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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 024
管理番号 1029458 
審判番号 審判1998-35206 
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-05-14 
確定日 2000-12-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第3098666号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3098666号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第3098666号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり、「kroy」の文字を横書きしてなり、平成5年3月4日に登録出願、第24類「かや,敷き布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製壁掛け,織物製ブラインド,カーテン,テーブル掛け,どん帳」を指定商品として同7年11月30日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第26号証(枝番を含む。)を提出している。
(1) 請求人及びその商標について
1911年に Sir James Woods が、カナダのヨーク(York-現在のトロント市の元の名前)において織物製品の製造者として創業し、1944年までにカナダで最大の織物メーカーとなった。1944年に、Sir Woodsは、York Knitting Mills Ltd.として会社を設立し、これが請求人のルーツである。その後同社は、特徴のある社名にするため社名の一部である「York」のスペルを逆さにして「kroy」とし、これを商標として採択すると共に kroy Unshrinkable Wools Limitedを商号として採択した。
1940年代には、カナダに本社を、米国マサチューセッツ州に米国子会社を設立し、1950年代前半には、「kroy」の語は、カナダ、米国において、周知商標になった(請求人の商標は、世界の主要な国で登録されている)。
日本におけるライセンシーは、カネボウ、東洋紡、クラボウインダストリーズ社などで、更に他の日本企業ともライセンス交渉がすすんでいる。
「kroy」商標は、以下に詳細に述べるように、縮まないウールの商標として、また機械洗いのできるウール製品について国際的にも最もよく知られている商標である。
これらの事実を示す証拠として、Reader's Digest(1972年4月)、P.157 「kroy」(ロゴ)表示を伴う解説付広告(甲第2号証)ほか、甲第3ないし第18号証を提出する。
(2) 本件商標は、請求人の商標の態様と同一である。被請求人名義で登録されている本件商標は、上記甲第2号証、甲第4ないし第11号証及び甲第13ないし第18号証並びにkroy社の元社長で現取締役の Mr.N.H.Cruickshankの名刺(甲第19号証)に表示された「kroy」商標のロゴと同一であることは、多言を要するまでもなく明らかである。
(3) 被請求人は、本件商標が、請求人の所有に係る商標であることを知悉し、十分認識した上で自己の名義での登録に及んでいる。即ち、
(イ)請求人の元社長であり現役員である Mr.N.H.Cruickshankの kroy社への出張報告によれば、1987年(昭和62年)8月26日に大阪市の兼松寝装株式会社で同社社長などと共に(日本側6名)被請求人会社のYoshiaki Kobayashi氏と会合をもっており、その際、同氏と名刺交換をした旨。また同日の夕刻に、上記小林氏と会議に同席した三菱商事大阪支店繊維部ウールチームの T.Suka氏と共に夕食を共にしたことの報告がある。その際交換した小林氏の名刺(甲第20号証)を証拠として提出する。
(ロ)寝装リビングタイムス(1996年5月21日付)における被請求人の広告(甲第21号証)によれば、「ウールのクオリティを進化させたkroy加工、当社は、kroyウール・ネームを国内レジスターしています。この加工技術は、羊毛の表面をうまく溶かすことで、縮みやフェルト化、吹き出しを防止、温かさ、快適さのクオリティを進化させました。ドレープ感のあるkroy加工ウールの掛け布団は、安眠をお届けします。」旨を述べ、本来の「kroy」商標の出所、品質表示機能を混乱させる記述をしている。
そこで請求人は、被請求人が「kroy」の語を商標として登録したことを知り、1996年7月9日付で被請求人に書簡(甲第22号証の1)を送り、同商標が同社にとって重要な資産であること、及び仮に出願、登録の手続をとる場合には事前に充分な説明をすべきであるが、何の連絡も受けていない。然るべき釈明をして欲しい旨及び、日本において「kroy」技術について誤った認識をもたれないよう非常に心配している旨を述べ、回答を要求したが、何等の回答がないため、更に1996年8月6日と8月20日に督促の書簡(甲第22号証の2及び3)を送ったが、これらを全く無視したまま現在に至っている。
改めて指摘するまでもなく、前記の「kroy」商標の被請求人による登録出願は、さきの大阪における会議後に行われたものであり、しかも、請求人による上述の書簡による不正出願の指摘に対してもこれを無視しているのであるから、明らかに他人の周知、著名な商標であることを充分承知の上で出願、登録をし、更にこれを敢えて自己のものとして保有しようとしていることが明白である。
(4) 無効審判の根拠
(イ)商標法第4条第1項第7号
甲各号証に示すとおり、被請求人は、他人の所有に係る商標であることを十分認識した上で、世界的に使用され著名となっている商標を自己の名義で登録するという冒認行為に及んだものであり、当該行為は国際信義に反し、公序良俗に違反する。
特に、オーストラリア、米国、中国、台湾のライセンシーの「kroy」商標に対する態度と比較したとき、被請求人のとってきた行為とその結果としての本件登録は、日本国と日本の業界に対する外国からの信用を著しく害するものであり、この登録の存在は、第4条第1項第7号に該当する。
(ロ)商標法第4条第1項第10号
請求人商標「kroy」は、本件商標の出願日である1993年3月4日において既に、我が国を含む世界各国において、羊毛織物、及びその製品について周知となっており、本件商標は、請求人の商標と同一の商標について、当該商品と同一又は類似する商品について登録されたものであり、商標法第4条第1項第10号に違反する。
(ハ)商標法第4条第1項第15号
甲各号証によっても明らかなとおり、「kroy」商標は、日本においても、また外国においても高い信用を築いているということができるが、他人が無断でこの商標を登録し、使用した場合、出所及び品質について取引者、需要者に混同、誤認を生じさせ、また国際的にも高い信用を得ている「kroy」商標の果たす機能を希釈化することにもなるので、上記条項に該当する。
(ニ)商標法第4条第1項第16号
「kroy」商標は、甲各号証からも明らかなように、国際的にも、また繊維関連における羊毛の分野で著名な国際羊毛事務局(IWS)からも「kroy」加工羊毛の品質について評価されている訳であるが、厳しい品質基準に副った製品を表示する本件商標を、無断で他人が使用するとすれば、商品の品質について誤認を生ぜしめることは容易に想像することができるものであるから、第4条第1項第16号にも該当するものである。
(5) 以上の理由により、本件登録は無効とすべきものと考えざるを得ない。
(6) 被請求人の答弁に対する弁駁
(イ)商標法第4条第1項第7号について
「kroy」商標が請求人の業務に係る商品を表示する商標として少なくとも本件商標の出願時に外国において著名であったことを示す資料として甲第24号証を提出する。
これらにより、請求人が「kroy」商標をその商品「ウール製品」について永年継続して使用し、広告宣伝した結果、カナダ、アメリカをはじめ、ヨーロッパ、中国、台湾等でよく知られていたことがわかる。
また、「kroy」商標が請求人の業務にかかる商品を表示する商標として日本の取引業者の間でよく知られていたことを示すものとして、いずれも日本の繊維業界では最大手である、カネボウは1985年より、クラボウは1988年より、東洋紡は1990年より、請求人とライセンス契約を結んでいる事実がある。
このように外国及び日本の繊維業界でよく知られた「kroy」商標を被請求人が知らなかったはずはない。しかも既に述べたとおり、被請求人会社のYoshiaki Kobayashi氏が1987年8月26日に大阪市の兼松寝装株式会社において請求人の現役員Mr.Cruickshankと会い、夕食を共にした事実がある。また、甲第21号証として提出した寝装リビングタイムスの広告における「kroy加工」に関する記述では「『kroy』がもともと外国のものであり、縮まないウールである」旨述べており、明らかに請求人の業務にかかる「kroy加工」について記述している。
このような状況において被請求人が本件商標を採択するにあたり盗用の意図がなかったとは到底認識できず、請求人が「kroy」商標のもとに営々と築きあげてきた業務上の信用にただ乗りしようとしていたことは明白である。
(ロ)商標法第4条第1項第15号について
請求人は「kroy」商標を加工したウールについて1944年から北アメリカで使用し始め、その後イギリス、イタリー、オーストラリア、ニュージーランド、日本、台湾で上記商標を本件商標の出願された1993年より以前から使用している。1998年末までに、ウールトップ、ルースウール、毛織物を合わせた世界中のkroy製品の総生産量は1兆7000億キログラム以上である。
このように、請求人の業務にかかる「kroy」商標は世界中の数多くの国々でウールに関して使用されてきた結果、遅くとも1993年より前に、請求人が開発した方法により加工されたウール及びウール製品を示すものとして著名となるに至っている(甲第2ないし第18号証及び甲第24号証)。請求人の開発した機械により加工されたウールは業界では通常「kroyウール」といわれている。kroyウールは縮みにくい、染色等の化学的工程を容易にするなどのいくつかの利点を有している。
そして、その品質の優秀性から、ウールマークで有名な国際羊毛事務局(IWS)からも推奨されている。
このような画期的な特長を有するkroyウールは日本の繊維業界においても注目されており、すくなくとも本件商標の出願より前から本件商標は知られていた。このことは上述のようにカネボウ、クラボウ、東洋紡等の日本を代表する繊維会社がそれぞれ1985年、1988年、1990年より請求人との間でライセンス契約を結んでいたことからも窺える。
したがって、被請求人が本件商標をその商品に使用すると請求人の業務にかかる商品との間で出所の混同を生じるものである。
(ハ)請求人は、上記のように、「kroy」商標が請求人の業務にかかる商品を表示する商標として少なくとも本件商標の出願時に著名であったことを述べ、その証拠を提出したが、これに加えて甲第25及び第26号証を提出する。
甲第25号証は、繊維技術に関する雑誌の記事である。これらによると、ウールの防縮加工として現在では主流となったkroy方法が1980年代頃から世界的に注目され、日本では1984年8月に鐘紡がこの方法を導入して衣類及び毛布の分野でkroy加工を採用し始めたことがわかる。国際羊毛事務局と鐘紡は、1984年8月に共同で記者会見を開いて、kroyの加工法を日本で初めて導入することを発表した。その記事が甲第26号証の1である。
その後、日本国内で東洋紡、京都西川等の繊維大手の会社がkroyの加工方法を採用し、「kroy」は日本の繊維業界において著名となるに至っている。
特に甲第26号証の2に示されたとおり、株式会社京都西川は昭和61年(1986年)からkroy加工による羊毛を使用した毛布を製造・販売し始め、初年度売上目標は四億円、三年後には年間八億円の売上を見込む期待の商品であった。
(ニ)請求人の業務に係る商品と本件商標の指定商品との間で出所の混同が生じる蓋然性について
被請求人は、請求人の業務に係る商品「ウールの防縮加工のための機械」及び「毛糸等」と本件商標の指定商品「かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布等」とは非類似の商品であるから、請求人が本件商標をその商品に使用しても請求人の業務にかかる商品との間で出所の混同は生じない、と述べている。
たしかに、請求人の主たる取り扱い商品はウール加工機械であるが、その加工機械は請求人の開発した画期的なウールの防縮加工技術、即ち「kroy法」を行うのに必須不可欠のものである。甲第25及び第26号証からもよくわかるが、「kroy」は世界的に最もよく知られたウールの防縮加工技術のひとつを示す名前であり、単に機械の商標というのみではない。実際、甲第4、第7、第10及び第12号証、甲第24号証の10、17、22等に示したとおり、請求人はその機械で加工したウールをも「kroy」の商標で製造・販売している。kroy法を実現するためのkroyマシーンを用いて加工された羊毛がkroyウールであり、その羊毛を用いて生産された製品はkroy加工が施された製品と呼ばれている。
特に、甲第26号証の1及び2より明らかなように、請求人のライセンシーである鐘紡及び京都西川がkroy加工をうたった製品「毛布」を開発、販売しており、被請求人がその商品「毛布」に本件商標を使用した場合、上記商品が請求人と何らかの関係がある者の業務にかかる商品であるとして誤認される蓋然性は本件商標の出願時においても非常に高かった。
さらに、甲第26号証の1及び5ないし9からわかるように、請求人のライセンシーである東洋紡及び鐘紡はkroy加工を施した織物を本件商標の出願前から製造、販売していた。それらの織物はkroy加工していることが謂い文句になっており、業界ではこれらのkroy加工をした織物がその高品質及び大企業の広告宣伝力により有名になっていたから、請求人がその商品「織物製品」に本件商標を使用すれば、該商品と請求人のライセンシーの業務にかかる商品との間で出所の混同が生じる蓋然性があった。

3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1及び第2号証を提出している。
(1) 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第16号に該当するから、同法第46条第1項により本件登録は無効であると主張しているが、この主張はいずれも失当であり、本件商標に無効理由はない。以下、その理由を説明する。
(2) 商標法第4条第1項第7号について
(イ)請求人は、請求人の「kroy」商標が、世界的に使用され著名となっている商標であるというが、その根拠が明らかではない。請求人が著名性を証明するものとして提出した甲第2ないし第18号証(枝番を含む)のうち、その日付があるのは、甲第2ないし第5及び第8号証にすぎない。そして、本件商標の査定の時(平成7年(1995年)5月25日、以下、「査定時」という。)より以前のものは、甲第2、第5及び第8号証のわずか3件であり、査定時において、請求人の商標がすでに著名であったとする根拠として薄弱にすぎる。
さらに、甲第2ないし第18号証、甲第24及び第25号証(枝番を含む。)は、請求人の商標が単に外国において使用されていることを示すにすぎず、日本国内における需要者間において請求人の商標が周知著名であることを立証するものではない。周知著名であるというためには、その広告に要した費用、広告回数等を具体的に証明する証拠の提示が不可欠であり、さらには日本国内の需要者間においても周知著名であることを裏付ける同様の証拠の提示が必要であると思料する。
にもかかわらず、請求人はかかる証拠を一切提示していない。ましてや、甲第23号証(枝番を含む)に示す各国の商標登録証は、請求人の「kroy」商標が世界で著名であることを何ら証明するものでないのはいうまでもない。
また、請求人の「kroy」商標がその指定商品と非類似の商品に使用したときに出所の混同を生じるとする根拠も、何ら示されていない。
よって、かかる証拠の提示もなしに、請求人の「kroy」商標が著名であったとする請求人の主張は、具体的根拠に欠け当を得たものでないことは明白である。
(ロ)請求人が商標の態様の同一性についての根拠とする甲第19号証について、その日付は明らかにされておらず、態様自体も必ずしも特殊なものとは認められず、「他人の所有に係る商標であることを認識していた」とする根拠として不十分である。
(ハ)請求人は、甲第20号証及び甲22号証の1〜3をもとに、「他人の所有に係る商標であることを十分認識した上で、自己の名義で登録するという冒認行為に及んだものであり、当該行為は国際信義に反し、公序良俗に違反する」旨主張している。
また、請求人は、『外国及び日本の繊維業界でよく知られた「kroy」商標を被請求人が知らなかったはずはない。…事実がある。』と主張するが、その根拠は極めて不十分であるといわざるを得ない。
商標法第4条第1項第7号に該当するか否かは、本来、ある商標を指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、又は社会通念の一般的道徳観念に反することとなるかどうかにより、取引の実情を通じて判断されるべきである。
したがって、冒認行為ゆえに商標法第4条第1項第7号に該当すると主張すること自体失当である。
仮に、請求人の意図が、本件商標を指定商品に使用することが著名商標に只乗りし、著名商標を希釈化し、商標を使用するものの業務上の信用を害するから、公序良俗に反するというものであったとしても、上述したように請求人の商標が著名であったとは到底認められないから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないといわざるを得ない。ところで、被請求人は現在に至る商取引において、請求人の製造した機械によって防縮加工(乙第1号証ではこれを「kroy加工」と称している)したウールを外国の会社から継続的に輸入しており、被請求人はその輸入したウールを製品としているのであるから、本件商標を付した商品が、請求人の業務上の信用を著しく害するものでないことは容易に理解されるところである。
(ニ)以上のように、請求人の「kroy」商標は世界的に使用され著名となっている商標とは認められず、本件商標登録は冒認行為にも当たらない。
したがって、本件商標は、著名商標に只乗りするものではあり得ず、国際信義及び公序良俗に反することもない。
(2) 商標法第4条第1項第10号について
(イ)上記(1)において述べたように、請求人の「kroy」商標が著名あるいは周知であるという根拠は示されておらず、該商標が「羊毛織物及びその製品」について「周知」であるとは認められないことは明らかである。
(ロ)一方、甲第2ないし第18号証の証拠は、その殆どが防縮加工方法、防縮加工毛糸及びそのニット製品に関する広告であって、織物に関する広告は、発行年月日の不明な甲第15号証(枝番を含む)及び甲第18号証に掲載されているにすぎず、本件商標の出願時及び査定時のいずれにおいても、請求人が織物について「kroy」商標を使用しているとは認められない。
他方、本件商標は「かや、敷き布等」の織物を指定商品としており、乙第2号証に示すように、特許庁商標課編「類似商品・役務審査基準」改訂第8版(発明協会発行)によると、「羊毛織物及びその製品」と「毛糸及びその他本類に属する商品」とは非類似商品である。
したがって、「請求人の商標と同一の商標について、当該商品と同一又は類似する商品について登録された」という請求人の主張は、明らかに誤りであると認められる。
(ハ)以上のように、請求人の「kroy」商標は、本件商標出願時及び査定時のいずれにおいても、「我が国を含む世界各国で羊毛織物及びその製品について周知」ではなく、本件商標は「請求人の商標の指定商品と同一又は類似する商品について登録された」ものでもない。
(3) 商標法第4条第1項第15号について
(イ)まず、上記(1)において述べたように、請求人の「kroy」商標は、出願時においてすでに著名な商標であったとする根拠は薄弱であり、到底首肯できないものである。
(ロ)また、甲第23号証の13によれば、請求人は、日本において、「第15類 毛糸及びその他本類に属する商品」を指定商品として商標「KROY」について商標登録を受けているが、現実には、請求人は防縮加工のための機械設備の製造販売を業としているにすぎない。
仮に、請求人が「毛糸及びその他本類に属する商品」の製造販売を業としているにしても、取引の実情等を考慮したとき、「羊毛織物及びその製品」と「毛糸及びその他本類に属する商品」とは、それぞれ、製品及び製法が異なり、同一系統の取引者により取り扱われず、製造所を同一にせず、同一の用途に使用されず、販売ルートも異なる商品であり、互いに非類似の商品であるということができる。このことは、乙第2号証からも疑いの余地のないところである。
そのうえ、上記(1)で述べたように、請求人の「kroy」商標は著名でもなければ周知でもないのであるから、本件商標を、請求人の商標を付した商品とは非類似の商品に使用したとしても、取引者、需要者に出所の混同を生じるおそれはないといわざるを得ない。
(ハ)甲第25及び第26号証(枝番を含む)の証拠は、そのいずれも防縮加工方法(「クロイ加工」或いは「クロイ/樹脂法」と称している)及び加工機械(「クロイ機」或いは「クロイマシーン」と称している)に関する雑誌及び業界新聞の記事であって、上記東洋紡及び鐘紡の業務にかかる商品「織物」に関する広告とは言い難く、したがって、甲第25及び第26号証(枝番を含む)の証拠のいずれからも、上記請求人のライセンシーが商品「織物」について「kroy」商標を使用しているとは到底認められない。
(ニ)請求人は、「甲第26号証の1及び5ないし9からわかるように、請求人のライセンシーである東洋紡及び鐘紡はkroy加工を施した織物を本件商標の出願前から製造、販売していた。…kroy加工をした織物がその高品質及び大企業の広告宣伝力により有名になっていたから、請求人がその商品『織物製品』に本件商標を使用すれば、該商品と請求人のライセンシーの業務にかかる商品との間で出所の混同を生じる蓋然性があった。」旨主張する。
しかし、甲第26号証の1及び2には、「クロイ加工」、「クロイ/樹脂法」或いは「クロイ/樹脂加工」と称する防縮加工方法は記載されているものの、これら甲第26号証の1及び2は、商品「毛布」に関する「kroy」商標の使用を何ら裏付けるものではなく、かかる証拠をもって出願時における出所混同の蓋然性を認めることができないことは明白である。
(ホ)さらに、請求人は、甲第26号証の1及び2より、「請求人のライセンシーである鐘紡及び京都西川がkroy加工をうたった製品『毛布』を開発、販売しており、…上記商品が請求人と何らかの関係があるものの業務にかかる商品であるとして誤認される蓋然性は本件商標の出願時においても非常に高かった。」としている。
しかし、甲第25及び第26号証(枝番を含む)の証拠においても、広告に要した費用、広告回数等が具体的に示されておらず、これら甲第25及び第26号証の証拠をもってしても、請求人の「kroy」商標が本件商標の出願時において周知著名であるとは到底首肯することはできないものである。
(ヘ)以上のように、請求人の「kroy」商標は、本件商標の出願時及び査定時のいずれにおいても著名ではなく、更に、本件商標を非類似の商品に使用したとしても、出所の混同を生じることもない。
(4) 商標法第4条第1項第16号について
(イ)請求人の主張は、要するに、「kroy」商標を「かや、敷き布等」の指定商品に用いたときに、kroy加工をしていない材料を用いたものであっても、それがあたかもkroy加工された防縮性を有する商品であるように認識されるから、品質誤認を生じるというにある。
(ロ)ところで、商標法第4条第1項第16号は、本来、一定の商標が、その指定商品について、商品の品質が現実に有するものと異なるものであるかのように誤認させるおそれがあるような場合に適用される。そして、特定の商標が商品の品質を誤認させるおそれがあるというためには、例えば、材料、用途、外観、製法、販売系統を共通にする等のように、その商品の特性について取引上誤認を生じさせるような関係が存在することが必要とされる。また、同一の商標が商品の出所の混同を生じる結果として商品の品質を誤認させる場合にも、同号が適用されるものと思料する。
(ハ)そこで、以上の点に該当するか否かを検討するに、まず、請求人の「kroy」商標は、それが付された羊毛は「縮まない」という特性を有する。ところで、被請求人は、上述したように現在に至る商取引において、請求人の製造した機械によって防縮加工(乙第1号証における「kroy加工」)したウールを外国の会社から継続的に輸入しており、被請求人はその輸入したウールを製品としているのであるから、本件商標を付した羊毛織物は縮まないという特性を当然に有しており、品質の誤認が生じる余地はない。むしろ、品質の維持、改良を通して、請求人の「kroy」商標の有する「防縮」に関する機能を高めていることが理解されるはずである。
次に、上記(3)において述べたように、請求人と被請求人の商品は、材料、用途、外観、製法、販売系統を共通にするものではないのであるから、その商品の特性について取引上誤認を生じさせるような関係は、当然に存在しないと認めざるを得ない。
さらに、上記(1)において述べたように、請求人の「kroy」商標は著名でもなければ周知でもないのであるから、この商標を非類似の商品に使用したとしても、取引者、需要者に出所の混同を生じるおそれはないから、出所混同ゆえの品質の誤認を生じることもあり得ない。
よって、本件商標は品質の誤認を生じるものではない。

4 当審の判断
請求人は、本件商標登録は国際信義に反し公序良俗に違反するものであって、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張しているので、この点について検討する。
本件商標は別掲のとおりの構成からなるところ、請求人が所有し、防縮加工をしたウール又はその製品について使用している商標として、請求人の提出に係る甲第2号証、第4号証の1及び2ないし第11号証、第13号証、第14号証の1ないし6、第15号証の1ないし3、第16ないし第19号証、第22号証の1ないし3、第24号証の2及び10ないし22、第25号証の2、4ないし7、9、10、12、13中に掲げられた標章は、本件商標と同一の字形による「kroy」の文字を横書きしてなるものである。そして、「kroy」の綴り字は英和辞典、仏和辞典、独和辞典等に見出せないものであり、親しまれた既成の観念を有する語を表したものとはいい難く、独創性のある造語といえるものである。そうすると、上記請求人が引用する商標と同一の字形による同一の綴り字からなる本件商標は、偶然の一致とは到底いえないものである。
しかして、上記各甲号証は殆どのものが日本国外で発行されたものであり、発行日の明確でないものも多いが、少なくとも甲第2、第5及び第8号証、第24号証の2ないし4、10ないし16、第25号証の2、4ないし7、9、10、12及び13は、本件商標の登録出願前に発行されたものと認められる。
また、甲第25号証の1ないし3及び第26号証の1ないし9によれば、請求人の開発した羊毛の防縮加工方法が「クロイ/樹脂法」、「クロイ/樹脂加工」、「クロイ加工」として、本件商標の登録出願前に我が国において紹介されており、甲第26号証の1ないし9では、上記加工方法によって製造されたウールを「クロイ加工ウール」等と称していることが認められる。
さらに、甲第19及び第20号証によれば、本願商標の登録出願前に、請求人の元社長であるMr.N.H.Cruickshankと被請求人会社のMr.Yoshiaki Kobayashiとが会合し、名刺を交換したことが推認され、Mr.N.H.Cruickshankの名刺には本件商標と同一の字形による「kroy」商標が表示されていたことが認められる。そして、甲第21号証によれば、被請求人はウール又はウール製品の取扱い業者であることが認められる。
以上を総合すると、被請求人は、商品の国際取引が盛んになり国際的な情報収集が一般に行われる今日にあって、ウール又はウール製品を取り扱う当業者として、請求人が防縮加工をしたウールについて使用する「kroy」商標を知り得る立場にあったというべきであり、該「kroy」商標の存在を知りながら、請求人が「kroy」商標をウール製品の含まれる本件商標の指定商品について我が国において登録出願していないことを奇貨として、請求人に無断で本件商標を登録出願し、その登録を受けたものというべきである。かかる被請求人の行為に基づいて登録された本件商標は、国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものといわなければならない。
したがって、請求人のその余の主張について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別 掲
本件商標

審理終結日 2000-09-26 
結審通知日 2000-10-06 
審決日 2000-10-17 
出願番号 商願平5-21859 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (024)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保田 正文原 隆 
特許庁審判長 大橋 良三
特許庁審判官 寺光 幸子
小池 隆
登録日 1995-11-30 
登録番号 商標登録第3098666号(T3098666) 
商標の称呼 クロイ 
代理人 川下 清 
代理人 浜田 廣士 
代理人 鳥羽 みさを 
代理人 松原 伸之 
代理人 梁瀬 右司 
代理人 村木 清司 

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