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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効としない Z24
審判 全部無効 外観類似 無効としない Z24
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z24
管理番号 1073547 
審判番号 無効2000-35355 
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-30 
確定日 2003-03-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第4365149号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4365149号商標(以下、「本件商標」という。)は、後記商標目録(1)に表示するとおりの構成よりなり、平成11年1月13日登録出願、第24類「絣織物」を指定商品として平成12年3月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
1 請求の趣旨
「本件商標は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」旨の審決
2 利害関係
請求人と被請求人との間に、商標権侵害事件が発生し現在係争中である。したがって、請求人には本件無効審判を請求をする利害関係がある。
3 請求の理由
(1)無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)
本件商標は、請求人の所有する下記2件の登録商標(以下、あわせて「引用商標」という。)と同一又は類似の商標であり、その指定商品も類似するから、商標第4条第1項第11号に該当する。

(a)商標登録第1392047号に係る商標(以下、「引用商標A」という。)
商標の構成 後記商標目録(2)に表示するとおり
指定商品 第16類 紬織物
登録出願日 昭和51年7月6日
設定登録日 昭和54年9月28日
更新登録日 平成1年8月23日
平成11年5月11日

(b)商標登録第1434232号に係る商標(以下、「引用商標B」という。)
商標の構成 後記商標目録(3)に表示するとおり
指定商品 第16類 織物、編物、フェルト、その他の布地
登録出願日 昭和52年8月23日
設定登録日 昭和55年9月29日
更新登録日 平成2年8月29日
平成12年5月9日
本件商標と引用商標の類否について
(ア)商標の類否について
本件商標は、後記商標目録(1)に表示するとおり、上段に横書きする「伝統工芸品」の文字と、中央に大きく横書きする「塩沢絣」の文字と、下段に横書きする「越後塩沢同人会」の文字と、飾り縁の図柄と地模様の色彩とからなる結合商標であり、本件商標の指定商品の関係では、引用商標と外観及び称呼上類似するものである。
(a)商標の類否判断は、本件商標を貼付した製品の貼付シール(甲第53号証)と引用商標A及びBを貼付した状態のものとを対比考察すべきである。
(b)請求人が所有する引用商標A及びBを貼付した絹織物が、昭和50年2月19日(甲第22号証)及び同51年12月15日(甲第23号証)にそれぞれ通商産業大臣による伝産法に基づく伝統的工芸品の指定を受け、引用商標A及びBが伝産マークと共に貼付され製造販売されてきた実態も考慮に入れ、本件商標と引用商標A及びBとを対比考察されるべきである。
(c)本件商標と引用商標Aとの対比
[本件商標の要部について]
需要者が両商標を対比考察場合に、最も注視する部分は、文字部分であり、第2に図柄、第3に色彩である。
したがって、本件商標において、需要者が第1に注視する文字は、どこの絣製品か判断できる「塩沢絣」であり、第2にどういう評価や信頼性、品質等を有するかを明示する「伝統工芸品」の文字であり、第3に製作者名の「越後塩沢同人会」の文字であり、第4に製作者であることを証する「越後塩沢同人会」の末尾の印影である。これらの対比考察後は、地模様と周囲の飾り縁模様である。
本件商標の「伝統工芸品」の文字部分は、仮に書体が通常の文字であったとしても、引用商標Aの「伝統的工芸品」と極めて類似する文字である。
本件商標の「塩沢絣」の文字部分は、仮に通常の文字であったとしても、引用商標Aの「塩沢紬」の「塩沢」の文字と極めて類似する文字である。
本件商標の「越後塩沢同人会」の文字部分は、「塩沢」の文字が含まれているから、需要者は瞬時に請求人の所有する引用商標Aの「塩沢織物工業協同組合」であると出所の混同を生ずる。
四辺形状の印影と捺印個所並びに「飾り縁」の図柄及び地模様の色彩についても、本件商標と引用商標Aとは類似する。
(d)需要者による対比考察
本件商標は、絹織物の販売において単独で貼付することはなく、甲第53号証のように他の商標シールと結合して貼付使用するものである。
被請求人の製品(甲第53号証)の販売価格は、請求人の約半分程度である。
これらの情況下において、請求人の製品と被請求人の製品が店頭陳列されたことを想定し対比考察すると、需要者は、被請求人の製品に付されている「伝統工芸品」、「塩沢絣」の文字に注視し、「伝統工芸品」の文字に「的」の字がないことに気づかずに「通商産業大臣の指定を受けている伝産法に基づく伝統ある伝統的工芸品である」と、さらに、中央の大きな文字の「塩沢絣」の文字に目を奪われ「有名な本物の塩沢産の絹織物」であると、瞬時に思い浮かべることは明らかである。他方、請求人の製品においても、前記した文字に類似する文字を有している。
(e)本件商標と引用商標Bとの対比
[本件商標の要部について]
本件商標の要部は、前記した引用商標Aの要部と同様である。
本件商標の要部「伝統工芸品」の文字部分は、引用商標Aの「伝統的工芸品」と類似する文字である。
本件商標の要部は、中央に大きく配した文字「塩沢絣」にあるところ、引用商標Bの中央に大きく配した「本塩沢」と「塩沢」の文字において「シオザワ」の称呼同一であり、外観上も類似する。
本件商標の要部の下段の「越後塩沢同人会」の文字は、引用商標Bの要部の下段の「塩沢織物工業協同組合」と「塩沢」の文字において対比考察するとき、両商標は、外観及び称呼上類似する。
四辺形状の印影と捺印個所並びに「飾り縁」の図柄及び地模様の色彩についても、本件商標と引用商標Bとは類似する。
(イ)商品の類否について
本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と販売並びに需要者が同一であり、類似する商品である。
(2)無効事由の2(商標法第4条第1項第10号該当性)
本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標(甲第7号証の2ないし4)と類似する商標であり、その商品に使用するものである。さらに、甲第7号証の4の「塩沢」の文字自体も商品「織物」において周知商標である。
(ア)請求人の組織
請求人協同組合は、昭和35年12月8日に設立され、組合員のために原糸及び資材の協同仕入・協同販売、製品の協同販売並びに斡旋その他組合員の事業に対する協同施設等を業とするものである。
(イ)請求人所有の登録商標
請求人は、引用商標A及びBの外商標登録第439173号(甲第1号証、同第2号証)の3件の登録商標を使用している。
(ウ)塩沢地方の織物について
塩沢地方の織物の歴史は古く、1200年前の奈良時代に塩沢地方で織られた「麻布」が、奈良正倉院に保存されている。
江戸時代の文人であった「鈴木牧之」の著書「北越雪譜」の中に「雪中に糸となし雪中に織り雪水に酒き雪上に晒す雪ありて縮ありされど越後縮は雪と人と気力相半ばして名産の名あり魚沼郡の雪は縮の親というべし」とうたわれている越後縮が今日の越後上布である。
越後上布は、地場産業を代表する織物のすぐれた製品の一つとして、その標章は、需要者に広く知られている。「越後上布」の技術をそのまま絹織物に生かした織物が、塩沢紬、本塩沢である。「塩沢紬」は、昭和50年2月19日に、「本塩沢」は、同51年12月15日に通商産業大臣より、伝産法に基づく伝統的工芸品の指定を受け、これを決起に上記商標が使用された。
(エ)請求人の使用する商標の周知性
請求人は、「塩沢紬」については昭和51年4月1日より、「本塩沢」については同年12月20日より、登録商標証紙と共にそれぞれ伝産マークの伝統証紙を絹織物に、当組合の各組合員が自分の製品の絹織物に貼付し、現在も継続使用している。これにより上記商標は、周知性を有するに至った。
請求人が有する上記3件の登録商標と、伝産マークの伝統証紙を貼付した絹織物は、塩沢地方の産業の主力をなし、現在に至っている。地元塩沢町観光協会が昭和59年より現在まで地元県内及び県外(東京、大阪方面)に大量に頒布したパンフレット中には、請求人が各組合員にだけ販売してきた前記登録商標の商標証紙を貼付した絹織物及び越後上布、塩沢紬、本塩沢、夏塩沢の標章が付された絹織物が物産品の一つとして掲載されPRされている。したがって、伝産マークの伝統証紙の貼付が可能となり、書籍等に掲載され全国的にPRされ、前記パンフレットを通じて請求人の各登録商標は、本件商標の出願前に、広く需要者間に認識されるに至った。
(オ)本件商標と請求人使用の商標との対比
本件商標の3組の構成態様は、請求人の各組合員が本件商標の出願前から使用し、需要者の間に広く認識されていた甲第7号証の2、3、4の使用商標に類似し、出所の誤認混同を生ずるおそれがある商標である。
(3)むすび
本件商標は、先登録された引用商標に類似し、かつ、指定商品も類似するので、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって、その商品について使用するので、同法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に該当し、その登録を無効とすべきである。
なお、請求人は、商標法第4条第1項第15号及び第19号の主張を撤回した。
4 証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1号証ないし同第113号証を提出した。

第3 被請求人の答弁の要点
1 答弁の趣旨
結論同旨の審決
2 答弁の理由
(1)無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)について
商標の本質は、自他商品識別機能にある。よって、商標の特定に際してはこの点を念頭において、客観的かつ正確に行わなければならない。特に、図形商標においては、抽象的な形で特定することは、自他商品識別機能を没却し、いたずらに商標権の範囲を拡大することになり、第三者を不当に制約することになる。
ところで、対比する両商標が類似するか否かは、商標の本質が自他商品識別機能(出所表示機能)にある以上、両商標を付した商品が市場において出所の混同を来すか否かにより決せられるべきである。したがって、両商標の類否は、その対比考察の際、商標の要部、即ち、自他商品識別機能を発揮する部分にウェイトをおいて対比考察しなければならない。何故ならば、商標の本質は自他商品の識別機能にあるからである。
この観点により本件商標と引用商標A及びBとを対比考察する。
(ア)本件商標
本件商標の文字部分「伝統工芸品」「塩沢絣」「越後塩沢同人会」は、自他商品の識別機能を発揮し得る程の独特の書体ではなく、商標法上は通常の文字であり、同人会名の「赤色の印影」も殊更特殊なものではなく、一般的かつ普通の単なる印影に過ぎず、これらは、自他商品の識別機能を発揮しない品質生じ、産地表示であるから、単なる付記表示である。
したがって、本件商標の要部は、上記を除いた部分、即ち、周囲の飾り縁等の図形部分である。
(イ)引用商標
(a)引用商標Aの文字部分「通商産業大臣指定」「伝統的工芸品」「塩沢紬」「新潟県南魚沼郡塩沢町大字目来田107番地1」「塩沢織物工業協同組合」も、自他商品の識別機能を発揮し得る程の独特の書体ではなく、商標法上は通常の文字であり、同組合名の「赤色の印影」も殊更特殊なものではなく、一般的かつ普通の単なる印影に過ぎず、これらは、自他商品の識別機能を発揮しない品質生じ、産地表示であるから、単なる付記表示である。
したがって、引用商標Aの要部は、上記を除いた部分、即ち、周囲の飾り縁等の図形部分である。
(b)引用商標Bは引用商標Aと近似する構成で、両者は、自他商品の識別機能を発揮しない文字部分が「本塩沢」か「塩沢紬」かの相違があるに過ぎず、その余は引用商標Aと全く同一である。
(ウ)本件商標と引用商標Aとの対比
両商標を対比すると、次の相違点がある。
(a)地模様の有無、即ち引用商標Aの枠内の地は方眼状に白色の線が入り、各方眼中には白色の雪の結晶状の模様が施されているのに対し、本件商標においては枠内は黄土色で全くの無地である。
(b)周囲の飾り縁模様は、全く異なる。
したがって、本件商標と引用商標Aとは非類似の商標である。
(エ)本件商標と引用商標Bとの対比
引用商標Bの要部は、引用商標Aと同様に文字部分、印影を除いた部分、即ち、周囲の飾り縁や地模様等の図形部分である。
両商標を対比すると、本件商標と引用商標Aとの対比考察がそのまま当てはまり、本件商標と引用商標Bとは非類似の商標である。
(オ)以上から、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)無効事由2(商標法第4条第1項第10号該当性)について
(ア)上記のとおり本件商標と引用商標A及びBとが非類似である以上、引用商標A及びBの周知性を問題とすることなく、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないことは明らかである。
(イ)請求人の主張及び口頭審理における請求人代理人の釈明によっても、未だ周知商標が特定しにくいが、請求人の使用態様は甲第7号証のとおりであると主張するので、この主張を前提に、以下場合を分けて反論する。
具体的には、請求人の使用態様の一つである甲第7号証の4の上段の証紙群を取り上げる。
当該証紙群は、左から順に、所謂「伝統証紙」、「『塩沢紬』の文字の入った証紙」(以下、「中央の証紙」という。)、「三つの図形部分からなる横長の証紙」(以下、「右端の証紙」という。)が並んだ構成であり、この証紙群中のどの商標が周知商標かを考察した場合、次の場合分けが可能である。
(a)「中央の証紙」及び「右端の証紙」中の「塩沢」という文字が周知商標の場合
「塩沢」という文字が特定人の識別マークとして周知商標であることはあり得ない。けだし、「塩沢」とは単なる地方若しくは品質表示に過ぎないからである。その他にも引用商標の公報(甲第2号証)に「塩沢」の文字に権利不要求である旨の記載がある。したがって、この場合に、本件商標が商標法第4条第1号第10号に該当することはあり得ない。
(b)「中央の証紙」及び「右端の証紙」中の「塩沢紬」という文字が周知商標の場合
本件商標には、「塩沢紬」の文字はないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。なお、「塩沢絣」は、単なる普通名称である。
(c)「右端の証紙」中の「本場塩沢」という文字が周知商標の場合
本件商標には、「本場塩沢」の文字がないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。
(d)「右端の証紙」の三つの図形部分のうちの中央の図形部分が周知商標の場合
本件商標には、「右端の証紙」に相当する証紙はないので、この場合に、本件商標が商標法第4条第10号に該当することはあり得ない。
(e)「右端の証紙」そのものが周知商標の場合
本件商標には、「右端の証紙」に相当する証紙はないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。
(f)「中央の証紙」そのものが周知商標の場合
「塩沢紬」という文字そのものは周知商標ではなく、品質表示に過ぎないから、結局「中央の証紙」の地模様や飾り縁の部分が周知商標であるという主張となる。そうすると、この場合は、商標法第4条第1項第11号の反論で被請求人が既に述べたのと同様に、両者は非類似である。したがって、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。
(g)「中央の証紙」と「右端の証紙」とを組み合わせたものが周知商標の場合
記述のとおり「本塩沢」という文字そのものも周知商標ではなく、品質表示に過ぎない。上記(e)(f)の場合から明らかなように、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。
(h)上記(f)の場合
周知性について
請求人提出の証拠をみても、「中央の証紙」が周知商標であるという証拠はない。請求人は「中央の証紙」をTVや新聞紙上等において広告等をした訳でもない。甲第21号証の観光パンフレットの頒布枚数は特段多くない。また、「塩沢紬」「本塩沢」のPRと「中央の証紙」のPRとは峻別されるべきであり、「塩沢紬」「本塩沢」のPRをする観光パンフレットの頒布により、直ちに「中央の証紙」が周知性を有することになるとするのは誤りである。織物業界における「塩沢紬」「本塩沢」の販売率は極めて高くはない。
したがって、「中央の証紙」そのものが周知性を備えているとはいえない。
そもそも、商標法第4条第1項第10号で保護されるべき商標とは、他の者に類似範囲内の商標の使用でもって全国展開を許した場合には、混乱が起きるという程度にまで「需要者の間に広く認識されている」商標のことである。狭小な地域でのみ周知に過ぎない商標にまで他人の商標の権利化を阻止し得る強力な保護を与えたのでは、我が商標法が基調とする登録主義に反するからである。
・出所の混同について(類似)
着物は、宝石等と同様、素人が見てもわからないものであって、必ず店員の指導・助言により購入するものである。したがって、店員から、これは「塩沢紬」、これは「本塩沢」と言われて購入するものであり、証紙を見て購入するものではない。
そして、請求人に係る「中央の証紙」及び「右端の証紙」を付した織物「塩沢紬」及び「本塩沢」と、本件商標に係る証紙を付した織物とはかなりの価格差がある。
さらに、現実には近似する証紙が業界に多数存在する。
これらの点を考慮すると、両者に出所の混同はあり得ない。
(ウ)以上から、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び第10号に該当するという請求人の主張は誤りである。
なお、被請求人は、請求人の商標法第4条第1項第15号及び第19号の主張の撤回に応じて、この点についての反論を撤回した。
3 証拠方法
被請求人は、証拠方法として乙第1号証及び同第44号証を提出した。

第4 当審の判断
1 無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)について
本件商標と引用商標の類否について検討する。
(1)本件商標
本件商標の構成は、次のとおりである。
本件商標は、黄色の下地の上に、上段に「伝統工芸品」、中段に「塩沢絣」、下段に「越後塩沢同人会」の各文字を3段に横書き(中段の「塩沢絣」の文字は、上段及び下段の文字に比較して3倍程度の大きさに墨書されている。)し、下段の「越後塩沢同人会」の「会」の文字に重ねるように方形の輪郭内に篆書体で「越後塩」「澤同人」「會之印」の文字を3段に縦書した赤色の印影を表示し、全体を額縁状の飾り縁で囲ってなるものである。
(2)引用商標
引用商標の構成は、次のとおりである。
(a)引用商標A
引用商標Aは、方眼状に白色の線が入り、各方眼中には白色の雪の結晶状の模様を施した地に、上から「通商産業大臣指定」「伝統的工芸品」「塩沢紬」「新潟県南魚沼郡塩沢町大字目来田107番地1」「塩沢織物協同組合」の各文字を5段に横書き(中段の「塩沢紬」の文字は、上段及び下段の文字に比較して5倍程度の大きさに墨書されている。)し、下段の「塩沢織物協同組合」の「合」の文字に重ねるように「塩澤織物」「工業協同」「組合之印」の文字を3段に縦書きした赤色の印影を表示し、全体を額縁状の飾り縁で囲ってなるものである。
(b)引用商標B
引用商標Bは、方眼状に白色の線が入り、各方眼中には白色の雪の結晶状の模様を施した地に、上から「通商産業大臣指定」「伝統的工芸品」「本塩沢」「新潟県南魚沼郡塩沢町大字目来田107番地1」「塩沢織物協同組合」の各文字を5段に横書き(中段の「本塩沢」の文字は、上段及び下段の文字に比較して5倍程度の大きさに墨書されている。)し、下段の「塩沢織物協同組合」の「合」の文字に重ねるように「塩澤織物」「工業協同」「組合之印」の文字を3段に縦書きした赤色の印影を表示し、全体を額縁状の飾り縁で囲ってなるものである。
(3)本件商標の指定商品「絣織物」及び引用商標の指定商品「絹織物」における取引の実情について
(ア)甲第21号証(塩沢町観光協会発行の観光パンフレット)、甲第26号証(「日本の地場産業」)、甲第27号証(「日本のきもの」No62)、甲第28号証(「ノンフォーマルきものの手引き」)、甲第29号証(「伝統工芸品銘鑑」)、甲第30号証(「新潟県の伝統的工芸品」)、甲第31号証(「塩沢町合併30周年記念要覧」)、甲第32号証(「私たちの産業伝統的工芸品」)、甲第33号証及び同第35号証(「伝統的工芸品の本」)、甲第34号証(「日本織物風土記」)、甲第36号証及び同第38号証(「新潟県の伝統的工芸品」)、甲第39号証(「越後の絹物語」)、甲第42号証(「広辞苑」)並びに請求人の主張の趣旨によれば、以下の事実が認められる。
新潟県塩沢地方の織物の歴史は古く、1200年前の奈良時代に塩沢地方で織られた「麻布」が、奈良正倉院に保存されている。
江戸時代の文人であった「鈴木牧之」の著書「北越雪譜」の中に「雪中に糸となし雪中に織り雪水に酒き雪上に晒す雪ありて縮ありされど越後縮は雪と人と気力相半ばして名産の名あり魚沼郡の雪は縮の親というべし」とうたわれている越後縮が今日の越後上布である。
越後上布は、地場産業を代表する絹織物のすぐれた製品の一つとして、需要者に広く知られている。「越後上布」の技術をそのまま絹織物に生かした織物が、塩沢紬、本塩沢である。「塩沢紬」は、昭和50年2月19日に、「本塩沢」は、同51年12月15日に通商産業大臣より、伝産法に基づく伝統的工芸品の指定を受けている。「塩沢紬」は、明和年間(1764〜72)の頃に創られたと伝えられ、その特徴は真綿を手で紡いだ糸を使い、蚊絣(かがすり)、十文字絣、亀甲絣などの絣模様にある。「本塩沢」は、寛永年間(1624〜44)に播磨国明石の浪人堀次郎将俊がこの地に住みつき、しぼのある絣織物を考案し、近在の婦女子に伝えたといわれ、緯糸に強い撚りをかけて出すぼかしが特色である絣の縮織物(絹縮)で夏物の高級着尺地として現代もなお親しまれている。
(イ)これを本件についてみると、本件商標は、前記認定のとおり上段に「伝統工芸品」、中段に「塩沢絣」の文字を書してなるものであるところ、各文字に照らして、商品が「伝統工芸品」である「新潟県塩沢地方の絣織物(所々かすったように模様を織りだした織物)」であることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。
引用商標Aは、前記認定のとおり上から「通商産業大臣指定」「伝統的工芸品」「塩沢紬」の文字を書してなるものであるところ、各文字に照らして、商品が「通商産業大臣指定の伝統的工芸品」である「新潟県塩沢地方の塩沢紬」であることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。
引用商標Bは、前記認定のとおり上から「通商産業大臣指定」「伝統的工芸品」「本塩沢」の文字を書してなるところ、各文字に照らして、商品が「通商産業大臣指定の伝統的工芸品」である「新潟県塩沢地方の本塩沢」であることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。
なお、引用商標中の「新潟県南魚沼郡塩沢町大字目来田107番地1」の文字部分は、「塩沢織物工業協同組合」の住所を記載したものであって、自他商品の識別機能がないことは明らかであり、この点について、当事者間に争いはない。
そうすると、本件商標は、その構成中「越後塩沢同人会」の文字部分及び篆書体で「越後塩澤同人會之印」の文字を3段に縦書した赤色の印影の文字部分において自他商品の識別機能を果たすものというべきである。
また、引用商標は、その構成中「塩沢織物工業協同組合」の文字部分及び「塩澤織物工業協同組合之印」の文字を3段に縦書きした赤色の印影の文字部分において自他商品の識別機能を果たすものというべきである。
(ウ)請求人は『「飾り縁」の図柄及び地模様の色彩についても、本件商標と引用商標とは類似する』と主張し、被請求人は、「本件商標及び引用商標の要部は、周囲の飾り縁等の図形部分である」旨主張する。
しかしながら、本件商標及び引用商標の周囲の色彩を付した飾り縁は枠内の文字を目立たせるためのありふれた飾り枠であり、それ自体が独立して自他商品の識別機能を発揮し得る程顕著なものではなく、また、方眼状に白色の線が入り、各方眼中には白色の雪の結晶状の模様を施し、色彩を付した地の図形部分は、連続した単なる地模様であり、需要者をして識別標識とは認識し得ないものである。請求人及び被請求人の主張は採用することができない。
(4)本件商標と引用商標の比較
(ア)そこで、本件商標と引用商標とについて比較検討する。
前記(3)で認定したとおりの自他商品の識別機能を有する本件商標の文字部分「越後織物同人会」及びその印影「越後塩澤同人會之印」と引用商標の文字部分「塩沢織物工業協同組合」及びその印影「塩澤織物工業協同組合之印」とは、それぞれの文字に相応して、前者が「エチゴオリモノドウジンカイ」「エチゴオリモノドウニンカイ」「エチゴオリモノドウジンカイノイン」「エチゴオリモノドウニンカイノイン」の称呼が生じ、後者が「シオザワオリモノコウギョウキョウドウクミアイ」「シオザワオリモノコウギョウキョウドウクミアイノイン」の称呼が生ずるものと認められ、両商標は、称呼においては音構成、音数、音質が相違し、類似しないものである。
観念においては、本件商標が「越後塩沢の織物」の団体と引用商標が「塩沢織物」の団体といずれも新潟県の塩沢の織物団体である点において近似した印象を与えることは否定し難いが、前出の証拠によると、新潟県が塩沢、小千谷、十日町等織物の産地であり、多数の織物団体が存在することが想像するに難くないので、両者の印象より生ずる観念が出所の混同を生ずるおそれがある程に類似するものということもできない。
外観においては、両商標は、それぞれの配列文字及び印影において、混同を生じるおそれはなく、類似しない商標である。
(イ)そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、観念、称呼のいずれの点においても類似するものではなく、全体として出所の混同を生ずるおそれのない類似しない商標である。
2 無効事由2(商標法第4条第1項第10号該当性)について
請求人は『本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標(甲第7号証の2ないし4)と類似する商標であり、その商品に使用するものである。さらに、甲第7号証の4の「塩沢」の文字自体も商品「織物」において周知商標である』旨主張する。
しかしながら、甲第7号証の2ないし4の商標中の「塩沢」「塩澤」の文字部分については、前記1(無効事由1)(3)で説示したとおりであり、自他商品の識別標識足り得ない文字である。また、甲第7号証の3及び4の第1段及び第2段目の左から2番目の証紙は、いずれも引用商標A及びBと全く同一の商標であり、その類否は前記1(無効事由1)で判断したとおりである。そして、甲第7号証の2ないし4の商標中のその余の証紙と本件商標とが非類似の商標であることは明らかである。
したがって、本件商標と請求人の使用する甲第7号証の2ないし4に表示されている商標とは、類似しない商標である。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、請求人の主張及び証拠によっては、商標法第4条第1項第11号、第10号の規定に違反して登録されたものではなく、同法第46条第1項第1号の無効事由に該当しないから、その登録を無効とすべき限りでない。
よって、本件審判請求は、成り立たないものとし、審判費用の負担については、商標法第56条第1項、特許法第169条第2項、民事訴訟法第61条を適用して結論のとおり審決する。
別掲 商標目録
(1)本件商標(色彩については原本を参照)

(2)引用商標A(色彩については原本を参照)

(3)引用商標B(色彩については原本を参照)


審理終結日 2001-09-20 
結審通知日 2001-09-26 
審決日 2001-10-10 
出願番号 商願平11-3002 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (Z24)
T 1 11・ 262- Y (Z24)
T 1 11・ 261- Y (Z24)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 烈榎本 政実 
特許庁審判長 廣田 米男
特許庁審判官 大島 護
佐藤 久美枝
登録日 2000-03-03 
登録番号 商標登録第4365149号(T4365149) 
商標の称呼 デントーコーゲイヒンシオザワカスリ、シオザワカスリ、エチゴシオザワドージンカイ 
代理人 吉井 雅栄 
代理人 吉井 剛 
代理人 庄司 建治 

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