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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 030
管理番号 1073616 
審判番号 無効2002-35127 
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-04-05 
確定日 2003-02-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第4180687号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4180687号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4180687号商標(以下「本件商標」という。)は、後掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成8年10月8日に登録出願され、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、平成10年8月21日に商標権の設定登録がされたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第20号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)請求人使用商標の周知著名性
(ア)請求人の前身である辰馬本家は、寛文2年(1662年)に初代辰屋吉左衛門が酒造りを始めたことにより創業されたものであって、「白鹿」商標はその創業と同時に採択され、江戸時代より現在に至るまで340年以上に亙りその使用が継続されているものである。すなわち、辰馬本家による「白鹿」商標を用いた清酒の生産高は、明治22年に酒造石高1万7千5百石、酒造石高全国第1位となって以来、今日においても常にトップランクに位置付けられる生産量を誇っており、その製品にはほとんど「白鹿」商標ないしはこれを要部とする「黒松白鹿」等の商標が使用されてきたものである(甲第2号証)。
したがって「白鹿」商標は、請求人の前身である辰馬本家ないしは請求人の製造販売にかかる商品「清酒」を表示するものとして全国的に周知著名な商標としての地位を江戸時代より連綿として保持し続けて今日に到っているものであり、このことは甲第3号証及び甲第4号証よりしても明らかなものである。
また、請求人は、昭和32年よりコマーシャルの提供を始めており、現在に至るまで継続して「白鹿」商標のブランドイメージを浸透、定着するように努力してきたものであって、平成8年ないし平成10年(1996年ないし1998年)に限定してみても、甲第5号証の2ないし5に示されるとおり、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等において多数の宣伝、広告がなされており、多数の取引者、需要者が「白鹿」商標に接し認識しているものといえる。
(イ)なお、「白鹿」の文字のみを縦書してなり、江戸時代より連綿として使用してきた態様そのままの商標は、明治18年12月8日に登録第916号商標として登録され、明治34年1月12日に続用登録がなされた(甲第6号証)。さらに今日においては、後掲(2)に示すとおりの構成よりなる登録第137821号商標(甲第7号証の1、2)、同(3)の登録第2103676号商標(甲第8号証の1、2)及びその他の多数の商標の要部として「白鹿」の文字が使用され、登録商標としての地位を保持しているものでもある。
(ウ)そして、現在、請求人を中核として形成する「白鹿グループ」は、文化事業(明治の酒蔵「酒」ミュージアム)、教育事業(甲陽学院中学校、甲陽学院高等学校、松秀幼稚園)、ホテル事業(甲子園都ホテル)、不動産事業(夙川土地株式会社)、レストラン事業(酒房「白鹿郷」、ホテル内レストラン等)、スポーツ事業(「香枦園テニス倶楽部」「夙川ラケット倶楽部」等)など多角的に事業を展開しており、「白鹿」商標はこれらの「白鹿グループ」のシンボルとしても機能して周知著名なものでもある(甲第2号証、甲第10号証、甲第11号証)。
(2)「白鹿」商標と本件商標の対比
(ア)「白鹿」商標その他の商標の要部が「白鹿」の文字にあり、全国的に周知著名な商標として一般に「ハクシ力」の称呼をもって取引に供され親しまれているのに対して、本件商標は、行書体の漢字で「白鹿」と左横書きし、その文字の下段にこの漢字の凡そ3分の1程度の大きさの欧文字で「HAKUROKU」と左横書きしてなるものであって、漢字に対応する「ハクシカ」と、欧文字をローマ字読みした「ハクロク」の複数の称呼が生ずるとするのが相当である。
(イ)「白鹿」の漢字は、文学的・歴史的には「ハクロク」と読まれるべきであるかもしれない。しかし、実際の取引市場では、いちいち「広辞苑」や歴史の教科書を開いて読みを確認したりはしない。むしろ現在の我国の口語の状況に鑑みると、「鹿」の字を「ロク」と読む用語・用法は、「シ力」と読む用語・用法に比較して、圧倒的に少ないという事実は否定し得ず、また、本件商標の指定商品の取引者・需要者に「鹿」を「ロク」と読まなければならない特別な事情が存在するとも認められない。よって、需要者・取引者が「白鹿」の文字に接したとき、それが重箱読みであるとか学術的に正しいとか意識することなく、「ハクシ力」と読む可能性を否定し得ず、かつ、請求人の所有に係る「白鹿」商標は著名商標であり、この事情を知る者ならば、「ハクシカ」を最も自然な読みであると理解する。
そうすると、本件商標を看た者は、「白鹿」の漢字と「HAKUROK∪」の欧文字との関係を、漢字部分の読みを特定する有機的な関係とは認識せず、それぞれが独立した要部と見た結果、それぞれから別々の称呼が発生するものと把握される可能性がある。
したがって、「白鹿」商標と本件商標とは「ハクシ力」の称呼を共通にしており、両者は称呼において相紛らわしい商標である。
(ウ)また、「白鹿」商標と本件商標との観念を比較するに、両者は共に「白い鹿」を即座に想起させるものであって、観念においても紛らわしい。「白鹿」は、請求人の業務にかかる商品を指称する文字として著名であるが、テレビコマーシャルにおいて、アニメーションやCGによる「白い鹿」を登場させたりした結果(甲第5号証の2)、結局は需要者・取引者に「白い鹿」の観念を生じさせ、一方、本件商標が「春日神社」に由来するとしても、「白い鹿」の観念が生じる。
(エ)さらに、両者の外観について比較しても、請求人の「白鹿」商標及びそれを含む商標等の要部は全て「白鹿」の文字にあり、本件商標も「白鹿」の文字を顕著に表し、欧文字部分とは独立して把握され、需要者・取引者をしてその「白鹿」の文字が要部であると認識するのであるから、対比観察した場合はもちろんのこと、離隔的に観察した場合においても、「白鹿」の文字のイメージが強く残り、外観においても類似するものである。
(オ)よって、「白鹿」商標と本件商標とは、称呼、観念及び外観の何れの点においても類似し、商標において相類似するものである。
(3)「白鹿」商標と本件商標との出所の混同
(ア)本件商標は、第30類「菓子及びパン」を指定商品とするものであり、その指定商品中には日本酒を用いた商品が多数存在することは良く知られたことである。例えば、「和菓子」「酒まんじゅう」「ケーキ」「ゼリー」等であるが、これらの中には「菊水」「日本盛」「白雪」「多聞」「櫻正宗」「白鶴」「沢の鶴」等の清酒が使用されていることが明示されているものもあり(甲第12号証の3ないし19)、本件商標の指定商品「菓子及びパン」と「白鹿」商標の使用されている商品「清酒」とが、製品と原材料という密接な関係にあることを示している。
清酒メーカーが原材料に酒を使用した菓子を製造・販売している例も少なくなく、月桂冠株式会社は「吟醸酒入り酒まんじゅう」(甲第12号証の15)、清酒「白雪」の製造元である小西酒造株式会社は「酒まんじゅう」「酒ケーキ」「酒ゼリー」(甲第12号証の16)、尾畑酒造株式会社は「大吟醸酒ケーキ」「銘酒ゼリーチョコレート」「酒ゼリー」をそれぞれ製造・販売している(甲第12号証の17ないし19)。すなわち、「菓子及びパン」と「清酒」とは生産者が共通し、同一人を起点にして取引市場に流通しているという事実がある。
したがって、本件商標をその指定商品「菓子及びパン」につき使用する場合においては、請求人自体が製造販売する商品であるかの如くに出所の混同が生ずる可能性の高いことは明らかである。
(イ)請求人は、現に食品関係の製造販売をも行っており、本件商標の指定商品と需要者、販売場所等に共通性がある(甲第2号証、甲第11号証)。さらに、食品関係の分類において、登録第2103676号商標について甲第8号証、甲第16号証ないし甲第18号証のとおり防護標章登録がなされている。また、請求人が原告となり提起した登録無効審決取消訴訟の最近の判決においても、甲第19号証のように判示されており、このことをしても少なくとも食品関係の商品については混同を生ずるおそれのあることの証左となるものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標をその指定商品「菓子及びパン」(「もなか」を含む)について使用した場合においては、請求人が継続的に使用している著名な「白鹿」商標との関係において、商品の出所の混同を生じるおそれがあるとするのが取引の経験則に照らし相当であり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、本件請求を棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第24号証を提出している。
(1)本件商標について、請求人は、平成10年12月21日に登録異議の申立を行ったが、特許庁は審理の結果、平成11年8月20日付けで本件商標の登録を維持する旨の決定をした。この申立の理由と本件請求の理由とはほぼ同一であるので、本件は、既に特許庁において判断済みの事項について、再度判断を求めようとするものであり、一事不再理の原則に反するもので、違法である。
(2)また、請求人の主張に対する被請求人の主張は、旧事件において被請求人が提出した意見書の記載と同一であるので、これを援用する。
(3)請求人の主張は、要するに、被請求人の本件商標の使用が、請求人の著名商標に蓄積された信用にただ乗りし、需要者に出所の混同を生じさせることにより不当な利益を得ることを目的としたものだということにある。しかし、これは請求人の一人よがりの独善的な認識に基づくものである。
(4)被請求人代理人は、偶々阪神方面に地縁があるので、請求人である辰馬本家酒造株式会社がその地元で高名であり、「白鹿」なる清酒が広く一般に愛好されていることをよく知っているが、この事情が奈良方面でも同一ということはない。奈良市付近では、辰馬本家の名は一般の人々にはほとんど知られていず、清酒「白鹿」の名は一応知られているが、「白鶴」「白雪」「月桂冠」等々他の銘柄の酒と並ぶ一つの銘柄という程度の評価であって、それ以上のものではない。
奈良市民に、「白鹿」はどこの酒かと聞けば、灘か、伊丹か、伏見か正確に答えられる人の方がむしろ少ないように思われる。奈良で「白鹿」といえば、市民の頭に浮かぶのは、先ず春日大社の神鹿であって、それより先に清酒「白鹿」を思い浮かべるのは余程の酒飲みぐらいのものである。
被請求人は、その製造する和菓子を春日大社に御用達戴いている関係から、これにあやかって、もなか「白鹿」の製作を思い立ったものであり、その時に、清酒「白鹿」の名称とまぎらわしい等とは考えてもみなかった。まして、その名声にただ乗りして利益を得よう等という気持ちは皆無であった。
(5)被請求人は、昭和30年頃から、「白鹿HAKUROKU」の商標で、和菓子のもなかを製造販売し、昭和41年9月から平成8年9月まではこれを商標登録していたが、その時から今日まで、これが請求人の営業と混同されたことは一度たりともなかった。
その原因は、文字の字体の違い、読みの違いにあること勿論であるが、それ以外にも以下に述べるような原因が考えられる。その一つは、商品区分が全く異なることにあり、もう一つには、流通方法が全く異なることにあり、更にもう一つには、商標の使用の仕方にあるように考えられる。
(ア)先ず、商品区分が全く異なることを述べる。
本件商標は、第30類「菓子及びパン」を指定商品としており、現実には和菓子のもなかのみに使用している。
一方、請求人の有する商標は酒類を指定商品としており、両者は全く異なっている。世間では、和菓子を好む人を甘党、酒類を好む人を辛党と呼んで、両者を対照させている。
請求人は、菓子の原料に酒が使われることがあるので、被請求人製造のもなかが請求人製造と誤認される恐れがあるとされる。洋菓子の香料としてブランデーが使われることはよくあるが、これは飽くまでも補助的材料としてであり、一般顧客は、それが使われているかどうかさえあまり認識していない。洋菓子のメインの材料として洋酒が使われているのは、ウィスキーボンボン、ブランデーケーキ等極めて限られた領域である。そして、その場合でも、その菓子を洋酒メーカーが製造している例はほとんどない。
まして、和菓子のメインの原料として日本酒が使われるようなことは極めて稀である。請求人はこのような商品が多数存在するとして、甲第12号証の3ないし19を提出しており、それを見ると、確かに近時そのような商品が酒造メーカーによって開発されているようである。被請求人は、この書証を見て、初めてこのような商品のあることを知った。そして、このような新開発商品の特徴は、いずれも、わざわざ吟醸酒入りとか酒ゼリーとかいった風に、酒入りであることを明示し、清酒の銘柄とは別の名称を付していることである。つまり、酒入り菓子というようなものは、まだまだ例外的な奇抜な商品だということである。
(イ)次に、流通方法について述べる。
請求人は、スーパーマーケット等で清酒と菓子の棚が接近していることが多い旨主張している。被請求人はこの事実を確認するべく、いくつかのスーパーマーケットへ行ったが、請求人の主張するような実態はなかった。請求人製造の商品がスーパーで買えるのかどうかは知らないが、被請求人の製造する和菓子はスーパー等では一切販売しておらず、直営の店舗4店(いずれも奈良県内)、デパート和菓子売場1箇所及び駅売店4箇所でのみ販売している。その販売は対面方式であり、通常、菓子の名称を口に出している。これにより、もなかが「ハクロク」であって「ハクシカ」でないことは顧客に明らかになっている。また、商品は鶴屋徳満の商号入りの包装紙で包装しており、この結果、製造者が誤認される恐れはなくなっている。
(ウ)更には、商標の使用の仕方も異なっている。
請求人は、「白鹿」なる商標を請求人のシンボル的名称とし、日本酒のみならず、その取扱商品全体にこれを冠せようとされているようであるが、被請求人は「白鹿」なる商標を「もなか」のみに付しており、他の商品にはそれぞれ別のよりふさわしい名称を付している。しかして、これら商品をいずれの店舗でも並べて展示しているので、顧客は一見して「白鹿」が一商品の名称であって、製造者の名称でないことを体得できることになっている。そして、これが買われたときは、鶴のマークの鶴屋徳満の名称を付した箱や包装紙に包装して顧客に手渡すので、それが辰馬本家や清酒「白鹿」の醸造元の商品でないことは、一見して明らかとなるのである。
(6)以上の次第で、特許庁が旧事件の決定で、「被請求人の商品は請求人又は請求人と関係のある者の業務に係わるものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。」と決定したのは、正当な判断であり、この結論は、本件でも当然維持されるべきものである。

5 当審の判断
(1)一事不再理の原則について
被請求人は、付与後異議申立の理由と本件請求の理由とはほぼ同一であるので、本件は、既に判断済みの事項について、再度判断を求めようとするものであり、一事不再理の原則に反するもので、違法である旨述べているのでこの点について判断する。
異議申立と無効審判とは性質の異なる手続であり、両者の間に商標法第56条において準用する特許法第167条に規定するような効力(一事不再理)は有さないので、登録維持の決定を受けた登録異議申立人が利害関係人であれば、同一事実及び同一証拠に基づく無効審判の請求は可能であって、この原則が適用され得ないことは明らかである。
すなわち、無効審判制度は、基本的には登録の適否を巡る当事者間の紛争解決を目的とする制度であり、利害関係人が防御手段として請求するものであるのに対し、付与後異議申立制度は、公衆の利益保護の観点から、第三者による申立をも認め特許庁による登録処分の見直しを行い瑕疵ある登録処分の是正を速やかに図り、登録の信頼を図ることを目的とする制度である点で両制度はその趣旨及び役割を異にするものである。
したがって、被請求人のこの点についての主張は採用の限りでない。
(2)出所混同のおそれについて
商標法第4条第1項第15号において定める「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」の当否を判断するに当たっては、当該商標の具体的構成、その商品又は役務の分野における需要者一般の注意力及び当該他人の標章の著名性その他諸般の事情を考慮の上、そのおそれの有無を個別・具体的に判断することにある。そして、本号にあって「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは、その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合をもいうと解するのが相当である。
そこで、請求人は、本件商標には、上記条項号に違反して登録されたとする無効事由があると述べているので、その当否について判断する。
(ア)本件商標
本件商標は、その構成を後掲(1)に示すとおり「白鹿」の漢字と「HAKUROKU」の欧文字を書してなるところ、その構成中「白鹿」の漢字部分は顕著に表示されていて、かかる場合、本件商標に接する需要者は、欧文字部分に比して、より親しみ易く馴染み易い「白鹿」の漢字部分に着目し、これを記憶・印象して該文字部分をもって取引に当たることも決して少なくないものとみるのが相当である。
被請求人は、その製造する和菓子を春日大社に御用達戴いている関係から、これにあやかって、もなか「白鹿」の製作を思い立ったものであるとし、その読み方については「ハクロク」と称している旨の春日大社社務所の証明書(乙第3号証)を提出しているが、これと広辞苑(乙第23号証)以外に「白鹿」を「ハクロク」と読まれるとする証拠の提出もないところであって、たとえ、奈良では「白鹿」は特別の意味を持っていること等を考慮してもなお、本件商標に接する需要者がかかる事情を理解し、常に「白鹿」の漢字部分と「HAKUROKU」の欧文字部分とを一体のものと把握して、該漢字部分を「ハクロク」と読み、取引に資されるものとするものとは俄に認め難いものである。
してみれば、本件商標のかかる構成にあっては、単に「白鹿」の文字部分を独立した取引指標と認識し、「白い鹿」の意味合いを理解し、「ハクシカ」の称呼をもって取引にあたるものといわざるを得ない。
(イ)請求人使用に係る「白鹿」商標
請求人の主張及びその提出に係る甲第2号証ないし甲第5号証及び甲第20号証を総合勘案すれば、「白鹿」商標は、本件商標の登録出願時には請求人の業務に係る商品「清酒」の商標として取引者、需要者の間において広く認識され、「ハクシカ」と称呼され著名であると認められるものである。
そして、請求人を中核として形成する「白鹿グループ」は、文化事業(明治の酒蔵「酒」ミュージアム)、教育事業(甲陽学院中学校、甲陽学院高等学校、松秀幼稚園)、ホテル事業(甲子園都ホテル)、不動産事業(夙川土地株式会社)、レストラン事業(酒房「白鹿郷」、ホテル内レストラン等)、スポーツ事業(「香枦園テニス倶楽部」「夙川ラケット倶楽部」等)など多角的に事業を展開している状況が窺える(甲第2号証、甲第10号証、甲第11号証)。
(ウ)商品間の関連性について
請求人の業務に係る商品「清酒」と本件商標の指定商品「菓子及びパン」とは、共に食品の範疇に入るものであって、「清酒」を販売する酒屋において、ピーナツ等のつまみとする菓子類を販売していることは普通であるばかりでなく、請求人提出に係る証拠(甲第12号証の3ないし19)によれば、「和菓子」「酒まんじゅう」「ケーキ」「ゼリー」等の中には「菊水」「日本盛」「白雪」「多聞」「櫻正宗」「白鶴」「沢の鶴」等の清酒が使用されていることが認められるものもあり、本件商標の指定商品「菓子及びパン」と「白鹿」商標の使用されている商品「清酒」とが、その需要者ないしは流通方法が全く異なるものとまではいえない。
さらに、清酒メーカーが原材料に酒を使用した菓子を製造・販売している例として、月桂冠株式会社は「吟醸酒入り酒まんじゅう」(甲第12号証の15)、清酒「白雪」の製造元である小西酒造株式会社は「酒まんじゅう」「酒ケーキ」「酒ゼリー」(甲第12号証の16)、尾畑酒造株式会社は「大吟醸酒ケーキ」「銘酒ゼリーチョコレート」「酒ゼリー」をそれぞれ製造・販売している(甲第12号証の17ないし19)事実も認められる。
したがって、本件商標の指定商品と「白鹿」商標に係る商品「清酒」とは、その需要者、販売場所及び製品と原材料等に関し少なからぬ関係を有する商品といわざるを得ない。
(エ)まとめ
以上の(ア)ないし(ウ)の各事情を総合的に考慮すると、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する需要者等は、その構成中の「白鹿」の漢字部分に注目し、広く認識されている「白鹿」商標を連想し、その商品が請求人又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
(3)被請求人の答弁について
被請求人は、昭和30年頃から、「白鹿HAKUROKU」の商標で、和菓子のもなかを製造販売し、昭和41年9月から平成8年9月まではこれを商標登録していたが、その時から今日まで、これが請求人の営業と混同されたことは一度たりともなかった旨述べている。
しかしながら、被請求人提出に係る「注文受帳」(乙第15号証、乙第16号証)、「商品説明書」(乙第17号証)、「個包装紙」(乙第18号証)、「新聞広告」(乙第19号証ないし乙第21号証)及び「お菓子の ごあんない」(乙第24号証)において、被請求人が「白鹿」「HAKUROKU」の各商標を付した菓子のもなかを製造販売していたことは認め得るとしても、「注文受帳」ないし「お菓子の ごあんない」の6頁に掲載の「登録商標 もなか 白鹿」及びその紹介説明の部分には「HAKUROKU」の文字すらなく、その他の「個包装紙」及び「新聞広告」等においても、顕著に「白鹿」の漢字を縦書きし、その下段に小さく「HAKUROKU」の欧文字を付してなるものであって、顕著に表された「白鹿」の漢字部分に着目し、上記(2)(ア)と同様に、これをもって取引に当たるものといわざるを得ないものである。
また、被請求人は、被請求人の製造する和菓子を奈良県内の直営の店舗4店、デパート和菓子売場1箇所及び駅売店4箇所でのみ販売し、その販売は対面方式であって、通常、菓子の名称を口に出していうから、もなかが「ハクロク」であって「ハクシカ」でないことは顧客に明らかになっている。更には、被請求人は「白鹿」なる商標を「もなか」のみに付しており、他の商品にはそれぞれ別のよりふさわしい名称を付していて、これら商品をいずれの店舗でも並べて展示しているので、顧客は一見して「白鹿」が一商品の名称であって、製造者の名称でないことを体得できることになっている。そして、これが買われたときは、鶴のマークの鶴屋徳満の名称を付した箱や包装紙に包装して顧客に手渡すので、それが辰馬本家や清酒「白鹿」の醸造元の商品でないことは、一見して明らかとなるのである旨主張するが、そのような事実は、極めて限定的、個別的な取引事情であって、商標法第4条第1項第15号の規定する商品の出所混同についてのおそれを否定すべき事情として参酌できないし、これを踏まえたとしても、上記の認定判断を覆すに足りない。その他、被請求人の主張及び証拠をもって認定判断を左右することはできない。
(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり、その登録は商標法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 <後掲>
(1)本件商標(登録第4180687号)




(2)「白鹿」商標(登録第137821号)




(3)「白鹿」商標(登録第2103676号)


審理終結日 2002-12-03 
結審通知日 2002-12-05 
審決日 2003-01-14 
出願番号 商願平8-114706 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (030)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 真規子 
特許庁審判長 大橋 良三
特許庁審判官 高野 義三
滝沢 智夫
登録日 1998-08-21 
登録番号 商標登録第4180687号(T4180687) 
商標の称呼 ハクロク、シロジカ、ハクシカ 
代理人 初瀬 俊哉 
代理人 生駒 啓 
代理人 網野 友康 
代理人 坂東 宏 
代理人 田中 康之 

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