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審決分類 |
審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 130 |
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管理番号 | 1025243 |
審判番号 | 審判1998-35461 |
総通号数 | 15 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2001-03-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-09-29 |
確定日 | 2000-08-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2577901号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第2577901号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.本件商標 本件登録第2577901号商標(以下、「本件商標」という。)は、「POP-TARTS」の欧文字と「ポップタート」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなり、平成1年3月13日に登録出願、第30類「果実入りパイ」を指定商品として、同5年9月30日に設定登録されたものである。 2.請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第11号証(枝番を含む)を提出した。 (1)請求の理由 請求人、米国のケロッグ・カンパニーは、1906年創業の朝食シリアル製造・販売会社として世界的に著名である。同社は、菓子・パンのトースターペストリーについて本件商標が出願される以前から需要者の間に広く認識されている商標「POP-TARTS」(以下、「引用商標」という。)の所有者である。 引用商標の使用をする商品は、中にジャムやチョコレートが入っているトースターペストリーであるが、本件商標に係る商品である「果実入りパイ」とほとんど同一の商品と考えられる。甲第4号証は、外国で周知の商標を掲載した辞典であるが、引用商標が1990年に発行された同辞典に掲載されているということは、遅くとも本件商標が出願された1989年には周知の商標であったことが推測できる。ケロッグ社の業績を報告する1992年、1991年、1990年発行の年次報告書にも該商品が主力製品として掲載されている。 請求人は、引用商標を1964年から使用しており、古くは1965年から本国の米国をはじめ、カナダ、フランス、イギリス、スイス、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、ペルー等世界各国で登録し、更新登録もしている。 本件商標の出願前から登録に至る間の時期における、引用商標の米国における使用を示す資料として、その商品のパッケージ及び広告の写しを添付する。パッケージは古くは1979年からのもの、広告は1989年からのものである。 「POP-TARTS」製品の広告宣伝は大々的なもので、その広告宣伝費・売り上げ高は、例えば米国内だけでも、甲第8号証のとおりである。この統計によれば、1992年にトースターペストリーを買ったのは全世帯の27,3%に上るということである。これらの資料により、引用商標が少なくとも米国において請求人の商標として周知であったことが明らかである。 「POP-TARTS」製品は、国内では本土及び沖縄の米軍基地を中心に販売されている。また、米国への日本人のビジネスマン、旅行者、留学生がここ10年から20年で激増していることを考えると、これらの日本人がテレビコマーシャル、雑誌の広告に接し、同製品を認知していた確率は高いものである。特に、ケロッグ社についてはコーンフレークが既に日本の需要者に周知であったので、「POP-TARTS」製品も「コーンフレークのケロッグ社の製品」として記憶されたものと考えられる。 商標審査基準でも、外国の商標のわが国における周知性の認定にあたっては、当該商標について外国で周知なことを証する資料を充分勘案するものとされている。上述のような米国での大量の宣伝、販売に照らせば、特に被請求人をはじめとする菓子業界の取引者には、わが国においても、本件商標の出願前から既に周知となっていたことは明らかである。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当していたにかかわらず登録されたものである。 更に、被請求人はわが国でも著名な菓子メーカーであり、同じく著名な同業者である米国のケロッグ社の主力製品及び商標を認知していたものと推定される。よって、本件商標は、請求人が引用商標を日本においては未だ出願していないのを奇貨として先取りして出願されたものと考えられてもやむを得ないものである。「POP」の語は、ケロッグ社が「POPS」(日本では登録第2717054号)「HONEY POPS」(同登録第3174068号)、「KELLOGG’S POPS」(同登録第4065020号)等の商標に用いている語であり、各証拠に示すように、引用商標全体としてケロッグ社の造語であって、ハイフンで二語を結合するというところまで被請求人が採択した商標が偶然に一致するとは考えにくいものである。 従って、本件商標は他人の外国商標を先取りして登録した国際信義に反する商標として商標法第4条第1項第7号にも該当していたものである。 (2)被請求人の答弁に対する弁駁 被請求人は、本件商標について、「TARTS」が商品「果実入りのパイ菓子」を表わすものであるので、要部は「POP」の部分であるとしている。 しかしながら、わが国において「果実入りのパイ菓子」を表わす場合には、通常「タルト」や「トルテ」という名称を使用するものであり、「タート」又は「ターツ」という名称は使用されない。確かに、英語で「TART」の語は、わが国でいう「タルト」や「トルテ」の意味であるが、「TARTS」と複数形にして、しかも「タート」という片仮名を併記した場合には、わが国の需要者には直にその意味が看取され得ないものである。 更に、「POP-TARTS」とハイフンを用いて二語が一体として表記されており、「ポップタート」又は「ポップターツ」と一連の片仮名が併記されている本件商標及び引用商標は、需要者には全体として一つの造語として看取されるものである。よって、被請求人が「POP」についての先行する権利を有するとしても、本件商標についての判断には関係がないものである。 本件商標において「TARTS/タート」の部分が、わが国では普通名称とは見られないのは、上述のとおりであるが、被請求人の本国である米国では、「TARTS」又は「TART」は普通名称であると言える。しかしながら、米国においても請求人の引用商標は「POP」ではなく、「POP-TARTS」全体として使用されてきており、全体として識別力を発揮してきたものである。よって、本件商標の一部である「POP」の部分についての事情はどうあれ、すなわち、たとえ被請求人が主張するように「POP」については世界的に被請求人の使用開始の方が早いとしても、「POP-TARTS」全体としては、請求人の商標として識別力を発揮し、請求人の商標として需要者に認知されてきたものである。 被請求人は、登録第614615号商標「POP」が存続する限り、引用商標は使用不可能である、と主張する。しかしながら、引用商標は英語を母国語とする米国においてすら、「TARTS」の部分が識別力のない部分と見なされておらず、全体で一個の商標として識別力を発揮しているものである。 引用商標が1990年にわが国で発行されている外国商標の辞典に掲載されている事実、引用商標に係る商品が請求人の1990年から1992年の年次報告書に主力製品として掲載されている事実、引用商標が各国で登録されており、米国登録に記載されているとおり米国では1964年7月14日から使用されている事実、1979年製からの米国の商品パッケージ写し及び1989年からの米国の広告写しから明らかなように、長年の間、引用商標が全体として識別力を発揮する態様で使用されてきた事実、1988年からの統計により、引用商標に係る商品には多大な広告宣伝費がかけられ、売り上げ高も巨額である事実、国内では一般には販売されていないが、米軍基地において相当量販売されており日本人でも入手可能であったと推定される事実、これら全ての事実を勘案すれば、請求人が引用商標の正当な権利者であり、引用商標が請求人により全体として識別力を発揮する態様で使用されてきたことが明らかである。 また、上記のような甲各号証から、引用商標が本件商標出願前に、少なくとも米国における需要者の間に広く認識されていた商標であることは明らかであり、わが国においては、少なくとも被請求人を初めとする取引者の間では広く知られていたものと考えられる。 主として外国で使用されている周知商標についての判例では、米国の週間新聞の題号である商標「COMPUTERWORLD」について、商標法4条1項10号の立法趣旨からみれば、「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」について、「主として外国で商標として使用され、それがわが国において、価値のある商品、権威のある商品を表示する商標として報道、引用された結果」わが国において周知となった商標と、わが国において商標として使用された結果周知となった商標とを区別して、「前者の商標またはこれに類似する商標の登録を認めることによる商品の出所の混同を容認する理由はない」と判示されている。 請求人は、本件商標登録の存在により、引用商標の正当権利者である請求人の出願(商願平3ー21802号)は拒絶され、引用商標のわが国における使用も妨げられているものである。一方、被請求人提出の乙第6号証によれば、被請求人がタルトを販売していることは認められるが、本件商標が使用されている形跡はない。よって、自ら使用していない本件商標の存在により外国の正当権利者の使用を妨げているのは、先願主義の濫用であって社会的妥当性を欠き、引用商標が外国商標であることから国際信義にも反するものである。 3.被請求人の答弁 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第6号証(枝番を含む)を提出した。 本件商標は、「POP-TARTS/ポップタート」であるが、そのうち少なくとも「TARTS」は、商品「果実入りのパイ菓子」を表すものであり、本件商標の要部は「POP」およびその読みである「ポップ」にある。 そして、被請求人は、「POP」の文字を書してなる商標を、第30類「和菓子、ビスケット、クラッカー、クッキーその他」を指定商品とし、昭和36年3月16日登録出願、同38年5月28日に登録第614615号商標(以下、「POP」商標という。)として登録を受けているところであり、出願日を前後して、使用を開始し、以後現在まで「POP」「ポップ」の商標を、商品「キャンディ」に35年以上の長期にわたり使用してきたものであり、著名商標でもある。仮に使用開始が登録時であっても、「POP」商標の使用は、引用商標の最初の使用開始より1年早いのである。 このような著名商標が業務上使用態様や使用範囲を発展的に拡大することは広く行われるところであり、被請求人は、これに類似する商標について、商標登録第1744872号(商標「POPS」、指定商品「菓子、パン」)、同第1908102号(商標「POP STICK」、指定商品「菓子、パン」)の登録を受けている。これらの商標は、著名商標の保護を厚くし、その展開を図ろうとするために出願及び登録されたものである。本件商標の出願及び登録も同様の意図のもとに行われたものである。 すなわち、商品「TART」「タルト」について、商標「POP」「ポップ」が使用されることを想定して出願したに過ぎないのである。現実に被請求人は商品「タルト」を取り扱っている。したがって、本件商標が、他人の外国商標を先取りし、国際信義に反しているなどとはまことに笑止であり、商標法第4条第1項第7号の問題など、ためにする議論と言わざるを得ないのである。 以上のように、請求人が外国で引用商標の使用を始めたとされる昭和39年には被請求人はすでに「POP」商標について出願をし、且つ、登録しており、周知の商標を掲載した辞典が発行されたとされる昭和64年前後には、これが被請求人の商標として広く認識されているのは明らかであり、その意味で、甲第4号証の記載は、単に外国の事情だけを考慮に入れただけであり、信ずるに足りない。請求人の引用商標を先取りして出願したなどといわれる筋合いは一切ない。 本件商標は、「POP」の文字に菓子の普通名称「TARTS」「タルト」を付しただけの商標であり、そのような商標の展開は、業務上広く行われる正当な行為であり、また、「POP」商標は、出願も使用開始も、国内だけでなく、世界的に被請求人の方が早いという事実を重く評価すべきである。 本件商標から普通名称の部分を除いた商標である「POP」商標は、本件の引用商標より、出願が早く、使用も早い。除斥期間を考慮に入れなくても、これが無効とされる可能性はない。その意味で同登録は不可抗争性を獲得していると言うべきである。そして、同登録商標の出願の後に引用商標は使用されているのであるから、引用商標に先使用権が発生する余地はない。この点に関しては、甲第6号証の1を援用する。しかも「POP」商標は、周知商標である。 したがって、「POP」商標が存続する限り、引用商標は使用不可能な商標である。使用すればこの商標権を侵害するからである。また、もし使用していれば、侵害である。 商標法第4条第1項第10号の規定は、そのような使用不可能の商標を保護する規定ではない。同号は、基本的には先使用主義の見地から先使用により経済的、社会的効用を発揮している商標を保護する趣旨の規定であり、外国のみで使用され、日本においては従来使用されたことがなく、これからも侵害を発生することが必然的であるため使用できないような商標を保護するものではない。なお、被請求人は、「POP」商標の商標権者として、今後引用商標の使用を許諾することはあり得ないことを明言しておく。 また、同号の周知商標は、単に出願商標に対する相対的概念ではない。それは、商標法全体を前提とする概念である。したがって、本件商標に対しては周知商標であっても、商標秩序全体として周知商標としての保護を判断すべきである。単に外国でのみ使用され、日本では侵害を構成するため使用されたことがなく、また将来使用することが侵害となるような商標に対して、商標法の保護を与えるのは妥当ではない。引用商標は潜在的な悪意の商標なのである。商標法第4条第1項第10号は商品の出所混同防止の趣旨であるとしても、「POP-TARTS」は、もともと被請求人の「POP」商標にかかる商品「TART」「タルト」であると認識されるだけのことであり、出所混同も生じないというべきである。逆に、引用商標が使用されれば、それは被請求人の「POP」商標にかかる商品と混同されるはずである。混同の原因となるような商標が、他人の商標の登録を阻止する資格がないのは当然である。 以上のように、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第7号に違反して登録されたとすることは出来ない。 4.当審の判断 請求人が提出した甲第1号証乃至同第11号証(枝番を含む。)を総合して勘案するに、請求人「Kellogg Company」は、米国ミシガン州で1906年に創業された世界最大の朝食シリアル食品製造・販売会社であること、同人は、米国で、「POP-TARTS」の文字よりなる商標を、First useを1964年7月14日として、1965年に商標登録していること、1979年から1993年の間に販売した商品「形が四角く、中にジャムやチョコレートの入ったペストリー」のパッケージ(甲第7号証の1)には、同人の主たる出所標識としての「Kellogg’s」の文字よりなる商標と共に、「Pop-Tarts」「pop-tarts」の文字よりなる商標が、前記商品の商標であることを取引者・需要者に印象づけるように、太線で目立つように大きく、そして、その右側下部に登録商標であることを表す「R(マル)」の記号を付した態様で一貫して使用されていること、請求人代表者の宣誓書によれば、米国内での前記商品の広告宣伝費は、1988年1,070万ドル、1989年1,390万ドル、売上高は、1988年8,720万ポンド、1989年9,710万ポンドであったこと等の事実が認められる。 そうとすれば、引用商標は、本件商標の登録出願より約10年前の1979年から、請求人の製造販売に係る商品「形が四角く、中にジャムやチョコレートの入ったペストリー」を表示する商標として使用されていたばかりでなく、その広告宣伝費、販売高等からみれば、本件商標の出願日前から、少なくとも米国においては、該商品を表示する商標として著名になっていたものということができる。 しかして、本件商標の登録出願の翌年に発行された英和商品名辞典(株式会社研究社発行)に「Pop-Tarts ポップターツ」は、「Kellogg Co.製のトースターで暖めて食べるペストリー(toaster pastries)。形は四角く、中にジャムやチョコレートが入っている。」(甲第4号証)との記載があることや前記の実情及び近時、商品のみならず人的な国際交流も盛んに行われていること等を併せ考えれば、引用商標は、我が国においても前記商品を表示する商標として、本件商標の出願時には、既に取引者・需要者間に広く認識されていたものと推認できる。 次に商品についてみるに、本件商標の指定商品「果実入りパイ」と引用商標の使用をする前記商品は、いずれも「菓子」の範疇に属する類似の商品といい得るものである。 したがって、本件商標と引用商標とは、欧文字部分の綴り字を同一にするばかりでなく、それぞれ生ずる「ポップターツ」の称呼も同一にする類似の商標であり、かつ、本件商標の指定商品と引用商標の使用をする商品とは類似のものであるから、結局、他の申立て理由について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものといわなければならない。 なお、被請求人は、「同人所有に係る『POP』の文字を書してなる登録第614615号商標(昭和36年3月16日登録出願、同38年5月28日設定登録)が、引用商標の最初の使用開始より早い、出願日前後に使用開始されたものであって、以後現在まで35年以上の長期にわたり使用された結果、商品『キャンディ』の著名商標となっている。このような著名商標が業務上使用態様や使用範囲を発展的に拡大することは広く行われるところであり、本件商標の登録も同様の意図のもとに行われたものである。」旨主張しているが、係る事情が、「本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして取引者・需要者の間に広く認識されている商標に類似するものであって、その商品に類似する商品について使用をするものである。」とする前記認定を左右するものとは認め難い。 以上のとおり、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2000-05-30 |
結審通知日 | 2000-06-09 |
審決日 | 2000-06-21 |
出願番号 | 商願平1-27839 |
審決分類 |
T
1
11・
252-
Z
(130)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 茂木 静代、飯山 茂 |
特許庁審判長 |
為谷 博 |
特許庁審判官 |
滝沢 智夫 箕輪 秀人 |
登録日 | 1993-09-30 |
登録番号 | 商標登録第2577901号(T2577901) |
商標の称呼 | ポップタート、ポップターツ、ポップ |
代理人 | 石川 義雄 |
代理人 | 小出 俊實 |
代理人 | 西村 雅子 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 加藤 恒久 |