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審決分類 審判 更新登録無効(全部) 商21条1項2号登録商標の不使用 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 104
管理番号 1010999 
審判番号 審判1996-18200 
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2000-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-10-28 
確定日 2000-01-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第1808938号商標の商標権の存続期間の更新登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1808938号商標権の存続期間の更新登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第1808938号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙に表示した通りの構成よりなり、第4類「化粧品」を指定商品として、昭和57年12月13日登録出願、同60年9月27日に設定登録され、その後、平成8年5月30日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
2 請求人の主張
請求人は、「結論同旨の審決を求める。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証の1乃至甲第4号証を提出している。
(1)本件商標は、その更新登録出願について当該指定商品に使用している事実がないにも拘らず「現在使用中」として、その更新登録がなされたものである。よって、商標法第48条第1項第1号の規定に該当し、その更新登録は無効にされて然るべきものである。
(2)請求人は、平成5年7月19日付で商標「ベルツ」を、指定商品第3類「化粧品」として出願し、審査において本件商標が引用され、拒絶査定がなされ、現在拒絶査定不服審判へ継続中である。よって、本件商標に対しての更新登録について、法律上直接の利害関係にあり本件更新登録無効審判請求に当事者適格を有するものである。
(3)そこで、本件更新登録出願書類を観るに、先ず、本件更新登録出願に添付の「登録商標の使用説明書」について、本件商標の使用者は、権利者「本人」であり、商標の使用に係る商品名は「化粧品」である。商標の使用時期は「現在使用中」で、使用場所は権利者の住所地である。商標の使用の事実を示す書類として、別添に「商品と認められる写真」と「店頭広告の写真」が添付されている。しかして、斯かる更新出願に基づく更新登録の無効事由を観るに、当該登録商標がその指定商品に使用されている事実がないにも拘わらず、その「使用事実」が認められ更新登録がなされてしまったものであり、過誤登録されている。
(4)先ず、形式論として、商標の使用に係る商品名が「化粧品」であるが、商標の使用の事実を示す書類として別添に示されている写真は、「商品と認められる写真」と「店頭広告の写真」である。
そこで「商品」について、本件商標の指定商品取引業界にあって「化粧品」と称する商品は、取引に供されておらず、「化粧品」と認められる商品の存在は認められないものである。別添写真の内容としては、化粧ビンが2本認められている点からして、「液体」の化粧品に属する商品と推認される。しかして、具体的にいかなる商品か不明である。次に、「商標」について、該写真に掲載の化粧ビン2本の内右にあるもののラベルには「ベルツ水」と表現されているが、前記甲第1号証で明らかな通り本件商標の構成中の欧文字がなく、その態様とは全く異なり同一性は認められないものである。
又、店頭広告は、使用に係る登録商標とは異なり同一性は認められずしかも当該商品が不明である。しからば、斯かる「登録商標の使用説明書」に基づいて更新登録が認められた点は、当該登録商標がその指定商品について「使用」されている事実が何ら認められず、その出願は本来拒絶されて然るべきものであった。この点出願書類の形式的な要件からしても過誤登録されているものである。
(5)次に、当該更新出願に添付されている「登録商標の使用説明書」について詳論するに、「商標の使用の事実を示す書類」は、敢えて、更新出願の為だけに作成されたと認められ、実際現在当該登録商標がその指定商品について使用されている事実を示す書類ではなく、「作られたもの」と言わざるを得ない。即ち、請求人は、前記請求人の出願について、本件登録商標が引用され拒絶理由通知がなされ、意見書を提出する時点(平成7年5月)で、本件商標の権利者の住所地において、その「使用事実」を調査確認したところ、その事実は認められず、本来存続期間満了により当該商標権は消滅するものと確信していたものである。
又、此の程本件更新出願書類を閲覧し添付「写真」を詳細に観察すれば明らかな通り、化粧ビンが2本並列に並べられビンの表面に貼付されているシールは、この写真撮影の為だけに作成された「手書き」のシールであり、本件商標の「使用」とは言い難いものである。「ベルツ水」は「化粧水」と認められるものであるが、商品化粧品中の「化粧水」であれば、厚生省及び東京都の許認可が必要であり、その事実がない点明らかである。
又、当該商品について「薬事的効能効果」を称するのであれば、薬事法の規制の対象となり厚生省及び東京都の許認可が必要である。
請求人の独自の調査によるも、斯かる許認可の事実は認められていないものである。更に、店頭広告であるが、前記の通り「商標が異なり」「商品」が不明である点からしても登録商標の使用事実を証する資料とは認められないものである。
(6)しかして、付言するに、斯かる更新出願手続きは、本来許されざる行為と認められ、その責任は断固追及されて然るべきものである。即ち、更新出願時点において明らかに「使用事実がない」にも拘らず、更新登録は「使用事実がなければ登録が認められない」事を十分に熟知の上で、敢えて恰も「現在使用中」として「使用事実がある」かの如く装い資料を捏造偽造して、特許庁の正当な判断を誤らせ不正に登録を得る行為であり、極めて悪辣な行為と認められ断じて許されざるものである。斯かる事実が確認され次第、商標法第79条の罪、刑事上及び薬事法の責任について告発を検討するものである。請求人は、本件商標の使用者本人と写真撮影者及び資料作成者について、証人尋問を請求し、請求人が主張理由について事実確認を行う。
(7)叙上の通り、本件商標におけるその更新登録は、「使用事実」がないにも拘らず過って登録されたものと認められるから、商標法第21条第1項第2号の規定に該当し本来拒絶されて然るべきものであった。
よって、同法第48条第1項第1号の規定に該当し、その更新登録は無効にされて然るべきものである。
3 被請求人の平成9年4月22日の答弁書に対する弁駁として
(1)「商品について」
本件の商標権存続期間更新登録願に添付の「登録商標の使用説明書」に記載の商標の使用に係る商品名は「化粧品」である。
しかし、商標の使用の事実を示す書類としての「写真」から「ベルツ水」であると推認できたが、答弁書において主張立証された「ベルツ水」は、外皮用薬剤である「皮膚軟化剤」と認められる。特に、薬事法におけるベルツ水(グリセリンカリ液)として「医薬品製造業許可」を得ている点、敢えて疑問を挟む余地は認められない。よって、本件更新登録は、この点からしても過誤登録されたものであり他に論ずるまでもなく無効にされて然るべきものである。
(2)「商標及び使用について」
被請求人が、「詳細な主張と立証を予定している。」と述べているが、相当期間を経過した現在、今だその書類が届いておらず、待つまでもなく請求人に「弁駁」の機会を与えたものと推量するが、更新登録に係る登録商標を当該指定商品に「現在使用している」として出願している事実からしても、早急に詳細な「主張立証」の書類を提出すべきである。それを待って弁駁するものであり、今回は留保する。
(3)被請求人の「反論」について、
「化粧品」とは、具体的な商品名ではなく登録商標の使用説明書にて「化粧品に現在使用中」との記載においては、如何なる化粧品か不明でありこの点からしても「過誤登録」である。
次に、商標の使用の事実を示す書類で写真のみを添付しているが、その写真に掲載の化粧ビン2本共現在まで継続して使用していたとの反論である。
しかし、右のビンには、「ベルツ水」のラベルが貼付してあり「ベルツ水」(商品名)が入ったビンであると推認できても、その商品には登録商標の使用がない。更に、写真左のビンについても如何なる商品か不明である。しかも、貼付されているラベルが「手書き」のラベルであるとするなら、極めて不自然であり、場当りの資料作りであると推認されるのはより合理的観察である。請求人は、審判請求書で述べた通り被請求人の薬局で「ベルツ・ラベル」の付いた商品の購入を求めたところ、既にその商品は製造販売を中止している旨の言質を得てベルツ水・ラベルの「ベルツ水」(写真右のビン)を購入した。その商品のラベル及びビン裏面の説明書シールの写しを提示する(甲第4号証写)。
しかして、甲第4号証からしても明らかな通り、本件商標の使用事実は認められず、その更新登録は過誤であった点明らかである。
(4)最後に、被請求人の答弁にても明らかであり、追って出されるであろう主張及び立証についても、その真偽について極めて不自然が目立ち請求人が申請した証人尋問は必要不可欠であると確信する。本来使用事実がないにも拘らず更新手続きを行い、過誤登録を得て無効審判を請求されての不手際は、恥じるべきであり、断じて許さざる行為である。
4 平成11年2月9日および同11年2月10付けの答弁に対する弁駁として
(1)「商品について」
商標の使用の事実を示す書類としての「写真」から及び、答弁書等において主張立証された「ベルツ水」は、明らかに外皮用薬剤である「皮膚軟化剤」と認められる。特に、薬事法におけるベルツ水(グリセリンカリ液)として、「医薬品製造業許可」を得ている点立証済で、敢えて疑問を挟む余地は認められない。
(2)「商標及び使用について」
商標の使用の事実を示す書類での「写真」について、
写真の右のビンには、「ベルツ水」のラベルが貼付してあり、「ベルツ水」(品名)が入ったビンであるかと推認できるも、その商品には本件の構成態様と同一又は同一性の認められる範囲での登録商標の使用がない。
5 被請求人の答弁
被請求人は「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると」答弁し、次のように理由を述べ、乙第1号証から同第15号証までを提出している。
(1)被請求人の主張
商品について 登録商標の使用説明書において、商標の使用に係る商品名は「化粧品」とあるが、使用説明書に添付された写真に係る具体的な商品名は、いわゆる「ベルツ水」である。「ベルツ水」は一般に「化粧水」として認識されているから、「ベルツ水」は化粧品に該当する。「ベルツ水」が一般に「化粧水」として認識されている事実について、乙第1号証〜乙第3号証により立証する。
乙第1号証〜乙第3号証は、一般に用いられている普及型の国語辞典であり、その「ベルツ水」の項目で「化粧水」として説明されている。すなわち、乙第1号証の岩波・国語辞典・第五版の「ベルツ水」の項目には「皮膚の荒れを防ぐ化粧水……」とあり、乙第2号証の新明解・国語辞典・第四版の「ベルツ水」の項目には「手・肌の荒れを防ぐ化粧水……」とあり、乙第3号証の旺文社・国語辞典・第八版の「ベルツ水」の項目には「肌荒れ防止の化粧水…」とある。
(2)「ベルツ水」と薬事法との関係について
上述のように、「ベルツ水」は一般に「化粧水」として認識されているものであるが、薬事法上は「医薬品」である。この点を以下説明する。薬事法第2条第1項第1号〜第3号には「医薬品」定義が記載されており、その第1号には「日本薬局方に収められている物」とある。ベルツ水は日本薬局方に収められている(日本薬局方名は「グリセリンカリ液」である。)ので、薬事法上は医薬品である。乙第4号証と乙第5号証により、ベルツ水が日本薬局方において「グリセリンカリ液」として収載されていることを立証する。
すなわち、乙第4号証は、小学館発行の日本大百科全書21であるが、その「ベルツ水」の項目には「化粧水。日本独特の製剤。1876年(明治9)、当時東京医学校教師であったベルツが、箱根の一旅館で働く女性の手の荒れているのをみて創製したといわれている。日本薬局方名はグリセリンカリ液。その処方は、水酸化カリウム0.3グラム、グリセリン20ミリリットル、エタノール25ミリリットル、芳香剤適量、精製水適量を加え全量100ミリリットルとする。皮膚軟化剤として皮膚のひび、あかぎれなどに塗布する。アルカリ性で、顔の化粧水としては不向きである。」とある。
また、乙第5号証は、廣川書店発行の第十三改正・日本薬局方解説書であるが、その「グリセリンカリ液」の項目の解説には、「来歴」に「本品はわが国独特の製剤で、1876年東大医学部教授であったBaelz博士の創製したものといわれ、ベルツ水(Liquor Baelzi)と一般に称されている化粧水である。外国薬局に収載されていないが、種々の変法処方がある。」とあり、「薬効薬理」に「水酸化カリウムは皮膚の角質を軟化し、グリセリンは皮膚軟化及び乾燥防止作用により、皮膚の亀裂に対し効果がある。しかし、連用により少しの刺激にも侵れやすくなることがある。」とあり、「適用」に「皮膚軟化剤として皮膚のひび、あかぎれなどに用いる。」とある。
(2一3)医薬品の製造承認について
上述のようにベルツ水が薬事法上は医薬品であることから、被請求人はベルツ(グリセリンカリ液)を製造することについて、東京都知事から医薬品製造業許可を受けている。この点を立証するために、乙第6号証(現在の医薬品製造業許可証)と乙第7号証(更新登録出願の時点で有効な医薬品製造業許可証の表紙写し、原本は東京都に返却してある。)を提出する。
乙第6号証の第3頁の品目一覧表の右欄(「左記品目の販売名」の欄)の下から5行目に「グリセリンカリ液」とある。
(2一4)ベルツ水の販売について
被請求人は、東京都中央区東日本橋で薬局を営んでおり(薬局開設の許可を受けている)、遅くとも昭和初期から現在に至るまで「ベルツ水」を製造販売しいる。その結果、ベルツ水の製造販売者として知られている。
乙第8号証は、医師向けの雑誌「DOCTOR’S Siesta(ドクターズ・シエスタ)に掲載された「赤ひげ異人伝・第五回」の記事であるが、ドイツ人医師ベルツに関する記述の冒頭において、被請求人(玉置文治郎商店)が「ベルツ水」を製造販売していることを紹介している。すなわち、同号証の第120頁に「衣料品の問屋が軒を並べる商人の町、東京・日本橋。大きな四辻にほど近く、古いたたずまいをみせる薬局がある。店の前の歩道に『ベルツ水』と大書された看板が置かれ、入り口のガラス戸にも『ひび、あかぎれにべルツ』と記された紙が貼られている。ベルツ水、薬品名は『グリセリンカリ液』。水酸化カリウムとグリセリンで組成されている無色透明の液体で、ほんの少し芳香がある。…いまも日本薬局方に、グリセリンカリ液として認定されている。それを『ベルツ水』という商標で製造販売し続けているのが、東日本橋の玉置文治郎商店だ。ここで販売されている『ベルツ水』は、ベルツの処方と同じで、水酸化カリウムの量が少し減らされているだけだ。私も小瓶をひとつ買い求めた(六百円)。懐かしいデザインの透明な瓶に、小さな赤い蓋。『ベルツ』とだけ書かれた四角いラベルが貼ってある。」と記載されている。
また、乙第9号証は、ドイツ人医師ベルツの妻「花・ベルツ」に関する単行本であるが、その中に、「今でも日本橋の薬局では、昔ながらの八角形の瓶に詰めたベルツ水を売っているという。草津のホテル・ベルツのご主人に一瓶いただいたことがある。」との記載がある。この「日本橋の薬局」が被請求人である。日本橋においてベルツ水を薬局の店頭で販売しているのは、被請求人の知るかぎり被請求人だけである。そして、被請求人がホテル・ベルツの関係者にベルツ水を販売したことも事実である。ところで、上記単行本に記載された「昔ながらの八角形の瓶」とは、登録商標の使用説明書に添付した「2本の化粧容器の並んでいる写真」に写っている左側の化粧瓶のことである。この化粧瓶は、上からみると、左右それぞれに四つの角があり、全体として八角形をしているものである。上述の乙第8号証は1992年3/4月号(2月10日発行)であり、乙第9号証は1993年8月20日の発行である。これらの証拠から、更新登録の出願前3年以内すなわち平成4年(1992年)9月7日〜平成7年9月7日の間に被請求人がベルツ水を販売していたであろうことは推認できる。
(2-5)商標について
登録商標の使用説明書の添付写真のうち、2本の化粧容器の並んでいる写真における左側の化粧瓶には、「Berz」(筆記体風)と「ベルツ」を上下2段に表示したラベル(以下、ベルツ・ラベルという。)が貼ってある。 したがって、少なくとも、この化粧瓶のラベルの商標は、登録商標と同一の態様である。
(2一6)登録商標の使用について
被請求人は、自己の製造販売するベルツ水の容器にベルツ・ラベルを貼って販売している。登録商標の使用説明書の添付写真のうち、2本の化粧容器の並んでいる写真における左側の化粧瓶にはベルツ・ラベルが貼ってあり、一方、右側のプラスチック容器には「玉置文治郎商店」と「ベルツ水」を縦書きで2列に表示したラベル(以下、ベルツ水・ラベルという。)が貼ってある。左側のベルツ・ラベル(手書きのもの)は昔から現在に至るまで継続的に使っているラベルであり、右側のベルツ水・ラベル(ワープロ打ちのもの)は更新登録出願の頃から、手書きのべルツ・ラベルとは別に使い始めたラベルである。被請求人は、更新登録出願の使用説明書の作成に関して、当時、特許庁に相談しに行ったことがあり、そのときに特許庁の相当者から、関係のありそうなものはなるべく多く提出してください、と助言されたこともあって、当時、使用を始めた新しいベルツ水・ラベルについても、ベルツ・ラベルと一緒に写真を写したものである。したがって、更新登録出願当時、ベルツ・ラベルとベルツ水・ラベルのどちらも現実に使用していたものである。ベルツ・ラベルに関しては、上述の乙第8号証に「私も小瓶をひとつ買い求めた(六百円)。懐かしいデザインの透明な瓶に、小さな赤い蓋。『ベルツ』とだけ書かれた四角いラベルが貼ってある。」と記載されている。ここに記載されている「懐かしいデザインの透明な瓶」が、登録商標の使用説明書の添付写真のうち、2本の化粧容器の並んでいる写真における左側の化粧瓶のことである。この白黒写真では分からないが、この写真の化粧瓶の蓋は「小さな赤い蓋」である。そして、乙第8号証の「ベルツとだけ書かれた四角いラベル」が、使用説明書添付写真の化粧瓶のベルツ・ラベルである。乙第8号証は1992年2月10日の発行であるから、「更新登録出願の3年前(1992年9月7日)以内」の新登録の要件よりも7ヶ月前の発行であり、直接には、更新の要件のための使用証明にはなっていない。しかしながら、使用説明書の添付写真のベルツ・ラベルが、更新登録出願のためだけに作られた捏造ラベルでないことだけは、この乙第8号証から明らかになっているものと考える。
(2一7)請求人の主張に対する反論
請求人は、「本件登録商標の指定商品取引業界にあって『化粧品』と称する商品は、取引に供されておらず、『化粧品』と認められる商品の存在は認められないものである。」と主張している(請求の理由の(4)の記載)。この記載をそのまま読めば、化粧品の取引業界において「化粧品」という商品が存在しない、と主張していることになるが、そのような主張はおかしいので、おそらく、「被請求人」について「化粧品」という商品が存在しない、との主張であると理解できる。しかしながら、上述のように、被請求人は現実にベルツ水を製造販売しており、ベルツ水は化粧水として認識されているから、被請求人が化粧品を製造販売していることに間違いはない。請求人は、被請求人の製造販売するベルツ水が化粧品の流通業者に取り扱われていないことをもって、「化粧品」が存在しないと早合点したようであるが、被請求人の製造販売するベルツ水は、被請求人の薬局の店頭で販売しており、また、遠隔地の消費者の求めに応じて宅配便などで販売しているものである。請求人は、「別添写真の内容としては、化粧ビンが2本認められている点からして、『液体』の化粧品に属する商品と推認される。しかして、具体的に如何なる商品か不明である。」と主張している(請求の理由の(4)の記載)。しかしながら、使用説明書に添付の2枚の写真から判断すれば、使用説明書に係る商品が「ベルツ水」であることは明らかである。
請求人は、「写真に掲載の化粧ビン2本の内右にあるもののラベルには『ベルツ水』と表現されているが、…….本件商標の構成中の欧文字がなく、その態様とは全く異なり同一性は認められないものである、又店頭広告は、使用に係る登録商標とは異なり同一性は認められず」と主張している(請求の理由の(4)の記載)。しかしながら、少なくとも、2本の化粧容器が並んでいる写真の左側の化粧瓶には登録商標と同一の態様で商標が付されており、使用商標と登録商標とが同一ではないとの請求人の主張は理由がない。
請求人は、「前記請求人の出願について、本件商標が引用され拒絶理由通知がなされ、意見書を提出する時点(平成7年5月)で、本件商標の権利の所在地において、その『使用事実』を調査確認したところ、その事実は認められず、本来存続期間満了により当該商標権は消滅するものと確信していたものである。」と主張している(請求の理由の(5)の記載)。しかしながら、平成7年5月の時点において、被請求人は、ベルツ・ラベルを付したベルツ水を実際に店頭で販売しており、請求人の主張は信用できない。請求人は、被請求人の薬局の店頭で、ベルツ・ラベルの付いたベルツ水を購入できたはずである。被請求は、「使用事実」の調査確認についてどのような具体的方法をとったのか(誰がいつ、どのような方法で調査確認をしたか)を立証すべきである。また、理屈の上からも、請求人の確信はずいぶんと身勝手なものである。「平成7年5月時点で権利者の住所地で登録商標の使用事実が確認できない」から「存続期間満了により商標権が消滅するものと確信する」とは、不合理である。商標法上、更新登録の出願前3年以内に登録商標を使用していた事実があれば商標権の更新ができる訳であるから、理屈の上では、平成6年や平成5年に本件商標を使用していたとすれば、更新登録出願の可能性があるはずである。もし上記の調査確認が請求人の言う通りであるとしても(この点は信用できないが)、それだけで商標権が消滅するものと「確信する」のは不合理である。請求人は、「『商標の使用の事実を示す書類』は、敢えて、更新出願の為だけに作成されたと認められ、……『作られたもの』と言わざるを得ない。」と主張し(請求の理由の(5)の記載)、さらに「敢えて恰も『現在使用中』として『使用事実がある』かの如く装い資料を捏造偽造して、特許庁の正当な判断を誤らせ不正に登録を得る行為であり、極めて悪辣な行為と認められ断じて許されざるものである。」と主張している(請求の理由の(6)の記載)。しかしながら被請求人が提出した写真に写っているベルツ・ラベルは、昔から現在に至るまで被請求人が使い続けているものであって、断じて捏造偽造などではない。捏造偽造でないことは上述の乙第8号証からも明らかである。請求人はベルツ・ラベルが「手書き」であることをもって捏造偽造であるとの偏見をもったようであるが被請求人は実際に「手書き」のラベルで販売しているのである。被請求人からベルツ水を購入した消費者の中には、この「手書き」のラベルが良いと言って評価してくれる人もいるのである。請求人は、ラベルの捏造偽造の主張について何の証拠も提示していないし、「斯かる事実が確認され次第、商標法第79条の罪……」(請求の理由の(6)の記載)と述べているように、捏造偽造の事実を「確認していない」ことを明らかにしている。結局、請求人は握造偽造だろうと思い込んでいるだけであって、「手書き」であること以外に何の根拠も持ち合わせていない。被請求人は、実際に手書きのべルツ・ラベルを付けてベルツ水を販売していたのであるから、請求人が今後いくら努力したところで、捏造偽造の証拠が見つかるはずがない。請求人は、「『ベルツ水』は『化粧水』と認められるものであるが、商品化粧品中の『化粧水』であれば、厚生省及び東京都の許認可が必要であり、その事実がない点明らかである。又当該商品について『薬事的効能効果』を称するのであれば、薬事法の規制の対象となり厚生省及び東京都の許認可が必要である。請求人の独自の調査によるも斯かる許認可の事実は認められていないものである。」と主張し(請求の理由の(5)の記載)、さらには「薬事法の告発を検討するものである。」と主張している(請求の理由の(6)の記載)。このような請求人の主張を見ると、請求人はベルツ水について、ほとんど知識がないと思われる。上述のように、ベルツ水(グリセリンカリ液)は、化粧水であると同時に、日本薬局方に収載されているがゆえに「薬事法」上は医薬品である。したがって、ベルツ水を製造するには、薬事法上は「医薬品」の製造に関する規制が適用されるものである。被請求人は、乙第6号証および乙第7号証に示すように、グリセリンカリ液の製造承認を東京都知事から受けており、薬事法上、何の問題もない。そして、薬事法上は医薬品であるから、乙第5号証から明らかなように、「ひびあかぎれ」に対する効能を表示できるものである。ベルツ水は、化粧水であると共に、薬事法上は「医薬品」である、ということを、請求人は正しく認識すべきである。結局、請求人は、「手書きであるから捏造偽造であろう」という偏見と、「ベルツ水は化粧水であるから薬事法上も化粧品であろう」という知識不足とに基づいて、本件審判を請求したものである。単に「更新登録の無効」を主張するならまだしも、自己の偏見と知識不足から「商標法第79条の罪、刑事上及び薬事法の責任について告発を検討をするものである」などという主張をしたことについて、請求人は恥じるべきである。
(2一8)追加の主張と証拠について
被請求人は、ベルツ・ラベルを付したベルツ水を製造販売していた事実について、追って、詳細な主張と立証をするつもりである。
(2-9)本人尋問と証人尋問について
請求人は、被請求人の本人尋問と、使用説明書の写真撮影者の証人尋問とを申請しているが、上述のように、請求人の主張が偏見と知識不足とに基づく以上、尋問してみても請求人の主張を裏付けるような証拠が得られる見込みは全くない。
今後、被請求人は、登録商標の使用事実について、詳細な立証をする予定であるが、その立証内容を吟味の上、上述の尋問申請の採否を決定していただきたい。
6 平成11年2月9日付け第2答弁書
(1)更新登録無効審判における立証責任について
請求人は、本件更新登録が商標法第48条第1項第1号(本件審判請求がなされた当時のもの。商標法の条文の引用については以下同様。)の規定に該当するものであると主張しているが、当該規定に該当することについては請求人が立証責任を負うものである。すなわち、本件更新登録が商標法第19条第2項ただし書の規定に違反してなされたことを請求人は立証しなければならない。請求人の主張内容を考慮すると、本件更新登録が商標法第19条第2項ただし書の第2の規定に該当していると主張していることになるが、請求人は、本件更新登録について、「更新登録の出願前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもがいずれの指定商品についてもその登録商標の使用をしていないこと」を立証する責任がある。商標権の存続期間の更新登録の無効の審判(以下、更新登録無効審判という。)においては請求人が立証責任を負うものである。この点は、不使用による商標登録の取消しの審判(商標法第50条。以下、不使用取消審判という。)とは立証責任が逆になっている。すなわち、不使用取消審判においては、商標法第50第2項において、登録商標を使用していることを被請求人が証明しない限り、商標登録の取消しを免れない、としており、登録商標を使用していない事実について請求人に立証責任を負わせる代わりに、商標を使用している事実について被請求人に立証責任を負わせている。これに対して、更新登録無効審判においてはそのような規定が存在しないので、更新登録に無効理由ありと主張する請求人が無効理由があることについて立証しなければならない。換言すれば、「本件登録商標が更新登録の出願前三年以内にその指定商品について一度も使用されなかったものなのか、それとも、その期間内のいずれかのときに使用されたものなのか」という点について、請求人の立証活動によってもこの点がはっきりしないときは、請求人の主張は理由がないとして排斥されるべきものである。被請求人は、更新登録無効審判において登録商標を使用していた事実について立証責任を負うものではない。
(2)使用証明書の性格について
そもそも、商標権の更新登録の要件たる登録商標の使用証明書(商標法第2条の2第1号に規定する書類)については、更新登録出願人の提出した書類にって登録商標の使用事実が一応推認できればよい程度のものであって、登録商標を使用していた事実について更新登録出願人に厳密に立証させることを目的とするものではない。したがって、登録商標の使用証明書に関する更新登録無効審判については、更新登録出願人の提出した使用証明書に基づいて特許庁がなした新登録の処分について明白な無効理由がある場合にのみ、この更新登録を無効とすれば足りるものである。この観点から言えば、被請求人が提出した使用証明書に基づいて特許庁が更新登録をしたことについて、格別の違法性があったとは言えないものである。登録商標を使用していないことを根拠に商標権を消滅させたい場合には、不使用取消審判を請求すればよいのであって、更新登録時の使用証明書では使用事実が立証されていないかのように請求人が主張するのは、更新登録無効審判の意義を取り違えているものである。
(3)ベルツ水について
ベルツ水は薬事法上は医薬品であるが、商標法の指定商品としては化粧水(そのうちの薬用化粧水)である。この点は答弁書において主張した通りであるが、ここで、再度、説明する。
乙第1号証〜乙第3号証は、一般に用いられている普及型の国語辞典であるが、その「ベルツ水」の項目には、いずれも、「化粧水」であるとの説明がなされている。したがって.一般の消費者はベルツ水を化粧水として認識している。
乙第5号証は日本薬局方解説書であるが、その「グリセリンカリ液」の項目には「一般にベルツ水と称されている化粧水である」との記載がある。
したがって、医薬品を取り扱う業者においても、ベルツ水が化粧水であるとの認識がある。
乙第10号証(「香粧品学」。この第2答弁書に写しを添付したもの)の第55頁の「アルカリ性化粧水」の項目には、その代表例として「ベルツ水」が記載されている。このように化粧品の専門書においてもベルツ水が代表的なアルカリ性化粧水として紹介されており、化粧品の分野においてもベルツ水が化粧水であると認識されている。
以上説明したように、一般消費者、医薬品関係者、化粧品関係者のいずれにっても、文献上、ベルツ水が化粧水として認識されていることは明らかであるから、ベルツ水が商標法上の指定商品としての化粧水であることは明らかである。商標法施行規則の別表で言えば、ベルツ水は、「化粧品」の中の「化粧水」の「薬用化粧水」に該当するものである。すなわち、医薬品としての化粧水である。ゆえに、化粧水であっても効能を記載することができるものである。請求人は、平成10年6月24日付の審判事件弁駁書において、ベルツ水が、商標法施行規則別表の「外被用薬剤」のうちの「皮膚軟化剤」であると主張しているが、これは誤りである。既に述べたように、ベルツ水は化粧水として認識されていることは甲各号証から明らかであるから、商品取引上は薬用化粧水そのものである。すなわち、商標法施行規則別表の「化粧品」のうちの「化粧水」のうちの「薬用化粧水」である。請求人は、すでに審判請求書において「『ベルツ水』は『化粧水』として認められるのであるが」と述べており、請求人がベルツ水を化粧水として認識していることは明らかである。このような自己の認識と反対主張をするのは許されない。
請求人は、「薬事法上の医薬品」であれば、すべて、商標法上の指定商品としての「薬剤」でなければならないかのように誤解をしているようであるが、商標法上の指定商品は、その物質が何であるかではなくて、商品取引上、どのような性格の商品として流通しているのかが問題になるものである。ベルツ水が商標法上の指定商品としての「薬用化粧水」であるのか、それとも「皮膚軟化剤」であるのかは、商品取引上の実態を考慮して定まるものであって、甲各号証から明らかなように、ベルツ水が化粧水として社会一般に認識されている以上、薬用化粧水と考えるのが妥当である。
(4)ベルツ水の製造について
乙第11号証により、本件更新登録の出願前三年以内に被請求人がベルツ水を製造していたことを立証する。
乙第11号証は、被請求人が保管しているベルツ水の製造記録台帳のうち、平成3年12月27日から平成7年6月8日までの製造記録を抜粋したものである。ベルツ水は被請求人の従業員である安藤照子が製造したものであり、その製造記録台帳(乙第11号証)は安藤照子および玉置貴美子が記録したものである。この製造記録台帳によれば、平成3年12月27から平成7年6月8日までの間に、製造ロット番号としてT20からT59まのべルツ水の製造がなされている。
(5)ベルツ瓶の購入について
乙第12号証により、使用証明書の写真に写っている「ベルツ・ラベルが貼ってあるガラス瓶」を被請求人が購入したことを立証する。乙第12号証は横井硝子器械株式会社が作成した納品書である。使用証明書の写真に写っている「ベルツ・ラベルが貼ってあるガラス瓶」は、断面が八角形の独特の形状をしたガラス瓶であって、被請求人が特別に注文している特注品である。これは、商品名「ベルツ」のためのガラス瓶容器として、被請求人と横井硝子器械株式会社との間で「ベルツ瓶」と呼ばれていたものである。昭和63年3月17日付の横井硝子器機株式会社の納品書には「80ベルツ瓶(中栓付)」(80は容量が80ミリリットルを意味する。)を500個被請求人に納品したことが記載されている。また、平成元年12月28日付の横井硝子器械株式会社の納品書には「80ベルツ瓶(中栓付)」を500個被請求人に納品したことが記載されている。さらに、平成4年1月25日付の横井硝子器械株式会社の納品書には「80ベルツ用キヤツプ」を200個被請求人に納品したことが記載されている。さらに、平成3年12月17日付の横井硝子器械株式会社の納品書には「80ベルツ瓶(中栓付)」を200個被請求人に納品したことが記載されている。
そして、特注製のベルツ瓶の価格は次第に高価になっていったので(昭和63年の単価が95円、平成元年の単価が135円、平成3年の単価が210円)、次第に、安価なプラスチック容器に切り換えてきている。高価な「ベルツ瓶」に入れたベルツ水は、貴重なものとなったので、顧客の要望に応じてのみ販売するようになってきている。したがって、平成3年に購入したベルツ瓶は、平成4年の9月時点で相当数残っており、これらのベルツ瓶にベルツ・ラベルを貼付したものが平成4年9月以降に徐々に販売されていったものである。ベルツ瓶は容量が80ミリリットルであり、製造記録台帳に80ミリリットルと記載があるのは、すべてこのベルツ瓶に入れたベルツ水である。そして、乙第11号証の製造記録台帳によれば、容量が80ミリリットルのベルツ水は、平成3年12月17日から平成4年9月までにおいて、平成3年12月27日「ロットT20、80ミリリットルが5個」、平成4年1月17日「ロットT21、80ミリリットルが15個と10個」、平成4年2月5日「ロットT22、80ミリリットルが12個と30個」、平成4年6月10日「ロットT25、80ミリリットルが20個と4個」、「平成4年9月22日 ロットT26、80ミリリットルが40個と5個」とこの期間に、80ミリリットルのベルツ瓶に詰めたベルツ水は合計で141製造しており、一方で、平成3年12月17日に購入したベルツ瓶は200個ある。してみると、平成4年9月時点において、平成3年12月17日に購入たべルツ瓶のうち、少なくとも60個程度はベルツ水を詰めない状態で残っていたことになる。これらのベルツ瓶は、その後(すなわち、本件更新登録出願の3年前以内に)、徐々に販売されていったものである。使用証明書の写真に写っている「ベルツ・ラベルが貼ってあるガラス瓶」は、このときのベルツ瓶のうちのひとつであると考えられる。
(6)ベルツ・ラベルについて 検乙第1号証から検乙第4号証は、被請求人からベルツ水を購入した消費者が、被請求人の求めに応じて、被請求人に送り返してきてくれたところのべルツ水容器である。今回の審判請求事件が起こされてから、被請求人は、ベルツ水を購入した消費者にベルツ水の容器の保存について問い合わせをしたが、問い合わせをした消費者のほとんどは、数年前に購入して空になったベルツ水の容器については処分しており、そのまま所持していたものはきわめてまれであった。しかしながら、幸いにも所持していた消費者が何人かいて、その容器を被請求人に送り返してきてくれたので、これを証拠として提出するものである。これらのベルツ水の容器には、使用証明書の写真に写っているベルツ・ラベルと同じものが貼ってある。これらのベルツ・ラベル及び容器が、本件審判請求事件のために捏造されたものであるのか、それとも、過去に現実に消費者に販売されたものであるのか、実際に現物を見て、判断をしていただきたい。被請求人はこれらの証拠により、更新登録出願の際の使用証明書の写真に写っているベルツ・ラベルが、請求人が主張するような「捏造偽造」でないことを立証するものである。
この第2答弁書に添付したものは、平成11年2月12日の証拠調べに持参する予定の検乙第1号証〜検乙第4号証の写真の写しである。
検乙第1号証は、東京都小平市学園東町1-2-4在住の小林麗子氏が被請求人に送り返してきてくれたものである。
検乙第2号証は、東京都杉並区堀ノ内2-40-14在住の神戸宣子氏が被請求人に送り返してきてくれたものである。
検乙第3号証は、東京都中央区日本橋横山町5-17在住の根岸千栄子氏が被請求人に送り返してきてくれたものである。
検乙第4号証は、276 South Lorraine B1vd‐,Los Angeles,CA 90004,USA在住のAkiko Tagawa氏が被請求人に送り返してきてくれたものである。
(7)請求人の主張に対する被請求人の反論のまとめ
請求人は、本件の更新登録に無効事由がある(過誤登録である)ことの根拠として、要約すれば、次の3点を主張している。
(a)使用証明書ではいかなる品か不明であり、商標も登録商標とは異なり、形式的な要件からして過誤登録である。(b)化粧水については厚生省及び東京都の許認可が必要であるのに、被請求人はこのような許認可を受けていないので、被請求人は化粧水を販売していないか、あるいは違法に販売している。(c)使用証明書の写真に写っているラベルは「手書き」のシールであって、更新登録出願のためだけに捏造偽造されたものである。上述の(a)については、使用説明書の全体から、使用している商品がベルツ水(化粧水)であることが推認でき、また、写真に写っている二つの容器のうちの左側の容器に貼ってあるラベルは登録商標と同一である。したがって、更新登録のための形式的な要件は満たしており、請求人の主張は理由がない。上述の(b)については、ベルツ水は薬事法上の医薬品であって、被請求人は医薬品としてのべルツ水(グリセリンカリ液)の製造許可を受けている。したがって、「薬事法上の化粧品」に関する許認可がないことを根拠とした請求人の主張は理由がない。ベルツ水は薬用化粧水というべきものであって、薬事法上は医薬品であり、商標法における指定商品としては薬用化粧水(商標法施行規則別表の化粧品に含まれる)に該当する。上述の(c)については、手書きのべルツ・ラベルは昔から被請求人がベルツ水の容器に貼っていたものであり、このベルツ・ラベルを貼った容器にベルツ水を入れて被請求人が販売していたことは、乙第8号証及び検乙第1号証〜検乙第4号証から明らかである。したがって、ベルツ・ラベルが更新登録出願のためだけの捏造造偽造であるとの請求人の主張もまた理由がない。被請求人は、昔から現在までベルツ・ラベルを付してベルツ水を誠実に製造販売しているものであり、また更新登録出願についても誠実に手続をしたものあって(一時期、「ベルツ水」というラベルを、ベルツ・ラベルと「併用」し使っていたことは事実であり、登録商標及びその更新登録手続等について知識力不十分であったことについては深く反省するものであるが)、ベルツ・ラベルについて、これを捏造偽造と言われ、かつ、刑事上及び薬事法の責任について告発を検討するものであると言われたことについては、被請求人は、いたく名誉を傷付けられたものである。軽率に捏造偽造を主張した請求人は、この点について反省すべきである。
(8)審判長による尋問事項
(8-1)現物について
尋問事項:更新時の使用証明に使用した商品の内容物、商標が特定できるものをお持ちですか(例えば、「現物」)
回答:更新時の使用証明書の写真に写っている現物(「BerZ/ベルツ」ラベルが貼ってあるもの)は既に販売されていて手元にはありません。そこで、同様のラベルを貼った商品を過去に多数販売していますので、商品を購入した消費者に、過去に販売した商品の容器がまだ残っていたら送り返して欲しい、と頼みました。その結果、何人かの消費者から容器を送り返してもらいました。これらの送り返してもらった容器のうち、ラベルが剥がれずに残っていて製造時期と消費者とが特定できるもの4個を検乙第1号証〜検乙第4号証として証拠調べの当日(平成11年2月12日)に持参いたします。
(8-2)ベルツ水の製造販売状況について
尋問事項:「ベルツ水」の年度別製造及び販売状況を客観的に証明できる証明書をお持ちですか(例えば、更新時3年前の納税証明書、帳簿等、なお、そのうち化粧水の占める割合の判るもの)
回答:ベルツ水の製造記録台帳を乙第11号証として証拠調べの当日(平成11年2月12日)に持参いたします。また、「Berz/ベルツ」のラベルを貼っていたガラス瓶について、そのガラス瓶の製造業者の納品書(「ベルツ瓶」「ベルツ用キャップ」等の文字が記載されています。)も乙第12号証として持参いたします。
(8一3)化粧品の製造業許可証について
尋問事項:ベルツ水を製造・販売するに際しては医薬品製造業許可証を受ければ、別途化粧品(化粧水)の製造業許可証を受けなくとも「化粧品」(化粧水)の製造を行うことができますか。
回答:被請求人は、薬事法の規定にのっとってベルツ水(グリセリンカリ液)を製造・販売しています。すなわち、ベルツ水(グリセリンカリ液)を製造することについて医薬品製造業許可証を受けています。また、このベルツ水を販売するときも、容器の後ろに貼り付けた文書には、薬事法に則って医薬品としての必要な記載事項を記載しています。したがって、被請求人はベルツ水を「薬事法」に従って「薬事法上の医薬品」として製造・販売しているのであって、「薬事法上の化粧品」を製造・販売している訳ではありません。ベルツ水は薬用化粧水というべきものであって、薬事法上は医薬品であり、商標法上の指定商品は薬用化粧水です。ゆえに、ベルツ水を製造するには「薬事法上の医薬品」の製造業許可を受ければ足りるのであって、「薬事法上の化粧品」の製造許可を受ける必要はありません。
(8-4)乙第4号証に記載の処方について
尋問事項:請求人が提出している甲第4号証(この部分は「被請求人が提出している乙第4号証」の誤りと思われます。)の能書き(写し)は、被請求人の取り扱いに係るものですか
回答:「乙第4号証に記載された処方」についての質問と理解して回答いたます。被請求人は、乙第4号証に記載されたのと同じ処方でベルツ水を製造しています。
(8-5)医薬部外品等の表記について
尋問事項:被請求人は、「ベルツ水」を薬剤と化粧水(化粧品)の二通りで販売すると述べていますが、化粧水(化粧品)として販売する場合には、別途「医薬部外品」等の文字を記入した「能書き」を添付するのですか
回答:被請求人は、答弁書において「ベルツ水を薬剤と化粧水の二通りで販売する」とは述べていません。被請求人は「薬事法上の医薬品」としてベルツ水を製造・販売しており、「薬事法上の医薬部外品」や「薬事法上の化粧品」として製造・販売しているものではありません。そして、このベルツ水は、商標法上の指定商品としては薬用化粧水に該当します。ベルツ水は一般に昔から「化粧水」として認識されていて、消費者は「化粧水」であると認識して購入しています。その意味で、ベルツ水の取引実態は化粧水そのものです。したがって、薬事法上は医薬品であり、商品の取引実態は化粧水(薬用化粧水)である、と主張しているものです。
7 平成10年6月24日付けの弁駁書に対する第3答弁として
(1)「手書き」のべルツ・ラベルについて 請求人は、使用説明書の写真に写っているベルツ・ラベルが「手書き」であるから、「場当りの資料作りであると推認されるのはより合理的観察である。」と主張している。
しかしながら、次のように、むしろ逆に考えるのが合理的である。もし仮に、登録商標「Berz/ベルツ」を表記したラベルが実際には存在していなくて、このようなラベルを捏造偽造して、いかにも使用していたかのように装って特許庁をだますのであれば、ワープロ等を使って奇麗に印刷したラベル(あるいは、もっと精巧に印刷したラベルや包装箱等)を証拠として提出するはずである。特許庁をだます悪意のある更新登録出願人がいたと仮定して、そのような人が「手書き」であることを容易に悟られるような拙劣な偽造ラベルを証拠として提出するものであろうか。実際に販売していたものであるからこそ、被請求人は、「手書きのラベルを貼ってある現物」をそのまま写真にとって使用説明書として提出したものである。
(2)請求人が経験した事実について
請求人は、「被請求人の薬局で『ベルツ・ラベル』の付いた商品の購入を求めたところ、既にその商品は製造販売を中止している旨の店主の言質を得て、ベルツ水・ラベルの『ベルツ水』(写真右のビン)の商品を購入した。」と述べている。
請求人は、このことにより本件商標が不使用であったことを立証しようとしているようである。しかしながら、「請求人が経験し記憶している事実」を証拠として主張するのであれば、請求人の記憶内容を書面に記載して提出しただけでは証拠価値がない。その記憶内容の信憑性について判断ができないからである。請求人が経験し記憶している事実については、当事者尋問という証拠調べによって得られた供述内容が証拠資料となるものである。請求人が上述の記憶内容を証拠として主張するのであれば、みずから当事者尋問を申請されたい。
(3)「ベルツ水」ラベルの使用について使用説明書の写真にも写っているように、被請求人が一時期「ベルツ水」というラベルを貼った商品についても販売していたことは事実である。したがって、甲第4号証として提出された「ベルツ水」ラベル及び「裏シール」「添付文書」は、請求人が販売した商品に係るものであると考えられる。しかしながら、これだけでは、「ベルツ水」ラベルを貼った商品を被請求人が販売したことがあることの証明にはなっても、ベルツ・ラベルを貼った商品を被請求人が販売していなかったことの証明にはなっていない。
請求人は甲第4号証において、「裏シール」「添付文書」について「印刷されたシールです」「印刷されたものです」とのコメントを付している。このことは、おそらく、実際に販売されているものには「印刷された」裏シール及び添付文書が付いているのであるから、「手書き」のべルツ・ラベルは捏造偽造であろう、という請求人の主張の根拠になっているものと思われる。
しかしながら、平成11年2月12日に持参する検乙第1号証〜検乙第4号証から明らかとなるように手書きの「ベルツ・ラベル」を貼って過去に販売したこれらの容器の裏シールはいずれも印刷されたものである。すなわち、裏シールは印刷にして、表のベルツ・ラベルだけ、わざわざ手書きにして販売しているものである。この手書きのべルツ・ラベルを評価してくれる消費者が少なからずいるのである。
8 平成11年2月12日の証拠調べおよび平成11年6月8日付けの弁駁書に対する第4答弁として
(1)ベルツ瓶の購入について
平成11年2月9日付けの審判事件第2答弁書の第6頁第2行〜第14行の主張を撤回し、次のように改める。平成3年12月27日「ロット T20 80ミリリットルが5個と17個」、平成4年1月17日「ロットT21 80ミリリットルが15個と10個」、平成4年2月5日「ロットT22 80ミリリットルが12個と30個と20個」、平成4年6月10日「ロットT25 80ミリリツトルが20個と4個」、平成4年9月22日「ロットT26 80ミリリットルが40個と5個」とこの期間に、80ミリリツトルのベルツ瓶に詰めたベルツ水は合計で178個製造しており、一方で、平成3年12月17日に購入したベルツ瓶は200個である。また、ベルツ瓶を発注するときは、その在庫が全くなくなってから発注することはなく、80ミリリットルのベルツ瓶を発注した時点でその在庫がある程度残っていたはずである。してみると、平成4年9月時点において、平成3年12月17日に購入したベルツ瓶のうち、少なくとも数十個程度はベルツ水を詰めない状態で残っていたことになる。これらのベルツ瓶は、その後(すなわち、本件更新登録出願の3年前以内に)、徐々に販売されていったものである。使用証明書の写真に写っている『ベルツ・ラベルが貼ってあるガラス瓶』は、このときのベルツ瓶のうちのひとつであると考えられる。」
審判事件第2答弁書において、乙第11号証の製造記録台帳に基づいて80ミリリットルのベルツ瓶に詰めたベルツ水の個数を数えるときに、個数を数え落としていたものであり、上述のように改めた。個数を数え落としていた点については、請求人が証拠調べで指摘した通りである。
(2)甲第4号証について
請求人は、「意見書を提出する時点(平成7年5月)で本件商標の権利者の住所地において、その『使用事実』を調査確認したところ、その事実は認められず」(審判請求書第3頁第15〜17行)と主張し、さらに「請求人は、審判請求書で述べた通り被請求人の薬局で『ベルツ・ラベル』の付いた商品の購入を求めたところ、既にその商品は製造販売を中止している旨の店主の言質を得て、ベルツ水・ラベルの『ベルツ水』(写真右のビン)の商品を購入した。その商品のラベル及びビン裏面の説明書シールの写しを提示する(甲第4号証写)」(審判事件答弁書第3頁第4〜8行)と主張している。
そこで、請求人が平成7年5月に購入したと主張している甲第4号証写しを検討してみると、ビン裏面の説明書シールに「製造番号T72」と記載されており、容量は60ミリリットルである。これに対して、被請求人の製造記録台帳によれば、製造ロットT72は、平成8年10月16日に製造したものであり、同日に60ミリリットル入りの容器としては12個包装している。したがって、請求人が甲第4号証として提示したラベル及び説明書シールが貼付されたベルツ水は、平成8年10月16日以降に販売されたものであることは証拠上明らかである。
製造日以前に販売されることは有り得ない。この点で、平成7年5月に購入した製造ロットT59までの製造記録台帳の写しは乙第11号証として提出してあるので、それ以後の製造ロットT60からT73までを乙第13号証として提出する。本件無効審判に係る更新登録の要件は、存続期間の満了日(平成7年9月27日の3年前から満了日までの期間に登録商標を使用していたことであるから、甲第4号証がもし平成8年10月以降に購入されたものであるとすれば、甲第4号証は本件更新登録無効審判における商標不使用の証拠とはなり得ないものである。本件無効審判の審判請求書の提出日が平成8年10月28日であることを考えると、請求人は、本件無効審判を請求する直前になって、被請求人の店頭で、平成8年10月16日に製造した商品(甲第4号証のラベルを貼ったもの)を購入したのではないかと推測できる。そうであるとすれば、請求人は、存続期間の満了日を1年以上も過ぎてから購入した商品をあたかも平成7年5月に購入したかのように虚偽の主張をしていることになる。このように考えてみると、「平成7年5月に使用事実を調査した」旨の主張や、「既にその商品は製造販売を中止している旨の店主の言質を得て」という主張など、請求人のこれらの主張がすべてきわめて疑わしいものになってくる。したがって、このような疑惑の点を解明するためには、請求人が被請求人の薬局の店頭で商品を購入したとされる状況について、請求人の尋問をすることが必要であると考えられる。よって、請求人本人の尋問を申し出るものである。
(3)「化粧品」についての使用について
ベルツ水は、日本薬局方に収載されているグリセリンカリ液であって、薬事法上は医薬品である。この点は乙第5号証で立証済みである。そして、ベルツ水が化粧水として認識されていることもまた、乙第1号証乃至乙第5号証及び乙第10号証から明らかである。したがって、ベルツ水は、商標法上の指定商品としては化粧水であると判断するのが妥当である。
請求人は、「薬事法上の医薬品」であれば、すべて、商標法上の指定商品としての「薬剤」でなければならないかのように誤解をしている。特許庁商標課編、発明協会発行の「商品及び役務区分解説〔改訂第3版〕」によれば、第5類の「薬剤」の概念に含まれるものとして、「(1)薬事法の規定に基づく医薬品の大部分、(2)薬事法にいう医薬部外品の一部、(3)農薬(薬事法にいう医薬品には含まれない)の大部分」を挙げている。すなわち、薬事法上の医薬品の「大部分」、が商標法上の指定商品の「薬剤」に含まれると解説しているのであって、薬事法上の医薬品のすべてが自動的に商標法上の指定商品の「薬剤」に含まれる訳ではない。薬事法上の医薬品であっても、商標法上の指定商品の「薬剤」には含まれないようなものが有り得ることを認めているものである。薬事法上の医薬品であっても、商標法上の指定商品としての「薬剤」か「化粧品」かについて議論があるときは、その具体的な商品を個別に検討して判断することが大事である。具体的な検討をせずに、単に、薬事法上の医薬品製造業許可を得ているから、ベルツ水の指定商品は「薬剤」である、と短絡的に考えることは正しい判断とは言えない。
商標法施行規則別表によれば、第3類の化粧品の中に化粧水があり、化粧水の中に薬用化粧水がある。すなわち、薬として用いる化粧水は、医薬品ではなくて化粧品として分類している。一般に、薬用化粧水と呼ばれているものは、そのほとんどが薬事法上の医薬部外品である。そして、上述の特許庁商標課編、発明協会発行の「商品及び役務区分解説〔改訂第3版〕」によれば、第3類の化粧品の解説の中に、「『薬用化粧水』および『薬用クリーム』は、薬事法上の『医薬部外品』としての、いわゆる『薬用化粧品』である」との記載がある。したがって、商標法上の指定商品としての薬用化粧水は、医薬部外品としての薬用化粧水を指していることについては被請求人も認めるものである。しかしながら、ベルツ水に限って言えば、薬事法上の医薬品であっても(そもそもベルツ水が日本薬局方に医薬品として収載されていること自体が特異であるが)、上述の薬用化粧水の概念に含まれると考えるのが妥当である。このようなベルツ水の特殊性については後述する。
一般に薬用化粧水あるいは薬用化粧品と呼ばれている商品は、そのほとんどが薬事法上の医薬部外品であるが、「薬用化粧品という概念」イコール医薬部外品ということでは必ずしもない。薬事法上の医薬品についても薬用化粧品という概念が使われている。以下に、これを紹介する。乙第14号証に示すように、「薬事法の施行について」(昭和36年2月8日、薬発44、各都道府県知事宛、厚生省薬務局長通知、平10医薬発318改正現在)の「第六 医薬品の販売業に関する事項」の「4 特例販売業」の(4)には「特例販売業者の取扱い品目の範囲は、別表第三の基準によること」とある。
そして、別表第三の「緩和な外用剤」の表の中に「薬用化粧品」の欄がある。この別表第三は、あくまで「医薬品」の販売に関するものであるから、医薬品として「薬用化粧品」という概念が使われていることを示すものである。すなわち、薬用化粧品という概念は、医薬部外品によく使われているものであるが、医薬品にも使われているものである。したがって、薬用化粧水という概念についても、これが必ず医薬部外品でなければならないという必然性はない。
ベルツ水(日本薬局方名はグリセリンカリ液)という商品は、日本薬局方に収載されている医薬品の中でもきわめて特異なものである。乙第5号証のグリセリンカリ液の項目の「解説」の「来歴」によれば、グリセリンカリ液は「わが国独特の製剤で、……外国薬局方に収載されていないものである」とされている。
すなわち、グリセリンカリ液は、世界的に見れば、医薬品としては認識されていないものであり、その本来の性質は、せいぜい医薬部外品のような緩和な薬効を発揮する程度のものである。そして、上述の「来歴」は「ベルツ水と一般に称されている化粧水である」と「化粧水」であることを明言している。
また、グリセリンカリ液の「製法」の項目には、「芳香剤適量」とある。この「芳香剤」は必須成分である。日本薬局方に収載された医薬品の「製法」の項目に記載された成分は「必須成分」であって、この成分が含まれていないものは、日本薬局方の定める医薬品とは認められないものである。このような成分表示に「芳香剤」が指定されているのは極めて特異である。市販の医薬品中に芳香剤が含まれていることはそれほど珍しくないものと思われるが、医薬品の製法の項目において必須成分として芳香剤が指定されているというようなことは通常は有り得ない。医薬品の目的は、人体の病気を治療するものであって、芳香剤を含めなければ日本薬局方の医薬品として認めない、などということは通常は有り得ない。そこで、「芳香剤」が成分として記載されている医薬品を調査した。日本薬局方第十三改正には、第一部として824品目(さらに追補が2品目)が、第二部として468品目(さらに追補が1品目)があり、これらのすべての合計は1295品目である。このような多数の品目の中で、医薬品の成分として「芳香剤」が指定されているものは、わずかに2品目である。これらの点は、厚生省審査管理課局方係に確認した。上述の2品目のうちのひとつがグリセリンカリ液であり、他のひとつが「トウガラシ・サリチル酸精」(育毛、養毛剤としての効果がある)である。してみると、グリセリンカリ液は、上述の「来歴」から明かなように、化粧水として使われているという認識のもとに「芳香剤」が必須成分として指定された、とみるのが妥当である。その意味で、日本薬局方に収載されてはいても、医薬部外品と同等程度の商品と考えるのが妥当であり、商標法上の指定商品としては化粧品と判断するのが妥当である。
これまでに述べてきたように、ベルツ水は、乙各号証から明らかなように一般には化粧品として認識されていることは明らかであり、また、日本薬局方にあっても、成分として「芳香剤」が指定されている(化粧水として使用することを前提としている)という特殊な品目であって(外国薬局方には収載されていない)、薬事法上は医薬品であっても商標法上の指定商品としては化粧品として扱うことが妥当であるということができる。
請求人は審判事件弁駁書(第2回)で、ベルツ水は外皮用薬剤である「皮膚軟化剤」であると主張しているが、薬事法上は「皮膚軟化剤」に分類されることになる点については被請求人も認めるものである。しかし、請求人は、ベルツ水が商標法上の指定商品としての「皮膚軟化剤」であることについての立証は何もしていない。すなわち、ベルツ水が一般需要者や取引業者等において皮膚軟化剤として認識されかつ売買されていたことについての立証は何もしていない。請求人は、当初は「『ベルツ水』は『化粧水』と認められるものであるが」(審判請求書第3頁下から7行目)という主張をしておきながら、のちになって、ベルツ水は指定商品としては皮膚軟化剤である、という「自己の認識とは反対の主張」をしていると考えられる。本件無効審判に係る商標権存続期間更新登録願(甲第3号証)には「化粧水」という言葉は見当たらないから、請求人は、この商標権存続期間更新登録願を見る前からベルツ水が化粧水であるということを知っていたものと考えられる。この点を立証するために、乙第15号証を提出する。
この乙第15号証は、1995年8月21日付けの日本工業新聞に掲載されたインタビュー記事に関するデータベースの出力である。この記事には、請求人(石渡悦尭氏)に対するインタビュー内容が記載されている。請求人は、化粧品販売会社である株式会社ドクターベルツの代表者であって、上記記事中で「化学物質を使わない自然化粧品のルーツを探していたらベルツ水に突き当たり」と発言している。すなわち、請求人は、本件審判請求の以前から、「ベルツ水という化粧水」をよく知っていたのであり、それゆえに、当初は「『ベルツ水』は『化粧水』と認められるものであるが」(審判請求書第3頁下から7行目)と主張したのである。上記記事からは、ベルツ水が皮膚軟化剤であると請求人が認識していたことは全くうかがえない。化粧品販売会社の代表者である請求人は、化粧品については専門家であるはずであり、その請求人が、上記記事のようにベルツ水は化粧水であると認識しているのであるから、この点からも、ベルツ水が商標法上の指定商品としては「化粧品」が妥当であることは明らかである。請求人は、このように、自己の認識(ベルツ水は化粧水である)とは反対の主張を審判事件弁駁書(第2回)で主張している。
請求人がベルツ水をどのように認識していたかについて、上記記事及び審判請求書の主張と、審判事件弁駁書(第2回)の主張とで、矛盾が生じているので、この点の疑問を解明するためにも、やはり、請求人の尋問が必要である。
8 当審の判断
よって判断するに、被請求人は、更新登録出願前3年以内に本件商標を使用していたことを立証する証拠として、第1回答弁書提出時に乙第1号証から同第9号証までを、また、第2答弁書提出時に乙第10号証から同第12号証および検第1号証〜同第4号証(手書きの「berz」「ベルツ」の商標の付されている容器の写真)を、さらに、第4答弁書提出時に乙第13号証から同第15号証までを提出しているものである。
更新登録の審査は、「商標権存続期間更新登録願」に添付した「登録商標の使用説明書」に記載されている事項及びそれに添付されている証拠が事実に基づくものであると推認し、その上で審査をした結果、該商標が更新登録出願前3年以内に、その指定商品について使用されていたものと認められた場合には更新の登録査定がなされるものである。
そこで、被請求人が主張するが如く、本件商標が更新登録時に提出されている「商標権存続期間更新登録願」に添付された「登録商標の使用説明書」に記載されているとおり、更新登録出願前3年以内に、その指定商品に実際に使用されていたものであるか否かを検討するに、先ず、被請求人が使用していたとする手書きの「Berz」及び「ベルツ」の各文字を二段に書してなる商標(以下、「Berz」商標という。)を付した商品と「ベルツ水」の商標を付した商品(注、これらはいずれも更新登録出願時の登録商標の使用説明書中、商標の使用に係る商品名は「化粧品」とされていたものである。)の2個の容器に入った商品は、答弁書及び口頭審理時における被請求人の証言によれば、単に容器の大きさと表面に付した商標が異なるだけで2つの商品は同一品質の商品である認められるものである。
ところで、「ベルツ水」なる商品は、▲1▼「日本大百科全書21」(乙第4号証 小学館発行)によれば、「化粧水。日本独特の製剤。1876年(明治9)、当時東京医学校教師であったベルツが、箱根の一旅館で働く女性の手の荒れているのをみて創製したといわれている。日本薬局方名はグリセリンカリ液。その処方は、水酸化カリウム0.3グラム、グリセリン20ミリリットル、エタノール25ミリリットル、芳香剤適量、精製水適量を加え全量100ミリリットルとする。皮膚軟化剤として皮膚のひび、あかぎれなどに塗布する。アルカリ性で、顔の化粧水としては不向きである。」と記載されており、また、▲2▼「香粧品事典」(廣川書店発行)の「ベルツ水」の項によれば、「アルカリ化粧水といわれるものの原型になるもので1876年東大医学部教授であったDr.Erwin Baelz(ドイツ人)が、ひび、あかぎれなどの肌荒れ用に初めて作ったことからベルツ水という名が付いた。皮膚軟化剤として、水酸化カリウム、グリセリンをエタノール水に溶かして製したもので、日本薬局方に収載されている「グリセリンカリ液」はベルツ水の変法処方である。化粧品の「アルカリ化粧水」は、更にアルカリ性を弱くし、皮膚に対しての作用を穏やかにしたものであると記載されており、上記日本薬局方の「第十三改正・日本薬局方解説書」(乙第5号証 廣川書店発行)」によれば、「グリセリンカリ液」とは、「来歴として、本品はわが国独特の製剤で、1876年東大医学部教授であったBaelz博士の創製したものといわれ、ベルツ水(Liquor Baelzi)と一般に称されている化粧水である。外国薬局方に収載されていないが、種々の変法処方がある。」「薬効薬理として、水酸化カリウムは皮膚の角質を軟化し、グリセリンは皮膚軟化及び乾燥防止作用により、皮膚の亀裂に対し効果がある。しかし、連用により少しの刺激にも侵れやすくなることがある。」、「適用として、皮膚軟化剤として皮膚のひび、あかぎれなどに用いる。」と記載されているものである。
上記▲1▼、▲2▼の記載に徴すれば、ベルツ水は、創製された当時からアルカリ化粧水として取り扱われてきた独特の来歴を有するものであるが、該商品は、反面「薬効薬理として、水酸化カリウムは皮膚の角質を軟化し、グリセリンは皮膚軟化及び乾燥防止作用により、皮膚の亀裂に対し効果があり、連用により少しの刺激にも侵れやすくなることがある。」、「適用として、皮膚軟化剤として皮膚のひび、あかぎれなどに用いる。」等の効能・効果を有するところから、「グリセリンカリ液」に類するものとして日本薬局方には「グリセリンカリ液」として収載されているものである。
一方、化粧品を製造する場合には、国及び地方自治体(被請求人の場合は、東京都)の認可を受け、かつ、それを販売するためにはその容器に薬事法上で規定されている「製造業者の氏名、製造番号、製造記号」等の必要事項を記載しなければならないところ、被請求人は、地方自治体より「医薬品製造許可」(乙第6、7号証)を受けているものの、化粧品に関しては、国及び地方自治体からの製造・販売するために必要な許認可を受けていない。
また、被請求人の答弁書及び口頭審理時の証言によれば、被請求人が更新登録出願時に使用証明として提出している「ベルツ水」及び「Berz」商標が付されている2個の容器には、いずれも「ベルツ水」と同じ薬事法上で定められた「グリセリンカリ液」に関する「効能・効果、用法・用量」等が記載されているラベルが付されているところから、これら2個の容器の商品は、単に容器の大きさと表面の商標を変えて「ベルツ水」を販売しているにすぎないものである。
この点について、被請求人は、一方の「Berz」商標を付した商品は「薬用化粧水」として販売していたものであると主張しているが、仮に該商品が「薬用化粧品」であるならば、薬事法上で規定する「医薬部外品」の表示が必要とされているのにも関わらず、該商品の容器にはその旨の記載がなされていない。
そうとすれば、被請求人は、単に容器の大きさと表面の商標を変えた「ベルツ水」(グリセリンカリ液)を、薬事法に従って販売していたにすぎず、結果として、化粧品中に属する「薬用化粧水」に「Berz」商標を付した商品を販売していたということにはなり得ないものである。
したがって、本件商標の更新登録は、その更新登録出願前3年以内にその指定商品のいずれについても使用されていなかったものと言わざるを得ない。
してみれば、本件商標の商標権の存続期間の更新登録は、商標法第19条但し書の規定に違反して登録されたものであるから、同法第48条第1項1号の規定により、その登録を無効とすべきものである。
なお、被請求人は、「ベルツ水」は、「化粧水」と薬剤の「グリセリンカリ液」の両面性を有するものであるから、薬剤の製造許可を受けていれば、化粧水(化粧品)の製造許可を受けなくともよい旨を主張しているが、化粧水は、上記のとおり薬事法に定められた国または東京都知事の製造許可書がなければ製造・販売できないものであるから、被請求人は、更新登録時に「化粧水」の製造・販売をしていたことにはならない。
また、被請求人から平成11年8月16日付けで提出されている「当事者尋問申し出」は、その必要性が認められないのでこれを採用しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 1999-11-15 
結審通知日 1999-11-30 
審決日 1999-12-02 
出願番号 商願昭57-109700 
審決分類 T 1 13・ 72- Z (104 )
最終処分 成立 
前審関与審査官 半戸 俊夫 
特許庁審判長 寺島 義則
特許庁審判官 野上 サトル
滝沢 智夫
登録日 1985-09-27 
登録番号 商標登録第1808938号(T1808938) 
商標の称呼 1=ベルツ 2=バ-ズ 
代理人 三嶋 景治 
代理人 鈴木 利之 
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