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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 034
管理番号 1049034 
審判番号 審判1999-35477 
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-06 
確定日 2001-11-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第3370718号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3370718号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3370718号商標(以下、「本件商標」という。)は、「アルマーニロッソ」と「ARMANIROSSO」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成6年3月14日に登録出願、第34類「喫煙用具(貴金属製のものを除く。),マッチ」を指定商品として、同10年11月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第1387409号商標は、別掲第一商標のとおりの構成よりなり、昭和50年9月18日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同54年8月30日に設定登録、同じく登録第1742581号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和57年6月19日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、同60年1月23日に設定登録、同じく登録第2137624号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和59年8月1日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、平成1年5月30日に設定登録、同じく登録第2204518号商標は、別掲第二商標のとおりの構成よりなり、昭和59年12月5日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、平成2年1月30日に設定登録、同じく登録第3127123号商標は、「ARMANI」の文字を横書きしてなり、平成5年3月4日に登録出願、第25類「帽子,その他の被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同8年3月29日に設定登録、同じく登録第1676476号商標は、「GIORGIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和56年7月28日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として、同59年4月20日に設定登録、同じく登録第1920034号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和59年8月1日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として、同61年12月24日に設定登録、同じく登録第1941608号商標は、別掲第三商標のとおりの構成よりなり、昭和59年12月5日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として、同62年3月27日に設定登録、同じく登録第3123225号商標は、「ARMANI」の文字を横書きしてなり、平成5年3月4日に登録出願、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」を指定商品として、同8年2月29日に設定登録、同じく登録第1640446号商標は、「Giorgio Armani」と「ジョルジョアルマーニ」の文字を上下二段に横書きしてなり、昭和52年3月15日に登録出願、第22類「はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、同58年12月26日に設定登録、同じく登録第1941539号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和59年8月1日に登録出願、第22類「はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、同62年3月27日に設定登録、同じく登録第2076955号商標は、別掲第四商標のとおりの構成よりなり、昭和59年12月5日に登録出願、第22類「はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、同63年9月30日に設定登録、同じく登録第2198023号商標は、別掲第五商標のとおりの構成よりなり、昭和62年2月23日に登録出願、第22類「はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、平成1年12月25日に設定登録、同じく登録第2137697号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和61年12月3日に登録出願、第23類「時計、眼鏡、これらの部品および附属品」を指定商品として、平成1年5月30日に設定登録、同じく登録第2211610号商標は、「GIORGIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和61年12月3日に登録出願、第23類「時計、眼鏡、これらの部品および附属品」を指定商品として、平成2年2月23日に設定登録、同じく登録第2653840号商標は、「ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和63年2月10日に登録出願、第23類「時計、眼鏡、これらの部品および附属品」を指定商品として、平成6年4月28日に設定登録、同じく登録第4076267号商標は、「ARMANI」の文字を横書きしてなり、平成5年3月4日に登録出願、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器,貴金属製の花瓶および水盤,貴金属製針箱,貴金属製宝石箱,貴金属製のろうそく消しおよびろうそく立て,貴金属のがま口および財布,貴金属製靴飾り,貴金属製コンパクト,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉およびその原石並びに宝玉の模造品,時計,記念カップ,記念たて」を指定商品として、同9年10月31日に設定登録、同じく登録第2211611号商標は、「GIORGIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和61年12月3日に登録出願、第27類「たばこ、喫煙用具、マッチ」を指定商品として、平成2年2月23日に設定登録、同じく登録第2135354号商標は、「EMPORIO ARMANI」の文字を横書きしてなり、昭和61年12月3日に登録出願、第27類「たばこ、喫煙用具、マッチ」を指定商品として、平成1年4月28日に設定登録されたものである。

第3 請求の趣旨及び請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第125号証を提出した。
1.第4条第1項第15号について
請求人は、世界的に著名なイタリアのデザイナーである「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の設立した会社であり、そのデザインに係る商品の取り扱い及び商標権等の知的所有権の管理をしており、前記第2で示す登録商標の実質的な権利者である。
世界的に著名なイタリアのデザイナーであるジョルジオ アルマーニは、1975年にジョルジオ アルマーニ社を設立して以来、自分のデザインした各種商品に「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI」等の商標を付して世界各国に輸出していたが、デザイナーとしての彼の名声が上がり、それに付随してその商標も有名になるにつれ、模造品も出回るようになってきたことから、その名称及び商標を守るため、請求人が世界各国で商標の登録をしたものである。
日本においても商標を取得し、「ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社」を設立して、東京、大阪、名古屋等の日本各地に直営店を設けて販売の強化を図ってきたところであり、その売り上げも平成7年で約150億円にも達するほどである。
そして、商品に実際使用している商標は、「GIORGIO ARMANI」のみならず、単に「ARMANI」の文字のみのもの、或いは「EMPORIO ARMANI」「ARMANI JEANS」「GIORGIO ARMANI JUNIOR」等の「ARMANI」と他の文字との結合したもの等、様々な構成、態様のものがあり、ジョルジオ アルマーニがデザインし、これらの各商標を付して取引されている商品は、上述した通り、紳士・婦人服、ネクタイ、靴下、帽子、手袋、傘、眼鏡のほか、これらの商品と同一の流通経路、販売店で取り扱われるハンドバッグ、革小物等広範な商品にわたるものである。
「GIORGIO ARMANI」は、特に紳士服のデザインにおいて、世界的な名声を博し、「ARMANI」(アルマーニ)の略称をもって知られるようになったことから、本件商標の出願前にはすでに、「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI」等の商標を付した紳士服は、「アルマーニのスーツ」「アルマーニのジャケット」「アルマーニの服」の様に、商標の「ARMANI」の部分をとらえて「アルマーニ」と略して称呼されるようになり、この略称も取引者、需要者の間に広く知られ、著名となっている。また、紳士服だけでなく、ジョルジオ アルマーニの取り扱いに係る「GIORGIO ARMANI」の商標を付した上述の他の商品も、これにならって、「アルマーニの・・・」と言われるようになっているものである。
したがって、本件商標の出願当時1994(平成6)年には、すでに請求人が紳士服等に使用する各引用商標は、極めて広く知られるに至っている商標というべきである。
一方、本件商標は、「アルマーニロッソ」と「ARMANIROSSO」の欧文字を二段書きした構成からなり、そこから「アルマーニロッソ」の称呼を生ずるものであり、世界的に著名なイタリアのデザイナー「GIORGIO ARMANI」の略称及び申立人及びジョルジオ アルマーニの使用する著名な商標「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の略称である「ARMANI」(アルマーニ)と同一の文字をその構成中に含み、また、その称呼が生ずるものである。
前述のように、請求人が商品に実際使用している商標は、「GIORGIO ARMANI」のみならず、「EMPORIO ARMANI」等の「ARMANI」と他の文字とが結合したもの等が多数存在し、また、これらの各商標を付して取引されている商品は、非常に広範な商品にわたり、いずれも著名なデザイナー「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の名の下に高い信用が形成されているものである。そして、これらの各商標が付された商品に接する取引者、需要者は、いずれも著名な「ARMANI」の文字が含まれていることから、その商品をアルマーニのデザインに係る商品又はそのシリーズ商品として認識するものである。
ところで、本件商標の指定商品である喫煙用具は、代表的なものとしてライター、灰皿等が含まれるが、これらの商品は、特に男性のファッション小物として認識されているものである。すなわち、宝飾品や被服等における一流ブランドとして知られる「BULGARI」「CARTIER」「LANVIN」等の各ブランドが、ファッション小物として喫煙用具を販売しており、いずれもかなり高額の商品である。そして、ジョルジオ アルマーニのデザインし、販売する商品の中には、「シガレットケース」や「ライター」等の喫煙用具も含まれている。
以上のことから、本件商標の登録出願前にすでに、請求人が「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI等の「ARMANI」の文字を含む商標を喫煙用具を含む様々な商品に使用し、著名に至っていた事実を考慮するならば、例えば、アルマーニブランドの1つである「EMPORIO ARMANI」等と同様、「ARMANI」の文字を含む本件商標を、請求人が各引用商標を使用している商品と密接な関係にあるその指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、恰も請求人若しくはジョルジオ アルマーニ又はその関連会社の取り扱い業務に係る商品、特に世界的に著名なデザイナー「GIORGIO ARMANI」のデザインする商品又はそのシリーズ商品であるかの如く認識し、アルマーニブランドの1つであるとして、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
なお、「ARMANI」「アルマーニ」を含む各商標(甲第43号証ないし同第95号証)が、商標法第4条第1項第15号に該当するとして拒絶されている。
2.第4条第1項第8号について
本件商標は、イタリアの服飾デザイナーとして世界的に著名な「GIORGIO ARMANI」の著名な略称である「ARMANI」(アルマーニ)を含むものである。
「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)は、1975年にイタリアで紳士・婦人物既製品を扱うファッション・デザイン会社「ジョルジオ アルマーニ社」を設立して以来、「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の商標を付した紳士・婦人用既成服を製作、販売すると共に、1981年にはブランド「EMPORIO ARMANI」(エンポリオ アルマーニ)を発表し、これらの商標を付したネクタイ、靴下、帽子、手袋、傘、眼鏡等の商品の他、これらの商品と流通経路、販売店を共通にするハンドバック、革小物等をも次々に取り扱うようになった。
ジョルジオ アルマーニのデザインした商品は、大変に優れていたことから、イタリアの国内のみならず、日本を含む世界各国に商品が輸出されるようになったが、彼のデザインした商品、特に男性用の衣服については、世界的に注目を浴びるようになり、世界のファッションショーの桧舞台ともいうべきミラノコレクション、パリコレクション、ニューヨークコレクション、東京コレクションで次々に発表し、1979年には「ニーマン・マーカス賞」を受賞、1980年、1981年、1984年、1986年、1987年の5度にわたり「カティ・サーク国際トップ・ファッション・メンズ・デザイナー賞」を受賞、1981年には最高のファッション・デザイナーを選ぶ「G/Q」雑誌「メンズ・スタイル賞」を受賞、アメリカ・ファッンヨン・デザイナー協会より1983年に「国際デザイナー賞」及び1988年に「メンズウェア・ライフタイム・アチーブメント賞」を受賞、マドリッドにて国際ベスト・デザイナーとして「クリスタル・バレンシアガ賞」を受賞、1989年には日本で繊研新聞より「繊研賞」を受賞する等、数多くの賞を受賞するほどになったことから、その名を世界に知られるに至り、今やファション・デザイナーの世界的大御所となったものである。
このようにして、ジョルジオ アルマーニのデザインが世界的に知られるようになったことから、映画の衣装にも取り上げられるようになり、映画「ブーメラン」で俳優エディ マーフィー、また、映画「逃亡者」で俳優ミッキー・ロークがジョルジオ アルマーニのデザインした服を着たことなどから、その名声は益々高まった。
そして、日本においても、ジョルジオ アルマーニの名が専門業者のみならず、一般消費者にも知られるようになってきたことから、ジョルジオ アルマーニ本人及びそのデザインがファッション誌や雑誌、書籍にも多く取り上げられ、さらに、デパート主催の写真展も開催される程になった。
これらの専門紙、一般誌、書籍等での「ジョルジオ アルマーニ」についての掲載は、フルネームでの掲載よりも、その略称である「ARMANI」(アルマーニ)として掲載されることの方が多いことから、本件商標の出願の日前には、単に「アルマーニ」といえば、直ちにイタリアのデザイナー「ジョルジオ アルマーニ」を指すものと認識される程に、この略称は極めて著名となっていたものといえる。
したがって、本件商標の登録出願前にはすでに、デザイナーとしての「ジョルジオ アルマーニ」は、その略称「アルマーニ」と共に新聞、テレビでも数多く取り上げられ、そのフルネームのみならず、その略称は、いまや老若男女を問わず誰でもが知っている程になっていたといえる。
そこで、本件商標をみるに、上述した通り、その構成中に「ARMANI」の文字を有してなるものであり、その文字の部分は、デザイナー「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の略称である「ARMANI」(アルマーニ)と同一の文字であるから、本件商標は他人の著名な略称を含む商標というべきものである。
そして、本件商標の出願人は、「GIORGIO ARMANI」の略称を含む商標を出願することについて承諾を得ていない。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第8号の規定に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項第1号によって無効にすべきものである。
3.答弁に対する弁駁
(1)本件商標中の「ROSSO/ロッソ」の文字は、イタリア語で「赤」を意味する語であり、また、「ARMANI/アルマーニ」の文字は、イタリアの服飾デザイナーとして世界的に著名な「GIORGIO ARMANI」の著名な略称である。
かかる本件商標の構成に鑑みると、本件商標は、長音の存在を理由として「アルマー」と「ニロッソ」のように認識されることはなく、また、「アルマー」と「ニロッソ」の語は共に何等の意味を持たないものである。
被請求人は、本件商標は全体としても何等特定の観念を生ずるものではないと主張するが、あくまで本件商標に接した需要者・取引者は、著名なデザイナーの略称「ARMANI/アルマーニ」に注目し、また同じくイタリア語で「赤」を意味する「ROSSO/ロッソ」を付加したにすぎないものと認識するのが通常であり、全体としては「アルマーニの赤」ほどの観念のもとに本件商標を認識するとの判断が妥当である。
(2)請求書に添付した各証拠から「ARMANI/アルマーニ」が著名な略称であることは明らかであり、また、そもそも商品の出所の混同が生ずるか否かは当該指定商品等の取引者、需要者において普通に払われる注意力を基準として判断されるべきであるところ、一部のファッション界の人間であっても「ARMANI/アルマーニ」と略称する事実があれば、商品の出所混同のおそれが十分にあるというべきである。
(3)請求人が主として販売する商品は、被請求人が主張するような「衣料品」のみではなく、「紳士・婦人服、ネクタイ、靴下、帽子、手袋、傘、眼鏡、ハンドバッグ、革小物、香水、化粧品、文房具」等多岐にわたるものであり、またシルバーアクセサリーとして「喫煙用具」についても実際に使用しているものである。そしてかかる「喫煙用具」は、特に男性のファッション小物として一般的に認識されているものであるから、「喫煙用具」と「衣料品」とはまったく関連がないとする被請求人の主張はファッションの取引界の実情を無視した主張であり、妥当でない。
そもそも、請求人は、被請求人の主張するような「洋服屋」などではなく、ジョルジオ アルマーニのデザインに係る紳士・婦人服、ネクタイ、靴下、帽子、手袋、傘、眼鏡、ハンドバッグ、革小物、さらには香水等の各商品を取り扱う世界的なトータル・ファッション・メーカーとして著名であり、これらの商品はすべて、「アルマーニの・・・(商品名)」と認識されているものである。
(4)「ARMANI/アルマーニ」の文字は、彼のデザインする数々の商品を表す標識として、出所識別機能を有しているだけでなく、特に、請求人が使用する商品「香水」の商標としても著名に至っているものである。すなわち、香水「ARMANI/アルマーニ」は、1982年に女性用としてフランスで発表以来、爆発的な人気を博し、その後の1984年に発表した男性用は、香水だけでなく、「アフターシェーブ」「シェービングフォーム」「ボディートーニングローション」「ソープ」などのトータルラインが揃い、「ARMANI/アルマーニ」の男性用化粧品として同様に好評を博したものである。その後イタリアやアメリカでも発売され、大人気となったほか、日本でも数々の雑誌に紹介され、その名のとおり彼のデザインする「香水」として現在まで広く知られるに至っているものである。
(5)商標法第4条第1項第8号が人格権的利益の保護をその趣旨とすることは、判例学説の支持するところである。したがって、かかる趣旨に鑑みれば、「ARMANI/アルマーニ」が「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)の著名な略称であって、本件商標は、その著名な略称を含むものである以上、指定商品又は役務にかかわらず、前記法条が適用されるべきである。

第4 答弁の趣旨及び被請求人の主張
被請求人は、「本件審判は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第6号証を提出した。
1.商標法第4条第1項第15号について
(1)被請求人は、被服等の製品について使用する「GIORGIO ARMANI」商標が当該業界において有名であること、そして、著名性は否定するが、その商標が「ARMANI」と略称されることがあることについても別段異議を挟むものではない。
しかしながら、本件商標は、語韻、語調が極めてスムーズであるから、請求人主張の如く「アルマーニ」で切って、それから「ロッソ」等と発音するのはきわめて不自然、むしろ中間の長音の存在で「アルマー」「二ロッソ」の如く発音、聴取される商標であってみれば、一般の取引者、需要者が本件商標から直ちに「ARMANI/アルマーニ」を含む商標であると認識することはない。そして、たとえ「ARMANI/アルマーニ」の欧文字スペルの存在を認識したとしても本件商標の全体構成、全体称呼からすぐに別人の名前であると理解するとの判断が妥当といえる。
従って、請求人の引用する「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI」ほかの商標が著名であっても、本件商標と出所の混同を生ずるおそれはない。
(2)請求人の「GIORGIO ARMANI」が商品「衣服」について有名であることは各甲号証から一応理解できるとしても、「EMPORIO ARMANI」が有名であることについては何等の主張がない。また、「ARMANI」商標についても、商品との関係で使用されている、或いは著名であることを認識できる証拠が何も提示されていない。
しかも、「GIORGIO ARMANI」は、商品「衣服」についてもフルネームで使用されているものであって、「アルマーニ/ARMANI」という表記は広告記事として記載される場合とか、ファッション雑誌の対談中のように特定の場面で、あえて「GIORGIO ARMANI」といわなくても「ARMANI」といえば「GIORGIO ARMANI」を意味する場面でのみ使われているものでしかない。
「GIORGIO ARMANI」或いは「EMPORIO ARMANI」が使われているシーンは多数でてくるが、「ARMANI」が商標として何に具体的に使われ、どれだけ著名であるかを示すものはほとんどない。
一部ファッション界の人間が略称する事はあるかもしれないが、著名な略称であることを示す証拠はどこにもない。
斯様に「ARMANI」は、人の名前の一部をなすもので電話帳でも解る通り複数存在するものであるから「創造標章」でないこと明らかであり、「ARMANI」そのものが前記のように特定の場面で「GIORGIO ARMANI」の略称として使われていることはあるが、商標の使用として取引界に流通しているものではない点、「ARMANI」はいわゆるハウスマークとして使用されているものではない点、さらに、イタリア、ローマで使用されている最新の電話帳に掲載された広告の如く、「GIORGIO ARMANI」が「紳士、婦人服のブティック」であるとの表記を見れば、特定の商品に関する企業体であることを表明しているといえる。このことは、本件商標の指定商品と請求人関連企業の商品とは全く関連がない。
他社の著名商標といわれる商標が喫煙用具等にも使われている例について縷々述べているが、「GIORGIO ARMANI」「ARMANI」が、喫煙用具など本件商標の指定商品との出所混同に関する証拠の提出は何もない。
してみれば、本件商標と請求人の各引用商標とは誤認混同を生ずるおそれはなく、従って、本件商標を商標法第4条第1項第15号の規定に該当するとの請求人の主張は当を得たものとはいえない。
2.商標法第4条第1項第8号について
(1)本件商標は、「アルマーニロッソ」と「ARMANIROSSO」の文字を上下二段に左横書きされたものであり、それぞれの構成文字は、同書、同大、同間隔に書されてなるものであって、「アルマーニ/ARMANI」と「ロッソ/ROSSO」の文字の間に間隔があるわけではなく、一連不可分に表示されているものである。したがって、本件商標は、「アルマーニロッソ」の一連の称呼が生ずる商標であり、また、観念については、特段の観念をもたない商標というのが妥当である。
(2)請求人の提出した複数の甲号証によれば、「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオ アルマーニ)なる人物が存在し、そして、彼が服飾デザイナーであることに別段異議を挟むものではない。
しかしながら、本件商標は、先に述べた如く、「アルマーニロッソ/ARMANIROSSO」と同書、同大、同間隔で表記されているものであって、「GIORGIO ARMANI」「ジヨルジオ アルマーニ」でも、また「ARMANI」「アルマーニ」でもないのである。むしろ、「アルマー/ARMA」と「ニロッソ/NIROSSO」の文字として認識され、「アルマー」「ニロッソ」のように称呼されると判断するのが妥当である。
本件商標より生ずる「アルマーニロッソ」の称呼は、これを実際に称呼してみればよく理解できる通り、「ニロ」の部分が極めて容易に語呂良く発音されるところから、全体として淀みなく一連に称呼されるものである。
したがって、本件商標は、「ARMANI/アルマーニ」を含む商標とは認識されず、「アルマーニロッソ/ARMANIROSSO」としてのみ認識され称呼されるといえる商標である。
請求人は、本件商標がその構成中に「ARMANI」の欧文字を含むものであることから、本件商標を商標法第4条第1項第8号に問疑せられたものと推察するが、それは本件商標の構成を理解しない判断といえる。
例えば「ARMANI」に単にアルファベット一文字「B」を付した商標「BARMANI」、また「C」を付した「CARMANI」等、さらに先に例示の商標にアルファベットの2文字、例えば「GA」を付加した「GABARMANI」「GACARMANI等、「ARMANI/アルマーニ」と混同しない商標が創出できる。語尾に他の語を付す場合も同様で、例えば「ARMANINGEN」「ARMANIKU」「ARMANISIN」等、「ARMANI/アルマーニ」と混同しない造語商標がいくらでも案出できる。これらの商標をみて、一般の取引者・需要者が、「ARMANI」を含む商標であると認識することはない。
日本におけるイタリア語の普及は、英語、ドイツ語、フランス語等に比べると、圧倒的に低いものといえ、そのことは書店におけるイタリア語辞典の数が、上記英語等の辞典にくらべ圧倒的に少ないことでも理解できる。かように慣れないイタリア語或いはイタリア語的表記からなる本件商標に接した一般の取引者、需要者は素直に語頭から語尾に至る全語を通して称呼、認識するとの判断が自然であって、「GIORGIO ARMANI」の略称を含む商標とは認識しないとの判断が妥当といえる。
(3)請求人はファッション雑誌などを提出して「GIORGIO ARMANI」が著名であることを主張するが、1975年の設立であってみればその歴史はまだ浅い。そして、広告媒体を請求人の提出した甲号証でみるに、ほとんどが衣服雑誌で、そこに使用されている商標も、請求人は「・・・『アルマー二』(ARMANI)として掲載されることの方が多い」と述べているが、実際のところは「GIORGIO ARMANI」の商標使用が圧倒的に多いのである。
上記のような広告、雑誌記事の状況は、日本のデザイナーについてもいえることで、著名なデザイナーブランドは、そのデザイナーのフルネームで使用される。
つまり「ありふれた氏」は顕著性を欠くものであるから、例えば「イッセイ・ミヤケ」「ハナエ・モリ」の様にフルネームを使用する事になるのである。単に「ミヤケ」「モリ」等といっても商品出所表示機能を発揮出来ないのである。
そして、「ARMANI」も同じであって、イタリアのローマにおける電話帳には複数の「ARMANI」を見つけることが出来るし、世界に目を向ければ多数の「ARMANI」姓が居るわけで、「GIORGIO 」の姓、名はもっとありふれたものであることが解る。
ブロ野球の監督たる「長島 茂雄」氏の「長島」が野球関連の雑誌等において「長島」と使われれば、ほぼ前記「長島 茂雄」氏を指し示すとしても、他の業界で「長島」といってもそれが誰であるか特定できないのと同様、「ARMANI」が「GIORGIO ARMANI」の略称といえるのは「衣服」の業界であって、他の商品に関しては「ARMANI 」が「GIORGIO ARMANI」を認識せしめるという事はない。
請求人の取り扱い製品の説明として、「GIORGIO ARMANI BORGONUOVO」「GIORGIO ARMANI LE COLLEZIONI」「GIORGIO ARMANI CRAVATTE」などのブランドが示す如く、単に「ARMANI」とは使っていないし、商品に関し、前記ローマの電話帳における宣伝についても「BOUTIQUE UOMONEDONNA」(紳士、婦人服店)と記載して、洋服屋であることを表記している。
以上のことから、商品「洋服」等において「GIORGIO ARMANI」商標が使用され、流通していることは理解できるが、「ARMANI」が日本で多量に流通しているわけではなく、単に業界で「アルマーニ」と略称されていることが伺えるだけである。
著名の程度と本件商標の指定商品との関係を考慮し検討するに、本件商標の指定商品「喫煙用具(貴金属製のものを除く。),マッチ」については、甲各号証から「GIORGIO ARMANI」又は「ARMANI」が使用されていて、それが著名であるという証拠を見つけることが出来ないのであってみれば、例えば、本件商標が欧文字のスペルとしての「ARMANI」を含む商標であったとしても、商標法第4条第1項第8号の規定に該当するものとはいえない。
(4)本件商標は、一連不可分のものであるから、請求人が引用する「GIORGIO ARMANI」ほかの略称たる「ARMANI」を含むものではないし、例え「ARMANI」を含むものであっても、「GIORGIO ARMANI」が使用される商品とその略称たる「ARMANI」の著名性は上記の如くであるから、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとの請求人の主張は当を得たものとはいえない。
なお、「アルマーニ」「ARMANI」を含む商標は、請求人の登録例を含め多数の登録例が存在する。
3.結び
本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第8号の規定に該当するものではないので、本件商標の登録を無効にすべきとの主張は当を得たものとはいえない。

第5 当審の判断
1.「ARMANI(アルマーニ)」標章の著名性について
本件審判請求の理由及び甲第19号証ないし同第40号証を総合してみるに、以下の事実が認められる。
(1)ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)は、1935年生まれのイタリアの服飾等のデザイナーであって、1979年に「ニーマン・マーカス賞」を受賞、以後、数々の賞を受賞している。そして、1975年には紳士・婦人物既製服を扱う「ジョルジオ アルマーニ社」を設立し、以来、同社は、ジョルジオ・アルマーニのデザインに係る紳士・婦人服等の商品を製造・販売している。
そして、ジョルジオ・アルマーニのデザインに係る商品には、「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI」「ARMANI JEANS」「ARMANI」等の文字よりなる標章(以下、これらをまとめて「アルマーニ標章」という。)が使用されている。
また、1991年から1992年に、世界的にヒットした映画「ブーメラン」や「逃亡者」において、俳優のエディ・マーフィーやミッキー・ロークがジョルジオ・アルマーニデザインの衣服を着用した。
(2)我が国においては、ジョルジオ アルマーニのデザインに係る紳士・婦人服等の商品を輸入・販売するために「ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社」が設立され、その直営店、販売店は日本各地に及び、1995年(平成7年)の予想小売り総売上高は150億円とされている。
(3)甲第22号証ないし同第35号証をみるに、例えば、雑誌「MEN’SCLUB8月号」(平成2年8月、婦人画報社発行)における「GIORGIO ARMANI」「EMPORIO ARMANI」の紹介記事の見出しに「着心地の良さとシンプルなエレガンスを追求したアルマーニのプロフェッショナルの服。」「イタリアン感覚を体験できるアルマーニの日本ショップ。」との記載、また、雑誌「MORE for MEN」(平成2年11月、集英社発行「モア」増刊号、)においては、その表紙に「アルマーニVSラルフローレンのスーツ」との記載、及び「GIORGIO ARMANI」の紹介記事の見出しでも「モダンに洗練された伝統が息づくアルマーニの完璧なスーツ。」との記載、さらに、雑誌「イタリアの中小企業戦略」(平成6年10月、三田出版会発行)の序章において、その冒頭から「アルマーニのスーツ、フェンディのバッグ、ミッソーニのニット製品など、イタリアのブランド商品は、・・・」等の記載があるように、アルマーニ標章が「ARMANI(アルマーニ)」の商標と呼ばれ、そのデザイナーである「Giorgio Armani」も「ARMANI(アルマーニ)」と呼ばれ、その名で知られていることを前提とした記事が多数掲載されている。
以上の事実によれば、遅くとも本件商標の登録出願時の平成6年には、アルマーニ標章は「ARMANI(アルマーニ)」の商標として、また、そのデザイナーも「ARMANI(アルマーニ)」と呼ばれて、紳士服、婦人服等について、ジョルジオ・アルマーニのデザインに係る商品に付される商標ないし同人の略称として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものということができる。そして、該「ARMANI(アルマーニ)」の著名性は、現在も継続していると認められるものである。
2.出所の混同について
本件商標は、前記のとおり、「アルマーニロッソ」と「ARMANIROSSO」の文字を上下二段に書して成るものであるところ、その上段の片仮名文字部分が8文字、下段の欧文字部分が11文字から成り、また、これらから生ずる「アルマーニロッソ」の称呼も促音を含め8音で構成され、その外観、称呼とも、全体が一体不可分のものということはできない。さらに、本件商標中の「アルマーニ」「ARMANI」の文字が我が国においてありふれた氏として、或いは、「アルマーニロッソ」「ARMANIROSSO」の文字が全体として特定の熟語や氏名を表すものとして一般の取引者、需要者によく知られているというような事情も認められない。
そして、前記1.のとおり、本件商標の登録出願時には、既に、アルマーニ標章が「ARMANI(アルマーニ)」の商標と、また、ジョルジオ・アルマーニが「ARMANI(アルマーニ)」とも呼ばれて、紳士服、婦人服等について、同人のデザインに係る商品に付される商標ないし同人の略称として著名であったこと及びアルマーニ標章が付される商品「紳士服、婦人服」等と本件商標の指定商品は、装身という観点からみれば、共にファッション関連の商品であって需要者層を同じくする場合も少なくないこと等を併せ考慮すれば、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その構成中前半の「アルマーニ」「ARMANI」の文字のみを捉え、著名な「ARMANI(アルマーニ)」標章を連想、想起し、それがジョルジオ・アルマーニ又は同人と何らかの関係がある者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあったものと判断するのが相当である。
また、この混同を生ずるおそれは、本件商標の登録出願時から現在においても継続しているものと認められる。
なお、被請求人は、「アルマーニ」「ARMANI」を含む商標の登録例が多数存在する旨主張するが、これら商標と本件商標とは、その商標の構成、指定商品、判断時期等が相違し事案を異にするものであり、仮に、その中に他の登録例等の関係において矛盾するもの等が存在するとしても、具体的事案の判断においては、過去の登録例等の一部の判断に拘束されることなく検討されるべきものである。
したがって、本件商標は、請求人のその余の主張について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 第一商標(引用登録第1387409号商標)


第二商標(引用登録第2204518号商標)


第三商標(引用登録第1941608号商標)


第四商標(引用登録第2076955号商標)


第五商標(引用登録第2198023号商標)


審理終結日 2001-09-04 
結審通知日 2001-09-10 
審決日 2001-09-21 
出願番号 商願平6-24035 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (034)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須藤 祀久三浦 芳夫 
特許庁審判長 為谷 博
特許庁審判官 泉田 智宏
鈴木 新五
登録日 1998-11-13 
登録番号 商標登録第3370718号(T3370718) 
商標の称呼 アルマーニロッソ、アルマーニ 
代理人 石原 庸男 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 

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