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審決分類 審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 121
管理番号 1018715 
審判番号 審判1995-3124 
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-01-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 1995-02-17 
確定日 2000-06-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第1588062号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1588062号商標の登録は、取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第1588062号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成のものであり、昭和54年2月6日に登録出願、第21類「かばん類、袋物」を指定商品として、同58年5月26日に登録され、その商標権が現に存続しているものである。
2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁書に対する弁駁の理由をつぎのように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし第59号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)東京都台東区柳橋2丁目22番6号の株式会社エクサム(以下、「エクサム」という)及び東京都台東区元浅草1丁目7番10号の株式会社三和袋物(以下、「三和」という)は、被請求人より本件商標に関し使用許諾を受けた東京都台東区駒形2丁目1番7号の株式会社タカギから、それぞれ、かばん類または袋物について、さらに使用許諾を受けた通常使用権者である(甲第6及び第7号証)。
(2)三和及びエクサムは、それぞれ本件商標の指定商品である「かばん類、袋物」に属する財布、かばんなどの多数の商品を製造販売している。そして、本件商標に関する通常使用権に基づき、これらの商品に商標を使用しているが、実際には、本件商標は一切使用せずに、別紙に表示した商標aないしeを使用している。さらに詳しくは、以下のとおりである。
▲1▼商標aについて
エクサム及び三和は、商標aを商品タグに印刷して(甲第8号証)、エクサムはそのタグをかばん類(甲第9号証)に、三和はそのタグを財布類(甲第10号証)にそれぞれ使用している。
▲2▼商標bおよびcについて
エクサムは、商標b及びcを、それぞれかばん類に使用している(甲第11及び12号証)。
▲3▼商標d及びeについて
三和は、商標d及びeを、それぞれ財布類に使用している(甲第13及び14号証)。
(3)本件商標と「商標aないしe」との類似性
本件商標は、「CAMEL」の文字及び右横向きのラクダ等の図柄からなる結合商標である。したがって、本件商標からは、「キャメル」の称呼が生じる。
これに対し、「商標aないしe」は、それぞれその構成を多少異にしているが、いずれも上部に大きくゆるやかな弧状に「CAMEL」の文字を配した上で、その下に右横向きのラクダの図柄を配しており、いずれの商標からも「キャメル」の称呼を生じる。したがって、商標aないしeは、いずれも本件商標に類似する。
(4)請求人について
請求人は、世界屈指の煙草メーカーとして、種々の煙草を製造販売してきているが、そのうちの「CAMEL」ブランドは、代表的なブランドのひとつとして、我が国においても非常に有名であり、長い間人々に親しまれてきている。また、請求人は、1987年(昭和62年)より、世界的に有名なF1グランプリ・モーターカーレースのレースチームのスポンサーとなり、別紙に表示した商標AをF1カーのボディ等に大きく表示するようになった。かかるレースは我が国でも非常な人気を博し、頻繁にテレビでも放映され、本件マークが大きく表示されたF1カーが何度もテレビ画面に登場するなどして、商標Aは、日本全国の視聴者に強く印象づけられてきた。さらに、請求人は、商標Aを使用した広告をマスメディアを通じて全国規模で大々的に行なってきた(甲第15及び第16号証)。また、米国の巨大企業グループであるアール・ジェイ・アール・レイノルズ・ナビスコ・インクに、請求人とともに属している関連会社、ワールドワイド・ブランズ・インク(以下、「WBI社」という)は、F1グランプリ関連グッズとして、衣類などの各種商品を全国において多数販売してきた(甲第17号ないし第31号証)。そして、これらの結果、商標Aは、日本において、請求人の商品または関連会社たるWBI社の商品も含んだグループ全体の商品の表示として、極めて著名なものとなっている。
(5)混同
商標Aの外観を検討すると、左横向きのラクダの図柄の上部に、大きくこれを覆うような形で、「CAMEL」の文字がゆるやかな弧状に配されている。
また、その構成上、商標Aからは「キャメル」の称呼が生じるとともに、「らくだ」の観念が生じる。
これに対して、商標aないしeの構成は、右横向きのラクダの図柄の上部に、大きくこれを覆うような形でゆるやかな弧状に「CAMEL」の文字を配したうえで、さらにこれらを横長の楕円が囲んでいる。しかしながら、この楕円部分については、単に商標の外縁を画するものにすぎないと考えられ、要部たりえないものである。また、一部の商標については、
「MULTI-PURPOSE GOODS
ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」
「MULTI-PURPOSE GOODS」
「OUTDOOR LIFE」
の文字が、それぞれラクダの図柄の下方に、非常に小さく配されている。しかしがら、「MULTI-PURPOSE GOODS」(多目的商品)、「OUTDOOR LIFE」(野外生活)は、いずれも単に商品の用途を示すものにすぎないし、また「ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」(あなたの野外生活を楽しみなさい)は、単なるキャッチフレーズに過ぎないものである。それゆえ、これらの文字はいずれも商標の要部たりえないものである。したがって、商標aないしeの要部は、右横向きのラクダの図柄とその上部の大きく弧状に描かれた「CAMEL」の文字ということになる。
そうであれば、商標aないしeの外観は、その要部において、商標Aに極めて酷似することになる。(なお、横向きラクダの向きが反対であるが、ラクダの向きが右か左かは、一般の需要者にとってはささいなことであり、重要な差異とはいえない。)また、「商標aないしe」からは、それぞれ「キャメル」の称呼が生じるとともに、「らくだ」の観念が生じるので、商標aないしeは、称呼及び観念においても、商標Aに類似する。前述したように、商標Aは、請求人の商品あるいは関連会社たるWBI社のF1関連グッズを含む商品を表示するものとして、我が国において極めて著名である。したがって、エクサム及び三和が、かかる商標Aに類似する商標aないしeを使用すると、一般の需要者に、あたかも両社の商品が請求人に関係があるとの誤認混同を生じさせるものである。
(6)以上のとおり、被請求人の通常使用権者たるエクサム及び三和の使用する商標aないしeは、本件商標に類似するものであり、かつ請求人の業務にかかる商品との混同を生じさせるものであるから、本件商標は、商標法第53条第1項に基づき、取消されるべきである。
(7)弁駁書(平成7年11月2日付)における弁駁
▲1▼商標法第53条第1項本文は、「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」と規定している。この「混同」とはどのような意味であるかを検討する。「混同」には、商品の出所が同一であると誤信させる混同(いわゆる「狭義の混同」)と、両者間に人的又は資本的に何らかの関係があるかのように需要者、取引者に誤信させる混同(いわゆる「広義の混同」)とがある。そして、本条にいう「混同」とは、広義の混同も含まれるものと一般に解されている(甲第37号証)。そして、その結果、「商品、役務間の類否は問わない」(甲同号証)ものである。
▲2▼被請求人は、商標法第53条第1項の「混同」については、 「混同のおそれ」では足りず、現実に混同が発生したことまで必要であると主張している。
しかしながら、かかる主張は、明らかに近時の判例の解釈に反するものである。すなわち、東京高等裁判所昭和58年10月19日判決によれば、「商標法第53条第1項は『・・・誤認又は・・・混同を生ずるものをしたとき』と規定し、『おそれ』のあるものをしたときとは規定していないが、商標法が需要者の利益の保護をもその目的としていることを考えれば、この規定は、客観的に誤認・混同を生じさせるとみられる場合、換言すれば、誤認・混同のおそれある場合をもその対象としていると解するのが相当である」と判断し、明確に、「混同のおそれ」で足りるものとした(甲第38号証)。そして、かかる判断は、その後の昭和60年2月15日最高裁第二小法廷判決によっても支持された(甲同号証)。以上によれば、被請求人の上記の解釈は、かかる判例の流れに明らかに反するものであり、到底採用することのできないものである。
▲3▼被請求人は、請求人の商標Aは「F1のイベントにある特定期間一時的に使用される」ものに過ぎないと主張する(答弁書第5頁11及び12行目)。
しかしながら、かかる主張は、誤解に基づくものである。甲第16号証表紙からも明らかなように、F1グランプリレースは、たとえば1991年について見てみると、3月8日〜10日にアメリカで行なわれたUSAグランプリを皮切りに、10月31日〜11月3日のオーストラリアグランプリまで、ほぼ2、3週間に1回のペースで、合計16回ものレースが世界各地で行なわれていたものである。さらに、甲第15号証から明らかなように、たとえば、1987年のマスメディアでの請求人の「CAMEL F1プロモーション」についてみると、同年の7月から12月まで、雑誌合計21誌、累計1934万部に、のべ70頁以上の広告ないし記事が掲載され(甲同号証6頁)、また、9月から11月まで、新聞合計35紙、累計2992万部に、広告や記事が掲載されている(甲同号証7頁)。これらに基づけば、もはや商標Aが一時的に使用されたにすぎないとは到底言い難いものである。さらに、実際にも、甲第17ないし31号証の各種商品は、いわゆるF1ショップといわれる全国のカーマニア向けの店において、通年的に販売されていたものである。
▲4▼被請求人の通常使用権者の商品は、甲第6号証の冒頭に店名が列挙されているように、大手を含む多数のディスカウントストアにおいて、実際に販売されていたものである。ここで強調すべきことは、被請求人の通常使用権者の商品は、いずれも、これらのディスカウントストアにおいて、「キャメル」の名の下に、いわゆる「有名ブランド商品」らしき外観を装って販売されていたことである。たとえば、Dマートにおいては、「ブランドバーゲン」の名のもと、グッチ、セリーヌ、ハンティングワールド、ロベルタ、ダンヒル、カルチェ、MCM等々、世界の名立たる有名ブランドと同列に並ぶ形で、「キャメル」ブランドでの広告が大々的に行なわれていた(甲第52号証)。また、関西にある、ブランド品のディスカウントストア「還元屋」の広告でも、被請求人の通常使用権者の商品が「キャメル」の名の下に、MCM、プリマ・クラッセ、プラダ、ルイ・ヴィトン、セリーヌ等々の世界の有名ブランドと同等に並ぶ形で扱われている(甲第53号証)。しかしながら、通常使用権者は、いずれも、世界に名立たる有名ブランドメーカーとはほど遠い、日本の中小企業に過ぎない(甲第3及び4号証)。また、通常使用権者が使用する商標aないしeが、世界に名立たる有名ブランドに匹敵する有名ブランドとして我が国において著名であるとは、到底認め難い。我が国において、世界的なブランド「キャメル」として著名なのは、前述のとおり、あくまで請求人の商標Aなのである。上記のように、通常使用権者の商品が、世界の有名ブランド商品と同列に並べられ、まるで有名ブランド商品のごとく販売できたのは、まさに、請求人の著名な商標Aにフリーライドしていたからにほかならない。この意味では、本件では、需要者・取引者の問で、実際に商品の混同が生じていたと言い得るものである。
3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由及び請求人の弁駁書に対する答弁の理由ををつぎのように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし第14号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求人の商標Aは、請求人主張の通り「タバコ」の銘柄として周知著名であることは被請求人も認めるところであり、また、請求人がF1のレースチームのスポンサーとなり、商標AをF1カーのボデイやレーサーのユニフォームに表示したり、F1グッズとして販売した衣類等に商標Aを表示したことも事実である。
しかしながら、請求人はF1グッズとして衣類等に商標Aを表示して販売した事実はあるが、通常使用権者のように商品「かばん、さいふ、名刺入れ、小銭入れ」を継続的に販売していない。
(2)請求人は、商標aないしeの商標としての要部は、右横向きの「ラクダの図柄」とその上部の「CAMEL」の文字であるから、左横向きの「ラクダの図柄」とその上部の「CAMEL」の文字のみからなる商標Aと酷似し、これら商標aないしeを「かばん類、袋物」に使用すると、その商品が請求人に関係があるとの誤認混同を生じる旨主張している。
ところが、商標aないしeをみると、商標cは、「CAMEL」の文字とこの文字の下に描かれた右横向きの「ラクダの図柄」を「楕円の輪郭」で囲んだ構成になっており、商標a、b、d、eは、「CAMEL」の文字とこの文字の下に描かれた右横向きの「ラクダの図柄」とこの図柄の下に描かれた「MULTI-PURPOSE GOODS/ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」、又は「MULTI-PURPOSE GOODS」、又は「OUTDOOR LIFE」の文字を「楕円の輪郭」で囲んだ構成になっている。
すなわち、商標aないしeは、「CAMEL」の文字と「ラクダの図柄」と「楕円の輪郭」、或いはこれに加えて「MULTI-PURPOSE GOODS/ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE」、又は「MULTI-PURPOSE GOODS」、又は「OUTDOOR LIFE」の文字とが一体不可分に構成された結合商標である。こうした結合商標は、その構成要素が結合して構成されている特徴を有するものであるから、分離して考察すべき判断要素、例えば結合語問の間隔、文字の大小、上下の段、ハイフンの介在、文字を取り囲む輪郭、書体の相違等があるため外観上不可分一体として看取されない場合や全体の称呼が冗長で息の段落があるため簡略化して称呼されるため称呼上分離できる場合を除き、不可分一体のものとして把握すべきもので、むやみに分離して考察すべきではないのであり、商標aないしeから「ラクダの図柄」と「CAMEL」の文字だけを取り出して商標Aと比較し、商標Aに酷似するとした請求人の判断は結合商標である商標aないしeの構成態様及びこれら商標に対する一般需要者の認識に関して正当な判断を欠いたものであると言える。
(3)混同・商品の誤認混同
本件商標の指定商品は、第21類に属する「かばん類、袋物」であると共に、通常使用権者の使用商標も「かばん類、袋物」に使用しており、仮に通常使用権者の使用商標aないしeと請求人の商標Aが類似するとしても、請求人の商標Aは商品「タバコ」に関するもので、被請求人の指定商品及び通常使用権者の使用商品は「かばん類、袋物」であるから、商品の性質、商品の用途、用法、需要者、消費者、販売ルート、販売店等すべてが異なっており、類似の商品でないことは勿論、両者間に商品の品質の誤認や混同を生ずる余地は全くないし、現実にかような事実が発生していないことは、請求人は何らの立証もしていないことから明確である。商標法第53条第1項「・・・商品の品質又は他人の業務にかかる商品と混同、誤認を生ずるものをしたとき」と規定されている。この点に関し、商標法第4条第1項では、「他人の業務にかかる商品と混同を生ずるおそれのある商標」(同法第15号)、「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」(同法第16号)と規定し、明確に区別をしている。また、商標法第64条の防護標章の規定においても「その商品と自己の業務にかかる指定商品とが混同を生ずるおそれがあるときは・・・」と規定されている。
このように、商標法第53条第1項の規定において、わざわざ形式的に「おそれ」を外した理由は、現実に両者間に誤認混同が生じた場合に適用されるべきものであることが考えられる。
これらの点を考慮すると、請求人が主張する標章をF1のイベントがある特定期間一時的に使用する標章の商標的使用によっては、本件通常使用権者の商標使用との間に品質の誤認、商品の混同の発生は存在しない。この「品質の誤認」と「商品の混同」は、経年的な使用が行われた両商標間に生ずる問題であり、一時的に使用されるにすぎない請求人の商標と本件通常使用権者の使用商標との間では「客観的に誤認混同が生ずる場合」に該当しないというべきである。請求人の商標Aの「タバコ」に関しての著名性、通常使用権者が商標aないしeを使用した「かばん類、袋物」との取引の実情の違いを考慮すれば、通常使用権者の商標aないしeの使用によって請求人の商品との間に出所について誤認混同を生じることはないと言うことができる。
(4)以上のように請求人の商標Aは、商品「タバコ」に関してのみ需要者間で著名なのであり、本件通常使用権者の商標aないしeは商標Aと類似するとは言えないし、ましてや商品の出所の誤認混同が生ずることは有り得ない。したがって、本件商標は商標法第53条第1項の規定の適用を受け、登録を取消されるべきであるとする請求人の主張には理由がない。
(5)第二答弁書における答弁
本件において、一方の商品は「かばん類、袋物」、他方は「タバコ」という品質、製造、販売、流通経路を全く異にするもの同士であることを混同のおそれの認定判断において無視してはならない。
4 参加人の答弁
参加人は、つぎのように答弁の理由を述べ、証拠方法として、丙第1号証ないし丙第17号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求人の本件取消審判請求は、当事者適格のない者の不適法な審判請求であり、かつ、日本国が審理を行う国際裁判管轄権を有しないので商標法56条1項、特許法185条に基づき審決により却下されるべきである。
(以下は、本請求が却下されない場合に備え予備的に主張するものである。)
(2)請求人は、業務の混同を生ずるおそれを主眼するのであるから参加人の商標aないしeの使用が、何人の業務に係わるいかなる商品との混同を生じまた生じさせようとしたのかを明らかにしなければならない。請求人は、取消審判請求書の理由中で請求人の業務が煙草の製造販売といい(5頁)、他の箇所ではWBI社が「衣類などの各種商品を全国において多数販売」したと述べる(6頁)。混同を生ずると主張する側の業務主体の主張内容が不明確では参加人の業務と誰の業務とが混同するおそれがあるというのか検証ができない。従って請求人のいう広義の意味での業務の混同を検証することが出来ない。
(3)請求人は、参加人らが商標Aに只乗(フリーライド)していると主張する。しかし、被請求人が代表者を務める株式会社和光商会が本件商標の通常使用権者として請求人がF-1に広告を出す遥か前の昭和58年5月から本件商標を使用して袋物・鞄を製造販売して本件商標の周知に努力してきたのである(丙第8号証)。被請求人の本件商標を付した製品が売れているのを知った請求人が被請求人の商品に便乗して商標Aと連合商標である商標CAMEL/TROPHY(丙第9号証)を袋物・鞄等に付して製造販売し始めたのは平成元年ころのことである。袋物・鞄に関して言えば請求人がむしろ被請求人等のラクダの標章についての営業努力に只乗(フリーライド)しているのである。株式会社マルマンがWBI社と商標権の通常使用権契約を締結し商標CAMEL/TROPHYの指定商品になく本件商標の指定商品である袋物・鞄を製造販売し被請求人・参加人の商品について出所の混同を生ぜしめるおそれを現出している(丙第10号証)。
(4)不正競争防止法において表示の類似と営業主体の誤認混同とはそれぞれ独立した要件である。商標法53条においても業務の混同の問題は、商標の類似の問題とは別個に検討されるべき要件である(丙第11号証)。商標法53条は、本件に即して言えば、商標の類似が問題となるのは本件商標と商標aないしeが類似するかが要件とされているに過ぎず、商標Aと商標aないしeの類似は要件ではない。しかるに、請求人は、参加人らが商標Aに類似した商標aないしeを袋物・鞄に使用しているので業務の混同を生ずるおそれがあると主張する。請求人の業務の混同を生ずるおそれについての主張が不十分である。
(5)請求人は、商標aないしeを視覚した者がキャメルと称呼し動物ラクダ(駱駝)を連想観念すると主張するので称呼・連想観念の点につき反論する。「キャメル」という称呼は日本語で動物ラクダを連想観念さすものとして固定安定したものではない。商標Aは、それだけで商品に使用されておらず現実にはタバコとの関連を示す言葉として日本語化しつつあるLIGHTS,MILD,FILTERS等と一緒に使用されている(丙第17号証の1・2・3)。従って日本人は、紙巻タバコを連想さすものとして請求人の商標Aを「カメルのタバコ」或いは「キャメルのタバコ」と一体して称呼し、動物のラクダを連想観念さすものとして被請求人の商標aないしeを「ラクダ」と称呼する。商標A・商標aないしeの日本人視覚者の抱く連想観念対象についての請求人の主張も誤りである。商標Aの視覚者は、近年日本で発売される紙巻タバコの商品名がハイライト・マルボロー・キャビン・セブンスター等と殆ど英語表示であることと相俟って請求人の紙巻タバコを連想観念する。日本国での商標Aは、タバコの標章としてのみ日本人に印象づけられているのである。一方、商標aないしeの視覚者は、丸枠、MULTI-PURPOSE GOODS ENJOY YOUR OUTDOOR LIFE,OUTDOOR LIFE等の文字から商標A(タバコ)とは無関係なもの即ち動物のラクダ・砂漠を連想観念する。
5 参加人の答弁に対する請求人の弁駁
請求人は、つぎのように弁駁の理由を述べ、証拠方法として、甲第55号証ないし甲第59号証を提出した
(1)参加人は、主位的に、本件取消審判請求の却下を請求している。しかし、かかる参加人の主張は、いくつかの誤解を積み重ねたものであり、明らかに失当である。参加人の主張には、商標法第53条の解釈について根本的な誤りがある。すなわち、同条第1項の条文によれば、「他人の業務にかかる商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」とある。本件ではサービスマークは問題になっていないので、「役務」に関する記述を省略すれば、かかる要件は、「他人の業務にかかる商品と混同を生ずるものをしたとき」と読むことができる。ここで、一目瞭然なのは、法が定めている要件は、あくまで「他人の業務にかかる『商品』との混同」であって、「他人の『業務』との混同」ではないことである。本来、商標法上の「商標」とは、「商品」について使用されるものをいうのであるから、「他人の業務にかかる『商品』との混同」という文言を「他人の『業務』との混同」と読みかえて、「商品」と切り離してしまうこと自体、法の趣旨に反するものである。
そうであれば、商標法第53条の要件を検討する際に、請求人の「業務」と参加人らの「業務」が、「業務」自体として、混同するかどうかを判断すること自体全く意味のないことである。そして、請求人の「業務」が日本で行われているかどうかを検討することは、さらに意味のないことである。そうであれば、請求人が日本において登記しているかどうかということも全く意味のない検討なのである。
次に、参加人は、商標法第53条の定める「何人も」の解釈について、丙第7号証を根拠に、「商標法第53条の立法趣旨である日本国内の取引秩序維持に何ら関係を持たない者は法律上審判請求をする何らの法律上の利益のないであり、その者がした審判請求は却下されるべきである。」と主張する。この点について、まず認識しなければならないことは、参加人の引用する丙第7号証の説はいわゆる少数説に属するものであり、特許庁編「工業所有権法逐条解説」(甲第55号証)にあるように、通説では、「公衆保護の色彩の強いことを理由に、何人も請求できる」と解釈されているのである。また、仮に百歩譲って、丙第7号証の説の立場に立っても、請求人の商標Aが請求人及びその関連会社によって各種商品に広く使用されており、また関連会社である米国会社ワールドワイド・ブランズ・インクが日本において商標Aを付する商品を多数販売してきた事実に鑑みれば、「審判請求の利益」は十分に存在するものである。
次に、参加人は、パリ条約第2条(3)の解釈を展開し、本件審判請求手続が実質的に司法手続であることを考慮して、日本における「裁判管轄権」の解釈によって請求人適格を判断すべきと主張する。しかし、本件審判請求手続が裁判所による「裁判」手続でないことは明らかであるから、本件を「裁判管轄権」の問題として把握するのはそもそも無理である。本条項は、「司法上及び行政上の手続並びに裁判管轄権については…各同盟国の法令の定めるところによる。」としているところ、本件取消審判請求手続の請求人適格については、わが国の法令たる商標法第53条の規定により、「何人も」と規定されているのである。それゆえ、その規定に従って解釈すれば、何の問題もないのである。
以上によれば、参加人の主位的請求は、いずれも、明らかに根拠のないものである。
(2)参加人は、「被請求人の本件商標を付した製品が売れているのを知った請求人が被請求人の商品に便乗して商標Aと連合商標である商標CAMEL/TROPHYを袋物・鞄等に付して製造販売し始めたのは平成元年ころのことである。袋物・鞄に関して言えば請求人がむしろ被請求人等のラクダの標章についての営業努力に只乗(フリーライド)しているのである。株式会社マルマンがWBI社と商標権の通常使用権契約を締結し商標CAMEL/TROPHYの指定商品になく本件商標の指定商品である袋物・鞄を製造販売し被請求人・参加人の商品に付いて出所の混同を生ぜしめるおそれを現出している。」と主張している。
まず、参加人の主張するCAMEL/TROPHYの商標についてであるが、この「キャメル・トロフィー」とは、1980年より請求人が始めた世界最大の4輪駆動車のオフロードレースである。このレースは、毎年1回開催され、地球上の極地や未開のジャングルなどを、参加各国の予選と国際選考会を勝ち抜いた2人1組の各チームが、約2週間、およそ1000マイルを走破する間、各種のトライアル(「スペシャル・タスク」と呼ばれる)が課されポイントを競うものである。被請求人の本件商標とCAMEL/TROPHYの商標とは、その由来において全く別物であり、請求人が被請求人の商標に便乗した、という参加人の主張は、完全に誤解に基づくものである。さらに、参加人は、かかる主張の前提として、「被請求人の本件商標を付した製品が売れている」と主張するが、被請求人の本件商標がフリーライドされるほどによく売れていた事実すらそもそも存在しない。
また、参加人は、上記主張の中で、あたかも請求人が、参加人の商品についても出所の混同を生ぜしめる行為をしているかのごとくの主張をしている。しかしながら、丙第2号証から明らかなように、参加人が本件商標に関し使用許諾を受けたのは平成3年12月6日のことである。従って、請求人のCAMEL/TROPHYの商標使用の方が時間的にはるかに先行するのであり、参加人の商品について出所の混同を生ぜしめる行為をしている、という主張は、そもそも論理的に成り立たない。
(3)商標aないしeは、その構成から明らかなように、いずれも、ラクダの絵の部分に加えて、「CAMEL」の文字部分を有しているものである。かかる商標aないしeの称呼について、請求人は、ラクダの絵の部分から「キャメル」の称呼が生じると主張しているものではなく、「CAMEL」の文字部分から生じると主張しているのである。果たして、参加人は、この「CAMEL」の文字部分から生じる称呼についてどのように考えているのであろうか。この点について、参加人は何ら述べておらず、参加人の上記主張は、説得力に欠けるものである。なお、付言すれば、参加人自身、自らの商品に使用するタグ(甲第43号証)の裏面に、「この製品は日本で製作されたものです。キャメル」と記載し、自ら、その商品について「キャメル」の称呼を使用しているものである。
次に、観念類似の点に関し、参加人は、商標Aは紙巻きタバコの商標として知られるものであるから、商標Aからは「紙巻タバコ」の観念のみが生じると主張しているようである。しかしながら、かかる参加人の主張は、商標自体から生じる「観念」の問題と、商標が使用されている「商品」概念とを混同したものであり、明らかに誤っている。
6 当審の判断
(1)通常使用権
東京都台東区柳橋2丁目22番6号の株式会社エクサム及び東京都台東区元浅草1丁目7番10号の株式会社三和袋物(以下、「エクサム及び三和」という。)が、第21類「かばん類、袋物」を指定商品とする本件商標の通常使用権者であることについては、当事者間に争いがない。
(2)通常使用権者が使用する商標及び使用の商品
本件商標の通常使用権者である三和及びエクサムが使用する商標及び使用の商品については、当事者間に争いがなく、三和及びエクサムは、別紙に表示した商標aないしeを、本件商標の指定商品に含まれる商品であるかばん類又は財布類に使用しているものと認められる。
(3)本件商標と商標aないしeとの類否
本件商標は、「CAMEL」の文字及び右横向きのラクダ等の図形からなる。そして「CAMEL」は、動物のラクダを意味する平易な英語であり、「キャメル」と発音される。したがって、本件商標は、「キャメル」の称呼及び「ラクダ」の観念を生ずる商標といえる。
これに対し、商標aないしeは、それぞれその構成を多少異にしているが、いずれも上部にゆるやかな弧状に大きく表した「CAMEL」の文字と、その下に表した右横向きのラクダの図を主要部としてなるものであり、いずれも本件商標と同一の「キャメル」の称呼及び「ラクダ」の観念ずる商標といえる。したがって、商標aないしeは、本件商標と外観において異なるところはあるが、これと同一の称呼及び観念を生ずる類似する商標ということができる。
(4)請求人の業務に係る商品との混同について
▲1▼商標Aについて
別紙に表示した商標Aは、請求人が商品「タバコ」について使用して我が国において周知著名である事実については、当事者間においても争いがない。
また、請求人が、F1のレースチームのスポンサーとなり、商標AをF1カーのボディやレーサーのユニフォームに表示したり、請求人の関連会社がF1グッズとして全国で販売した衣類、帽子、かさ、バスタオル等に商標Aを表示した事実についても、当事者間に争いがない。
▲2▼商標aないしeと商標Aとの類似性について
商標aないしeは、前記のとおり、いずれも上部にゆるやかな弧状に大きく表した「CAMEL」の文字と、その下に表した右横向きのラクダの図形を主要部としてなるものと認められる。被請求人は、この点について、商標aないしeは、「CAMEL」の文字とラクダの図形だけからなるものでなく、楕円の輪郭や「MULTI-PURPOSE GOODS」などの文字部分をも構成中に有しており、これらが一体不可分に構成された結合商標であるから、その「CAMEL」の文字及びラクダの図形の部分のみを分離して考察すべきでない旨主張する。しかし、楕円の輪郭は、ありふれた輪郭であって、格別強い印象を与えるものでなく、「MULTI-PURPOSE GOODS」などの文字部分も、商品の用途・品質などを表す付記的文字とみられるものであり、これらの文字部分により需要者が商品を識別するとは考えられないから、商標aないしeは、前記認定のとおり、いずれもその「CAMEL」の文字及びラクダの図形の部分を主要部とするといえるものであり、請求人の主張は採用できない。
そして、商標aないしeの主要部である「CAMEL」の文字及びラクダの図の部分と商標Aとは、その構成態様が酷似しているものと認められる。なお、ラクダの向きが反対であるが、ささいな差異というべきである。
▲3▼混同について
商標Aは、請求人が商品「タバコ」について使用して周知著名であること、また、請求人は商標AをF1カーのボデイやレーサーのユニフォームに表示したり、請求人の関連会社がF1グッズとして販売する衣類、帽子、かさ、バスタオル等に商標Aを表示していた事実、さらに、衣類、帽子、かさ、バスタオルとかばん類、財布類は、その需要者層が重なる商品であることを考慮すると、かばん類、財布類の需要者間においても、商標Aは広く認識されていたものと認められる。
そうすると、エクサム及び三和が、商標Aとその主要部が酷似している商標aないしeを、本件商標の指定商品に含まれる商品であるかばん類、財布類に使用すると、これら商品が請求人又は請求人と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのようにその出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標の通常使用権者であるエクサム及び三和による商標aないしeの前記使用は、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」といわなければならない。
▲4▼被請求人の主張に対する判断
被請求人は、商標法第53条第1項は「・・・商品の品質又は他人の業務にかかる商品と混同、誤認を生ずるものをしたとき」と規定しており、「おそれ」という文言を使用していないところから、現実に両者間に誤認混同が生じた場合に適用されるべきものと考えられると主張する。しかし、商標法第53条第1項にいう「混同」とは、同法が一般需要者の利益保護をも目的としていることから、混同を生ずるおそれが具体的に認められる場合も含むものと解されているものであり、この点の被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人は、請求人の商標AはF1のイベントがある特定期間一時的に使用されるものであるから、このような使用によっては混同を生じない旨主張する。
しかしながら、F1グランプリレースは、毎年数多く開催され、その際に商標AはF1カーなどに表示され、また、請求人の関連会社は、いわゆるF1ショップにおいて年間を通じて商標Aを表示した衣類などを販売していたのであるから、請求人の主張は根拠がないものであり、採用できない。
(5)参加人の主張に対する判断
参加人は、本件審判請求は、審決により却下されるべきと主張しているので、以下、検討する。
参加人は、請求人が我が国において登記をしておらず、日本国内で請求人自身が業務(営業)を行っていないことを根拠に、日本国内で参加人らの業務と混同が生ずることはないとし、また、請求人は商標法第53条の立法趣旨である日本国内の取引秩序維持に何ら関係を持たない者であり、本件審判請求をする法律上の利益がない旨主張する。
しかしながら、商標法第53条では「他人の業務に係る商品」と出所の混同を生ずるか否かが問題であり、請求人自身の名義で日本国内で業務(営業)を行っていない事実は、商品の混同の問題と直接関係がないことは明らかであるから、参加人の主張は、採用できない。
そして、請求人が商品「タバコ」について使用する商標Aが我が国において周知著名であり、これと酷似する商標を本件商標の通常使用権者が使用しているのであるから、請求人は、本件審判請求をする法律上の利害関係を有する。
また、参加人は、パリ条約第2条(3)の解釈をして、本件審判請求手続は実質的に司法手続であることから、請求人には我が国の裁判管轄権の規定が適用され、我が国は、本件審判請求の審理を行う裁判管轄権を有しない旨主張する。
しかし、本件審判請求手続が裁判所による裁判手続でないことは明らかであって、裁判管轄権の問題が生ずることはないから、根拠のない主張であり採用できない。
そうしてみると、本件審判請求は、却下されるべき理由がないものである
(6)したがって、本件商標の登録は、商標法第53条第1項の規定により取り消すべきものである。
なお、被請求人及び参加人は、他に種々述べているが、いずれも本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別記


審理終結日 1999-01-22 
結審通知日 1999-02-09 
審決日 1999-02-17 
出願番号 商願昭54-7506 
審決分類 T 1 31・ 5- Z (121)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 輝雄 
特許庁審判長 板垣 健輔
特許庁審判官 上村 勉
杉山 和江
登録日 1983-05-26 
登録番号 商標登録第1588062号(T1588062) 
商標の称呼 1=キャメル 
代理人 山崎 行造 
代理人 土門 宏 
代理人 木村 博 
代理人 中村 政美 

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