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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25
管理番号 1067740 
審判番号 無効2001-35497 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-11-07 
確定日 2002-10-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第4468206号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4468206号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4468206号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成12年4月26日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同13年4月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第4327531号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、平成10年11月25日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同11年10月22日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1.請求人は、本件商標よりも先願であって、本件商標に類似する引用商標の商標権者であるので、本件審判を請求することについて利害関係を有する。
2.本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標は、レトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形に輪郭線を施してなる。
他方、引用商標は、やはりレトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形よりなる。
両商標は、子細に見れば種々相違点があるが、全体から受ける印象が同一であるので、本件商標と引用商標とが、外観上類似していることに疑いの余地はない。
(2)被請求人が有していた、本件商標と同一の輪郭のレトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形の商標についての登録第4364496号(以下「異議事件商標」という。)については、平成13年3月15日に登録を取り消す旨の異議の決定がなされ、この異議の決定に対する商標登録取消決定取消請求事件について、平成13年10月24日に、原告(被請求人)の請求を棄却する旨の判決がなされている(甲第4号証)。
この異議事件における引用商標は、本件審判における引用商標と同一である。
上記判決は、原告が異議事件商標と引用商標とが、前者は歩行状態にあるのに対し引用商標は静止状態にあると主張した点につき、「商品について使用される商標の類否判断ないしその前提である各商標から受ける印象ないし認識の内容等は、当該商標の指定商品に係る一般的な需要者において普通に払われる注意力を基準として考察すべきものであるところ、犬がいかに人に身近な動物で、日常目にするものであるとはいえ、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者(指定商品中に生活必需品である「被服」を含むところからすれば、本件商標の指定商品中に係る一般的な需要者は、犬ないし動物に特段の関心を持たない者を含む広範な一般消費者というべきである。)が、その普通に払われる注意力をもって、歩行中の犬又は立ち止まった状態の犬の足の開き具合等の細部まで正確に観察し、記憶し、想起して、これによって商品の出所を識別するとは限らず、商標全体から受ける印象ないし認識によって商品の出所を識別する場合が少なくないことは当裁判所に顕著であり、また、このことは、頭や首、尾の状態などについても同様というべきである。したがって、本件商標にシルエットで表された一瞬の状態の姿態のみから、本件商標の犬が歩行状態であるか、立ち止まった状態であるかにつき、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者が確定的な印象ないし認識を得ることはないといわざるを得ない。」とし、「本件商標と引用商標とは、ともに大型犬の立位の図形をシルエット状に黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きで、駈けたり、跳躍したりしていない静的な状態である点において共通する。そして、これらの共通点は、時と所を異にして離隔的に各商標に接した場合に一見して看者の目を引く両商標の構成上の基本的な要素に係るものであって、それぞれ看者に強く印象付けられるものであり、したがって、この点の共通性のゆえに、本件商標と引用商標とは、その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなることが認められる。」と帰結している。
また、原告の両図形の各部の差異についての主張に対し、「本件商標と引用商標とが、構成上の基本的な要素に共通点を有し、その共通性のゆえに、その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなることは上記のとおりである。これに対し.本件商標と引用商標との差異点は、上記のとおり、両商標に離隔的に接した場合には明りように把握できない程度の微差であるか、そうではないとしても、看者の印象に残り難いものであるのみならず、いずれも両商標の構成上の細部にわたる要素に係る差異であるにすぎない。そうすると、そのような差異点から看者が受ける印象の相違は、上記の外観全体から直ちに受ける視覚的印象をさほど減殺するものではなく、簡易、迅速を重んじる取引の実際においては、この点が明りように意識されるものと認め難い。」とし、原告の主張を斥けている。
(3)上記判決の論旨は、そのまま本件に当てはまると考えられる。なぜなら、上記異議事件商標と本件商標との違いは、輪郭の有無だけであり、看者が両商標から受ける印象には何ら差がないからである。このことは、甲第5号証の広告(上記判決が出る前のwan誌、平成13年9月号掲載の異議事件商標)と甲第6号証の広告(上記判決が出た後の愛犬チャンプ誌、平成13年12月号掲載の本件商標)を見れば明らかで、需要者は、これら両者を見て商標が変更されたものとは思わないであろうし、被請求人自身、需要者が両商標について同一イメージを抱き続けることを期待しているはずである。
特に、本件商標の指定商品である「被服」等の取引分野においては、商標をいわゆるワンポイントマークとして、商品に縫いつけたり、刺繍するなどして使用されることも多く、その場合においては、比較的小さく表示され、細部における構成上の差異は一層曖昧なものとなり、印象が希薄なものとなるといわなければならない(甲第7号証及び甲第8号証)。
なお、本件商標は、図形の地が淡色で、輪郭線が濃色に表現されているが、実際に使用するときには必ずしもそのような関係になるとは限らず(甲第6号証参照)、配色次第では輪郭線の有無は不明瞭なものとなり、登録取消の対象となった異議事件商標に限りなく近付くことになる。
(4)仮に輪郭を付せば可とするならば、他人の既登録シルエット図形についての商標に対して抵触を免れることは極めて容易なこととなり、この種商標を付した商品の氾濫を招き、商標がその機能を発揮し得なくなり、商標使用者の業務上の信用が毀損されると共に、需要者の利益が害されるであろうことは、いうまでもないところである。
3.答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、「本件商標と引用商標とは、左向きの犬の姿態を表現した商標である点で共通する」とした上で、「しかし、本件商標は輪郭線によって表されたものである。そして、上記態様であることにより、本件商標は輪郭線と、当該輪郭線の内外とのコントラストにより、犬の輪郭を強調したものであると理解される。頭部、胴部、脚部、尾部に関し本件商標の犬は細部のギザギザについても明瞭に観取されるものである。要するに、本件商標は『線』の商標であると観者に理解されるものである。」としている。
しかし、本件商標は、乙第4号証ないし乙第7号証に示される商標のような、単に輪郭線で表わされたものとは異なり、塗り潰された犬の図形に輪郭線を付したものであり、看者がこれを単なる「線」の商標であると認識することは有り得ない。
本件商標は、着色限定されている訳ではないので、使用に際して種々の着色が可能であり、原則としてその異なる色に着色したものの総てが同一の商標と認定される(商標法第70条)。したがって、本件商標の使用に際し、図形の地色と輪郭線の濃淡関係を逆にしたり(本件商標の場合は地色が淡色)、濃淡関係を希薄にしたり、両者を同系統の色としたりすることは十分に考えられることである。
一方、引用商標の場合も、着色限定されている訳ではないので、使用に際して種々の着色がなされる可能性を含むものであり、本件商標の図形の地色を濃色にし、かつ、地色と輪郭線との濃淡関係を近付けて彩色した場合は、引用商標との識別が益々困難なものとなる。
よって、「本件商標と引用商標とは、態様上、まったく別異なものであると観者に理解されるものである。」とする被請求人の主張が誤りであることは明らかである。
(2)被請求人は、本件商標と引用商標との種々の相違点を指摘し、「両商標は子細に見れば種々相違点が存在しており、その相違点こそが両商標が非類似であることの証左といえる。元来、商標を比較するにあたり、請求人の言葉を借りるならば『子細に商標を見る』のは当然であり、漠然とみるだけで商標を理解しえるはずはない。」とし、さらに、「請求人が主張する子細な相違点を無視して商標をみるならば、例えば前述の7件(乙第1号証ないし乙第7号証)の商標は、いずれも座り込んだ犬であるとの結論に達することとなり、その全ての登録商標はいずれも類似商標であるという誤った結論に至ってしまう。」と主張する。
しかし、被請求人が主張するように、子細に観察して相違点があれば、非類似と認定してよいとなると、多くの登録商標がその実効性を失なうことになってしまう。すなわち、他人の登録商標に少し手を加えれば侵害を免れることができるのであれば、他人の周知性を獲得しつつある商標に便乗することが容易となり、そのように他人の商標に便乗する風潮がはびこってしまう。かかる事態の発生は、商標法制度を根底から歪めるものである。
また、商標権者は、自らの権利を守るために、常に、シルエット図形の他に、図形に地色を付して輪郭線で囲んだもの(地色と輪郭線の濃淡差の大きいものと小さいもの)、輪郭線だけのもの等、シルエット図形から派生する種々の態様のものを出願することを余儀なくされる結果となってしまう。
請求人が主張しているのは、子細な相違点は無視すべきということではなく、子細に観察しなければ明瞭に識別できないような商標は、互いに類似とみるべきということである。
(3)被請求人は乙第1号証ないし乙第7号証を挙げ、「それらは類似の範疇を異にする非類似商標であると認定判断され、設定登録されており、この事実は、(1)べた塗り:輪郭、(2)具体的形態での相違が、抽象的な『座り込み犬図形』という共通点を凌駕したからにほかならない。」と主張する。
しかし、乙第4号証ないし乙第7号証の図形は、本件商標のように地色を有する図形に縁取りしたものとは異なり、犬の図形を輪郭線で表現し、さらに、首輪(乙第5号証)、バンダナ(乙第6号証)又はリボン(乙第7号証)を付したり、輪郭線を太く誇張(乙第5号証)したりして、それぞれ個性を持たせたものであり、また、それらは、乙第1号証ないし乙第3号証の各図形とは、輪郭も異なるものである。
したがって、乙第1号証ないし乙第7号証が併存するという事実は、本件商標と引用商標との類否判断に、何ら影響を及ぼすものではない。
(4)被請求人は、「大型犬か、小型犬かはともかくとして、犬を基調とする左向き立位図形の既登録商標は当該商品区分(第25類、旧第17類)において数多く存在する。」として、乙第12号証ないし乙第19号証を引用する。
しかし、これらの登録は、被請求人も認めているように、「各々の犬種の特徴が顕著に表現されている」ことから登録が認められているのであって、犬種の特徴の差が顕著でない本件商標と引用商標には、何ら当てはまるものではない。
(5)以上のとおり、本件商標と引用商標とは外観が類似し、両商標の指定商品は同一であるので、両商標が類似であることに疑いの余地はない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第19号証を提出した。
1.本件商標と引用商標とは、左向きの犬の姿態を表現した商標である点で共通するものであり、この点については被請求人も格別に異議を唱えるものではない。また、その指定商品において共通する点についても異議を唱えるものではない。
しかし、本件商標は輪郭線によって表されたものである。そして、上記態様であることにより、本件商標は輪郭線と、当該輪郭線の内外とのコントラストにより、犬の輪郭を強調したものであると理解される。頭部、胴部、脚部、尾部に関し、本件商標の犬は細部のギザギザについても明瞭に観取されるものである。要するに、本件商標は「線」の商標であると観者に理解されるものである。
これに対して、引用商標はべた塗りによって表されたものである。そして、上記態様であることにより、引用商標は塗り潰された犬全体とその外側とのコントラストにより、犬全体を重厚に表現したものであると理解される。引用商標の犬は、その外縁部分がどうであるかということよりも、その全体としての存在感を強調したものであると理解される。要するに、引用商標は「面」の商標であると観者に理解されるものである。
つまり、本件商標と引用商標とは、態様上、まったく別異なものであると観者に理解されるものである。しかも、本件商標と引用商標とは、単に輪郭線とべた塗りとの相違を有するだけではない。頭部、胴部、脚部、尾部の夫々において、種々相違点を有するものである。
例えば、本件商標と引用商標とは、頭部において、本件商標は水平方向を指向するのに対して、引用商標は斜め上方を指向している。胴部において、本件商標は太目であるのに対して、引用商標は比較的スリムである、脚部において、本件商標は太目で短く、前後左右脚について明確に開いているのに対して、引用商標は前脚については左右を揃え、後脚については左右を僅かに開いている、尾部において、本件商標は全体的に太目であるのに対して、引用商標は先細で尖っている、といったような相違点を有している。
そして、上記具体的形態における相違点と、先に延べた輪郭線商標(線)、べた塗り商標(面)での根本的な相違との総和により、本件商標と引用商標とは観者において外観上、明確に区別されるものである。
2.被請求人は、座り込んだ犬をべた塗りした図形商標について、商標登録第4154203号(乙第1号証)、商標登録第4286029号(乙第2号証)を所有している。また、この種の犬図形商標(座り込み、べた塗り)については、被請求人以外の所有に係る商標登録第4366969号(乙第3号証)も登録されている。これに対して、特許庁においては、座り込んだ犬を主に輪郭線で表した図形を含む商標について、商標登録第4435884号(乙第4号証)、商標登録第4509275号(乙第5号証)、商標登録第4518536号(乙第6号証)、商標登録第4515795号(乙第7号証)が登録されている。上記前3件の登録商標と、後4件の登録商標とは、べた塗りと輪郭との相違を有し、かつ、具体的な形態において幾つかの相違を有するとはいえ、抽象的には「座り込み犬図形」で共通する。
しかしながら、それらは類似の範疇を異にする非類似商標であると認定判断され、設定登録されており、この事実は、(1)べた塗り:輪郭、(2)具体的形態での相違が、抽象的な「座り込み犬図形」という共通点を凌駕したからにほかならない。
してみれば、上記事実に鑑みれば、本件商標と引用商標についても、当然、外観上、明確に区別され得る非類似商標であると判断されてしかるべきと確信するものである。
3.請求人は、本件商標と引用商標との類否について「本件商標は、レトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形に輪郭線を施してなる。他方、引用商標は、やはりレトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形よりなる。両商標は子細に見れば種々相違点があるが、全体から受ける印象が同一であるので、本件商標と引用商標とが、外観上類似していることに疑いの余地はない。」と主張する。
請求人自らも認めるように、両商標は子細に見れば種々相違点が存在しており、その相違点こそが両商標が非類似であることの証左といえる。元来、商標を比較するにあたり、請求人の言葉を借りるならば「子細に商標を見る」のは当然であり、漠然とみるだけで商標を理解しえるはずはない。請求人が主張する仔細な相違点を無視して商標をみるならば例えば前述の7件の商標は、いずれも座り込んだ犬であるとの結論に達することとなり、その全ての登録商標はいずれも類似商標であるという誤った結論に至ってしまうことになるのである。
4.ところで、本件商標を吟味するに、その外観的特徴から犬種がゴールデン・レトリバーであることが直ちに認識できる。骨太で波状毛で包まれた、どっしりとした体駆を示す輪郭線、肘まで達した胸部、前脚と後脚双方にある豊かな羽毛で覆われた太い脚、真っ直ぐで水平な背線、広く平らな頭蓋と、ゴールデン・レトリバー犬の特徴が輪郭線によって見事に醸し出されている。そして、脚を交互に踏み出し、正面を見据えて歩行中の姿態であることが見て取れるものである。また、その輪郭線は濃く明瞭に表されている。なお、参考の為に、ゴールデン・レトリバー犬の標準規格をJKC(社団法人ジャパンケンネルクラブ)全犬種標準書写し第176頁および第177頁(乙第8号証)で示し、社団法人ジャパンケンネルクラブのホームページにおいて公開されている標準外観図形写しを乙第9号証をもって示す。
次に、引用商標を、イングリッシュ・セター犬の標準規格をJKC(社団法人ジャパンケンネルクラブ)全犬種標準書写し第158頁および第159頁(乙第10号証)及び、社団法人ジャパンケンネルクラブの前記ホームページにおいて公開されている標準外観図形写しである乙第11号証を考慮しつつ吟味するに、その外観的特徴から犬種はレトリバー種というよりも、イングリッシュ・セターであると認められる。つまり引用商標には、イングリッシュ・セターに固有の胸部から前脚への特徴的な飾り毛、細長い頭部、短めの背線に猟犬特有の頑丈な大腿部、スラリとした体型を、べた塗りしたものであるとはいえ明瞭に表現されている。そして、両脚を揃え、やや上方を見据えスタンディングポーズをとっている状態であることが視認されるものである。
本件商標からは、脚を交互に踏み出し、正面を見据えて歩行中のどっしりとした体躯のゴールデン・レトリバー犬が認識される。一方、引用商標からは両脚を揃え、やや上方を見据えスタンディングポーズをとっているべた塗りで表現されたイングリッシュ・セター犬が認識されるものである。
つまり、本件商標と引用商標とは、先に説明した(1)輪郭:べた塗り、(2)具体的形態での相違はもとより、イメージ並びに観念もまったく相違するものである。
なお、請求人は本件商標および引用商標が大型犬の左向き立位図形で共通する点をもって両商標が類似する根拠としたいようであるが、大型犬か、小型犬かはともかくとして 犬を基調とする左向き立位図形の既登録商標は当該商品区分(第25類、旧第17類)において数多く存在する(乙第13号証ないし乙第19号証)。
つまり、単に「左向き立位の犬」なる曖昧な根拠で商標の類否を判断する取引者、需要者を類否の判断基準としての一般的識別力を有した取引者、需要者ということはできず、類否判断の対象となる一般的識別力を有した取引者、需要者であれば、商標として表現された図柄を子細に見たうえで当該商標の特徴、即ち本件の如く対象となるものが人間に広く親しまれた犬であればその犬種が何であるのか、犬種がわからなければその犬の特徴は何なのかを把握して、当該商標としての犬を認識するものである。
したがって、犬種が理解できる者であれば 本件商標の犬が「ゴールデン・レトリバー」であり、引例商標の犬が「イングリッシュ・セター」である点において、両者は全く相違する商標であると直ちに理解するものである。
また、犬種を知らない者は、本件商標を「脚を交互に踏み出し、正面を見据えて歩行中のどっしりした犬を輪郭線によって表現したものである」と理解するであろうし、引用商標を「両脚を揃え、やや上方を見据えスタンディングポーズをとっているスラリとした犬をべた塗りしたものである」と理解するものである。上記理由により、両商標は一般的識別力を有する取引者、需要者をして、混同誤認されるおそれなき非類似商標であるといえる。
5.請求人は「なお、被請求人が有していた、本件商標と同一の輪郭のレトリバー種と見られる大型犬の左向き立位のシルエット図形の商標についての登録第4364496号については、平成13年3月15日に登録を取り消す旨の異議の決定がなされ、この異議の決定に対する商標登録取消決定取消請求事件について、平成13年10月24日に、原告(本件被請求人)の請求を棄却する旨の判決がなされている(甲第4号証)。この異議事件における引用商標は、本件審判における引用商標と同じ、登録第4327531号の商標である。上記判決は、・・」と、事案を異にする案件の判決理由を述べているが、上記判決の対象となった商標は「べた塗り図形」で表現したゴールデン・レトリバーであり、輪郭線で犬種(形態)を顕著に現出させ、輪郭線を強調しようとする本件商標とは明らかに相違しており、判決の判断は、何ら本件審理に関連づけられるものではない。請求人は、前記判決の判断が本件審理にそのまま当てはまると主張しているが、このような主張は、前述の如く対象物が相違する結論を本件審理に導かんとするもので失当の誹りを免れないものである。
6.請求人は、甲第5号証ないし甲第8号証を提出し、商標の使用について論じているが、本件商標自体の類否判断に対する主張とはかけ離れた論理展開であり、そもそも検討に値しないものであると確信する。
7.以上、詳述した如く、本件商標は、商標自体において引用商標と非類似であり、その登録は商標法第4条第1項第11号に反するものではなく、無効とされるべきものではない。

第5 当審の判断
1.本件商標と引用商標の類否について
本件商標の構成は、別掲(1)のとおり、左向きに立っている状態の犬を淡い紫色で塗りつぶした一種シルエット状に描き、該犬の外周をやや太い黒い線をもって表してなるものである。
これに対して、引用商標は、別掲(2)のとおり、左向きに立っている状態の犬の図形をシルエット状に黒く塗りつぶして描いてなるものである。
そして、本件商標と引用商標をそれぞれ全体的に観察した場合、本件商標の犬は、黒い輪郭内が淡い紫色で塗りつぶされた点において、また、引用商標の犬は、黒一色で塗りつぶされた点において、それぞれ相違するものであるとしても、いずれの犬も左向きに立ち、尾をほぼ水平方向に延ばしている状態をシルエット状に描いてなる点において構成の軌を一にするものである。
確かに、両商標を構成する犬は、それぞれを対比して観察すれば、ア.本件商標の犬の足は、太く、前足と後足をそれぞれ開き、交互に踏み出しているのに対し、引用商標の犬の足は、本件商標の犬に比べ細く、前足はきちんとそろえており、後足はやや開いている点、イ.本件商標の犬の頭部は、まっすぐ前方に正対しているのに対し、引用商標の犬の頭部は、斜め上方を見上げている点、ウ.本件商標の犬は、全体的に太いのに対し、引用商標の犬は、本件商標の犬に比べ全体的にスマートである点、エ.本件商標の犬の尾は、その位置が背中のラインよりやや高い位置にあり、全体的に太いのに対し、引用商標の犬の尾は、その位置が背中のラインよりやや低く、先端が細くなっている点などにおいて差異を有することが認められる。
しかしながら、本件商標及び引用商標が使用される商品「被服類、履物」等の商品における商標の表示方法が、例えば、被服の場合は、ワンポイントマークとして縫い付けたり、刺繍するなどして表示される場合や、衿吊り(洋服をつるすために、後ろ中央の襟付けの所につけたテープ)に刺繍して表示される場合などがあり、また、靴などの履物にあっても、靴底や中敷き等に表示され、商標自体比較的目立たない箇所に小さく表示される場合が少なくないことが実情であることを考慮すると、上記ア.ないしエ.の差異点は、際立った差異点とはいえず、看者の印象に強く残るものとはいえない。
さらに、本件商標は、これが付される商品自体の色彩によっては、本件商標の犬を構成する黒の輪郭線と淡い紫色が目立たなくなる場合があることも否定し得ない。
してみると、両商標に接する取引者、需要者は、上記した両商標の構成全体の基本的特徴であり、共通点である「左向きに立ち、尾をほぼ水平方向に延ばしている状態をシルエット状に描いた犬」において強く印象付けられ、これを記憶し、それぞれを時と所を異にして離隔的に観察した場合は、その特徴を想起し、本件商標と引用商標とを互いに見誤るおそれがあるというのが相当である。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上相紛れるおそれがある商標といわざるを得ない。
2.被請求人の主張について
(1)被請求人は、本件商標は、輪郭線と当該輪郭線の内外とのコントラストにより、犬の輪郭を強調した「線」の商標であるのに対し、引用商標は、べた塗りによって表された「面」の商標であり、これらの犬は、細部における差異も相俟って、外観上区別される旨主張する。
しかしながら、本件商標は、黒の輪郭線内に淡い紫色が施されているところから、全体として、輪郭線のみが強調されるものではなく、輪郭内の色彩と相俟って、一種シルエット状に犬の図形を表したと理解されるというのが相当であり、前記したとおり、一見して看者の印象に残る「左向きに立ち、尾をほぼ水平方向に延ばしている状態をシルエット状に描いた犬」なる全体的構成において、引用商標と共通するものである。
(2)被請求人は、登録例を挙げ、本件商標と引用商標とは、外観上類似するものではない旨主張する。
しかしながら、「座った犬の図形」よりなる登録例は、それぞれ犬の頭部、尾、耳、座ったときの後ろ足などに特徴を有するものや、文字と結語したもの、図案化されたもの、ハンカチやリボンを首に巻いたものなど、それぞれ異なった印象を看者に与えるものであるから、該登録例は、それぞれの有する特徴的構成に基づいて登録されたものということができるのであって、これらの登録例の存在が本件商標と引用商標との類否判断を左右するものではないし、本件審判においては、本件商標と引用商標とを対比して、その類否について判断をすれば足りると解されるのであって、本件商標と引用商標は、外観において相紛らわしく、これらをその指定商品について使用した場合は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあることは前記したとおりである。
(3)被請求人は、本件商標の犬はゴールデン・レトリバーであり、引用商標の犬がイングリッシュ・セターであるとし、単に「左向き立位の犬」なる曖昧な根拠で商標の類否を判断する取引者、需要者を類否の判断基準としての一般的識別力を有した取引者、需要者ということはできず、類否判断の対象となる一般的識別力を有した取引者、需要者であれば、商標として表現された図柄を子細に見たうえで当該商標の特徴、即ち本件の如く対象となるものが人間に広く親しまれた犬であればその犬種が何であるのかを認識するし、また、犬種を知らない者は、本件商標を「脚を交互に踏み出し、正面を見据えて歩行中のどっしりした犬を輪郭線によって表現したものである」と理解するであろうし、引用商標を「両脚を揃え、やや上方を見据えスタンディングポーズをとっているスラリとした犬をべた塗りしたものである」と理解するから、両商標は一般的識別力を有する取引者、需要者をして、混同誤認されるおそれなき非類似商標である旨主張する。
しかしながら、本件商標及び引用商標が使用される商品「被服類、履物」等の主たる需要者は、老人から若者までを含む一般的な消費者であり、また、「運動用特殊衣服、運動用特殊靴」にあっても、その需要者の多くが一般的な消費者であるところ、これら需要者のうちの多くの者が犬の種類に精通しているとは考え難く、また、本件商標が輪郭線と色彩とを結合したシルエット状の犬の図形であり、引用商標が黒塗りのシルエット状の犬の図形からなるものであることからすると、なおのこと両商標を構成する犬の図形からは、その種類を特定することは困難であるといわざるを得ない。
また、本件商標と引用商標との細部における差異は、前記したとおり、「被服類、履物」等の分野における一般的な商標の表示方法からすると、看者の注意を強く惹くものではなく、また、本件商標と引用商標とが常に対比観察されるものとは限らず、多くの場合は、時と所を異にして離隔的に観察されるというのが相当である。さらに、本件商標及び引用商標が使用される指定商品の主たる需要者といえる一般的な消費者は、店頭において商品を購入する場合が圧倒的に多いとみられ、その際、商標の細部についてよく検討をしないまま商品を選択する場合があることは、経験則に照らして明らかであるから、両商標に接する需要者は、「左向きに立ち、尾をほぼ水平方向に延ばしている状態をシルエット状に描いた犬」なる全体的構成に印象付けられ、細部における差異は、印象に残らない部分というのが相当である。
(4)したがって、上記被請求人の主張は採用できない。
3.むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものと認められるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(色彩については原本参照)

(2)引用商標


審理終結日 2002-08-19 
結審通知日 2002-08-22 
審決日 2002-09-03 
出願番号 商願2000-44670(T2000-44670) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (Z25)
最終処分 成立  
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 茂木 静代
中嶋 容伸
登録日 2001-04-20 
登録番号 商標登録第4468206号(T4468206) 
代理人 福田 武通 
代理人 齋藤 晴男 
代理人 福田 伸一 
代理人 福田 賢三 

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