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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 005
管理番号 1063060 
審判番号 審判1998-35618 
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-12-07 
確定日 2002-04-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第4028442号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成12年 9月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13(行ケ)年第0047号平成13年 9月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第4028442号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4028442号商標(以下「本件商標」という。)は、平成7年6月19日に登録出願され、「リスコート」の片仮名文字と「RISCOAT」の欧文字を二段に併記してなり、第5類「薬剤」を指定商品として、同9年7月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2151316号商標(以下「引用商標」という。)は、「VISCOAT」の欧文字を横書きしてなり、昭和59年4月17日に登録出願され、第1類「薬剤」を指定商品として、平成元年7月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第6号証(枝番を含む。)を提出した。
1.請求の理由
(1)本件商標から生ずる「リスコート」引用商標から生ずる「ビスコート」とは、言語学上のりズムの単位でいえば、ともに五つの音から構成される五拍語名詞であり、語頭に位置する「リ(ri)」と「ビ(bi)」とが相違するにすぎない。「リ(ri)」を構成する子音の部分[r]は『ラ』とちがって、側面音[l]となることはまれであり、いわゆる巻き舌の音[r]となる。また[ri]は、語頭以外に置かれるとはじき音となるが、語頭では弱い破裂音となる。同様に「ビ(bi)」も、上下のくちびるを閉じてから発する破裂音である(甲第3号証の1)。
また、両商標を発音する場合「リスコート」も「ビスコート」も、平均的な五拍語名詞(例えば「チョコレート」)と同様に、二拍めと三拍め、すなわち「スコ」の部分にアクセントが置かれ、四拍めの長音「ー」が弱くな
る。
つまり、相違音「リ」と「ビ」が語頭に位置することとは関係なく、両商標全体の語調・語感は極めて近似したものとなる。
さらに、携帯電話等の情報機器の発達によって、取引者(特に営業マン)は、耳からの情報のみによって戸外で取引する場合が少なくない。しかしながら、携帯電話の音質(すなわち伝達力)は、必ずしも十分ではなく、聞き間違いや伝言ミスが多く見られることは周知の事実である。このような状況においては、上記のような全体的な語調・語感の類似性が個々の構成音よりも識別上より重要であり、相違音が語頭に位置するか、中間あるいは語尾に位置するかといったことはさして重要ではない。
(2)次に、両商標の外観について考察すると、本件商標は、前記のとおり「リスコート」及び「RISCOAT」の文字からなるものであり、一方の 引用商標は、英文字「VISCOAT」からなるものである。
しかしながら、本件商標のような二段書きの構成からなる商標は、現実の使用においては英文字及びカタカナ文字とが別々に表示されることがむしろ普通である。特に、医薬品の包装箱等においては、ある面には英文字で、他の面にはカタカナ文字で当該商標を表示することが一般的に行われている。
したがって、本件の場合、「RISCOAT」が独立して表示される場合が当然あり得る。
しかして、本件商標の英文字部分「RISCOAT」と引用商標「VISCOAT」とは、語頭の一文字を除く残りの六文字「ISCOAT」を共通にしており、文字の配列も全く同一である。すなわち、アルファベット7文字のうち、最初の一文字が異なるのみであるから、外観上この差異はほとんど目立たない。
ところで、通常の商取引において、商標は直接並べて対比されるわけではなく、時と処を異にして人間のあいまいな記憶に基づいて認識されるものであるから、その類否の判定はいわゆる離隔的観察によるべきものとされている。このような離隔的観察による場合、上記のとおり本件商標と引用商標の英文字部分は、7文字中順序を全く同じくする6文字が共通であるため、一見して即座に区別することは困難であり、外観上極めて紛らわしいというべきである。
(3)現実の混同の可能性
本件商標は引用商標と称呼及び外観上類似するものであるが、請求人及び被請求人の製造販売に係る商品(現実の取り扱い商品=薬剤)を考慮すると、混同の可能性は現実にきわめて高いものと考えられる。
すなわち、甲第5号証の1及び2に明記されているとおり、被請求人が実際に取り扱っている商品は、そのほとんどが「眼科用薬剤」であって、その売上高の実に87%を「眼科用薬剤」が占めている(平成5年当時=甲第5号証の2)。一方、請求人も眼科用薬剤を主たる製品とする製薬会社である(甲第6号証)。
したがって、本件商標及び引用商標は、同一種類の商品、すなわち需要者、使用者、流通経路等を同じくする眼科用薬剤(効能・対象疾患さえ同じ場合があり得る)に使用される蓋然性が現実に非常に高い。
また、一般用目薬、コンタクトレンズ用剤等に使用された場合は、市井の薬局で手に入れることが可能である。つまり、医師等医療関係者より注意力の低い一般消費者によって誤って購入使用される危険もある。このような間違いが許されないことは「薬剤」という商品としての性質上特に留意されるべきことであり、本件商標のように、実際の市場において出所混同の可能性が限りなく大きい商標の登録は排除されなければならない。
(4) 以上、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反してなされたものであり、商標法第46条第1項の規定により無効にされるべきである。
2.答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、本件について「この問題は既に異議申立に対する異議決定という形で決着をみている問題である」と述べ、「『決着済みの問題を(中略)全く同じ理由で蒸し返すのは、(中略)不当である。」と述べている。
しかしながら、登録異議申立がされたにもかかわらず登録された商標に対し無効審判が請求され、該登録が無効とされることは何ら不当ではないし、このことは、両制度の目的・趣旨・手続の相違から明らかなとおり、商標法が予定していることである。
したがって、被請求人の主張は、理由がない。
(2)被請求人は、他の商標の登録例を挙げ、本件商標と引用商標が類似しない旨主張する。
しかしながら、答弁書で掲げられている登録例は、本件とは事案を異にするものであり、しかも後述のように、本件には、とくに混同が生じやすい現実の背景をもつものであるから、引用された登録例は、本件商標についての先例とはならない。これについては、最高裁判所が、「所論のような登録例がある以上本件両商標の類似性を否定しなければならないというような経験則は存在せず、これら登録例の存在は本件両商標の類似性を肯定することの妨げとなるものではない」(最判昭和35年10月4日判決、民集14巻12号2498頁)と判示するとおりである。
(3)被請求人は、答弁書4頁(c) において、出願の審査において、取引の実情等、現実の諸状況を斟酌することが違法であるかのように述べている。
したがって、審判決例の示すとおり、被請求人のいう「登録主義の下」における商標の類否判断においても、取引の実情等、現実の諸状況が知れる限り、これを斟酌することは必要不可欠である。
本件についてみれば、先に、本件商標は、現実に眼科用薬剤について使用されている引用商標と同一種類の商品(眼科用薬剤)について使用される蓋然性がきわめて高いものであるから、これに比例して現実の混同の可能性も非常に高いものである。しかして、このように現実の混同の可能性ある商標は、前記最高裁判決にいういわゆる類似の商標にほかならない。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び同第2号証を提出した。
(1)請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に該当するにも関わらず登録されたので、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものである、と主張しているが、この問題は既に異議申立てに対する異議決定という形で決着をみている問題である。請求人は、過去に本件商標に対して、本件審判と全く同じ理由で異議申立てを行い、敗れているのである(乙第1号証)。
(2)前記異議決定書の内容は、以下に抜粋を掲げるように、簡潔にして要得ており、被請求人の答弁もこれに尽きると考えている。
本件商標より生ずる「リスコート」の称呼と引用商標より生ずる「ビスコート」の称呼とを比較するに、両称呼は、称呼を識別する上で最も重要な要素を占める語頭音において音質を著しく異にする「リ」と「ビ」と相違するばかりでなく、該差異音はいずれも語頭にあって強く発音されるものであるから、これらを一連に称呼した場合には、全体の語調語感が相違し、称呼上十分に聴別し得るものである。
(3)現実の混同の可能性
請求人、被請求人ともに「眼科用薬剤」を主力商品としていることは事実であろう(ただし、請求人は、日本における子会社の業務を立証しており、スイス国法人である請求人目身の業務については全く立証していない。)。 しかし、我が国商標法が採用する登録主義の下で商標登録出願の審査を受けるに際して、そのような事実によりいちいち混同の範囲が広げられたり狭められたりするべきではない。もし、そのようなことが頻繁に行われるとすれば、出願人の業種、取扱商品を絶えず監視しなければ出願の審査ができないことになり、審査の著しい停滞、遅延を招くであろう。また、有名会社と無名会社の間、企業出願と個人出願の間、審査官・審判官がたまたま個人的によく知っている出願人と、全く知らない出願人の間に不平等が発生するのは免れない。さらに、仮に査定時・審決時にそのような審査が可能であったとしても、長い年月の間に権利者の業種や取扱商品に変更があれば、結果的に正しくない審査が行われたことになりかねない。

第5 当審の判断
本件商標と引用商標の類否について検討するに、本件商標は、「リスコート」の文字と「RISCOAT」の文字よりなるものであり、「リスコート」の文字に相応して「リスコート」の称呼を生ずるものである。
他方、引用商標は「VISCOAT」の文字を横書きしてなるものであり、該文字に相応して「ビスコート」の称呼を生ずるものである。
そこで、本件商標より生ずる「リスコート」と引用商標より生ずる「ビスコート」の両称呼を比較するに、両者は、いずれも5音構成からなり、語頭に位置する「リ(ri)」と「ビ(bi)」の音のみが相違しており、その他の「スコート」の音が共通しているものであることは明らかである。
そして、「リ(ri)」の音は、舌面を硬口蓋に近づけ、舌の先で上歯茎を弾くようにして発する有声子音(r)と母音(i)との結合した音節であって、甲第3号証の1(「NHK日本語発音アクセント辞典 新版」日本放送出版協会発行、102〜103頁)によれば、子音の部分の(r)は、語頭に置かれるときは弱い破裂音となることが認められる。
また、「ビ」の音は、両唇を合わせて破裂させる有声子音(b)と母音(i)との結合した音節であっていわゆる破裂音であると認められる。
そうすると語頭に置かれたときの「リ(ri)」と「ビ(bi)」の音は、子音においては弱い破裂音の(r)と破裂音の(b)という相違を有するものの母音においてはともに「イ(i)」であって同じであるということができる。
このように本件商標より生ずる「リスコート」と引用商標より生ずる「ビスコート」とは称呼における語頭部において弱い破裂音の子音(r)で開始されるのか、破裂音の子音(b)で開始されるのかで異なるだけであり、その後の母音「イ(i)」からの称呼は全く同一であるから共に、わずか5音からなり、特定の観念を生じさせない両商標より生ずる称呼をそれぞれ一連に称呼するときは全体の語調、語感が近似することになり称呼上相紛らわしいものといわざるを得ない。
そうとすれば、本件商標と引用商標とは、称呼において類似するものであり、その外観及び観念においては類似するとはいえないが、その差異は需要者に両商標の差異を特段印象づけるほどのものではないから、称呼の類似性をしのぐものとはいえず、両商標の類似を妨げるような取引の実情も窺われないから、互いに類似する商標といわざるを得ず、かつ、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は同一のものである。
したがって、本件商標をその指定商品について使用するときは出所の混同を生ずるおそれがあるということができ、結局、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものといえるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-09-12 
結審通知日 2000-09-26 
審決日 2000-09-25 
出願番号 商願平7-61459 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (005)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀧本 佐代子 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 茂木 静代
野本 登美男
登録日 1997-07-18 
登録番号 商標登録第4028442号(T4028442) 
商標の称呼 リスコート 
代理人 加藤 建二 
代理人 竹内 卓 
代理人 大島 厚 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 岡本 昭二 
代理人 松尾 和子 
代理人 中村 稔 

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