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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効としない 117 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 117 |
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管理番号 | 1015191 |
審判番号 | 審判1997-20434 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2000-11-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1997-12-02 |
確定日 | 2000-03-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2716443号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第2716443号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙(1)に表示したとおりの構成からなり、昭和63年2月25日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として平成8年9月30日に設定登録されたものである。 2 請求人の引用する商標 請求人が本件商標の登録の無効の理由に引用する登録第1592525号商標は、別紙(2)に表示したとおりの構成からなり、昭和46年2月24日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として同58年5月26日に設定登録されたものであり、同じく登録第2006244号商標は、別紙(3)に表示したとおりの構成からなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」を指定商品として同62年12月18日に設定登録されたものであり、いずれも現に有効に存続するものである(以下、まとめて「引用商標」という。)。 3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録は無効とすべきものとする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。 (1)本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 (2)商標法第4条第1項第11号に該当する理由 本件商標と引用商標はその外観において相類似しており、その指定商品も同一又は類似するものである。 本件商標と引用商標は、ともに実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形外形とその外形を上下二分するごとく横断する二重破線を配した形状である。そして両者の差異は横断する二重破線の形状の差異のみである。 しかして、横断する二重破線の形状は、両者とも左右の実線を起点とした二重破線が中央部で谷状に湾曲して結合してなるところ、両者の差異は起点部から谷状部までの形状が直線と曲線との差異にある。 しかるに、前者は全体の2/3程度を直線で構成するが1/3程度は曲線で谷状を形成しており、しかもそれらが破線であることから直線部が明確に直線と看取できないものである。他方、後者は湾曲の度合いがあまりない非常になだらかな曲線が中央で交じりあっているものである。 しかも、両者は横断線が起点に比して終点(谷部)が低く表されている共通点を有している。 してみると、両者の相違点である横断する二重破線の形状は、細部において軽微な差異はあるものの非常に近似して看取されるものであって、明確に区別できない程度の外観上近似する差異と言い得るものである。 さらに、両商標を全体として観察した場合は、離隔観察はもとより比較観察したときも、上記横断部の差異が両商標を外観的に区別できるほどの差異とは言うことは到底できず、両商標は外観上類似するというべき商標である。 また、両商標の商品が同一又は類似するものであることは明らかである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 (3)商標法第4条第1項第15号に該当する理由 ▲1▼請求人は、商品ジーンズの始祖であり(甲第4号証)、現在世界最大のアパレルメーカーである(甲第5号証)。日本においては昭和40年代から営業を開始し、その時点から引用商標を使用し続けている(甲第6、7号証)。 ▲2▼引用商標はヒップポケットのステッチの図形であって(甲第8号証)、服飾史上最初の登録意匠であり(甲第4号証)、1942年(昭和17年)米国において商標登録された(甲第12号証)。しかしながら、商標として使用されたのはもっと以前の1873年以来であって、これは現在使用されている被服の商標としては世界最古のものである(甲第12号証)。そして、商品ジーンズに関してはヒップポケットの縫い糸をバックステッチと呼び、この形状が商標の役割を担って同種商品の自他識別標識として機能しているのである(甲第7ないし11号証)。 ▲3▼作業着であったジーンズがファッション被服として注目されたのは1930年代後半でありその中にあって請求人のジーンズはステータスとして購入される程人気を博した。そしてまた、1950年代に映画「理由なき反抗」においてジエームズ・ディーンが、また「乱暴者」においてマーロン・ブランドが請求人のジーンズ「LEVI’S501」を着用してから請求人のジーンズがブームとなった。この現象は日本でも同様であった(甲第9、13号証)。1971年に請求人のジーンズは国際ファッションに特に貢献したとしてCoty賞を贈られた(甲第4号証)。それらの結果、引用商標は日本においても著名となり、商品名辞典に収録された商品名「LEVI’S」に関連して引用商標の形状が記述されるほど著名となっている図形商標である(甲第4号証)。 ▲4▼本件商標と引用商標とは上述したように細部を比較すると軽微な差異は有るにしても全体としては酷似しているものである。また、引用商標が商品ジーンズについて周知・著名であること上記のとおりであるところ、このような著名な引用商標と酷似する本件商標を、請求人以外の者が商品ジーンズのヒップポケットのステッチとして使用すれば、請求人の製造、販売に係る商品ジーンズとの混同を生ずることは必至である。これはまさしく請求人が、米国内においてデザインや商標の盗用に悩まされ、甲第12号証として添付した「リーバイス」第84ページ記載の「競争会社は紛らわしい細工を施し甚だしいのは後ろのポケットにステッチされた登録済みのデザインまでそっくりそのままちょうだいしていた」現象を日本において再現されるに等しいものである。 ▲5▼上述のとおり、請求人は、引用商標をジーンズに使用し、少なくとも本件商標の登録出願以前から我が国の取引業者及び需要者の問で周知・著名であり、かつ本件商標と使用商標とは酷似するものであるから、被請求人が本件商標をその指定商品に使用すると、取引者、需要者をして該商品が請求人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係がある者の製造販売に係る商品と誤認し、商品の出所の混同を生ずること必定である。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (4)答弁に対する弁駁 被請求人は、商標法第4条第1項第11号該当性について、本件商標及び引用商標をジーンズのヒップポケットの形状として捉え「類否の基礎となる要部は外形を上下二分するごとく横断する二重破線の形状にある」と主張する。しかし、その主張内容は、両商標をジーンズのヒップポケットの意匠として捉えてその差異を述べているにすぎず、商標としての類否について述べていない。 また、商標の類否について述べたとしてもその主張は、全体的観察はもとより細部においても酷似する両商標を、細部の差異部分だけが類否の判断要素と曲解させる主張にすぎない。 即ち、本件商標及び引用商標は、その指定商品をともに「被服、布製見回品、寝具類」とするものであり、特定の商品(ジーンズ〉以外の商品に使用しても何ら商品の誤認を生ずることのない商標である。確かに指定商品の中には商品ジーンズが含まれているが、だからといって両商標がジーンズのヒップポケットの図形であると特定しなければならない特段の事由とはならない。 また、商標は表示された文字又は図形全体を捉えて認識され把握されるものであって、例えば図形と文字との結合とか図形商標における具象と幾何図形を組み合わせた商標等の場合にあってその一部分のみが分離して認識・記憶される場合に、その部分即ち商標の一部分が独立して商品取引きの対象として機能するのであって、そのような場合以外は基本的に商標全体を捉えて理解把握されるものである。 しかして、本件商標及び引用商標はともに図形よりなるところ、両図形とも外形部を表す破線及び実線と横断部を表す破線とは一体的に纏まり良く表されており、これを外形部と横断破線部分とに分離し、殊更横断する破線部分のみで認識把握されることは有り得ないことである。 そうとすると、本件及び引用商標は、表されている図形の構成態様からして、また、指定商品との関係においても、図形全体をもって認識把握されるものであるところから、本件及び引用商標の類否は破線及び実線で表された五角形外形とその中に配されている二重破線形状とを一体のものとして捉えて全体的観察をもってされるべきものである。 4 被請求人の主張 被請求人は、本件請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第18号証を提出している。 (1)商標法第4条第1項第11号の該当性について ▲1▼請求人は、「本件商標と引用商標は、ともに実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形外形とその外形を上下二分するごとく横断する二重破線を配した形状である。そして両者の差異は横断する二重破線の形状の差異のみである」というが、いわゆるジーンズのヒップポケットは五角形若しくはこれに近似した形状をしており、強度をはかることから二重のステッチで縫い付けられているのが通常で、「実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形外形」は商標登録されているものだけでも多数あり(乙第1号証ないし乙第15号証)、このような形状はありふれた形状であると考えられ、また、ジーンズのヒップポケットのデザインとして「外形を上下二分するごとく横断する二重破線(若しくは実線)を配した形状」を用いたものも多数見られ(乙第5号証ないし乙第18号証)、これもまたありふれた形状と考えられる。 したがって、本件商標及び引用商標のように外形を上下二分するごとく横断する二重破線を配したジーンズのヒツプポケットのステッチの図形に関しては、横断する二重破線の形状が類否判断の基礎となる要部と考えられる。 そこで、本件商標と引用商標の横断する二重破線の形状を比較すると、中央部で下方に湾曲するという共通点を有するものではあるが、前者が、全体の約4分の3が直線で構成され、また、中央湾曲部の湾曲幅はわずかであり、その先端部は下方に向かって開いたような形状をしており、全体に直線的な印象を与えるのに対して、後者は、全体が曲線により構成され、中央谷部を挟んで左右対称に二つの曲線の頂点があり、あたかも二つの丸い山が連なったような曲線的な印象を与えるというように、両商標は全体としては全く異なった印象を与えるものであり、本件商標登録の指定商品に関する通常の需要者及び取引者が、両商標を自然に区別すること明らかである。 ▲2▼請求人は、本件登録商標と引用商標が、ジーンズのヒップポケットの図形とは限らない旨主張しているが、そのような主張は誤りである。 けだし、被服及びこれに関連する商品を取り扱うアパレル業界においては、ジーンズのヒップポケットが「実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形外形」をしており、その外形の内側のステッチデザインがメーカーによって異なることが広く知られ、この業界の需要者及び取引者であれば、たとえジーンズ以外の商品に使用され若しくはヒップポケットのステッチとしてでなく使用されたとしても、そのような外形を有する図形を見れば、ヒップポケットの図形であることを自然に認識すると考えるのが相当だからである。したがって、アパレル業界の需要者及び取引者は、本件商標及び引用商標を、ジーンズのヒップポケットの図形を表してなる商標であると認識すると考えられる。 このような考え方が正当であることは、乙第1号証ないし乙第18号証にあるように、各メーカーが、明らかにヒップポケツトの図形と認識できる図形について商標登録を取得しており、これら図形の外形がほぼ同一の形状をしている、という事実からも容易に認識できる。 この点、請求人も審判請求書の理由中で、「引用商標はヒップポケットのステッチの図形であって」と説明しており、上記請求人の主張は明らかに矛盾している。 ▲3▼また、請求人のいうように、商標の類否判断においては、全体観察という判断手法も重要であるが、識別力のない部分を除外した要部を比較するという要部観察も重要であることを忘れてはならない。 本件商標と引用商標の類否判断においては、上記の通り、需要者及び取引者は両商標がヒップポケットの図形であると容易に認識できるのであるから、ヒップポケットの図形に共通する「実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形外形」は識別力のない若しくは極めて弱い部分であると認められ、したがって、「その外形を上下二分するごとく横断する二重破線を配した形状」を両商標の要部として類否判断を行なうのが相当である。そして、この要部を比較すると、両商標は全く異なった印象を看者に与えるものである。 需要者及び取引者の認識及び取引の実情を考慮し、比較する両商標の要部を認定して類否判断をするという判断手法は、商標の類否判断において用いられているものであることは今更説明するまでもないことである。 もちろん、要部を詳細に比較すれば相違点が多いが、全体から観察すると混同が生じるおそれがあるという場合は類似と判断すべきであることは被請求人も理解しているが、本件の場合、本件商標と引用商標の要部の相違が看者に与える印象が大きく、全体から観察しても混同を生じるおそれはなく、両商標は非類似と判断すべきである。 ▲4▼したがって、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 (2)商標法第4条第1項第15号の該当性について 被請求人は、請求人が請求の理由中で説明する請求人や引用商標の歴史などについて争うものではない。 しかし、上述した通り、そもそも本件商標と引用商標の差異は決して軽微なものではなく、本件商標と引用商標の外形内部にある図形の構成は大きく相違し、両商標は全体として酷似しているものではないのだから、例え引用商標と同様のヒップポケットのステッチが周知著名であったとしても、需要者及び取引者は、両商標について出所の混同を生じることはない。 (3)以上より、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも該当しないこと明らかであるから、本件審判請求には理由がない。 5 当審の判断 (1)先ず、本件商標と引用商標との類否について検討する。 本件商標と引用商標は、別紙に表示したとおり、いずれも実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形とその外形を上下に二分するように横断する二重破線を配した図形からなるものである。 ところで、請求人の提出に係る甲第9号証によれば、請求人のみならず、各社がジーン(細綾織りの布地)製のズボン、いわゆるジーンズについて、ズボンの後部につけるポケットを意味するヒップポケットを五角形又はこれに近似した形状にし、二重のステッチで縫いつけており、その五角形の外形の内側のステッチのデザインが各メーカーによって異なっていることが認められる。してみれば、ジーンズを取り扱う業界においては、ジーンズのヒップポケットが実線とその内側に実線に沿って二重の破線を配した左右相対の五角形の外形をしており、その内側のステッチデザインがメーカーによって異なることが認識されているものといえるし、前記五角形の図形に接する取引者、需要者は、それがジーンズ以外の商品について使用されたとしても、それをヒップポケットの形状を表した図形と認識し理解するというのが相当である。 また、被請求人の提出に係る乙第1号証ないし乙第18号証によれば、五角形又はこれに近似した形状を破線又は実線で表した図形が本件商標の指定商品を取り扱う業界において多くの企業によって商標として採択されていることが認められる。 そうすると、この種業界においては、前記五角形の外形そのものは、ありふれたものであり、自他商品の識別力がないか又は極めて弱いものであって、その内部に表された形状が自他商品識別の際の重要な要素になるものといわなければならない。 しかして、本件商標と引用商標は、いずれも前記五角形の形状を基調とするものであるが、両者の要部といい得る、その五角形の外形を上下二分するように横断する二重破線を配した形状において、本件商標は大部分が直線であり、中央で湾曲している部分もその曲がり度合いがわずかで、しかも交差することなく下方部分が離れているのに対し、引用商標は全体が曲線になっており、中央部において左右両方向からの曲線の末端が交差し、その交差部分に小さな三角形を配置した如き形状をしているという差異を有し、これらの差異が全体に与える影響が決して少なくなく、両者は全体として看者に別異の印象を与えるものである。 してみれば、両商標は外観において彼此紛れることなく、区別し得るものというのが相当である。 また、両商標は既成の称呼及び観念を生ずるものともいえない。 したがって、本件商標と引用商標とは外観、称呼及び観念の何れの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 (2)次に、本件商標が商品の出所について混同を生ずるおそれのあるものであるかどうかについて検討する。 請求人の提出に係る各甲号証によれば、請求人が古くからジーンズについて引用商標を使用し、引用商標がこの種業界において広く認識されていることが認められる。 しかしながら、(1)で述べたように、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない別異のものであるのみならず、自他商品の識別において、前記五角形の外形よりもむしろその内部に表された形状が重要な要素を占めるというこの種業界の実情からして、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如くにその出所について混同するおそれはないと判断するのが相当である。 (3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも該当しないものであって、これらの規定に違反して登録されたものということはできないから、その登録は、商標法第46条第1項の規定により無効とすべきではない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別記 |
審理終結日 | 1998-12-15 |
結審通知日 | 1999-01-05 |
審決日 | 1999-01-19 |
出願番号 | 商願昭63-20499 |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Y
(117 )
T 1 11・ 271- Y (117 ) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小宮山 貞夫、鈴木 茂久 |
特許庁審判長 |
小松 裕 |
特許庁審判官 |
宮下 行雄 大橋 良三 |
登録日 | 1996-09-30 |
登録番号 | 商標登録第2716443号(T2716443) |
代理人 | 岡田 稔 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 黒岩 徹夫 |
代理人 | 中村 仁 |