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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 028
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 028
管理番号 1069452 
審判番号 無効2001-35045 
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-06 
確定日 2002-12-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4120516号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第4120516号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成8年6月6日に登録出願され、商標の構成を別掲(1)に示すとおりとし、指定商品を第28類「釣り具」として、平成10年3月6日に設定登録されたものである。

第2.引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する商標は、以下に示すとおりである。
1.登録第1373441号商標(以下、「引用商標1」という。)は、昭和50年3月28日に登録出願され、商標の構成を別掲(2)に示すとおりとし、指定商品を第24類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品」として、昭和54年2月27日に設定登録され、平成1年4月18日及び平成11年3月16日の2回に亙り存続期間の更新登録がされている。
2.登録第2019895号商標(以下、「引用商標2」という。)は、昭和59年12月26日に登録出願され、商標の構成を「マルキユー」の横書き片仮名文字とし、指定商品を第24類「釣餌」として、昭和63年1月26日に設定登録され、平成9年9月16日に存続期間の更新登録がされている。
3.登録第3051892号商標(以下、「引用商標3」という。)は、平成4年7月20日に登録出願され、商標の構成を「MARUKYU」の横書き欧文字とし、指定商品を第31類「加工釣り餌・活き餌・その他の釣り用餌」として、平成7年6月30日に設定登録されたものである。
4.登録第1495588号商標(以下、「引用商標4」という。)は、昭和51年7月27日に登録出願され、商標の構成を別掲(3)に示すとおりとし、指定商品を第24類「釣餌」として、昭和57年1月29日に設定登録され、平成4年2月27日及び平成13年8月21日の2回に亙り存続期間の更新登録がされている。

第3.請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第46号証を提出した。
1.無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
2.無効原因
(1)商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標の称呼
本件商標は図形部分と「MaRukyo」の文字部分との組み合わせからなり、それぞれの部分は、外観上分離して看取されるばかりでなく、これらを常に一体不可分のものとして称呼、観念しなければならない格別の事情も存在しないから、本件商標に接する取引者・需要者は、その構成中の文字部分に着目し、これより生ずる称呼・観念をもって取引に資する場合も少なくない。
したがって、本件商標は、その構成中の「MaRukyo」の文字に相応して「マルキョー」又は「マルキョウ」の称呼を生じる。
(イ)引用商標1の称呼
引用商標1は円輪郭内に、「協」の漢字と図形を表示してなるものであるから、その構成に相応して、円輪郭から「マル」の称呼、「協」の漢字部分から「キョウ」の称呼が生じ、全体として「マルキョウ」の称呼を生ずる。
(ウ)本件商標と引用商標1との対比
本件商標は上記に示す如く、「マルキョー」又は「マルキョウ」の称呼を生じるのに対し、引用商標1は上記に示す如く、「マルキョウ」の称呼を生じるから、両商標は称呼において同一又は類似するものである。
そして、本件商標と引用商標1の指定商品は、前記したとおりであるから、共に類似群コード「24DO1」に属し同一又は類似するものである。
(エ)本件商標と引用商標2及び引用商標3との対比
本件商標は、「マルキョー」又は「マルキョウ」の称呼を生じるのに対し、引用商標2は、「マルキユー」又は「マルキュー」の称呼を生じ、また、、引用商標3は、「マルキュー」又は「マルキュウ」の称呼を生ずる。
そこで、本件商標の称呼中「マルキョー」と、引用商標2及び引用商標3の称呼である「マルキュー」とを称呼において比較すると、両者はともに5音構成である。この5音中相違する音は、第4音の「ョ」と「ュ」に過ぎない。この「ョ」と「ュ」の音は、前音「キ」と結合して拗音「キョ〔kjo〕」と「キュ〔kju〕」を構成する。この「キョ」と「キュ」の音は、子音〔kj〕を共通とする同行音である。このように、ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するときは、原則として称呼上類似する。また、拗音「キョ〔kjo〕」と「キュ〔kju〕」において、相違する母音〔o〕と〔u〕は口の開き方と舌の位置の比較から、母音の中でも近似する音である。これらのことは、特許庁商標課編「商標審査基準」(甲第19号証、甲第20号証)からも明らかである。
さらに、拗音「キョ〔kjo〕」は「キ」と「ョ」を、「キュ〔kju〕」は「キ」と「ュ」を共に一音として発音するものであって、母音よりはむしろ子音が強く響く音といえるものである。
したがって、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは称呼において類似するものであり、また、両者の指定商品は、共に類似群コード「24DO1」に属し類似するものである。
(オ)本件商標と引用商標3及び引用商標4との対比
本件商標は、「マルキョー」又は「マルキョウ」の称呼を生じるのに対し、引用商標3は前記に示す如く、「マルキュー」又は「マルキュウ」の称呼を生じ、また、引用商標4は、「マルキユウ」又は「マルキュウ」の称呼を生ずる。
してみれば、本件商標の称呼中「マルキョウ」と、引用商標3及び引用商標4の称呼である「マルキュウ」とを称呼において比較すると、両者は共に5音構成である。この5音中相違する音は、第4音の「ョ」と「ュ」に過ぎない。この「ョ」と「ュ」の音は、前音「キ」と結合して拗音「キョ〔kjo〕」と「キュ〔kju〕」を構成する。この「キョ」と「キュ」の音は子音〔kj〕を共通とする同行音である。
したがって、本件商標と引用商標3及び引用商標4とは上記(エ)と同じ理由で、称呼において類似するものである。また、両者の指定商品は、前記に示すとおりであるから、共に類似群コード「24DO1」に属し類似するものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
引用商標2は、請求人が指定商品「釣餌」について、昭和59年2月頃から現在まで約17年間継続使用しているものであり、需要者は相当数に達し、さらに広く宣伝、広告した結果、請求人の業務に係るものであることが取引者および需要者間で広く認識することができるものであって、下記証拠はその事実を示すものである。
甲第20号証ないし甲第37号証は、引用商標2が周知著名であることを示す、「財団法人日本釣振興会」、「社団法人日本釣用品工業会」、「社団法人全日本釣り団体協議会」、「社団法人日本の水をきれいにする会」、「大宮商工会議所」及び「桶川市商工会」等の証明書である。
また、引用商標2は、請求人のハウスマークであり、請求人の取扱商品の殆ど全てに使用されている(甲第38号証)。そして、請求人は平成6年当時において、既に釣り餌市場の市場占有率が70%を占めていたことからも(甲第39号証)、引用商標2が周知著名であることが明らかである。
さらに、甲第40号証ないし甲第42号証は、情報媒体であるテレビ、新聞、雑誌を利用して広く宣伝、広告した事実を示す資料である。
このように、引用商標2が周知著名であり、その類似の範囲が広いから、引用商標2と本件商標が商品の出所の混同を生ずることは明らかである。
3.被請求人の答弁に対する弁駁
(1)本件商標について
本件商標は、欧文字の「MaRukyo」とカジキと思わしき魚が飛び跳ねる図形が表示されており、該欧文字部分は該魚図形部分に比較し、圧倒的に明瞭に表示されている。そして、該欧文字部分は極めて一般的な書体であって、その判読を困難とするものでもなく、また、該魚図形の表示が「MaRukyo」の文字部分の称呼に影響を与えるものでもない。
その為、本件商標に接する取引者・需要者は、「MaRukyo」の文字部分に着目し、これより生じる称呼・観念をもって取引に資するのが自然である。してみれば、本件商標は、構成中の「MaRukyo」の文字部分に相応して「マルキョー」の称呼を生じる。
(2)引用商標1について
引用商標1の円輪郭は一部が僅かに切れているが、詳細に観察しなければ気が付かない程度のものであり、一部が僅かに切れていても円輪郭であることには変わりが無く、「マル」の称呼を生じる。
確かに、輪郭として普通に用いられる「○」のみの図形は、自他商品識別力を有しないが、円輪郭内に文字を表示した場合、その構成に相応して、「マル×××」との称呼が生じるから、引用商標1からは、その表示形態に相応して「マルキョウ」又は「マルキョー」の称呼を生じる。
(3)本件商標と引用商標1の対比
被請求人は、本件商標と引用商標1の対比について、「昭和39年(行ツ)第110号」及び「平成6年(行ツ)第150号」の2件の判例を挙げている。しかし、この2件の判例は、本件商標と引用商標1との対比とは事例を異にするものであるから、類否判断の根拠とはならないものである。
(4)また、被請求人は、本件商標から「マルキョー」との称呼が生じ、引用商標1から「マルキョウ」との称呼が生じる結果、両者の称呼が近似しているとの請求人の主張を前提としても、取引者、需要者において、各称呼により想起する印象、観念は全く異なり、その結果、商品の出所を誤認混同するおそれは全く認められない。と主張している。
しかし、上記(ウ)で説明したとおり、この2件の判例は事例を異にするものであるから、本件商標と引用商標1との類否判断の根拠とはならない。

第4.被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1.商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標1との対比
(ア)本件商標と引用商標1とは外観上明らかに非類似である。
(イ)本件商標と引用商標1とは称呼において非類似である。
(a)本件商標の称呼
本件商標は、カジキ科のカジキと思わしき魚が飛び跳ねる様とその際跳ね上がる水しぶきを模した図形部分、及び欧文字で「MaRukyo」と書かれた文字部分を組み合わせてなる結合商標であるところ、該図形部分は、その尾の部分が、欧文字「MaRukyo」の「y」の文字の一部を兼ねる形で図形部分と文字部分とが結合され、図案化されており、該魚図形部分を分離すれば文字部分は「MaRukIo」となることからも明らかなとおり、図形部分と文字部分は構成上不可分一体をなすものである。
してみれば、本件商標は、先ず「カジキ」、「サカナ」といった称呼が生じるものであり、或いは、本件商標の文字部分「MaRukyo」と相俟って「カジキ(ノ)マルキョー」、「サカナ(ノ)マルキョー」と言った称呼を生じるものである。
(b)引用商標1の称呼
引用商標1は、別掲(2)に示すとおり、植物の穂と思わしきものに左右各5本の斜線により構成される図形部分と、「協」の漢字を書き崩した文字部分、及びこれらを「円弧」で囲む結合商標であり、その構成からすれば、請求人が主張する「円輪郭内」に「協」の文字を図案化したものではなく、また、途切れた「円弧」から「マル」といった称呼は生じない。
そうすると、引用商標1の構成自体からは、直ちに「マルキョウ」との称呼が生じるものではない。すなわち、「協」の文字部分と植物の穂と思わしき図形部分とは分離し捉えるにもかかわらず、他方、円輪郭部分は「協」の文字部分と一体として称呼、観念しなければならない特段の理由も存在しない。
したがって、引用商標1からは特定の称呼は生じない、或いは、構成中の文字部分より「キョウ」の称呼を生じるというべきであり、さらに、引用商標1について商標権を有する全国農業協同組合連合会が日本国内において有する組織的な規模、「農協」として有する周知性、著名性に鑑み、取引の場において、引用商標1は「ノオキョウ」との称呼を生ずるものであり、このことは、請求人が提出する甲第16号証中の称呼欄において「ノオキョウ」との称呼が併記されていることからも明らかである。
(ウ)本件商標と引用商標1とは観念において非類似である。
本件商標中「MaRukyo」との文字部分は特定の観念を有さない造語であり、これと不可分一体の形で結合される図形部分からは、「カジキ」、「魚」といった観念が生ずる。
他方、引用商標1中の図形部分からは何らの観念を生じないか、或いは植物の観念を生じるものである。「協」の文字部分からは何らの観念を生じないか、或いは、前記したとおり「ノオキョウ」との称呼を生ずる結果、「農協」の観念を生ずるものである。
(エ)以上述べたとおり、本件商標と引用商標1とは、外観、観念及び称呼のいずれにおいても非類似である。
(2)引用商標2ないし引用商標4との対比
(ア)本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは外観上非類似である。
(イ)本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは称呼において非類似である。
(a)既に述べたとおり、本件商標からは「カジキ(ノ)マルキョー」、或いは「サカナ(ノ)マルキョー」の称呼が生じるのであって、本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは、いずれも称呼において非類似である。
さらに、引用商標2ないし引用商標4からは、それぞれ「マルキユー」、「マルキュー」、「マルキュウ」との称呼が生じるというべきであり、仮に、本件商標より「マルキョー」との称呼のみが生じるとしても、引用商標2とは明らかに称呼において異なる。
また、本件商標と引用商標3及び引用商標4より生ずる称呼を比較するに、第3音目以下について、本件商標は「キョー」であるのに対し、引用商標3は「キュー」、引用商標4は「キュウ」であり相違する。
(b)上記の相違について、請求人は商標審査基準を引き、両者は原則として類似すると指摘するところ、そもそも、商標の類否は、商標の外観、観念及び称呼等が取引者に与える印象、記憶及び連想などを総合して、全体的に考察すべきものである以上、相違する音が全体の語調、語感にもたらす印象、したがって取引者に与える印象は看過出来ないものである。
(ウ)本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは観念において非類似である。
本件商標は、図形部分と文字部分とが不可分一体として結合されたものであって、その構成中の特定の観念を有さない文字部分に対し、カジキという特徴的な魚体を有する魚を図案化した図形部分は、取引者、需要者に特徴的な印象を与え、商品の自他識別機能を有するものであるから、「カジキ」「魚」といった観念が生ずる。他方、引用商標2ないし引用商標4は、特段の観念を有さないものである。
(エ)以上述べたとおり、本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは、外観、観念及び称呼のいずれにおいても非類似である。
(オ)商品の類似
請求人は、本件商標の指定商品は「釣り具」であり、引用商標2、4の指定商品は「釣餌」、引用商標第3の指定商品は「加工釣餌、活き餌、その他の釣り用餌」であって、これらの指定商品は共に類似群コード24DO1に属し同一又は類似するものであると主張する。
しかし、専ら食材を用いて製造される釣餌に対し、本件商標の指定商品である「釣り具」は、釣糸、ハリ、竿、リール、ルアー等の商品を指し、抽象的な商品間の対比によっても、両商品間に技術、ノウハウにおける共通性がないことは明らかであって、一般論として「釣り具」、「釣餌」の間には、同一企業において両商品をともに製造するのが常態であるという関係は存在せず、両商品は非類似である。
2.商標法4条第1項第15号について
(1)引用商標2の周知、著名性
(ア)請求人は、甲第20号証ないし甲第37号証、及び甲第40号証ないし甲第42号証をもって引用商標2が周知、著名であると主張するところ、該各書証はいずれも、本件商標出願時である平成8年6月6日における引用商標2の周知、著名性を立証するものではない。
甲第39号証、大宮市長 進藤享弘氏の文中「今日、釣餌市場の70%をしめるに至った」とのくだりが認められるものの、平成5、6年当時のものであり、又、書物刊行にあたり記載されるこのような寄せ書きにおいて、数値等具体的な資料が寄せ書きを受ける側より予め示されることがよくあることは周知の事実であって、該記載から客観的な請求人商品の市場占有率が証明されるものでないことはいうまでもない。
(イ)また、甲第20号証ないし甲第37号証については、いずれも、請求人が昭和59年2月から今日まで引用商標2を継続して使用してきた事実、請求人の釣餌の需要者数、請求人における広範な宣伝、広告の事実、取引者、需要者間における引用商標2の認識について、現時点での証明を行う内容となっているところ、甲第23号証以下については、最終消費者の作成にかかるものと認められ、いかなる客観的事実に基づき上記各事実を証明したか、そもそも作成者において上記各事項を証明し得るのかは甚だ疑問であり、記載事項に証明力を有する証明書とは到底認められない。
(2)本件商標と引用商標2との関連性
(ア)本件商標と引用商標2との間には、本件商標が引用商標2を一部にしてなる(商標審査基準49頁)、引用商標2と商標構成上の発想を同じくする(特許庁審決昭和33年11月7日)といった関連性は認められない。
更に、本件商標は、カジキ科のカジキと思わしき魚が飛び跳ねる様とその際跳ね上がる水しぶきを模した図形部分、及び欧文字で「MaRukyo」と書かれた文字部分を組み合わせてなる結合商標であり、カジキという特徴的な魚体を有する魚を模したものであること、カジキの躍動的な動きを捉えて図案化したものであることなどが相俟って、カジキ科のカジキと思わしき魚を模した図形部分は、取引者、需要者に対し特徴的な印象を与えるものとなっているのであり、この点において、本件商標と引用商標2は、外観を全く異にし、その結果、観念についても、何らの観念を生じない引用商標2に対し、本件商標からは「カジキ」「魚」といった観念が生じるという著しい差異が存在する。
(イ)商標法第4条第1項第15号は、商標非類似のケースをも射程とする条項であるが、上記のとおり、本件商標と引用商標2との間には何らの関連性がなく、むしろ外観、観念において看過し難い著しい差異が存在する。
(3)本件商標の指定商品と引用商標2の指定商品の取引の実情
本件商標の指定商品である「釣り具」は、釣糸、ハリ、竿、リール、ルアー等広範な商品を含み、そもそも、これら商品と、食材を用いて製造される「釣餌」の間に、技術、ノウハウにおける共通性がなく、したがって、一般論として、両商品間に同一企業が製造販売することが常態であるという関係がないことは既に述べたとおりであるところ、1998年の請求人商品カタログである甲第38号証に記載される請求人の商品もまさに食材を用いた「活き餌」、或いはその加工品に限定されたものであることからも明らかなとおり、「釣り」業界内において、多数の企業が一般的に「釣餌」「釣り具」両分野にわたり商品を製造販売するという実体は存在せず、商品の出所に関し、「釣餌」市場と「釣り具」市場に重複する関係は乏しいのが実情であって、「釣餌」市場における商標の周知、著名性から直ちに「釣り具」業界の商品の出所混同のおそれが生じるといった関係にはない。
(4)以上のとおり、引用商標2に周知著名性が認められない事実、本件商標と引用商標2の間に関連性が認められず、むしろ著しい差異が存在する事実、及び、商品の出所に関する業界の実情に鑑みれば、本件商標を使用した指定商品の取引者、需要者において、当該商品を引用商標2に係る商品と混同するおそれは皆無であり、本件商標は引用商標2との関係において、商標法第4条第1項第15号に違反し登録されたものであり無効であるとの請求人の主張は理由がない。

第5.当審の判断
本件審判において、請求人の概ね述べ主張するところは、本件商標を構成する「MaRukyo」の欧文字部分をもって取引に資される場合も少なくない、したがって、本件商標は、該文字に相応して「マルキョー」の称呼が生じ、これと引用各商標とは類似するものであり、また、請求人にかかる引用商標2は著名なものであって、その出所について混同を生じさせるものとして、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録された無効事由が存在するというものであるから、その当否について判断する。
1.商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用商標1の対比
(ア)本件商標の称呼
本件商標は、商標の構成を別掲(1)に示すとおり、カジキと思しき魚が飛び跳ねる様とその際跳ね上がる水しぶきとをシルエット風に表した図形(以下、「カジキ図形」という。)と、その下段に「MaRukyo」の欧文字を書し、これらは該欧文字中「y」のアーム部分をカジキ図形の尾鰭部分により兼用し結合させてなるものであるところ、構成上段の図形と同下段の欧文字とは、視覚上自ずと分離して看取されるばかりでなく、意味上においてもこれらを常に一体のものとして把握しなければならないような格別の事情は存しないから、該欧文字部分は独立して商品の出所を識別する標識として機能し得るものというべきである。そして、かかる場合、「カジキ図形」部分と欧文字部分とを分離し抽出しても構成中の「y」が「I」の如く認識、理解されるとするのは不自然であって、本件商標に接する取引者、需要者は、「MaRukyo」の欧文字綴りからなるものと容易に認識、理解するものであり、これより生ずる称呼をもって取引に資されるとみるのが相当である。
してみれば、本件商標は、構成中の「MaRukyo」の文字部分に相応して「マルキョー」の称呼を生ずるものといわなければならない。
(イ)引用商標1の称呼
引用商標1は、商標の構成を別掲(2)に示すとおり、左下部に間隙を有した円輪郭内に、漢字「協」の偏に相当する「十」の部首部分を茎に見立て、上段に7つの粒とその左右に複数の平行斜線を配してなり、その偏に相当する部分を稲穂の如きに描出し、また、その旁り部分の一部も変形させた極めて独特な図形商標といえるものであって、かかる構成態様からは直ちに「マルキョー」の称呼を生ずるものといい難く、むしろ、かかる商標は、我が国の世人一般において「全国農業協同組合連合会」、略して「農協」とする団体マークとして知られ馴染まれていたところより「ノーキョー(マーク)」(農協印)の称呼、観念を生ずるとみるのが取引の経験則上相当である。
(ウ)本件商標と引用商標1の類否
以上のとおり、本件商標からは、構成中の「MaRukyo」の文字部分に相応して「マルキョー」の称呼を生ずるのに対し、引用商標1からは、これと同じくする称呼を生ずるものといえないから、両者から「マルキョー」の称呼を生ずるとし、これを前提に本件商標と引用商標1との称呼上における類似を述べる請求人の主張は、採用することができない。
そのほか、両者が称呼上類似するとの点は見出せず、また、外観、観念の点についてみるに、本件商標と引用商標1は、それぞれ別掲(1)及び(2)に示すとおりのものであって、両者の外観印象よりして彼此見誤るおそれなく、そして、引用商標1が前記観念を認識させるほか、両者は特定の意味合いを有する語といえない一種の造語商標であるから、観念において比較すべくもない。
したがって、本件商標と引用商標1とは、その外観、称呼及び観念のいずれからしても類似しない商標というべきである。
(2)本件商標と引用商標2ないし引用商標4の対比
(ア)引用商標2ないし引用商標4の称呼
本件商標は、(1)で述べたとおり「マルキョー」の称呼を生ずるものである。これに対し、引用商標2は、商標の構成を前記のとおり「マルキユー」の片仮名文字とし、及び引用商標3は、同じく「MARUKYU」の欧文字とするものであるから、該構成文字に相応して「マルキュー」の称呼を生ずるものと認められる。また、引用商標4は、別掲(3)のとおり「○」記号内に漢字の「九」を書した図形と上段外郭に沿って円弧状に「マルキユウ」の片仮名文字を配した構成よりなるものであり、これよりは我が国において古くから採択されるところの商号又は屋号的な商標として認識させ、「マルキュー」の称呼を生ずる。
なお、請求人は、引用商標2ないし引用商標4からは、「マルキュー」の称呼とともに 「マルキュウ」又は「マルキユウ」の各称呼を生ずると述べ、その類似を主張するが、両者は、音の表示方法に差異があるのみで、実質的な音構成ないし称呼上における特段の差異は認められないから、上記した称呼について判断する。
(イ)本件商標と引用商標2ないし引用商標4との類否
そこで、本件商標より生ずる「マルキョー」の称呼と引用商標2ないし引用商標4の各商標より生ずる「マルキュー」の称呼とを比較するに、両称呼は、共に短い音構成にあって、その第3音以下において「キョー」と「キュー」の音に差異を有するものであるところ、両者は拗音「キョ〔kjo〕」と「キュ〔kju〕」の音の差異に加え、帯有する母音「ョ〔o〕」と「ュ〔u〕」とを一音節の如く長く引き伸ばし発声するものであって、母音「ョ〔o〕」と「ュ〔u〕」がそれぞれ重ねて発声し聴取されるところから、これらの差が全体の称呼に及ぼす影響は決して少なくないものとなり、両者をそれぞれ一連に称呼した場合、その語感、語調が大きく相違し互いに紛れるおそれのないものというのが相当である。
また、外観、観念の点についてみるに、本件商標と引用商標2ないし引用商標4は、それぞれ別掲(1)及び(3)、並びに上記のとおりのものであって、両者はその外観印象よりして彼此見誤るおそれなく、かつ、引用商標4は、商号又は屋号的な商標として認識させるものであり、引用商標2及び引用商標3が引用商標4との関係を考慮しない場合、特定の意味合いを有する語といえない一種の造語商標であるから、観念において比較すべくもなく、両者は観念において紛れ得るものともいえない。
したがって、本件商標と引用商標2ないし引用商標4とは、その外観、称呼及び観念のいずれからしても類似しない商標というべきである。
2.商標法第4条第1項第15号について
請求人は、引用商標2について、請求人が指定商品「釣餌」について、長年継続使用し、かつ、広く宣伝、広告した結果、請求人の業務に係るものであることが取引者、需要者間で広く認識されており、また、引用商標2は、請求人のハウスマークであって、請求人の取扱商品の殆ど全てに使用されている周知著名なものであるから、引用商標2と本件商標が商品の出所の混同を生ずることは明らかである旨主張している。
しかしながら、本件商標と引用商標4とは、前示認定のとおりその称呼、外観及び観念のいずれよりしても判然と区別し得る非類似の商標というべきであって、ほかに両者がその出所について紛れ得るとする事由は見出せない別個の商標である。そうすると、たとい、請求人に係る引用商標4が我が国の需要者である釣り人達、並びに釣り具及び釣餌を取り扱う業界の取引者において、「釣餌」の商標として、また、主力製品を加工釣餌とする我が国における著名な製造販売会社である請求人のハウスマークとして広く認識されることが認められるとしても、この種商品の需要者一般の注意力等取引の実情に照らし総合判断するに、本件商標に接する需要者、取引者が直ちに商号又は屋号的な商標といえる引用商標4を連想、想起するとみるのは困難というべきである。
したがって、本件商標は、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれは認められない。
3.結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものではなく、その登録は同法第46条第1項第1号により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標




(2)引用第1373441号商標




(3)引用第1495588号商標


審理終結日 2002-02-05 
結審通知日 2002-02-08 
審決日 2002-02-20 
出願番号 商願平8-62810 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (028)
T 1 11・ 271- Y (028)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳 紀子 
特許庁審判長 涌井 幸一
特許庁審判官 野上 サトル
高野 義三
登録日 1998-03-06 
登録番号 商標登録第4120516号(T4120516) 
商標の称呼 マルキョー 
代理人 末永 京子 
代理人 村田 秀人 
代理人 清水 修 

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