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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W2528
管理番号 1378058 
異議申立番号 異議2020-900301 
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-16 
確定日 2021-09-18 
異議申立件数
事件の表示 登録第6283610号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6283610号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6283610号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和元年5月8日に登録出願、第25類「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用の運動用特殊衣服,ゴルフ靴,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下」及び第28類「ゴルフクラブカバー,ゴルフクラブバッグ,ゴルフクラブのヘッド用カバー,おもちゃのゴルフ用具,ゴルフ用キャディーバッグ,ゴルフ用グリーンマーカー,ゴルフ用ティー,ゴルフ用ディボット修復具,ゴルフ用パターの形に合わせて作られたカバー,ゴルフ用ボール,ゴルフ用旗(運動用具),ゴルフ用手袋」を指定商品として、同2年7月3日に登録査定され、同年8月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件登録異議の申立ての理由において、引用する商標は次のとおりであり、以下、これらをまとめて「引用商標」という。また、引用商標1及び引用商標2は、現に有効に存続しているものである。
1 登録第4225064号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成9年7月10日に登録出願、第25類「履物,運動用特殊靴」を指定商品として、同10年12月25日に設定登録され、その後、同20年11月18日及び同30年8月14日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
2 登録第5245475号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成20年11月26日に商標登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同21年7月3日に設定登録され、その後、令和元年5月28日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
3 申立人が、自己の略称を表示するものであって、ハウスマークを表すものであり、著名な商標であると主張する「VANS」の欧文字からなる商標(以下「引用商標3」という)。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第284号証(枝番号を含む。)を提出した(以下、証拠については、甲1、甲2のように表示する。)。
1 理由の要点
(1)本件商標は、その構成中に、申立人を示す商標として需要者の間に広く認識されている引用商標1と共通する「白と黒のチェック柄の図形」を含んでいる。
また、本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品とは、同一又は類似であることから、本件商標が指定商品に使用された場合、商品の出所につき混同の生じるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)本件商標は、その文字部分に、申立人を示す商標として需要者の間に広く認識されている引用商標2と同様に、他の文字に対して、大きなフォントで記された「V」の文字を含んでいることから、外観上近似している。
また、本件商標の指定商品と引用商標2の指定商品とは、同一又は類似であることから、本件商標が指定商品に使用された場合、商品の出所につき混同の生じるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 具体的理由
(1)申立人及び申立人保有の商標について
申立人であるヴァンズインコーポレイテッドは、米国カリフォルニア州を拠点とするカジュアルシューズその他のアパレル製品を製造販売する企業である。そして、「VANS」は、英語等の辞書に記載のない造語であり、申立人の業務に係る商品・役務を示すブランドとして、申立人により独自に創造された標章である。また、申立人の名称は「Vans,Incorporated」であるところ、「VANS」(引用商標3)の表記は、その名称から、会社であることを表す「Incorporated」を省略したものであるから、申立人の略称を表示するものであって、いわゆるハウスマークを表すものである。
「VANS」は、1966年3月16日にポール・ヴァン・ドーレンと3人のパートナーが、米国カリフォルニア州でスニーカーを中心に販売するショップとして誕生した(甲3の1、甲3の2)。設立当初から、「VANS」ブランドのシューズは、主にスケートボードやBMXといった、いわゆるストリートスポーツやアクションスポーツといわれる種類のスポーツの愛好家の間で大人気となり、「VANS」ブランドの誕生以来、一貫して履物を中心に取り扱っている。加えて、それに付随して被服・帽子等のアパレル製品を展開し、バッグ・サングラス・携帯電話機用ケース・テントやキーホルダー等に至るまで、幅広い商品が加えられながら(甲4の1?甲4の4)、一貫した独自ブランドの履物の展開を続けている。
また、1995年以降、申立人が次々と各種スポーツ・音楽イベントのスポンサーとなった(甲3の1、甲3の2)ことによっても、「VANS」は、そのブランド名と商品を瞬く間に世界中に知らしめ、著名性を確立した。具体的には、全米40以上の都市で開催される米国最大級の音楽・スポーツフェスト「VANS WARPED TOUR(バンズ.ワープド.ツアー)」や世界のトップサーファーが競い合う大会「Vans Trip1e Crown of Surfing(バンズ.トリプル・クラウン・オブ・サーフィン)」等、いずれも「VANS」を冠したイベントが催され、「VANS」の人気は米国にとどまらず、世界中で知られるブランドとなった。
2016年にブランド創設50周年を迎えた際には、申立人は、ブランドキャンペーンについて詳細な仕様を定めて大々的なキャンペーンを行い、これらは、メディアにおいて多数取り上げられた(甲5?甲28)。
申立人は、本国である米国を含む北米のみならず、中南米、ヨーロッパ、ロシア、中東、オセアニア、アジア各国でショップ展開し、「VANS」(引用商標3)及び「VANSロゴマーク」(引用商標2)を付した商品は、世界中で販売されている。
我が国においては、株式会社エービーシー・マート(以下「エービーシー・マート」という。)が「VANS」ブランドの日本国内での独占販売権を取得して「VANS」ブランドの商品を開発し、全国各地の店舗を通じて販売を行っている。加えて、申立人が日本全国において、「VANS」の宣伝広告活動を行うことにより、「VANS」ブランドは、我が国の需要者に広く知られるに至っている。
申立人の積極的な宣伝広告活動の一例として、2011年から2016年の我が国における「VANS」ブランド商品の小売分についての売上高及び申立人のロイヤルティ収入並びに2009年から2016年までの我が国を含む各地域における宣伝広告費の年間合計を挙げると、以下のとおりである。
ア 我が国における売上高及びロイヤルティ収入(括弧内は、ロイヤルティ収入)
我が国における売上高及びロイヤルティ収入(括弧内は、ロイヤルティ収入)は、2012年は208億9,900万円(10億4,900万円)、2013年は210億700万円(10億6,300万円)、2014年は296億8,600万円(15億1,400万円)、2015年は271億8,200万円(14億4,800万円)、2016年は221億3,400万円(12億2,700万円)である。
イ 我が国における広告宣伝費(テレビ、雑誌、POP広告、イベント及びその他広告の合計金額)
我が国における広告宣伝費(テレビ、雑誌、POP広告、イベント及びその他広告の合計金額)は、2011年は4億800万円、2012年は5億5,800万円、2013年は5億5,800万円、2014年は5億500万円、2015年は3億2,000万円である。
ウ 広告宣伝費(アジア・オセアニア、欧州・中東、米国の合計金額)
広告宣伝費(アジア・オセアニア、欧州・中東、米国の合計金額)は、2009年は3,950万米ドル、2010年は6,410万米ドル、2011年は7,570万米ドル、2012年は8,590万米ドル、2013年は10,670万米ドル、2014年は12,330万米ドル、2015年は13,240万ドル、2016年は14,670万米ドルである。
(2)「VANSロゴマーク」(引用商標2)及び「VANS」(引用商標3)の周知・著名性について
上記のとおり、「VANS」ブランドの商品は、履物を中心として展開されている(甲29の1?甲29の4)(決定注:「甲29の1?甲29の4」の記載は、「甲4の1?甲4の4」の誤りと思われる。)。
また、「VANS」は、ブランド誕生以来一貫してスケートボードやBMXの愛好家の間で人気を得ているが、これらのスポーツの認知度の広まりに加え、申立人の幅広い商品展開や各種イベントにおけるスポンサー活動を通じて、申立人の商標であり、かつ、その略称である「VANS」は、スケートボードやBMXの愛好家のみならず、広く一般の消費者にも知られるに至っている。
我が国においては、エービーシー・マートが、同社の公表によれば、北海道から沖縄まで日本全国に2020年5月末日時点において1,027店舗を展開する靴・衣料・雑貨等小売チェーンであるところ(甲284)、「VANSロゴマーク」(引用商標2)及び「VANS」(引用商標3)を付した商品は、これらの店舗を通じて全国各地の一般消費者に販売されている。
「VANSロゴマーク」(引用商標2)及び「VANS」(引用商標3)とその商標を付した商品は、現在に至るまで多くの雑誌において繰り返し紹介されてきているところ、ファッションを中心とする情報を掲載した雑誌に係る、広く10代から40代までの男性又は女性をターゲットにした記事(2012年2月から2019年12月の間に発行されたもの)において、申立人の商品は、一貫して「VANSロゴマーク」(引用商標2)又は「VANS」(引用商標3)の文字をもって紹介されている(甲30?甲280)。
このことから、本件商標の登録出願日である令和元年(2019年)5月8日において既に、「VANSロゴマーク」(引用商標2)又は「VANS」(引用商標3)が、我が国において履物を中心とするファッション関連の商品に実際に使用されていたこと、及びファッションに関心を寄せる幅広い年齢層の男性・女性の間に広く認識されていたことは、客観的に明白である。
なお、「VANS」(引用商標3)が我が国の取引者・需要者の間で広く認識されるものとなっていたことは、特許庁においても既に認められている(甲283)。
以上の事実から、「VANSロゴマーク」(引用商標2)又は「VANS」(引用商標3)が、本件商標の登録出願日である令和元年(2019年)5月8日より以前から、履物の商品分野において申立人の商標として周知・著名であって、かつ、それらの状態が本件商標の登録査定時である同2年(2020年)8月25日(決定注:「同2年(2020年)7月3日」の誤記と思われる。)の時点においても継続していたことは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定している。
申立人は、上述した引用商標1及び引用商標2を保有している。
加えて、上述した「VANSロゴマーク」(引用商標2)又は「VANS」(引用商標3)の我が国における周知・著名性を考慮すると、引用商標1又は引用商標2との関係において、共通・近似する構成要素を含む本件商標が、引用商標1及び引用商標2に係る指定商品と同一・類似の商品又は、引用商標1及び引用商標2に係る指定商品と関連性の高い商品に使用された場合、これに接する者は、本件商標から、引用商標1及び引用商標2を容易に想起・認識し、申立人又はこれに関連する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同して認識するおそれは高いというべきである。
よって、本件商標は、引用商標1及び引用商標2との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当する。
ア 商標の類似性について
(ア)引用商標1との類似性の程度について
引用商標1は、靴紐などがなく、足を滑り込ませて履けるスリップオンシューズを表した図形商標であり、つま先から足の甲の部分を覆うアッパー部分にかけて、「白と黒のチェック柄の図形」が配されていることを特徴とする商標である。
一方、本件商標は、別掲1に示すとおり、「V」及び「ROOTS」の文字とその右横に「白と黒のチェック柄の図形」を配し、それらを長方形で二重に囲んで表された商標である。シンプルな個々の構成要素の組み合わせの中で、「ROOTS」の文字より、大きなフォントで表された「V」の文字と「白と黒のチェック柄の図形」は、それぞれ必然的に看者の注意を引く構成となっている。
特に、本件商標中の「白と黒のチェック柄の図形」は、同じサイズの白と黒の四角形が交互に規則正しく配置されている点において、引用商標1のつま先から足の甲の部分を覆うアッパー部分にかけての「白と黒のチェック柄の図形」と一致していることから、本件商標中の「白と黒のチェック柄の図形」の部分と引用商標1のつま先から足の甲の部分を覆うアッパー部分にかけての「白と黒のチェック柄の図形」の部分は、部分的に外観上同一視できるほど近似するといえる。
加えて、「白と黒のチェック柄の図形」は、申立人の製造・販売する商品に多数使用されているとともに、引用商標1をデザインした商品も製造・販売されている(甲30?甲280)。
これらの事情を考慮すると、引用商標1からは、「申立人の製造販売するスリッポンシューズ」程度の観念が生じることから、本件商標中の「白と黒のチェック柄の図形」からも「VANSの製造・販売する履物のチェック柄」程度の観念が生じると考えるのが相当である。
したがって、本件商標は、引用商標1との関係において、異なる構成要素を含んでいるものの、外観・観念において、類似性を有するといえる。
(イ)引用商標2との類似性の程度について
引用商標2は、「VANS」の文字から構成されるロゴの商標で、その構成中、語頭の「V」の文字が、他の「ANS」の部分より大きなフォントで表されるとともに、「ANS」の部分を覆うように「V」の文字から右端から伸びる直線により、大きなフォントで表された語頭の「V」の文字が強調され、必然的に看者の注意を引く構成となっている。
引用商標2は、その文字部分である「VANS」から「ブァンズ」「ヴァンズ」「バンズ」といった称呼を生じるとともに「VANSという申立人の製造・販売する履物のブランド」程度の観念を生じる。
一方、本件商標は、上述のとおり、「V」及び「ROOTS」の文字とその右横に「白と黒のチェック柄の図形」を配し、それらを長方形で二重に囲んで表された商標である(甲1)。シンプルな個々の構成要素の組み合わせの中で、「ROOTS」の文字より、大きなフォントで表された「V」の文字と「白と黒のチェック柄の図形」は、それぞれ必然的に看者の注意を引く構成となっている。
したがって、本件商標と引用商標2は、語頭の大きなフォントの「V」の文字とそれより小さなフォントで記載された「他の文字」の組み合わせで構成された商標という点が共通している。
また、本件商標中、「VROOTS」の文字部分全体から生じる称呼(例えば、「ブイルーツ」)は、引用商標2の称呼とは異なる。
しかし、本件商標中、「ROOTS」の部分は、「根」「根源」などの意味を有する「ROOT」(英語)の複数形であり(甲281)、「ROOT」の部分からは「発祥(起源、由来、原点)」「先祖(祖)」「故郷(出身地)」「ルーツ・ミュージック」といった特別な観念が生じる(甲282)。
加えて、上述のとおり、本件商標中の「白と黒のチェック柄の図形」からも「VANSの製造・販売する履物のチェック柄」程度の観念が生じるとともに、引用商標2の周知・著名性を考慮すれば、本件商標全体から、「VANSを発祥とする、VANSの製造・販売する履物のチェック柄」程度の観念を容易に想起しうることは明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標2との関係においても、異なる構成要素を含んでいるものの、外観・観念において、類似性を有するといえる。
イ 本件商標の指定商品と引用商標1及び引用商標2の指定商品等との関連性並びに商品の取引者・需要者の共通性について
本件商標の指定商品は、上記第1のとおりであるところ、そのうち、第25類「ゴルフ靴(24C01)」及び第28類「ゴルフクラブカバー,ゴルフクラブバッグ,ゴルフクラブのヘッド用カバー,ゴルフ用キャディーバッグ,ゴルフ用グリーンマーカー,ゴルフ用ティー,ゴルフ用ディボット修復具,ゴルフ用パターの形に合わせて作られたカバー,ゴルフ用ボール,ゴルフ用旗(運動用具),ゴルフ用手袋(24C01)」は、引用商標1及び引用商標2の指定商品中、第25類「運動用特殊靴(24C01 24C02 24C04)」と同一の類似群コードに属する商品であるから、類似の商品である。
よって、本件商標の上記指定商品と引用商標1及び引用商標2の指定商品中、「運動用特殊靴」の関連性は極めて高いとともに、それらの需要者・取引者は共通する。
加えて、本件商標の指定商品中、第25類「ゴルフ靴(24C01)」及び第25類「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用の運動用特殊衣服,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下(17A01 17A02 17A04 17A07)」、第28類「ゴルフクラブカバー,ゴルフクラブバッグ,ゴルフクラブのヘッド用カバー,おもちゃのゴルフ用具,ゴルフ用キャディーバッグ,ゴルフ用グリーンマーカー,ゴルフ用ティー,ゴルフ用ディボット修復具,ゴルフ用パターの形に合わせて作られたカバー,ゴルフ用ボール,ゴルフ用旗(運動用具),ゴルフ用手袋(24A01 24C01)」は、全て「ゴルフに関連する商品」である。これらのゴルフ関連商品は、ゴルフ用具の専門店のほか、スポーツ用品で取り扱われる商品である。
したがって、同様にスポーツ用品店で取り扱われる引用商標1及び引用商標2の指定商品中、「履物(22A01 22A02 22A03)」との関係において、その需要者・取引者を共通にする。
よって、本件商標の上記指定商品と引用商標1及び引用商標2の指定商品中、「履物」の関連性は高いといえる。
ウ 出所混同のおそれについて
上述のとおり、本件商標は、引用商標1及び引用商標2との関係において、それぞれ異なる構成要素を含むものの、外観・観念上、類似する。
また、本件商標に係る指定商品の一部の商品は、上述のとおり、引用商標1及び引用商標2の指定商品と類似するものである。
そして、本件商標の一部の指定商品は、形式的に類似しない商品であるものの、本件商標の指定商品の取引者層・需要者層と申立人の業務に係る商品
の取引者層・需要者層は共通しているから、本件商標の指定商品の取引者・需要者が、引用商標2及び申立人が引用商標2を付して提供している商品を知っている可能性は極めて高い。
さらに、引用商標2の周知・著名性を考慮すると、本件商標がその指定商品について使用された場合、本件商標に接する取引者・需要者は、本件商標から、これと類似する著名な商標である引用商標(決定注:「引用商標2」を指すものと思われる。)を容易に想起・認識し、申立人又はこれに関連する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同して認識するおそれは高いというべきである。
エ 引用商標(決定注:「引用商標1及び引用商標2」を指すものと思われる。)に化体した信用を害されるおそれについて
申立人は、自己のブランドイメージを維持し、より一層の発展をさせるため、世界中で展開するあらゆる事業において、その商品の品質、ブランド戦略・運営等について厳重な管理を行っている。
すなわち、申立人保有の引用商標2は、申立人に係る商品を表示するものとして、我が国はもとより世界中で一般の取引者・需要者の間に広く認識されている周知・著名な商標であり、申立人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。加えて、引用商標1についても、「VANSという申立人の製造・販売する履物のブランド」程度の観念が生じることから、申立人の提供する商品に係る信用が化体していることは疑いがない。
したがって、万が一、本件商標の登録が維持されると、申立人と何ら関係のない者により、申立人の意図とは無関係に、申立人が現にその商標を付して使用している商品とその取引者層・需要者層を共通にする商品について、引用商標1及び引用商標2と類似する商標、すなわち本件商標が自由に使用されてしまうことになる。その結果として、劣悪な品質の商品が引用商標と類似する商標によって提供されるという事態が生じ得ることも否定できない。
このような事態が生じた場合、申立人が永年にわたり多大な努力を費やして培ってきた申立人及び申立人の開発した商品やそれに関連する役務のブランドイメージが著しく毀損され、申立人が多大な損害を被ることは明白である。
オ 小括
上述の事情及び引用商標2の周知・著名性を総合的に勘案すれば、需要者・取引者に対し、引用商標1及び引用商標2が与える印象は非常に強い。
よって、そのために生じる連想作用等により、本件商標が、申立人の業務に係る商品であると誤認し、その商品の需要者・取引者が商品の出所について混同するおそれがあるのみならず、申立人又は申立人と経済的・組織的に関連するものにより提供される商品であるかのような誤認を生じさせ、結果として商品の出所に混同を生じさせるおそれがあることは明白である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に規定される「混同を生ずるおそれがある商標」であるから、本件商標は、同法同号に該当し、その登録は認められないものある。
(4)むすび
上述の理由により、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し、同法第43条の2第1項の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1 「VANSロゴマーク」(引用商標2)及び「VANS」(引用商標3)の周知性について
申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(1)申立人は、米国カリフォルニア州を拠点とするカジュアルシューズその他のアパレル製品を製造販売する企業であり、1966年3月16日に、同州でスニーカーを中心に販売するショップとして誕生し(甲3の1、甲3の2)、設立当初から、履物(スニーカー)を中心に取り扱っている。
そして、履物(スニーカー)に付随して被服・帽子等のアパレル製品、及びサングラス・携帯電話機用ケース等(以下「VANS商品」という場合がある。)の商品を扱っている(甲4の1?甲4の4)。
(2)我が国においては、エービーシー・マートが、申立人のVANS商品について、平成3年(1991年)に国内での総代理店となり、平成6年(1994年)に国内商標使用契約を締結し(職権調査 https://www.abc-mart.co.jp/aboutus/rekishi.html)、全国各地の店舗(令和2年(2020年)5月末時点で1,027店舗)及びウェブサイトにおいてVANS商品を販売している(甲4、甲284)。
(3)申立人は、2012年から2016年の、我が国におけるVANS商品の売上高は、は、2012年は208億9,900万円、2013年は210億700万円、2014年は296億8,600万円、2015年は271億8,200万円、2016年は221億3,400万円であり、また、2011年から2015年の、我が国におけるVANS商品の宣伝広告費(テレビ、雑誌、POP広告、イベント及びその他広告の合計金額)は、2011年は4億800万円、2012年は5億5,800万円、2013年は5億5,800万円、2014年は5億500万円、2015年は3億2,000万円であると主張しているが、これを裏付ける客観的な資料は提出されていない。
(4)引用商標2及び引用商標3を付した履物(スニーカー)を主とした商品は多くの雑誌において掲載されており、また、履物(スニーカー)を主とした商品に関する、引用商標2及び引用商標3を用いた宣伝広告も多くの雑誌において掲載されている。なお、履物(スニーカー)以外のVANS商品の宣伝、広告等は、さほど多いとはいえない(2012年2月から2019年12月の間に発行されたもので、10代から40代までの男性又は女性をターゲットにした記事の写し:甲30、甲32?甲46、甲50?甲54、甲56?甲75、甲77?甲79、甲82?甲92、甲94、甲96?甲98、甲100?甲103、甲106?甲108、甲110?甲122、甲124、甲127?甲130、甲132?甲134、甲136?甲139、甲141?甲145、甲147、甲148、甲150?甲152、甲154?甲158、甲160、甲163、甲164、甲167、甲168、甲170、甲172?甲174、甲176、甲179?甲183、甲185?甲188、甲190?甲204、甲208?甲230、甲232?甲243、甲245、甲247?甲258、甲261、甲263、甲265?甲267、甲269?甲271、甲274?甲280)。
また、引用商標1を付した履物(スニーカー)については、その使用事実を示す証拠は約7年間で16件程度にとどまる(2012年2月から2019年12月の間に発行されたもので、10代から40代までの男性又は女性をターゲットにした記事の写し:甲51、甲73、甲77?甲79、甲84、甲86、甲122、甲128、甲174、甲214、甲217、甲240、甲258、甲265、甲274)。
(5)上記(1)ないし(4)からすれば、本件商標の登録出願時及び登録査定の時期までの間に、エービーシー・マートが、申立人のVANS商品について、平成3年(1991年)に我が国における総代理店となり、平成6年(1994年)に申立人のVANS商品に係る、我が国における商標使用契約を締結し、全国各地の1,000以上の店舗及びウェブサイトにおいて、履物(スニーカー)を主とするVANS商品を販売していること、及び、主張を裏付ける証拠の提出はないものの、申立人は、2012年から2016年の、我が国におけるVANS商品の売上高は、2012年は208億9,900万円、2013年は210億700万円、2014年は296億8,600万円、2015年は271億8,200万円、2016年は221億3,400万円であると主張していることを勘案すると、引用商標2及び引用商標3を用いた履物(スニーカー)は、一般消費者に対し、これまで相当多数販売されてきたものと推認することができる。
また、本件商標の登録出願時及び登録査定時に近接した時期において、引用商標2及び引用商標3は、履物(スニーカー)などとともに、ファッション雑誌等で多数取り上げられており、また、主張を裏付ける証拠の提出はないものの、申立人は、2011年から2015年の、我が国におけるVANS商品の広告宣伝費(テレビ、雑誌、POP広告、イベント及びその他広告の合計金額)は、2011年は4億800万円、2012年は5億5,800万円、2013年は5億5,800万円、2014年は5億500万円、2015年は3億2,000万円であると主張していることを勘案すると、引用商標2及び引用商標3を用いた「履物(スニーカー)」については、ある程度大きな規模で宣伝広告活動が展開されてきたものと推認することができる。
以上からすると、引用商標2及び引用商標3は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」を表示する商標として、我が国の需要者の間に広く知られているものといい得るものである。
なお、履物(スニーカー)以外のVANS商品の宣伝、広告等は、さほど多いとはいえないものであって、その他に、履物(スニーカー)以外のVANS商品が広く知られているというような事情は見いだせないから、これらの商品については、需要者の間に広く知られているものということはできない。
また、引用商標1については、その使用事実を示す証拠は約7年間で16件程度にとどまり、その数は決して多いとはいえないから、その周知性を認めることはできない。
2 本件商標と引用商標との類似性の程度について
(1)本件商標ついて
本件商標は、別掲1に示したとおり、二重輪郭線の横長長方形内に「VROOTS」(「V」の字は、他の文字に比してやや大きく表されている。以下、同じ。)の欧文字(以下「文字部分」という。)とその右横に白色と黒色の正方形を互い違いに並べた市松模様状の縦長四角図形を配した構成からなる結合商標である。
二重輪郭線の横長長方形は、単色でありふれた形状の長方形図形であって、背景図形以上の意味合いを有するものではなく、また、市松模様状の縦長四角図形は、ありふれた形状の四角形を単純に組み合わせたものにすぎないことからすれば、これらの図形部分は、装飾と認識されるものであって、出所識別標識としては認識されないものというのが相当である。
また、文字部分の「VROOTS」は、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを想起させることのない、一種の造語として理解されるものであるから、特定の観念は生じないものであり、その構成文字に相応して、「ブイルーツ」の称呼が生じる。
そして、本件商標構成中の図形部分は、文字部分と一体となって特別な観念を有するなど、文字部分と何らかの関連性を有しているとはいえないものである。
そうすると、図形部分と文字部分とが、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから、文字部分は、独立して出所識別機能を有する要部であると認められる。
以上からすると、本件商標は、その要部である「VROOTS」の文字部分に相応し、「ブイルーツ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないとみるのが相当である。
(2)引用商標について
ア 引用商標1は、別掲2のとおり、履物(スニーカー)を上から見たと思われる平面的な図形からなり、つま先から足の甲を覆う部分に白色と黒色の正方形を互い違いに並べた市松模様の柄を配した構成からなるところ、これが特定の事物を表すものとして知られているような事情は見いだせないものであるから、これよりは、特定の称呼及び観念は生じないものである。
イ 引用商標2及び引用商標3は、いずれも「VANS」(引用商標2は、別掲3のとおり、「V」の文字がややデザイン化されている。以下、同じ。)の欧文字を横書きした構成よりなるものであるところ、上記1(5)のとおり、引用商標2及び引用商標3は、申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」を表示する商標として、我が国の需要者の間に広く知られているものといい得るものであることからすると、これよりは、「申立人の業務に係る履物(スニーカー)のブランド」といった観念が生じるものというのが相当である。
そうすると、引用商標2及び引用商標3は、その構成文字に相応して、「バンズ」の称呼を生じ、「申立人の業務に係る履物(スニーカー)のブランド」の観念を生じる。
(3)本件商標と引用商標との類似性の程度について
ア 本件商標と引用商標1との類似性の程度について
本件商標と引用商標1の外観は、それぞれの構成態様に照らし、明らかな差異を有するものであるから、外観上、明確に区別できるものである。
そして、本件商標は「ブイルーツ」の称呼を生じるが、引用商標1は特定の称呼を生じないものであるから、両者は称呼上相紛れるおそれのないものである。
また、本件商標と引用商標1は、ともに特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することはできない。
そうすると、本件商標と引用商標1とは、観念において比較できないとしても、外観、称呼において相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、両者の類似性の程度は低いものである。
イ 本件商標と引用商標2及び引用商標3との類似性の程度について
本件商標と引用商標2及び引用商標3との外観は、構成文字数が6文字と4文字とで相違し、また、その構成文字中、「V」の1文字を除く全ての文字を異にしており、さらに、引用商標2については、「V」の文字は右側に横線が伸び、他の3文字の上に配されるようにデザイン化されているのに比べ、本件商標は引用商標2と書体が異なる上、「V」の文字は特段デザイン化されていないなど、それぞれの構成態様に照らし、明らかな差異を有するものであるから、外観上、明確に区別できるものである。
そして、本件商標から生じる「ブイルーツ」の称呼と、引用商標2及び引用商標3から生じる「バンズ」の称呼とは、その構成音、構成音数が明らかに相違するものであるから、両者は称呼上相紛れるおそれのないものである。
また、本件商標は特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標2及び引用商標3は「申立人の業務に係る履物(スニーカー)のブランド」の観念が生じるものであるから、両者は観念上相紛れるおそれのないものである。
そうすると、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、両者の類似性の程度は低いものである。
3 商品の関連性及び需要者の共通性について
(1)本件商標の指定商品について
本件商標は、第25類「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用の運動用特殊衣服,ゴルフ靴,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下」及び第28類「ゴルフクラブカバー,ゴルフクラブバッグ,ゴルフクラブのヘッド用カバー,おもちゃのゴルフ用具,ゴルフ用キャディーバッグ,ゴルフ用グリーンマーカー,ゴルフ用ティー,ゴルフ用ディボット修復具,ゴルフ用パターの形に合わせて作られたカバー,ゴルフ用ボール,ゴルフ用旗(運動用具),ゴルフ用手袋」を指定商品とするところ、いずれもゴルフに関連する商品であって、そのうち第25類「ゴルフ用の運動用特殊衣服,ゴルフ靴」及び第28類「ゴルフクラブカバー,ゴルフクラブバッグ,ゴルフクラブのヘッド用カバー,ゴルフ用キャディーバッグ,ゴルフ用グリーンマーカー,ゴルフ用ティー,ゴルフ用ディボット修復具,ゴルフ用パターの形に合わせて作られたカバー,ゴルフ用ボール,ゴルフ用旗(運動用具),ゴルフ用手袋」は、ゴルフに用途が限定される商品であるから、主として、ゴルフをする際に限って使用する特殊な商品(衣服、履物等)であって、スポーツ用品を取り扱う専門の店舗で販売される商品であり、ゴルフを行う際に使用されることから、需要者はゴルフを行う者であるといえる。
また、指定商品中、「おもちゃのゴルフ用具」は、おもちゃを取り扱う店舗で販売される商品であり、需要者は広く一般の者である。
そして、指定商品中、「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下」は、ゴルフに用途が限定される商品であるものの、広く一般に被服を取り扱う店舗で販売されることもある商品であり、需要者は広く一般の者である。
(2)申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」について
申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」は、主として日常の歩行の際に使用するための商品であり、広く一般に、履物類を取扱う店舗で販売される商品であり、需要者は広く一般の者である。
(3)商品の関連性及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品中、「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下」と、申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」とは、ともにファッションに関する商品として販売されることのある、関連性を有する商品であるとしても、それ以外の本件商標の指定商品と申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」とは、需要者を共通する場合があるものの、用途及び販売場所を異にするものであるから、両者の関連性は高いとはいえない。
4 小括
以上からすると、引用商標2及び引用商標3が、申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」を表示する商標として広く知られていると認めることができ、また、本件商標の指定商品中、「ゴルフ用の衣服,ゴルフ用帽子,ゴルフ用靴下」と、申立人の業務に係る「履物(スニーカー)」とは、関連性を有する商品であって、需要者が共通する場合があるとしても、何より本件商標と引用商標とは明らかに非類似の商標であり、両者の類似性の程度は低いことからすれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、需要者がこれより引用商標を想起、連想することはないというのが相当であるから、本件商標は、申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1 本件商標


別掲2 引用商標1(登録第4225064号商標)


別掲3 引用商標2(登録第5245475号商標)


異議決定日 2021-09-06 
出願番号 商願2019-71933(T2019-71933) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W2528)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大井手 正雄菊池 夏未福田 洋子 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 庄司 美和
馬場 秀敏
登録日 2020-08-25 
登録番号 商標登録第6283610号(T6283610) 
権利者 西田 幸基
商標の称呼 ブイルーツ、ルーツ 
代理人 達野 大輔 
代理人 中山 真理子 
代理人 稲垣 朋子 
代理人 竹中 陽輔 

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