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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z32
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Z32
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z32
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Z32
管理番号 1066327 
審判番号 無効2001-35050 
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-08 
確定日 2002-05-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第4279483号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4279483号商標(以下「本件商標」という。)は、平成10年1月21日登録出願、商標の構成を後掲(1)に示すとおり、二段書きした「りきおう」、「力王」の各文字とし、指定商品を第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」として、平成11年6月4日に設定の登録がされたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第205号証を提出した。
(1)請求理由の要旨
「力王」商標(以下「請求人商標」ともいう。)は、請求人の地下たびの商標として我が国では著名なものであるから、本件商標がその指定商品に使用された場合には出所の混同が生じる故に商標法第4条第1項第15号に該当する。また、本件商標は、請求人の著名な略称である「力王」標章(以下「請求人標章」ともいう。)を含むにもかかわらず、同人の承諾を得ることなく、登録されたので、商標法第4条第1項第8号に該当する。さらに、著名な会社名の略称及び商標である「力王」を不正の目的をもって剽窃的に出願したものであるから、商標法第4条第1項第19号及び同第7号にも該当する。
よって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項によって無効とされるべきである。
(2)事情説明
(ア)請求人会社の沿革
請求人会社の沿革は、甲第2号証「力王25年のあゆみ」に示すとおりである。すなわち、昭和23年10月に行田ゴム工業(前身)株式会社を設立して以来、昭和24年5月に地下たびの生産を開始し、昭和26年に跣たびを開発,商標「力王」の使用を開始した。その後も「力王跣たび」は利用者の注目を集める一方で他人による類似品も出回った。昭和34年に星王縫工株式会社・力王商事株式会社を設立した。昭和37年に「力王跣たび」の農林大臣賞・ブルーリボン賞を受賞した。昭和39年に「力王たび(縫い付けたび)」を完成し、ゴム底踏まず部の湾曲のアイデアが好評を博し、縫い付け地下たびに新風を起こした。昭和42年に社名を「力王ゴム株式会社」と改称し、昭和43年に台湾力王を設立した。次いで昭和48年1月に社名を「株式会社力王」と改称した。昭和48年7月に韓国力王の創業を開始した。昭和49年1月に石材「キングストン」を発売した。昭和54年にフィリピン共和国セブ市に力王東南アジア株式会社を設立・創業した。昭和57年11月に中国南通力王有限公司工場が竣工し、昭和58年1月に中国工場での生産を開始した。
(イ)請求人に係る「力王」の浸透
(a)商品面からの浸透
上述したように、請求人の「力王跣たび」は昭和30年頃には需要者の口コミで広がり、また、多数の類似品が出回っていた。この状況は、取りも直さず「力王跣たび」の評判が如何に高いものであったかの証左といえる。そして、「力王跣たび」の農林大臣賞・ブルーリボン賞を受賞したことによって、商品としての優秀性が広く認められたことを意味する。また、「力王たび(縫い付けたび)」は、縫い付け地下たびの分野において大きな評価を得ていた。
現在、請求人は、地下たびの分野ではトップの位置にあり、常に全国シェアの60〜70パーセントを占めている(甲第67号証、甲第68号証及び甲第75号証)。また、「力王ファイター」はロングセラー商品として紹介されている(甲第87号証)。
前記した極めて高い市場占有率よりして、「力王」は履物関係及び需要者たる建築・土木関係者の間では著名な存在になっていたことは明らかである。現に、「いまや地下たびと言えば力王(東京)さんでしょう。」と履物業界では言われている(甲第93号証)。ちなみに、建築・土木関係の就業者は500〜600万人にも上り、総就業人口の一割を占める(甲第192号証)。これに履物関係を含めると、600万人を越える。すなわち、我が国の600万人以上の間で「力王」は著名な存在になっていた。さらに、「力王」の地下たびは一般消費者向けの商品である履物関係の店舗で販売されることが多く、一般消費者は自然と地下たびの「力王」を目にする機会があったといえる。加えて、地下たびは甲第3号証ないし甲第196号証に示される如く、トビ職人や土木作業員に限らず農園芸分野、さらには、祭りの際の装束としても広く一般に履用されてきたものであって、その需要者は広範囲に亘るから、請求人の「力王」商標は一般消費者の目に触れることが多かったといえる。
(b)宣伝広告による浸透
請求人は業界紙たる「シューズポスト」及び「ゴムタイムズ」に、昭和49年、50年頃から現在に至るまで、継続して広告を掲載してきた(甲第97号証、甲第98号証)。また、昭和33年7月から現在に至るまでの40年に亘って日本経済新聞夕刊第1面の題字下広告を1ヶ月に1回の割合で行ってきており(甲第100号証ないし甲第106号証)、これら広告活動により「力王」商標が多くの読者に浸透し企業としてのステータスがすでに確立しているものである。このほか、請求人は製品広告をラジオ放送、テレビ放送、ポスター・看板等を用いて頻繁に行ってきた(甲第2号証)。また、請求人は本件商標の出願後も北米ボクシング機構クルーザー級王者西島洋介山とスポンサー契約を結び、同氏のトレードマークともいえる地下たびを供給するとともに、同氏のボクシング試合の協賛・スポンサーになるなどして、宣伝広告活動を行ってきた(甲第137号証ないし甲第191号証)。
請求人は、たびたびテレビ放送のスポンサーになることがあり、たとえば、「岸和田だんじり祭り」のスポンサーの一員となったことがある(甲第193号証)。
(c)海外進出の経営戦略による著名性
請求人が昭和43年以降行った海外進出の成果は、本件商標の出願の前後頃に海外進出のパイオニアとして数多くの経済関係の雑誌、新聞を中心に全国紙・地方紙に紹介され、或いは講読者の多い文芸春秋においても取り上げられた(甲第3号証ないし甲第23号証、甲第44号証ないし甲第92号証)。また、請求人の成功談は世間の注目を集め、請求人会社先代代表者岡安徳一氏による講演会が屡々行われ(甲第88号証、甲第89号証)、その成功に対して時の通産省関係で表彰を受けた(甲第54号証)。
(d)企業としての優秀性による著名性
海外進出事業により、請求人が1985年当時すでに社員1人当りの売上高が2億4千万円という驚異的な利益率を挙げる結果をもたらし(甲第3号証)、ゴム業界では、売上高経常利益率及び従業員一人当たりの経常利益では永年に亘ってトップクラスであった(甲第30号証ないし甲第40号証)。このように、「力王」は産業界で広く著名となった。
(e)「力王」の著名性に関して、第三者が登録したドメインネームの「rikio,com」を請求人に移転すべきものとしたWIPOの裁定があり、この裁定からも「力王」商標又は請求人会社の略称並びにハウスマークとしての「力王」の著名性が立証されたと言える(甲第200号証ないし甲第202号証、甲第205号証)。
(e)まとめ
以上述べた如く、請求人に係る「力王」商標は、本件商標が出願された平成10年当時には、永年に亘る事業活動と相俟って請求人のハウスマークとして広い範囲において著名となっていたものであり、また、同様の理由で請求人商号の略称としても著名となったものである。少なくとも、600万人以上の履物関係、建築・土木関係者の間、並びにこれに加えて産業界で著名となっていた。この数字は就業人口の一割以上を占めるから、我が国全体の需要者のかなりの部分を含むものである。
(3)商標法第4条第1項第15号該当について
上述したように、請求人に係る「力王」商標は、請求人のハウスマークとして広い範囲で著名なものとなっていた。本件商標は請求人商標と社会通念上同一のものと認められる。近年、企業は子会社を通じてその業務を多角化する傾向がある。また、著名商標は、そこに化体する業務上の信用が高く、そのため、顧客吸引力に優れている故に、本来の分野とは無関係な分野で使用を許諾されることが多い。特に、請求人商標は請求人の創作にかかる造語であって、請求人のハウスマーク又は請求人の商号の略称以外の意味はない。すなわち、「力王」に接した場合には、本件商標の指定商品の需要者はこれから請求人のハウスマーク及び請求人商標以外の意味合いを感得することはない。
さらに、本件商標の指定商品の特殊性を考慮すべきである。すなわち、本件商標の指定商品の需要者は年令、性別、職種に限られたものではなく、あらゆる分野の者がなり得る。また、その需要者による購入は在来の酒店等の専門的な店舗で行うよりは、むしろ、様々な商品が同時に陳列・展示されているスーパーマーケット、コンビニエンスストアあるいは各種のホームセンター等の店舗で頻繁に行われているのが現状である。このことは、その指定商品の容器がワンウェイの缶やPETボトルに集中していることからも明瞭である(甲第203号証)。さらに、このような店舗での購入という形態をとることなく、本件商標の指定商品は、自動販売機により需要者によって直接購入される機会が多いものである。
平成11年12月末現在、本件商標の指定商品の一つである清涼飲料の自動販売機の普及台数は、216万台に及んでおり(甲第204号証)、街頭、駅構内、学校、劇場、スポーツ施設,一般のビル、建築現場等ありとあらゆる場所に設置されて、将来もさらにその台数は伸びる状況にある。
以上のことから明らかなとおり、本件商標の指定商品の流通ルート、とりわけ、需要者が購入する場所は、殆どの場合、特定の店舗よりも、様々な商品が同時に陳列・展示されている店舗、さらには、現在ではありとあらゆる場所に設置されている自動販売機である。してみると、本件商標の指定商品の分野では、年令、老若男女、職種を問わないあらゆる分野の者が需要者として商品に、あるいは、その商標にありとあらゆる場所で随時接していると言うことができる。このことから、本件商標の指定商品の分野では、商標法第4条第1項第15号の適用にあっては、商品の流通経路(販売店)、需要者の相違を考慮できないと言える。すなわち、商品の流通経路(販売店)、需要者の相違を理由としては、商品の出所の混同が生じないとすることはできない。
さらに加えて、今日、インターネットやEメールによる情報伝達がめまぐるしいスピードで普及してきている。そして、このような手段を通じて需要者が直接メーカーや卸売店から商品を購入することも頻繁に行われるようになってきている。すなわち、商品毎の流通経路というものが崩れつつある。この点で、商品の出所の混同が生じるか否かの判断にあたっては、いたずらに、従来のように流通経路の相違に拘泥することは実情にあわないものとなる。特に、本件における「力王」商標のように、所定の著名性を備えた商標については、流通経路の相違にとらわれて判断することは妥当性を欠くものとなる。
以上述べた如く、引用商標の著名性,創作性・独自性、さらには、本件商標の指定商品の需要者の広汎さや購入場所の広汎さ並びにインターネットによる直接購入を勘案すると、本件商標がその指定商品に使用された場合には、需要者は当該商品が請求人と人的ないしは資本的に関係のある者ないしは請求人から使用許諾を受けた者の業務に係るものの如く、その出所について混同する。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第19号該当について
請求人商標は、少なくとも履物分野、需要者たる土木・建築分野、産業界では著名なものであり、本件商標の登録権利者は産業界に属するものであるから、当然請求人商標の存在を知り得ていたものと言える、また、請求人商標「力王」は造語であって、第三者が造語からなる商標をたまたま自己の商標として採択することは考え難い。そして、本件商標がその指定商品に使用された場合には、地下たびの「力王」という請求人商標の出所表示機能を希釈化することが明らかであるから、本件商標は「不正の目的」をもって出願されたと言わざるを得ない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(5)商標法第4条第1項第8号該当について
「力王」標章(請求人標章)は、請求人の商号の略称として、就業人口の一割以上を占める履物分野、需要者たる土木・建築分野、産業界では著名なものであった。この数は我が国全体の需要者の中では決して少ないとは言えない。すなわち、「力王」は請求人の商号の略称として少なからず著名であった。
本件商標はこの請求人商号の略称と社会通念上同一のものであるから、その登録に際しては請求人の承諾を必要としたにもかかわらず、承諾なしに登録された。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである。
同法条の規定は文理解釈上、問題となる商標が著名な略称を含んでいれば、出所の混同を生じるか否かに拘わらず、適用されるべきである。また、出所の混同の発生をこの規定の適用の要件とした場合には、著名な略称が往々にしてハウスマークであることが多い実情の下では、商標法第4条第1項第15号以外に該規定を設けた意味がない。同法条の規定は、著名な略称となっている者の人格権を保護する規定であり、その人格が毀損されるおそれがある場合には、出所の混同を生じるか否かに拘わらず、適用されるべきものと解される。地下たびの「力王」という認識で本件商標の指定商品の需要者の間で広く認められ、加えて、海外進出の成功・従業員一人当たりの収益性の高さから優秀な企業(いわゆるエクセレントカンパニー)として認められている請求人は企業としての高い人格権を有していると言える。この点で、本件商標の指定商品との関係で請求人の企業の人格権は保護すべき要請が高く、もし、請求人の略称「力王」が何ら関係のない第三者に無断で使用された場合には、請求人企業イメージが希釈化されるので、その人格権が毀損されることは明らかである。
とりわけ、「力王」は造語であって、請求人の商号の略称又は請求人のハウスマーク以外の意味合いがないので、「力王」に接した需要者はこれから地下たびの「力王」という意味以外を感得することはない。この点で、本件商標の使用により請求人の人格権の毀損されるおそれは大きいものと言わざるを得ない。このように、商標法第4条第1項第8号の趣旨からも該規定が適用されるべきである。
(6)商標法第4条第1項第7号該当について
本件商標の商標権者は産業界に属する者として請求人商標の存在を知り得ていたことは疑いようもない。そして、請求人商標が造語であることからして、たまたま同じ商標が採択されたとは考えられない。
一方、請求人商標は請求人による永年の企業努力により、顧客吸引力の大きい財産的に極めて価値あるものとなっている。かかる事情よりすれば、他人による商業道徳に反するような採択は許されない。仮に、不正の目的がなくとも、産業界に属する者としては、財産的な価値の高い他人の著名な造語からなる商標の採択は商業道徳上避けることが求められよう。
また、商標法が取引秩序の維持を目的とする以上、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序」とは取引秩序を含むと解される。そうとすれば、取引の秩序を乱す商業道徳に反して採択された商標はこれに該当すると言える。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として、本件商標についてあった登録異議申立事件(平成11年異議第91258号)における決定と同様に、無効理由はない旨述べている。

4 当審の判断
請求人は、本件商標の商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第8号及び同第7号該当を理由にその登録無効を述べている。
本件審判における論点は、a)請求人がその業務に係る地下たびについて使用する「力王」商標(請求人商標)の周知・著名性如何、b)請求人会社名称等の略称としての「力王」標章(請求人標章)の著名性如何、c)商品「地下たび」の特殊性と本件商標に係る指定商品である第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」との関係如何、その他、d)「力王」標章の独創性如何と被請求人による不正目的、剽窃の意図の存否等の点にあるといえる。以下、これら論点について判断する。
(1)商標法第4条第1項第15号該当の主張の当否について
商標法第4条第1項第15号においていう「他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれのある商標」の「混同のおそれ」の判断に当たっては、商標自体と当該商標の著名性、当該商品の分野における需要者一般の注意力等諸般の事情を考慮の上、具体的な取引状況に基づき総合判断することが必要と解される。
(ア)本件商標について
本件商標は、商標の構成を「りきおう」及び「力王」の邦文字とし(後掲「(1)本件商標」)、指定商品を第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」とするものであること前記のとおりである。
しかして、「力王」の文字(標章)についてみるに、これを構成する「力」(「チカラ」、「リョク」又は「リキ」)、「王」(「オウ」)の各文字(漢字)は共に、世人一般に極めて親しまれ馴染まれている平易な漢字であって、例えば、「力泳」、「力説」、「力学」、「力走」等の邦語の用例に倣い、これを全体として「リキオウ(ー)」と読み、「力(ちから)の王」、「力の最も優れた(強い)者」の如き意味合い(イメージ)を感得するというのは見易いところであって、該標章は、例えば、格闘技の選手のリング名等の呼称として、屡々見受けられる文字(語)といえる。
そして、本件商標構成中の「りきおう」の文字部分は、前記「力王」の文字(語)の一般的読み方を振り仮名風に併記したものと認められる。
(イ)請求人商標の周知・著名の程度について
請求人主張の全趣旨に照らし、請求人に係る「力王」商標(後掲「(2)請求人商標(ア)(イ)」参照)は、その取り扱いに係る「地下たび」について永年使用された結果、我が国地下たび業界において常に市場シェア60%以上を占めるなど、本件商標の登録出願時(平成10年1月21日)を含むその登録査定時(同11年3月18日)前において、該商品分野の取引者、需要者間において広く認識せられるに至ったいわゆる周知商標であることは、これを認めるに十分である。
(ウ)両商品の特徴及びその関係について
本件商標に係る指定商品である第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」は、主として、アルコールを除く各種の飲料、すなわち、炭酸飲料・シロップ・鉱泉水等を原料とする清涼飲料類、果実原料又は野菜原料よりなる果実飲料類、飲料用野菜ジュース類等であって、一般に、食品衛生法等所定の法規制の下、専ら、飲料関連各メーカーにより製造され、缶・ペットボトル等各種容器に詰められて需要に供される商品といえるところ、その需要者は、老若男女を問わず広汎かつ恒常的であることを特質とする点で、需要者一般に極めて馴染みの深いいわば大衆商品の一つといえるものである。
他方、請求人商標に係る商品「地下たび」についてみると、「地下たび(じかたび)」は、一般に「(「地下」は当て字。直(じか)に土地を踏む足袋の意)丈夫な布と厚いゴム底から成る主として労働用のはだしたび。」(岩波書店発行広辞苑「じかたび」の項より)との解説にみられる如く、主として高所作業者、土木作業員または農園芸分野において着用される我が国固有の商品であって、その需要特性、機能特性において、履物類の中でも別個の商品分野を形成する一種独特の商品といえるものである。そして、該地下たびは、国内各地の履物類を取り扱う小売店、日用大工用品を含む各種雑貨用品店ないしは作業用品店等において販売されているのが実情である。
しかして、前者の商品と後者の商品とは、その原材料、用途及び性質を著しく異にするばかりでなく、その生産、流通の過程及び需要者の範囲も自ずと相違し、特に、前者の商品は嗜好品であって、その購買者は恒常的に嗜好する一般大衆であるのに対し、後者の商品の購買者は、特定の用途・目的の下、特殊な産業分野に属する者に限定されるという点で、その需給事情・需要特性を著しく異にする異種・別個の商品といえるものである。
(エ)出所混同の可能性について
以上の点よりすると、たとえ、請求人商標に係る地下たびが我が国地下たび業界において市場シェア60%以上を占め、時々の新聞・雑誌等に頻繁に報道・喧伝され、或いは、その結果、取引者、需要者間において広く認識せられるに至ったいわゆる周知商標であるとしても、商標自体とこの種商品分野における需要者一般の注意力、請求人商標の著名性の程度、清涼飲料・果実飲料等の飲料類の分野における取引事情を考慮し、併せて請求人会社の事業規模・多角経営の可能性等を総合判断するに、請求人商標の著名性は、地下たびを含む履物類又はその関連商品ないしは作業用品類に止まるものとみるのが相当であって、本件商標の指定商品の分野に及ぶとみるのは困難といわなければならない。
してみれば、本件商標をその指定商品について使用したとしても、これに接する需要者は、前記各事情よりして、請求人商標を直ちに連想・想起し、又は、請求人業務に係る商品の如くその出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品の如くその出所を混同するおそれはないというべきであるから、商標法第4条第1項第15号該当を理由にその登録を無効とすることはできない。
(オ)請求人の主張について
請求人は、請求人商標(「力王」)は、請求人のハウスマークとして広い範囲で著名となっていたものであり、本件商標はこれと社会通念上同一のものであるとし、また、近年企業は子会社を通じてその業務を多角化する傾向があり、商業上、著名商標を本来の分野とは無関係な分野で使用許諾することが多く、特に、請求人商標は請求人の創作にかかる造語であって、需要者は請求人のハウスマーク又は請求人商号の略称以外の意味合いを感得することはない旨述べているが、提出証拠(甲号証)による限り、請求人企業の多角経営の状況を窺わせるものは見出し難く、その可能性を客観的に判断することができないし、また、「力王」の文字(語)は、それ自体独創性に富んだものとはいえないこと前記のとおりであって、直ちに請求人商標又はそのハウスマークを想起させるものとはいい難く、さらに、いわゆる著名商標の使用許諾事情は当該事案に即して個別的に判断されるべき事柄であって、本件事案については、該事情を考慮に入れる余地はなく、また、このほか、本件商標の指定商品の分野において、需要者が具体的に請求人業務に係る商品の如くその出所について混同を来したとする事実はなく、その証拠も見出せないから、結局、これらの事情を述べる請求人の主張は、いずれも妥当でなく、前記認定を覆すことはできない。
また、請求人は、本件商標の指定商品の需要者は一般大衆であり、その購入は在来の酒店等に限らず、スーパーマーケット、コンビニエンスストア又は各種のホームセンター等の店舗或いは街頭、駅構内、学校、劇場、スポーツ施設、一般のビル、建築現場等あらゆるところに設置される自動販売機等によるなど、その流通ルートは多岐に亘りかつ大量に販売されているのが実情であるから、この種商品(飲料)に接する者はあらゆる分野の者であり需要者も広汎であるという取引事情を述べ(甲第203号証、甲第204号証)、また、インターネットやEメールによる情報伝達が急速に普及し、需要者が直接メーカーや卸売店から商品を購入することなども頻繁に行われる昨今、これまでの商品毎の取引形態、流通経路というものが崩れつつあるとの事情を述べ、商品の出所の混同が生じるか否かの判断に当たって、従来型の各商品の流通経路の相違に拘泥することは実情に合わないとし、さらに、本件における「力王」商標のように著名性を備えた商標については、流通経路の相違にとらわれて判断することは妥当でない旨主張しているが、広汎な流通ルートにより大量に販売されるこの種飲料類の需要者が一般大衆であること、また、近頃のいわゆる電子商取引と称される取引など、各商品の取引形態・流通事情も変化・多様化していることは請求人主張のとおりであるとしても、商品自体の特質(性格)、すなわち、各商品の持つ固有の用途・機能並びにそれら性質の違いからくる需給事情、需要特性等の実体を離れて商品流通が無原則に行われるわけではなく、また、今日、如何に電子化された社会環境にあるとはいえ、各商品の需給関係までもが変化したとする事実はなく、その証拠も見出せないから、これら取引形態の変化又は多様化傾向の事情をもってしては、前記認定を覆すことはできない。
さらに、請求人は、第三者による「rikio.com」なるいわゆるドメインネームの登録に関し、「力王」商標の著名性を理由に請求人又はその関係者による移転申立が容認された事情を述べ、WIPO機関(世界知的所有権機関)による裁定書写し及び同関連資料並びに関連新聞記事等(甲第200号証ないし甲第202号証、甲第205号証)を提出しているが、同裁定文によれば、相手方の悪意の存在、すなわち、不正競争の目的の存在を理由に裁定されたものであって、当事者等も相違する点で本件審判とは無関係のものであり、かつ、その裁定が直ちに本件審判の審理に影響を及ぼすものともいえないから、これを根拠に請求人商標の著名性を述べる請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
以上のとおり、本件商標の商標法第4条第1項第15号該当を述べる請求人の主張は、いずれも妥当でなく採用の限りでない。
(2)商標法第4条第1項第8号該当の主張の当否について
商標法第4条第1項第8号の法条の趣旨は人格権保護にあると解されるところ、そもそも商標の機能・役割は自他商品(又は役務)を識別するための標識として使用することにあり、商標が当該特定の商品(又は役務)について具体的に使用されることを前提とするものであってみれば、その登録の適否の判断は、商標自体と当該使用に係る商品(又は役務)との関係並びにそれら商品(又は役務)に接する需要者の認識の程度等取引の実情と遊離してはその判断の衡平性を担保することは困難といわざるを得ないから、この点において、本条項においていう著名な略称の「著名」の程度の判断に当たっては、当該商品(又は役務)の性質その他取引事情等を参酌の上、人格権保護の法目的との整合性を図るべく総合勘案することが必要と解される。
したがって、特定の商品分野において著名な名称(又はその略称)として周知せられたものであるからといって、直ちに全産業分野を横断して著名な略称として取り扱うべきものとするのは些か無理があり、前記法目的と商標本来の実体面に照らし、当該商品の指定商品との関係を考慮すべきこと、むしろ、当然といわなければならない。
(ア)請求人に係る「力王」標章(請求人標章)の周知性の限界について
請求人業務又は請求人標章の実情について、我が国地下たび業界の概況とも併せ検討するに、請求人提出の甲号証(甲第2号証ないし甲第136号証、甲第194号証及び甲第197号証)によれば、以下の点が認められる。
我が国における地下たびの需給状況は、国内企業が中国、フイリピンに生産拠点を置く海外からの輸入品により国内需要の9割近くが占められている状況で、国内産業としては、コスト的要因等から狭小傾向にあるというのが実情である。また、それら海外の生産拠点の確保及び運営に当たっては、請求人会社が先駆的に現地と合弁事業を展開するなどして当該産業界において主導的役割を果たしてきたところであって、その市場シェアは60%以上を維持していることが認められる。
そして、地下たびメーカーとして昭和23年10月創業以来現在まで約半世紀に亘って事業を展開してきた請求人会社(「株式会社力王」)は、(a)国内に一切生産拠点を持たず、全製品を海外で行う独特な生産体制を持ち、従業員は昭和63年次において27名と極めて小規模である一方、年間売上げは同年次頃すでに約40億円に達していて、昭和63年度「貿易貢献企業」として、ときの通商産業大臣より表彰を受けるなど、極めて合理的かつ特異な経営手法をとっていることで知られていること。(b)同社は、数多くの特許、実用新案を権利取得するなど技術的裏付けと相俟って軽量地下たび(跣たび)、貼縫式地下たびを相次いで開発・製造し、好評を博したことが端緒となって、以降、現在に至るまでの長期間、市場占有率60パーセントを維持する地下たび業界トップの企業であること。(c)コスト的要因から国内製造に見切りをつけ、早くから海外に生産拠点を求め、昭和42年に「台湾」に合弁企業を興したのを手始めに、同48年に「韓国」へ進出、同年に社名を現在の「株式会社力王」に改称、同54年に「フィリピン」において創業開始し、次いで同57年に「中国」(南通市)に拠点を築き(同58年に生産開始)、この間、同57年、同59年と前後して「台湾」、「韓国」の工場をそれぞれ閉鎖し、以後、現在は「フィリピン」、「中国」の各工場による生産体制を保持しており、この2拠点からの海外輸入品がそのまま請求人会社に係る商品として国内の需要に供されている状況にあること。(d)同社の取り扱い・販売に係る地下たびは、創業間もない昭和26年より一貫して「力王跣(はだし)たび」又は「力王たび」の商標の下に市場の流通に供されてきたものであり、また、「力王」標章は、請求人会社の会社名称の略称として、或いは、その事業全体を表彰するハウスマークとして、地下たびの業界の需要者間に広く認識せられていたこと等の点を認めることができる。
以上の点よりして、請求人会社は、早くから海外に生産拠点を築きその体制を確立したいわば異色な企業として屡々経済誌、業界紙等において取り上げられ、注目される存在であったものであり、同社が地下たび関連業界を主にそのほか履物類、作業用品類等の一定範囲の業界ないし取引界において相当程度の知名度を有する点は否定し得ない。
しかしながら、その知名度をもって直ちに「力王」標章が、我が国産業分野の全域に亘ってあまねく知悉せられたものとみるのは些か疑問であって、これを理由に本件商標の無効を述べる請求人の主張は採用することができない。
すなわち、請求人会社は、昭和63年次の従業員が27名と極めて小規模であって、その後、急激に事業規模を拡張したことを窺わせるような事情もなく、また、その取り扱いに係る商品は「地下たび」のみであって業種としての多様性はなく、商品自体も一般に馴染みの薄いやや特殊なものであって需要者も一定範囲に限定されるものであり、その需給バランスは今や一定程度に保たれているいわば成熟市場にあるといえるものである。
そうすると、前記の状況下にあって、この間、如何に請求人会社の名称またはその略称として請求人標章が使用され、或いは業界誌、産業紙等に屡々掲載されたものであるとしても、当業者ないし当該関連事業者であればともかく、一般の購読者にとっては、それら報道または広告記事は時々刻々として様々に報道される幾多の報道記事又は広告記事の一つとして認識するに止まり、それ以上に特段の注意力をもって常に明瞭に記憶し印象に止めるとみるのは困難というべきである。また、前記請求人の海外拠点に関する事情それ自体は希有な事柄ではあっても、今日の肥大化した経済社会にあって極めて狭小かつ特異な業種分野に係る生産事情として、すなわち、当該業種に係る商品(地下たび)特有の事情として理解するとともに、その種の先入観念をもって当該報道に接するとみるのが通例であって、かかる事情に照らし、請求人標章と当該業種ないし取扱商品とは不離一体のものというべく、請求人標章の周知性は自ずと一定の限界があるといわなければならない。
(イ)本件商標に係る指定商品との関係について
請求人に係る「地下たび」は、主として高所作業者、土木作業員または農園芸分野において着用される我が国固有の商品であって、その用途特性、機能特性等よりみて一種独特の商品といえるものであること前記のとおりである。また、該「地下たび」と本件商標に係る指定商品とは、その原材料、用途及び性質を著しく異にし、その生産、流通の過程、需要者層の範囲及び需給事情又は需要特性等取引事情を全く異にする、いわば異種産業分野に属する別個の商品というべきものであって、相互に全く関連性を有しないこと前記のとおりである。そして、特に、前者の商品(「地下たび」)は専門性が強く、いわば特殊な分野に係る商品であって、その需要者は一定範囲に限られるのに対し、後者の商品の場合は、その需要者は広汎に亘る一般大衆であって、その注意力の程度も概して弱められる結果、当該商品(清涼飲料・果実飲料等)の需要者一般の平均的な注意力をもってしては、それら飲料類と全く関連のない特殊な商品分野における業界事情又は流通事情までをも直ちに想起・認識するとみるのは、困難といわなければならない。
(ウ)商標法第4条第1項第8号非該当について
以上の(ア)(イ)の各点よりして、本件商標をその指定商品(「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」)について使用した場合、取引者、需要者は、これより直ちに請求人会社(名称)又はその業務ないしは請求人標章を連想・想起するとみるのは困難であって、本件商標の登録出願時における請求人会社名称の略称としての「力王」標章の著名性が本件商標の指定商品の分野にまで及んでいたとするのは、些か疑問といわなければならない。
してみれば、商標自体と請求人による「力王」標章の周知性の限界並びに当該商品の特殊性及び本件商標に接する需要者一般の注意力の程度等取引の実情を総合判断するに、本件商標は、請求人会社の名称の著名な略称に当たるものとはいい難く、ほかに、これを認めるに足りる証拠はないから、結局、本件商標は、商標法第4条第1項第8号該当を理由にその登録を無効とすることはできない。
(エ)請求人の主張について
請求人は、業界紙たる「シューズポスト」及び「ゴムタイムズ」に昭和49年、50年頃から現在に至るまで継続して広告を掲載し(甲第97号証及び甲第98号証)、日本ゴム履物協会に係る陳述書(甲第99号証)を提出し、さらに、昭和33年7月から現在に至るまで日本経済新聞夕刊第1面の題字下への広告を一ヶ月に1回の割合で行ってきている(甲第100号証ないし甲第106号証)旨述べているが、それら広告記事掲載の標章は、概して、足首からふくらはぎ部までを一体構造にした一足の地下たびの図柄と共に、「特許10枚・12枚コハゼ」の表示及び「力王たび」の文字を縦書きまたは横書きに表してなる標章が一様に用いられていて、日本経済新聞(夕刊)の場合においては、さらに、最下部に小さく「株式会社力王」の表示がされていることが認められるものの、これら標章は、購読者に対し当該取り扱いに係る商品、すなわち、地下たびについての「力王」商標を印象づけることに主眼があるといえるものであって、大新聞の題字下広告中に前記社名の表示が反復掲載されたからといって直ちに会社名称の略称として需要者一般に広く認識せられるに至ったものとはいい難く、況やその著名性が清涼飲料・果実飲料類の商品分野においてどうであったのかの事情は定かでなく、結局、それら広告記事等をもって請求人標章が当該地下たびないしは履物関連商品分野を超えて需要者間に知られていたとする点は客観的に明らかでなく、これを認めるに十分とはいえない。
また、請求人は、企業としての優秀性、海外進出の経営戦略等により請求人標章が請求人会社名称の略称として著名性を獲得していた旨述べているが、なるほど、請求人会社が海外進出(昭和43年)のパイオニア的存在として時々の業界紙、経済誌等において報道され、或いはその業績故に時の通商産業大臣より表彰されるなど、当時の経済社会において注目される存在であり(甲第11号証、甲第54号証ほか)、或いは、いわゆる一所集中型の特定商品(地下たび)についてその生産拠点を専ら海外に求めたという事業運営の斬新さにおいて特筆されるべき事柄であったこと等の点は認め得るとしても、一方において、取り扱い商品を離れてはその経営手法が成り立ち得なかったであろう点で、地下たび専門事業者との先入観念を払拭し得ないことや、また、今や海外に事業進出する企業は多数に上る状況下、草創期の一、二の企業の世評ないし注目度も時間的経過とともに徐々に低減化するであろうこと等の事情よりして、本件商標の登録出願の時点(平成10年1月21日)ないしその登録査定時(平成11年3月18日)に至る間、引き続き、請求人会社名称の略称としての請求人標章の著名性が地下たび以外の他の産業分野、すなわち、本件商標の指定商品である「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」等の異種産業分野まで及んでいたとする点を客観的に示すものとはいい難く、その根拠は不十分といわなければならない。
さらに、請求人は、商標法第4条第1項第8号の解釈論に言及しつつ、請求人標章は、その商号の略称として、少なくとも、就業人口の一割以上を占める600万人以上の履物関係、建築・土木関係者の間、並びにこれに加えて産業界で著名となっていた旨述べ、特に、「力王」は造語であって、請求人の商号の略称又は請求人のハウスマーク以外の意味合いがない故に、「力王」に接した需要者はこれから地下たびの「力王」という意味以外を感得することはなく、もし、何ら関係のない第三者に無断で使用された場合には、請求人企業イメージが希釈化され、人格権が毀損される旨述べているが、同法条の解釈論については前記判断を相当とするものであり、また、たとえ、我が国建設業の就労者人口が600万人と総就業人口の一割以上を占めることがその提出に係る財団法人日本統計協会発行平成7年国勢調査報告「人口の労働力状態,就業者の産業・職業」(甲第192号証)より認め得るとしても、請求人に係る地下たびが建設業界の全産業分野において隈無く浸透し、或いは需要に供されているというような客観情勢が認められるとすればともかく、該事情を認めるに足りる証拠はないから、それをもって直ちに請求人標章が建設業界全般に知悉せられたものというのは些か早計であって、その周知・著名性が我が国総就業人口の一割以上の者に及ぶとする点は、俄に認め難く、採用の限りでない。
そして、「力王」標章は、それ自体独創性に富んだものとはいえないこと前記のとおりであって、必ずしも請求人商標又はそのハウスマーク以外の意味合いを想起させないとみるのは妥当でないから、結局、これらを理由にその人格権毀損の論理を述べる請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
このほか、プロボクシング選手「西島洋介山」との間に交わした請求人会社によるリングシューズの製作或いは関連スポンサー契約及びそれらに関し或いは同選手の活躍ぶりを報じたスポーツ関連各報道記事(甲第137号証ないし甲第191号証)は、地下たびメーカーである請求人会社が特定人向けのリングシューズの製作も手がけ、或いは、特定分野のタイトルマッチの協賛者であることを示すに止まり、それをもって直ちに請求人標章の周知・著名性が本件商標の指定商品の分野にまで及ぶとする請求人主張を客観的に理由づけるものとはいい難く、該事実は依然明らかでない。
また、請求人会社がテレビ放送「岸和田だんじり祭り」のスポンサーの一員になったこと(甲第193号証)も請求人主張を客観的に理由づけるものとはいい難く、前記認定を左右するに足りない。
このほか述べる請求人の主張は、いずれも妥当でなく、採用の限りでない。
(3)商標法第4条第1項第19号及び同第7号該当の主張の当否について
前記認定のとおり、請求人商標(「力王」)が昭和26年以来現在までその取り扱いに係る地下たびを表示するものとして一貫して使用され需要者間において広く認識せられたいわゆる周知商標であり、また、請求人がこれを商標として「地下たび」について最初に使用した者であること等の点は認められるとしても、これと本件商標に係る指定商品とはそれぞれ異種・別個のものであること前記のとおりであって、相互の業種間に何らの関連性もなく、また、商標自体も元々平易な漢字2文字(「力」と「王」)又は同文字の仮名文字表記(「りきおう」)と認められるものであって、比較的着想容易な部類のものであってみれば、これらの点を総合するに、本件商標(「力王/りきおう」)は、被請求人によりその指定商品の分野において独自に採択されたものというべく、結果として偶々一致したものとみるのが相当であって、被請求人側に不正目的又は剽窃的意図を窺わせるような事実はなく、また、その証拠も見出せない。
請求人は、本件商標の採択の意図に関し、請求人商標は「地下たびの力王」として産業界に属する者であれば当然知っていたはずであるとし、本件商標権者はその顧客吸引力に只乗りすべく不正目的を意図したものであり、さらには、その行為は商取引の秩序を阻害し商道徳に反する旨述べているが、それら理由は、証拠に基づき不正目的又は剽窃の事実を具体的に述べるものでなく、根拠に欠けるものといわざるを得ない。このほか、本件商標の不正目的による使用又は剽窃的意図による権利取得を窺わせるような事情は見出せない。
以上のとおり、本件商標の商標法第4条第1項第19号及び同第7号該当を述べる請求人の主張は、いずれも妥当でなく、採用の限りでない。
(4)結語
以上の(1)ないし(3)に述べたとおり、本件商標の登録は、請求人摘示の各法条の規定のいずれにも違反してされたものとはいえないから、その登録は、商標法第46条第1項により、これを無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(2)請求人商標
(ア)


(イ)


審理終結日 2002-03-11 
結審通知日 2002-03-14 
審決日 2002-04-10 
出願番号 商願平10-4090 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (Z32)
T 1 11・ 271- Y (Z32)
T 1 11・ 222- Y (Z32)
T 1 11・ 22- Y (Z32)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 鈴木 新五
泉田 智宏
登録日 1999-06-04 
登録番号 商標登録第4279483号(T4279483) 
商標の称呼 リキオウ、リキオー、チカラオー 
代理人 田島 壽 
代理人 勝部 哲雄 
代理人 青木 篤 
代理人 宇井 正一 
代理人 石田 敬 

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