• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Z25
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Z25
管理番号 1021714 
異議申立番号 異議1999-91114 
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2001-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-08-25 
確定日 2000-07-26 
異議申立件数
事件の表示 登録第4268471号商標の登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第4268471号商標の登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第4268471号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成6年6月17日に登録出願され、「ARNYS」の欧文字を書してなり、第25類に属する商標原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同11年4月30日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人(以下、「申立人」という。)の異議理由
(1)本件商標の構成
本件商標はローマ字で「ARNYS」と横書きしてなるものであって、平成6年6月17日に登録出願され、第25類「ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」を指定商品として、同11年4月30日に設定登録されたものである。
(2)申立人の歴史
申立人(以下、「Arnys」という。)、は1902年に設立されて、今日まで90年以上に亘って営業を続けているファッションメーカーの老舗である。フランスのファッションメーカーの多くが戦後設立されたものであることに鑑みると、Arnysは際立った存在と言えよう。
同社は、引用商標が表わしているように、また、名門ブランドの多くがそうであったように、当初は高級馬具、狩猟着、乗馬服を取り扱っていた。創始者のジャン・ジョセフ・グランベールは革命前夜のロシアからパリに逃れてきた亡命貴族であった。Arnysが名声を博したのは、二代目のレオン・グランベールの代になってからであった。彼は1993年サンジェルマン・デ・プレ近くにメンズプラザを開いた。その店の持つ独特な雰囲気やレオンの作る高級紳士服の着心地が評判になって、アンドレ・マルロー、ジャン・コクトー、サルトル、ジイド、クローデルといった著名な作家達を始め、多くの芸術家や知識人がこの店を訪れ、ファッションブティックというよりも、サロンとして賑わった。そして、レオンはこれらの作家、芸術家、知識人等の話を自分の服の芸術生を高める糧としたのである。ちなみに、引用商標中の「ARNYS」の文字はシオンの奥方の苗字からとったものである。現在、Arnysはパリ、セブール街14番地に所在し、その経営はレオンの息子のジャン・グランべール、ミッシェル・グランべールに移っている。しかしながら、今でも芸術的な高級志向を貫く服づくりの姿勢は変わっていない。その主張は「いい素材、いい色、いい仕上がり」である。素材について特徴的なことはストールなどに使用されるカシミヤである。Arnysのカシミヤはインドのカシミール地方に住む特種な羊の子のノド元の若毛だけを使用しているのであるが、その若毛はー週間に二グラムしか採れない貴重なものである。このカシミヤを使用したストールや襟巻は優美で軽く、柔らかで優しいものとなっている。また、仕上がりに関して言えば、請求人は一着の服を仕立てるのに70時間もの時間をかける。その間、一糸たりとも機械を使って縫うことはなく、すべて手縫いによって行われる。そのため、プレタポレテとして身体に軽くフィットする素晴らしい着心地のものである。Arnysの男子服は今でもミッテラン前大統領、故イブ・モンタン、故ピカソ、イブ・サンローラン等の多くの著名人が愛用している。そして、請求人の服を着ることがエリートの証とまで言われれるようになっている。
Arnysの人気商品に「フォレステュエ(森番)」と呼ばれるジャケットがある。もともとは南仏のソローニュ地方のきこり達が着た作業着であったのを、レオンがその機能性に目をつけて独自のジャケットに仕上げたものである。シンプルでしかも夢のあるジャケットとして発売当初より評判がよく、1945年以来のロングセラーとなっている。
もう一つの人気商品はネクタイである。七つ折りのネクタイとして評判が高い。これら人気商品、および「いい素材、いい色、いい仕上がり」というテーマで製作される優れた品質の商品、及び著名人が愛用するという高級性のイメージの故に、セーヌ右岸では「エルメス」 、セーヌ左岸では「アルニス」と言われる程の名声を得ている。特に、メンズファッションの分野では第一人者の評価を得ている。
Arnysは設立以来紳士物のみを取り扱ってきたが、近年では婦人物をも取り扱うようになった。特に、フラン革命200周年を記念して、トリコロールをモチーフにしたものなど三種類のスカーフを発表したが、これらスカーフは大評判となった。フアッション関係の者は、一つのファッション分野の商品で成功するとその業務を拡大し、他のファッション分野の商品をも手がけるようになる傾向にある。Arnysもこの例に漏れず被服関係の商品のみにとどまらず本件商標の指定商品であるベルト等も手掛けている。特に、Arnysは当初高級馬具等の革製品を取り扱っていたので、同じく革製品であるベルト等の分野への進出は容易であった。
(3)わが国におけるArnysの商品展開及び周知・著名性
Arnysの商品は伊藤忠商事株式会社により輸入され、平成2年3月に株式会社コロネット商会を通じて、神戸の大丸に出店し、同社の商品が本格的にわが国で販売されるようになった。その後も、名古屋の松坂屋、阪神百貨店にも出店を果たした。Arnysの商品は、フランスのメンズファッションの第一人者の取扱いに係るものとして取引者、需要者の注目を集め、また、その着心地の良さ、優れた素材故に取引者、需要者の好評を博した。わが国では、これら直営店の外に多くの有名百貨店、専門店を通じて販売されてきた。
また、Arnysの商品は株式会社コロネット商会を通じての本格的な販売開始以前の1979年頃から様々なファッション関係の書籍等でとり取り上げられ、販売開始後も間断なく頻繁にファッション関係の雑誌、新聞でとり取り上げられてきた(甲第1号証乃至同第61号証)。そして、甲第1号証乃至同第4号証の世界の一流品大図鑑から、本格的な販売開始以前でも日本全国の様々な店舗でArnysの商品が販売されてきたことが判る。また、これらの証拠方法の中にはArnys社を紹介した記事が数多く見られるが、その際には同社は「Arnys」「アルニス」と表示されている。
ファッション関係の雑誌、新聞に頻繁に取り上げられることよって商品及びこれに使用された商標が取引者、需要者間に広く深く浸透して行くものであることは経験則上明らかである。特に、これら雑誌中にArnysの商品に対る称賛の記事及びArnysの歴史を述べた記事等が数多く見られる。このことから、如何にArnysがわが国で高く評価されているかが判る。
さらに、近年では、国際交通網、国際通信網の発達は海外の事情を時を同じくしてわが国の取引者、需要者が知ることを可能とした。一方、わが国の取引者、需要者も自己の関係する取引分野の海外事情には目を配っているものである。特に、フランスはファッションの本場であり、取引者、需要者は当然フランスの取引事情に目を向けていものと言える。そうであるとすれば、フランスで90年以上の歴史を誇り、「エルメス」と並び称せられ、フランスのメンズファンの第一人者とされているArnysの存在及びArnysの商標を、わが国でのArnysの商品の本格的な販売に先立って、すでに取引者、需要者が知り得ていたであろうことは容易に推測できる。Arnysはファッション関係の雑誌、新聞に加えて、ここに、フランス大使館経済商務公使等の権威ある機関及び各界著名人の証明書、陳述書を提出する(甲第62号証乃至同第68号証及び甲第71号証乃至同第72号証)。
以上述べた事情及び提出した証拠方法並びにこれら証拠方法中では、申立人を表示するために「ARNYS」が頻繁に使用されていることに鑑みれば本件商標が出願された平成6年6月頃には引用商標は周知、著名になり、また、「Arnys」が申立人の略称として著名なものとなっていたことは明らかである。
(4)商標法第4条第1項第10号
引用商標はその構成に「ARNYS」の文字を含むものであるから、「ARNYS」の部分をもって取り扱われることもあると考えられる。また、ファッション関係書籍にその商品の商標として掲載されるときは、引用商標とともにその文字部分「ARNYS」及び該部分のカタカナ表記である「アルニス」のみが表示されることもあった。したがって、わが国では「ARNYS」及び「アルニス」も引用商標とともにArnysの商標として著名となっていた。そして、「ARNYS」及び「アルニス」が本件商標とは同一のものと考えられる。
そして、引用商標、「ARNYS」及び「アルニス」は本件商標の指定商品についても当該商標の出願前から周知・著名なものとなっていた。
以上のことからして、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号
上述したように、本件商標は引用商標並びに「ARNYS」及び「アルニス」に類似する。そして、Arnysは被服のみにとどまらず、かばん類、カフス、ネイタイピン、ベルトとその取り扱い商品は多様化している。
一方、引用商標が使用された結果著名となった被服、かばん、財布及び本件商標の指定商品のバンド、ベルト、履物等は共にファッション関係の商品であって、これら商品が同一のファッション業者が取り扱うかないしはファッション業者から他人が使用許諾を受けて商標を使用する傾向にある。
これらの事情に鑑みれば、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者、需要者は該商品がArnysないし同社と人的及び資本的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるとその出所の混同を生じるおそれが必定である。
故に、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に該当する。
(6)商標法第4条第1項第8号
上述したように、「Arnys」はファッション商品の分野では申立人の略称として著名なものであった。したがって、「ARNYS」の綴りからなる本件商標は申立人の著名な略称からなると言える。しかるに、登録名義人は本件商標の登録に際して申立人から何らの承諾も得ていない。
したがって、本件商標は高標法第4条第1項第8号の規定に該当する。
(7)商標法第4条第1項第7号
登録名義人の不正競争の意図の存在
Arnysは平成5年に登録名義人が商標「ARNYS」を洋服、婦人服に使用していることに対して、引用商標に基づく不正競争防止法及び商標法による差止請求及び損害賠償請求の訴えを提起した(甲第69号証 和解調書参照)。
一方、本件商標はこの訴訟の最中の平成6年6月17日に出願されたものである。この訴訟事件の経過を鑑みると登録名義人は、商標の業務上の信用にただ乗りせんとする不正競争の意図の下に本件商標を出願したことは明らかである。
Arnysと登録名義人とは平成6年9月30日に裁判上の和解を行い、登録名義人は商標「ARNIS」の使用を止め、本件商標と同日に出願された高願平6‐59308号商標「ARNIS」をはじめとする「ARNIS」関係の商標の出願(甲第70号証)を取り下げるものとなった(甲第69号証)。確かに、和解調書には本件商標の取下は述べられていない。しかしながら、その和解の精神は登録名義人がArnysの商品と出所の混同を生じるような商標の使用を行わなず、かつ、そのような商標の登録を求めないというものであった。そうであるとすれば、この和解の精神から、問題の商標「ARNYS」よりも申立人の商標と出所の混同を生じるおそれが大きいことの明らかな本件商標「ARNYS」は当然取り下げるべきであった。しかも、和解調書作成に際して、Arnysに対して登録名義人は本件商標の存在を秘匿していた。そのため、Arnysは本願を取り下げすべき商標出願に含めることができなかった。
このように、Arnysの商品と出所の混同を生じるような商標の使用は行わない、かつ、そのような商標の登録を求めないという趣旨の、判決と同一の法的効果を有する裁判上和解が存在するにもかからわず、本件を取り下げないことは登録名義人が現在も依然として不正競争の意図を有することを意味する。商標法は商標の登録を通じて不正競争の防止を図るものであるから、その法の趣旨から不正競争の意図の下で出願された商標の登録を認めるべきではない。そして、商標法第4条第1項第7号の規定にいう「公の秩序」とは商標法の趣旨から「競業秩序」をも含むと当然解される。
したがって、競業秩序を害するようなおそれのある不正競争の意図の下で出願されたことが明らかな本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定に該当すると考えられる。
(8) 信義則違反
また、和解調書作成に際して本件商標の存在を秘匿し、かつ、裁判上和解の精神に反するような本願を取り下げることなく登録を求めることは信義則にも反するものと言わざるを得ない。
(9)商標法第4条第1項第19号の規定
これまで述べた来たように、引用商標並びに「ARNYS」及び「アルニス」は内外国を問わず、本件商標の出願前に著名なものであった。そして、本件商標は上記商標に明らかに類似しているか、または、同一のものと考えられる。商標法第4条第1項第7号の規定の項で述べたように、本件商標は、引用商標の業務上の信用にただ乗りせんとする不正の意図の下、すなわち、不正の目的で出願されたものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定に該当する。
(10)特許庁における審査例
特許庁においても、本件商標と同日に出願された商願平6‐59311号「ARNYS」及び同6‐59309号商標「ARNIS」「アーニス」に対する異議申立において、異議申立人の「ARNYS」のこれら商標の出願時に被服、かばん、財布、ベルト等のファッション分野での著名性を認めた上で、いずれの商標もその指定商品に使用すると出所の混同が生じるとしている(甲第73号証及び同第74号証)。
本件商標は高願平6‐59311号及び同6‐59309号の商標と同日に出願されたものであるから、本件異議とこれら商標に対する異議とが時期的な面で別異に取り扱われることはない。商願平6‐59311号の商標は本件商標と同じ構成に係るものであり、商願平6‐59309号商標「ARNIS」、「アーニス」は「ARNYS」とは類似するが「ARNYS」とは同一のものではない点で、本件商標の比べると出所の混同の可能性が多少とも低いものと言える。にもかかわらず、商標「ARNIS/アーニス」はその使用によって出所の潟同を生じるものとされた。であるとすれば、「ARNYS」とは同一のものである本件商標の使用は当然出所の混同を生じるとされるべきである。この点で、本件異議とこれら商標に対する異議とが商標の面で別異に取り扱われることはない。
本件商標の指定商品も商願平6‐59311号及び同6‐59309号の指定商品と同じくファッション関係の商品であるから、本件異議とこれら商標に対する異議とが商品の面で別異に取り扱われることはない。
以上述べたことからして、本件異議においても商願平6‐59317号及び同6‐59309号商標に対する異議申立と同じ判断がされるべきことは明らかである。
(11)まとめ
以上述べた如く、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものであるから、当該商標の登録は同法第43条の2第1号によって取り消されるべきである。

3 当審の取消理由
当審では、申立人の異議理由に基づき、商標権者に対し、申立人「ソシエテ ヌーベル ド シュミズリー アルニス」の提出に係る甲各号証によれば、「ARNYS」の文字からなる商標は「アルニス」と称呼され、我が国においても雑誌等により盛んに広告、宣伝された結果、申立人の業務に係る商品「紳士服、婦人服、ネクタイ、かばん類、ベルト」等を表彰する商標として本件商標の商標登録出願前から取引者・需要者間に広く知られていたものと認められる。そして、本件商標は、申立人の使用に係る商標と綴り字を同じくし、かつ、その指定商品も申立人の業務に係る商品と共通性を有するファッション関連の商品に使用するものである。
してみれば、商標権者が本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、申立人の使用に係る上記著名な商標を想起し、該商品が申立人又は申立人と何等かの関連を有する著の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるからその登録を取り消す、旨の取消理由を通知した。

4 当審の上記3、取消理由に対して商標権者は何ら意見を述べていない。

5 当審の判断
よって判断するに、申立人「ソシエテ ヌーベル ド シュミズリー アルニス」の提出に係る甲各号証によれば、「ARNYS」の文字からなる商標は「アルニス」と称呼され、我が国においても雑誌等により盛んに広告、宣伝された結果、申立人の業務に係る商品「紳士服、婦人服、ネクタイ、かばん類、ベルト」等を表彰する商標として、本件商標の商標登録出願前から取引者・需要者間に広く知られていたものと認められる。
そうとすれば、上記申立人が「紳士服、婦人服、ネクタイ、かばん類、ベルト」等に使用する著名な商標「ARNYS」と類似する本件商標を、商標権者がその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、申立人の使用に係る上記著名な商標を想起し、該商品が申立人又は申立人と何等かの関連を有する著の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものといわざるを得ないから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-06-06 
出願番号 商願平6-59312 
審決分類 T 1 651・ 222- Z (Z25)
T 1 651・ 271- Z (Z25)
最終処分 取消  
前審関与審査官 板垣 健輔 
特許庁審判長 寺島 義則
特許庁審判官 滝沢 智夫
江崎 静雄
登録日 1999-04-30 
登録番号 商標登録第4268471号(T4268471) 
権利者 株式会社東京スタイル
商標の称呼 アニス、アーニス、アルニス 
代理人 石田 敬 
代理人 青木 篤 
代理人 福田 武通 
代理人 福田 伸一 
代理人 勝部 哲雄 
代理人 田島 壽 
代理人 福田 賢三 
代理人 宇井 正一 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ