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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 014
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 014
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 014
管理番号 1051988 
審判番号 無効2000-35209 
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-19 
確定日 2001-12-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4185888号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4185888号商標(以下「本件商標」という。)は、「ラムタラ」と「RAMUTARA」の文字を二段に併記してなり、平成8年12月19日に登録出願され、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶及び水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,身飾品(「カフスボタン」を除く。),カフスボタン,宝玉及びその模造品,宝玉の原石,時計,記念カップ,記念たて」を指定商品として、平成10年9月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」と申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第52号証(枝番号含む。)を提出した。
1.本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第8号に該当するので、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきである
2.請求の理由
(1)「ラムタラ」の周知、著名性
「ラムタラ」は、欧州3大レースを制覇し出場全レース優勝という奇跡的戦跡を残し、「神の脚」、「奇跡の馬」と称される世界の名馬である。「ラムタラ」は平成8年10月、我が国に輸入され、現在北海道日高の静内で種馬生活を送っており、我が国から日本のサラブレッドさらには世界の競馬界の血統に新風を吹込む名馬の産出が期待されている。
請求人、株式会社ジェイエスは、北海道静内郡静内町本町1丁目2番1号に所在する馬の商社で、ラムタラシンジケート「ラムタラ会」(以下、単に「ラムタラ会」という。)を組織している。「ラムタラ会」は、北海道静内郡静内町字真歌420所在の矢野秀春(株式会社ジェイエスの代表取締役)他約40名からなる。
「ラムタラ」は、アラビア語で「神の見えざる力」に由来し命名され、世界の競争馬、さらには他の名称としても類例のない顕著な名前であって、あるいは、商品の標章などとして一般的に採択されている用語ではない。本件商標が請求人の名馬「ラムタラ」にちなんで採択されたものであることは明白である。「ラムタラ」は、1992年(平成4年)米国産、栗毛の牡馬、父はダービーなど英国3冠レ一スを制した「ニジンスキー」、母は英国オークス馬「スノーブライト」という超良血馬であり、1994年(平成6年)8月、3歳夏の準重賞レ一スでデビュー、初戦を優勝で飾るという衝撃的なデビューを果たし、1995年(平成7年)6月10日、デビュー2戦目で英国ダービー(G1)に挑戦。デビューして2戦目という実績から一部を除き期待されていなかったが、大方の予想を覆して59年ぶりといわれるレコードタイムを更新して優勝し一躍世界に知られるに至った。
さらに、英国のキングジョージ六世&クイーンエリザベスステークス、フランスの凱旋門の大レースにも勝ちデビュー以来、4戦4勝の戦跡を残し引退した。デビューからわずか4戦で欧州3大レースを全て制覇するという神がかり的な成績を残した。
「ラムタラ」は、静内の生産者を中心に37牧場と11人の馬主で構成する日高のシンジケート「ラムタラ会」により購入された。「ラムタラ会」は、繁殖牝馬を持つ生産者や馬主が共同出資して種馬を買い、種付け権を得るシステムで、「ラムタラ」は同会の共同所有になっている。
「ラムタラ」の輸入は平成8年6月27日発表され、競馬界、スポーツ界を中心に大きな話題となった。その報道が「日刊スポーツ」「スポーツニッポン」「サンスポ」などの各誌に大々的に掲載された。国際的な名馬「ラムタラ」の我が国への導入は夢と想われておりその実現は我が国の各界に大きな衝撃を与えた。約33億円といわれる購入価格も話題をよび、「ラムタラ」の話題は競馬界、スポーツ界のみならず一般紙によっても広く報道された。
甲第2号証ないし同第24号証の新聞記事、甲第25号証ないし同第34号証の雑誌記事は、全国各地のスポーツ紙、一般紙に「ラムタラ」の記事が報道された一例を提示するものである。
以上のとおり、「ラムタラ」といえば請求人グループの所有に係る世界的な名馬の名前として、本件商標が出願された平成8年12月19日以前において広く知られていたことが明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号の適用
a.本件商標は、前記に示すとおりの構成よりなるものであるから、構成文字に相応して「ラムタラ」の称呼を生ずるものと認められ、これが請求人及び「ラムタラ会」の所有にかかる「ラムタラ」と共通することはいうまでもない。
よって、本件商標は、請求人の「ラムタラ」と外観及び称呼において近似し、これらが同一、類似することが明白である。
b.本件商標の指定商品は上記に示すとおりであるが、有名な競争馬の名前を各種商品の商標として使用する商品企画、商品展開が一般的なものとなっている。
したがって、本件商標が各種商品の商標として使用されると、当該商品は請求人らの業務、その取扱いにかかる商品、その許諾を受けて展開されている商品のごとく理解され紛らわしく混同を生じるおそれがあることが明白である。
c.名馬の名前を商標として使用する商品企画、商品展開の一例として甲第35号証を提示する。馬主の許諾を得て有名な競争馬の名前を商標として使用する各種商品が示されている。
これらの競争馬の名前は当該馬の所有者の利益に係る。商品の展開に際しては、必ず当該馬の所有者自らが事業化を行い、あるいはそれより使用の許諾を得て初めてこれを実施している。
実際の経済市場において、自らの所有に係る有名な競争馬の名前を標章に使用するいわゆる商品化権としてかかる権利、利益が尊重されている。
「ラムタラ」の商品化についても甲第42号証に示すごとく同様に申込みがなされている。「ラムタラ」は、請求人グループの許諾を得て初めてその使用が認められるところである。
名馬の名前は馬主の利益に帰するとして、馬主に無断で馬名を使用した事例について、無断で馬名を使用した者に対し馬主に損害賠償を認める判決がなされている(名古屋地方裁判所平成12年1月19日判決、甲第48号証、甲第49号証)。
よって、商標権者により本件商標がその指定商品について使用されれば、これに接する取引者、需要者は、かかる商品は、請求人あるいはそれらと何等かの関係を有する者の取り扱いに係る商品、あるいは許諾を受けている商品であるごとく、その出所について混同を生ずるおそれが大きく、馬主の当該馬名に化体した財産的価値が損われる。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号の適用
a.上記のとおり、「神の脚」、「奇跡の馬」と称し讃えられる名馬「ラムタラ」の名前は、本件商標の出願前から世界的な周知、著名性を獲得していた。
「ラムタラ」は、「神の見えざる力」を意味するアラビア語であって、これが一般的な用語であったり、商標として頻繁に採用されているありふれた用語というものではないから、本件商標が、請求人グループが所有する名馬「ラムタラ」とは無関係に採択され偶然に一致したということは考えられない。
そうとすれば、かかる商標の出願及び登録は、請求人及び「ラムタラ会」の標章「ラムタラ」を無断で使用し、その有する高い財産的価値を盗用、剽窃する行為であり、商標法の目的とする産業の健全な発達を妨げ、公正な競争秩序、善良の風俗に反し、本件商標は公序良俗に反する商標として商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第8号の適用
上記のとおり、名馬「ラムタラ」は、本件商標が出願された平成8年12月以前に我が国においても広く知られ、「ラムタラ会」の名称、あるいはその略称「ラムタラ」も著名なものとなっていた。
そして、本件商標は、請求人及び「ラムタラ会」に無断で出願されたものである。勿論、本件商標の出願及び使用に関してこれらが承認を与えた事実はない。
ここにおいて、本件商標が上記著名な名称及びその略称「ラムタラ」を含むことは明白である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第8号にも該当する。
(5)利害関係の存在
請求人は、本件商標が使用されることにより、請求人の「ラムタラ」に化体する業務上の信用が毀損される事態を防止し、業務上の信用の維持を図るため、本件商標を無効にする必要がある。
さらに、請求人は、商標「Lammtarra/ラムタラ」について登録を取得すべく、商願平9ー118642号(審判平成10年第20534号)、商願平9ー118644号(審判平成10年第20535号)を出願している。出願係属中のこれら各出願については原審において本件商標が引用されて拒絶され現在不服審判に係属している。
よって、請求人が自ら商標を登録するためには本件登録を無効にする必要があり、請求人は本件無効審判を請求するにつき、利害関係を有する者である。
3.答弁に対する弁駁
被請求人の主張は、形式的な一般論であるにとどまり、本件事案に関する具体的な反論や反証を一切行っていない。
答弁書の主張は合理的な根拠を欠くものであって、認められない。
請求人は、本件商標は請求人の名馬「ラムタラ」より採択されたものであることは明白である旨主張しているが、この点に関して被請求人は一切の反論及び反証を行っていない。
被請求人は、「ラムタラ」の著名性を否定し、「ラムタラ」は愛好家向けのスポーツ新聞、又は競馬雑誌に掲載されているにすぎない、外国で出走していたとして、我が国においては著名ではないと主張するが、甲第2号証ないし甲第14号証は、一般向けのスポーツ新聞であるし、甲第15号証、甲第16号証は「毎日新聞」、甲第17号証は「日本経済新聞」というように、いずれも一般を対象とする刊行物であって、我が国において刊行された出版物である。被請求人のこの点に関する反論はその合理的根拠を欠く主張である。
被請求人は、甲第48号証、甲第49号証における馬名にパブリシテイ権を認める判決についても、その適用を否定されるが、社会的に尊重され裁判所においても保護されている馬名について、他人の盗用を認める本件商標の
登録と、上記判例に示される理念とでは、いずれかが正当であるか自ずから明かなところである。
被請求人は、答弁書における「結論」として、「ラムタラ」の周知、著名性を否定し、本件商標の指定商品と関連がないとして混同のおそれはないと主張するが、被請求人が何等の説明も行わず自ら認めるように(擬制自白により)、本件商標は、請求人の馬名を模倣、盗用して自らの商標として採択したものである。
被請求人も認めるとおり甲第14号証、甲第17号証には、「ラムタラ会」の名称が示されている。商標法第4条第1項第8号の適用に際しては、当該保護主体の著名性は要件ではない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1.商標法第4条第1項第15号に該当しないことについて
(1)標章「ラムタラ」の著名性について
請求人は、「ラムタラ」が、請求人の所有に係る標章として(本件商標の出願時以前に)著名になっていた、と主張し、その著名性を立証するものとして甲第2号証ないし同第34号証を提出している。
請求人の所有に係る標章とはどういう意味であるのか不明であるが、請求人の業務に係る商品(又は役務)についての標章という意味であれば、請求人がこの標章を使用している証拠は何等提出されていない。
また、競争馬(種馬)の名前としての「ラムタラ」の著名性についても、我が国の一般需要者・取引者間で、本件商標の出願時及び査定時にこの馬名「ラムタラ(Lammtarra)」が広く知られていたとは言えない。
まず、甲第2号証ないし同第15号証はいずれもこの馬の輸入決定時(平成8年7月頃)にこの話題を採り上げた新聞記事であり、甲第16号証ないし甲第19号証はこの馬が実際に輸入された時(平成8年10月)にその話題について述べた新聞記事である。また、甲第25号証ないし同第33号証は、この馬の輸入の話題に併せて輸入者やその周辺の競馬界の話題を採りあげた雑誌記事である。なお、甲第20号証ないし同第24号証及び第34号証は本件商標の出願後に発行された新聞・雑誌の記事であるが、これらの記事にしても、馬の輸入という話題とともにその後の種馬生活について言及しているにすぎない。
このように、これらの新聞・雑誌(甲第2号証ないし同第34号証)は、購入価額が高額ゆえに話題性ありとして一時的にこの話題を採りあげているにすぎない。そして、これらの輸入に関する記事のほかには、同馬の名前の著名性を立証する証拠は何等提出されていない。
しかも、これらの新聞・雑誌(甲第2号証ないし同第34号証)の殆どが愛好家向けのスポーツ新聞又は競馬専門雑誌であって、本件商標の指定商品の一般需要者・取引者が目にすることの少ない媒体である。
また、請求人はこの馬「ラムタラ(Lammtarra)」の競走馬とし
ての活躍について述べているが、この主張によれば、この競走馬は外国でのみ出走していたとのことであるから、どのような華々しい活躍をしていたとしても、この馬の名前が我が国において一般需要者に広く知られていたとは考え難い。
このように、競争馬(種馬)「ラムタラ(Lammtarra)」の名前は、一部の競馬愛好家には知られているかもしれないが、本件商標の出願時においても査定時においても、一般需要者・取引者に広く知られていたとはいえない。しかも、この名前が、請求人の業務に係る標章として知られていたという事実は全くない。
したがって、本件商標と音が共通するからといって、本件商標に接した一般需要者・取引者が競走馬の名前を想起することはなく、よって、本件商標に係る商品の出所を請求人は勿論のこと、競走馬「ラムタラ(Lammtarra)」の馬主等関係者と混同することもない。
(2)本件商標の指定商品との関係について
本件商標の指定商品は、前記したとおりであり、いずれの商品も、馬や競馬と格別関連の深い商品ではなく、これら指定商品の取引界において需要者・取引者が特に競馬に詳しいというような事情は全くない。
したがって、本件商標に接した一般需要者・取引者が、商品の出所を混同するおそれはない。
なお、請求人は、本件商標の指定商品において、競争馬の名前を商標として使用する商品企画、商品展開が一般的なものとなっているから、本件商標を使用すると請求人らの業務に係るものであるとの混同を生じると主張し、それを立証する証拠として甲第35号証ないし同第41号証を提出している。
また、請求人は、これら競争馬のキャラクター商品に関連して、競争馬の名前を商標として使用した商品の展開に際しては、必ず当該馬の所有者が事
業を行うのが慣行であり、その権利はいわゆる商品化権として実際の経済市場において尊重されているから出所混同のおそれが大きいとも主張し、これを立証する証拠として甲第42号証ないし同46号証を提出している。
しかしながら、請求人の主張するように馬主にいわゆる商品化権が認められているにしても、その権利は「顧客吸引力を有するキャラクターを認識さ
せる」範囲内での肖像権や名前の使用権に限定されるのであって、その名前だけでは一般需要者・取引者に競争馬を認識させないような馬の名前について、権利が認められているわけではないのは言うまでもない。
同様に、甲第48号証、甲第49号証として請求人が関連資料を提出しているパブリシティ権を認める趣旨の判決についても、「競馬ゲームソフトの
登場キャラクターの名前として」競争馬の名前を使用した場合にその名前に財産的価値があることを認める、というものであって、本件商標のように競
争馬の名前であることすら認識し得ない状態で一般商品に使用される場合にはパブリシティ権が問題となる余地はない。
(3)結論
以上のとおり、標章「ラムタラ」が請求人の業務に係る商品(役務)につ
いて使用され広く知られているという事実はなく、また、競争馬(種馬)の名「ラムタラ(Lammtarra)」も、一部競馬愛好家はいざしらず、一般需要者・取引者間で広く知られているという事実はない。しかも、本件商標の指定商品が競馬と特に関連の深い商品であるという事実もない。
したがって、本件商標をその指定商品に使用しても、一般需要者・取引者がその商品を請求人又は上記競争馬の馬主等の業務に係るものであると混同するおそれはない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2.商標法第4条第1項第7号に該当しないことについて
本件商標が、きょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような構成を含んでいないことは明らかである。
また、本件商標と「ラムタラ会」所属の馬主が共同所有する競争馬の名前
との音が偶然に共通するからといって、本件商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益、社会の一般的道徳観念に反するとも考えられない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3.商標法第4条第1項第8号に該当しないことについて
請求人は、本件商標が、その出願前から著名となっている「ラムタラ会」の名称又はその略称とを含むものであるから、商標法第4条第1項第8号
該当すると主張する。
しかしながら、この「ラムタラ会」なる団体が一般需要者・取引者間で著名であるとは到底考えられない。実際、請求人が競争馬の著名性を立証するために提出した証拠のうち、本件商標の出願前のもの(甲第2号証ないし同第19号証)でさえも、「ラムタラ会」の名称が掲載されているのは僅か2件(甲第14号証、甲第17号証)にすぎず、しかも記事中に小さく掲載されているのみである。
したがって、「ラムタラ会」の名称が、本件商標の出願時においても査定時においても、一般需要者・取引者間で広く知られていたという事実がないのであるから、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当しないことは明らかである。
4.利害関係について
請求人は、「本件商標が使用されることにより請求人の『ラムタラ』に化体する業務上の信用が毀損されること自体を防止し、業務上の信用の維持を
図るため、本件商標を無効にする必要を有する。」と主張する。しかしながら、この主張は下記の理由につき妥当性を欠くものと考える。
請求人である「株式会社ジェイエス」は、同社が競走馬「ラムタラ(Lammtarra)」及びその所有者とどのような関係にあるのか、明らかにしていない。請求書中には「請求人の名馬『ラムタラ』」、「『ラムタラ』といえば請求人グループの所有に係る世界的な名馬」「請求人及び『ラムタラ会』の所有にかかる『ラムタラ』」、等の表現があり、請求人会社が同馬の馬主であるかのような記述がされているが、請求人提出の証拠によれば、請求人会社は同馬の輸入商社にすぎない。また、同社が「ラムタラ会」を組織しているとの記述があるが、同社とシンジケート(馬主団体)「ラムタラ会」との関係を示す証拠も何ら提出されていないのである。
たしかに、請求人会社の代表者である矢野秀春氏が同馬の所有者団体「ラ
ムタラ会」の会長も務めているとの記載はある(甲第7号証)。しかし、法人「株式会社ジェイエス」と個人「矢野秀春氏」とは別人格であるから、このことによって請求人の利害関係を証明したとはいえない。
5.結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第8号のいずれにも該当せず、何ら無効理由を有しないものである。
なお、本件商標に対し、請求人による登録異議申立が行われた経緯があるが(平成11年異議第90016号)、この異議事件においても同様の判断により登録維持の決定がなされている。

第4 当審の判断
1.本件審判請求に関し、当事者間において利害関係の有無につき争いがあるので、この点について判断するに、請求人の出願に係る商願平9ー118642号商標(商標「Lammtarra/ラムタラ」 審判平成10年第20534号 )及び商願平9ー118644号(商標「Lammtarra/ラムタラ」 審判平成10年第20535号)は、いずれも本件商標を引用されて拒絶され、現在拒絶査定不服審判に係属している事実を確認し得た。
してみれば、請求人は、本件商標が有効に存続することにより直接不利益を受ける関係にある者といえるから、本件審判を請求するについて法律上の利害関係を有するものと認められる。
被請求人は、請求人と競走馬「ラムタラ」及びその所有者との関係が不明確であるから、請求の利益は認められない旨主張しているが、本件審判請求をするについての請求人の法律上の利害関係は上記のとおりであり、請求人は本件審判を請求するについて法律上の利害関係を有するものと判断するのが相当である。
2.そこで本案に入って審理する。
(1)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、「ラムタラ(Lammtarra)」が欧州3大レースを制覇し出場全レース優勝という奇跡的戦跡を残し、「神の脚」、「奇跡の馬」と称される世界の名馬である旨主張し、その名称の著名性を証する書面として甲第2号証ないし同第40号証を提出している。
しかして、甲各号証の中で、本件商標の出願日(平成8年12月19日)前の発行に係る資料は、甲第2号証ないし同第19号証の新聞が18紙及び甲第25号証ないし同第33号証の週刊誌が9紙であるが、いわゆるスポーツ紙又は競馬の専門雑誌を中心としており、特に読者の多いとされる全国紙である読売新聞、朝日新聞、産経新聞は含まれていない。
そして、その内容は外国で活躍した競走馬「ラムタラ」号が日本に種馬として輸入された際のニュース報道が主であって、必ずしも継続性のある報道とはいえない。
そうとすれば、これらは一時的な報道というべきであり、かつ、その内容が競走馬(殊に種馬)という一般には馴染みにくい事項に関するものであるという事情よりすれば、競走馬関係者や競馬愛好者はともかくとして、「ラムタラ(Lammtarra)」の名前が、広く一般国民の間に定着したとまでは認め得ないと判断するのが相当である。
さらに、「ラムタラ」、「RAMUTARA」及び「Lammtarra」の標章(文字)が何らかの商品等に係る事業について使用をされていたとの事情も認められないところである。(なお、競争馬の写真や名称等が商品に使用される例も認められるが、いずれも本件商標の出願日以後に関する証左に限られている。)
そして、本件商標の指定商品は前記したとおり貴金属の製品等であって、特に競争馬と関連性の高い商品が含まれているとはいえないものである。
してみれば、本件商標の登録出願時に、「ラムタラ」、「RAMUTARA」が請求人等特定の出所を想起・連想させる程に、一般の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたとは言えないものと判断するのが相当である。
したがつて、商標権者が本件商標をその指定商品について使用したとしても、その需要者をして、当該商品が請求人若しくは請求人と関係のある者の業務に係る商品であるかの如く誤認し、その出所について混同を生じるおそれがあったとは認められないものである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は上記に示すとおりの構成よりなるところ、その構成自体が矯激、卑猥もしくは差別的な印象を与えるような文字又は図形からなるものでなく、また、本件商標を指定商品について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念もしくは国際信義に反するものとすべき事実は認められず、他の法律によってその使用が禁止されている事実も認められない。
してみれば、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するとはいえないものである。
(3)商標法第4条第1項第8号について
請求人は、「『ラムタラ会』の名称、あるいはその略称『ラムタラ』は、本件商標が出願された平成8年12月以前に我が国においても広く知られていた。そして、本件商標は、請求人及び『ラムタラ会』に無断で出願されたものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する」旨主張し、「ラムタラ会」の名称若しくはその略称である「ラムタラ」の著名性を証する書面として甲第9号証、同第17号証、同第20号証、同第24号証、同第25号証、同第29号証、同第32号証、同第33号証及び同第50号証を提出している。
しかしながら、請求人提出の前記甲各号証によっては、「ラムタラ会」が日高静内町の馬の生産者を中心とするシンジケートの名称であり、「ラムタラ」号を輸入し、その所有権を有するグループであるという事実を知り得るとしても、「ラムタラ会」が「ラムタラ」と略称されているとの事実を見出すことはできず、本件商標の登録出願時に、その略称としての「ラムタラ」が著名なものとなっていたとは認められない。なお、前記書証によっては「ラムタラ会」の著名性を立証し得るものとも認められない。他にこれらを認めるに足りる証拠はない。
また、請求人は弁駁書(7頁)において、「商標法第4条第1項第8号の適用に際しては、当該保護主体の著名性は要件ではない」旨主張するが、本件商標は前記したとおり「ラムタラ」と「RAMUTARA」の文字よりなるものであるから、請求人が本件商標に対して商標法第4条第1項第8号の適用を主張するのであれば、「ラムタラ会」の略称である「ラムタラ」の著名性が立証されなければならないことは前記法条に照らし明らかである。
しかるところ、「ラムタラ会」が「ラムタラ」と略称され著名となっていたと認め得ないこと前記のとおりであるから、この点に関する請求人の主張は認め難いところである。
してみれば、本件商標は、他人の名称若しくはその著名な略称を含む商標に該当するものとは認められない。
(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第7号及び同第8号に違反して登録されたものということはできないから、同法第46条第1項第1号によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-10-23 
結審通知日 2001-10-29 
審決日 2001-11-12 
出願番号 商願平8-144210 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (014)
T 1 11・ 271- Y (014)
T 1 11・ 22- Y (014)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 健司 
特許庁審判長 小松 裕
特許庁審判官 高野 義三
涌井 幸一
登録日 1998-09-11 
登録番号 商標登録第4185888号(T4185888) 
商標の称呼 ラムタラ 
代理人 鳥居 和久 
代理人 鎌田 文二 
代理人 高橋 康夫 
代理人 東尾 正博 

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