• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 030
管理番号 1048950 
審判番号 無効2000-35276 
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-24 
確定日 2001-10-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第3329336号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第3329336号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成6年10月25日登録出願、商標の構成を後掲(イ)に示すとおり「RICHART」の欧文字とし、指定商品を「菓子及びパン」として、同9年7月4日に設定の登録がされたものである。

2 引用商標 請求人が本件商標の登録無効を述べる理由に引用する登録第1985685号商標(以下、「引用商標」という。)は、昭和60年9月27日登録出願、商標の構成を後掲(ロ)に示すものとし、指定商品を「菓子、パン」として、同62年9月21日に設定の登録がされ、その後、該登録に係る権利は、平成9年7月8日に存続期間の更新登録がされているものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録はこれを無効とする、との審決を求めると申し立て、その理由および被請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証を提出した。
(1)本件商標の概要
本件商標の概要は、甲第1号証ないし甲第2号証に示すとおりである。
(2)無効事由
(ア)本件商標は他人の先願である引用商標(甲第3号証、甲第4号証)と類似し、その登録商標に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、その登録は無効とされるべきである。
(イ)本件商標
a)まず、本件商標の構成について検討するに、本件商標はローマ字で「RICHART」と一連に書してなるものであり、特定の意味を持たないフランス語の固有名詞であり、リシャールと発音される。参考までに仏和辞典(甲第5号証)によると一字違いのRICHARDが掲載されており、リシャール,と発音されることが示されている。本件商標はこれにTを加えたものであるが、子音のあとに付加された語尾となる子音はふつう発音しないから、本件商標は「リシャール」と発音されることは明らかである。
b)ちなみに本件商標権者である出願人はフランスに居所を有する「ミシェル リシャール」であり、願書に添付された委任状(甲第6号証)によると「MICHEL RICHART」と表記され、訳文では「ミシェル リシャール」と訳され、これが出願人名となっている。したがって、出所表示機能を最も重要な機能の一つとする商標において、出願人名と同一表記になる商標は出願人名と同一に称呼されるのが自然であり、またそうでなければ出所表示に混乱を招くから、本件商標は「リシャール」と自然的に称呼されるものである。
c)次にその他の称呼の可能性を検討するにこの文字は英語には無いがあえて英語読みにすると「リチャート」と発音されるので、「リチャート」の称呼が生じるものである。
d)すなわち本件商標からは.リシャール,リチャートの称呼が生じる。
(ウ)先願商標
一方、本件登録商標の先願である引用商標の構成について検討するに、同商標は文字と図形からなるものであるが、文字はローマ字で明瞭に「Rischart」と一連に書してなるものであり、特定の意味を持たない固有名詞であり、「リシャール」と発音される。この表記にはドイツ語的雰囲気が感じられるが、この点についてドイツ人弁護士G.ラーン氏に問い合わせたところ、まさにこれはフランス語固有名詞RICHARTのドイツ語形変化であり,ドイツではフランス語固有名詞の外来語はフランス語の通りに発音されるとのことである。その理由として「17世紀に多くのユグノー派の人がフランスからドイツに逃亡しそのまま移住したため、ドイツにはRISCHARTやLafonteineのようなフランス語の名前があります。このような背景からRICHARTとRISCHARTは同じフランスの苗字ですが一方はフランス語の表記でもう一方はドイツ語の表記となっています」との説明を受けた。
また、RISCHARTをドイツ語的に読むとリシャートとも読めるとの説明も受けた。すなわち、引用商標からは.リシャール,リシャートの称呼が生じる。
(エ)両商標の対比
まず両商標の構成を対比すると、本件商標がRICHARTの7文字であるのに対し、引用商標はRISCHARTの8文字であり、先願商標の第3字にSが入るほかは同じ構成になっている。そこで両商標の称呼について対比すると、両商標は上記したようにリシャールの称呼を共通とするものである。また、本件商標に他の称呼リチャートが生ずるとしても、リシャールの称呼の発生を否定できない以上、リシャールをもって引用商標と対比することで十分であると思料する。
(オ)両商標の類否
a.両商標の構成は上に対比したとおり、引用商標の第3字にSが入るほかは全く同一の構成からなっており、このように、8字からなる単語の中央に入った1字を除いて全く同じ構成になる両商標は、注意しないとその差異に気が付かない程度の差異というべきであり、その称呼は上述したとおり共に「リシャール」の称呼を生じるものであるから、両商標は称呼において類似するものである。すなわち、本件商標が「リシャール」と称呼されることは上述したとおり、語幹を同じくするフランス語RICHAR…についての辞書の発音記号の表記、及び商標権者であるミシェル・リシャールの願書の日本語表記から明らかであるところ、引用商標は同じく「リシャール」と称呼され、これは前記ドイツ人弁護士G.ラーン氏の説明にもあるようにドイツ語的雰囲気があるとしても、フランス語の固有名詞RICHARTのドイツ語形変化RISCHARTであって、「リシャール」と発音されることが明らかであり、両商標の称呼は類似する。
b.仮に、両商標の他の称呼である「リチャート」(本件商標)と「リシャート」(引用商標)を対比するとしても両者は共通する語頭の「リ」と語尾の「ート」に挟まれた「拗音」に関する部分が「チャ」と「シャ」で異なるだけで、しかもこの拗音は「母音」を共通にしており前後の構成を同一とする中間部の拗音の子音のみが異なる両商標は、その差異音が両称呼の全体に及ぼす影響は小さく、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは,全体から受ける印象は極めて紛らわしいものであるということができる。
c.この点につき、平成9年(行ケ)第272号審決取消請求事件判決(甲第7号証)は、SNIFFER,スニフアーとSONIFER(ソニフアー)を類似するとした審決を支持しており、平成11年(行ケ)第171号審決取消請求事件判決(甲第8号証)はCOGNEX(コグネツクス)とComnex(コムネツクス)を類似するとした審決を支持している。すなわち、それぞれ語頭および語の中間の一字に差異が認められるとしても、「両者をそれぞれ一連に称呼した場合には,全体としての語調、語感が近似したものとなり、彼此聴き誤るおそれのあるものと判断するのが相当である。」としている。
d.また、本件両商標の類否を商標審査基準にあてはめて考えると、主たる称呼「リシャール」については称呼が同一なのであえて審査基準の特定の項目を参照するまでもないが、他の称呼である「リチャート」と「リシャート」は商標審査基準八、第4条第1項第11号(6)「同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるとき」に該当するが、サイバトロンとサイモトロンが類似する事例として示されている。
本件両商標をこのような判決及び商標審査基準にあてはめて考えても、本件商標は引用商標に称呼において類似するということができる。
e.また、両商標の指定商品について検討するに、本件商標が「第30類 菓子及びパン」であるのに対し、引用商標は「第30類 菓子、パン」であるから、両商標は指定商品を同一にするものである.
(カ)まとめ
以上の通りであって、本件商標は他人の先願である引用商標と類似し、その登録に係る指定商品と同一または類似の商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、その出願は拒絶されるべきところ、誤って登録されたものであるから、この登録の無効は免れないものである。
(3)被請求人の答弁に対する弁駁
(イ)本件商標の称呼が、仏語読みで「リシャール」、英語読みで「リチャート」、独語読みで「リヒアルト」であるとの主張は認める。
(ロ)引用商標の称呼に関する答弁書の主張は認められない。仏語読みで「リシャール」となることは当然であるが、独語読みでも「リシャール」となり、「リシャート」の称呼をも生じることは、審判請求書において説明したとおりである。また、「リシャルツ」の称呼が生じるという被請求人の主張は誤りであり、これはRISCHARTに「’」(アポストロフイ)と「S」(エス)が付いて所有格になったときに、「RISCHART’S」(リシャルツ)と称呼されることになるので、この混同は認められない(甲第11号証参照)。なお、「リシャルツ」は請求人が所有する別件の登録商標(登録第1985701号商標、甲第10号証)である。また、「リスチャート」という読みは認められない。RISとCHARTにわざわざ分断して読まなければならない理由は全く無いからである。
(ハ)次に、被請求人は商標の対比について、それが現実に使用されていて、その称呼が一定の発音に特定されている場合は、その特定された称呼のみを以って類否判断されるべきであると主張し、その根拠として乙第1号証を挙げている。これは極めて特異な解釈であり、そのような解釈について請求人は意見を異にするが、乙第1号証は本件とは事案を異にするものである。
すなわち、被請求人は引用商標の使用態様と請求人所有の別件登録商標「リシャルツ」(商標登録第1985701号、甲第10号証)の使用態様とを混同し、引用商標「Rischart」の使用実態が「リシャルツ」だと誤解し、その誤解の上に立って乙第1号証を本件に適用しようとしているが、上述したように「リシャルツ」は請求人所有の別件登録商標であるから、引用商標の実施態様では無い。よって、使用態様に特定した類否判断を主張する被請求人の主張は根拠が無く認められない。
(ニ)本件商標に関し、各種証拠(乙第2ないし乙第26号証)を提出して、本件商標が一般に「リシャール」と称呼されているとの主張には全く異論が無い。これは審判請求書の請求人の主張と同じだからである。
(ホ)引用商標の使用に関し、乙第37号証、乙第39号証ないし乙第44号証を提出して、その実際の使用における称呼は「リシャルツ」であるとの主張は認められない。
上記したように、「リシャルツ」は請求人が所有する別件の登録商標(甲第10号証)の表記であり、引用商標を「リシャルツ」と結びつける根拠は無い。
(ヘ)被請求人は欧文書体の大文字と小文字との差異について、明瞭に看取される差異であると主張しているが、欧文の大文字と小文字の差異は、取引業界においては殆んど認識されないと考えるべきである。現に被請求人は、答弁書第2頁19行において、引用商標を「RISCHART」と大文字で表記しており、ことほどさように称呼に注意が集中しているときは、大文字、小文字の差異には注意が向けられない程度のものだといえる。
(ト)本件商標は世界各国において登録されていると主張されているが、日本においては、類似する先願商標(引用商標)が存在する以上、権利化することはできない。
(チ)まとめ
以上に弁駁したとおり、答弁書の主張にもかかわらず、本件両商標は指定商品を共通とし、ともに特定の観念を有しない一種の造語からなり、その構成は文字中央部の構成において「CH」と子音が連続する部分の前に「S」が加わるか否かの差異であって、とくに分断する必要もない一つのまとまりをもって構成されたものであるから、これを一連に読むときには彼此相紛れ易い構成からなっており、類似するものといえる(甲第12号証参照)。また称呼においても類似するから、結局両商標は類似するものである。

4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第47号証を提出した。
(1)請求人は、本件商標と引用商標とは、「リシャール」の称呼を共通にし、または「リチャート」と「リシャート」の称呼において類似するとして、両者を類似のものと主張しているが、以下に述べるとおりその主張は認められない。
(2)本件商標「RICHART」から仏語読みで「リシャール」の、又、英語読みで「リチャート」の称呼を生じることは明らかであるが、これを独語読みにした場合、「ch」は「ヒ」と発音されるので、「リヒアルト」となる。「リヒアルト・ワグナ-」「リヒアルト・シュトラウス」がその例である(乙第47号証)。
一方、引用商標「RISCHART」は、独語読みで「sch」を「シュ」と発音し、語尾の「T」は明確に発音するので「リシャルト」となる(乙第47号証)。英語読みでは「リスチャート」の、又、仏語読みでは或いは「リシャール」の称呼を生じるかもしれない。
本件商標と引用商標とは、机上でその読み方を判断した場合、上記の様な色々な発音を生じ得るので、もし両商標が使用されていない場合には、夫々の称呼について類否を対比判断する必要があるかと思われる。しかしながら、商標が現実に使用されていて、その称呼が一定の発音に特定されている場合は、その特定された称呼のみを以て類否は判断されるべきものである。このことは、最近の判例(東京高裁平成11年(行ケ)第161号)においても説示されている通りである(乙第1号証)。
(3)本件商標は、その登録後の平成11年より、出願人がフランスで製造し、日本に輸入販売されている商品(チョコレート)に使用されており、一般に「リシャール」と称呼されているものである(乙第2ないし乙第26号証)。乙第2号証ないし36号証は「RICHART」「リシャール」に関する新聞・雑誌の紹介記事である。各種の雑誌で紹介されているように「RICHART」商標のチョコレートは、「リシャール」と称呼されている。
一方、引用商標は、ドイツのミュンヘンにあるケーキ会社「RISCHART」(リシャルツ)と提携している霜辻氏(出願人の株式会社スイス菓子バーゼルの代表者)が「株式会社スイス菓子バーゼル」名義で出願し、登録を受けたものであり(乙第37ないし乙第38号証)、また、商標権者の経営しているレストラン及び同店舗関連の印刷物、看板等には同店舗の名称として「RISCHART’S」、「RISCHART」または「リシャルツ」等の文字が使用されており(乙第39号証ないし乙第44号証)、このほか、引用商標に関連する登録商標(乙第45号証および乙第46号証)もこれに「リシャルツ」の称呼を当てている。
上記乙第37ないし乙第46号証から引用商標中の「RISCHART」は、取引上「リシャルツ」と称呼されていることが明らかであり、それ以外の称呼は見当たらない。
以上のように、取引上においては、本件商標は「リシャール」と、又、引用商標は「リシャルツ」と、それぞれ称呼されているものである。
そこで、「リシャール」と「リシャルツ」とを対比した場合、前者は「シャ-」が強く響くので語尾音の「ル」は弱音で消音化するに対し、後者は、語尾の「ツ」が破裂音で強く響き聴者の印象に残る音であるため、両者は、これを全体として称呼した場合、その音感音調を異にする非類似のものである。
(4)更に、本件商標は、普通の書体の大文字で「RICHART」(「A」の文字を多少崩す)と横書きにしてなる(甲第6号証)に対し、引用商標は長方形黒枠内に小文字で「Rischart」(「R」の文字を多少崩す)と横書きし、かつ同文字の下にパン焼きの釜と思しき図形を描いてなるものである(乙第38号証の2)。
従って、両商標は外観上一見してその差異を明瞭に看取することが出来るものである。請求人は、本件商標と引用商標とは「S」の文字が入る他は全く同一の構成からなっている、と主張するが、両商標の構成は上記の通りであるから、請求人のこの主張は失当といわざるを得ない。
(5)尚、本件商標は、日本のみならず、フランス本国を始め欧米諸国その他国際登録機関を含む世界各国において登録されているものである。

5 当審の判断
商標の類否は、両商標の外観、記憶連想等を総合し、商品の具体的な取引状況に基づき両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決するのが相当である。
そして、本件審判における当事者双方の主張の論点は、本件商標と引用商標とがそれぞれどのように称呼されるものか、特に、引用商標にあって主要な取引指標と目される「Rischart」の欧文字より生ずる称呼、すなわち、これに接する取引者、需要者がいかなる称呼により取引に当たるものか、また、その称呼と本件商標のそれとが紛れ得るものかどうか、という点にある。そこで、当該商品の分野における具体的な取引状況等も考慮しつつ、以下、検討する。
ところで、カステラ、アイスクリーム、クッキー、ビスケット、チョコレート等の洋菓子は、わが国固有の菓子類である和菓子とともに古くから一般に親しまれているように、わが国においては比較的早い時代から欧米各地(国)のそれぞれに独特な食感・形・風味を備えた菓子類が輸入・移入され或いは製造・販売されてきたというのが実情であり、また、それら多種・多様な洋菓子の流通事情と相俟ってこの種商品の取引者、需要者が早くから菓子の名称その他の関連外国文字(英語、仏語、独語等)に慣れ親しむ傾向にあったことはすでに顕著な事実であって、さらに、昨今の商品流通の国際化事情或いは比較的短期間に外来語化するわが国外国語事情等を併せ考慮すれば、この種菓子類の商品分野における外国文字の普及の度合い並びにこの種外国文字に対する需要者一般の知識の程度及び理解力は平均して相当程度高いとみるのが取引事情に照らし相当である。
そこで、引用商標についてみるに、その構成は後掲(ロ)に示すとおり矩形様輪郭図内にパン焼き釜風の抽象図形および「Rischart」の欧文字を表してなるところ、これに接する取引者、需要者はその構成にあって主要な部分というべき該欧文字部分に着目し、これより生ずる称呼をもって取引に資するとみるのが自然である。しかして、外国語辞典類によればこれに該当する英語またはその他の外国語は見出せないから、該欧文字は、特定の意味合いを表現し得ない一種の造語と認識し把握されるものといえる。
かかる場合、これに接する取引者、需要者は、わが国において最も一般に親しまれている英語風の読み方をもって、これを「リスチャート」と読み、その称呼をもって取引に当たる場合があるといえる一方、構成中の「…SCH…」の文字綴りの特徴が独語において、たとえば、「scharf」(鋭い、鋭利な)の語が「シャルフ」、「Scharm」(魅力、魅惑)の語が「シャルム」と読まれる例にならってこれを全体として独語風に「リシャルト(ツ)」と読み、その称呼をもって取引に当たる場合も少なからずあるといわなければならない。
これに関して、被請求人提出の乙各号証(第37号証ないし乙第46号証)によれば、「Rischart」または「リシャルツ」の文字よりなる標章(以下、これらを「請求人標章」という。)は、請求人会社(「株式会社スイス菓子バーゼル」)がその提携先であるドイツのミュンヘンにある老舗のケーキ会社である「RISCHART」(リシャルツ)の名称に因んでその経営に係るケーキ等菓子類の販売も併営するスイス風またはフランス風料理店の店名(営業標識)として、また、その提供に係る役務(サービス)またはその取扱いに係る菓子等を表示するものとして使用しているものであることが認められる。
そうすると、引用商標にあって主要な取引指標と目される「Rischart」の欧文字部分は、前記請求人標章と符合するものであり、その採択理由が前記ドイツの会社に由来することを十分推認させるものであるから、これら事情に照らし引用商標ないしは「Rischart」の文字が「リシャルツ」と呼称される点については請求人自身も了知すべき事柄であるにも拘わらず、これを殊更仏語風または独語風に「リシャール」または「リシャート」と称呼される旨述べる請求人の主張は合理性を欠いたものというほかはなく、むしろ、前述独語風の一般的読み方により「リシャルト(ツ)」と称呼されるとした前記認定を客観的に理由づけるものといわなければならない。そして、前述わが国の洋菓子業界におけるこの種外国文字への習熟事情をも考慮すれば、引用商標に接する取引者、需要者がこれを独語風に「リシャルト」または「リシャルツ」と読むとみるのはさほど困難なものとはいい難く、ほかに、この認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、前述当該商品分野における取引状況も併せ考慮するに、引用商標より生ずる称呼は「リシャルト」または「リシャルツ」とするのが最も自然であって、このほか、時と場合により「リスチャート」と英語風に読まれる程度のものと判断するのが相当である。
一方、本件商標(「RICHART」)についてみるに、一般論として、これが仏語風または英語風に「リシャール」または「リチャート」と読まれ、或いは独語風に「リヒアルト」と読まれるとする点については、請求人・被請求人両当事者間に争いはない。そして、これに関して被請求人より提出された乙第2号証ないし乙第36号証(本件商標に係る菓子類に関して掲載された各種雑誌広告または特集記事等)によれば、本件商標「RICHART」は、「リシャール」と呼ばれてこの種菓子業界または菓子類の需要者間に相当程度広く知られた呼称名とみて差し支えないものである。
したがって、前述当該商品分野における取引状況も併せ考慮するに、本件商標より生ずる称呼は「リシャール」とするのが最も自然であって、このほか、時と場合により「リチャート」と英語風に読まれる程度のものと判断するのが相当である。
そこで、本件商標より生ずる「リシャール」または「リチャート」の称呼と引用商標より生ずる「リシャルト」または「リシャルツ」の称呼とを比較するに、両者は特に後半部における構成音の配列及び相違する各音の音質の差等により全体の語調・音感を明瞭に異にするから、いずれを対比した場合であっても、彼此聞き誤るおそれはなく、称呼上互いに区別し得るものと判断するのが相当である。
また、仮に、引用商標が英語風に「リスチャート」と称呼される場合があるとしても、これと本件商標より生ずる「リシャール」または「リチャート」の称呼とでは、構成音数、音の配列及び相違する音の音質の差等により全体の語調・音感を異にするから、いずれを対比した場合であっても、彼此聞き誤るおそれはなく、称呼上互いに区別し得るものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標と引用商標とは称呼において類似のものとはいえないから、これを理由に両商標の類似を述べる請求人の主張は妥当でなく、その理由をもって両商標を類似のものとすることはできない。そして、ほかに、本件商標と引用商標とを類似のものとすべき事由は見出せない。
請求人は、本件商標と引用商標との外観上の類似を述べているが、本件商標にあって、「Rischart」の欧文字部分は、矩形様輪郭図内にパン焼き釜(かま)風の抽象図形とともに配されてなるものであり、かつ、その文字態様も本件商標のそれとは著しく相違し全体の外観・印象も異にするものであるから、それぞれを時と処を異にして離隔的に観察したとしても、彼此見誤るおそれはなく、外観上判然と区別し得るものというのが相当である。
このほか、請求人の述べる主張をもって前記認定を覆すことはできない。
以上によれば、本件商標は引用商標とは、その指定商品の類否について判断するまでもなく、商標において類似するものとはいえないから、結局、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものということはできない。
してみれば、本件商標の登録は、同法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (イ)本件商標


(ロ)引用商標


審理終結日 2001-06-29 
結審通知日 2001-07-05 
審決日 2001-09-06 
出願番号 商願平6-108123 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (030)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 昌彦長沢 祥子 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 小林 由美子
野上 サトル
登録日 1997-07-04 
登録番号 商標登録第3329336号(T3329336) 
商標の称呼 リシャール、リッチアート 
代理人 松原 美代子 
代理人 宮滝 恒雄 
代理人 岸田 正行 
代理人 水野 勝文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ