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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Z42 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z42 審判 一部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Z42 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z42 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z42 |
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管理番号 | 1063180 |
審判番号 | 無効2000-35445 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2002-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-08-24 |
確定日 | 2002-01-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4337131号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第4337131号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成10年1月9日に登録出願、商標の構成を後掲に示すとおり、「DON SALVATORE」の欧文字及び中黒記号を介した「ドン・サルヴァトーレ」の片仮名文字とし、指定役務を第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除、有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサージ及び指圧,医業,栄養の指導,家畜の診療,きゆう,健康診断,歯科医業,柔道整復,調剤,はり,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編機の貸与,衣服の貸与,植木の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,布団の貸与,ミシンの貸与,ルームクーラーの貸与」として、平成11年11月19日に設定の登録がされたものである。 2 請求人の主張 請求人は、本件商標の指定役務中、「飲食物の提供」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申立て、その理由及び請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。 (1)本件商標は、イタリー料理人として日本国において業界および顧客の間で著名な存在である請求人サルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ(甲第3号証)の著名な略称である「SALVATORE」ないしは「サルヴァトーレ」を含み、請求人が嘗て被請求人の事業展開に協力したことを奇貨として請求人の承諾を得ることなく商標登録出願され、登録されたものである。 (2)請求人がイタリー料理人として、日本国において著名な存在である事実は、例えば、次の資料等により確認することができる。 (ア)イタリー料理に係る著書「NAPOLIナポリの食卓へようこそ」株式会社柴田書店1995年12月15日初版発行(甲第4号証) (イ)イタリー料理に係る著書「VIVALAPASTAパスタは陽気に」株式会社柴田書店1997年1月20日初版発行(甲第5号証) (ウ)イタリー料理に係る著書「La Cucina del Sole太陽の食卓」株式会社マイストロ1999年2月15日初版発行(甲第6号証) (エ)WOWOW料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」平成11年3月ないし平成12年3月までの毎週月曜午後7時30分放送を紹介するインターネット・ホームページ(甲第7号証)。なお、必要であれば放送された同番組を録画したビデオを提出する用意がある。 (オ)テレビコマーシャル「ブイトーニ フライパンでイタリアン」シリーズ平成11年10月ないし平成12年3月まで放映を紹介するインターネット・ホームページ(甲第8号証) 従って、「SALVATORE」ないしは「サルヴァトーレ」は、イタリー料理人である請求人の著名な略称である。 (3)それ故、被請求人がイタリー料理の提供に本件商標を使用するとき、請求人の料理の提供を信じる顧客に著しい不利益を与えることになり、顧客の利益の保護を目指す商標法第1条の法の精神に反するから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反する。 (4)さらに、先に指摘した通り本件商標は、請求人の著名な略称を含むものであり、しかも請求人が被請求人に対し商標登録の許諾を与えた事実もないから、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反する。 (5)また、「SALVATORE CUOMO」ないしは「サルヴァトーレ・クオモ」は、イタリー料理の提供者である請求人の商標として需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標はこれに類似するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反する。 (6)そして、イタリー料理の提供に関し、請求人の周知著名な商標を被請求人が同じくイタリー料理の提供に使用することにより、請求人の料理提供サービスと混同を生ずることになり、従って、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反する。 (7)加えて、イタリー料理の提供につき、請求人の周知著名な商標を被請求人が同じくイタリー料理の提供に使用すれば請求人に著しい不利益が生ずるから、このような商標の登録は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反する。 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の各規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により指定役務中の「飲食物の提供」についての登録は無効とされるべきである。 (8)被請求人の答弁に対する弁駁 (a)商標法第4条第1項第8号の規定は、「他人の氏名の著名な略称を含む商標」の登録を禁止する趣旨であり、従って他人の氏名の略称が著名であるか否かを立証すれば足り、これを含む商標つまり「DON SALVATORE」が著名な略称であるかどうかを立証する必要はない。 さらに、乙第2号証(「件外異議申立事件」)添付の資料において被請求人が援用する東京高等裁判所判決(昭和44年5月22日東高民6判・昭和44年行ケ6号)によれば、商標法第4条第1項第8号は、もともと他人の人格権を保護するための規定であり、他人の氏名や名称は絶対的に著名であることを要しないとされる。 (b)そもそも、乙第2号証にあるとおり、請求人が異議申立人となっている件外異議申立事件の代理人と本件無効審判被請求人の代理人は同一人物であり、従って両事件における主張の論旨は逆転現象を呈していて到底首肯できるものではないし、むしろ件外異議申立事件における主張が正しい。そして、この事実は本件商標が不正な競争行為を目的として取得されたことを覚知するのに充分である。 3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。 (1)本件商標は、欧文字の「DON SALVATORE」と片仮名文字の「ドン・サルヴァトーレ」を併記して構成され、第42類の「飲食物の提供」を指定役務に含んでいる。 (2)請求人は、イタリー料理人として、日本国において著名な存在である事実を立証するとして甲第4号証ないし甲第8号証を提出しているが、これらの甲各号証から、請求人であるサルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ)が日本国内において著名な存在であるとは認めることができない。 (3)同様に、本件商標を構成する「DON SALVATORE」ないしは「ドン・サルヴァトーレ」がイタリー料理人である請求人の著名な略称と認めることもできない。 (a)請求人が無効理由の1つとして掲げている商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の氏名の著名な略称」であるか否かは、当該他人の活動実績(活動開始時期、活動期間、活動地域、マスコミ等における取り上げ実績、本人や関係者等の宣伝実績、等々)を総合的に勘案し判断するものであり、その結果、当該略称が既に特定の他人を認識させるものとして、広く一般的に認知(周知著名化)されている場合に限り、本号が適用されるものである。 (b)そして、請求人の提出した甲第4号証ないし甲第8号証によっては、どのような事実や実績によって、何時より、「DON SALVATORE」や「ドン・サルヴァトーレ」が、審判請求人氏名の「著名な略称」となったのか一切示されておらず、被請求人の調査によっても、このような事実は発見できない。 (c)すなわち、甲第4号証ないし甲第8号証は、主に「SALVATORE」や「サルヴァトーレ」の使用資料であり、「DON SALVATORE」や「ドン・サルヴァトーレ」の使用事実は一切示されていない。 よって、本件商標が商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の氏名の著名な略称を含む商標」に該当しないことは明らかである。 (4)被請求人は、「飲食物の提供」を指定役務とする登録商標「SALVATORE/サルヴァトーレ」(商標登録第4207374号)(以下、「関連商標」という。)を所有している。関連商標は当初請求人である重田サルバトーレ名義で出願され、その後本件商標権者に譲渡されたものであるが、結果的に、審査手続において商標法第4条第1項第8号を適用されることなく登録された経緯がある。 また、乙第2号証は、件外第三者による商標出願(「DA/SALVATORE/RISTRANTE」,商願平4-260947号)に対して当時の登録異議申立人であり本件審判請求人である重田サルバトーレが行った商標法第4条第1項第8号該当を理由とする商標登録異議の申し立て並びに同申立書写しであるが(以下、「件外異議申立事件」という。)、乙第3号証(件外異議申立事件に係る登録異議の決定謄本写し)にあるとおり、同法条の適用は認められなかった経緯もある。 (5)このほか、請求人は無効理由を種々述べているが、本件商標が請求人の著名な略称を含むものとは認められないため、本件商標はそのいずれの規定にも該当するものではない。そして、本件商標「DON SALVATORE」は、「救世主様」的な意味を有し(乙第5号証)、商標としての適格を充分に備えている。 また、本件商標を構成する「DON SALVATORE」や「ドン・サルヴァトーレ」から、一般の需要者が請求人であるサルヴァトーレ・クオモ(日本名:重田サルバトーレ)を認識するという事実も存在しない。 4 当審の判断 (1)本件商標について 本件商標は、後掲したとおり、「DON SALVATORE」、「ドン・サルヴァトーレ」の各文字よりなるところ、これを構成する前半の「DON」、「ドン」の各文字部分は、一般に、「1.スペイン・イタリアなどで使われる称号。『ドン-カルロス』『ドン-キホーテ』などがそれ。・・・。2.(マフィアなどの)ボス、親分」の意味合いをもって親しまれている平易な外国語または外来語といえる(株式会社三省堂1987年発行コンサイス外来語辞典「ドン」の項より)のに対し、同後半の「SALVATORE」、「サルヴァトーレ」の各文字部分は、伊和辞典を繙いてみるに、「救済者、救世主」等の意味合いの伊語(株式会社白水社1989年発行新伊和辞典「salvatore」の項より)と理解される程度のものであって、直ちに特定の語義をもって一般に親しまれ馴染まれている外国語または外来語とはいい難く、また、その証拠も見出せない。 そうすると、本件商標は、全体として「サルヴァトーレ(SALVATORE)さま(様)」の如き抽象的固有名称的意味合いとその構成に相応して生ずる「ドンサルヴァトーレ」(または「ドンサルバトーレ」)の称呼並びにその外観構成をもって取引に資される不可分一体の商標とみるのが相当である。 (2)無効理由(条項)の判断の基準時について 請求人は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号該当(違反)を理由に本件商標の登録の無効を述べている。しかして、これら無効理由のうち、商標法第4条第1項第7号を除く他の法条の規定については、登録時に該当していても出願時に該当していないものは不適用とする旨定められているから(商標法第4条第3項)、この点に留意しつつ、請求人主張の当否について、以下、検討する。 (3)請求人提出の甲各号証について (ア)甲第3号証は、請求人「重田サルバトーレ」(SHIGETA SALVATORE)の旅券(パスポート)写しであって、同記載によれば、請求人は、伊語名を「Salvatore Cuomo(サルヴァトーレ・クオモ)」とし、1972年生まれの日本国籍を有する者と認められる。 (イ)甲第4号証は、請求人「重田サルバトーレ」著述,柴田書店1995年12月15日発行に係る「NAPOLI ナポリの食卓へようこそ」と題する出版物と認められる。同書の著者紹介として、「サルヴァトーレ・クオモ(Salvatore Cuomo):ナポリ育ち、父が料理人だったため、11歳の時にピザ職人に弟子入りし、料理の世界に入る。14歳からイタリアと日本を行ったり来たりの生活をしてきたため、2カ国語とも堪能、いずれの国でも料理の修業をしている。現在、『リストランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore),東京都港区東麻布2-23-14-B1F』店のオーナーシェフであると同時に、イタリア料理のコンサルティングや講師を務める。」との記載が認められる。 (ウ)甲第5号証は、請求人「重田サルバトーレ」及び「ジローラモ パンツェッタ」共著,柴田書店1997年1月20日発行に係る「VIVA LA PASTA パスタは陽気に」なる表題の出版物と認められる。同書の著者紹介として、「サルヴァトーレ・クオモ:1972年、イアタリア人の父と日本人の母の間に生まれたナポレターノ。父が料理人だったため、11歳の時にピザ職人に弟子入り、14歳からはイタリアと日本を行ったり来たりの生活をし、料理の修行を積む。1995年4月、東京・中目黒にナポリらしいガヤガヤした雰囲気と味の『リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ』を開店し、大繁盛。メーカーやレストランのコンサルティング、料理教室の講師など方々で活躍する。・・・」等の記載が認められる。 (エ)甲第6号証は、請求人「重田サルバトーレ」著述,株式会社マイストロ平成11年2月15日発行に係る「La Cucina del Sole(太陽の食卓)」なる表題の出版物(抜粋)であって、同書は、請求人による各種イタリア料理の解説書と認められる。 (オ)甲第7号証は、「(c)2000 WOWOW Japan Satellite Brordcasting,Inc.」の提供に係る毎週月曜午後7時30分放送のWOWOW料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」に関するインターネット・ホームページ情報と認められる。同情報によれば、請求人が「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(東京・東麻布)」のオーナーシェフであること、その他、同氏による料理番組の特長等が写真入りで紹介されており、その時期は、前記提供主体(日本衛星放送)に係る表示からみて少なくとも2000年次(平成12年)のものと推測される。 (カ)甲第8号証は、「Copyright(c)1999 Nestle Japan Limited」の提供に係る1999.10.15付「ブイトーニ フライパンでイタリアン」とする当該製品広告に関するインターネット・ホームページ情報と認められる。同情報によれば、ネスレ日本株式会社が9月(平成11年と思われる)に新発売した製品を使った料理のテレビコマーシャルにサルヴァトーレ・クオモ氏(請求人)を起用したこと、当該CM放送が同年10月以降関東・関西地区で放送予定であること、当該料理の特長及び「東麻布に『リストランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ』を経営するオーナーシェフである」こと、その他前述同旨の請求人に係るプロフィール情報が認められる。 以上の(ア)ないし(カ)の各認定によれば、イタリア名を「サルヴァトーレ・クオモ」とし、早くからイタリア料理に志した請求人「重田サルヴァトーレ」は、いくつかの著作物を著し、また、イタリア料理の放送番組(衛星放送)及びテレビコマーシャルに一時期出演し、さらには、「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ」とするイタリア料理店を経営するなどして(その所在地が東京・中目黒及び同・東麻布の両所であるのか、或いは一方であるのか、はたまた、現在は別の地にあるのか等、提出証拠によっては同店舗の現在の状況は必ずしも明らかでない。)、主としてわが国のイタリア料理の嗜好者ないしは一定の地域範囲の需要者間において、いわゆるイタリアン・シェフとして一定程度知られる者であることが認められる。しかしながら、次項に述べるとおり、それら請求人標章の周知性は俄に認め難い。 (4)請求人標章に対する需要者の認識の程度等について 請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が飲食物の提供の役務の分野に関し本件商標の登録出願時である平成10年1月(9日)においてわが国の不特定多数の需要者間に広く認識せられたものとする点については甚だ疑問であって、提出証拠によっては、その著名性は客観的に明らかでなく、況や、同氏の略称であるとする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章が前記分野・時期においてわが国の需要者間に広く認識せられたものとみるのは到底困難といわなければならない。 すなわち、 (a)甲第4号証ないし甲第6号証は、請求人がイタリア料理に関する著作物を1995年(平成7年)、1997年(平成9年)及び平成11年にそれぞれ書き著した(共著を含む。)ことを示すに止まり、その出版・購読事情、すなわち、出版部数・販売地域・書評ほか関連諸事情は全く不明であって、その量的、時間的または地域的購読事情を具体的に把握することができないから、これら証拠をもって直ちに請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が本件商標の登録出願時において著名性を有していたものということはできない。また、その略称とする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章についても同様であって、その著名性は客観的に証明されない。 (b)甲第7号証及び甲第8号証は、請求人が2000年(平成12年)にテレビ放送された特定の料理番組に出演したこと、また、1999年(平成11年)に特定食品メーカーのいわゆるCMキャラクターに起用され、同CM放送が同年10月以降放送予定であること等、同氏が平成11年の後半から同12年にかけていわゆるイタリアン・シェフとして注目されるに至った状況が一定程度認められるとしても、それ以前の周知事情は不明というほかはないから、「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が本件商標の登録出願時において需要者間に広く認識せられたものということはできない。そして、これら放送メディアに登場する請求人は常に「サルヴァトーレ・クオモ」または「Salvatore Cuomo」のいわゆるフルネームにより紹介されており、その略称とする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章の表示例は全く見出せないから、本件商標の登録出願時において、「サルヴァトーレ」または「SALVATORE」の標章が請求人姓名の著名な略称であったということもできない。 (c)前記認定の出版物(甲第5号証、甲第6号証)及びインターネット・ホームページ情報(甲第8号証)を通じて掲載されたプロフィール紹介により、請求人が「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore)」なるイタリアン・レストランのオーナー・シェフであり(同店舗の現在の状況が必ずしもはっきりしないとしても)、また、同名称または標章(以下、「店舗商標」という。)の下に当該「イタリア料理の提供」の業務を行っていること等の点は認め得るとしても、同店に関する営業規模、売上げ実績その他取引状況を具体的に示すものでなく、また、同店舗の広告・宣伝の実績(広告の方法・期間・地域・費用等)も不明というほかはなく、ほかに同店舗または店舗商標の周知・著名性を具体的かつ客観的に示す証拠は見出せないから、結局、それら甲号証をもってしては、本件商標の登録出願時において、請求人店舗または店舗商標が当該「イタリア料理の提供」の役務について、取引者、需要者間に広く認識されたものということはできないし、況や、「サルヴァトーレ」または「Salvatore」が同店舗名称または店舗商標の略称として周知・著名であったものとは到底認めることができない。 さらに、請求人主張の全趣旨よりして、請求人(「重田サルバトーレ」)が「DON SALVATORE」(ドン・サルヴァトーレ)」の如く呼び称されていたとする事実はなく、また、そうした事実を窺わせるような状況は一切見出すことができない。 そして、このほか述べる請求人の主張は、いずれも論拠を欠くものであって、前記認定を左右するに足りない。 以上、(a)ないし(c)に認定したとおり、請求人提出の甲号証をもってしては、請求人「重田サルバトーレ」または「サルヴァトーレ・クオモ」(Salvatore Cuomo)の姓名ないし標章が飲食物の提供の役務の分野に関し本件商標の登録出願時である平成10年1月(9日)においてわが国の不特定多数の需要者間に広く認識せられたとする状況はなく、また、その略称であるとする「サルヴァトーレ」(Salvatore,SALVATORE)等の標章についても同様であり、かつ、その経営に係りオーナーシェフであるとする料理店名または店舗商標「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ(Ristorante-Pizzeria Salvatore)」またはその略称とする「サルヴァトーレ」または「Salvatore」の周知事情も全く不明というほかはなく、さらに、請求人(「重田サルバトーレ」)が「DON SALVATORE」(ドン・サルヴァトーレ)」の如く通称されていたとする事実も皆無であって、結局、これら請求人に係る姓名及び標章並びに料理店名ないし店舗商標若しくはそれらの略称または通称(以下、これら請求人に係る標章を一括して「請求人商標」という。)の周知・著名性は客観的に証明されない。 (5)無効理由の当否について (A)請求人は、本件商標を使用すると請求人提供の役務を信ずる顧客に対して著しく不利益を与える旨述べ、また、請求人による件外第三者の商標登録出願に対する異議申立事件(以下、「件外異議事件」という。)(乙第2号証)において被請求人代理人がその代理人であった故にその主張は整合性を欠くものであり、かつ、本件商標は不正な競争行為を目的として取得されたことを覚知するのに充分であるとして、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当(違反)を主張している。 しかしながら、「DON SALVATORE」、「ドン・サルヴァトーレ」よりなる本件商標は、全体として「サルヴァトーレ(SALVATORE)さま(様)」の如き抽象的固有名称的意味合いをもって常に一体のものとして認識し把握される固有の商標であること前記4(1)に示すとおりであって、それ自体は何ら公序良俗に反するものでなく、また、これを使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものともいい難く、さらに、他の法律によってその使用が禁止されているものということもできない。 そして、請求人店舗及び店舗商標に関する事情は前記認定のとおりであって、その著名性は客観的に認め得るところでなく、また、本件商標が顧客に対して著しく不利益をもたらす旨述べる請求人の主張は、これを理由づけるに足りる具体的事実関係ないし取引状況等が全く示されていないから、俄に首肯し得るところでなく、採用の限りでない。 また、請求人が嘗て被請求人の事業展開に協力した旨述べる事情については、具体的な事実関係が全く明らかでなく、被請求人が本件商標の商標登録を受けるについてこれを極めて不当とするような特段の事情は見出せない。そして、この点に関し、被請求人が前記3(4)において述べている関連商標の出願手続中における譲渡事情について、請求人は何ら反論ないし意見を述べていない点を推測するに、当事者間の真意が何であったのかという事情はともかく、少なくとも、請求人が被請求人による関連商標の商標登録を容認した事実を認めるのに十分であるから、これら事情を併せ考慮するに、被請求人による本件商標の取得ないし使用を論難する請求人の主張は、根拠不十分であって妥当性に欠けるものといわなければならない。 さらに、たとえ、被請求人代理人が件外異議申立事件(乙第2号証)の代理人として本件審判事件の主張と相反する主張をなしたとしても、件外異議申立事件は、商標法第4条第1項第8号該当の当否について「登録異議申立は理由がない」旨の登録異議の決定の下にすでに終了した(決定謄本発送日:平成9年5月30日)事件であり、また、そもそも代理人は、当該出願または審判事件(異議申立事件を含む。)に関し、専ら当事者本人の意思の下に代理業務を任ずる者であるから、被請求人代理人の行為はそれ自体何ら違法なものでなく、本件審理に何ら不都合を来すものではない。そして、本件商標が被請求人により不正競争目的により取得されたとする点については、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前記関連商標の譲渡事情とも併せ考慮するに、被請求人による本件商標の取得ないし使用を論難する請求人の主張は主観論であって根拠に乏しく、合理性を欠くものといわなければならない。 以上のとおり、本件商標の商標法第4条第1項第7号違反を述べる請求人の主張はいずれも妥当でなく、その理由をもって本件商標の登録を無効とすることはできない。 (B)請求人は、請求人商標(「重田サルバトーレ」、「サルヴァトーレ・クオモ」、「Salvatore Cuomo」、「サルヴァトーレ」、「Salvatore」、「SALVATORE」、「リストランテ・ピッツェリア・サルヴァトーレ、「Ristorante-Pizzeria Salvatore」、「DON SALVATORE」、「ドン・サルヴァトーレ」)の周知・著名性を理由に、本件商標の指定役務中の「飲食物の提供」について商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号違反を主張している。 しかしながら、前述4(4)(a)ないし(c)に認定したとおり、請求人提出の甲各号証をもってしては、本件商標の登録出願時における請求人商標の周知・著名性は全く明らかでなく、該事実は客観的に証明されないから、これを理由に述べる請求人の主張は、いずれも妥当性に欠けるものであって、採用することができない。 そうとすれば、本件商標は、当該他人の氏名またはその著名な略称を含むものでなく、また、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者間に広く認識された商標ともいえず、かつ、他人の業務に係る役務の如くその出所について混同を生ずるおそれもなく、さらに、前記各事情よりして不正の目的をもって使用するものということはできないから、結局、本件商標は、請求人主張の各法条の規定のいずれにも該当するものということはできない。よって、これらを述べる請求人の主張をもって本件商標の登録を無効とすることはできない。 このほか述べる請求人の主張をもって前記認定を覆すことはできない。 (6)結語 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号のいずれの規定にも違反して登録されたものとはいえないから、その指定役務中の「飲食物の提供」についての登録は、同法第46条第1項により、これを無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
本件商標 |
審理終結日 | 2001-11-21 |
結審通知日 | 2001-11-27 |
審決日 | 2001-12-13 |
出願番号 | 商願平10-792 |
審決分類 |
T
1
12・
22-
Y
(Z42)
T 1 12・ 25- Y (Z42) T 1 12・ 271- Y (Z42) T 1 12・ 23- Y (Z42) T 1 12・ 222- Y (Z42) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 幸一 |
特許庁審判長 |
原 隆 |
特許庁審判官 |
高野 義三 野上 サトル |
登録日 | 1999-11-19 |
登録番号 | 商標登録第4337131号(T4337131) |
商標の称呼 | ドンサルバトーレ、サルバトーレ |
代理人 | 浜田 治雄 |
代理人 | 神崎 正浩 |