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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議199990378 審決 商標
異議200090250 審決 商標
異議200090251 審決 商標
異議199990395 審決 商標
異議199991560 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 117
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 117
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 117
管理番号 1013234 
審判番号 審判1999-35035 
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2000-10-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-01-21 
確定日 2000-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第2719253号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第2719253号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙(1)に示したとおりの構成よりなり、平成2年1月30日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同9年1月31日に設定登録されたものである。
第2.請求人の主張
請求人は、「登録第2719253号の商標登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第19号証と参考資料を提出した。
1.審判請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第15号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
(1)請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同第10号及び第15号に該当し無効理由を有するとして、平成9年6月24日に登録無効審判を請求した(平成9年審判第10495号)が、この審判は平成10年9月4日付で、審判請求の理由がないとの審決がなされた。
しかし、請求人は、その審決に納得できないばかりでなく、このたび、別個の新たな理由及び証拠が発見されたため、ここに登録無効審判を請求することした。
(2)請求人は、「WPGA」の文字よりなる商標を、第25類に属する商品を指定商品として登録出願(商願平6-17132号)したところ(甲第2号証)、本件商標を引用した拒絶理由通知(甲第3号証)を受けたので、本件審判の請求をするにつき、利害関係を有する。
(3)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、その構成上、「WESTERN PRO GOLFERS」及び「ASSOCIATION」の各文字を半円状に表し、その内側に「W.P.G.A.」の文字を表してなるものである。
本件商標の出願時の出願人成宮喜兵衛と被請求人である商標権者株式会社エメとは、いずれも住所が京都府京都市右京区太秦多藪町19番地であり、甲第5号証の登記簿から明らかなとおり、実質的に同一と見られるものである。
被請求人の業務は、甲第5号証によれば「1.繊維製品の企画及販売 2.スポーツ用品、用具、進物景品の企画、製作及販売 3.前各号に付帯する業務」であり、社団法人日本プロゴルフ協会の西日本支部(通称、関西プロゴルフ協会)の略称をあらわす標章「WPGA」を使用した被服、帽子などの商品を取り扱っていた。(なお、平成10年現在において、被請求人が具体的にいかなる業務をしているかは、現在、同人と請求人との関係が絶えていることから不知である。)
このことを示す証拠として、被請求人の関係者の一族であり、元代表者であった成宮喜兵衛と、請求人である社団法人日本プロゴルフ協会西日本支部の前身であり、現在は通称である関西プロゴルフ協会との間に締結された契約の覚書を甲第6号証として提出する。
この覚書によれば、関西プロゴルフ協会は、成宮喜兵衛に対し、関西プロゴルフ協会事業部という名称で商取引することを許可し協力すること、関西プロゴルフ協会のマークを洋品(衣服、帽子、手袋等)に使用することを許可することなどが、ロイヤリティーの支払いを条件に、合意されている。
また、両者は、この合意に関して問題が発生した場合、及び、定めのない事項または、その解釈に疑問がある場合、当事者は誠意を以て協議し解決することが謳われている。
すなわち、被請求人及び成宮喜兵衛は、社団法人日本ブロゴルフ協会西日本支部(通称関西プロゴルフ協会)の、事業を行う者として、具体的には、関西プロゴルフ協会をあらわすマーク「WPGA」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOSIATION」を付した衣服、帽子、手袋等の商品を販売していたのである。なお、これらの商品は、同協会の西日本の会員に販売され、或いは同協会の主催するゴルフイベント等において一般に販売されるなどしたものである。
この覚書が交わされた平成元年当時において、被請求人が販売していた商品を提出するとともに、その物件を撮影した写真を甲第7号証として提出する。本物件は、アパレル業界において著名な株式会社レナウンが製造し、被請求人が関西プロゴルフ協会事業部という立場で販売したものである。
本物件の左胸部分には、関西プロゴルフ協会のマークである図案化した「W」の文字と「PGA」の文字とを組み合わせた図形と、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」の文字を組み合わせた標章が印刷されている。また襟のタグには、前記の関西プロゴルフ協会のマーク及び「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」の文字が織り込まれている。
このマークから、「WPGA」の観念及び称呼に加えて、「ウェスタンプロゴルファーズアソシエーション」の観念及び称呼が生ずることは明らかである。
また、本物件のチャックに結ばれた値札には、3,000円との価格に加え、上記と同様の標章及び文字が印刷されている。さらに本物件を販売するための透明な袋には、「WESTERN PGA」の文字が印刷されている。
なお、本物件に付された図案化した「W」の文字と「PGA」の文字とを組み合わせた図形が、社団法人日本プロゴルフ協会西日本支部(通称関西プロゴルフ協会)をあらわす商標であることは、甲第8号証の同協会の封筒からも明らかである。また、後述するように、同協会はその略称として「WPGA」を使用し、「WPGA」として知られていたものであり、この図形から、「WPGA」の観念及び称呼が生ずることは明らかである。
関西プロゴルフ協会は、昭和23年4月に創立されて以来、関西をはじめとする西日本地域における、プロゴルファーの育成、プロゴルフの振興、トーナメントの開催等の多彩な活動をおこない、昭和32年7月に、各地城の協会の統合団体である、日本プロゴルフ協会に発展的に統合されて、同協会の西日本支部となった(甲第9号証)。
現在、商業登記上は社団法人日本プロゴルフ協会西日本支部であるが、その歴史の長さ、西日本地区における知名度、活動の独自性などから、現在でも関西プロゴルフ協会と称され、その略称「WPGA」「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」が使用されている。
このことは、平成2年10月1日改正の関西プロゴルフ協会会則(甲第10号証)に「(名称)第1条本会は、関西プロゴルフ協会と称する。(略称W.P.G.A.と称す。)」と規定されていることからも明らかである。
また、同会則は、第4条に関西プロゴルフ協会の独自の活動として「競技大会の主催」等が規定され、第6条にその入会資格の条件として「日本プロゴルフ協会によりプロ資格を承認されたもので理事会において入会を認められたもの」と規定されるなど、社団法人日本プロゴルフ協会の西日本地区における地方団体としての関西プロゴルフ協会の性格も明らかにしている。
さらに、関西プロゴルフ協会の略称として、「関西プロゴルフ協会」の観念を表す文字及びその略称「WPGA」が使用されていることは、前記物件のほか、甲第11号証の同協会の便せんや甲第12号証からも明らかである。甲第12号証の「JAPAN PGA TOUR BOOK I991」第358頁には、同協会主催のトーナメントとして、1989年(平成元年)から1991年(平成3年)まで、「WPGA主催・テーラーメイド杯関西プロU40トーナメント」が開催されたことが示されている。また、同トーナメントの平成元年における開催要項(甲第13号証)において、同トーナメントは、関西プロゴルフ協会が主催し、日本プロゴルフ協会ほか2社が後援して開催されていたことが示されている。
このように、「WPGA」の標章が使用されていた時期と、前記株式会社エメと前記協会とが覚書を交わし、その契約に基づき、株式会社エメが前記物件のほか衣類や帽子等の商品に「WPGA」の商標を使用していた時期とはほぼ同時期のことである。
しかしながら、被請求人は、前記契約が交わされ、覚書が調印された平成元年9月から、わずか4か月しか経っていない平成2年1月30日に、社団法人日本プロゴルフ協会及びその西日本支部(関西プロゴルフ協会)の承諾を得ず、何らの連絡、協議等を経ることもなく、無断で本件商標について出願をしている。
このような経緯があったからこそ、前述の平成9年審判第10495号の審理において、被請求人は何一つ答弁しなかったのである。
以上のことからも明らかなように、被請求人の行為は、前記契約に反するものであり、覚書中の問題が発生した場合や定めのない事項について協議する義務をも怠ったものである。このような被請求人の行為は、私的取引関係において、相手方の信頼を裏切らない原則を定めた、民法第1条第2項に規定する信義誠実の原則に反し、同法第90条公序良俗に反する行為であるから、商標法第4条第1頃第7号に該当するものである。
すなわち、二当事者間における対等な契約において前記覚書を交わし、関西プロゴルフ協会の事業として、被請求人に同協会のマーク使用に関するライセンス使用を認めた場合において、同協会に無断でその標章について商標登録出願をなし、その名声、信用にフリーライドする行為は、「商標の構成事態がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する」(甲第14号証「商標審査基準」第22頁)ものであるから、本件商標は、商標法第4条第1頃第7号に該当し、その登録を無効とされるべきものである。
(4)商標法第4条第1項第19号について
他人の著名な商標に化体する名声や信用に便乗して、不正の目的をもって登録を受ける商標は、平成8年の商標法改正前は、もっぱら同法第4条第1項第7号によりその処理がなされてきたものであるが、本件商標は前記改正により新設された同法第4条第1項第19号にも該当するものである。
甲第15号証の登録異議の決定謄本に記載されているように、「PGA」の文字よりなる標章は、一般に、「プロゴルフ協会」の略称として使用されており、わが国においては、通常、「日本プロゴルフ協会」を指称するものとして認識されていて、これが昭和58年4月8日前より取引者、需要者の間に広く知られていたことが認められるものである。
また、「PGA」は、「PROFESSIONAL GOLFERS ASSOCIATION」の略称であることも、通常知られているところであり(甲第15号証)、略称をその頭文字のアルファベットで表記する際には、「.」を入れて「P.G.A.」のように表すことも一般に行われることであるから、本件商標が出願された平成2年の時点において、「P.G.A.」の文字が日本プロゴルフ協会の略称として広く知られていたことは明らかである。
第17類において、商標「PGA」が昭和61年11月27日に出願され、平成6年7月29日に登録第2685426号として登録(甲第16号証)され、商標「P.G.A.」が昭和53年5月18日に出願され、平成4年7月31日に登録第2436603号として登録(甲第17号証)されていることも、こうした事実を示すものである。
したがって、甲第14号証の商標審査基準第28頁(甲第14号証)においても、「(6)指定商品又は指定役務について著名な商標と他の文字とを結合した商標は原則として、その著名な商標と類似する。」としているのであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する要件を満たすものである。
すなわち、前記契約に基づき、関西プロゴルフ協会の事業として、同協会のマーク使用に関する使用許諾を得て同マークの付された商品を販売する事業を行いながら、一方では同協会に無断でその標章について商標登録出願をなし、その名声、信用にフリーライドする行為は、明らかに不正の目的が読み取れるものである。
また、甲第7号証に付された関西プロゴルフ協会のマークは、「WESTERN PROFESSIONAL GOLFERS」と「ASSOCIATION」の文字を円形状に配し、その中に「WPGA」のマークを配置した構成であるところ、円形を半円形に変え、その中の「WPGA」のマークの構成を変更することは、何人も容易に想起するものであり、明らかに不正の意図が読み取れるものである。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品等を表示するものとして需用者に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、前記契約の交わされた平成元年の時点において、現実に関西プロゴルフ協会のマーク「WPGA」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」を使用した商品の販売を行っており(甲第6号証、甲第7号証)、「請求人又は請求人と何らかの関係を有するものの取扱いに係る商品」の販売をしてきたことは明らかな事実である。
一方、被請求人は、前述のとおり契約に反し、信義則にもとる、無断での出願という重大な行為をなしたものであるから、現在では当然にその関係も絶え、このように登録無効審判の請求人と被請求人となっているのである。
しかしながら、被請求人が「WPGA」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」のマークを付した衣類、帽子等の商品を販売していた事実が以前には存在し、また、これらの商品は日本ゴルフ協会西日本支部の会員向けや、関西プロゴルフ協会関連のイベント等という特定の需要者に販売されていたものであるから、仮に被請求人が、本件商標を付した衣類、帽子等の商品を販売などする場合には、請求人または請求人と何らかの関係を有する者の取り扱いに係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
このような特定の販売ルートに関わる需要者間においては、「PGA」、「P.G.A.」、「PRO GOLFERS ASSOCIATION」が社団法人日本プロゴルフ協会を意味し、「WPGA」、「W.P.G.A.」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」が同協会西日本支部ないし関西プロゴルフ協会を意味するものであることは周知である。
一方、甲第6号証の覚書にあるとおり、被請求人は、「関西プロゴルフ協会事業部という名称で商取引すること」を協会から許可され、協力されていたのであるから、需要者にとっては関西プロゴルフ協会事業部が株式会社エメであるか否かは大した問題ではない。したがって、現在、同協会と株式会社エメとの関係が絶えていることを知らない需要者も多く存在するものであり、そのような状況において、仮に被請求人が本件商標をその指定商品について使用した場合には、他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(6)商標法第4条第1項第8号について
上述のように、「PGA」の文字よりなる標章は、一般に、「プロゴルフ協会」の略称として使用されており、わが国においては、通常、「日本プロゴルフ協会」を指称するものとして昭和58年4月8日前から取引者、需要者の間に広く知られ、また、本件商標が出願された平成2年時点において、「P.G.A」の文字が日本プロゴルフ協会の略称として広く知られていたことは明らかである。
そして、「PGA」、「P.G.A.」、「PRO GOLFERS ASSOCIATION」が、通常「プロゴルフ協会」を意味し、例えば、アメリカのプロゴルフ協会がUSPGA、日本プロゴルフ協会がJPGA、関西プロゴルフ協会がWPGAのように称されることは、甲第18号証、甲第19号証の記載からも窺い知ることができる。
したがって、本件商標は、他人の名称若しくはこれらの著名な略称を含む商標であり、その承諾を得ていないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
2.答弁に対する弁駁
(1)請求人は、本件商標に係る過去の無効審判事件において、被請求人が答弁書の提出を見送った理由などについては知る由もなく、今般の無効審判請求事件においては、別個の新たな理由及び証拠が揃ったことにより請求したものである。
被請求人は、請求人が無効理由として掲げた商標法第4条第1項各号について、いくつか反論しているが、大筋の事実関係等の肝心な部分については争っていないものと認められる。
(2)被請求人は、甲第6号証の契約(覚書)の成立を認めているものの、公序良俗に反するものではないとしているが、請求人は「債務不履行だから公序良俗に反する」と主張しているわけではない。
商標法第4条第1項第7号に該当する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、従来から審決や審査基準によって、「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする」(商標審査基準第22頁)とされている。
請求人が覚書に明記された協議義務を怠り、契約の存在にもかかわらず請求人に無断で本件商標を出願した行為は、私人間の契約という法律関係から見れば、被請求人のいうように「債権・債務関係」である。しかしながら、請求人が審判請求書において争っていることは、あくまでも、かかる背景をもって出願され、登録された本件商標の登録の有効性(無効性)なのであり、行政行為、行政処分にかかわる公法上の法律関係であるから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)また同様に、かかる行政行為についての公法上の問題であることは論じるまでもないから、被請求人の商標法第4条第1項第19号についての「純粋民事上の問題」であるという主張はなんら的を得ていない。
なお、これまでの審査審判例や判例では、本件のような場合、「広義の混同理論により15号を適用したり、信義則違反や権利濫用を理由に7号を適用したりするのが例であった。ちなみに、出願された商標の出願前から外国において使用され、かつ構成が独創的な周知著名商標と同一又は類似商標は、たとえその著名商標が日本では使用されていなくても偶然の一致とは認めがたいから、他人の標章の盗用と推認し、これを覆す明白な事情がない限り、審査の運用上4条1項7号に該当するとされていたようである。」(網野誠著「商標」有斐閣、第409頁)
本件商標では、上記引用中の例のように外国における事例ではないばかりか、明文の契約のもとに、請求人の所有するマークを被請求人は使用していたのであるから、「偶然の一致」とは認めがたいことはいうまでもない。これを覆す明白な事情もないことは、とりたてて答弁がなされないことからも明らかとなった。
現在では商標法第4条第1項第19号が新設されたことから、このような不正な目的のもとに出願がなされ、「出所表示機能を希釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願」(商標審査基準第46頁)された本件商標は、同号にも該当する。
(4)長年の歴史をもつ任意団体「関東プロゴルフ協会」と「関西プロゴルフ協会」の統合団体として日本プロゴルフ協会が創立され、昭和56年1月に社団法人という法人格を得て、それぞれ、東日本支部、西日本支部となったものである。これは甲第9号証からも明らかであるが、その歴史、地域や業界における知名度から、今なお「関西プロゴルフ協会」の名称も併用されて用いられている。「関西プロゴルフ協会事業部という名称で商取引することを許可」されていた本件商標の出願人や、被請求人が、その事情を知らないはずはない。
前記覚書には、「関西プロゴルフ協会のマーク」と明記されているのであり、甲第7号証、甲第8号証に明らかにされている通り、前記契約に基づき、被請求人及びその前代表者の出願人(成宮喜兵衛)が、「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」、「WPGA」、「WESTERN PGA」などの種々の構成よりなる「関西プロゴルフ協会のマーク」を使用許諾されていたことは、提出した証拠からも疑いの余地がない。
本件商標のように、ライセンス契約に反して出願され、その成立に信義則違反という瑕疵のある商標権に関しては、その権利を行使することも、これまで「権利の濫用」であるとされ、その登録を阻却すべきであるとされてきた(田村善之著「商標法概説」有斐閣、第86頁、第98頁〜第99頁、第101頁)。また、このような場合に、「被告は原告に対し商標権の移転登録をせよ、被告は当該商標の使用をしてはならない」旨の判決も出されている(大阪地方昭和52年(ワ)第4414号)。
(5)被請求人による本件商標の出願行為や、もし本件商標を用いて商取引をした場合の行為は、独占禁止法第2条第1項第9号の「不公正な取引方法」にも該当するものである。
さらに、請求人である社団法人日本プロゴルフ協会は、その西日本支部、すなわち関西プロゴルフ協会を表す商標として、商標登録第2424292号「WPGA」を日本分類第24類において所有し、運動具などについて現実に使用をし、取引者等の間に知られている。
関西プロゴルフ協会は、大会などで、「WPGA」や「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」など、自己の名称を示すマークを、本件商標の出願前から長年にわたり使用しているのであり、もし被請求人がこれを盗用した商標の使用をするならば、不正競争防止法第2条第1項第10号の品質等誤認行為に該当する。また後述のように、請求人の著名表示の名声にただ乗りする行為であるから、同法第2条第1項第1号(周知表示混同惹起行為)及び同第2号(著名表示冒用行為)にも該当する。使用をすれば刑事罰にも問われてしかるべき商標なのである。
(6)甲第15号証により明白となったが、「PGA」の文字よりなる標章は、一般に、「わが国においては、通常、『日本プロゴルフ協会』を指称するものとして認識されていて、これが昭和58年4月8日前より取引者、需要者の間に広く知られていたことが認められ、被請求人は、この事実を覆すなんらの答弁も、証拠の提出もしていない。
また、「PRO GOLFERS ASSOCIATION」が、プロゴルフ協会を指称するものとして本件商標出願時より広く知られており、またこれが我が国では、「社団法人日本プロゴルフ協会」を表すものであると広く知られていたことも、甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証などを併せ見れば明らかである。
甲第7号証、甲第8号証、甲第12号証などのように、本件商標の出願前から現在に至るまで、請求人は、「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」、「WPGA」、「WESTERN PGA」等の商標を現実に使用している。また、「PGA」、「JPGA」、「JAPAN PROFESSIONAL GOLFERS ASSOCIATION」などの周知、著名な商標を、広くテレビ、新聞等のマスメディアを通じて使用している。
このような事情と併せ、取引界における請求人と被請求人とのこれまでの関係、取引の経緯をも見てみれば、本件商標が需要者・取引者の間に混同を生ずるおそれがあることもまた明らかである。
すなわち、本件商標の出願人は、上述の契約が交わされた平成1年当時より、「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」、「WPGA」、「WESTERN PGA」など、「関西プロゴルフ協会」のマークを請求人から許諾を得て使用していた。
本件商標の出願人の契約違反行為により前記契約が無効となった今日、請求人が「WPGA」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATIONION」などの商標を使用する一方で、相変わらず被請求人が本件商標を使用することは、被請求人の業務や以前の取引関係からしても、取引界における混同を生ずるおそれがあることは明らかであり、かかる登録を放置すべきでない。
なお、周知・著名商標の保護に関連して、商標法第4条第1項第15号、同第19号などの審査基準の改訂による運用改善が図られたが、これも本件商標のような不正目的の出願や、出所混同などの公の不利益を防止するための改善措置であると理解する。
第3.被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べた。
(1)被請求人は、過去に請求人より無効審判請求を受けたが、審判請求の理由が薄弱であるので、答弁書の提出を見送った経緯がある。
被請求人の想像どおり甲第1号証に示されるように.請求人の主張は審判では認められなかった。本件審判請求も同様に成り立たないものであり、且つ、その請求の理由の記載は、冗長且つ散漫なものであるので、個々の反論を止め、請求人が該当すると主張する商標法第4条第1項各号について次のとおり論ずる。
(2)商標法第4条第1項第7号について
被請求人は甲第6号証の契約を提出して商標法第4条第1項第7号に該当すると主張しているが、以下の点で大きな誤りがある。
▲1▼当該契約者は任意団体関西プロゴルフ協会と権利者の元代表者であった成宮喜兵衛との間の契約であり、単なる債権・債務関係にすぎないものであり、公序良俗に反するものではない。
▲2▼任意団体である関西プロゴルフ協会は、現在解散している様子であり、請求人の社団法人日本プロゴルフ協会西日本支部との法的関係が不明である。
▲3▼そもそも任意団体である関西プロゴルフ協会は第11号証に示されるように「KANSAI P.G.A」という便箋を使用していることから本件商標の出願・使用が契約の範囲内であったとはいえない。
(3)商標法第4条第1項第8号について
「P.G.A」は「プロゴルファーの協会」を意味するにすぎず、各国のプロゴルフ協会が米国の場合はUSPGA、日本の場合はJPGA、日本の女子プロゴルファーのためにはLJPGAとして使用していることは、甲第1号証の審決、甲第9号証の請求人の「30年史」第158、164、167頁及び第19号証から明らかである。また、請求人自体も「J」の文字に「PGA」を組み合わせたロゴを団体の標章として使用している。
いずれにしても、「PGA」が請求人の著名な略称として使用されているとはいえず、本法条に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は「WESTERN PROGOLFERS ASSOCIATION+W.P.G.A.」と、まとまりよく記載されており、これより「P.G.A.」の文字部分を分離独立して看取する特段の事情がなく、また、本件商標は「西部プロゴルフ協会」のごとき観念を生じるので、甲第1号証の認定より明らかなように「PGA」と混同を生じないことは明白である。
さらに、上述のように「PGA」そのものも請求人の商標として著名なものとはいえないから、本件商標は本法条に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
甲第6号証の契約や請求人と被請求人の関係は純粋民事上の問題であり、本件商標は本法条には該当しない。
第4.当審の判断
1.商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人、被請求人の主張及び甲第6号証(覚え書)によれば、平成元年9月に、関西プロゴルフ協会と本件商標の登録出願時の出願人であり被請求人の元代表者であった成宮喜兵衛との間で、前者は、後者に対し関西プロゴルフ協会事業部という名称で商取引すること及び関西プロゴルフ協会のマークを洋品(衣服、帽子、手袋等)に使用することを許可したこと等が認められる。
(2)また、甲第8号証(封筒)に別紙(2)に示したとおりの標章(以下「使用標章」という。)及び「57.9.1000」の文字が印刷され、甲第10号証(会則)に使用標章と社会通念上同一と認められる標章及び「平成2年10月1日改正」の文字が表示されていることから、使用標章は、少なくとも昭和57年9月から平成2年10月まで関西プロゴルフ協会の標章として使用されていたと判断するのが相当である。
そうとすれば、使用標章は、甲第6号証でいう「関西プロゴルフ協会のマーク」であったと推認して差し支えないものと言える。
(3)しかしながら、請求人が主張する「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」、「WPGA」、「WESTERN PGA」の各標章は、次の理由によって甲第6号証でいう「関西プロゴルフ協会のマーク」であると認めることができず、他にこれを覆すべき証左は発見できない。
▲1▼甲第6号証(覚え書)に「関西プロゴルフ協会のマーク」がどのような標章であるのか明示されていないこと。
▲2▼甲第7号証(物件)には、「WESTERN PROGOLF ASSOCIATION」「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」及び「WESTERN PGA」の文字が記載されているが、同物件の製造及び販売した者、製造及び販売の時期が確認できないこと。
▲3▼甲第10号証(会則)には、第1条に「W.P.G.A.」の文字が記載されているが、同会則は甲第6号証の覚え書が交わされた後である平成2年10月に改正されたものであること。
▲4▼甲第12号証(印刷物)には、「WPGA」の文字が記載されているが、同印刷物はいずれも甲第6号証の覚え書が交わされた後に発行されたものと認められること。
(4)そこで、本件商標と使用標章とを比較すると、本件商標は、別紙(1)に表示したとおり「WESTERN PRO GOLFERS」及び「ASSOCIATION」の欧文字を半円状に表し、その内側に「W.P.G.A.」の欧文宇を表してなるものである。
そして、
▲1▼本件商標が、全体としてまとまりよく一体的に表されていること、
▲2▼本件商標は、その構成よりして、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」の欧文字とその各語の語頭の文字を表した略称「W.P.G.A.」よりなるものと容易に理解されるものであること、
▲3▼「PGA」の文字は、「PRO GOLF ASSOCIATION」又は「PROFESSIONAL GOLFERS ASSOCIATION」の略称であって「プロゴルフ協会」を意味し、また、例えば「米国のプロゴルフ協会」が「USPGA」と、「本プロゴルフ協会」が「JPGA」と、「日本女子プロゴルフ協会」が「JLPGA」と称しているように、それぞれ別異のゴルフ協会が「PGA」の文字に欧文字を冠し「○○PGA」と表示し各協会の略称としていること、
これらのことからすれば、本件商標は、これに接する取引者・需要者が全体として「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」というプロゴルフ協会の名称(又は英語名)及びその略称「W.P.G.A.」を表示したものと認識するものと判断するのが相当である。
そうとすれば、本件商標は、その構成中「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」及び「W.P.G.A.」の文字に相応する「ウエスタンプロゴルファーズアソシエーション」及び「ダブリュウピイジイエイ」の称呼のみを生じ、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」「西部プロゴルフ協会」の如き観念を生ずるものと言うべきである。
他方、使用標章は、別紙(2)に示したとおり黒塗りの帯を下部が丸い「W」の文字のように描いた図形内に「PGA」の欧文字を白抜きで表してなるものである。
そして、使用標章は、仮に、その構成中黒塗りの帯部分のみを見れば、その部分は欧文字の「W」のような態様であるが、使用標章全体の構成、及び文字を図案化し又は強調した文字が商標として採択使用されている取引社会の実情からすれば、使用標章に接する取引者・需要者はこれを「PGA」の文字とそれを強調するための帯状の背景からなるものと認識するものと判断するのが相当である。
そうとすれば、使用標章は「PGA」の文字に相応し「ピイジイエイ」の称呼のみを生じ、「プロゴルフ協会」の観念を生ずるものと言うべきである。
してみれば、本件商標と使用商標とは、その外観、称呼、観念のいずれの点より見ても相紛れるおそれのない別異のものと言わなければならない。
(5)したがって、被請求人の行為が甲第6号証の契約に反するから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するとの被請求人の主張は、その契約に含まれると認め得る使用商標と本件商標が別異のものであるから、これを認めることはできない。
2.商標法第4条第1項第8号、同15号及び同19号について
(1)請求人は、「PGA」、「P.G.A.」、「PRO GOLFERS ASSOCIATION」が社団法人日本プロゴルフ協会を、また、「WPGA」、「W.P.G.A.」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」が同協会西日本支部ないし関西プロゴルフ協会を意味するものであることは周知であるとして、本件商標が本法条に該当する旨主張しているが、次の理由によってこれを採用することは出来ない。
▲1▼甲第8号証、甲第10号証及び甲第11号証によれば、使用標章が関西プロゴルフ協会の標章として使用されていたことが認められ、また、甲第8号証によって使用標章が本件商標の出願日前から使用されていたことが認め得るとしても、甲第10号証は平成2年10月1日以降のものであり、甲第11号証は使用時期を確認できないから、使用標章が本件商標の出願日前に広く知られていたものと認めるに足りない。
▲2▼甲第9号証によっては、上記各文字が社団法人日本プロゴルフ協会又は同協会西日本支部ないし関西プロゴルフ協会を意味するものであることが確認できないばかりか、その158頁には「日本プロゴルフ協会(JPGA)」の記載が認められる。
▲3▼甲第12号証は、本件商標の出願日以後に発行されたものと認められる。
▲4▼甲第16号証及び第17号証の商標「PGA」「P.G.A」が登録されていることによっては、これらが広く知られているとは言えない。
▲5▼甲第18号証及び第19号証には、「PGA」が「PRO GOLF ASSOCIATION」又は「PROFESSIONAL GOLFERS ASSOCIATION」の略称であり、「プロゴルフ協会」の意味を有するものである旨の記載は認められるが、社団法人日本プロゴルフ協会を意味する旨の記載は認められない。
▲6▼さらに甲各号証全体及び甲第15証に係る異議申立書類を併せみても、「PGA」、「P.G.A.」、「PRO GOLFERS ASSOCIATION」が、本件商標の出願日前から社団法人日本プロゴルフ協会の略称として広く知られていたものとは認められないし、同協会の名称を表示したものとも認められない。さらに、「WPGA」、「W.P.G.A.」、「WESTERN PRO GOLFERS ASSOCIATION」が、本件商標の出願日前から同協会西日本支部ないし関西プロゴルフ協会の略称として広く知られていたものとも、また、その名称を表示したものとも認められない。
(2)してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同15号及び同19号のいずれにも該当しないものと言わなければならない。
3.したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同15号及び同19号に違反して登録されたものとは言えないから、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別記


審理終結日 1999-09-13 
結審通知日 1999-10-01 
審決日 1999-10-12 
出願番号 商願平2-9529 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (117 )
T 1 11・ 23- Y (117 )
T 1 11・ 271- Y (117 )
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沖 亘小松 裕 
特許庁審判長 金子 茂
特許庁審判官 森吉 正美
茂木 静代
登録日 1997-01-31 
登録番号 商標登録第2719253号(T2719253) 
商標の称呼 1=ウエスタンプロゴルファーズダブリュピージーエーアソシエーション 2=ウエスタンプロゴルファーズ 3=ダブリュピージーエーアソシエーション 4=ダブリュピージーエー 5=ウエスタンプロゴルファーズアソシエーション 
代理人 藤本 英介 
代理人 今村 元 

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