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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Z30
管理番号 1068022 
審判番号 無効2000-35579 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-10-20 
確定日 2002-11-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4324444号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求中登録第4324444号商標が商標法第4条第1項第15号に該当することを無効の理由とする審判請求は、却下する。 その余の審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4324444号商標(以下、「本件商標」という。)は、後記のとおりの構成よりなり、平成10年8月19日登録出願、第30類「外郎」を指定商品として平成11年10月15日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
1 請求の趣旨
本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は、被請求人の負担とするとの審決
2 請求の理由
(1)本件商標は、「山口」「ちょうちん」「外郎」の文字を三段に横書きしてなり、そのうち「外郎」は、請求人の氏姓である。しかも、日本にただ一つしかない顕著な請求人の氏名の一部(姓)そのものでもある。
したがって、本件商標は、請求人(他人)の氏名(姓)を含む商標であり、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(ア)請求人外郎藤右衛門は、室町時代の陳外郎こと陳延祐に始まる外郎家の現在の当主である。
外郎家の始祖、陳延祐は、中国の出で、元の順宗皇帝のとき、大医院並びに礼部員外郎という役であったが、元が明に滅ぼされた後、1368年博多に来邦、陳外郎と称し「ちんういろう」と名乗った。陳外郎(陳延祐)は、医術等に精通、足利将軍に招かれたが、博多で没した。
(イ)その子大年宗奇が、将軍足利義満の招きに応じ、後小松天皇の時代に京都に移り、朝廷の典医並びに外交、禁裏や幕府の諸制度の顧問の役に就いた。その後、宗奇は、明から薬「霊宝丹」を取り寄せ国内に伝えた。その効能は顕著で、時の天皇から「透頂香」の名前を賜った。この薬がその後、陳外郎の薬といわれ、「外郎(ういろう)」と呼ばれるようになった。
宗奇は、外国信使の接待に際し菓子を提供、その菓子を顧客に対する接待としても使用、その菓子も有名になり、外郎の菓子として「外郎(ういろう)」と呼ばれるようになっていった。
(ウ)将軍足利義政は、宗奇の孫、祖田の長男定治を宇野源氏の世継ぎとし、以後、定治は、宇野姓を名乗る。その後、定治は、小田原の北条早雲の求めに応じて、1504年小田原に来住、陳外郎宇野藤右衛門定治と称した。
なお、京都には、定治の弟が外郎家を継いでいたが、戦火により絶家した。
(エ)小田原の外郎家は、その後も存続、薬の「透頂香」即ち「外郎」、菓子の「ういろう」を製造、顧客に提供し、今日に至っている。
以上のとおり、請求人の外郎家は、著名な家系であり、「外郎」は、その著名な氏姓である。本件商標は、請求人の著名な氏名(姓)である「外郎」を含む商標であるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(2)菓子の「ういろう」は神奈川県小田原市の外郎藤右衛門の製品である。
(ア)もともと、漢字の「外」を「うい」と読むのは、外郎家の始祖である陳延祐が唐音で陳外郎と名乗ったことに由来する。そして、外を「ウイ」と読む言葉は、どの事典を見ても、請求人の外郎家関連事項だけである。「ういろう」「外郎」の説明では、どの事典でも、歌舞伎十八番の外郎売りか、薬の「外郎」こと透頂香のことか、菓子の「ういろう」のことだけである。
薬の透頂香は、外郎家の伝来の薬であり、歌舞伎十八番の外郎売りは、外郎家にまつわる話である。菓子の「ういろう」についても、薬の「ういろう」に似ていると記載され、外郎家に関する記載である(岩波書店発行「広辞苑」)。
なお、一部に、外郎は、陳延祐の官職名であるとする説もあるが、陳延祐の官職は、礼部員外郎であるが、その読み方は「れいぶいんがいろう」であって、「れいぶいんういろう」とは読まない。官職名から「ういろう」という呼称は出てこない。「外郎」は官職名に由来するとする説も誤りである。しかも外郎を「ういろう」と称呼するのは、外郎家の姓のみであり、「外郎」・「ういろう」には、請求人の氏姓の他、本来何の意味も持っていない。
広辞苑における「ういろう[外郎]」に関する記述内容には、請求人の薬「透頂香」及び菓子「ういろう」と異なる記載があり、「外郎」が菓子の普通名称であるとして引用することは不適切である。
(イ)「ういろう」は、他の辞典にも「名古屋・山口などの名物。」と記載されているが、名古屋の菓子は、「外良」・「ういろ」と称するのが主流であって、一部に「ういろう」と称する菓子もあるが、「外郎」の文字を使用した菓子はない。山口の菓子は「外郎」であるが、この「外良」「ういろ」「外郎」が、すべて「外郎」であるという根拠はない。元来、日本語の言葉として「外郎(ういろう)」は存在しない。
(ウ)したがって、「外郎」は外郎家に由来する言葉であり、請求人の著名な氏姓である。そして、前述のとおり菓子の「ういろう」が請求人の先祖の名前であることは、和漢三才図絵の「外郎餅」の項にも記載されており、昔から顕著である。菓子の「ういろう」は、神奈川県小田原市の外郎藤右衛門の製品であることは、明白であり、「外郎」が菓子の普通名詞であるとする説は失当である。
3 弁駁書において追加した無効の理由の要点
「外郎」の文字は、元来、請求人の外郎家の姓名であり、その家業である薬・外郎薬の商品表示である。本件商標は、その「外郎」、即ち他人(請求人)の商品等表示を不正に使用して他人(請求人)の商品と混同を生じさせるものであって、不正競争防止法第2条第1号の不正競争に該当するものである。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
即ち、山口地方の「外郎」は、山口市の市史(甲第17号証)に記載されている山口地方の言い伝え並びに山口地方のいわゆる外郎屋の老舗である、山口の御堀堂、豆子郎、(株)原要うい郎の宣伝文(甲第14号証ないし同第16号証)から明らかなとおり、請求人である外郎家の姓名であり、その家業の薬の表示である「外郎」、即ち、他人の商品等表示を不正に使用して他人の商品と営業との混同を生じさせているものであって、不正競争(不正競争防止法第2条第1号)に該当する。
なお、同種の菓子として有名な名古屋の菓子は、上記のとおり「外郎」の文字を使用していない。
4 証拠方法
請求人は、甲第1号証ないし同第10号証を提出した。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求に対して答弁をしていない。

第4 当審の判断
1 請求の理由の一部却下
請求人は、平成13年6月26日付弁駁書において、審判請求時の無効理由にはない新たな無効理由を追加して「本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号の規定にも違反してされたものであるから、無効にすべきである」旨の主張をしている。
しかしながら、該法条に係る請求の理由は、当初の請求書に記載されていなかったものであり、本件無効審判請求の理由の要旨を変更するものである。
そこで、その余の本件審判請求の無効理由である、本件商標が商標法第4条第1項第8号該当するか否かについて検討する。
2 本件商標の商標法第4条第1項第8号該当性について
(1)本件商標の構成は、「山口」、「ちょうちん」及び「外郎」の各文字を後記のとおりの構成態様で表してなるものである。
(2)本件商標の構成中の「外郎」の文字については、本件審判請求書及び請求人提出の証拠によると、以下の事実が認められる。
(ア)「外郎」の語についての記載をみると、「広辞苑」(第五版第1刷、平成1998年11月11日株式会社岩波書店発行)の「ういろう【外郎】」の項には、1として「元の人、礼部員外郎陳宗敬が、応安(1368〜1375)年中、日本に渡来し、博多に住んで創製した薬。その子陳宗奇は京都に移って外郎家と称し、のち、小田原に伝えられ、江戸時代に評判を取る。痰の妙薬で、口臭を消すのにも用いる。透頂香とうちんこう。」、2として「菓子の名。米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸したもの。もとは黒砂糖を使っており、色が1に似る。山口・名古屋の名産。」と記載されている(本件無効審判請求書5枚目参照)。
(イ)甲第7号証(中村汀女「伝統の銘菓句集」)によれば、「ういろう」と題して「砂糖と米の粉、くず粉を合わせて作るこの蒸し菓子には、そのままの白と、ひき茶、小豆、黒砂糖入りの四種類があり、いずれも素ぼくで単純な味わいがあります。」と、同第8号証(「お菓子風土記」)によれば「菓子ういらう」の項に「1809年には菓子のういらうは諸国に製法が伝わっていた・・・。その系統は定治の弟が毛利領に伝えた山口の外郎、雇い人が名古屋に伝えた外郎を源流とし、いまはともに名物ういらうとなっている」と、同第9号証(旅の森「全国和菓子風土記」)によれば、美味なる和菓子の「ういろう」の項に「日本各地にはういろうの産地が多くある・・・」と、及び、同じく「外郎」の項に「山口にういろうが伝わったのは大内氏の時代。」と、同第11号証(「サライ」1997年代12号)によれば、「六百年前、京都で生まれた庶民の味 ういろう」と題して『「ういろう」「ういろ」「外郎」「外良」。呼び名も様々なら、味もそれぞれ個性的。室町時代に京都で生まれ、小田原や山口、名古屋で育って全国的な銘菓となった、単純にして奥の深い、蒸し菓子の物語をお届けします。』「ういろうとは、粳粉、糯粉、小麦粉、葛粉などに砂糖を合わせて練り、蒸してつくった菓子の総称である。棹物に仕立てることが多く、別名はういろう餅。小田原、名古屋、京都、山口のものが著名・・・」と記載されている。
(3)取引者、需要者の認識
上記事実を総合すると、「ういろう」及び「外郎」の語は、遅くとも、本件商標の登録査定時である平成11年4月7日には、既に、米の粉・砂糖・葛粉などを混ぜて蒸した菓子である「ういろう」「外郎」を意味する普通名詞となっていたと認められる。
そうすると、本件商標中「外郎」の文字部分は、指定商品の「外郎」そのものを表示する語として取引者、需要者の間に認識されていたものといわなければならない。
(4)なお、上記認定事実は、以下の一般的な辞書類からも、裏付けられるところである。
「外郎」について菓子に関する記述内容をみると、「ういろう【外郎】、菓子の一種・・・名古屋・山口の名産。外郎餅」(「大辞林」第20刷、1991年7月1日株式会社三省堂発行)と、「ういろう【外郎】、米粉を原料としたようかん状の蒸し菓子。名古屋・山口の名物」(「日本語大辞典」第一刷、1989年11月6日株式会社講談社発行)と、「ういろう【外郎】、・・・蒸籠で蒸しあげた菓子・・・名古屋、山口、小田原の名物」(「国語大辞典(新装版)」第一版第5刷、1995年1月10日株式会社小学館発行)と、「ういろう【外郎】、上新粉、白玉粉、砂糖、くず粉などを混ぜて練り、蒸した菓子。・・・名古屋名物が著名だが、山口、京都などにも名物品がある。」(「調理用語辞典」第1版第17刷、平成10年3月14日社団法人全国調理師養成施設協会発行)と、「ういろう(外郎)、外郎はうるち米の粉に砂糖を加え、せいろうで蒸したもので、淡泊な味と柔らかで、しかも歯切れの良い食感が特徴である。・・・」(「新編日本食品事典」第1版第19刷、1998年1月20日医歯薬出版株式会社発行)と、「ういろう 外郎、もち菓子の一種である。・・・[銘菓外郎]なお、山口県の銘菓に<外郎>がある。これはうるち米に砂糖とあずきのこしあんを混和し、箱に流して蒸し上げたものである。・・・同種のものは、名古屋、広島、糸崎、小郡などにもあり、特に名古屋の外郎は有名である。・・・」(「総合食品事典」第6版第8刷、平成6年3月4日株式会社同文書院発行)と記載されている。
(4)広辞苑の記述の誤り
請求人は、広辞苑における「ういろう[外郎]」に関する記述内容には、請求人の薬「透頂香」及び菓子「ういろう」と異なる記載があり、「外郎」が菓子の普通名称であるとして引用することは不適切であると主張する。
上記辞典の記載に請求人の指摘する誤りがあると仮定しても、少なくとも「ういろう」及び「外郎」の語が菓子の一種である「ういろう(外郎)」を表すものであることは前記(3)で認定したとおりである。
また、前示のとおり請求人の提出に係る「サライ1997年第12号」(甲第11号証)にも、「ういろう」の表題のもとに、「『ういろう』『ういろ』『外郎』『外良』。呼び名も様々なら味も個性的。室町時代に京都で生まれ、小田原や山口、名古屋で育って全国的な銘菓となった、単純にして奥の深い、蒸し菓子の物語をお届けします。」と記載されており、「ういろう」、「外郎」が菓子の名称である点、引用辞典に符合するものである。
以上からすると、請求人の指摘する辞典における記載の誤りの存否は上記(3)の認定を左右するものではない。
(5)名古屋、山口の事情
請求人は、「ういろう」は、辞典に「名古屋・山口などの名物。」と記載されているが、名古屋の菓子は、「外良」・「ういろ」と称するのが主流であって、一部に「ういろう」と称する菓子もあるが、「外郎」の文字を使用した菓子はない。また、山口の菓子は「外郎」であるが、この「外良」「ういろ」「外郎」が、すべて「外郎」であるという根拠はない旨主張する。
しかしながら、前記認定したとおり「ういろう(外郎)」が菓子の一種であって、名古屋、山口の名物(名産)であることからすると、「ういろう」「外郎」の語は、菓子の商品名として一般に使用されていて、その商品概念に属する菓子は名古屋、山口の名物(名産)であるとの共通の認識が、一般の取引者、需要者間に広く浸透していたものというべきであり、本件商標の登録査定当時の事情を示す、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(6)請求人の姓、及び薬の商品表示としての「外郎」
請求人は、「外郎」は請求人の外郎家の姓で、薬、外郎薬の商品表示であり、「外郎」は本来何の意味も持っていない旨主張する。
確かに、請求人提出の証拠によれば、「外郎」の文字は、外郎家の姓に由来し、かって、外郎家の製造する薬や菓子を示す固有名詞であったことが認められる。しかしながら、当初特定の商品の出所を表示する固有名詞であった語が、時代とともに次第にその商品の種類を表示する普通名詞となることは、決してまれなことではない。
したがって、請求人の主張する「ういろう」「外郎」の由来は、これらの語が本件商標の登録査定時において既に普通名詞になっていたとする上記認定を左右するものではない。
(7)本件商標における「外郎」の認識
そうすると、本件商標中の「外郎」の語が指定商品の「外郎」そのものを示す普通名詞である以上、本件商標をその指定商品である「外郎」に使用しても、請求人の外郎家の姓名を含むものと認識されるものではないと判断するのが相当である。
3 結語
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号に該当するものではなく、その登録を無効とすべき限りでない。
よって、上記弁駁書による新たに無効理由を追加するための請求書の補正は、その要旨を変更するものであるから、商標法第56条において準用する特許法第135条の規定により却下し、その余の審判請求は、成り立たないものとし、審判費用の負担については、商標法第56条第1項、特許法第169条第2項、民事訴訟法第61条を適用して結論のとおり審決する。
別掲 本件商標

審理終結日 2001-11-27 
結審通知日 2001-11-30 
審決日 2001-12-11 
出願番号 商願平10-70892 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (Z30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩本 和雄 
特許庁審判長 廣田 米男
特許庁審判官 宮下 行雄
野本 登美男
登録日 1999-10-15 
登録番号 商標登録第4324444号(T4324444) 
商標の称呼 ヤマグチチョウチンウイロウ、チョウチンウイロウ、チョウチン、ヤマグチチョウチン 
代理人 藤井 冨弘 

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