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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない 007
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない 007
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効としない 007
管理番号 1011006 
審判番号 審判1997-15158 
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2000-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-09-08 
確定日 2000-01-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第3213066号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3213066号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に表示するとおりの構成よりなり、第7類「圧搾機,かくはん機,乾燥機,吸収機,吸着機,混合機,収じん機,焼結機,焼成機,洗浄機,選別機,造粒機,抽出機,乳化機,捏和機,培焼機,破砕機,反応機,分縮機,分離機,磨砕機,溶解機,ろ過機,プラスチック用金型」を指定商品として、平成5年4月2日に登録出願され、同8年10月31日に設定登録がなされているものである。
第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第13号証を提出している。
2 請求の理由
(1) 本件商標は、「ポーラス電鋳」と表示するものであって、プラスチック用金型を取り扱う分野では、ポーラス状の電鋳型を用いることは周知・慣用の技術手段である。そのため、当業界関係者らの間では、ポーラス状(多孔質)の電鋳型の品質、形状に基づいて、呼称:「ポーラス状電鋳型」、略称:「ポーラス電鋳型」等として、広く認識されているものである。したがって、本件商標は、指定商品であるプラスチック用金型の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標、または、このプラスチック用金型の品質、形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるため、商標法第3条第1項第1号または同第3号に該当する。
(2) 被請求人は、自ら本件商品を対象として、特許出願を行っているが、その発明の名称や特許請求の範囲等において、「ポーラス電鋳」なる用語を用いている。ここで、特許明細書の記載様式を規定した特許法施行規則の様式29の備考7〜備考9によれば、原則的に技術用語(学術用語)を普通の意味で用い、登録商標を用いる必要性がある場合には登録商標である旨記載することと定めている。したがって、「ポーラス電鋳」なる用語は、登録商標ではなく通常の技術用語であることを認めていることが、推量されるのである。さらに、被請求人は、何ら登録商標である旨の付記を行っておらず、通常の技術用語として用いていることは明らかである。この事実からも、「ポーラス電鋳」なる用語は、通常の技術用語として従来より使用されていることが明らかである。以上の理由から、本件商標の指定商品のうちポーラス電鋳以外の製品はその商品の品質において誤認を生じさせることが明らかであり、商標法第4条第1項第16号に該当する。
3 答弁に対する弁駁
(1)本件商標登録権者と請求人は、いわゆる同業者であり、同じ地域で営業しており、競業関係にあることはお互いに承知のことである筈であるが、そのような事実は全く無視して、利害関係を否定している。同じ地域で営業する競業関係にある同業者が本件商標の存在により相当の利害の影響を受けることは容易に確認されるのであるから、本件の場合にも、利害関係は、「同じ地域で営業する競業関係にある同業者である」というだけで充分である。すなわち、同じ地域で営業する競業関係にある同業者は、請求人も含めて、「ポーラス状電鋳品」あるいは「ポーラス状電鋳型」あるいは「ポーラス電鋳金型」、さらにはそれらを省略した「ポーラス電鋳」との用語を、本件商標の出願以前から、普通名称として日常的に使用していたのである。したがって、請求人も含めた同業者は、本件商標が発生したことにより、それまでは普通名称として日常的に使用できた「ポーラス電鋳」を使用できなくなり、現在も、日常的に著しい制限を被っているのである。
(2)乙第1ないし19号証による立証事項は本件審理には何等の関連もない。議論すべきは、プラスチック用金型について「ポーラス電鋳」は、その普通名称あるいは品質・形状・用途・生産方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるか否かである。すなわち、被請求人は、英単語「porous」は極めて馴染みのない英単語であるという誤った結論付けを行っているにもかかわらず、その論理過程においては、英単語「porous」に「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」という意味があることを自ら認めている。また、日本語の「ポーラス」は、被請求人が認めたのと同様に「多孔性または多孔質の」という意味の技術用語および形容詞からなる通用語として、我が国の様々な産業界において極めて広く用いられている。さらに、「電鋳」という技術用語は金属加工あるいはめっきに関する大学あるいは高専の教科書にも載っている極めて基礎的な技術用語であることは、論を待たない。すなわち、用語「電鋳」は、技術系の学生の多くが一度は耳にしたことがある極めて基礎的な技術用語である。このため、「ポーラス電鋳」という結合商標からは、少なくとも当業界に従事する者は、「ポーラス」が「多孔性または多孔質の」という意味の形容詞であることから、必然的に「多孔性または多孔質の電鋳品または電鋳型」を想起することになる。これはまさに、電鋳型すなわちプラスチック用金型の普通名称、あるいは品質、形状、用途、生産方法等を普通に用いられる方法で表示していることに他ならない。したがって、「ポーラスの部分からは何らの観念も想起し得ない」という被請求人の主張は、まるで議論に値しない議論である。また、「ポーラス電鋳」という結合商標から「多孔性または多孔質の電鋳品または電鋳型」が想起されるのであるが、本件商標の指定商品のうちでプラスチック用金型以外の指定商品の大部分の商品については、多孔性または多孔質の電鋳品または電鋳型との関係を想到することはできない。したがって、「ポーラス電鋳」という商標を、プラスチック用金型以外の指定商品について使用すると、これらの商品が多孔性または多孔質の電鋳品または電鋳型と何らかの関係があるのではとの疑念を需要者に抱かせる。このため、これらの商品について「ポーラス電鋳」という商標を用いると、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある。
(3)乙第21ないし24号証は、取引関係にある単なる私人の文書に何等の証明力はない。一部の取引者、すなわち取引関係にある単なる私人の意識を持ち出したとしても、これらとは異なる別の多くの需要者が普通名称であるとの認識を持っているのであるから、商標「ポーラス電鋳」は普通名称である。このため、取引関係にある単なる私人を幾ら持ち出しそれらの意識を主張しても、本件商標が普通名称であるか否かの判断には、何らの影響を与えない。
(4)乙第25ないし30号証の証拠による立証の目的、効果がはっきりしない。「ポーラス電鋳」の立証なのか、「ポーラスデンチュウ」の立証なのかはっきりしない。またそのような証拠は本件出願人(または登録権利者)が、勝手にそれらが自分の登録商標であると宣言していることを単に示すにすぎない。むしろ、例えば、「ポーラス電鋳」が単に普通名称として使用されているとしか理解できない箇所が多々ある。これは、「ポーラス電鋳」が普通名称であることを立証する以外の何物でもない。
(5)請求人の主張は、「電鋳」の用語、それ自体が技術用語であることは乙第25ないし30号証によるまでもなく明らかである。金属加工に従事する人々にとって、特に本件の場合のように、プラスチック金型製造に従事する人々にとって「電鋳」は極めて一般的な技術用語である(金属加工あるいはめっきに関する大学あるいは高専の教科書にも載っている)。用語「電鋳」がこのように確立された技術用語である以上、すでに日本語となっている形容詞「ポーラス」を付した製品は需要者にとって、多孔質電鋳品を意味することを明らかなところ、いずれも本件の出願前または査定前の時点の書証である甲第1号証ないし甲第10号証によって立証したように、事実、ポーラス状電鋳品(甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証)、ポーラス電鋳型(体)(甲第4号証、甲第5号証、甲第12号証)、ポーラス電鋳金型(甲第11号証、甲第13号証)のように、すでに当該技術分野において多用されている用語、つまり「ポーラス(状)電鋳」を特定個人にその使用を許容することは商標法の制度趣旨にも反するものである。
(6)実際、誰が一番早く「ポーラス電鋳」あるいはその類似名称である「ポーラス状電鋳型」あるいは「ポーラス電鋳型」、さらには、「ポーラス電鋳金型」との用語を用いたのかは、甲第1号証がすでに昭和60年当時に使用しており、甲第2号証でも昭和62年である。ちなみに、「ポーラス電鋳」についての乙第25号証は平成7年、乙第26号証は平成8年、「ポーラスデンチュウ」についての乙第27号証は昭和63年、乙第28号証は平成5年等である。つまり、たまたま「ポーラスデンチュウ」および「ポーラス電鋳」が登録されたのを奇貨として、それまでは普通名称として使用していた事実を否定して、商標としての独占を図ったものと推測される。しかも、「ポーラス(状)電鋳(品)(型)(金型)」が仮に造語であったとしても、そのオリジナリティは、本件商標登録権利者にはないのであって、この点からも指定商品プラスチック用金型について本件商標を本件商標登録権利者に独占させる根拠はない。商標法第3条第1項第1号または同第3号、若しくは商標法第4条第1項第16号の適用では、その商標のオリジナリティは適用要件になっていない。このため、商標のオリジナリティを幾ら議論しても、本件商標が普通名称であるか否かの判断には、何らの影響を与えない。したがって、被請求人のこの主張は、本件商標の有効性を判断するには的外れの主張である。
「ポーラス状電鋳品」あるいは「ポーラス電鋳型」あるいは「ポーラス電鋳金型」との用語が明細書に見られる状況下においては当業界の使用者、需要者は、当然にその延長上に「ポーラス電鋳」なる用語を意識する筈であって、これを1私人に独占させることは許されない。換言すれぱ、本件審判請求人も含めて当業界の使用者は、「ポーラス状電鋳品」あるいは「ポーラス電鋳型」あるいは「ポーラス電鋳金型」、さらにはそれらを省略した「ポーラス電鋳」との用語を日常的に使用していたところ、突然に、それが他人の登録商標であるから使用できないと通告されたようなものである。いかにも衡平の原則に反し、商標制度の趣旨とも相い入れない事態であると言わざるを得ない。もし、この点について、さらなる立証が必要であるのであれば、その用意はある。しかし、ここまでの議論は常識の問題であると承知しているので、現時点ではこれ以上の補足は行わない。
(7)当業界に属する多くの発明者は、甲第1号証〜甲第11号証に例示するように、「ポーラス電鋳」なる語を明細書において普通名称として用いていたのである。この事実は、多孔質または多孔性の電鋳品または電鋳型について、「ポーラス電鋳」なる語を普通名称として、当業界の多数の専門家達が使用していたことを、明確に示す事実である。普通名称であるか否かは、真似であるか机上での使用であるか等には一切関係なく、前述したように、普通名称として一般的通用性を有するか否かである。かかる観点からすると、当業界の様々な企業に属する多数の専門家たる発明者が明細書において「ポーラス電鋳」なる語を普通名称として用いていたことは、「ポーラス電鋳」なる語が普通名称として一般的通用性を有していたことの極めて重大な証左である。したがって、被請求人のこの主張は、本件商標の有効性を判断するには的外れの主張である。
(8)「ポーラス電鋳」と「ポーラス状電鋳」とを対比すると、その違いはかたちやありさまを意味する「状」の有無だけである。したがって、「ポーラス電鋳」は「ポーラス状電鋳」の略称である。したがって、今回の被請求人の主張からも「ポーラス状電鋳」が普通名称として使用されていたのであるから、その略称である「ポーラス電鋳」も普通名称である。なお、この点より正確な事実としては「ポーラス電鋳」も普通名称として使用されていたのである。
(9)このようにポーラス(状)電鋳(体、品、金型)との用語が広く普通名称として用いられている事実から、特に指定商品がプラスチック成形金型の場合、商標「ポーラス電鋳」はそのような指定商品の普通名称とは区別がっかず、そのような商標登録を存続させることは、当業界に混乱を引き起こす以外の何物でもない。少なくとも、かかる商標を指定商品ポーラス電鋳金型について1私人に独占させる積極的な理由はない。もって、本件商標は指定商品「プラスチック用金型」についてはその普通名称、品質、形状、用途または製造方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標であって、商標法第3条第1項第1号または第3号の規定によって登録は受けられない。また、プラスチック用金型以外の指定商品との関係では、いずれも品質の誤認を招くことになり、商標法第4条第1項第16号の規定に違反し、登録は認められない。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第35号証を提出している。
1 答弁の理由
(1)請求人は、本件無効審判の請求に際し、利害関係の主張をせず、またこれを立証する証拠方法を何ら提出していない。従って、請求人は本件審判請求に関し利害関係を有しないものと認められ、この一事をもってしても本件審判請求は却下されるべきである。
(2)本件商標は、指定商品の取引者や需要者にとって、何の意味も想起できない商標である。本件商標中の「ポーラス」の文字の語義について、一般的な英和辞典の一つである新英和中辞典第5版(1985年研究社発行)を見てみると、英単語「porous」に「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」の意味があることは事実である。しかし、同辞典によると「porous」は、ギリシャ語で「通路」の意から皮膚や葉などの細穴、毛穴、気孔を意味することとなった「pore」の形容詞形ということであり、極めて馴染みのない英単語である。ある英語より構成されている商標の語義からその商標が普通名称又は品質形状等表示であるというためには、通常の英語知識を有する取引者や需要者が、その英語の意味について熟知していて、その英語の商標を見たときに直ちにその意味を想起することが少なくとも必要であると考える。さらに普通名称であるというためには、その英語の商標が取引上で一般的名称であると意識されている事実を必要とする。しかし、本件商標の指定商品を取り扱う取引者や需要者のなかに、本件商標中の「ポーラス」に上記の意味があることを知っている者は、外国文献等に精通した極僅かの技術専門家を除けば、ほとんどいないといってよく、「ポーラス」の部分からは何の観念も想起しないというべきであり、ましてや一般的名称として取引上通称されている事実は無い。しかも、「ポーラス」の意味を知っている極僅かの技術専門家にとっても、「ポーラス」と「電鋳」とが結び付くことでその全体の意味が把握できないはずである。また、本件商標中の「電鋳」の文字の語義についても、それが電気メッキの原理により導電体の表面に金属層を比較的厚く電着させる技術用語を意味することを知っているのは、実際にその研究開発を行っている極僅かの技術専門家に限られ、やはり極めて馴染みのない特殊な技術用語であるから、本件商標の指定商品を取り扱う取引者や需要者のほとんどはその意味を知らず、何の観念も想起しないというべきである。以上の理由から、本件商標「ポーラス電鋳」は、指定商品の取引者や需要者にとって、何の意味も想起できない商標であり、従って、自他商品識別力を有するとともに品質誤認のおそれが無い商標であることが明らかである。
(3)本件商標は、指定商品に関する極一部の技術専門家にとってすら、全体の意味を把握できない商標である。本件商標が自他商品識別力を有することは、商標と商品との関係が本件商標の場合と同様と思われる他の商標が多数登録されている事実からも明らかである。
外国文献等に精通し実際に研究開発を行っている極僅かの技術専門家のなかには、上記の「ポーラス」の意味と「電鋳」の意味をそれぞれ断片的に知っている者がいるかもしれない。しかし、そのような技術専門家にとってすら、本件商標は「ポーラス」と「電鋳」とが結び付くことでその全体の意味が把握できないはずである。過去も現在も、メッキ時に穴があいたメッキ品が不良品とされているのと同様に、電鋳時に穴があいた電鋳品は不良品として廃棄されている。(廃棄されない唯一の例外は、後述する被請求人の基本特許の方法を使用して製造した被請求人の電鋳品のみである。)そして、そのようにしてあいた穴のことを、通常は欠陥として「ピンホール」と呼んでおり、決して「ポーラス」と呼ぶことはない。つまり、電鋳において「穴」は本来欠陥なのであるから、上記のように「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」といった意味のある「ポーラス」の文字を「電鋳」の文字に結び付けて有用品としてとらえるということは通常ではあり得ないことであり、ましてや実用的であるべき商品の普通名称又は品質形状等表示として認識することは到底考えられないことである。そうすると、「ポーラス」の意味と「電鋳」の意味をそれぞれ断片的に知っている極僅かの技術専門家にとっても、それらが結び付いた「ポーラス電鋳」については、その全体の意味が一体どのようなものなのかを正しく把握・理解することはできないというべきである。なお、電鋳金型においては、真空吸引のために小穴が必要な場合があるが、この小穴は、穴があかないように形成された電鋳型に、その後キリやレーザーであけており、この穴をことを「ポーラス」と呼んでいる事実も無い。
(4)本件商標は、査定時において、被請求人の商品を表わす、自他商品識別力を有する商標として、取引者又は需要者に現実に認識されていた。被請求人が本件商標を採択した契機は、被請求人が昭和58〜59年にかけて基本特許に係る発明を完成し、世界で初めて、電鋳の進行と同時に所望径の穴(制御不能なピンホールでは無く、制御可能な通気孔)を成長させることに成功したことにある。被請求人は、この基本特許に係る電鋳型の製造・販売を開始するとともに、商標調査を行った結果、基本特許の出願前には、指定商品において誰も「ポーラス」の用語を使用・登録していないことが明らかになったため、この馴染み無いゆえに新しさを感じさせる「ポーラス」の用語を使用することを決定し、まず「ポーラスデンチュウ」を出願し、さらに「電鋳ポーラス」を出願し、さらに「ポーラス電鋳」(本件商標)を出願し、いずれも商標登録を受けたのである。一方、請求人が挙げた甲第1〜10号証は、このような経緯の中で、他5社から特許出願されたものである。基本特許等の出願の経緯と甲第1〜10号証の出願日とを対比すれば明らかなように、甲第1〜10号証の特許出願はいずれも、被請求人の基本特許の出願公開又は被請求人の電鋳型商品を見てなされた出願であり、その明細書中における「ポーラス状電鋳体」等なる名称も、被請求人の商品・商標を真似て用いられたものである可能性が極めて高いと考えられる。しかも、甲第1〜10号証は特許出願として存在するだけで、その現実の実施化商品である電鋳型としては、全く取引の場に登場することが無かったのである。これは、甲第1〜10号証の内容が基本特許に抵触するために実施できなかったか、又は現実性に乏しかったために実施できなかったことによるものと考えられる。このように、被請求人以外には当該電鋳型を合法的に出荷する者が無い状況で一部の会社の発明者のみが、出願明細書中のみにおいて、「ポーラス状電鋳体」等なる名称を、被請求人の商標を真似て用いたとしても、それは机上でのしかも正当性に欠ける使用にすぎないし、商品の取引上で「ポーラス状電鋳体」等なる名称が使用されていたことの証明には全くならない。しかも、甲第1〜10号証のうちの大半を占める甲第2.3.8.9.10号証の発明者が帰属するホンダエンジニアリング株式会社と、甲第6,7号証の出願人であるオサダ精工株式会社からは、後述するように、本件商標「ポーラス電鋳」を被請求人の識別力ある商標として認識していた事実を、今回提出に間に合った証明願(乙第21〜24号証)において証明している。
乙第21〜24号証は、指定商品の現実の取引者又は需要者が、本件商標を、その査定時(平成7年12月)において、被請求人の商品「電鋳型」を表わす識別力ある商標として認識していたこと、一方、普通名称又は品質表示としては認識していなかったことを証明していただくために、各証明者に願い出て、受け取った証明願である。その証明者は、いずれも被請求人と過去ないし現在において、指定商品に関する商取引がある会社の方々である。このように、現実の取引者又は需要者が、本件商標を被請求人の識別力ある商標として認識している事実は、特に重視されるべきである。
次に、被請求人が「ポーラス電鋳」の文字を登録商標であることを付記せずに用いたのは、その時点で登録されていた「ポーラスデンチュウ」の禁止権の範囲にあると考えられる「ボーラス電鋳」を「登録商標である」とまでいうことに若干ためらいがあったためにすぎない。甲第11〜13号証といった僅かの例外を除く多くの事例において、被請求人は、本件商標をそれが被請求人の商標であることを付記して大切に使用している。
他者には被請求人の商標として認識されこそすれ普通名称や品質形状等表示として認識されることはない。
2 弁駁書に対する答弁
(1)被請求人は、請求人が被請求人と一部競業関係にあることは承知している。しかし、商標法第3条の規定を理由に競業相手の特定の商標登録を無効にしようとするのであれば、その特定商標(本件では「ポーラス電鋳」)を請求人が自社の商品に現に使用しているか又は使用する必要性があるかのいずれかでなければならないと考える。被請求人は、請求人が今そのような状況にあるのかを問うているのであり、請求人は依然としてこの点を証明も疎明もしていない、仮に、漠然と同業者でありさえずれば特定商標の使用の事実又は必要性を問わずに登録無効審判を請求できるのだとすれば、商標法第3条の規定を理由に競業相手の商標登録を一斉攻撃することを許し濫訴を防ぎ得ないことになるから、認められるべきではない。従って、請求人は特定の登録商標を無効にすることについて利益があるというのであれば、それを個別的に証明・疎明すべきである。実際の取引の現場においては、被請求人以外の者が本件商標「ポーラス電鋳」を商品に使用した事実はなく、本件商標は被請求人の識別力ある商標として定着している。請求人は、自身が弁駁書で述べているように被請求人と同じ地域で営業しており、上記取引の実情をよく承知しているはずであるが、そのような事実はおよそ無視して本件商標の攻撃に及んでいる。本件商標を無効にしても、請求人には何らの利益も無く、むしろ、被請求人の商標として定着し親しまれている業界内の秩序をいたずらに混乱させ、取引者を当惑させるとともに、被請求人の培ってきたグッドウィルを不当に害するのみである。また、このように不当な審判請求にも拘らず、被請求人は、本件商標の重要性と迅速な審理への協力に鑑み、証拠及び主張をできる限り尽くし誠実を心掛けて答弁している。その上で、被請求人は請求人に利害関係が無い点を指摘しているのに、それを請求人は「単なる嫌がらせ」「手続きの遅延を意図する議論」などと不当に中傷しているにすぎない。
請求人は、弁駁書でもやはり証明も疎明もしていない。結局、請求人は本件商標を自社の商品に使用する必要性がないということであり、前述した本件審判請求の実体が明瞭になったということができる。
(2)乙第1〜19号証のごとく「ポーラス」の文字を含んだ多数の商標が審査を経て登録されている事実は、本件指定商品との関係において本件商標中の「ポーラス」の部分からは何らの観念も想起しないという被請求人の主張を証明し、少なくとも傍証的に裏付けるものである。また、本件商標中の「電鋳」の文字が、金属層を比較的厚く電着させる技術用語を意味することを知っているのは、上記指定商品を取り扱う者のなかでも、実際にその研究開発を行っている極僅かの技術専門家に限られる。
そして、なによりも、上記指定商品について、「ポーラス」の文字と「電鋳」の文字とを結び付けて「ポーラス電鋳」の商標を造り上げたのは、被請求人が初めてである。すなわち、穴のことを欠陥として「ピンホール」と呼んでいる状況のなかで、「ポーラス」の文字を「電鋳」の文字と結び付けて上記指定商品の商標として採択するという意外性のあることを初めて行なったのは被請求人である。「ポーラス」と「電鋳」の意味を断片的に知っている極僅かの技術専門家にとっても、「ポーラス電鋳」という造語は直ちに意味が把握できない斬新なものであって、勿論、普通名称でも品質表示でもない。
乙第1〜3号証の登録例は本件指定商品との関係においてポーラスに識別力があることを表しているし、乙第4〜19号証の登録例は我国における通常の英語知識を有する大多数の者において「ポーラス」の意味は熟知されておらず直ちに想起できるものではないことを表している。よって、この弁駁も当を得ないものである。
(3)普通名称か否かについては、当然、その取引界に属する取引者の意識を確認することが重要である。また、品質表示を不登録事由とするのは商品を流通過程に置く場合に必要な表示だからであり、品質表示か否かについてもやはり取引者の意識を確認することが重要である。
しかも、被請求人は本件商標を基本特許に係る特殊な金型について使用しており、その金型は基本特許に保護されているから、その金型の取引者が被請求人と何らかの取引関係にあるのはむしろ当然であって、被請求人が意図的に取引関係者のみを選んで証明を受けているわけではない。従って、乙第21〜24号証には妥当性及び証明力がある。乙第21〜24号証は、取引界において本件商標がその登録時に被請求人が商品を表わす自他商品識別力のある商標として意識されていたことを示す具体的かつ重要な証拠であり、重視されてしかるべきである。さらに、必要であれば、証人尋問に応ずる用意がある。
(4)被請求人の商標であることを明示して大切に使用している例であり、勿論、本件指定商品の取引者にも読まれている(特にカタログは配布されている)ものである。従って、乙第25〜30号証は、本件商標及びその連合商標として登録された商標が被請求人の商標であって普通名称や品質表示ではないことを取引者に周知させ、取引者の意識形成の一つとなっていることの証拠に他ならない。
(5)乙第31〜35号証により、被請求人が本件商標「ポーラス電鋳」を出願日(昭和60年4月30日)より以前から使用している事実を証明し、そのオリジナリティが被請求人にあることを明らかにする。甲第2,3,8,9,10号証の発明者は乙第31〜34号証のホンダEGに帰属し、甲第4号証の出願人は乙第35号証の河西工業株式会社であり、甲第6,7号証の出願人からは乙第22号証の証明を受けている。また、被請求人は、甲第1号証(三ツ星ベルト株式会社)の発明者に対しても、甲第1号証の出願日以前に、被請求人の商品について「ポーラス電鋳」の商標を用いて紹介している。このようにして、被請求人から「ポーラス電鋳」の語を知り得た甲第1〜10号証の各発明者が、それを真似た「ポーラス状電鋳型」等の文字を明細書において使用してしまったことは、容易に推測されるのである。以上の通り、「ポーラス電鋳」は被請求人が初めて造り上げた造語にほかならず、当然、被請求人が一番早く使用しており、そのオリジナリティは被請求人にある。
(6)請求人が提出した甲第1〜10号証は、被請求人から「ポーラス電鋳」の語を知り得た各発明者が、それを真似て明細書において使用してしまったものに過ぎず、また机上での使用にすぎない。実際の取引の現場においては、被請求人以外の者が、「ポーラス電鋳」を商品に使用した事実はない。むしろ、実際の取引の現場において取引者には、本件商標を被請求人の識別力ある商標として尊重していただいており、「ポーラス電鋳」といえば江南特殊産業(被請求人)、江南特殊産業といえば「ポーラス電鋳」、というほどに本件商標は業界内に定着しているというのが事実である。従って、前述の通り、本件商標を無効にしても、請求人には何らの利益も無く、むしろ、被請求人の商標として定着し親しまれている業界内の秩序をいたずらに混乱させ、取引者を当惑させるとともに、被請求人の培ってきたグッドウィルを不当に害するのみである。
(7)請求人の提出した甲第1〜10号証のうち、甲第1〜3号証と甲第6〜10号証で使用されている用語は「ポーラス状電鋳…」であって、本件商標「ポーラス電鋳」と同一ではない。従って、甲第1〜3号証、甲第6〜10号証では「ポーラス電鋳」が使用されたことの証明にはならない、そもそも特許明細書においては、先願主義下で出願を急ぐこともあり、他人の商標がその旨を記されずに使用されてしまうケースがあることは周知の事実である。ましてや、本件においては、上記の事情によって「ポーラス電鋳」が特定の者によりある期間、限定的に明細書のみで真似られたにすぎない。請求人は、そのような例外的な使用をたまたま発見したことから、取引の実情を全く無視して、被請求人の商標登録を無効にすることでグッドウィルを不当に害しようとしたというのが本件審判請求の実体であり、到底認められるべきではない。
(8)被請求人は、仮にこの「電鋳」の意味が分かる極僅かの者にとって、本件指定商品「第7類圧搾機,かくはん機,乾燥機,吸収機,吸着機,混合機,収じん機,焼結機,焼成機,洗浄機,逮別機,遣粒機,抽出機,乳化機,裡和機,焙焼機,破砕機,反応機,分縮機,分離機,磨砕機,溶解機,ろ過機,プラスチック用金型」のうち電鋳よりなる各商品以外の商品についての本件商標の使用が品質の誤認を生ずるおそれがあるとすれば、被請求人は本件指定商品が電鋳よりなる各商品に限定されることについてやぶさかではないことを補足する。
第4 当審の判断
1 利害関係
よって、本件審理に関し、当事者間に利害関係の有無について争いがあるので、先ず、この点について判断するに、商標法第46条に基づく商標登録の無効審判を請求するためには、請求人に該審判請求をするについての法律上の利益が存することを必要とするものと解すべきである。
この点について、被請求人は、請求人と競業関係にあることは承知しているが、無効にしようとする商標を現に使用しているか又は使用する必要性があるのかいずれかであると主張する。これに対し、請求人は、同業者であり、同じ地域で営業しており、被請求人と競業関係にあり、本件商標の登録の存在により相当の利害の影響を受けることは容易に推認されることだけで充分であり、現に使用しているか又は使用する必要性があるのかといった関係に限定すべき根拠はないと主張している。
しかして、請求人は被請求人と競業関係にあり(この点は被請求人も認めている事実である。)本件商標が自他商品の識別標識としての機能がないと判断し、その登録は無効であると主張するものであるから、使用する必要性があり、また、請求人の製造或いは販売する商品が被請求人の製造或いは販売する商品と同一又は類似する商品と推認でき、本件商標の有効無効は請求人の業務の遂行に直接影響を及ぼす関係にあるものと認められる。
したがって、請求人は、本件商標の存在によって、不利益を被るといわなければならないから、本件審判を請求するにつき、法律上の利益を有するものというべきである。
2 本件商標の無効理由の当否
そこで、本案に入って、請求人が主張する本件商標の無効理由の当否について判断する。
本件商標は「ポーラス電鋳」の文字よりなるところ、構成各文字は、同じ大きさで、特に軽重の差なく外観上まとまりよく一連一体に表してなるものである。
そして、その構成中の「電鋳」の文字は、「電気メッキの原理により導電体の表面に金属層を比較的厚く電着させる技術」を意味する語であり、また「ポーラス」が英語の「porous」に通ずるものであって、「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」を意味する語(この点は被請求人も認めている。)であることは、認め得るとしても、これとて親しまれた語とはいえないものである。
請求人は、プラスチック用金型を取り扱う分野では、ポーラス状の電鋳型を用いることは周知・慣用の技術手段であり、ポーラス状(多孔質)の電鋳型の品質、形状に基づいて、呼称「ポーラス状電鋳型」、略称「ポーラス電鋳」として認識されている旨、主張している。
そこで、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第13号証を徴するに甲第1号証ないし甲第11号証の「公開特許公報」には、「ポーラス電鋳型」「ポーラス状電鋳体」「ポーラス状電鋳成形型」「通気性ポーラス電鋳金型」、甲第12号証の「プラスチック成形技術」には、「ポーラス電鋳型」、甲第13号証の「型技術 1988 VOL3,NO.7」には、「ポーラス電鋳金型」等の語が記載されていることが認められる。
しかしながら、これらの何れにも本件商標を構成する「ポーラス電鋳」の語が「プラスチック用金型」の品質を表示するものとして使用されているのは見当たらない。却って甲第12号証、甲第13号証によれば、被請求人会社の者による自社製品の技術紹介として、「ポーラス電鋳型」「ポーラス電鋳金型」が被請求人の開発した商品を表示する名称として使用されていることが窺われる。
これらの事実を総合すれば、「ポーラス状電鋳体」「ポーラス状電鋳成形型」「通気性ポーラス電鋳金型」、「ポーラス電鋳型」、「ポーラス電鋳金型」等の文字は、業界において「樹脂製品の真空成型等を行う際に使用する多孔質性金型」を表す語として認識されていたものということができるが、「ポーラス電鋳」の語が「プラスチック用金型」を表す語として普通に使用されていたものと判断することができない。
他方、被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第35号証を見るに、乙第21号証から乙第24号証の証明書は、その証明日が本件商標が登録査定された後の日付ではあるが、その内容は登録査定時の判断材料として採用することができ、甲第1号証ないし甲第11号証の「公開特許公報」に記載の出願人が本件商標が被請求人の商標として認識されていたことを証明しているものである。
乙第25号証の「プラスチック成形技術」、乙第26号証の「プラスチックスエージ」、乙第27号証の「型技術」は、被請求人会社の者による自社製品の技術紹介であり、そこには「ポーラス電鋳」「ポーラスデンチュウ」が被請求人の商標として使用されていることが窺われる。
乙第28号証の「江南企業ガイド’93」、乙第29号証、乙第30号証の「被請求人会社のカタログ」はその発行年月日は不明ではあるが、その内容は被請求人の製造販売に係る商品に「ポーラス電鋳」「ポーラスデンチュウ」が被請求人の商標として使用されていることが窺われる。
乙第35号証の「見積原価明細書」は、製造に係る商品に「ポーラス電鋳」が被請求人の商標として使用されていることが窺われる。
上記乙各号証を総合してみるに、被請求人は、昭和63年(1988年)頃より雑誌(乙第27号証)に「ポーラスデンチュウ」に関する広告を掲載し、また、平成7年(1995年)頃より、「ポーラス電鋳」の商標を継続して使用していることが認められ、本件商標の登録査定時には、プラスチック用金型を取り扱う業界において、「ポーラス電鋳」の文字よりなる本件商標は、被請求人が使用する商標として広く認識されていたものと判断するのが相当である。
加えて、日刊工業新聞(1994.9.2発行)によれば、「江南特殊産業、ポーラス電鋳金型を開発。」、日刊工業新聞(1996.3.13発行)によれば、「江南特殊産業、スーパーポーラス電鋳金型を開発。」との新聞記事が報じられていることと、上記証拠から被請求人以外には本件商標を継続して使用してきている者は見出せないこと等を考慮すると、本件商標は登録査定時において、同業の取引者、需要者は、単に「プラスチック用金型」の品質を表したものとの認識を越えて、被請求人の製造販売に係る商標であるとの認識をしていた(少なくとも、同業者において、「プラスチック用金型」についても被請求人が使用する「ポーラス電鋳」の商標との識別は十分できていた)ものと、すなわち、本件商標は「プラスチック用金型」について、自他商品識別標識としての機能を果たしていたものと推認するに難くないというべきであり、これを否定するに足りる証拠は発見できない。
してみれば、本件商標は、特定の意味合いを想起することのない造語よりなるものとみるのが自然であるから、これをその指定商品中の如何なる商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきであり、かつ、商品の品質につき誤認を生ずるおそれもないものといわなければならない。
したがって、本件商標は商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものはいえないから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別記

審理終結日 1999-11-05 
結審通知日 1999-11-19 
審決日 1999-11-29 
出願番号 商願平5-33969 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (007 )
T 1 11・ 11- Y (007 )
T 1 11・ 272- Y (007 )
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳原 雪身原田 信彦 
特許庁審判長 廣田 米男
特許庁審判官 小池 隆
小林 和男
登録日 1996-10-31 
登録番号 商標登録第3213066号(T3213066) 
商標の称呼 1=ポ-ラスデンチュウ 2=ポ-ラス 
代理人 広瀬 章一 
代理人 松原 等 

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