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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 132
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 132
管理番号 1006341 
審判番号 審判1997-13666 
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2000-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-08-14 
確定日 1999-08-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第2711138号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2711138号商標の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2711138号商標(以下、「本件商標」という。」)は、「ざる豆腐」の文字を横書きにしてなり、第32類「豆腐」を指定商品として、平成3年7月6日に登録出願、同7年11月30日にその登録がなされているものである。
2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める」と主張し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証から同第15号証までを提出している。
(1)本件商標は、「ざるに入れられた豆腐」等の商品について、その商品の品質、形状、生産の方法等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号他の規定により商標登録を受けることができない商標であり、「ざるに入れられた豆腐」等以外の商品に使用する場合には、商標法第4条第1項第16号の規定により商標登録を受けることができないものである。
(2)本件商標の自他商品識別力
本件の指定商品は「豆腐」であるが、食品としての「豆腐」には一般的な木綿や絹の他にも数多くの種類があり、更には、その製造方法にも多種のものが存在する。このため、以下に豆腐の一般的な製造方法と豆腐の種類について簡単に説明する。
▲1▼豆腐の製造方法の概略について
本件商標の指定商品は「豆腐」であり、食品としての豆腐の製造工程は、甲第1号証や甲第2号証等に示されている。まず、最も一般的な木綿豆腐についてその製造工程を以下に概説する。
(イ)まず、大豆を水と共にすり潰して「呉」を作り、これを加熱した後、おからを漉して「豆乳」を作る。
(ロ)この豆乳に、にがり等の凝固剤を入れてしばらく待つと、部分的に集まったどろどろの状態の塊が表れるが、これを「おぼろ」という。
(ハ)このような「おぼろ」を適当に「寄せて」集め、周りの水分ごと「おぼろ」を「汲み出し」たものを木綿等の水切りを敷いた「型」に入れる。この作業を一般的には「寄せ」と称している。
さらに、「型」に入れた状態で、必要に応じて「重し」等をして水分を絞ると一般的な「木綿豆腐」ができ上がる。なお、「型に敷かれた布等」で絞らずに「型に入れたまま」水分と共に固めたものをいわゆる「絹ごし豆腐」又は単に「絹豆腐」という。
豆腐は、上記のような製造工程で固めた状態でも柔らかいもの等、様々な製造方法や調理方法、食し方(又は料理方法)が考案されている。例えば、甲第5号証他に示すように、一般的な木綿や絹豆腐のように型に入れて固めたものではなく、上記(ロ)の工程の「おぼろ」の状態のまま、あるいは「おぼろ」を採り出して自然に水切りした程度の柔らかな状態(ふわふわな状態)の豆腐を食する事も古来から知られている。そして、甲第2号証等にも示されているように上記工程(イ)の「呉」から豆乳を(おからと分離して)漉す際や、「おぼろ」から水分を除く際には、我が国でも極めて一般的な調理道具として「ざる」が広く用いられており、豆腐製造工程における周知な道具ともなっている。ところで、我が国における豆腐の由来は、古来に中国から伝達されたものとされているが、中国における豆腐発祥の地と言われるワイナン地方では、古来から「ざるに木綿を敷いて水切り」を行ってきたと言われており、この方式が現在も受け継がれて当地では実際に行われている。
ここで、本願商標を構成する『ざる』は、食品の水切りや容器として使用される一般用具として周知なものであり、『豆腐』も大豆の加工食品として周知なものである。なお、「ざる」は食品等の水を切るための道具の普通名称であり、特に証拠等を示すまでもなく周知の事実であるが、参考のために甲第3号証として日本語辞典の写しを添付する。
(3)豆腐(料理)の名称について
一般的な豆腐として、上記のような木綿や絹が代表的に周知なのは、これらが現在、商品としての運搬性が重視された結果である。
しかし、単に「豆腐」と言った場合には、このような木綿や絹に限定されるものではなく、広く「豆乳ににがり等の凝固剤を入れて固まり始めた後のもの」を含む食品が全て該当する。言い換えれば、一般的な木綿や絹等の種類以外にも「豆腐」は種々存在するものであり、それらの中には、例えば凝固工程中の豆腐も存在し、これらを様々な方法で食すことが実際に行われている。例えば、「おぼろ」の状態の柔らかな豆腐をそのまま食すものを「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」と称しており、これは豆腐の状態の名称や調理の工程の名称をそのまま用いたものである。
さらに、「おぼろ」を水分と共に汲み出した状態のものを「椀」等に入れて食するものを「汲み豆腐」、「汲み出し豆腐」又は「ゆし豆腐(主に沖縄地方)」と称しているが、これらも豆腐の調理の工程等をそのまま使用している一般名称である。ただし、時代や地方によりいわゆる上記の「おぼろ」を更に料理したものを「おぼろ(朧)豆腐」や「寄せ(よせ)豆腐」と称するところもあるようであり、美濃半紙で包んで揚げる等の料理法も古来に考案されている。また、この「おぼろ」の状態では水分が多く含まれているので、この状態から(枠などに入れずに)簡単に水分をとった状態の豆腐を食すことも従来から行われている。そして、食品の水切り道具として、「ざる」が用いられることは特に例を挙げるまでもなく周知であり、「おぼろ」から水分を抜くためにざるの上に載せて水分を採る方法も古来に考案されたものである。即ち、豆腐の中に水分が多く残り、ある程度固まる前のどろどろの状態の「おぼろ」から適当に水を切るために調理道具としての「ざる」を用いる事は、日本料理として至極当然の帰結であり、実際に「ざる」が豆腐の水切りに古来から使用されている事実を鑑みれば「ざるにおぼろを入れて水を切っただけの豆腐」も豆腐料理の一つとして存在することもまた至極当然のものである。このように「ざるで水切りされた豆腐」は、結果として「ざるに入れられた豆腐」となるが、一般的な木綿や絹等に比べると半固まりの柔らかな状態であるため、従来は専ら豆腐料理屋や自家製造している豆腐屋の店頭のみで販売される場合が多く、広く一般に流通する機会が少なかったものである。しかしながら、いわゆる豆腐業界では、従来から広く知られた周知の豆腐(料理)の名称であって、近年の冷蔵や運送技術の発達に伴い、「ざるに入れられた豆腐」が『ざる豆腐』として流通商品となっている。そして、辞書における「ざる」の記載にもあるように「ざる」に入れられて供される「そば」を『ざるそば』と称することは周知の事実であり、ここから鑑みても「ざる」に入れられて供される「豆腐」を『ざる豆腐』と称することは、我が国においては、その食品の形態から普通に用いられる名称として至極当然の帰結である。また、豆乳の中から「おぼろ」状態の固まりのものを「寄せて」「すくう」際にも「ざる」が一般的に使用されるので、このような豆腐の生産方法からも『ざる豆腐』の名称が普通に用いられていることも、豆腐業界において極めて普通の事実である。
▲1▼「ざる豆腐」が広く一般的に使用されている事実について
上記の様に「おぼろ」状態の豆腐を「ざる」で寄せ(又は、すくい)、あるいは「ざる」に入れて自重のみで水を切った柔らかな状態の豆腐を『ざる豆腐』と称して一般的に使用され、当該名称の下に取り引きされている事実を以下に説明する。
まず、本件商標の指定商品「豆腐」製造業者の殆どが加盟する関連団体の全国組織である「全国豆腐油揚商工組合」並びに「全国豆腐油揚協同組合連合会」が行った『ざる豆腐』に関する調査結果のレポートを甲第4号証として示す。
この調査結果を見ると、『ざる豆腐』が日本全国の広い地域で従来から使用された一般的な名称であり、少なくとも本件商標の出願時には豆腐製造販売業界において周知なものであることが明らかである。なお、このような豆腐(料理)は、甲第5号証並びに甲第6号証等からも明らかな様に、江戸時代の記述にも明示される程の古来から存在するため『ざる豆腐』の名称自体が初めて使用された時期は定かではない。
しかし、上記の証拠にも示されるように、日本国内の異なる地域において夫々独自に使用されていた事実があり、少なくとも本件商標の出願時(登録時)には豆腐業界において一般的名称として認識されるに至っていたものである。さらに、近年では『ざる豆腐』をメニューの一つとして提供する飲食店も増加しており、上記のような豆腐料理の名称としても一般的に使用されている事実がある。
また、近年の業界新聞を甲第7号証として提出するが、これらの業界新聞等において『ざる豆腐』が商品の名称として、一般的に使用されている。これらには、『ざる豆腐』の紹介記事や『ざる豆腐』用のざる等の関連機械器具が販売されている事実が記載されており、これらからもざる豆腐が豆腐関連業界で一般に認識され、更に専用用具までも販売されている事実から、豆腐の一種の一般名称として周知であることが明らかである。
この他甲第14号証でも業界新聞記事中に『ざる豆腐』の文字が一般的名称として使用されている事実及びざる豆腐専用の『ざる』等が取り引きされている事実を示す。
▲2▼一方、一般雑誌にも「ざる豆腐」が紹介されている。甲第8号証は、一般大衆向けの漫画雑誌であるが、この中で「ざる豆腐」の内容、名称、製造方法、形態等が絵図と共に本件出願前(1989年発行分)に紹介されている。
ここでは、甲第8号証として単行本からの抜粋を提出するが、当該単行本は現時点までの通算で約130万部以上の発行部数を数える極めて著名なものであり、当初掲載された週刊誌も1989年当時に約150万部の発行部数を誇っていたものである。従って、本件商標の出願前にこれらの週刊誌並びに単行本が発行されていた事実や、単行本が現在においても継続して販売されている事実、さらには、これらの発行部数を考慮すれば、一般大衆にも『ざる豆腐』の名称が「ざるに入れられた豆腐」又は「ざるで水切りされた豆腐」等の一般的な名称として周知であると考えられる。あるいは、少なくともこの種の商品に関する慣用的な名称として一般的にも認識されているものである。それ以外にも、甲第9号証に示すように、近年の書籍には「ざる豆腐」そのものが紹介されている。この書籍では、「ざるで水を切った豆腐」であることが判るように、ざる目の残った豆腐が写真で紹介されている。加えて、一般新聞の中からいくつかの記事を拾ってみたが、第13号証に示すように、「ざるに入れられた豆腐」や「ざるで水切りされた豆腐」を示す一般名称として『ざる豆腐』が使用されている。また、甲第15号証に示すように、インターネットの各種サイトやホームベージでも「ざる豆腐」の名称がごく一般的に使用されており、これらからも、本件商標は自他商品識別力が無く登録適格を有さない商標であることが明らかである。
(4)権利者本人の認識等について
本件商標の権利者は、本件商標が豆腐(料理)の一態様を示す一般的な名称である事をその出願時に既に認識しており、更には、その一般名称を不当に占有して第三者を排除しようとする意志の下で本件商標権が取得されたものである。これらは、以下の証拠等からも明らかである。甲第10号証並びに甲第11号証に示す様に、本件権利者は、自らが豆腐の製造工程において、従来から「ざる」が使用されていることや、「ざる豆腐」という名称が一般化していることを認めている。
さらには、本件商標のような一般名称の権利化により不当な独占を画策しているものであり、これらは甲第12号証に示す様に、本件商標以外にも「豆腐」の態様に関連する他の一般名称等を出願していることからも明らかである。
なお、本件権利者は、「ざる豆腐」の品質向上のためと称しているが、当該目的自体は請求人としても反論するものではないが、それらは商標法の問題ではなく名称の不当な独占とは何ら関連しないものである。
例えば、「木綿豆腐」を権利化する事を仮定すれば、その目的が品質の向上や維持にあるとしても、業界や需要者の混乱を招く事は必須であり、同様に本件商標が、商標法の目的に反し、独占適応性のない商標の登録であることが、明らかなものである。
(5)豆腐業界の現状について
近年の健康食品ブームやグルメブーム等に影響され、自然食品である豆腐の価値が見直されており、さらには、豆腐の品質の向上のために、無農薬の大豆や天然のにがりを使用する豆腐等の人気が高まっている。それと共に、豆腐の純粋な味を追及するためには、大豆のうま味成分が水分と共に残った「おぼろ」状態の豆腐を食することも近年特に注目されており、従来から使用されてきた水切り道具としての「ざる」は、容器としても至極当然のように使用されてきたものである。このような『ざる豆腐』は、木綿豆腐等の様に固められた豆腐と異なり、至極柔らかなものであるため、従来は一般流通商品としては扱われていなかったが、従来から自家製造の豆腐屋で直接販売されたり、料理店で豆腐料理の名称として提供されてきたものである。そして、近年の流通事情の発達(例えば、冷蔵のままの宅配便等)や、デパート等での現場製造技術の発達等に伴い、流通商品としても広く扱われる様になったものである。
ここで、被請求人が営業する「川島豆腐店」が『ざる豆腐』を販売し、あるいは料理として提供している事実があり「川島豆腐店のざる豆腐」が人気を博している事も請求人としては否定するものではない。しかしながら、そもそも『ざる豆腐』自体が、その製法や名称と共にもともと被請求人の創作によるものではなく、従来から知られていた一般的な豆腐料理の製法とその名称であり、仮に、被請求人の製造販売する『ざる豆腐』が近年の『ざる豆腐』人気の一翼を担っていたとしても、その名称は少なくとも豆腐業界において一般的なものであり、一私人に独占させるべき名称ではない。そして、被請求人は本件商標権に基づいて第三者から使用料を徴収する画策をしているが、豆腐業界その他豆腐料理を提供する全ての者に対して不当な権利行使となることは明らかである。
このことは、被請求人が関連する他の豆腐料理の一般名称である「寄せ豆腐」「ざるおぼろ」「ざる寄せ豆腐」「ざる入り豆腐」等の数件を出願している事からも明らかであり、被請求人の本件商標権の取得やこれらの関連商標の出願は、豆腐業界その他の豆腐を取扱う業界の混乱を招く事は必須である。本件商標は、豆腐(料理)の一つの態様を示す名称であるが、その流通性の問題や高度な趣味性から、従来は一部の地域や所謂グルメ等の消費者には周知又は著名であったものの、一般的に広く著名ではなかっために、審査においてこれらの事実が判断されずに看過されたものと思われる。
しかしながら、本件商標の関連する業界団体においても本件商標は一般的名称として認識されており、加盟業者等においても多数の業者が現実に使用している。これらは、今般提出した証拠書面等により明らかになったものと思料するが、少なくとも豆腐業界においては、本件商標が豆腐料理の一般的名称であり商品名として一般的に使用されていることは事実であり、さらには近年では需要者にも、著名とまでは言えなくても、少なくとも周知なものと認識されている。このため、業界の好ましい競業秩序の維持のためにも、本件商標を可及的速やかに無効とされるべきである。
(6)請求人適格について
本件請求人は、本件商標の指定商品である「豆腐」の製造販売を行う同業者であり、当該商標権に基づいて本件被請求人から侵害警告を受けている。被請求人は本件商標に基づく不当な権利行使を画策しており、請求人の組合に加盟する業者のみならず、これらの業者が納品しているデパート等にも警告を発しており、豆腐業界に無用な混乱を招いている。したがって、本件請求人は、本件商標の権利に関して直接的又は間接的に利害関係があり、請求人適格を有する事は明らかである。
以上のように、本件商標に係る標章の『ざる豆腐』は、商品「ざるに入った豆腐」「ざるで寄せた豆腐」「ざるで水切りした豆腐」等、『ざる』を豆腐の製造工程で使用し、あるいは『ざる』を容器として使用する「豆腐」の名称として、少なくとも豆腐業界において一般的に使用されている名称であり、その表示態様はごくありふれた活字であることから、これらの商品の形状や生産の方法等を普通に用いられる方法で表示したものに過ぎないため、本件商標は法第3条第1項第1号乃至第3号に該当するものである。
また、上記のような「ざる」を用いた「豆腐」以外の豆腐、例えば広く知られた「木綿豆腐」や「絹ごし豆腐」等に本件商標が使用された場合には、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるので、法第4条第1項第16号に該当するものである。
従って、本件商標は法第46条の規定に基づいて、その登録を無効とされるべきものである。 さらに、豆腐業界では、被請求人の不当な権利により、無用な混乱が生じている。
(7)被請求人の答弁に対する弁駁として
被請求人は、記述的商標が広く一般に使用されていなければならないとの誤認に基づいて、法第3条第1項第3号に該当しないものと主張する。さらには、登録時に何ら判断されていない規定についての後発的適用という法理念に反する誤認に基づいて、同第3条第2項の適用を主張する。
加えて、同第4条第1項第16号の規定に関しても、その規定における「品質」の優劣の概念という誤認に基づいて、同規定の適用を否定している。
▲1▼自他商品識別力(商標法第3条第1項3号他)について
本件商標は、そもそも商品の記述的商標(同第3号)であり、その製法や商品の形態に基づいて判断しても、また食品一般の名称としてもきわめてありふれた名称のみからなるもので、その商品を示す一般的な名称にすぎない。言い換えれば、ごく通常の一般人が、その商品を見たときに、ごく普通に称せられる名称であり、現実に使用されているか否かを問わず、広く一般に使用されていなくても何人にも使用を認めるべき名称である。
仮に、百歩譲って請求人の創作による名称であったとしても、現実の使用の如何に関わらず、記述的商標に該当する本件商標は、将来においても一般的に使用されることを担保しなければならないものであり、同3号の規定に基づいて登録されるべきものではない。さらに、本件商標は少なくともその登録査定時には、日本国内のかなりの広い地域において現実に使用されている一般名称であり、さらには日本国内の一部の地域では普通名称化(同第1号)しているものである。
これについては、本件登録後の調査において過去の地方の個別状況を示すために提出した書面のうち、特にその指定商品「豆腐」の全国関連団体による調査結果でも明らかである。そして、この点に関しては、その他の出願前の書籍でも明示されているため疑いようのない事実であり、何らの根拠無く否定している被請求人の主張はとうてい承伏できるものではない。
したがって、本件商標は、広く一般にその名称の使用を認められなければならない名称であって、本件商標の存在は、第三者の使用を不当に制限するものであり、公衆の利益を害するものである。
本件審判請求書でも述べたように、もともと食品「豆腐」は、古来中国から伝搬された食品であるとされており、その当時から「ざる」で水切りをする製法が用いられていたこと、現在の中国のワイナン省では今でもこの製法が使用されていることから見ても、この種の「ざる」を用いた製法が被請求人の創作によるものではない事が明らかである。さらには、請求人が既に提出した証拠にも記載されているように、被請求人自らが伝聞でこのような製法が古くから使用されていたことや、その名称が「ざる豆腐」であることを述べており、その製法や名称が被請求人の創作にかかる物でないことも明らかである。このことは、被請求人が提出した証拠(乙第1号証の1他)の多くにも、同様な記述がある。このように「ざる豆腐」は、「玄界灘の島々で江戸時代から伝わるもの」でもあり、ざるに盛られて水を切られた豆腐自体は、古くから日本にも存在したのである。
そして、そのような形態の豆腐を見たときに、豆腐の取引者はもとより、その需要者層であるごく一般の人々は、「ざるに盛られた形で供される豆腐」の名称として、おそらく標準的な日本国民であれば「ざる豆腐」と呼ぶのでは無かろうか。逆に言えば、それ以外にどのような呼び方があるというのであろうか。それを考えれば、本件商標がいわゆる記述的商標であることは明白である。
このように、豆腐製造の過程で用いられる「ざる」と本来の「豆腐」のごく一般的な商品名を組み合わせただけの本件商標は、その表示態様も単純な活字体であることにも鑑みても、その商品の形態をそのまま称した一般名称であり、しかも、きわめてありふれた表現であることが明らかである。加えて、被請求人自らの言動として、この名称が普通名称であることを認識しており、自らの商品が有名になったからだけの理由で、その一般名称をあとから独占せしめようとすることは、広く一般公衆の利益に反するものである。
従って、被請求人が提出した証拠からも、本件商標が被請求人の創作によるものではなく、古くから存在する一般的名称であることを示唆するにすぎないものである。
▲2▼使用による顕著性(同第3条第2項)について
そもそも、同規定の適用を主張すること自体が、本件商標が自他商品識別力がないものであることを自認していることを示すものである。即ち、本規定は記述的商標他の自他商品識別力のないものに該当する商標に関する例外規定であるから、その適用を主張すること自体が、被請求人自らが本件商標が記述的商標に該当することを認めている事を示すにすぎないものである。さらに、本件商標に関しては、その登録時に使用による顕著性が判断されたものではないので、後発的にその適用を主張することは、法理念に反するものである。加えて、仮に、同規定の適用を主張するのであれば、現実の使用態様を示した上で、その態様と本件商標との同一性の点をも主張すべきであるのに、被請求人が提出した各証拠ではその使用態様が明らかではないので、願書に記載された商標との同一性が判断できないものである。
そもそも、請求人としては、本件商標は識別力を有するほど著名なものではなく、登録要件を取得(具備)するほど顕著とは言えないものである。
乙各号証を見る限りでは、被請求人が経営する川島豆腐店で製造販売されている豆腐が好評を博し、少なくとも佐賀方面において有名となっていることに関しては、請求人としてもこれを否定するものではない。しかし、被請求人が提出している紹介記事は、いずれも「豆腐」の美味しい店としての「川島豆腐店」が有名であることを示唆するものであり、「ざる豆腐」がその取扱商品の一つであることを示すにすぎないものである。即ち、同規定の提供を受けるための使用による顕著性とは、「ざる豆腐」=「川島豆腐店」との認識が広く一般に周知となる程度の著名性を必要とするものであるが、これらの証拠が登録性を認めるほど著名な一般名称であることを証明するものではない。さらには、これらの証拠の中では何ら使用態様が特定されておらず、願書に添付された商標の態様と何ら関連のないものである。
従って、これらの証拠に鑑みても、被請求人は、自ら本件商標が自他商品識別力のない一般名称であることを認めるにすぎないものである。
▲3▼商品の品質誤認(同第4条第1項第16号)について
本件商標の使用対象となる商品は、指定商品「豆腐」のなかの特定の種類の豆腐を対象とするものであるから、他の一般的な豆腐に使用された場合には、商品の品質の誤認を生ずるものである。
言うまでもなく、本規定の「品質」が、その商品が本来持つ特性の意であって、品質の「劣悪」には関係がないことは、法規定の趣旨に基づいて明らかであり、工業所有権法逐条解説にも明記されている(参考資料参照)。
被請求人は、同規定における「品質」について、「劣化する」とか「変化する」と言う問題を述べているが、本規定における「品質」をその商品の「優劣」と誤認しているようであるので、これらの主張は明らかな誤りであり、当該主張は何ら参酌されるべきものではない。
例を挙げて簡単に言えば、きわめて一般的な「木綿豆腐」に本件商標「ざる豆腐」が使用された場合には、その「木綿豆腐」の品質が誤認されること、即ち、寄せ豆腐からざるで水を切ったものと認識されるおそれがある。このような品質の誤認は、需要者であれば当然に認識できるものである。以上のように、被請求人の主張は、その多くが法規定の誤解に基づく不当なものであり、各証拠に対する認識においても、独善的見解を示すもので、何ら参酌されるべきものではない。
従って、本件登録は速やかに無効とされるべきである。
3 被請求人の答弁
(1)請求人が本件商標を無効とする理由は、本件商標が商標法(以下、「法」と言う。)第3条第1項第3号及び法第4条第1項第16号に該当するというものである。しかし、以下に述べるように、本件商標は上記各号に該当することはなく、またたとえ法第3条第1項第3号に該当するとしても、同条第2項により本件商標には特別顕著性が認められることから、商標登録の要件を満たすものである。以下、詳述する。
(2)商標法第3条第1項第3号について
本号は、いわゆる記述的商標の商標登録を認めないことを定めたものである。記述的商標が不登録事由とされた理由は、以下のとおりである。即ち、(a)記述的商標は、取引上、一般的表示として多数人に使用されており、自他商品識別能力がないこと、また、(b)現実に自他商品識別能力があっても、多数人にその使用を開放しておく必要があり、特定人に独占的に使用させる適応性が公益上ないこと、の2点にその根拠がある。
また、記述的商標であるか否は、それが「普通に用いられる方法」で使用されている場合に限るのである。そして、「普通に用いられる方法」の解釈は、その商品の取引状況に鑑み、商標権者の利益及び一般的使用の保障の要請を比較考慮して検討されなければならない。そして、本号に該当するか否かを判断する時期は商標登録査定時を基準とするべきである(東京高裁平成3年6月20日判決参照。本判決例は本号にも妥当するものである。)。
そこで、本件商標が法第3条第1項第3号に該当するか否かについて、上記の記述的商標が無効とされた理由及び「普通に用いられる方法」に該当するかを検討する。
(イ)取引上、一般的表示として多数人に使用されていたか
被請求人は、本件商標を自己の製造する豆腐の商品として、平成元年ころより使用していた。また、本件商標を冠した被請求人製造にかかる豆腐(以下、「本件商品」と言う。)の紹介記事は、平成3年から数多くの雑誌に掲載されている(乙第1号証)。ところが、本件商標と同一又は類似の標章を付した豆腐商品は、最近になって増加したが、本件商標登録査定時(平成7年5月18日)には全く見受けられなかった。このことは請求人が提出している甲号証の雑誌の中に、本件商標登録査定時以前に本件商標と同一の標章を付した豆腐商品の記事がないことから裏付けられるものである。即ち、本件商標が被請求人の創案にかかるものであり、被請求人の商品が多数の雑誌により紹介されたことから、他の同業者も使用するようになったことを物語るものである。
請求人は、本件商標が豆腐業界において一般的に使用されていたものと主張するが、上記のように本件商標登録査定時以前には被請求人製造にかかる本件商品以外に本件商標を付した商品の紹介記事は見受けられないこと、さらに、後記のように本件商品と同様の手法によって完成した商品は古来より「おぼろ豆腐」とか「寄せ豆腐」と呼ばれていたこと(甲第2号証53頁参照)からすると、本件商標は豆腐業界において一般的に使用されていたとは認められない。
請求人の主張は、従来より豆腐の製造過程において「ざる」が使用されていたことを捉えて、あたかも業界内部においては一般的な名称であったかの如くこじつけているに過ぎず、根拠を欠くものである。したがって、本件商標登録時、取引上、一般的表示として多数人に使用されていた事実はなく、記述的商標が不登録事由とされた第1の理由は本件商標には該当しない。
(ロ)多数人にその使用を開放する必要があるか
請求人は、「おぼろ豆腐」を「ざる」に入れて水分を切ったものが「ざるで水を切った豆腐」とか「ざるに入れられた豆腐」として、豆腐業界では従来から広く知られており周知な豆腐の名称であったと主張する。即ち、「おぼろ豆腐」の状態から水分を抜いた商品は古来から存在し、水を抜くための道具として「ざる」を使用することは周知の方法であり、かかる手法によって出来上がった商品の名称として本件商標は豆腐業界内部で一般的に使用されていたものと主張している。
確かに、本件商品はにがりが入って固まりかけた半製品(かかる状態が請求人のいう「おぼろ」というものである。)を「ざる」に入れ、「ざる」の間から豆腐の自重で自然に水分を落とす方法により製造されるものであるが、請求人が書証として提出した文献や著作物の中には、「おぼろ豆腐」から水分を抜いた豆腐商品を紹介する記事は見当たらない。むしろ、本件商品も含めた半製品を総称するものとして、「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」が紹介されているのである。
▲1▼被請求人は「寄せ豆腐」を「ざる」に上げ、豆腐の自重により自然に水分を落として本件商品を製造するものであるが、水分を全て落としてしまうと固い豆腐になってしまうことから、水分が残るよう「ざる」にさらす時間を調整するのである。
したがって、本件商品は、まさに「寄せ豆腐」ないしは「寄せ豆腐」を食べ易いようにした豆腐と言えるのである。
▲2▼甲第2号証52ページ「手順の11」の記事は、固まった豆乳を型箱に入れて重しを乗せて豆腐を製造する過程であり、重しを使わずに水分を落とすような手法は紹介されていない。即ち、前記記事の中の「ふわふわと固まった状態」からある程度水分を落としたものが本件商品であるが、これを特別に紹介する記事はなく、取りも直さず本件商品が「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」の概念に含まれていることを示すものである。
▲3▼甲第5号証63ページ、78、79ページで「朧豆腐」とは、寄せ豆腐の固まらぬものをいう。水を十分に入れ、篩斗にかけてから、料理に使う。「寄せ豆腐」とは、朧豆腐を好みの大きさに取って、一々美濃紙に包んで熱湯で茄でたものと記載されている。当該記事の「寄せ豆腐」は、「朧豆腐」を固めたものであり、本件商品と同様の手法により製造されたもののようであるが、むしろその名称は美濃紙に包んで茄でた商品として一つの料理法を指すものである。また、少なくとも「朧豆腐」が固まった状態を「ざる豆腐」とは紹介していない。「朧豆腐」も「寄せ豆腐」も、豆腐の半製品という意味では甲第1、2号証の記事と同様と思われる。
▲4▼甲第6号証31ページの「おぼろどうふ」の項には「豆腐を製造する途中の、まだよく固まっていないものを用い、その持ち味を賞味します。」と記載されているが、これはまさに、豆腐を固める前の半製品の状態を総称して「おぼろどうふ」と呼称している。このように、豆乳ににがりを入れて固まりかけた状態の半製品を「おぼろ豆腐」という。
請求人は、「おぼろ豆腐」から水分を抜いて豆腐を製造する方法は従来から存在したと主張するが、すくなくとも上記文献や著作物の中にはかかる手法を用いた豆腐料理の紹介はない。また、上記文献の中には、製造過程に「ざる」を用いる場面が紹介されているが、それは型箱の一つとして紹介されていたり、豆乳を搾る際に用いられる道具として記載されているに過ぎず、「おぼろ」から水分を抜く道具としては全く記載がないのである。確かに、甲第8号証の「美味しんぼ」の中には「ザル豆腐」という呼称が使われているが、「ザル豆腐」のせりふに続いて「揚げる時にはやわらか過ぎるので、美濃半紙に包んで揚げるとうまく出来ます。」とあり、同せりふの「ザル豆腐」とは、新選豆腐百珍(甲第5号証)の「寄せ豆腐」を指している。つまり、古来からの文献や最近の著作物の中には、「おぼろ豆腐」の状態から、豆腐の自重により水分を切った状態の豆腐を特別に紹介する記事はないばかりか、「おぼろ豆腐」を食べ易いように、また調理し易いように水分を切ったとしても、同じ半製品の豆腐という意味では「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」の概念に含まれるものである。甲第8号証の「ザル豆腐」も、「寄せ豆腐」と同義に使用されていることからも裏付けられる。
このように、古来からの文献や最近の著作物の中にも「ざる豆腐」という名称は見当たらないこと、これらの文献の中には本件商品のように「おぼろ豆腐」の状態から豆腐の自重によって水分を切った状態を特別の商品として紹介する記事は存在しない。確かに豆腐の製造工程の中で「ざる」を用いることを紹介する部分もあるが、本件商品とは全く別の製造工程で使用されていること、また請求人の提出する雑誌記事の中には本件商標登録査定時以前から本件商標と同一の標章を付した商品を紹介する記事は見当たらないことからすると、「ざるで水を切った豆腐」とか「ざるに入れられた豆腐」という名称が豆腐業界では一般的であったとする請求人の主張は到底措信できないものである。とすると、たとえ本件商品と同様の手法で商品を製造する業者がいるとしても、決して一般的ではなかった本件商標を商品名として使用させる必要はないはずである。むしろ「おぼろ豆腐」とか「寄せ豆腐」というような古来からの呼び名があるから、かかる呼称に従うべきである。
さらに、被請求人の創案にかかる本件商標の使用を希望するのは、本件商品が全国的に著名になったことから、本件商標が有するブランドイメージに便乗せんがためである。何度も繰り返すように、本件商標は被請求人の創案にかかるものであり、被請求人の製造にかかる本件商品が著名になったことから、他の業者も本件商標と同一の標章を使用するようになったのである。よって、本件商品と同様の手法によって製造された商品が一般的に豆腐業界において販売されていた事実は措信し難く、また当該商品についての呼称も本件商標が一般的なものであったと認められず、本件商標を多数人に開放する必要はなく、記述的商標が不登録事由とされた第2の理由にも該当しない。
(ハ)「普通に用いられる方法」に該当するか
請求人は、本件商標が、その形状や生産方法を普通に用いられる方法で表示する標章に過ぎないと主張する。ところで、本号に該当するか否かの判断は、商標登録査定時を基準になされなければならない。そこで本件においても、本件商標登録査定時を基準に判断されなければならないのである。
前述のように、本件商品は、「おぼろ」状態の半製品を「ざる」に入れ、豆腐の自重により自然に水分を落とす方法により製造されるものであるが、前記文献や著作物の中にはかかる豆腐商品については全く紹介されていない。むしろ本件商品のような半製品を総称して、「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」と呼称していると考えられる。確かに、このような手法により豆腐を製造し、販売していた業者もあったかもしれないが、本件商標登録査定時においては、本件のような手法により製造した豆腐商品が一般的に知れ渡っていたとは認められない。したがって、「おぼろ」から水を抜く際に「ざる」を使用するという意味での「ざるで水を切った豆腐」、また結果的に「ざるに入った豆腐」という呼称が豆腐業界の中で広く知れ渡っていた事実はない。また、豆腐の製造過程で「ざる」を用いることはあっても、それは豆乳を搾る際の道具として、また型箱の代わりとして、家庭で豆腐を造るときに用いられることがあるに過ぎない。大量の商品を製造、販売する豆腐業者が、上記のような製造工程に「ざる」を用いることなど考えられないのである。とすると、豆腐業者が大量の豆腐の製造に「ざる」を用いることがあるとすれば、本件商品のような製造方法により、いわば固まりかけた半製品を商品として販売する場合に限られるのである。しかし、前記のように、本件商品と同様の手法によりいわば半製品を商品として販売していた業者は見当たらないのである。少なくとも本件商標登録査定時において、このような製造方法が一般的であったと認められない。
したがって、本件商標は、本件商標登録査定時においては、形状や生産方法を「普通に用いられる方法」により表示した標章であったとは言えないのである。
以上より、本件商標は法第3条第1項第3号に該当せず、商標登録の要件を満たすものである。
(3)商標法第3条第2項について
たとえ本件商標が法第3条第1項第3号に該当するとしても、以下に述べるように、本件商標は登録査定時において特別顕著性を取得していたものであるから、同条第2頃により登録要件を満たすものである。被請求人製造にかかる本件商品は、平成3年ごろから雑誌やテレビ番組にて多数紹介され、本件商標は被請求人製造の商品を表示する名称として全国的に広く知れ渡っている。本件商品を紹介した雑誌記事及び新聞記事は別紙雑誌・新聞一覧表記載のとおりであるが、これらは被請求人の手元にある記事に限られているため、被請求人の手元にない雑誌や新聞もあることから、本件商品を紹介する記事は膨大なものになる。また、本件商品が紹介されたテレビ番組は多数に上るが、被請求人が録画していた番組はその一部に過ぎず、また録画していても放送年月日や番組名の特定がなされていない。そこで、現在、判明している番組及びその内容のみを別紙番組一覧表に記載する。今後、本件商品を紹介した番組名が判明すれば、追加書面で報告する。
このように、被請求人製造にかかる本件商品は、瞬く間に全国に知れ渡るところとなり、現在では全国からの注文が殺到し、被請求人はクール宅急便により本件商品を全国へ宅配している状況である。
現在、被請求人の平成7年度及び同8年度の販売実績を集計し、本件商標が被請求人製造の商品の名称として全国的に著名であることを立証を行う予定である。これについては年間を通じて何万個もの商品を全国に宅配していることから、集計に時間を要するため、本答弁書において詳細を報告できなかったが早急に追加書面を提出する。
なお、平成9年9月末日までの実績に基づいて概数を述べると、被請求人の製造する「ざる豆腐」は1日当たり150個で、そのうち宅配便による販売が約120個であり、販売先を都道府県別にみると、販売個数が多い県から、東京都、福岡県、佐賀県、大阪府、神奈川県、兵庫県、広島県の順番になっている。即ち、地元である佐賀県や福岡県以外は首都圏に集中しており、本件商標が全国的に著名であることを如実に物語るものである。このように、本件商標を付した被請求人の本件商品が膨大な雑誌テレビなどのメディアによって紹介され、また実際に多数の注文が全国から殺到している事実、さらに、本件商標登録査定時以前より本件商標と同一の標章を付した商品を製造していた業者は見受けられず、又は少なくとも僅少であったことからすると、遅くとも本件商標登録査定時には、本件商標は被請求人製造にかかる商品の標章として商品識別機能を有していたものと断言できる。
よって、たとえ本件商標が法第3条第1項第3号に該当するとしても、同条第2項により商標登録要件を満たすものである。
(4)商標法第4条第1項16号について
請求人は、「ざる」を用いた豆腐以外の豆腐に本件商標が使用された場合には、商品の品質の譲認が生ずるおそれがあることから、法第4条第1項第16号に該当するので商標登録の要件を欠くと主張している。しかし、被請求人が製造する本件商品は、「おぼろ」状態の豆腐から水分を抜き、抜き取る水分を調整してしっかりと固まる前の状態を商品として出荷するものであり、水分を抜くための道具として「ざる」を使用しなかったとしても、豆腐の品質には全く影響がない。また、「ざる豆腐」という商品名であっても、「ざる」に入れて販売しなければ商品の品質に変化が生じるものではなく、実際、プラスチックのパッケージに入れて販売する商品もある。この点、需要者の「ざる豆腐」に対する認識は、いうなれば「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」をイメージしたものであり、実際、「おぼろ」から抜く水分の程度によっては、業者によって様々な商品が生まるれように、被請求人が製造する本件商品は、半製品の豆腐から水分をある程度抜くものの、従来の木綿豆腐などからすると半製品のまま商品として出荷することに特性があるから、水を抜く製造工程において「ざる」を使用しなくても、また出来上がった商品を「ざる」に入れなくても、その品質は変わらない。需要者もかかる特性に着目して商品を購入するのであるから、実際に「ざる」を使用しているか否かは品質に影響を与えないものである。よって、請求人の主張は理由がない。
請求人提出の書証に対する評価これまでの被請求人の主張と重複するが、請求人提出の書証に対する評価を述べる。
請求人は、本件商標が法3条第1項第3号に該当することの立証資料として多数の書証を提出するが、前記のように、同号に該当するか否かは商標登録査定時を基準になされなければならない。
ところが、請求人提出の書証の中には、本件商標登録査定時以前より、本件商標と同一の標章を付した商品を製造、販売する業者を紹介する記事は一つもない(甲8号証を除く)。また、古来からの文献や最近の著作物の中にも、「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」を紹介する記事はあっても、本件商品と同様の手法を用いた商品を紹介する記事はない。おそらく、本件商品のように「おぼろ」から水分を抜いた半製品も、同じく半製品という意味では「おぼろ豆腐」や「寄せ豆腐」と呼ばれていたと思われる。唯一、本件商標登録査定時以前に「ざる豆腐」という呼称を用いているのは、甲第8号証の漫画の中のせりふである。しかし、前記のように、せりふの発言者は新選豆腐百珍の中に紹介されている「寄せ豆腐」と同義に使用しており、概念の混乱が見られるのである。もし、請求人が主張するように、本件商標が古来から一般的に用いられてきた手法を普通に表示した標章に過ぎないならば、本件商標登録査定時以前から多数の雑誌や文献に取り上げられているはずである。このような雑誌や文献が提出されないのは、まさしく本件商標が普通に用いられる方法を表示したものではないことを物語るものである。
5 当審の判断
よって判断するに、我が国で日常食される食品のうち、最も身近な商品の一つである「豆腐」は、一般に大豆を水に浸け加熱した後、おからを漉して豆乳を作り、そこに「にがり」等の凝固剤を入れて固めたものである。そして、豆腐の種類には、箱型で固めた「絹ごし豆腐」、「木綿豆腐」の他、柔らかなおぼろの状態のまま食する「おぼろ豆腐」、「寄せ豆腐」等、多数あることは需要者間にもよく知られているところである。
また、豆腐はその性質上長期間の保存、輸送が難しいため、これまではいわゆる家内産業的な規模でしか製造されず、その販売対象も同じ町内若しくは隣町といった程度で、他の多くの商品にみられるような宣伝・広告といった方法はほとんど行なわれてこなかったのが実情である。
一方、「ざる豆腐」若しくは「ザル豆腐」の語の由来については、(1)豆腐の製造時に「ざる」が道具の一つとして使われていたことから名付けられた(2)「ざる豆腐」は、もともと玄界灘の島々で捕鯨の盛んだった江戸の昔、漁師のおかみさんたちの生活の知恵から生まれたものである(3)豆腐がざるに入れられて売られていたことによる、等諸説あると言われている。
この点に関し、請求人は「ざる豆腐」及び「ザル豆腐」の語が、本件商標の登録査定時以前に全国の豆腐製造業者及び需要者間で、豆腐の一種を指称する語として普通に使用されていたものであると主張して、甲第1号証乃至同第15号証までを提出している。
そこで、請求人が提出しているこれらの証拠を検討するに、本件商標出願前に発行されている▲1▼甲第8号証の「菓子」「カレー」「ラーメン」「サラダ」等の食品を取り扱い、その味、素材の選び方、材料の組み合わせ、包丁の使い方等を描いたシリーズ漫画として多数のファンを持つ「美味しんぼ22」(「株式会社小学館1989年12月1日発行」)に、「ザル豆腐」の語が豆腐の一種を指称する語として登場し▲2▼本件の関連事件である件外平成9年審判第18137号事件(登録第2711138号商標無効事件)において、当該審判請求人が提出している「85’トーヨー資機材年鑑」(株式会社トーヨー新報発行)にも「宮城県の北上食品工業」が、1985年より「ざるとうふ」を製造販売していることの記事が掲載されているものである。
また、本件商標の登録査定時以前にも、▲3▼甲第14号証の2の「トーヨー新報」(1995年9月21日発行)には、大阪市北区中津3-16-7の「宮北豆腐店」が、平成6年11月より「ざる豆腐」の製造を始めたこと、同じく、同第14号の3(1995年11月21日発行)には、福島県いわき市小名浜字古湊52の「小林豆富店」が、平成6年より「ざる豆腐」(200g、97円)の製造を開始したこと、同じく、同第14号証の5(1996年4月21日発行)には、神戸市中央区割塚通6-2-15の「豆腐工房まるしん」が平成6年より「ザル豆腐」の製造を行ってきたこと、同じく、▲4▼甲第7号証の「ディリーフード」(1995年10月1日発行)には、大阪の飲食店「燦」が「ざる豆腐」を提供していた、等の記事が掲載されているものである。
更に、▲5▼甲第4号証(調査時期は、平成8年12月であるが)の「全国豆腐油揚商工組合連合会」及び「全国豆腐油揚協同組合連合会」によって行われた全国豆腐製造業者に対する「ざる豆腐の製造等に関する実態について」のアンケート結果によれば、本件商標の登録出願以前にも、全国各地の不特定多数の豆腐製造業者が、「ざる豆腐」及び「ざるとうふ」の語を使用していたか、又は知っていた事実を窺い知ることができる。
以上、▲1▼〜▲5▼に挙げた事実を総合勘案すれば、「ざる豆腐」(「ざるとうふ」)及び「ザル豆腐」の語は、本件商標の登録出願及び査定時以前から、豆乳ににがりを入れ固まりかけた状態の半製品の豆腐で、昔から存在するいわゆる「おぼろ豆腐」及び「寄せ豆腐」同様の「(半製品の)おぼろ状でざる(若しくはざるに模した容器)に入れられた豆腐」を意味するものとして、全国各地の不特定多数の豆腐製造業者及び飲食業者によって使用され、かつ需要者間にも広く認識されていたものとみるのが相当である。
この点に関し、被請求人は、本件商標は▲1▼被請求人が創作したものである▲2▼本件商標を自己の製造する豆腐に平成元年頃より使用していたものである▲3▼本件商標と同一又は類似の標章を付した豆腐は最近になって増加したが、本件商標の登録査定時(平成7年5月18日)には、全く見受けられなかった▲4▼被請求人の商品は「おぼろ」から水分を抜いた製品であり従来の「おぼろ豆腐」「寄せ豆腐」とは異なる▲5▼本件商標の登録査定時以前より本件商標と同一の標章を付した商品を製造していた業者は見受けられず、又は僅少であったことからすると、遅くとも本件商標登録査定時には、本件商標は被請求人製造にかかる商品の標章として商品識別機能を有していたものである。したがって、たとえ本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとしても、同条第2項により商標登録要件を満たすものである旨を主張しているものである。
しかしながら、被請求人と他の多くの豆腐製造業者との「ざる豆腐」の製造方法には、「豆乳ににがりを入れて固まりかけた半製品をざるに入れ、ざるの間から豆腐の自重で自然に水分を落とす方法によって製造されたものであるか否か」又は「水分を全て落としてしまうとかたい豆腐になってしまうので、水分が残るようにざるにさらす時間を調節したものであるか否か」等、「半製品のおぼろ状の豆腐から水分の抜く時間の長短及びかたさ等に多少の差異があるとしても、両者は、いずれも「(半製品の)おぼろ状のざる(若しくはざるに模した容器)に入れられた豆腐」を「ざる豆腐」(「ざるとうふ」)「ザル豆腐」と称している点ではほぼ同じものであると言わざるを得ない。
してみれば、「ざる豆腐」の文字を普通に書してなる本件商標を、その指定商品中「(半製品の)おぼろ状のざる(若しくはざるに模した容器)に入れられた豆腐」に使用しても、これに接する取引者・需要者は、当該商品が単に上記品質の商品であること、すなわち商品の品質を表示するにすぎないと理解するに止まり、何人の業務に係る商品であるかを認識することができないものと言え、また、これを上記商品以外の商品に使用する場合には、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-06-01 
結審通知日 1999-06-18 
審決日 1999-06-29 
出願番号 商願平3-71348 
審決分類 T 1 11・ 13- Z (132 )
T 1 11・ 272- Z (132 )
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴田 良一金子 尚人 
特許庁審判長 寺島 義則
特許庁審判官 小林 由美子
滝沢 智夫
登録日 1995-11-30 
登録番号 商標登録第2711138号(T2711138) 
商標の称呼 1=ザルト-フ 2=ザル 
代理人 佐藤 正年 
代理人 近江 団 
代理人 堀内 恭彦 
代理人 佐藤 年哉 

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