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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない 132
管理番号 1059902 
審判番号 審判1997-12672 
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-07-29 
確定日 2002-05-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第2717943号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2717943号商標(以下「本件商標」という。)は、「ひつぱり」の文字を縦書きしてなり、第32類「食肉 卵 食用水産物 野菜 果実 加工食料品」を指定商品として、昭和62年5月18日登録出願、指定商品については平成4年5月18日付け手続補正書により「うどんめん」とする補正がなされたが、同8年11月29日に第32類「食肉 卵 食用水産物 野菜 果実 加工食料品」を指定商品として設定登録されたため、その後、錯誤発見を原因とし、指定商品を「うどんめん」とする旨の職権更正の登録が同9年7月9日になされたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第19号証を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標は、昭和62年5月18日に登録出願されたところ、「本願商標は、指定商品中、特に手延べうどん、手延べそうめんとの関係では、その製造工程で生地を引き伸ばし、さらにひも状になった生地を框にかけて引き延ばす作業が行われ、手延べの行程では『ひっぱる』ということが重要な要素となっている。してみれば、本願商標をその指定商品中、上記商品に使用しても単に商品の品質加工の方法を表示したにすぎないものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。」との拒絶理由(甲第4号証)を受け、出願人(被請求人)は、指定商品を「うどんめん」に補正するとともに、意見書(甲第4号証)において(a)「うどんめん」には手延べの工程はない、(b)機械によらないで手で打ったものは「手打ちうどん」「手打ちそば」と言うが、それらを「ひつぱり」とは言わない、及び(c)商標の採用に関しては「『ゆであがった太いうどんをゆで湯と一緒に鍋ごと食卓に出し、好みの具を入れたつゆの器に、熱々のめんを箸で鍋からひつぱり(取り)ながら食する』ところから命名した所以である」と強調し、ついで、「その様なわけであるから、商品うどんめんについて『ひつぱり』なる名称は出願人の創作に係るもので他に使用したものは全くないのであり、『ひつぱり』と言えば出願人のうどんめんの商標として受入れられ愛好されているものである」と述べたが、この出願は、上記理由により拒絶査定となったが、被請求人は、拒絶査定に対する不服審判を請求し、上記の意見書においてしたのとほぼ同じ内容の主張を行った(甲第5号証)結果、登録されたものである。
(2)被請求人は、原審における拒絶理由に対する意見書に添付して提出した甲第4号証に添付の甲第2号証のとおり、商品「干しうどん」の包装用袋に「ひっぱりうどん」の文字を使用するが、この「ひっぱりうどん」の文字は指定商品との関係においては、山形に古くから伝わるうどんの食べ方の名称である。
すなわち、「新版/山形県大百科事典」(平成5年10月15日初版発行)では、「郷土料理」の項に《ひっぱりうどん》として「鍋で煮たうどんをそのまま、つゆの中に入れて食する。つゆには卵・納豆・ねぎ・せりが入っている。寒い 冬の食べ方。」と掲載されている(甲第6号証)。「ひっぱりうどん」は古くから紹介されており、「味覚天国 やまがた」(昭和34年6月15日初版発行)では、「ひっぱりうどんは、・・・村山地方の、いわば一種の釜揚げうどんという家庭料理である。茶碗に醤油(煮出汁ならなおよい)と納豆を中心に生玉子、かつぶし、みじん切りの糸葱を入れてつゆをこしらえ、一方手打ちうどんを煮立った湯に入れて、茹でながら鍋釜から引っぱり上げて、茶碗のつゆ(煮汁)にたっぷりと浸してたんまりと食べる。・・・」と掲載されている(甲第7号証)。 近年においては、郷土料理の家庭への浸透がめざましく、「やまがた郷土料理」(昭和61年3月発行)(甲第8号証)のように、「ひっぱりうどん」のつくりかた等を紹介する書籍は多い。
また、山形県では、「ひっぱりうどん」の語は後半の「うどん」を省略して単に「ひっぱり」としても日常一般に使用されており、「ひっぱり」と言えば、直ちに「ひっぱりうどん」を想起する程である。このことは、「かまあげうどん」(ゆでたうどんを釜から揚げ、熱湯と共に器に入れ汁をつけて食べる料理)は単に「かまあげ」と略称され、「ぶっかけそば」(汁をかけたそば)は単に「ぶっかけ」と略称される等々、商品の普通名称は省略されるという一般的な例からも裏付けられる。
これらの事実から明らかなように、「ひつぱり」なる名称は、被請求人の創作に係るものでは決してなく、山形県及びその近県(たとえば、被請求人が所在する宮城県など)においてはよく知られていたものである。
してみれば、本件商標は、指定商品について使用した場合、これに接する需要者は、本件商標が山形に古くから伝わるうどんの食べ方の名称であると認識するにとどまり、単に商品の品質等を表示するにすぎず、自他商品に識別標識としての機能を果たし得ないものである。
(3)本件商標は、指定商品との関係においては、山形に古くから伝わるうどんの食べ方の名称である「ひっぱりうどん」を容易に想起させる「ひつぱり」の文字を普通に用いられる方法で表示してなるものであるから、商品の品質等を表示するにすぎないものであり、商標法第3条第1項第3号の規定により本来拒絶されるべきところ、看過して登録されたものである。
したがって、本件商標の登録は、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とされるべきものである。
2 第1ないし第6答弁に対する弁駁
(1)「ひっぱりうどん」は一地域でのみ知られている程度である、との主張について
ア 被請求人は、「うどん」について、「日本全国において広く使用されている食品である」とするが、そのように一義的に決められるものではなく、被請求人がいう「日本全国において広く使用されている食品」としての「うどん」もあれば、地域の特産品としての「うどん」もあることは明らかであり、自ずから判断の基準も異なるべきものである。
このような「うどん」の性質を考慮するならば、「日本全国において広く使用されている食品」としての「うどん」については、全国的に生産されて広範囲に流通する商品である以上、数県以上の地域で知られている必要があるということができるかもしれないが、地域の特産品としての「うどん」については、ある地域のみで生産されてその周辺で流通する商品である以上、より狭い地域で知られていれば足り、また、そのように解釈することが、一私人の独占適応性のない商標の登録を排除せんとする商標法第3条第1項各号の規定の趣旨にも添うものと思われる。
イ 本件における「うどん」は山形県の郷土料理であり、地域の特産品としての「うどん」であるから、一地方で知られていれば足りると考える。
過去の判決・審決例においては、地域性に関し、
「商品の普通名称とは、一地方において、一定の商品について需要者、取引者間内に使用されているものであればよく、すべての需要者、取引者間において共通のものであることを要しない。」(大判明治40年7月8日、明治40年(オ)264)
「全国的に使用されているものでなくても、何人でも自由に使用し得るものなら、特定の地方に限って使用されるものでも慣用商標ということができる」(審決同旨。たとえば、審決昭和37年4月5日、昭和35年審判548他多数)
との判断が示されている。
ウ 商標法第3条第1項第3号に規定する、いわゆる記述的商標は、一私人の独占適応性のない商標という点において上記の普通名称慣用商標となんら変わるところはなく、普通名称慣用商標の地域性に関する判断は記述的商標の判断においても妥当するものと考える。
(2)「ひっぱりうどん」が単に「ひっぱり」と省略されている事実はない、との主張について
ア 被請求人は、甲第6号証ないし同第8号証の書籍においても、「ひっぱりうどん」が「ひっぱり」と省略されている記載はなく、又そのように一般に省略されている事実もないと主張する。
「ひっぱりうどん」が「ひっぱり」と省略されている記載はないとする点について、食文化の伝承と交流を企図して、地域の特産物を使った郷土料理を県内外の多くの人々に知ってもらうために出版された甲第6号証ないし同第8号証の書籍の性質上、省略して記載することを避けたのであって、省略されている記載がないからといって省略されていないということにはならない。
つぎに、一般に省略して使用されている事実もないとする点について、商標法第3条第1項各号の規定の趣旨は一私人の独占適用性のない商標の登録を排除することにあるのであるから、商標が一定の商品に品質等を表示するものとしてその登録を排除すべきか否かは、現実にその商品について、かかる商標を使用している者があるかどうかを問わず、商品の品質等を直感させるものは、独占に適さない商標としてその登録は認められるべきではない。
請求人は「ひっぱり/うどん」「ひっぱり“うどん”」のように使用し(甲第3号証)、請求人以外の会社も「ひっぱり/うどん」「ひっぱりうどん」のように使用しているし(甲第9号証)、現に、被請求人も「ひっぱりうどん」を使用している(甲第4号証)。
なお、現実の取引においては、商品の普通名称である「うどん」の部分を省略し、語頭に商号の一部の称呼を冠して「ミウラノヒッパリ」「ゴトウノヒッパリ」のように称呼して取引が行われることも考えられる。
このように、「ひっぱり/うどん」等を使用する会社が他にも存在し、それぞれ商品の品質等として使用しているという取引の実情がある以上、被請求人による独占使用は取引秩序を破壊するものとして許されない。
イ 被請求人は、請求人が「ひっぱりうどん」は、日常の会話では単に「ひっぱり」とのみ称することも多い、と述べたことに対して、このことを客観的に裏付けるような具体的な証拠は何一つ提出されていない、と述べている。
しかしながら、請求人は「日常の会話では、」と強調しているのであり、このことは「釜揚げうどん」を単に「釜揚げ」、「ざるそば」を単に「ざる」等と会話するが如しである。
甲第14号証の書面でも明らかなように、「ひっぱりうどん」に親しんでいる人々にとっては、ただ「ひっぱり」と言っただけで「ひっぱりうどん」のことを意味し、認識することができるのである。その証拠に、平成10年3月に山形県の農産物に関する産地情報誌として発刊された「山形のうまいもの」(甲第16号証)の「郷土料理」の中に「ひっぱりうどん」が紹介されており、『鍋からうどんをひっぱってくるから・・・・納豆の糸が引くから・・・・で「ひっぱり」とか。別名ひきずりとも言う。』と記載されており、これによっても、単に「ひっぱり」と称されていることが明らかである。
(3)本件商標は、商標法第3条第1項第3号の規定に該当するものであるとしても、同法第3条第2項の規定により登録されるべきものである、との主張について
被請求人は、本件商標は、仮に商標法第3条第1項第3号の規定に該当するものであるとしても、既に使用の結果、自他商品の識別機能を具備しているものであるから、同法第3条第2項の規定により登録されるべき要件を有しているものであると主張する。
しかしながら、同法第3条第2項の規定適用の主張に関する自他商品識別力の有無の判断時期は、同法第3条第1項第3号から第5号までの規定により商標登録をすることができない商標登録出願は拒絶されるという趣旨から、過去の判決にも示されている通り、「査定時(審決時)」であると解され、解釈上も実務上も確立している見解である。それ故、同法第3条第2項の規定適用の主張は権利付与前に限られ、権利付与後には認められないと考える。すなわち、本件商標は、権利付与前に同法第3条第2項の規定の適用を受けていない以上、登録時に同法第3条第1項第3号違反の無効理由を有し、かつ、この無効理由は治癒されないものである。
なお、周知性・顕著性の主張・立証は識別性を獲得しているとされる同一商標及び同一商品に限られるものであるが、被請求人の提出した乙第13号証ないし同第151号証等に表示された商標は本件商標とは構成(書体、縦書き・横書き等)が相違するものであり、指定商品以外の商品についてのものも多数含まれており、周知性・顕著性の主張・立証のための資料としては不十分なものである。
(4)甲第6号証の成立性について
本件商標の出願日である昭和62年5月18日よりも前の昭和58年6月1日に発行された「山形県大百科事典」(乙第139号証)には「ひっぱりうどん」のことが記載されていない以上、本件商標の出願日より後の平成5年10月15日に発行された「新版/山形県大百科事典」(甲第6号証)に「ひっぱりうどん」のことが記載されていても、そのことをもって本件商標は商標法第3条第1項第3号の規定に該当するとすることはできないのか、という点については、いわゆる識別性の登録要件の判断は行政処分の原則に従い査定又は審決時を基準として行われるものであり、平成5年10月15日に発行された「新版/山形県大百科事典」は、本件商標の審決時である平成8年5月29日には存在しているものであるから、「山形県大百科事典」の存在を理由に「新版/山形県大百科事典」の成立が否定されるものではない。
しかるに、被請求人の提出に係る証拠方法中の「ひっぱりうどん」の商品写真等(乙第27号証、同第32号証、同第33号証、同第72号証、同第73号証、同第78号証、同第79号証、同第114号証)をみれば、「釜揚げ風」の文字表示と鍋からうどんを箸で「ひっぱり」上げている図形が表示されていることが明らかに見て取れる。そして、審判事件答弁書(2)の第11頁記載の「ひっぱりうどんは、ゆでたままの熱いおいしさを、お好みの具で召し上がっていただく釜揚げ風でして、・・・」とする宣伝内容は、請求人が提出した甲第6号証ないし同第8号証に説明されている「ひっぱりうどん」の食べ方とほぼ同じ内容である。このことより、被請求人自身、同人の隣県である山形県の地方で古くから特に寒い時期に食される「ひっぱりうどん」のことを知っていたのではないかと推察されるが、たとえ、そうでなくとも、「ひっぱり」の意味からして、うどんの食べ方を示すものとして使用開始したものと考えざるを得ない。
(5)本件商標は、「ひつぱり」であって、「ひっぱりうどん」ではない、との主張について
被請求人は、「本件商標は、『ひつぱり』であり、指定商品を『うどんめん』とするものである。」と主張しているが、被請求人目身は、本件商標を商品「うどんめん」について「ひっぱりうどん」という筆書き風の書体をもって一連に表示して使用しているのである(乙第27号証、同第28号証、同第32号証、同第72号証、同第73号証、同第78号証、同第79号証、同第87号証等及び甲第10号証)。(甲第10号証は、被請求人の乙第73号証写真の商品「ひっぱりうどん」の包装用袋写しである。)
それ故、本件商標が「うどんめん」についての「ひつぱり」であっても、被請求人の現実の使用態様や、山形県で食されている「ひっぱりうどん」という、うどん料理に用いられる「うどんめん」が現に製造販売されているところから、「ひっぱり」のみであっても、直ちに「ひっぱりうどん」を想起し、「ひっぱりうどん」の表示と同様の認識を与えることになるのである。
(6)「ひっぱリうどん」はうどんを用いた料理であって、「うどんめん」そのものではないこと、「ひっぱりうどん」は料理であって、商品としての「うどんめん」ではないから、商標法第3条第1項第3号に規定するところのその商品(うどんめん)の品質等とはいえない、との主張について
「ひっぱリうどん」は、山形県の、特に「村山地方」の人々に古くから親しまれ、食されている、「うどん料理」であり(甲第3号証、同第6号証ないし同第9号証、同第11号証)、「きょうは『ひっぱり』にしようか!」というように、日常の会話では、単に「ひっぱり」とのみ称することも多い。
平成11年3月18日にKKRホテル仙台にて開かれた審判延において、審判長から、いつ頃から「ひっぱリうどん」があるのかとの問いに対して、請求人の代理人として出廷した花輪良作(現在、請求人会社顧問)は、「いつ頃からということはわからないが、天童に生まれ、天童に育った私は、子供のころより食べています。」との説明をしたが、とにかく、「古くより」という言葉以外にはない歴史を持つ文化である。
甲第11号証として提出する「聞き書 山形の食事」にも「村山盆地の食」として「ひっぱりうどん」が紹介されている(第18頁、第40頁)。
山形県は、歴史的に「最上地方(最上エリア)」、「庄内地方(庄内エリア)」、「村山地方(村山エリア)」、「置賜(おきたま)地方(置賜エリア)」の4つの地域に分かれ、それぞれに特色をもった文化を形成しており、「村山地方」は、山形市、天童市など、山形の中心をなす地域である(甲第12号証)。
うどん料理である「ひっぱりうどん」は、特に、家庭で、寒い冬の暖かい食事として重宝されているもので、大きな鍋に湯をわかし、煮立ったところにうどんめんを直接入れ、煮えたらその鍋から「うどんをひっぱりあげて」、ねぎ納豆や好みの薬味を入れた各自の茶碗に取って食べるのである。
「ひっぱリうどん」は、煮立った鍋の中に直接うどんめんを入れて、煮ながら食するところから、煮崩れしない、腰の強い、煮込みに強いうどんめんが要求される。
請求人の商品を始め、甲第9号証の「ひっぱりうどん」及び甲第13号証として提出する「ひっぱりうどん」を製造している天童市の各製麺会社の「うどんめん」は、うどん料理「ひっぱリうどん」に適した腰の強いうどんめんである。
甲第9号証の「ひっぱりうどん」のうどんめんを製造している株式会社後藤製麺工場は、昭和57年秋に冬物商品として製造開始し、甲第13号証の萩原製麺工場は、昭和53年より製造している旨(いずれも本件商標の出願日よりかなり早い時期である。)の書面(甲第14号証及び同第15号証)と併せ、「ひっぱりうどん」が山形で古くから親しまれているうどんの食べ方であるという事実についても付け加えている。
したがって、「うどんめん」について「ひっぱリうどん」、若しくは、単に「ひっぱり」と称するときは、うどん料理である「ひっぱリうどん」に適している「うどんめん」であること、うどん料理である「ひっぱりうどん」用の「うどんめん」であることを認識することになり、「うどんめん」について「ひっぱり」若しくは「ひっぱりうどん」を使用するときは、単に商品の品質、材料、用途などを表示するにすぎないことになる。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第154号証並びに検乙第1号証ないし同第6号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標は、商品の品質等を表示する標章ではなく、又、その標章のみからなる商標でもなく、商標法第3条第1項第3号の規定に該当しないものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によりその商標登録は無効とされるべきではない。
(2)「ひっぱリ」と「ひっぱりうどん」について
「ひっぱリ」は、日本国語大辞典(乙第1号証)、広辞苑(乙第2号証)、大辞林(乙第3号証)、新潮国語辞典(乙第4号証)等にも記載されているように、「ひっぱること」の意義を有する語であって、広く一般に使用されている言葉である。
一方、「ひっぱりうどん」は、国語辞書(辞典)として一般によく知られている上記乙第1号証ないし同第4号証等の辞典類には全く記載されていない。
又、うどん(食品、麺類)に関する一般的な専門書、業界誌、雑誌類として、「総合食品事典」(乙第5号証)、「新・食品事典1 穀物・豆」(乙第6号証)、「日本の食文化大系15 うどん通」(乙第7号証)、「そば・うどん技術教本 第三巻 そば・うどんの応用技術」(乙第8号証)、「そば・うどん百味百題」(乙第9号証)、「そば・うどん第二十四号」(乙第10号証)、「めんクッキング」(乙第11号証)等の書籍には「釜揚うどん、手延うどん、ぶっかけうどん、稲庭うどん、讃岐うどん、水沢うどん、桐生うどん、大阪うどん、氷見うどん、伊勢うどん、打ち込みうどん、のっぺいうどん、耳うどん、コロうどん」等の記載はあるが、「ひっぱりうどん」については全く記載されていない。
甲第6号証の「新版山形県大百科事典」、甲第7号証の「味覚天国やまがた」、甲第8号証の「やまがた郷土料理」に「ひっぱりうどん」のことが記載されているが、これらのものは一般によく知られている書籍ではなく、又全て山形県に係る事項が記載されている書籍であって、その中で、「ひっぱりうどん」は山形県の一地方(村山地方)における家庭料理として示されているものであり、このように極く限られた一地域でのみ知られている程度である。
うどんは、我国における主食の一つであって、日本全国において広く使用されている食品であるから、このような食品においては、日本全国あるいは日本国内のある程度の範囲内で、少なくも隣県の宮城県や秋田県、福島県等でも知られていなければ、これを商品の品質等とすることはできない。
(3)「ひっぱりうどん」は、これを単に「ひっぱり」と略称して使用されてはいない。上記乙第1号証ないし同第11号証の書籍はもとより、甲第6号証及び同第7号証の書籍にも「ひっぱりうどん」が「ひっぱり」と省略されている記載は全くないし、又そのように一般に省略して使用されている事実もない。
請求人は、「山形県では『ひっぱりうどん』の語は後半の『うどん』を省略して単に『ひっぱり』としても日常一般に使用されており、」と述べているが、そのような事実は知らない。
このように、上記「ひっぱりうどん」は殆んど知られておらず、又「ひっぱりうどん」が「ひっぱり」と省略して使用されている事実もなく、しかも「ひっぱり」と「ひっぱりうどん」とは上記のようにその観念を全く異にするものであるから、この「ひっぱり」より上記「ひっぱりうどん」が想起されることはない。
したがって、本件商標は、商品の品質等を表示する標章ではなく、又その標章のみからなる商標でもないから、商標法第3条第1項第3号の規定には該当しないものである。
(4)本件商標は、被請求人が商品うどんについて昭和63年7月から現在に至るまで継続して使用してきたものであって、少なくとも平成4年中頃には、本件商標を表示した商品うどんは、取引者及び需要者間において、被請求人の商品であることを認識するほど周知著名となり、引続きその著名度を高めて現在に至っている。
したがって、本件商標は、仮に、商標法第3条第1項第3号の規定に該当するものであるとしても、既に使用の結果、自他商品の識別機能(自他商品識別力)を具備しているものである。
2 第1ないし第4弁駁に対する答弁
(1)本件商標が自他商品の識別機能を具備する点について
被請求人(有限会社松田製粉所)は、明治25年製粉業として創業し、現在においては製粉、乾麺の両部門の事業基盤を構築し、昭和62年7月に乾麺製造の専門家としてのノウハウを投入して新製品(商品)うどんめんを開発し、これに「ひっぱり」なる商標を付して発売した。平成7年12月に新製麺機を導入し、新ラインを稼動して(乙第16号証)、新製品として温麺やひやむぎ、そうめんを製造し、これに上記「ひっぱり」の商標を付して販売した。
ア 商標の使用態様及び商品
被請求人は、昭和62年の春頃に新商品を企画し、その試作、研究を行い、白石のうどんを基盤とする「ゆで上ったうどんめんをそのままつけ汁につけて食べる」いわゆる釜あげ風の腰のあるうどんめんを開発し、これに「ひっぱり」の名前を創作して付けた。
そこで、同年5月18日にこの「ひっぱり」を商標登録出願し(本件商標)、同年7月より新商品「うどん」にその「ひっぱり」の商標を付して製造・販売を開始した(乙第26号証ないし同第28号証)。なお、同年7月〜9月は本社の販売コーナー等で販売し、10月より販売網を用いて大々的に販売した。
また、平成2年9月頃に、乾麺としては一番太い(八番)「太うどん」を開発し、上記うどんの姉妹品として、これにも「ひっぱり」の商標を付して発売した(乙第29号証ないし同第33号証)。
平成4年3月には、上記うどんを平たくし、ざる食用の風味に仕上げた商品「ざるうどん」を創り、上記「うどん」、「太うどん」と一連のひっぱりシリーズとして、これにも商標「ひっぱり」を付して発売した(乙第34号証ないし同第38号証)。
なお、ひっぱりシリーズとして、平成1年10月には、商品「そば」を発売する(乙第39号証及び同第40号証)と共に、同8年1月には、商品「ひやむぎ」,「そうめん」,「温麺」をも発売した(乙第41号証ないし同第44号証)。
このように、上記商品「うどん」(太うどん,ざるうどんを含む)に「ひっぱり」の商標を付して販売している。その商標「ひっぱり」の表示方法は、「ひっぱり」と商品「うどん」(「太うどん」,「ざるうどん」)を縦に2列に表示し、ただし贈答用の箱詰の場合は列べた際にその表示が見えなくならないように「ひっぱり」と「うどん」を一連に表示し、又「太うどん」の「太」や「ざるうどん」の「ざる」の部分を挿入したり、その部分に異色を施こしたりして、その商標「ひっぱり」の部分と商品「うどん」(「太うどん」,「ざるうどん」)の部分を区分し、しかも商標登録の設定がされた後は「ひっぱり」の部分に「円輪郭内にRを表わしたもの」(以下「マルR」という。)を表示し、いずれにしても「ひっぱり」部分が被請求人の商標であることを認識するように表示した。
イ 販売方法及び販売地域
上記うどんは、各問屋、デパート、協同組合、観光品売店、自社の販店等で取扱い、主として宮城県、山形県、岩手県、秋田県、青森県、福島県の東北地方、北海道、関東地方、上越地方等に販売されている。
問屋としては、ヨークベニマル、イトーチェーン、ダイエ-等の取扱店を有し全国に販路を持つ株式会社菱食仙台支社(仙台市宮城野区扇町5-12-15)、スーパーウジエ、スーパーキクチ、八百フジ等の取扱店を有し主に宮城県と岩手県に販路を持つ株式会社千坂(宮城県遠田郡涌谷町字蔵人沖名169)、イトーヨーカ堂、スーパー北海屋、セブンイレブン、岡崎商店等の取扱店を有し東北地方、上越地方、関東地方に販路を持つ佐藤株式会社(福島県郡山市中町2-7)、スーパーウエルマート、生協、ジャスコ、つかさ屋等の取扱店を有し東北地方に販路を持つマル仙仙台海産物株式会社(仙台市若林区卸町1-3-1)、スーパーアサノ等の取扱店を有し東北地方の販路を持つ合資会社畑中本店(仙台市若林区卸町1-6-13)、みやぎ生協、スーパーサンマリ等の取扱店を有し東北地方に販路を持つ株式会社菅野食品(仙台市宮城野区幸町1-19-32)、スーパーエンドーチェ-ン等の取扱店を有し東北地方に販路を持つ株式会社エンドーチェーン(仙台市青葉区中央4一1-26)、北海道に販路を有する西野商事株式会社札幌支店(北海道札幌市白石区菊水9-3-1-24)や北海道中央食糧株式会社(北海道室蘭市築地町無番地)、東北地方に販路を有するカメイ株式会社(仙台市青葉区国分町3-1-18)(上記乙第13号証及び同第14号証)等がある。
又、上記商品は、十字屋(仙台店)、ビブレ(仙台店)、うすい百貨店(郡山市)、ダイエー(仙台中央店)、藤崎(本店・仙台市)、三越(仙台店)、セイヨー、カメイ、西友、サンフーズ、福島県庁消費グループ等の主要デパートやチェーン店等でも取扱われている(乙第45号証ないし同第71号証)。
観光品売店としては、七ケ宿森林組合売店(宮城県刈田郡七ケ宿町関136-1)、鎌先温泉1条旅館売店(白石市福岡蔵本鎌先1-48)、ふるさとプラザ東京(東京都渋谷区神宮前1-8-l0)(乙第72号証ないし同第74号証)等がある。
被請求人の有限会社松田製粉所は、大正5年12月8日設立した奥州白石温麺協同組合(宮城県白石市沢端町1-21)の組合員であり、現在理事として活躍しており(乙第75号証)、この協同組合が取扱うゆうパック等を通して上記商品を販売している(乙第149号証)。
また、上記商品は、みやぎ生協を通したりして販売している(乙第76号証及び同第77号証)。
被請求人会社は、発売当初より自社内に販売コーナー(乙第125号証)を設けて販売し、又平成7年春には、本社を新築した際に、販売コーナーを拡大すると共に大型観光バスで訪れる観光客へも十分対応できるように駐車場を完備した(乙第15号証及び同第123号証)。
ウ 宣伝広告の方法 商品の包装袋、包装箱及び包装紙等に、「ひっぱり」の商標と商品名「うどん(太うどん、ざるうどん等)」を表示した(乙第26号証ないし同第44号証、同第78号証ないし同第87号証)。
製品のご案内、贈答品のご案内として、各年毎に上記自社商品を表示したカタログ、パンフレット、チラシを配布した(乙第88号証ないし同第103号証、同第151号証)。
上記商品を取扱う十字屋、ピブレ、うすい百貨店、藤崎、三越、セイヨー、カメイ、西友、エンドーチェーン、サンフーズ、福島県庁消費組合等においても、その各社が発行するカタログに上記商標及び商品を表示している(上記乙第45号証ないし同第71号証)。
日本食糧新聞の広告欄に上記商品を紹介した(乙第104号証ないし同第113号証)。
その広告の中で、ひっぱりシリーズとして該商標を付した商品を紹介すると共に、当時の評判(売れてます、大好評、人気沸騰等)をも掲載した。
日本食糧新聞、河北新報及び読売新聞には、上記商品に関する記事が掲載されている(乙第21号証ないし同第26号証、同第29号証ないし同第31号証、同第34号証ないし同第37号証、同第39号証、同第41号証)。
平成4年(1992年)4月〜7月、同5年4月〜7月及び平成6年1月〜2月に、東北放送(TBC)より15秒のコマーシャル(156本)を流した(検乙第4号証、乙第140号証ないし同第145号証)。
その内容は、次のとおりである。
「さあ ひっぱり ひっぱり
ゆでたまま あついまま
好みのつゆや具で食べられる
クラウン印の釜あげ風ひっぱりうどん
あつい おいしさ そのまま
画期的に新発売
松田製粉のひっぱりうどん」
同様に、平成4年(1992年)4月〜7月及び同5年4月〜7月に、福島放送(RFC)より15秒のコマーシャル(35本)を流した(乙第146号証ないし同第148号証、同第143号証及び同第144号証)。
平成4年4月3日放送の東北放送(TBC)ラジオ番組「きょうも大盛りラジオで元気」において、上記商品をプレゼントした(検乙第5号証)。
その時の放送内容は次のとおりである。
「クラウン印でおなじみの松田製粉から新発売のひっぱりざるうどん 10袋を箱入りにして、2千円相当なんですが、10名様に差し上げます。
御好評をいただいておりますひっぱりシリーズの姉妹品でありまして、腰 があって しこしこ つるつる とした舌ざわりの一品です。
本当、腰があって。
やっぱりプレゼントするからには我々が食べてみなければ。
そうなのよね。
自信をもってお届けできるようにね。
おいしかったです。本当に。
おいしかった。本当に。
ご希望の方は、おハガキに、お所、お名前、お歳、電話番号をお書きの 上、お送り下さい。
宛先です。
郵便番号 980の91
仙台中央郵便局 私書箱166号
TBCラジオ『きょうも大盛りラジオで元気』
ひっぱりざるうどん プレゼント係までどうぞ。
締切は、9日木曜日到達分まで有効。
なお、当選者の発表は、来週金曜日のこの番組の中で行います。
こう暑ったかくなっていると、冷めたいものもいいですよね。つるつ るとね。」
平成5年6月16日の東北放送の「きょうも大盛りラジオで元気」の番組でも、上記商品がプレゼントされ、このことが次のように放送された(検乙第6号証)。
「今日は乾麺の産地白石のそれはそれはすばらしい空気と水にめぐまれた 松田製粉のオリジナルクラウン印 ひっぱりうどん詰合セット 2千円 弱のセットなんですが、これを10名様にプレゼントいたします。
ひっぱりうどんは、ゆでたままの熱いおいしさを、お好みの具で召し 上っていただく釜揚風でして、ファミリー風やあるいはお仲間でパァ-ッ とこう集まったときに、わいわいと楽しく食べていただいてもいいかと思 います。ひっぱりあげて楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。
今日はこのひっぱりうどん、ひっぱりざるうどん、ひっぱりそばをセッ トにしまして10名様にプレゼントいたします。
この松田製粉のひっぱりうどん、ひっぱりざるうどん、ひっぱりそばの 詰合セット、ご希望の方は、ハガキにあなたの お所、お名前、お歳、電 話番号をお書きの上、
郵便番号 980の91
仙台中央郵便局 私書箱166号
『きょうも大盛りラジオで元気』
ひっぱりうどん プレゼント係
ひっぱりは 平仮名、
うどんも平仮名
ひっぱりうどんプレゼント係としてお送り下さい。
締切は、来週の火曜日の到達分まで有効とさせていただきます。
当選者への発送は、来週水曜日23日になりますが、この番組の中で 当選者の方を発表いたします。
皆さんの御応募お待ちしております。」
新幹線白石蔵王駅構内(平成2年8月より)及びJR東北線白石駅構内(昭和62年11月より)に広告用パネル(案内板)を設け、このパネル(案内板)に上記商標「ひっぱり」を掲載した(乙第114号証ないし同第117号証、同第150号証)。
国道113号線(上下線)の滝の上地区(昭和62年11月より)、同国道(上下線)の石神地区(昭和62年11月より)、国道113号線に面する本社敷地内(昭和63年10月より)、同国道に面する本社敷地の角(平成元年2月より)、国道4号線バイパスの三本松地区にそれぞれ立看板を設置し、これらにも上記「ひっぱり」の商標を表示した(乙第118号証ないし同第124号証)。
1997年(平成9年)12月発行の「懸賞fan」に、上記商品が宮城県の特産品として紹介されており、その中で、上記商品を宮城県の美味として20名にプレゼントした(乙第126証)。
平成3年より毎年カレンダーを作成し、これに上記商標「ひっぱり」を表示している(乙第127号証及び同第128号証)。
エ 商品の評価,販売数量
上記商品「うどん」(「太うどん」、「ざるうどん」)は、約380年の歴史を持つ乾麺の産地奥州白石において、その地の清冷な空気と水の恵みをもとに、十分に吟味した小麦粉と、多量の加水でゆっくり練り上げてほどよく熟成させる独特の加工方法(多加水熟成めん)をもって作り上げたものであるので、ツルツルとしたなめらかな舌ざわりとシコシコした腰のある歯ごたえを持つ品質のものであるとして大好評を得、「ひっぱり」、「ひっぱり」と愛称され、指名買いされているほどである。
このようなことは、例えば、
〇平成元年10月25日付読売新聞に「好評の『釜あげ風ひっぱりうどん』」(乙第39号証)、
同2年10月l0日付読売新聞に「同社の人気商品の『ひっぱりうどん』」(乙第30号証)、
〇同3年5月15日付日本食糧新聞に「松田製粉所の一つの柱になりつつあるのが『ひっぱりうどん』。すっかり市場に定着し、温いのはもちろん、ざる用にも好評だ。(乙第31号証)、
〇同4年2月24日付日本食糧新聞に「『好評の『ひっぱり』シリーズのうどん、太うどん…」(乙第34号証)、
○同4年3月4日付河北新報に「釜あげ風うどんの人気商品『ひっぱりうどん』」(乙第35号証)、
○同4年3月4日付読売新聞に「新製法『多加水熟成めん』で味わい、のどごしが良い。」(乙第36号証)、
○同4年5月12日付日本食糧新聞に「同社を代表する商品に育った『ひっぱり』シリーズ(うどん、太うどん、そば)に3月から「ざるうどん」が加わり、戦力がアップしている。…いずれも標準品の価格設定ながら、品質では高級麺に劣らず、特に太うどん(八番)、ひっぱりうどん(一O番)は、高い評価をえて、指名買いされており、」(乙第37号証)、
○同7年4月29日付日本食糧新聞に「『ひっぱりシリーズ』(五品)同社を代表する顔になっている。」(乙第15号証)、
○同8年5月18日付日本食糧新聞に「ブランドが定着した”ひっぱりシリーズ”の…同社の柱に成長した ”ひっぱりシリーズ”の…」(乙第16号証)、
○同9年7月26日付日本食糧新聞に「商品では『ひっぱり』シリーズが卸、量販店でも定着し、同社の顔になっている。」(乙第129号証)、
○同9年10月10日付日本食糧新聞に「同社の柱商品『ひっぱりうどん』はコシがあり、煮くずれしない商品…」(乙第130号証)、
等と記載されている。
1992年(平成4年)7月1日発行の小冊子「aprontim エプロンタイム」では、「うどんの名産地に聞いたおいしいうどんの食べ方」の項目の中で、よく知られた稲庭うどん、羽二重うどんと共にひっぱりうどん(ざるうどん)が紹介されている(乙第131号証)。
昭和62年7月の発売から平成8年度末までの上記商品うどんの製造販売数量(乙第132号証ないし同第134号証)は、下記のとおりである。
昭和62年度
〜平成2年度 26,335ケース(526,700袋)
平成3年度 8,850ケース(177,000袋)
平成4年度 21,979ケース(439,580袋)
平成5年度 24,407ケース(488,140袋)
平成6年度 23,768ケース(475,360袋)
平成7年度 21,663ケース(433,260袋)
平成8年度 26,025ケース(520,500袋) 計 153,027ケース(3,060,540袋)
このように、上記商品は、昭和62年7月から平成3年末迄に年平均約8千〜9千ケース(約16万〜18万袋)、平成4年から平成8年末迄は約2.5〜3倍に増大して年平均約2万2千〜2万6千ケース(約44万〜52万袋)、合計約15万ケース(約300万袋)の売上を計上している。
オ 以上述べたように、商標「ひっぱり」を表示した商品うどん(太うどん、ざるうどん)は、昭和62年7月の発売以来、継続して新聞に掲載したり、ラジオにてコマーシャルを流したり、商品をプレゼントしたり、国道沿いに設置した立看板や駅構内に設けたパネルに表示したりして宣伝広告すると共に、各地に支店、営業所を有する問屋、デパート、生協、組合、ゆうパック等の販売網を通して良質のものを独特のネーミングをもって営業してきているので、平成4年度には前年度の約2.5倍と売上が増大し、その後もコンスタントに売上を計上しており、既に平成4年の中頃にはすっかり市場に定着し、「ひっぱり」として指名買いされるほどになっている。
したがって、本件商標は、取引者及び需要者の間において、既に平成4年中頃に(少くとも現在)被請求人の有限会社松田製粉所の業務に係る商品うどんを表示するものであると認識されるほどに周知著名となっている。
このことは、大正5年12月8日設立の「奥州白石温麺協同組合」(宮城県白石市沢端町1-21)(乙第135号証)、「白石市市長 川井貞一氏」(乙第136号証)、「白石商工会議所」(宮城県白石市本鍛冶小路13)(乙第137号証)、昭和33年7月1日設立され全国の乾麺協同組合を統一している権威ある「全国乾麺協同組合連合会」(乙第138号証)の証明によっても明らかである。
よって、本件商標「ひっぱり」は、使用の結果、自他商品の識別機能を既に具備している。
(2)甲第6号証について
甲第6号証は、平成5年10月15日初版の「新版山形県大百科事典」である。これは、新版であるので、その元となる昭和58年6月1日発行の「山形県大百科事典」(乙第139号証)を調べてみると、これにはどこにも「ひっぱりうどん」のことが記載されていない。
このことは、山形県の地元でさえも当時「ひっぱりうどん」のことがあまり知られていないことを示しているものである。
このように、地元である山形県でさえあまり知られていない「ひつぱりうどん」から、本件商標の「ひつぱり」が商品「うどんめん」の品質,加工の方法を表示しているということは到底いえないことである。
「うどんめん」のように一般需要者を対象とする商品においては、特に「ひっぱり」の商品「うどんめん」の品質、加工の方法を表示しているというのには、「ひっぱり」が一般需要者間でその品質、加工の方法と認識する程度に広く知られていることが必要である。
(3)本件商標が商品の品質等を表示する商標ではないとする点について
請求人は、商品の品質等とするにはどの程度知られていなければならないかにおいて、地域の特産品としての「うどん」については、ある地域のみで生産されてその周辺で流通する商品である以上、より狭い地域で知られていれば足りる旨主張する。
しかしながら、請求人が主張する「ひっぱりうどん」は、甲第6号証ないし同第8号証に示すように郷土料理(山形県内で料理として扱われている)であって商品として扱われている(商品として流通している)ものではないから特産品とはいえないものであり、この点において請求人の主張は理由がない。
甲第6号証の編集は山形放送株式会社であり、同第7号証の著者は山形県人であり、また、同第8号証の編集は山形県食生活改善推進協議会であって何れも山形に関係している者による記載事項であり、しかも甲第6号証においては、乙第139号証に示すように、昭和58年6月1日発行の初版本には「ひっぱりうどん」の掲載がなかったのであるから、この「ひっぱりうどん」は山形県内の一部において知られた郷土料理ということができる。
この程度の知られ方では、広く利用されているうどんにおいて、本件商標「ひつぱり」が我国で品質等を表示する商標として認識されたものであるとは到底いえない。
なお、甲第6号証の「新版 山形県大百科事典」は、本件商標が周知著名となった(平成4年中頃)後の平成5年10月15日に発行されているものである。
請求人は、過去の判決例として、「商品の普通名称とは、一地方において一定の商品につき需要者、営業者間に普通に使用されていれば足り、必ずしもすべての需要者、同業者に共通のものであることを要しない。」(大審明治40年7月8日民二判、明治40年(オ)264号)を挙げているが、この判決で大事なことは上記下線のように「商品につき…普通に使用されている」という条件を備えていることであり、このような事実のない本件においては、この判決例は適当ではない。
なお、これらに関するその他の判決例、審決例としては、
・「商品の普通名称を表示するということは、普通一般に取引上ひろく商品の名称として使用されていることを意味する。」(昭和29年8月30日東地判、昭和27年(ワ)6034号)
・「ある語を商品の普通名称であるというためには、それが商標として使用されたのではなく、商品自体の名称として普及、使用されていた事実が存在していなくてはならない。」(昭和35年7月5日東高民六判、昭和34年(行ナ)31号)
・「品質表示、用途表示であるというには、そうした使用の事実が現実に存在しなければならない。」(昭和28年6月29日審決、昭和27年審判214号)
・「商品の品質を表示するから顕著性を欠くというためには、現に品質の表示として取引上使用されている事実が明確にされなければならない。」(昭和29年8月7日審決、昭和28年審判367号)
等がある。
このように、商品の品質等を表示するものであるというためには、一般品質を表示する標章(商標)として認識されている程度に知られていることが必要である。
(4)本件商標は「ひつぱり」であって、「ひっぱりうどん」ではない点について
ア 本件商標は、「ひつぱり」について商標登録出願し、その「ひつぱり」について登録されたのであって、「ひっぱりうどん」について商標登録出願し「ひっぱりうどん」として登録されたのではない。
したがって、「ひっぱりうどん」が山形県の一地域の郷土料理として知られているとしても、本件商標「ひつぱり」は、「ひっぱりうどん」ではないから、商標法第3条第1項第3号に規定するところの品質等を表示する標章のみからなる商標とはいえないのであって、この規定には該当しない。
請求人は、甲第6号証ないし同第8号証の書籍において、「ひっぱりうどん」と記載されているのは書籍の性質上,省略して記載することを避けたものである旨主張する。
しかしながら、書籍は、事実を正確に表示することを使命としているのであるから、「ひっぱり」と省略されている事実があれば、「ひっぱり」と表示され、少くも「ひっぱりうどん」は「ひっぱり」と省略されることがある旨の表示をするのが普通である。
又、請求人は、「ひっぱり」と省略して使用されている事実として、請求人は「ひっぱり/うどん」を使用し、又請求人以外の会社も「ひっぱり/うどん」を使用している(甲第9号証)旨主張する。
しかし、そのような事実があるとすれば、それは本件商標権を侵害するものであって許されるべき行為ではない。
イ 本件商標は、「ひつぱり」であり、指定商品を「うどんめん」とするものである。
請求人が提出する甲第6号証ないし同第8号証に記載されているのは、「ひっぱりうどん」であって、「ひつぱり」ではなく、しかもこの「ひっぱりうどん」は、うどんを用いた料理であって、「うどんめん」そのものではない。
甲第6号証ないし同第8号証に記載の「ひっぱりうどん」は料理であって、商品としての「うどんめん」ではないから、この「ひっぱりうどん」は、商標法第3条第1項第3号に規定するところのその商品「うどんめん」の品質等とはいえない。
しかも、本件商標は、「ひつぱり」であって、「ひっぱりうどん」ではないから、商標法第3条第1項第3号に規定するところの標章のみからなる商標ともいえない。
(5)本件商標の周知性・顕著性についての主張、立証について
請求人は、「被請求人の提出した乙第13号証ないし同第151号証等に表示された商標は本件商標とは構成(書体、縦書き・横書き等)が相違するものであり、指定商品以外の商品についてのものも多数含まれており、周知性・顕著性の主張・立証のための資料としては不十分である。」と主張する。
しかしながら、被請求人の提出する上記各乙号証に示す使用商標は、殆どが商品「うどん」についての使用であり、しかも本件商標と使用商標は、共に平仮名の楷書体であって、ただ使用商標がやや太めの筆書きになっている(これも特別の書体ではなく通常の書体である)程度の違いであるから、この程度の相違であれば、判例(例えば、東京高裁 平成7年(行ケ)第88号)を示すまでもなく、その使用商標は、周知性・顕著性の面において、本件商標と同一性を有する商標の使用といえるものであって、周知性・顕著性を立証するのに充分である。
(6)被請求人の商品「ひつぱり」における商品表示について
請求人は、前記「2.弁駁に対する答弁 (1)の(ハ)宣伝広告の方法」中の平成5年6月16日の東北放送の「きょうも大盛りラジオで元気」の番組で放送された「ひっぱりうどんは、ゆでたままの熱いおいしさを、お好みの具で召し上っていただく釜揚風でして、・・・」とする宣伝内容は、請求人が提出した甲第6号証ないし同第8号証に説明されている「ひっぱりうどん」の食べかたとほぼ同じ内容である、と述べている。
しかしながら、被請求人の商品「ひっぱり」に記載されている図案及び文章は、被請求人が独自に考えたものであって、甲第6号証ないし同第8号証に記載される内容とは全く相違している。
請求人は、被請求人の商品「ひっぱり」が、釜揚げ風のものであるが故に、甲第6号証ないし同第8号証に記載されている説明と同様のものと判断したものと思われる。
(7)「ひっぱりうどん」料理が「ひっぱり」と略称されているとの主張について
請求人は、うどん料理である「ひっぱりうどん」は、日常の会話では単に「ひっぱり」とのみ称することが多く、又この「ひっぱりうどん」は「ひっぱり」として広く親しまれていると述べている。
又、甲第14号証の株式会社後藤製麺工場の書面には、「ただ『ひっぱり』と言っただけで当地方では『ひっぱりうどん』のことを意味していました。」と記載されている、
しかしながら、請求人は、ただ単に「ひっぱりうどん」料理が「ひっぱり」と称されていると述べているだけであって、このことを客観的に裏付けるような具体的な証拠は何一つ提出されていない。
したがって、「ひっぱりうどん」料理が「ひっぱり」と略称されている事実はないと確信する。
(8)「ひっぱりうどん」料理用の「うどんめん」について
請求人は、「ひっぱりうどん」には、煮崩れせず、腰が強くて煮込みに強いうどんめんが要求されると述べているが、腰の強いうどんめんは、必ずしも「ひっぱりうどん」料理のみに用いられるものではない。
古くから、よく知られている釜揚げうどんにも、この腰の強いうどんめんが用いられている。
また、うどんめんには、上記のような釜揚げ用のうどんめんもあれば、「ざるうどんめん」もあり、又細いめんの「ひやむぎ」等もある。
そして、この中の「ざるうどんめん」や「ひやむぎ」等は、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「うどんめん」である。
即ち、被請求人は、上記「ざるうどんめん」及び「ひやむぎ」について、その包装用袋の裏面に、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「ざるうどん」及び「ひやむぎ」の作り方・食べ方を表示し、腰の強いうどんめんをこれらの商品に使用している(乙第152号証〜乙第154号証、これらの乙号証はそれぞれ乙第28号証、乙第38号証、乙第42号証の写である)。
なお、被請求人は、上記釜揚げ用の「うどんめん」と同様に「ざるうどんめん」や「ひやむぎ」等の「うどんめん」にも、本件商標「ひっぱり」を付して「ひっぱり」印として使用している。
また、甲第10号証に示す商品「うどんめん」は、被請求人が製造販売するものであるが、その包装用袋の表面に「釜あげ風」と表示して通常の「釜あげうどん」として使用する「うどんめん」であることを示すと共に、「夏はざるうどんでお召し上がり下さい。」と表示して、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「ざるうどん」にも使用する「うどんめん」であることを示している。
なお、この包装袋裏面に、うどんめんの具として「魚類缶詰(例・ツナ、さば缶詰等)」のことを表示しているが、このようにうどんめんの具としてツナ、さば缶詰を用いたのは、被請求人が最初であって、これは被請求人のオリジナル商品である。
更に、請求人もまた、商品「ひっぱりうどん」(甲第3号証)について、その包装用袋の裏面に表示してあるように、「ざるうどん」の「うどんめん」として用いている。
このように、腰の強いうどんめんは、「ひっぱリうどん」料理用として使用する以外に「ざるうどんめん」や「ひやむぎ」等の「うどんめん」としても使用することができるものであって、その用途が「ひっぱりうどん」料理用の「うどんめん」のみに限定されるものではない。
(9)甲第11号証について
甲第11号証の「聞き書 山形の食事」の書籍には、「ひっぱりうどん」のことが記載されているが、この書の中で、「ひっぱりうどん」は、村山盆地の食事として紹介され、その村山盆地は最上川中流域とその支流の流域にひらけた村山地方と述べているから、これは山形県の村山地方という一地域を示すものである。
なお、この書の中に「ひっぱりうどん」のことが記載されているとしても、この書が商品の品質等を表示する程に広く知られたかは不明である。
(10)村山地方について
請求人は、「村山地方」は山形市、天童市など山形の中心をなす地域であると主張し、甲第12号証を提出している。
しかしながら、「村山地方」は、最上川中流部流域とその支流の流域にひらけた村山地方を言うのであって、村山地方には天童市が入るとしても山形市は入らないから、村山地方が山形の中心をなす地域であるとは言えない。
甲第12号証に示す村山地方は、山形県を便宜上4つのブロックに分割するために表示されているものであって、この村山地方と、「ひっぱりうどん」料理が紹介されている村山地方とは実質的に相違するものである。
甲第9号証及び甲第13号証〜甲第15号証に示す株式会社後藤製麺工場及び萩原製麺工場は、共に天童市に所在し、又請求人も天童市の隣りの東根市に所在しており、これらの会社は何れも天童市及びこれに隣接する地域にあって山形市に所在するものではないし、また請求人は、天童市の隣りの東根市に所在しながら、「ひっぱりうどん」料理のことを知らずに「ひっぱりうどん」について商標登録出願をしたのであるから(乙第12号証)、このことからも村山地方は、山形の中心をなす地域ではなく、上記したようにある限られた地域であることは明らかである。
(11)甲第3号証、甲第9号証及び甲第13号証〜甲第15号証について
請求人は、請求人と株式会社後藤製麺工場及び萩原製麺工場は、「ひっぱりうどん」料理用の「うどんめん」に「ひっぱりうどん」の表示をして製造販売している旨主張し、先に提出した甲第3号証及び甲第9号証と共に甲第13号証〜甲第15号証を提出している。
しかしながら、上記甲第3号証、甲第9号証及び甲第13号証〜甲第15号証に示す商品はいつから製造販売されているのか、その時期(審決時前であるのか)が重要であるところ、甲第3号証、甲第9号証及び甲第13号証の各商品については何の記載もなく(なお、甲第3号証の商品は、これに賞味期限’98.4と表示されていることから平成9年に製造されたものと、また甲第9号証の商品は、賞味期限98.11と表示されていることから平成9年または平成10年に製造されたものと、更に甲第13号証の商品は、その製造販売者萩原製麺工場の電話番号の表示より市外局番が平成10年2月1日に4桁から3桁に変更されたことから平成10年に製造されたものと推測されるが、何れにしてもこれらの商品は本件審決時後に製造されたものであることは、明らかである。)、また甲第14号証には昭和57年秋より製造と、更に甲第15号証には昭和53年より製造と単に述べているだけで、これらの事実を客観的に裏付けるような具体的な取引書類等の証拠は何ら提出されていないから、上記の時期より「ひっぱりうどん」料理用の「うどんめん」に「ひっぱりうどん」の表示をして製造販売しているという事実は不明であり、これによってその事実を証明したことにはならない。

第4 当審の判断
1 本件商標
本件商標は、「ひつぱり」の文字を同じ書体、同じ大きさで縦書きに表してなるものである。
ところで、乙第1号証(「日本国語大辞典」株式会社小学館、昭和50年9月1日第1版第1刷発行)、乙第2号証(「広辞苑」株式会社岩波書店、1991年11月15日第4版第1刷発行)、乙第3号証(「大辞林」株式会社三省堂、1995年11月3日机上版第2刷発行)及び乙第4号証(「新潮国語辞典 現代語/古語」株式会社新潮社、昭和57年10月25日新装改訂版第1刷発行)の各「ひっぱり」の項によれば、該文字は、「ひっぱること」の意味を有する語として、一般によく知られているということができる。
しかして、本件商標は、構成中の第2文字目の「つ」が促音「っ」でなく表しているところであるが、前述のとおり、「ひっぱり」がよく知られた語といえるから、本件商標に接する需要者も、これを「ヒッパリ」と称呼し、「ひっぱること」の意味を有するものとして一般に理解、認識するものというのが相当である。
2 「ひっぱりうどん」について
甲第6号証(「新版 山形県大百科事典」山形放送株式会社、平成5年10月15日初版発行)によれば、「郷土料理」の項に《ひっぱりうどん》として「鍋で煮たうどんをそのまま、つゆの中に入れて食する。つゆには卵・納豆・ねぎ・せりが入っている。寒い冬の食べ方。」との記載、甲第7号証(「味覚天国 やまがた」(風巻義雄著者、昭和34年6月15日初版発行)によれば、「雪割納豆、ひっぱりうどん」の項に「ひっぱりうどんは、納豆汁と対照的なあっさりしたもので、村山地方の、いわば一種の釜揚げうどんという家庭料理である。茶碗に醤油(煮出汁ならなおよい)と納豆を中心に生玉子、かつぶし、みじん切りの糸葱を入れてつゆをこしらえ、一方手打ちうどんを煮立った湯に入れて、茹でながら鍋釜から引っぱり上げて、茶碗のつゆ(煮汁)にたっぷりと浸してたんまりと食べる。・・・」との記載、甲第8号証(「やまがた郷土料理」山形県食生活改善推進協議会、昭和61年3月発行)によれば、「ひっぱりうどん」の作り方が紹介されており、「参考」として「寒い冬、うどんの大鍋を囲んで、フーフー、ズルズルと音をたてながら食べると自然に体が温まってくる。・・・料理の中に、納豆、卵のたん白質、野菜、主食が組み込まれ、大変すばらしい食べ方ではなかろうか。うどんとともに食べる具は、その時々や好みによって変わり、鯖缶詰、酢、おろしにんにくなどが加わることもある。・・・」との記載、甲第11号証(「聞き書 山形の食事」社団法人農山漁村文化協会、昭和63年10月25日第1版発行)によれば、「村山盆地の食」の項に「ひっぱりうどんは、冬、ごはんが足りないときにごはんのおぎないとしてつくったり、おかずが足りないときはおかずの補いとしたりする重宝な食べものである。大きななべに湯をわかし、煮立ったところへうどんを入れ、煮えたら各自が茶碗どんぶりに盛って、ねぎ納豆をかけて食べる。手間がかからず、主婦にとってもありがたい、冬のあったかい食事である。」との記載、甲第16号証(「山形のうまいもの」山形県農産物マーケティング推進協議会、平成10年3月発行)によれば、「郷土料理」の項に「ひっぱリうどん」として、「西村山地方の大江町や西川町などの冬の名物料理。釜揚げ式に、掛けた鍋から、じかにアツアツのうどんを取り分けて食べる。」との記載を認めることができる。
そうとすれば、「ひっぱリうどん」は、山形県の郷土料理の一で「大きな鍋でうどんを茹で、そのまま鍋から引っぱって、好みの具(納豆、ねぎ等)で食する。」もので、村山地方におけるうどんの食べ方の名称として、山形県及びその近県においては、本件商標の設定登録時(平成8年11月29日)以前から知られていたとみるのが相当であって、このことは本件商標の設定登録日以降も引き続いているということがいえる。
3 「ひっぱリうどん」の自他商品の識別性について
(1)「ひっぱリうどん」は、前記2のとおり、山形県の郷土料理の一で「大きな鍋でうどんを茹で、そのまま鍋から引っぱって、好みの具(納豆、ねぎ等)で食する。」もので、村山地方におけるうどんの食べ方の名称として、山形県及びその近県においてよく知られていたとみるのが相当である。
そして、商標法第3条第1項第3号でいう「品質、原材料、用途」等というのは、通常、商品を取引過程に置く場合に必要な表示であるから、取引上何人もこれを使用をする必要があり、かつ、何人も使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないということから、この表示は、日本全国においてまで知られていることは必要でなく、一地方において「品質、原材料、用途」等表示となっていれば足りると解するのが相当である。
(2)被請求人は、「ひっぱリうどん」は、山形県内で料理として扱われている郷土料理であって、商品として流通してしているものではない旨主張している。
しかしながら、請求人提出の甲第3号証(製造元請求人の品名「うどん」、内容量360gの包装用袋裏面、賞味期限98.4)には、「●おいしい『うどん』の召し上がり方 ひっぱりうどんは“うどん本来の豊かな味わい”ゆでたてのアツアツうどんを『鮭缶』又は『さば缶』に納豆、ネギ等を入れ濃い目のつけ汁でお召し上がりください。」との記載、甲第9号証(製造元株式会社後藤製麺工場製造の品名「干しうどん」内容量400gの包装用袋裏面、賞味期限98.11)には、「ひっぱりうどんの簡単な召し上がり方 1.大きめの鍋でたっぷりとお湯をわかします。2.沸騰したらうどんをバラバラと入れ、軽くかきまぜながら約9〜10分位ゆでます。3.ゆで上がりましたら鍋ごと食卓へ出して下さい。(ゆで汁はすてないで下さい。)用意したお好みの具(ねぎ納豆・のり・かつお節・卵・ツナ・さば缶など)にしょうゆ又はめんつゆを入れ、熱々のうどんを鍋からはしでひっぱりながらお召し上がり下さい。」との文字が三人の男性が鍋を囲んで食べている図形等と共に記載、甲第13号証(萩原製麺工場製造の品名「ひっぱりうどん」内容量250gの包装用袋裏面)には、「《上手な茹で方》一人前約100g 麺が泳ぐような大きなナベにお湯を入れ、充分沸とうしたら麺をバラバラと入れ、よくほぐして茹でます。ひっぱりうどんにして召し上がる時はかため(約5分)に茹でます。」との記載が認められる。
また、被請求人も自己の製造販売に係る商品と認める甲第10号証(製造発売元被請求人の品名「干しうどん」、内容量260gの包装用袋裏面)には、「ひっぱりうどんの簡単な召し上がり方 1.たっぷりの沸騰した湯で、めんを約9〜10分ゆでます。2.ゆで上がりましたら鍋ごと食卓へ出して下さい。(ゆで汁はすてないでそのまま)3.魚類缶詰(例・ツナ、さば缶詰等)、揚げ玉、卵、納豆(ねぎ、のり、かつお節)等、お好みの具を用意します。「めんつゆ」又は「しょう油」も用意して下さい。4.各々の器に、お好みの具とつゆを入れ、熱々のめんを箸で鍋からひっぱり(取り)ながらお召し上がり下さい。」の文字が鍋からうどんを箸でひっぱり上げている図形等と共に記載されていることが認められる。
そうとすれば、甲第3号証、同第9号証に示されている賞味期限(98.4及び98.11)及び被請求人が昭和62年7月より商品「うどん」に「ひっぱり」の商標を付して製造、販売したとの主張を総合勘案すれば、「ひっぱりうどん」用又は「ひっぱりうどん」に適した商品「うどんめん」が、少なくとも本件商標の登録時には製造、販売されていたと容易に推認できるから、商品として流通していないという被請求人の主張は採用できない。
被請求人は、乙第152号証(製造発売元被請求人の品名「干しうどん」、内容量300gの包装用袋裏面)、乙第153号証(製造発売元被請求人の品名「干しうどん」、内容量260gの包装用袋裏面)、乙第154号証(製造発売元被請求人の品名「ひやむぎ」、内容量260gの包装用袋裏面)を提出し、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「ざるうどん」「ひやむぎ」の作り方・食べ方の図、文字を表示し、この「ざるうどん」「ひやむぎ」は、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「うどんめん」であり、また、甲第10号証(製造発売元被請求人の品名「干しうどん」、内容量260gの包装用袋表面)には、「釜あげ風」と表示して通常の「釜あげうどん」として使用する「うどんめん」であることを示すと共に、「夏はざるうどんでお召し上がり下さい。」と表示して、「ひっぱりうどん」料理とは全く違う食べ方をする「ざるうどん」にも使用する「うどんめん」であることを示していると述べている。さらに、請求人提出の甲第3号証(製造元請求人の品名「うどん」、内容量360gの包装用袋裏面、賞味期限98.4)にも、「●涼味「ざるうどん」さわやかな味わい ゆで上がった麺を冷水で洗い後水切りし、つめたくしてのり、ねぎ、青じそ等薬味を用意してお好みのつけ汁でお召し上がり下さい。」と表示してあるように、「ざるうどん」の「うどんめん」として用いていると述べている。
しかしながら、たとえ、「ざるうどん」用としての「うどんめん」としての用いられ方が表示されている(甲第3号証及び同第10号証)としても、同時に「ひっぱりうどん」用としての「うどんめん」としての用いられ方が表示されている以上「ひっぱりうどん」用又は「ひっぱりうどん」に適した商品「うどんめん」として製造、販売されているとの認定を覆すことはできない。
(3)そうとすれば、「ひっぱりうどん」用又は「ひっぱりうどん」に適した商品「うどんめん」について、「ひっぱりうどん」と一連に読むことのできる構成態様で表わした文字は、商品の品質、用途を表示したものと認識されるというべきで自他商品の識別機能を有するものとは認められないものである。
被請求人提出の乙号証(乙第27号証、同第32号証、同第33号証、同第38号証、同第42号証等)中には「ひっぱり」と「うどん」の文字の間に「マルR」の記号を付していることが認められるが、「マルR」は、日本において登録商標の表示として公認されている法定形式ではなく(商標法第73条、同法施行規則17条)、全体として「ひっぱりうどん」と一連に読むことのできる場合には、これが付されているとしても、前記判断を左右するものではない。
したがって、請求人及び被請求人の提出に係る各号証において、商品「うどんめん」について、「ひっぱりうどん」と一連に読むことのできる構成態様で表わした文字部分は、いずれも商品の品質、用途を表示したものであって、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができず、自他商品の識別機能を有するものとは認められないというのが相当である。
4 「ひっぱリうどん」は、「ひっぱリ」と略称されているか。
請求人は、山形県では、「ひっぱりうどん」の語は後半の「うどん」を省略して単に「ひっぱり」としても日常一般に使用されており、「ひっぱり」と言えば、直ちに「ひっぱりうどん」を想起するほどである。このことは、「かまあげうどん」(ゆでたうどんを釜から揚げ、熱湯と共に器に入れ汁をつけて食べる料理)は単に「かまあげ」と略称され、「ぶっかけそば」(汁をかけたそば)は単に「ぶっかけ」と略称される等々、商品の普通名称は省略されるという一般的な例からも裏付けられる、と主張している。
しかしながら、前記2のとおり、「ひっぱリうどん」は、山形県の郷土料理の一で、村山地方におけるうどんの食べ方の名称として知られているとしても、これを単に「ひっぱリ」と略称しているとの書証は甲第16号証(「山形のうまいもの」山形県農産物マーケティング推進協議会、平成10年3月発行)の「ひっぱリうどん」の項の後半において、「・・・納豆の糸が引くから・・・で『ひっぱり』とか。別名ひきずりとも言う。」との記述のみであるところ、これは本件商標の設定登録日より後の発行に係るものであり、他に略称されるとの記述が掲載されている書証はなく、また、「ひっぱリ」が前記1のとおり、「ひっぱること」を意味する語として、一般によく知られている点を考慮すれば、「ひっぱリ」の文字から直ちに「ひっぱリうどん」を想起するとは認め難いところである。
なお、請求人は、「かまあげうどん」や「ぶっかけそば」が単に「かまあげ」、「ぶっかけ」と略称されていると述べているが、これら「かまあげ」、「ぶっかけ」は、いずれも「広辞苑」に掲載されているほどの一般に親しまれている略称であり、本件をこれらと同列に扱うことはできないというべきである。
5 むすび
本件商標は、前記1のとおり、「ひつぱり」の文字を同じ書体、同じ大きさで表してなるものであって、「ひっぱること」の意味を有する語として、一般によく知られているということができるものであるから、その指定商品「うどんめん」について使用しても、直ちに該商品の品質、用途等を普通に用いられる方法で表示したものと認識、理解されるということはないといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-04-02 
結審通知日 2002-04-05 
審決日 2002-04-16 
出願番号 商願昭62-53826 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (132)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴田 良一鈴木 幸一 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 滝沢 智夫
中嶋 容伸
登録日 1996-11-29 
登録番号 商標登録第2717943号(T2717943) 
商標の称呼 ヒツパリ 
代理人 川村 恭子 
代理人 亀川 義示 
代理人 佐々木 功 

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