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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 131
管理番号 1069457 
審判番号 審判1998-35271 
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-06-16 
確定日 2002-10-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第0763185号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第763185号商標(以下「本件商標」という。)は、「キユーピー」の片仮名文字を表示してなり、第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」を指定商品として、昭和38年5月16日登録出願、同42年11月27日に登録されたもので、現に効力を有するものである。
2 請求の趣旨
本件商標の登録は無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。
3 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(2)無効原因
(ア)本件商標は、1913年に米国人ローズ・オニールが発行した「キューピー」(KEWPIE)人形(甲第1号証及び同第2号証、以下「本件著作物」という。)に対する日本国著作権(以下「本件著作権」という。)の権利者ローズ・オニールに無断で登録出願されたものであり、本件商標は、その登録出願前に著名となった本件著作物の著名性にただ乗りすべく登録出願されたものであるから、その使用は不正競争防止法第2条第1項第2号に違反する。
かかる本件商標の登録を許しておくことはまさに法の矛盾であるから、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのあるものとして商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(イ)本件著作物の創作・発行
1874年6月25日米国ペンシルベニア州ウイルケス・バレ市で生まれた米国人ローズ・オニール(Rose O’Neill)は、1909年、「レディース・ホーム・ジャーナル」誌クリスマス特集号に初めて、「クリスマスでのキユーピーたちの戯れ」でキユーピーのイラストを発表した。以後、「レディース・ホーム・ジャーナル」誌及び「ウーマンズ・ホーム・コンパニオン」誌などにキューピー・シリーズを連載した(甲第3号証の24頁)。
このキューピーのイラストのヒットに引き続いて、1913年11月20日、その創作した「キューピー」(Kewpie)人形を米国にて発行する(甲第2号証及び同第3号証の24頁)とともに、日本においてもこれを製造、販売した(甲第1号証の写真D)。このキューピー人形が爆発的な人気を集め、米国のみならず日本で1913年から1918年にかけてキユーピーが大ブームとなり、以後今日までその人気・著名性は続いている(甲第3号証の24頁乃至25頁)。
(ウ)本件著作権の成立・存続
ローズ・オニールは、本件著作物に対して、1906(明治39)年4月28日以後に発行された(第3条)米国人の著作物に対して内国民待遇を与える(第1条)日米著作権条約に従い、旧著作権法に基づき、日本において著作権(以下「本件著作権」という。)を取得した。旧著作権法上、本件著作権の存続期間は、著作者の死後38年であった(第3条第52条)。
日本国との平和条約の発効に伴い日米著作権条約は廃棄された(平和条約第7条)が、平和条約第12条(b)(1)(ii)、日米暫定協定、外務省告示第4号(昭和29年1月13日)に基づき、米国人の著作物に対して昭和27年4月28日から4年間、内国民待遇が与えられ、昭和27年4月27日までについても、日米著作権条約が有効であるとみなされた。また、昭和31年4月28日以降については、万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(以下「万国著作権条約特例法」という。)第11条に基づき、本件著作権は引き続き内国民待遇を受けている。なお、米国は、1989年にベルヌ条約に加盟したが、万国著作権条約特例法の施行前に発行された本件著作物については、万国著作権条約特例法第10条の適用を排除している(附則第2項)。
その結果、現行著作権法上、本件著作権は、著作者の死後50年間の保護を受けている(第51条)。
また、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条に基づき本件著作物の保護期間には、3794日(10年5月弱)の戦時加算がある。
ローズ・オニールは、1944年4月6日、ミズーリ州スプリングフィールド市にて死去した(甲第3号証の28頁、同第4号証及び同第5号証)。
よって、ローズ・オニールは、前述のとおり1944年4月6日に死亡したので、本件著作権は、2005年5月まで存続する。
(エ)請求人による本件著作権の保有
ローズ・オニールの死後、本件著作権は、ローズ・オニールの遺産の管理を目的とする米国ミズーリ州法人であるローズ・オニール遺産財団(法定代理人デビッド・オニール)に承継された(甲第4号証及び同第5号証)。
請求人は、平成10年5月1日、ローズ・オニール遺産財団から本件著作権を譲り受けた(甲第6号証)。
(オ)不正競争防止法違反
ローズ・オニールは、1913年、本件著作物を「キューピー」(Kewpie)と名付け、その複製物に「キューピー」(Kewpie)の商品表示(以下「本件商品表示」という)を付して、製造、頒布した。「キューピー」、「Kewpie」なる語は、著名な本件著作物以外何ものをも意味しないものであって、本件著作物と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものである。
1913年に本件著作物が発行されて以来、米国のみならず日本においても、「キューピー・クレーズ」(キューピー狂時代)と呼ばれるほど、本件著作物が大流行した。「キューピー」(Kewpie)という本件商品表示は、日本においては、キューピーの歌が二つも作られ、小説にも登場するほど、著名なものとなった(甲第3号証の24頁乃至25頁及び同第7号証の2頁乃至3頁)。
一方、本件商標は、本件著作物が一般大衆に広く受け入れられた後である1960(昭和35)年に著作権者に何等の断りなく登録出願されたものであって、後述のとおり被請求人がキューピー・キャラクターをその商標として採用するに至った経緯からも本件著作物が有する著名性にただ乗りする意図で登録出願されたものであることが明らかである。
本件商標の登録出願の経緯は次のとおりである。1916(大正5)年、件外高碕達之助(以下「高碕」という。)と小野金六が、国内販売用の缶詰に使用するラベルと商標について相談した結果、当時爆発的な人気のあった(日本における「キューピー狂時代」最中)「キューピーがいい」とする高碕によって、著作権者に無断で、「キューピー」が商標として採用され、はじめは「キューピー」印の鮭缶詰として売り出された(甲第8号証の46頁)。その商標は、輸出食品株式会社名義で、登録第84209号商標として登録された(甲第8号証の46頁及び同第9号証)。
一方、1922(大正11)年、被請求人の創業者である件外中島董一郎(以下「中島」という。)は、高碕の話を聞いて、かねてからマヨネーズを販売したいと考えていたところ、「かねてよりアメリカからやってきたキューピーが人気ももちろんのこと、愛と幸せを運ぶといわれいることから、自社の『マヨネーズ』の売り出しにぴったりで最高」と考え、そのブランドには是非『キューピー』を使いたいと思っていた。」(甲第8号証の46頁)。そこで、中島は、高碕の承諾を得て、同社の主力商品である「マヨネーズ」の商標として「キューピー」を採用した(甲第8号証の46頁及び同第10号証)。
著名な本件著作物は、強力な顧客吸収力を有するので、請求人は、本件著作物を自ら使用し又は第三者に使用させることによる経済的利益を有しているところ、被請求人が無断で本件著作物を使用することにより、請求人は被請求人に対する本件著作物使用許諾料相当の営業上の利益を侵害されている。
よって、被請求人による本件商標の使用は不正競争防止法第2条第1項第2号に該当する。そして、請求人は、不正競争防止法に基づき、本件商標の使用差止請求権(第3条)を保有する。
(カ)公序良俗違反
商標法は、登録商標に化体された営業者の信用の維持を図るとともに、商標の使用を通じて商品又はサービスに関する取引秩序を維持することが目的とされている。そして、商標法第4条第1項第7号は、前記目的を具現する条項の1つとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない。」旨を規定している。
しかして、商標法の目的との関係に則すれば、同号中の「公の秩序」中には、商品又はサービスに関する取引上の秩序が包含されているものと解すべきである。
しかるところ、本件商標は、本件著作物の著名性にただ乗りする目的で、本件著作物を模倣・盗用して登録出願されたものである。
そうとすれば、かかる経緯によって登録を得た本件商標の登録を有効とし維持することは、本件著作物及び本件商品表示の信用力、顧客吸引力を無償で利用する結果を招来し、客観的に、公正な商品又はサービスに関する取引秩序を維持するという前述の法目的に合致しないものといわなければならない。
さらに、本件商標の使用は、前述のとおり不正競争防止法に違反するから、商標法第4条第1項第7号の運用指針の一つである「他の法律によって、その使用が禁止されている商標」に該当するものである。
(3)第一弁駁の理由
(ア) 本件商標が「キューピー」の文字を含んでいることの商標法上の意味
(i)被請求人は、「本件商標は『キューピー』の文字よりなるものであり、該文字がキューピー人形の名称を表すものであるとしても、名称自体は著作権法上の著作物に該当しないことは明らかである。」とした上で、「本件商標は、著作権法及び不正競争防止法に違反するとはいえないものである。」と主張する。
しかし、請求人は、「キューピー」の名称が本件著作物の複製物(人形・絵本)の商品名として使用された商品表示(不正競争防止法第2条第1項第1号)であると主張している。請求人は、本件商標が本件著作物の名称を使用して本件著作物の著名性にただ乗りする目的で本件商品表示を模倣・盗用して出願されたものであること等により「公序良俗」に違反(商標法第4条第1項第7号)する、と主張しているのである。そして、この理は過去の審判決例においても認められている。
(ii)すなわち、昭和58年審判第19123号審決は、「POPEYE」「ポパイ」という名称を含む商標の登録無効審判事件において、商標登録無効の結論を下し、その理由として次のように述べている。
『そして、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」乃至「ポパイ」なる語は、該主人公以外の何物をも意味しない点を併せ考えると、「POPEYE」「ポパイ」の名称及びキヤラクターは、漫画に描かれた主人公として想像される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれてきたものというべきである。
・・・中略・・・
ところで、商標法は、不正競争防止法と並ぶ競業法であって、登録商標に化体された営業者の信用の維持を図ると共に、商標の使用を通じて商品又はサービスに関する取引秩序を維持することが目的とされている。
そして、商標法第4条第1項第7号は、前記目的を具現する条項の1つとして「公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない」旨を規定しており、その趣旨は、過去の審判決例によれば、その商標の構成自体が矯激、卑隈な文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、その時代に応じた社会通念に従って検討した場合に、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反するような場合、あるいは他の法律によってその使用が禁止されている商標、若しくは国際信義に反するような商標である場合も含まれるものとみるのが相当と解されている。
しかして、前記商標法の目的との関係に則して、同号中に規定されている「公の秩序」の意義について検討するに、「公の秩序」中には、商品又はサービスに関する取引上の秩序が包含されているものと解すべきである。
しかるところ、本件商標は、前記したとおり漫画の「ポパイ」又はキャラクターとしての「ポパイ」そのものを直ちに認識させるものであり、その構成内容からみて、請求人等が正当な権利を有して著名となっていた漫画「ポパイ」と偶然一致する標章を採択したものとみることができないばかりでなく、本件商標の登録出願人が、本件商標に係る登録出願をするにつき、請求人等(著作権者、複製許諾者)より許諾を得た事実を認めることができないものである。したがって、本件商標は、前記の漫画「ポパイ」に依拠し、これを模倣又は剽窃して、その登録出願をしたものであると推認し得るものであるといわざるを得ない。
そうとすればかかる経緯によって登録を得た本件商標の登録を有効として維持することは、前記「ポパイ漫画」の信用力、顧客誘引力を無償で利用する結果を招来し、客観的に、公正な商品又はサービスに関する取引秩序を維持するという前記法目的に合致しないものといわなければならない。・・・以下略・・・』
以上のように同審決は、公の秩序に反する(商標法第4条第1項第7号)場合として国際信義に反するような商標を掲げ、また、公の秩序の内容として商品又はサービスに関する取引上の秩序を含めている。
その上で、同審決は、「本件商標の登録を有効として維持することは、前記『ポパイ漫画』の信用力、顧客誘引力を無償で利用する結果を招来し、客観的に、公正な商品又はサービスに関する取引秩序を維持するという前記法目的に合致しない。」としている。
また、同審決は、「その標章(外国標章)が出願商標より先に使用されているものであって、その国(外国)において著名となっているものであり、出願商標がその標章と同一又は類似のものである場合には、当該出願を他人の著名な標章の盗用」であり「国際信義を損なう」としている。
(iii)先に主張したとおり、本件商標が登録出願された当時、本件著作物は既に日本国内において著名であり、「キューピー」という名称はその本件著作物の名称であり本件著作物の複製物(人形・絵本)の商品表示である。そして、本件商標が、本件著作物の顧客吸引力にただ乗りする意図で「キューピー」の文字を使用していることも明らかである。
また、本件商標が登録出願された当時、「KEWPIE」という名称は本件著作物の商品表示すなわち「標章」として米国において著名であった。本件商標は「キューピー」の文字を使用しており右外国標章と同一又は類似するものであって、他人の著名な外国標章を盗用した国際信義を損なうものであることは明らかである。
(iv)さらに、「キューピー」という名称は本件著作物を複製した人形の商品表示として「著名」(不正競争防止法第2条第1項第1号)なものである。したがって、請求人は、不正競争防止法に基づき、本件商標の使用差止請求権(第3条)を有するところ、商標審査基準によれば、「公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号)として「他の法律等によってその使用が禁止されている商標」が掲げられている。
(4)第二弁駁の理由
被請求人は、乙第1号証に係る東京地方裁判所平成10年(ワ)第13236号事件(以下「著作権侵害差止等請求事件」という。)判決を引用し、同判決が「キューピー(Kewpie)」という商品等表示につき、請求人には不正競争防止法第2条第1項第2号に基づく差止請求権はない旨判示したことをもって、本件商標に無効原因は存在しないと主張する。
しかし、本件商標には本件著作物のただ乗りによる公序良俗違反の無効原因が存在するから、被請求人の主張には理由がない。著作権侵害差止等請求事件判決のうち著作権に基づく請求に関する部分は、請求人が控訴した(甲第12号証及び同第13号証)。
4 答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。
5 答弁の理由
(1)第一答弁の理由
(ア)本件商標は「キユーピー」の文字よりなるところ、該文字は「キューピッドの転化」「通例民間伝承中ではケルビム(cherub)やキューピッド(cupid)によく似た、丸々と太った翼のある幼児の姿で現れる優しい小妖精」の意味をも有し、請求人の主張に係る本件著作物の名称のみの意味を有するとはいえないものである(乙第1号証乃至同第3号証)。
(イ)本件商標は「キユーピー」の文字よりなるものであり、該文字がキューピー人形の名称を表すものであるとしても、名称自体は著作権法上の著作物に該当しないこと明らかである。
(ウ)そうしてみると、本件商標は、著作権法及び不正競争防止法に違反するとはいえないものである。
(エ)したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により、その登録を無効とされるべきものでないというべきものである。
(2)第二答弁の理由
(ア)被請求人は、著作権侵害差止等請求事件において、被告(被請求人)は、原告の主張、根拠等について釈明を求めているところでもあるので、これらの点について明確になり次第、詳細な答弁をする旨述べたところであるが、該著作権侵害差止等請求事件については、平成11年11月17日に、「原告の請求をいずれも棄却する。」との判決がなされた(乙第1号証)。
(イ)著作権侵害差止等請求事件判決における「争点に対する判断」の要旨は次のとおりである。
(i)『争点10(類似性)について
被告イラスト及び被告人形が本件人形に係る本件著作物を侵害する複製物等であるか否か(著作権の成否、著作権の帰属、保護期間の満了による著作権の消滅の有無の点はさておき)について検討する。
本件人形に関しては、ローズオニールによって創作された先行著作物があること、その一例として1903年作品2(マル)及び1905年作品が存在すること、右作品は、いずれも日米著作権条約の効力発生前に発行され、我が国においてその著作権は保護されないことは、いずれも当事者間に争いがない。
ところで、原告が著作権法上の保護を求める著作物について、当該著作物が先行著作物を原著作物とする二次的著作物であると解される場合には、当該著作物の著作権は、二次的著作物において新たに加えられた創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解すべきである。
・・・中略・・・
本件人形と被告人形は、共通点を有するが、その共通点のほとんどは、既に1903年作品2(マル)及び1905年作品に現れているし、本件人形に付加された新たな創作的部分とはいえないこと、他方、右認定したとおり、両者には数多くの相違点が存在すること等の事実を総合判断すると、被告人形は、本件人形における本質的特徴を有しているとはいえず、両者は類似していないと解するのが相当である。
・・・中略・・・
本件人形と被告イラストは、共通点を有するが、その共通点のほとんどは、既に1903年作品2(マル)及び1905年作品に現れているし、本件人形に付加された新たな創作的部分とはいえないこと、他方、右認定したとおり、両者には数多くの相違点が存在すること等の事実を総合判断すると、被告イラストは、本件人形における本質的特徴を有しているとはいえず、両者は類似していないと解するのが相当である。』
(ii)『争点11(不正競争)について
原告は、「キューピー」(kewpie)という商品等表示(本件商品等表示)が著名であるとして、不正競争防止法第2条第1項第2号が適用されるべきであると主張する。
しかし、本件商品等表示が、原告ないしローズ・オニール関係者の商品ないし営業を示す商品表示ないし営業表示として著名ないし周知であると認めるに足りる証拠はない。したがって、この点についての原告の主張は理由がない。』
(iii)『争点13(権利濫用)について
以上のとおり、原告の本件請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であるが、権利濫用の点についても、付加して検討する。
・・・中略・・・
事実に照らすならば、自らが本件著作権の侵害行為を行って利益を得ていた原告が、本訴において、被告に対し、本件著作権を侵害したと主張して、差止め及び損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当すると解するのが相当である。したがって、この点からも、原告の請求は失当である。』
(ウ)前記判決における判断の要旨から見れば、本件審判の請求における無効理由として請求人が主張する不正競争防止法違反又は公序良俗違反のいずれの主張についても、その根拠、理由が無いというべきものである。
6 当審の判断
(1)不正競争防止法違反の主張について
請求人は、本件商標の使用は、不正競争防止法第2条第1条第2号に該当し同法に違反するから、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張する。具体的には、公序良俗を害するおそれがある商標の解釈の一つとして、商標法以外の法律で使用等が禁止されている商標があり、その法律(以下「商標法以外の法律」という。)に不正競争防止法が該当するとの趣旨と解される。
しかしながら、不正競争防止法は、商標の使用については、他人の商品等表示として周知又は著名を要件として、差止請求権等を付与している法律であるところ、同法においては裁判規範として、不正競争と目される事案ごとに、他人の商品等表示について周知、著名性を認定して、不正競争行為か否かが判断されるものであり、同行為に該当すると判断されたときは当該行為及び行為者にのみに対して差止等の効力が生ずるものである。
そうとすれば、特許庁において、登録出願に係る商標について、職権により一律に審査、審判の対象とすべきである前掲商標法以外の法律に、不正競争防止法が該当するとは解すことができない。前掲商標法以外の法律には、名称等の使用制限規定を有する銀行法(昭和56年法律第59号)等が該当するものである(銀行法第6条第2項参照)。
また、請求人引用の本件著作物乃至それを複製した人形の名称「キューピー」が同法第2条第1項第1号及び同第2号に規定する商品等表示に該当するとも認め難いものであるから、請求人のこの点に関する主張は理由がないといわなければならない。
なお、請求人は、「キューピー」は本件著作物乃至それを複製した人形に係る商品表示である旨主張するところがあるが、不正競争防止法第2条第1条第1号及び第2号に規定する商品等表示は、商品又は営業の出所を表示する標識をいうと解されるものであり、本件著作物乃至それを複製した人形の名称「キューピー」がそれに該当するとは認められないばかりでなく、そのような請求人の主張、立証もない。
(2)公序良俗違反の主張について
請求人は、本件商標は、引用に係る本件著作物乃至それを複製した人形の名称の著名性にただ乗りするものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張する。
商標登録の取得過程において不正の目的や商道徳違反、登録後の権利行使過程において信義則違反や権利濫用がある場合においては、商標法第4条第1項第7号に該当するときもあると解されるところ、本件商標の登録時以前、我が国一般において本件著作物を含めいわゆるキューピー人形については、「(キューピーッドの転)キューピッドを滑稽化した頭の尖ったセルロイド製・陶製・ゴム製の人形」として知られていたものであり(「広辞苑」昭和30年第一版第29刷539頁)、これが著作権の対象に係るものとして認識されていたこと、及び商標第84209号登録や他の登録を含めてキューピー人形について商標登録されて問題が生じていたことは、甲各号証によっては窺うことはできないから、被請求人は、本件商標に係るキューピー人形について、著作権の存在を認識していたことはなかったものと推認され、その他、被請求人が本件商標の取得について商道徳上等において非難されるべき事情があったとは認められない。
そうとすれば、本件商標の取得の過程において、被請求人について、特段、不正の目的や商道徳違反があったとは認められない。
また、本件商標の登録後も、被請求人が信義則に反する又は権利濫用的な権利行使をしたとの主張、立証もない。
請求人は、昭和58年審判第19123号審決を引用して、本件商標が公序良俗違反である旨主張する。
しかしながら、前掲審決は、その中でも引用した、「漫画の主人公ポパイの称呼、観念を生じさせる登録商標の商標権者が、著作権者の許諾を得て漫画の主人公ポパイの名称のみからなる標章を商標として使用する者に対して、商標権の侵害を主張することは、権利の濫用として許されない」旨の最高裁判所の判決(昭和60年(オ)第1576号 平成2年7月20日判決民集44巻5号876頁)に係る事情を踏まえて、判断したものであり、その前提の一つには商標権者の権利濫用があったものであって、単に、ポパイの名称からなる商標の登録自体のみが問題になったものとは解されない。そして、本件商標について、権利濫用的な商標権の行使があったと認められないことは前示のとおりである。
なお、前掲審決では、著作権法が前掲商標法以外の法律に当たる旨説示するところがあるが、この解釈は当該案件においては妥当するとしても、一般的には採用できないものであることは前示(1)の不正競争防止法と同様である。
してみれば、本件商標又はその登録について公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあったということはできないから、請求人の主張は、この点においても理由がない。
(3)以上のとおり、本件商標は、請求人主張のいずれの点においても、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
7 結論
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してなされたものではないから、同法第46条第1項第1号には該当しない。
よって結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-07-25 
結審通知日 2000-08-04 
審決日 2000-08-29 
出願番号 商願昭38-19677 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (131)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 工藤 莞司
特許庁審判官 江崎 静雄
大島 護
登録日 1967-11-27 
登録番号 商標登録第763185号(T763185) 
商標の称呼 1=キューピー 
代理人 山本 隆司 
代理人 升永 英俊 
代理人 小泉 勝義 
代理人 松添 聖史 

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