• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 101
管理番号 1068083 
審判番号 審判1997-7915 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-05-14 
確定日 2002-11-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第2637666号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成12年8月2日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12年(行ケ)第344号 平成13年4月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標

本件登録第2637666号商標(以下「本件商標」という。)は、別記のとおりの構成よりなり、第1類「化学品、薬剤、医療補助品」を指定商品として、昭和52年3月10日に登録出願され、平成6年3月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第284号証(枝番を含む。)を提出している。

1 本件商標の登録が無効とされるべき事由
(1)請求人は、その名称を「日本美容医学研究会」とする人格なき社団であり、「専門医師の指導と関与のもとに、医薬部外品クロロフィル化粧料の適切なる使用法および正しい取り扱いを調査・研究し、これを広く普及し、以て日本美容文化の向上に資する」ことを目的とし、本件商標の出願(昭和52年3月10日)よりもはるか以前に設立され、現在もその活動を行っている。
具体的には、「日本美容医学研究会定款」(甲第2号証)にその目的が記載されている。この定款が施行されたのは昭和34年11月8日である。設立及び定款施行時のいきさつは、小冊子「向後十年の計画」(甲第3号証)にまとめられており、これによって、請求人の名称は、団体の名称を表示したものとして厚生省をはじめ各県においても広く認められている。
今日まで、請求人は、「日本美容医学研究会」の名称のもとに活動し、「新美容医学の実際」、「美顔教室」、「美顔センターわかりやすい美顔技術の手引」(甲第4号証ないし甲第6号証)等を刊行してきている。そして、甲第7号証に示すように具体的な活動の基礎となる指導方針書などを刊行している。さらに、具体的な活動の一つとして「美顔師規定」(甲第8号証)に規定されているような活動も行っている。
(2)商標法第4条第1項第8号は、通常、人格権保護の規定といわれているが、ここでいう他人の名称は、必ずしも権利主体となり得る自然人又は法人の名称のみを指称するのではなく、現実の社会の実情に照らして、一定の組織を有し、活動している当事者能力を有する人格なき社団又は財団をも含むものとするのが相当である。しかも、この規定には人格なき社団又は財団の名称を除く旨の規定のないことからも当然である。
(3)本件商標と請求人の名称を比較すると、本件商標は、漢字「財団法人日本美容医学研究会」の文字よりなるから、請求人の「日本美容医学研究会」の名称を含むことは明らかである。
また、「日本美容医学研究会」の名称を含む本件商標の出願にあたって、請求人は、被請求人に対して何等の承諾も与えていない。
(4)してみると、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するから、その登録は同法第46条の規定により無効とされるべきである。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第8号に規定する「他人」は、現存する「自然人」又は「法人」に限られる、との被請求人の主張について
商標法第4条第1項第8号に規定する「他人」とは「自然人」又は「法人」に限られるものではなく、同法第26条第1項第1号に規定する「自己」と対をなす語であり、同号の規定は、同法第4条第1項第8号の柱書によって商標登録を受けることができないとされている商標が誤って登録されたときの「自己」を救済するための規定である。
したがって、この規定でいう「自己」は人格なき社団又は財団にも適用されることは当然である。
もし、そうでないと、その名において、社会活動や経済活動を行っている人格なき社団又は財団の名称が保護されないこととなる。
被請求人は、「人格権」云々と表現して極めて狭義に「自然人」又は「法人」に限ると述べているが、「法的保護の対象となる人格的利益の総称が人格権」(甲第9号証)であるから、殊更、自然人又は法人に限る必要はない。
してみると、請求人が被請求人によって人格的利益を侵害される筋合はない筈であり、商標法第4条第1項第8号の利益を享受し得ることに寸疑の余地もない。
(2)請求人が「日本美容医学研究会」の名称を使用したことが悪意であった、との被請求人の主張について
被請求人は、「請求人が被請求人の著名な名称に只乗りしようとして、被請求人の承諾なく、名称の登録を受け、被請求人に無効審判の請求により、その登録を無効にさせられた者であり、悪意によりその名称を採択した者であることは明らかである。」と述べるが、事実誤認も甚だしい。
請求人はもともと商標権者とはなり得ないので、かかる事実はあろう筈はないが、被請求人が指摘する無効審判とは、登録第595951号商標「日本美容医学研究会」についての昭和41年審判第9259号を指称してのことと思われる。
ここで対象となった商標の権利者は、件外日興製薬株式会社(以下「件外会社」という。)であるが、これは請求人が商標権者となり得ないので、その事業者をして商標権者としているものである。
しかしながら、件外会社がこの商標を取得したのは決して悪意ではないことは次の事実から明らかである。
もともと該商標は、商標登録原簿(甲第11号証の1)及び商標公報(甲第11号証の2)より明らかなとおり、件外者である梶文芳氏の所有であったものを、以降の活動を円滑に行うために、これを譲り受けたものなのである。
したがって、「被請求人の著名な名称に只乗りしようとして被請求人の承諾なくその名称の登録を受けた」という事実は全くないのである。
また、この無効審判の審決(甲第12号証)からも明らかなように、単に、件外会社の所有する該商標が他人の名称に相当するというだけであって、「被請求人の著名な名称に只乗りしようとし・・・悪意によりその名称を採択した」等とは一言たりともいっていないのである。
(3)請求人の名称採択当時、被請求人の名称が全国的に周知著名であった、との被請求人の主張について
被請求人は、請求人の名称が定款において定められたのは、被請求人がその名称を使用してから10年以上も後のことであるから、被請求人の周知著名となっている名声に只乗りするために、不正競争の目的でなされたものであると述べているが、該主張はいささか牽強付会である。
請求人は、被請求人の名称が、当時周知著名であることなど不知であり、当時周知著名であったことも否認する。
被請求人の名称が周知著名である事実を立証するとして被請求人が提出するとした乙号証は、被請求人が昭和41年審判第9259号事件において提出したものと思われるが、事件を異にする本件審判事件において実際に提出されなければ、提出されたことにはならない。現実に請求人に送達された被請求人の答弁書の副本には、しかるべき乙号証はおろか、その写しさえも添付されていない。
このような状況では、乙号証の認否はもちろんのこと、その内容は一切検討することができないことになる。
ただ、証拠方法の欄において表示された証拠方法からは、被請求人が何等かの行為を行っていることを推測はできるが、その広告宣伝といい、動静といい、昭和26年から昭和41年にかけてと期間は長くとも、乙号証は、僅か26号証までと極めて少なく、しかも、継続的なものも少なく、これを散発的に垣間見ることのできる程度で、とても周知著名であるということはできないものである。
このような状況のもとにおいて、請求人が被請求人の名称に只乗りするために不正競争の目的で悪意をもって名称を採択するなどあろう筈がない。

3 第二弁駁
(1)被請求人の名称が著名であると主張して提出した乙第2号証の2は、「財団法人日本美容医学研究会」が東京で発会式を揚げたという一種の囲み記事であり、乙第2号証の4は講演者であるバースン博士についての記事、乙第2号証の5はバースン夫妻来日の記事で、バースン博士との関連において「日本美容医学研究会」(法人名が付されていない)が併記されているだけであり、乙第2号証の6は、「梅沢文雄」についての記事で、記事中に「財団法人日本美容医学研究会」の文字を散見することができるが、「財団法人日本美容医学研究会」を注目するのは極めて困難であり、乙第23号証は、バースン博士とともにその講演の主催者として併記されているだけの記事であって、直接的に「財団法人日本美容医学研究会」を需要者の脳裏に植え付けるものは何もない。しかも、これらの乙号証からは、昭和26年から昭和31年にかけての5年間で僅かに5回、何かのついでに被請求人の名称が見え隠れする程度にすぎない。
(2)被請求人は、被請求人の提出に係る審判請求事件証拠提出書の証拠に基いて、被請求人の名称が著名であると述べているが、該乙号証には、僅かに記事中についでに被請求人の名称の記載があるのみで、該記事をよほど丹念に興味を持って熟読しなければ看取することは不可能である。
しかも、提出された乙号証及び未だ提出されていない乙号証を含めて、全体として昭和26年から昭和41年にかけて僅か26号証(実際に提出された証拠(写)は9件のみである。)までときわめて少なく、これらによってはとても周知著名ということはできない。

4 平成12年(行ケ)第344号の判決後の審尋に対する意見
(1)審判長より「平成12年8月2日にした審決を取り消した東京高等裁判所の判決〔平成12年(行ケ)第344号〕が確定したところ、請求人における自己の名称の著名性に関する主張及び立証の意向、準備状況等について、具体的に説明されたい。」との審尋がなされたので、ここに請求人の著名性を立証する。
(2)請求人は、1(1)で述べたような活動を行っており、請求人の名称は厚生省(現在厚生労働省)をはじめ各県において認知されている。
このような状況のもとに「日本美容医学研究会」の名称は古くからメディアにも取り上げられるようになっている(甲第13号証ないし第17号証)。そして、自らもメディアを通じて広告宣伝を行っている(甲第18号証ないし第44号証)。広告宣伝の内容は、日本美容医学研究会名で、各地の会員店を紹介するというものである。日本美容医学研究会の名称のみならず沢山の会員店の存在を読者に知らしめることができる。この広告宣伝方法は、同時に日本美容医学研究会の名を冠することで多くの読者をひきつける。
このようにして、日本美容医学研究会の名称は多くの世人に知れ渡るようになった。
本件商標が登録出願される以前から今日まで一貫して日本美容医学研究会に籍を置く会員から寄せられた証明書(甲第45号証ないし甲第283号証)から明らかなように、日本美容医学研究会の会員は全国津々浦々に広がっており、この会員店から美容的手当等についての指導助言を受けた者は数百万人にのぼっている。
このような状況をかんがみたとき、「日本美容医学研究会」といえば、請求人を指称するものであることは当然である。
また、現在においても、静岡商工会議所の確認書(甲第284号証)においても認知されている。
このように、請求人の名称は、国、地方公共団体、さらにはこれに準ずる機関で認知されており、かつ、新聞、雑誌を通じて取引者や需要者の多数の人々に知られ、そのうえ、全国津々浦々に多数の会員店が存在し、その会員店を通して多数の需要者がいることにかんがみれば、請求人の名称が著名であることを疑う余地はない。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証、乙第2号証、乙第21号証、乙第23号証及び乙第24号証ないし乙第26号証(枝番を含む。)を提出し、昭和41年審判第9259号審判事件において提出された第1号証ないし第25号証(枝番を含む。)を乙第2号証から第26号証までとして援用する旨述べている。

1 答弁の理由
(1)本件商標は、以下に述べるような理由により商標法第4条第1項第8号に該当するものではないから、その登録を無効とすべきものではない。
(2)商標法第4条第1項第8号は、現存の自然人又は法人であって、商標権その他財産権の主体となり得る者の氏名、名称について、その者の承諾なく、これを登録商標、すなわち、独占排他権として第三者が取得することを禁止しようとする趣旨の規定であり、自然人であっても現存しない死者や法人格を有しない任意団体についてまで、その名称を保護しようとする前提の下に規定されたものではない。文理上も同号にいう「他人」とは「他の人」であり、「人」は自然人と法人とを含む法律上の人格を有する者に限られているのであって、任意団体は社団であっても人には含まれないことはもとよりである。
以上のような理由により、被請求人は、他の不登録要件に該当しない限り、任意団体であり法人格のない請求人「日本美容医学研究会」の承諾を得ることなしに、本件商標の登録を受けることができたのである。
仮に承諾を求めるとしても、被請求人の「承諾の申込」に対して「意思表示」としての「承諾」の主体となり得るのは「日本美容医学研究会」自体ではなく、人格なき社団の構成員の信託を受けた代表者個人なのである。「日本美容医学研究会」なる名称は、このような個人の名称ではないのであるから、このような個人が商標法第4条第1項第8号にいう「他人」に該当しないことはもとよりである。
(3)商標法第4条第1項第8号により、他人の氏名名称の出願について承諾を要する他人とは、善意の他人であることが当然の前提とされていることは、商標法第4条第1項第10号の場合と同様である。
第10号については、既成事実を形成した私人の利益を保護する規定であるから、悪意の周知商標主には先使用権を認めない商標法第32条の規定との関係からしても、悪意の周知商標主には第4条第1項第10号の規定によって他人の商標登録出願を排除する権利を認めるべきでないと解するのが現在の通説であり、判例もこれを認めている。
ところで、第8号も、既成事実を形成している私人の私益を保護するという趣旨においては第10号と同様であり、かつ、第三者の商標登録後においても、その商標権の効力を制限する第32条と同趣旨の規定が、第8号についても第26条に規定されている。しかも、第26条第3項においても、第32条におけると同様、悪意の場合には商標権の効力が及ぶ旨が定められている。
このように、第三者の商標の登録前と登録後についての関係は、第8号も第10号と同じような立て方で規定されている。
したがって、法に規定はないけれど、第10号において悪意の周知商標主は第三者の独占排他権の取得を排除できないとの解釈が通説であるとすれば、第8号についても、悪意の氏名名称の使用者は第三者の独占排他権の取得を排除することができないと解するのが法の目的に沿うものである。
(4)人格なき社団の名称について、請求人の主張するように、仮に商標法第4条第1項第8号の規定が適用されるものとしても、請求人が悪意により被請求人の名称に只乗りしてその名称を採択したことは、以下に述べるように明らかである。
すなわち、被請求人がその名称を使用し始めたのは昭和24年5月であるが(乙第1号証)、請求人はその名称を10年以上も後の昭和34年11月にその定款を定めて採択しているのである(甲第2号証)。
かつ、その当時においては、既に被請求人の名称は、基礎医学と人体美学に立脚して、美容と医学との進歩発達を図るための科学的総合研究を行っている法人の名称として、既に全国的に周知著名となっていたものである。
したがって、このように著名な名称と全く同一の名称を請求人が採択したのは、明らかに被請求人の名声に只乗りするために、不正競争の目的でなされたものであることは明らかである。
悪意により採択され、ないしは世人によって悪意があると認識される情況下において採択された名称は、第4条第1項第8号の規定による承諾を得る必要もなく、また、得るに値しないものであることは法律上明らかである。
また、被請求人のように、その名称自体が全国的に著名となっている者が、自己の著名な名称について登録商標としての独占排他権を取得したとしても、被請求人がその名称を採択した10年以上も後に被請求人の著名な名称に只乗りした請求人が、被請求人の寛容の故にその名称を継続使用しているからといって、請求人が人格権を毀損されたと一般世人が認識する筈はなく、むしろ、請求人の只乗りにより被請求人こそ人格権を毀損されていると認識するというのが相当である。
そうとすれば、本件商標が登録されていたとしても、「日本美容医学研究会」なる被請求人の名称を潜称するグループの者の人格権を毀損するというようなことはあり得ないのであるから、本件商標は何等商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものではない。
(5)そこで、被請求人は、本件商標を構成する「財団法人日本美容医学研究会」の文字が、任意団体「日本美容医学研究会」の結成の時点であるとされる昭和34年11月8日以前において、被請求人の名称をあらわすものとして、全国的に周知著名になっていたことを立証するために、被請求人と、審査における異議申立人たる請求人とを当事者とする昭和41年審判第9259号審判事件において提出された、第1号証ないし第25号証(枝番を含む。)を乙第2号証ないし第26号証として援用し提出する。
(6)畢竟、請求人が本件商標の登録に際しその承諾を要すると主張する「日本美容医学研究会」なる名称は、被請求人の著名な名称に悪意により便乗した人格なき任意団体の名称であって、「他人」の名称ではないから、その承諾を要するものではなく、したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当するものではないが、仮に上記任意団体の名称を人の名称と同様に扱かうという前提を採用したとしても、右任意団体の名称は既に著名となっている被請求人の名称に只乗りするために不正競争の目的で悪意により採択されたことが明らかであるから、その意味においても同号に該当するものではない。

2 第二答弁の理由
(1)商標法第26条第1項第1号は、人格なき社団の名称の使用という事実状態を、使用者が善意である場合にそのまま認めるというだけの規定であり、これと裏腹をなすものとして、法律の明確な規定によることなく、人格なき社団の名称使用者に対し、他人の同様の名称の商標登録を排除する行為能力まで付与したものではない。
すなわち、人格なき社団である請求人には、その名において、その名称の他人による登録出願に同意する権利も、その同意なくして登録された商標の登録排除を請求する権利も与えられていないから、その名において無効審判を請求する権利が認められていても、承諾がないことを理由とする第4条第1項第8号違反を無効事由として挙げることは認められていないのである。
商標法第4条第1項第8号においては、他人の期待権を排除するような行為能力の付与は、「他人」、すなわち、本来の行為能力者である自然人又は法人に限ることとし、同法第77条第2項(特許法第6条)においては、人格なき社団に対しては、出願をする行為能力と同様、第4条第1項第8号により同意(承諾)する行為能力も認められていないのである。
(2)請求人が本願商標と同一の文字を人格なき社団の商号として採択したとき、ないしは、それと同一の文字よりなる商標の登録出願をその構成員と思われるものに取得せしめた時点においては、諸般の事情に照らし、請求人には悪意ないし不正競争の意志があったものとせざるを得ない。
被請求人は、昭和26年11月5日付東京日々新聞(乙第2号証の1)、同年11月27日付の日本経済新聞(乙第2号証の2)、昭和27年8月〜10月の日本文化放送番組(乙第4号証の6〜8)、昭和31年の読売新聞記事(乙第2号証の4〜5)その他を挙げた(乙第2号証の1及び乙第4号証の6〜8は、本件請求に伴う提出はない。)が、これらの証拠によっても明らかなように、美容外科に関心があり興味を有する人々の間においては、日本美容医学研究会の名前は何人によっても知られるところとなった。したがって、同じく美容外科に関心を有していたに相違ない人格なき社団である請求人を構成する人々(法人を含む)が、昭和34年以降の頃に、被請求人が財団法人日本美容医学研究会の名の下に美容外科を研究し、かつ、その医療行為に寄与しつつあったことを知らない筈はないのである。請求人は、おそらくは先ず梶文芳なる人物にその只乗りしようとする被請求人の商号と同一性のある文字よりなる商標を出願せしめ(あるいは只乗りを意図してこれを出願したであろう梶文芳なる人物から譲渡を受けることとし)、その構成員であると思われる日興製薬株式会社に名義変更させることにより、被請求人の名声に只乗りすることを意図したものとしか考えられない。

3 第三答弁の理由
(1)本件と番号続きの別件で、本件商標と同一の登録商標に関する事件に対し、東京高等裁判所は、「特許庁が平成10年10月16日にした審決を取り消す」旨判断した(平成10年(行ケ)第380号 平成11年9月30日判決言渡)。しかしながら、以下の理由にもとづいて審判の請求が成り立ち得ないとされ得るか否かについては、審判においては、被請求人が詳細に述べているにもかかわらず判断されておらず、従って裁判所においても判断されていない。
(2)被請求人は、登録出願した商標を構成する名称を有する他人が悪意の場合には、その他人の承諾を得なくても、その出願は商標法第4条第1項第8号に該当するものではなく、その登録は認められるべきであると解する。被請求人は、被請求人の名称が財団法人である被請求人をあらわすものとして、また、「日本美容医学研究会」の文字が財団法人である被請求人の略称として、昭和24年その設立の4〜5年の後(昭和30年以前)、遅くとも請求人の研究会結成時の昭和34年においては周知著名となっていたにもかかわらず、請求人はこれを知悉しつつ、これに只乗りする意図の下に不正競争の目的でその名称を採択したものであるから、商標法第26条第2項の規定の趣旨からするも、同法第4条第1項第10号との関係からするも、第4条第1項第8号の規定によりその承諾を得る必要がないことは明らかである。すなわち、本件商標中には、請求人の名称と同一の文字が含まれているが、該文字は請求人が悪意によりその名称として採択したものであるから、その承諾を得なくても同号の規定に違反して登録されたものとはいい得ない。
(3)被請求人の名称が周知著名となった昭和30年頃、遅くとも請求人の研究会結成時の昭和34年頃には、「日本美容医学研究会」の文字自体も、被請求人財団が開催するゼミナール、研修会、研究会等に参加した人々等によって、被請求人の名称の略称として認識され使用された結果、「日本美容医学研究会」の文字は、「財団法人日本美容医学研究会」の略称として世人に認識されるようになり、今日まで45年を経ている名称である。
被請求人以外の者が該名称を使用する場合においては、世人はその者を被請求人であるかの如くに誤認混同するおそれがあるから、被請求人の利益を害することとなる。よってこのような使用は不正競争防止法により差し止めの対象となり得るべき行為である。しかるに請求人は該名称を被請求人の承諾なく昭和34年頃採択して、「日本美容医学研究会」なる団体を結成し調査研究活動を開始するとともに、昭和36年、該文字よりなる商標を「梶文芳」なる個人名にて出願し、昭和37年8月27日、請求人団体を設立した日興製薬株式会社の名義でその登録を受け、昭和53年9月6日、被請求人側の無効審判請求によりその登録が無効とされたものである。
以上のような経緯からするも、請求人が「日本美容医学研究会」の文字をその氏名として使用する行為自体が、被請求人の名称との関係において誤認混同を生ぜしめる行為であり、本件商標が登録されると否とに関わらず、その氏名権の行使は、不正競争防止法の規定に違背するものとして、被請求人の名称との関係においてその使用が制限されるべきものである。従って被請求人がその商号を商標として登録してもその故に請求人の氏名権の行使が新たに制限されることにはならないから、本件商標の構成中に請求人の名称が含まれていても、商標法第4条第1項第8号の規定の趣旨に照らし、同号括弧書きにより請求人の承諾を得ることなく登録を得たことが違法となるものではなく、よってこれを無効とせられるべき限りではない。

第4 当審の判断

(1)法人格のない社団が商標法第4条第1項第8号の「他人」に含まれるかどうかについては、本件商標と同一商標である登録第2713135号商標について、請求人を原告とし被請求人を被告とする審決取消訴訟において、既に、「原告は、本件の無効審判の請求についてあたかも法人格を有するのと同じように扱われるべきであるから、これに対し、法人格を有しない団体であることのみを理由として、商標法第4条第1項第8号により本件商標を無効とする利益の享受を否定した審決の判断は、誤りである」として、審決を取り消した東京高等裁判所の判決(平成10年(行ケ)第380号 平成11年9月30日判決言渡)が確定している。
本件についても、「いわゆる権利能力なき社団、すなわち、商標法77条2項により準用される特許法6条にいう、『法人でない社団であって、代表者又は管理人の定めがあるもの』に該当する被告(請求人)が、商標法4条1項8号にいう『他人』に当たることは、明らかである」とし、また、「不正競争の目的があるというためには、単に原告(被請求人)の名称を知っていたというだけでは足りず、原告の信用を利用して不当な利益を得る目的がなければならないというべきである」とした上で、「被告がその名称を採択した際に、原告の信用を利用して不当な利益を得る目的を有していたとまでは認めることができない」とし、さらに、「権利能力なき社団の名称については、法人との均衡上、その名称は、商標法4条1項8号の略称に準ずるものとして、同条項に基づきその名称を含む商標の登録を阻止するためには、著名性を要するものと解すべきである」として、平成12年8月2日にした審決を取り消した東京高等裁判所の判決(平成12年(行ケ)第344号 平成13年4月26日判決言渡)が確定している。
(2)しかして、審決を取り消す判決により、当該事件について特許庁が拘束されることは、行政事件訴訟法第33条第1項の規定から明らかである。 そうすると、上記判決に照らし、被請求人による、「商標法第4条第1項第8号にいう『他人』とは自然人と法人とを含む人格者に限られているから、法人格を有しない社団である請求人の同意なく本件商標の登録を得たことは同号の規定に違反するものでない」旨の主張、さらには、「商標法第4条第1項第8号により、他人の氏名名称の出願について承諾を要する他人とは、善意の他人であることが当然の前提であるところ、請求人には悪意ないし不正競争の意思があったものとせざるを得ないから、請求人の承諾を得ることなく、その登録を得られるべきものである」旨の主張は、いずれも採用することはできない。
(3)次に、権利能力なき社団の名称について、商標法第4条第1項第8号に基づきその名称を含む商標の登録を阻止するためには、略称に準ずるものとして、権利能力なき社団の名称が著名であることが必要であると解すべきである。そこで、請求人の「日本美容医学研究会」の名称の著名性について判断する。
請求人は、この点について、名称の著名性に関する主張及び立証の意向等を問う審尋を受け、著名性を立証する旨意見を述べ、そのための資料として、甲第3号証ないし甲第8号証のほか、甲第13号証ないし甲第284号証を提出している。
ところで、当審において本件商標を商標法第4条第1項第8号に該当するというためには、本件商標を登録すべきとした審決時(すなわち、昭和57年審判第5058号について審決をなした平成5年8月24日、以下「登録審決時」という。)にはもちろん、本件商標の登録出願時(すなわち、昭和52年3月10日)においても、本件商標が同号に該当するといわなければならない(同法第4条第3項参照)。そのためには、本件商標の登録出願の時点で、既に、請求人の名称が著名となっていなければならないと解すべきである。
そこで、請求人提出の証拠についてみるに、それらの証拠のうち、甲第5号証ないし甲第7号証に係る書籍又は指導方針書、さらに、甲第23号証ないし甲第44号証に係る新聞又は雑誌は、いずれも本件商標の登録出願後に発行されたものであるから、請求人の活動内容等がわかるところがあるとしても、登録出願時における著名性を立証するものとしては参酌できないものである(なお、甲第31号証ないし甲第40号証に係る雑誌については、登録審決時後の発行によるものであるから、登録審決時における著名性を立証するものとしても参酌できない。)。
また、甲第45号証ないし甲第283号証に係る会員の証明書は、「当社(私)は、昭和○年○月○日より今日まで、貴会の会員として、これまで約○人程度に対して、美容的手当等についての指導、助言を行って参りました。また、『日本美容医学研究会』に係る多くの広告宣伝を知っております。このような事情から、『日本美容医学研究会』の名称は、需要者の間に広く認識されていると信じます。以上証明いたします。」の定型的な文言に日付等の数字と住所、名称及び代表者を書き入れただけのものである。しかも、そのうちの甲第66号証、甲第127号証、甲第139号証、甲第145号証、甲第146号証、甲第159号証、甲第198号証、甲第238号証、甲第254号証、甲第255号証、甲第259号証、甲第263号証、甲第264号証、甲第265号証、甲第271号証、甲第272号証、甲第277号証、甲第278号証及び甲第279号証は登録出願後の入会のものであるばかりでなく、内容的にも、具体的に如何なる広告宣伝を知り、如何なる根拠をもって需要者の間に広く認識されていると信じているのかが明らかになっていない。いずれにしても、平成13年9月の時点での証明にとどまるもので、登録出願時並びに登録審決時において著名であったことを証明するものとはなっていないものである。
甲第284号証に係る静岡商工会議所の確認書も、昭和34年11月の設立から今日まで、医薬部外品クロロフィル化粧料の使用方法及び取扱いの調査、研究、普及活動等を目的として活動している団体である旨を平成13年10月の時点で確認するにとどまるもので、登録出願時並びに登録審決時において著名であったことを証明するものとはなっていないものである。
さらに、登録出願前の発行に係る新聞又は雑誌ではあるが、甲第13号証ないし甲第17号証に係る新聞は、所謂業界紙の類と思しきものであるところ、誰が如何なる者を対象にどの程度発行、頒布しているのかすら定かとなってない。また、甲第18号証ないし甲第22号証に係る雑誌も、そこに掲載されている広告は、美顔教室名並びに「にきび・しみ・肌あれ・日やけ等でお悩みのあなた・・・・クロロフィル美顔教室の美顔師にお電話してみませんか・・・・」等の広告文句とともに、「日本美容医学研究会会員店」の文字が記載されているものであり、美顔教室が日本美容医学研究会の会員店であることを表示するものではあるが、これを観る需要者に「日本美容医学研究会」の文字自体を強く印象付けるものとは考え難いものである。
してみれば、請求人の「日本美容医学研究会」なる名称は、本件商標の登録出願の時点で既に著名となっているとは到底いうことができない。
(4)そうとすると、本件商標は、たとえ、「日本美容医学研究会」の文字を含んでなるとしても、商標法第4条第1項第8号に該当するというためには請求人の「日本美容医学研究会」なる名称が本件商標の登録出願の時点で既に著名でなければならないところ、上述のとおり、登録出願の時点で既に著名であるとはいえないものであることから、本件商標を同号に該当するものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものではないから、同法46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 本件商標

審理終結日 2000-05-25 
結審通知日 2000-06-09 
審決日 2000-08-02 
出願番号 商願昭52-15091 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (101)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 博 
特許庁審判長 大橋 良三
特許庁審判官 林 栄二
泉田 智宏
鈴木 新五
小池 隆
登録日 1994-03-31 
登録番号 商標登録第2637666号(T2637666) 
商標の称呼 ザイダンホウジンニッポンビヨウイガクケンキュウカイ、ニッポンビヨウイガクケンキュウカイ、ビヨウイガクケンキュウカイ 
代理人 網野 友康 
代理人 宇野 晴海 
代理人 網野 誠 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ