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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 014
管理番号 1029563 
審判番号 審判1999-35324 
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-06-28 
確定日 2000-12-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第3076331号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3076331号の指定商品中「貴金属製のがま口・コンパクト及び財布」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第3076331号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成4年7月8日に登録出願、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダ―・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,記念カップ・記念たて」を指定商品として同7年9月29日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第2323849号商標(以下「引用商標1」という。)は、「アイビー化粧品」の文字を横書きしてなり、昭和63年6月16日に登録出願、第21類「頭飾品、造花、化粧用具(ただし、洗面用具入れを除く)」を指定商品として平成3年7月31日に設定登録されたものである。同じく登録第2579428号商標(以下「引用商標2」という。)は、「IVy COSMETICS」の文字を横書きしてなり、平成3年7月18日に登録出願、第21類「頭飾品、造花、化粧用具(ただし、洗面用具入れを除く)」を指定商品として同5年9月30日に設定登録されたものである。同じく登録第2616974号商標(以下「引用商標3」という。)は、「IBE」及び「アイビー」の文字を二段に横書きしてなり、平成3年11月25日に登録出願、第21類「かばん類、袋物」を指定商品として平成6年1月31日に設定登録されたものである。そして、これらの登録商標は、いずれも現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第10号証(枝番を含む。)を提出している。
(1) 請求人は、商願平9-175458号「IVY」の登録出願人であり、その登録審査において本件商標の存在を理由に拒絶理由通知を受け不利益を蒙っているので利害関係を有する者である。
(2) 本件商標と引用商標1との類似について
本件商標は、その構成中の「IVY」の文字が「アイビー株式会社」の文字とその大きさを顕著に異にして書されているばかりでなく、「アイビー株式会社」の文字と常に一体不可分のものとして認識されなければならない格別の理由は存在しないから、「IVY」の文字部分が独立して自他商品識別標識としての機能を果たすものである。したがって、本件商標からは「アイビーカブシキガイシャ」の称呼を生ずるほかに、「IVY」の文字に相応して「アイビー」の称呼をも自然に生ずるものである。
これに対し、引用商標1は、請求人の名称を表わしたものとして構成文字全体に相応して「アイビーケショウヒン」の称呼を生ずるものであることを否定するものではないが、(a)その称呼が長音を含めて9音という冗長に亘るものであること、(b)構成文字において片仮名の「アイビー」と漢字の「化粧品」の文字からなるため、視覚上分離されて看取され易いこと、(c)構成中の「化粧品」の文字は「化粧品」が引用商標1の指定商品中の「化粧用具」とその需要者及び取引者を同じくし、化粧に関する商品として同一の店舗内において取引されることが多い事情が存することから「化粧品」の文字のみでは商品の識別標識として機能し得ない部分であること、(d)前半の「アイビー」の文字が、請求人の略称として自己の取扱いに係る商品全部に統一して使用され、広く一般の需要者及び取引者に認識されている代表的識別標識(所謂ハウスマーク)の役割を果たす部分であること、などの理由から、簡易・迅速を旨とする実際の取引においては、構成中の「アイビー」の文字部分のみを捉えてこれより生ずる「アイビー 」の称呼をもって取引に当たる場合が決して少なくないものである。
そうとすれば、引用商標1は、「アイビーケショウヒン」の称呼を生ずる以外に「アイビー」の文字部分に相応して単に「アイビー」の称呼をも自然に生ずるものである。
したがって、本件商標と引用商標1は、「アイビー」の称呼を共通にする称呼上類似する商標である。
なお、かかる判断は請求人の独断ではなく、引用商標1がその登録審査において甲第3号証に示す登録第1528869号商標「アイビー」と商標上類似すると認定され拒絶理由通知を受け、指定商品中の「化粧用具」から「洗面用具入れ」を除く補正をすることによって登録されている事実(甲第4号証)があり、この審査事例からみても請求人の主張の正当性が裏付けられるものである。
次に、本件商標は、その指定商品中に「貴金属製のコンパクト」を含むものであるが、該商品は、引用商標1の指定商品中「化粧用具」に含まれている「コンパクト」に類似するものであることは甲第5号証の1及び2(「類似商品・役務審査基準」、「類似商品審査基準」)の記載より明らかである。
したがって、本件商標と引用商標1とは、商標及び指定商品において類似するものである。
(3) 本件商標と引用商標2との類似について
本件商標は、上記(2)において述べた如く、「アイビー」の称呼を自然に生ずるものである。
これに対し、引用商標2は、請求人の名称を英文で表記したものとして構成文字全体に相応して「アイビーコスメティックス」の称呼を生ずるものであることを否定するものではないが、(a)その称呼が長音を含めて11音という冗長に亘るものであること、(b)「IVy」と「COSMETICS」の文字が半文字程度間隔を空けて表わされてなり、3文字目の「y」の文字が他の文字と異なり英小文字風に顕著に書されてなるところから「IVy」と「COSMETICS」の文字がそれぞれが視覚的に分離して看取され易いものであること、(c)構成中の「COSMETICS」の文字が「化粧品」を意味する語として引用商標2の指定商品の需要者のみならず広く一般の世人に認識されている語であり、これより容易に想起される「化粧品」が引用商標2の指定商品中の「化粧用具」とその需要者及び取引者を同じくし、化粧に関する商品として同一の店舗内において取引されることが多い事情が存することからすれば「COSMETICS」の文字のみでは商品の識別標識として機能し得ない部分であること、(d)前半の「IVy」の文字は、請求人の略称を英文で表記したものとして自己の取扱いに係る商品全部に統一して使用され、広く一般の需要者及び取引者に認識されている代表的識別標識(所謂ハウスマーク)の役割を果たす部分であること、などの理由から、簡易・迅速を旨とする実際の取引においては構成中の「IVy」の文字部分のみを捉えてこれより生ずる「アイビー」の称呼をもって取引に当たる場合が決して少なくないものである。
そうとすれば、引用商標2は、「アイビーコスメティックス」の称呼を生ずる以外に、「IVy」の文字部分に相応して単に「アイビー」の称呼をも自然に生ずるものである。
したがって、本件商標と引用商標2は「アイビー」の称呼を共通にする称呼上類似する商標である。
また、かかる判断は請求人の独断ではなく過去の審査例をみても明らかで、次の(イ)〜(ハ)に示す商標が類似するものと認定され連合商標の関係で登録されていた事実(甲第7号証の1ないし甲第9号証の2)が存在する。これらの事例は本件審判の審理と関連性を有しており、少なくとも本件商標と引用商標2の類否を判断する上で充分参酌されてしかるべきと思料する。
(イ)「CLUB」と「CLUB COSMETICS」(甲第7号証の1及び2)
(ロ)「aga/アガ」と「AGA COSMETICS/アガコスメティックス 」(甲第8号証の1及び2)
(ハ)「シーボン」と「C'BON COSMETICS」(甲第9号証の1及び2)
次に、本件商標は、その指定商品中に「貴金属製のコンパクト」を含むものであるが、該商品が引用商標2の指定商品中「化粧用具」に含まれている「コンパクト」に類似するものであることは明らかである。
したがって、本件商標と引用商標2とは、商標及び指定商品において類似するものである。
(4) 本件商標と引用商標3との類似について
本件商標は、上記(2)において述べた如く、「アイビー」の称呼を自然に生ずるものである。
これに対し、引用商標3は、「IBE」と「アイビー」の文字を二段に併記してなるものであるから、該文字に相応して「アイビー」の称呼が生ずるものである。
したがって、本件商標と引用商標3とは、「アイビー」の称呼を共通にする称呼上類似する商標である。
次に、本件商標は、その指定商品中に「貴金属製のがま口及び財布」を含むものであるが、該商品は、引用商標3の指定商品中の「袋物」 に含まれている「さいふ、がま口」 に類似するものである(甲第5号証の1及び2)。
したがって、本件商標と引用商標3とは、商標及び指定商品において類似するものである。
(5) 以上述べたように、本件商標と各引用商標は、外観、観念について比較するまでもなく「アイビー」の称呼を共通にする類似する商標であり、かつ、その指定商品も類似するにもかかわらず誤って登録されたものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
(6) 答弁に対する弁駁
(イ)本件商標と引用商標1が非類似であるとの主張に対し反論する。
語呂の良い称呼であるとしても、引用商標1のように全体称呼が9音という冗長な音構成より成る場合、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては長い称呼のうち、印象に強く残る部分のみを捉え、これより生ずる称呼、観念をもって取引に資する場合が少なくないのが実情である。
また、引用商標1の構成中の「化粧品」の文字は、化粧品、化粧用具などの化粧に関する商品の製造又は販売業を表わすものとして、該商品を取り扱う会社において、その商号中に通常有するものであるから、その通有性の故に看者に与える印象は弱く、その商品の営業主体の特徴的な個性を表わすもの(要部)は、その前に表示された「アイビー」の文字にあるというべきものであって、引用商標1が請求人の名称を表わし、「アイビー」と「化粧品」の文字が一連に表示されているものであっても、その相互間の看者の注意を惹く上において軽重の差のあることは明らかであり、看者は「アイビー」の文字に注目するものである。
そうして、上記の如く、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、比較的称呼の長い結合商標において、軽重の差のあるものについては、要部に簡略して称呼するのが通例である。
なお、請求人は、「化粧品」の文字については、該文字のみでは商品の識別標識として機能し得ない部分であると主張しているのであって、該文字が直接商品そのものを表わす等とは一言も述べていないし、「化粧品」の文字が引用商標1の指定商品との関係から商品そのものを表わすものでないことは、何人がみても一目瞭然の事実であるから、引用商標1の登録審査において指定商品を「化粧用具」に限定することなく登録されることについて何等疑問の余地はなく、当然のことである。
また、引用商標1中の「アイビー」の文字は、請求人の略称であり、請求人が属する化粧品業界のみならず、あらゆる業界において社名の略称を自己の販売する商品に統一して使用することは極一般的に行われていることであるから、証拠を提出するまでもなく容易に推測されるところであり、「アイビー」が請求人の略称として引用商標1の指定商品を始め化粧に関連する商品の需要者及び取引者に広く認識されていることについても、単に被請求人が請求人の使用の事実等について不知であるというだけでは請求人の主張を覆す理由とはなり得ないものである。
次に、引用商標1の登録審査において、審査官が「アイビー」と「アイビー化粧品」が類似であると認定したのは紛れもない事実であり、請求人が指定商品を補正することによって拒絶理由を解消したことは、甲第3号証の指定商品と抵触する「洗面用具入れ」については権利化不要の事情から指定商品の補正により拒絶理由を回避したのであって、この点について何等論難されるいわれはない。
(口)本件商標と引用商標2が非類似であるとの主張に対し反論する。
上記(イ)において述べたように、語呂の良い称呼であるとしても、引用商標2のように全体称呼が11音という極めて冗長な音構成より成る場合、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては長い称呼のうち、印象に強く残る部分のみを捉え、これより生ずる称呼、観念をもって取引に資する場合が少なくないのが実情である。また、引用商標2の構成中の「COSMETICS」の文字は、今日の我が国の日常生活における英語の普及度からみて、英和辞典を繙くまでもなく「化粧品」の語義を有する語として一般に理解され馴染み深い語であることは明らかであり、指定商品中に化粧に関連する商品をを有する引用商標2との関係からみれば、該文字に接する需要者、取引者は「COSMETICS」の文字のみをもって商品の取引に当たることはあり得ないことである。それ故、自他商品識別標識として機能する特徴的な個性を表わすもの(要部)は、その前に表示された「IVy」の文字にあるというべきものであって、引用商標2が「IVy」と「COSMETICS」を一体的に表示されるものであっても、その相互間の看者の注意を惹く上において軽重の差のあることは明らかであり、看者は「IVy」の文字に注目するものである。
そうして、前記の如く、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、比較的称呼の長い結合商標において、軽重の差のあるものについては、要部に簡略して称呼するのが通例である。
なお、「COSMETICS」の文字が引用商標2の指定商品との関係から商品そのものを表わすものでないことは何人がみても一目瞭然の事実であるから、引用商標2のその登録審査において指定商品を「化粧用具」に限定することなく登録されることについて何等疑問の余地はなく、当然のことである。
次に、商標の類似範囲は、時間の経過とともに変化するものであり、乙第1号証にもその記載が見受けられるが、乙第1号証には、甲第7ないし第9号証に示した商標の類似認定を覆す理由となる内容は全く見い出すことができないばかりでなく、示唆すらもされていない。ましてや、甲第7ないし第9号証により示した登録例は、特許庁において類似と認めたからこそ連合商標として成立した事実を示すものであるから、これを根拠とする請求人の主張には、論難されるいわれは全くない。
(ハ)本件商標と引用商標3が非類似であるとの主張に対し反論する。
請求人は、一般の消費者が小売店等の店頭で貴金属製品を購入する場合、消費者自らが商品を手に取って、その品質・デザイン等を確認してから購入することが多いことを否定しない。また、商標の類否の判断においては、称呼、観念及び外観の類否の判断における要素及び商標自体の構成等を総合的に勘案して判断すべきであるとの主張に対しても異論はない。
しかしながら、被請求人が挙げる上記商品の取引例は、小売店等の店頭に於ける商品取引の例を挙げたに過ぎず、この一例のみをもって、商品取引における称呼の重要性を否定する被請求人の主張は、商品の流通過程に於ける商取引の実情を無視した主張と言わざるをえない。
すなわち、一般に高価な貴金属製品であってもその取引は、小売店等の店頭に於ける取引に限られるものでないことは言うまでもないことであり、取引される商品の数量からみても、小売店等で扱われる商品の数より卸売段階等で業者に扱われる数の方が圧倒的に多く、簡易迅速を尊ぶこれら業者による取引においては、電話、口頭などによる取引において称呼が果たす役割は、観念、外観より極めて大きいものである。
被請求人は、「貴金属製のコンパクト」において商品が抵触する本件商標と引用商標1との類否判断においては、商標の類否判断に於ける観念が果たす役割の重要性を否定しているにもかかわらず、同じ貴金属製品である「貴金属製のがま口及び財布」で商品が抵触する引用商標3との類否判断においては、逆に観念が果たす重要性を主張している。
したがって、被請求人の主張には一貫性がなく、これこそ商標類否の判断における観念及び外観の役割をいたずらに重視したものであると言え、称呼の果たす重要な役割を無視した不当なものであって、自らが主張する「称呼、観念及び外観の商標類否の判断における要素及び商標自体の構成等を総合的に勘案して判断すべきである。」との主張と全く矛盾するもので、到底受け入れられるものではない。
してみれば、被請求人が主張するように、引用商標3と本件商標とが、観念及び外観において誤認混同をおこすことがないとしても、実際の取引において称呼が果たす重要性と取引の実情とを含めて総合勘案すれば、本件商標と引用商標3は誤認混同を生ずるおそれは十分にあり、両商標が類似することは明らかである。

3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出している。
(1) 審判請求の理由のうち、本件商標の態様、その手続の経緯については認め、本件審判を請求するについて利害関係を有するとの主張については敢えて争わない。しかしながら、その余の主張については争う。
(2) 請求人が本件商標に類似するとして挙げている引用商標1ないし3と本件商標とは、彼此混同を生ずる程に類似するものではないことを以下に述べる。
(イ)請求人は、自己の所有する登録第2323849号(甲第2号証の1及び2)からは「アイビーケショウヒン」の他に「アイビー」の称呼をも自然に生ずると主張する根拠として、(a)「アイビーケショウヒン」では、冗長に過ぎること、(b)引用商標1の構成が片仮名「アイビー」と漢字「化粧品」からなり、視覚上分離されて看取され易いこと、(c)商標構成中の「化粧品」の文字のみでは商品の識別標識として機能し得ない部分であること、(d)「アイビー」の文字が、請求人の略称として自己の取扱いにかかる商品全部に統一して使用され、広く一般の需要者及び取引者に認識されている代表的識別標識(いわゆるハウスマーク)の役割を果たす部分であること、等をあげている。
しかしながら、これらの根拠は合理的なものではなく到底首肯し得ないものである。先ず、(a)については、凡そ、称呼が冗長に過ぎ、これを分離して称呼するか否かはその語調、語感等から決まるものと思われる。例えば、8音程度であっても分離されることがあるであろうし、10音を超える場合であっても分離されることなく、一気・一連に称呼されることもあるであろう。
すなわち、その称呼が一気・一連に称呼するに何ら支障のない語呂の良いものである限りにおいては、これを分離すべき格別な理由はないというべきである。
さらに、請求人が自ら述べているように、引用商標1は自己の名称を表わしたものであることから、その業種を表わす個所を略して称呼、観念されることは通常あり得ないものと考えられる。
また、(b)の視覚上分離されて看取され易いとの主張についても、取引の実際を無視するものといわざるを得ない。すなわち、商標に接した需要者等は当該商標が特殊な書体や、著名商標等を含む場合は別として、全体を一つのものとして把握し、記憶するのが通常であり、その際には商標の有する意味合い等はあまり深く考えないものである。
さらに引用商標1は、片仮名及び漢字からなるものではあるが、共に日本語として一般的なものであり、特殊な書体で書されているものでもない。
外来語である「アイビー」を片仮名で表わすのは自然であり、これが漢字と組み合わされたからといって、「アイビー」と「化粧品」に分離して、認識し、記憶されることはないとするのが自然である。
請求人は、(c)において「化粧品」の文字のみでは商品の識別標識として機能し得ない部分であると述べている。
確かに、引用商標1の指定商品である「化粧用具」との関係においては「化粧品」の部分が識別標識たり得ないことがあり得るかもしれない。
しかしながら、引用商標1は、全体が一つのものとして把握され、「化粧品」のみが殊更に分離されることがないことから、登録されたものである。
仮に、請求人が主張するように「化粧品」が指定商品との関係において、商品を表わすというならば、需要者等に当然品質の誤認を生ずることになるであろう。ところが、引用商標1は、その指定商品を「化粧用具」のみに限定することなく適法に登録され、現在に至っている。かかる事実は、引用商標1は「アイビー」と「化粧品」に分離されることはないことを示す有力な証左である。
次に、請求人は、(d)において、「アイビー」の文字が請求人の略称として自己の取扱いに係る商品全部に統一して使用され、広く一般の需要者及び取引者に認識されている代表的識別標識(所謂ハウスマーク)の役割を果たす部分であると主張しているが、被請求人は、「アイビー」を請求人が自己の取扱いに係る商品全部に統一して使用している事実については何ら知るところではないし、その事実も何ら立証されていない。
また、「アイビー」が広く一般の需要者及び取引者に認識されているとの主張についても、被請求人はその事実については不知であり、その事実の立証もされていない。
したがって、(d)における主張は何ら根拠のないものであり、凡そ反論に値しないものとすらいえる。
以上に述べたように、引用商標1の自然的称呼は「アイビーケショウヒン」であり、「アイビー」とのみ称呼され、観念されることはないことから、本件商標とは称呼において非類似のものである。
請求人は、引用商標1の審査過程において引用された登録商標を甲第3号証として挙げているが、審査において甲第3号証の商標が引用された事実のみをもって、「アイビー」と「アイビー化粧品」が類似するとするのは甚だ早計と考える。
何故ならば、当該審査において審査官が甲第3号証を引用したのは、その担当審査官が類似すると判断したに過ぎないものであり、その判断の当否については何ら争われていないからである。
すなわち、拒絶理由を解消するために、手続補正書により商品の減縮をしたのは、請求人が甲第3号証と自己の引用商標1の商標が類似すると納得したに過ぎないものであり、かかる事実のみをもって「アイビー」と「アイビー化粧品」が類似であるという客観的な根拠とはなり得ないものと考える。
したがって、審査において商標法第4条第1項第11号による拒絶理由の通知を受けた事実のみをもって、引用商標1との類似が客観的に明らかにされたことにはならないものである。
(口)本件商標が引用商標2と類似するとの主張に反論する。
被請求人が引用商標2から「アイビー」の称呼をも自然に生ずると主張する根拠として挙げている(a)〜(d)も、引用商標1について述べたのと同様に根拠に乏しいものである。
先ず、その(a)については、引用商標2の称呼が11音であるからといって、「アイビー」と「コスメティックス」に分離して、称呼されるとは必ずしもいえないものと考える。
何故ならば、その称呼は一連に称呼するに何ら不都合な長さではなく、しかも語呂も悪いものとはいえないからである。例え、「アイビー」と「コスメティックス」の間に若干のスペースが置かれたとしても、それは英語の発音における自然なものであり、「IVy」と「COSMETICS」に分離する根拠とはならない。
さらに、(b)については、英文字を書す場合に、各単語間に半文字程度のスペースを設けることは、当然のことであり、スペースを置かずに一連に書すことはあり得ない。
また、「y」が英小文字風に顕著に書されているというが、他の文字と同一の大きさであり、そのタイプフェースも他の文字と同様のものと認められる。
したがって、「IVy]と「COSMETICS」の間にスペースが置かれている事実及び英小文字風の「y」の存在をもって引用商標2が分離され、「アイビー」と称呼されるのが自然であるとの根拠にはなり得ないことは当然である。
次に、(c)において「COSMETICS」は「化粧品」を意味する語として引用商標2の指定商品の需要者のみならず、広く一般世人に認識されている語であると主張している。
第3類の「化粧品」の分野においてならば、そのようなこともいえるかもしれないが、本件商標の属する第14類においてまでそのように言えるかについては、疑問なしとしない。
もし、「COSMETICS」の語が「化粧品」を表わす語として一般に馴染みのある語であるならば、引用商標1で述べたように、引用商標2の審査においてもその指定商品は「化粧用具」に限定されるべきであったはずである。
それにもかかわらず、商品の限定をなすことなく登録されている事実は、「化粧用具」以外に引用商標2を使用しても商品の品質について誤認を生ずるおそれはないと判断されたからである。
すなわち、引用商標2は、「IVy」と「COSMETICS」に通常分離されることはなく、一連のものとして称呼・観念されると判断されたからにほかならない。
したがって、「アイビーコスメティックス」と称呼される引用商標2と本願商標とは、引用商標1と同様に非類似の商標である。
請求人は、「COSMETICS」が分離されるべき根拠として、甲第7ないし第9号証を提出している。
これらの証拠においてあげられているのは、いずれも旧商標法下における連合商標の例である。
商標の類似範囲は、本来時間の経過とともに変化するものであるので、登録の段階で連合商標として関連づけることにより固定化してしまうことは適当ではないのである(乙第1号証)。
したがって、これらの商標における審査の結果は証拠として適当なものとはいえない。
(ハ)引用商標3と本件商標について述べる。
引用商標3における「IBE」からは、「イべ」もしくは「アイビーイー」の称呼が生ずるのが自然であり、「アイビー」の称呼は不自然のものである。
しかしながら、下段の片仮名「アイビー」が「IBE」と同様の大きさで書されていることから、「アイビー」の称呼も生じ得ることは認めざるを得ない。
この「アイビー」の称呼と本件商標の蔦の図形の下に書されている「IVY」から生ずる称呼「アイビー」とは同一であることから、商標類否の判断における通常のプラクティスによれば、両商標は類似することになる。
しかしながら、かかる判断は、商標類否の判断における主要な要素である、称呼、観念及び外観のうち、称呼のみをいたずらに重視する不当なものである。
商標類否の判断においては、商標が商品取引社会において果たす役割を考慮し、称呼、観念及び外観の商標類否判断における要素及び商標自体の構成等を総合的に勘案して判断すべきである。
本件商標は、蔦の図形及び「IVY」の英文字から、蔦の観念が容易に生じるのに対し、引用商標3は何らの観念を生じない造語というべきものである。
このように本件商標は明瞭な観念を生じ、しかもその外観も顕著に相違することから、両商標は観念及び外観において非類似であることは明らかである。
さらに、両商標の指定商品が属する分野における取引の実体を考慮すると、称呼の果たす役割は外観及び観念に比べると極めて低いものといえる。
すなわち、抵触する商品「貴金属製のがま口及び財布」の取引の分野においては、商品そのものが「貴金属製」であり一般に高価なものであることから、その購入に際しては、実際に店頭等で手に取って、需要者自らがその品質、デザイン等を確認して購入するのが常であり、その称呼を通して電話等により購入することは通常あり得ないものと考える。
すなわち、この種の商品における称呼の役割は極めて低いものであり、本件商標と引用商標3のように外観が顕著に相違し、観念も共通しないものにあっては、彼此混同を生ずることはなく、両商標が併存したとしても、需要者・取引者にとっては何ら不都合はないものといえる。
したがって、本件商標と引用商標3とは、彼此混同を生じ得ない非類似の商標である。
(3) 以上に述べたように、本件商標は、引用商標1ないし3とは非類似であり、商標法第4条第1項第11号に該当するものではないことから、本件審判請求には理由がない。

4 当審の判断
本件審判請求の利害関係については当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
本件商標と各引用商標との類否について検討するに、本件商標は、別掲のとおり、蔦を図案化した如き図形の下部に小さく「IVY」の文字を書し、これらの右に「アイビー株式会社」の文字をゴシック体で大きく書してなるものであるところ、上記「IVY」の文字は、「蔦」を意味する英語であり、小さく書されているとしても、上記図形とも相俟って、それ自体が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすというべきであるから、本件商標は該文字に相応して単に「アイビー」の称呼をも生ずる。さらに、上記「アイビー株式会社」の文字部分は、被請求人の商号を表したものといえるところ、「株式会社」の文字が、会社の種類を表すために法人の商号中に一般に用いられるものであって、簡易迅速を尊ぶ取引場裏においてはしばしば略称されるものであることからすれば、本件商標は、上記「アイビー株式会社」の文字部分からも単に「アイビー」の称呼が生ずるといわなければならない。
他方、引用商標1は、上記のとおり、「アイビー化粧品」の文字を横書きしてなるものであるところ、片仮名と漢字という異なる種類の文字が結合されているために、視覚上、「アイビー」の文字と「化粧品」の文字の二つの部分からなるものとして看取され、かつ、これらが常に一連一体のものとしてのみ認識されなければならない格別の理由がないのに加え、「化粧品」の文字部分は、引用商標1の指定商品中の「化粧用具」と「化粧品」とが密接な関係を有するものであることからすれば、それ自体自他商品の識別力がないか極めて弱いものであるというべきであるから、引用商標1は、「アイビー」の文字部分を捉え、これより生ずる称呼をもって取引に資される場合も少なくないというのが相当である。
してみれば、引用商標1は、「アイビーケショウヒン」の一連の称呼のほか、単に「アイビー」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
また、引用商標2は、上記のとおり、「IVy COSMETICS」の文字を横書きしてなるものであるところ、「IVy」の文字部分と「COSMETICS」の文字部分とは、半文字程度間隔を空けて表され、3文字目の「y」が小文字風に書されているために、「IVy」の文字と「COSMETICS」の文字の二つの部分からなるものとして看取され、かつ、これらが常に一連一体のものとしてのみ認識されなければならない格別の理由がないのに加え、「COSMETICS」の文字は、「化粧品」を意味する英語であり、引用商標2の指定商品中の「化粧用具」と「化粧品」とが密接な関係を有するものであることからすれば、それ自体自他商品の識別力がないか極めて弱いものであるというべきであるから、引用商標2は、「IVy」の文字部分を捉え、これより生ずる称呼をもって取引に資される場合も少なくないというのが相当である。
してみれば、引用商標2は、「アイビーコスメチックス」の一連の称呼のほか、引用商標1と同様、単に「アイビー」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
さらに、引用商標3は、上記のとおり、「IBE」及び「アイビー」の文字を二段に書してなるものであるから、「アイビー」の文字に相応して「アイビー」の称呼を生ずること明らかである。
そうすると、本件商標と各引用商標とは、それぞれの外観及び観念を異にするとしても、それぞれから生ずる「アイビー」の称呼を共通にする類似の商標といわなければならない。
そして、本件商標の指定商品中の「貴金属製のがま口及び財布」は、引用商標3の指定商品中の「袋物」に包含されるものであり、同じく「貴金属製のコンパクト」は、引用商標1及び2の指定商品中の「化粧用具」に包含されるものである。
したがって、本件商標は、その指定商品中「貴金属製のがま口・コンパクト及び財布」については、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録は、上記指定商品について商標法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
しかしながら、本件商標の指定商品中の「貴金属製のがま口・コンパクト及び財布」以外の商品は、各引用商標の指定商品と同一又は類似のものとはいえないから、これらの商品については、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものではなく、その登録を無効とすることはできない。
なお、被請求人は、本件商標と引用商標3との対比において、本件商標は明瞭な観念を生じるのに対し、引用商標3は何らの観念も生ぜず、両商標の外観も顕著に相違することから、両商標が観念及び外観において非類似であることは明らかであり、両商標の指定商品が属する分野における取引の実態を考慮すると、称呼の果たす役割は外観及び観念に比べて極めて低く、両商標が併存しても需要者・取引者にとって何ら不都合はない旨主張しているが、上記指定商品の取引実態を考慮したとしても、両商標は、それぞれから生ずる称呼をもって取引に資されるというのが相当であり、上記認定判断に照らし、被請求人のこの主張は採用することができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別 掲
本件商標

審理終結日 2000-10-06 
結審通知日 2000-10-20 
審決日 2000-11-01 
出願番号 商願平4-135892 
審決分類 T 1 11・ 262- ZC (014)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 宮川 久成岡田 美加 
特許庁審判長 大橋 良三
特許庁審判官 寺光 幸子
小池 隆
登録日 1995-09-29 
登録番号 商標登録第3076331号(T3076331) 
商標の称呼 アイビー、アイブイワイ 
代理人 奈良 武 
代理人 小田 治親 

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