世界各国におけるマスターライセンシーについては、添付の資料を参照されたい。これらのマスターライセンシーの下にそれぞれ多数のサブライセンシーが存在している(乙第10号証)。
商標権者は、上記のライセンス事業により得られた収益をもって、ポロ用具(ヘルメット、プロテクター等々)の改良や、大学のポロクラブに対する援助活動を行っている。
(ウ)各国登録の実情
商標権者は、本国アメリカを始めとして、ヨーロッパ及び日本その他の数多くの国で自己の名称及びイメージキャラクターの登録を推進している(乙第11号証)。
米国ポロ協会はこれら各国の権利についても、自己の名前を始めとする各種商標及び「U S OPEN POLO CHANPIONSHIP」の商標権を基礎として各国においてライセンス事業を行っている。
日本の審査においては、今後はマドリッドプロトコルを経由して出願される商標について、拒絶理由が発見されない限り登録になることになる。
商標権者の商標に関しても、これらの世界各国に於ける登録と同一の形態の商標出願は、日本においても当然に登録が許容されるべきであると考えている。
ちなみに、世界各国では混同の可能性がないとして登録された名称が、日本においてだけ、「ザ ポロ/ローレン カンパニー」の業務と混同を生ずるというような奇異な認定がされている。このような世界の動向を無視した判断が許容されるはずがない。一部に「POLO」の文字を含むことを理由に拒絶されるのは出所の混同の本質を見ないあまりにも拡張解釈した結果と考えられ、世界の審査の統一的な審査の基準から外れる結果となることは明白である。この点における特許庁の新たな審査基準はWIPOの要請を逸脱する拡張保護であるとも考えられる。
(5)ザ ポロ/ローレン カンパニーとポロ競技
ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ又はラルフ・ローレン社は、ポロスポーツとは直接は一切関係がない団体である。したがって、その売上がスポーツのポロ競技の発展等に直接関連しているとは考えられない。
ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ又はラルフ・ローレン社がポロプレーヤーのマークを商標として選択し利用した経緯については明らかではないが、出願人等が長年に亘って培った伝統的なポロ競技の雰囲気やイメージを利用する意図から積極的にポロプレーヤーのマーク及び「POLO」の文字を商標として選択したものと考えられる。実際に、ニューヨーク周辺でポロ競技とは無関係に育ったラルフ・ローレン氏は、裕福な生活をしているポロ愛好者のライフスタイル又はそのコンセプトをシンボルとして利用したものと推察されている。
ポロ競技が、勇猛果敢な貴族のスポーツであるという認識は、現在では多くの日本人の間にも十分に認識されている。なお、日本において、ポロスポーツがどのように取り上げられているかについては、乙第2号証を参照されたい。
営利を目的とする一会社の有する商標の存在をもって、ポロスポーツの純然たる団体に対して、その名称等を商標として使用させないということは、本末転倒である。むしろ「POLO」を商標として利用したザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ等がポロ競技にある程度の貢献する為に積極的に商標権者等のポロ競技支援団体関連商標の使用を許可すべきであると考えている。一方、欧米において、使用が公に認められている大会名や正式名称について、日本においてだけ商標の登録が拒絶される理由はない。ちなみに、「POLO」商標は多くの業者が併存して使用していた為に、ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ自身も、「POLO」だけでなく「POLO BY RALPH LAUREN」の商標を登録しているのが現在の登録の実情である。
(6)結語
上記のとおり、本件商標は、請求人の商標を商標中に含むものではなく、また類似する商標を含むものでもない。本件商標は、引用商標の商標権者の業務に係る商品との間に出所混同を生ずるおそれはないから、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。したがって、本件商標を無効にすべき理由はない。

5 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
請求人の提出に係る甲第3号証の「男の一流品大図鑑」(昭和53年7月20日 株式会社講談社発行)及び甲第4号証の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(昭和58年9月28日 サンケイマーケティング発行)の記載によれば、以下の事実が認められる。
アメリカ合衆国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、翌1968年にポロ・ファッションズ社(以下「ポロ社」という。)を設立、ネクタイ、シャツ、セーター、スーツ、靴、カバンなどのデザインを始め、トータルな展開を図ってきた。1971年には婦人服デザインにも進出し、「コティ賞」を1970年と1973年の2回受賞したのを始め、数々の賞を受賞した。1974年に映画「華麗なるギャツビー」の主演俳優ロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したことから、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。その頃からその名前は我が国服飾業界においても知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品には、横長四角形中に記載された「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」(「by Ralph Lauren」)の文字、引用商標の各商標が用いられ、これらは「ポロ」の略称でも呼ばれている。
そして、甲第9号証の「海外ファッション・ブランド総覧1980年版」(昭和55年4月15日 株式会社洋品界発行)の「ポロ/Polo」の項、甲第10号証の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略’85」(昭和59年9月25日 ボイス情報株式会社発行)の「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」の項の記述及び甲第12号証の昭和63年10月29日付け日経流通新聞の記事によれば、我が国においては西武百貨店が昭和51年にポロ社から使用許諾を受け、同52年からラルフ・ローレンのデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、同53年から婦人服の輸入、製造、販売を開始したことが認められる。
また、ラルフ・ローレンに係る紳士服、紳士用品については、甲第8号証の「dansen男子専科」(1971年7月10日 株式会社スタイル社発行)を始め、前出「男の一流品大図鑑」、同「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」、甲第5号証の「MEN’S CLUB」(1984年1月1日 株式会社婦人画報社発行)及び甲第13号証の「世界の一流品大図鑑’80年版」(昭和55年5月25日 株式会社講談社発行)のそれぞれにおいて、眼鏡については、前出「海外ファッション・ブランド総覧1980年版」及び同「世界の一流品大図鑑’80年版」のそれぞれにおいて、「POLO」、「ポロ」、「Polo」、「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」、「Ralph Lauren」等の表題の下に紹介されていることが認められる。
以上によれば、引用商標は、ラルフ・ローレンのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用する商標として、遅くとも昭和55年頃までには既に我が国において取引者・需要者間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その状態は、本件商標の登録出願時(平成4年1月17日)を経て登録査定時(平成8年8月5日)に至るまで継続していたというのが相当である。
(2)商品の出所の混同のおそれについて
本願商標は、その構成別掲(1)のとおり、「us」及び「pa」の欧文字の中央に、黒色を用いて、斜め右方に向けて疾駆する馬及び同馬に乗り上体をやゝ屈めてマレット(打球槌)でボールを捉えようとするポロ競技者の図柄をシルエット風に描いてなる図形を配してなるものである。
そして、該シルエット図形部分は、圧倒的顕著に表されていて、外観印象において、それ自体別個のものとして看取し得るばかりでなく、意味上において、前記文字部分と常に一体のものとして把握しなければならないような特段の事情は見出せないから、該図形部分は、それ自体独立して商品の出所を識別するための標識として機能し得るものと認められる。
一方、引用商標は、その構成別掲(2)ないし(3)のとおり、黒色を基調に、斜め左方に向けて疾駆する馬及び同馬に乗り上体をやゝ屈めてマレット(打球槌)を振りかざすポロ競技者の図柄を表したものである。
しかして、両者の図形は、仔細にみれば馬の向き、マレットの位置等において相違するところがあるとしても、両者は共に、疾駆する馬及び同馬に乗ってマレットを操っているポロ競技者の図柄を全体として黒色を基調に描いてなる点において構成の軌を一にするものといえるから、両図形を時と所を異にして離隔的に観察した場合は、全体の外観印象において、彼此相紛らわしいものといわなければならない。
また、本件商標の指定商品は、引用商標が使用されている被服類、眼鏡製品等と同様、その素材や色柄とともに、デザインが重視されるものであって、デザイナーの関与が十分予想される商品である。
そうすると、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、その構成中の馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形に注目し、前記周知になっている引用商標を連想し、該商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く出所の混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
(3)被請求人は、本件商標と同一の図形を含む商標が登録され現在も権利が存続している旨述べているが、そのような例があるとしても、本件商標は前記認定のとおり、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるから、それに基づく被請求人の主張は採用の限りでない。
また、被請求人の述べる「米国ポロ協会(United States Polo Association」の存在並びに歴史等に関する事情は、米国固有のものであって、ポロ競技自体馴染みの薄い我が国にそのまま通用し得る事情とみるのは適切でないから、それに基づく被請求人の主張は採用の限りでない。
(4)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)
(1)本件商標



(2)引用登録第2691725号商標



(3)引用登録第4235214号商標


審理終結日 2002-11-07 
結審通知日 2002-11-12 
審決日 2002-11-25 
出願番号 商願平4-2734 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (120)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹内 弘昌門倉 武則 
特許庁審判長 上村 勉
特許庁審判官 小池 隆
鈴木 新五
登録日 1997-01-31 
登録番号 商標登録第2719193号(T2719193) 
商標の称呼 ユウエスピイエエ 
代理人 曾我 道照 
代理人 岡田 稔 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 黒岩 徹夫 

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