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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W0937
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W0937
管理番号 1375003 
審判番号 無効2019-890070 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-11-15 
確定日 2021-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第6002688号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6002688号商標(以下「本件商標」という。)は、「FECJAPAN」の文字を標準文字で表してなり、平成29年4月12日に登録出願、第9類「POSシステム用機械器具及びその部品並びに附属品,電気通信機械器具及びその部品並びに附属品,電子応用機械器具ならびにその部品および附属品」及び第37類「POS端末機の修理又は保守,POS端末機の修理又は保守に関する情報の提供,電気通信機械器具の修理又は保守,電気通信機械器具の修理又は保守に関する情報の提供,電子応用機械器具の修理又は保守,電子応用機械器具の修理又は保守に関する情報の提供」を指定商品及び指定役務として、同年11月8日に登録査定、同年12月8日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する商標は、別掲のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標1」という。)及び「FEC」の欧文字からなる商標(以下「引用商標2」といい、引用商標1及び2を合わせて「引用商標」という。)である。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第81号証を提出した。
1 引用商標について
(1)請求人について
請求人は、1995年に創立された台湾法人である。その主たる業務は「POSシステム及びその関連商品」(以下「請求人商品」という。)の製造販売並びに関連する役務の提供であり(甲3ないし甲70)、台湾の他、中国、韓国、米国等に拠点を有するグローバル企業である(甲13)。
(2)引用商標について
請求人は、請求人商品につき、1996年の創立当初から現在に至るまで、主に引用商標を一貫して使用している(甲3ないし甲70)。「FEC」は、請求人商号の略称でもあり、請求人が創立当時から使用してきたハウスマークでもある。
(3)引用商標の周知性について
ア 請求人はPOS台湾市場においての占有率はトップを誇り、さらに、2011年度POS国際市場において、第5位(4%)の地位に至った(甲14、甲75及び甲76)。2016年度の営業収入は3,108,038千台湾ドル(約104億円)(甲15)、製品販売総数は127,062台、53機種に及んでいる(甲16)。
また、台湾国内の優れた製品に贈られる「台湾エクセレンス賞」(甲17)を2013年(甲18)及び2016年(甲19)に受領している。
イ 被請求人は、乙第1号証及び乙第2号証を提出し「台湾でのPOSシステムの市場では台湾Flytech Technologiesが最大手」であるとし、これをもって、請求人が台湾市場においてトップの占有率を保持していることは疑いがある旨主張する。
しかしながら、乙第1号証における「最大手」の基準が客観的に示されたものではなく、請求人の台湾POS市場における地位を否定する根拠とはなり得ない。
また、被請求人の甲第16号証における「『製品販売総数』の『製品』とはどの製品か不明」である旨の主張に対し、53機種の実際販売数と機種名を明らかにした甲第77号証を提出する。
(4)世界各国での展示会
ア 請求人は、本件商標の登録出願日よりも前から今日に至るまで、世界各国の展示会に請求人商品を出展している(甲20ないし甲62)。
イ 甲第21号証ないし甲第62号証で示された一部の展示会について、「引用商標がどのように表示されていたのか、又は表示された事実があるかも不明である」旨の被請求人の主張に対して、引用商標がブース看板、什器、ユニフォーム等に使用されていることを示す甲第78号証及び甲第79号証を提出する。
(5)顧客
請求人の顧客は全世界にわたり、世界の名だたる小売業者などが名をつらねている(甲10ないし甲12)。
(6)日本における活動
請求人は、生活協同組合コープさっぽろ(以下「コープさっぽろ」という。)の子会社であるデュアルカナム株式会社(以下「デュアルカナム社」という。)と2012年からPOSレジの共同開発を始め、2012年末から店舗に採用し、2014年3月時点でコープさっぽろの全108店舗に合計1,100台を納入した。さらに、電子マネーやポイントカードなどのカード情報やクーポン発券の機能を持つKIOSK端末も共同開発し、2016年3月から店舗に約250台を設置した。2017年には、共同開発のモバイル型POS端末をコープさっぽろの移動販売向けに供用を開始している(甲63ないし甲65)。
(7)引用商標の保護
請求人は、引用商標を国際的に保護すべく、商標権を取得している(甲66ないし甲70)。
2 商標法第4条第1項第19号該当性
(1)本件商標と引用商標の類似
本件商標の構成要素中「JAPAN」は日本国を意味する英語であるところ、自他商品又は役務の識別力はなく、残余の「FEC」部分をもって取引に供されると解すべきところ、当該部分は引用商標と同一の文字つづりからなり、かつ、同一の称呼「エフイイシイ」を生じるものである。さらに「FEC」は、POSシステム製品及び関連役務においては請求人商品及び役務を表示するものとして国際的に広く知られ、また、日本においても知られているため、請求人ブランドとしての「FEC」の観念をも生じるものと考えられる。
したがって、両者は外観、称呼、観念上、全体として同一又は酷似するものである。
(2)本件商標の指定商品及び指定役務と請求人商品及び役務の類似
請求人商品及び役務は、「POSシステム用機械器具及びその部品並びに附属品」及び「POS端末機の修理又は保守,POS端末機の修理又は保守に関する情報の提供」であり、これら商品及び役務は、本件商標の登録に係る指定商品及び指定役務に明らかに含まれている。
(3)請求人の周知性
ア 上記のとおり、請求人は、本件商標の登録出願日以前から現在に至るまで、引用商標を使用して、請求人商品を製造販売し、かつ、これに関連する役務の提供業務を行い、本件商標の登録出願時及び現在において、請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、台湾のみならず国際的に需要者・取引者の間で広く認識されているものと認められる。
イ 被請求人は、乙第4号証を提出し、「コープさっぽろの店舗は北海道内にとどまる」ため、日本国内において広い範囲の需要者に知られていたことにはならない旨主張する。
この点、商標法第4条第1項第19号の要件の一つである「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含むことからすると、引用商標の主たる使用場所が北海道内であることをもって、引用商標が同号における周知性の要件を満たすことを否定する根拠とはなり得ない。
(4)被請求人の不正の目的
被請求人は、FEC JAPAN株式会社(以下「FECジャパン社」という。)を2017年2月28日に設立、その代表取締役の地位にある(甲71)。被請求人のウェブサイトによれば、「FECについて5本の指に入る世界的メーカー 世界72カ国で展開 2つの生産拠点 世界中で1,000,000以上のFECソリューション 世界500のパートナー」といった記載とともに、引用商標が大きく表示されており(甲72)、これに接する需要者・取引者は、被請求人が請求人の日本における支社又は代理店であるかのように誤認するおそれが極めて高い内容及び構成となっている。
しかしながら、被請求人は請求人と資本関係はおろか、代理店としての地位も有するものではない。すなわち、現在請求人と被請求人との間で、請求人商品を日本において被請求人を通じて販売する旨の内容の契約はない。
そもそも被請求人は、コープさっぽろの100%子会社であり、請求人と取引関係があるデュアルカナム社の常務取締役であったところ、その地位を利用して請求人の信頼を得た上で、デュアルカナム社の承諾を得たと偽り、FECジャパン社設立のための資金を提供させ、その代表取締役の地位に治まった。デュアルカナム社は被請求人のかかる行為を背任にあたるとして、被請求人の常務取締役を解任した。
そして、被請求人はFECジャパン社の設立にあたり、請求人のあずかり知らぬところで、即ち、その同意なくして、本件商標を出願・登録したものである。
請求人は被請求人に対して、出資金の返還とともに、本件商標を本来の所有者である請求人に移転することを求める内容証明郵便を送付し、被請求人はこれを受領しているが(甲73及び甲74)回答することすらなく今日に至っている。
以上より、本件商標の登録出願日以前に、被請求人は本件商標が、請求人商品及び役務を表すものであること並びに引用商標が需要者の間で広く知られていることを知っていたことは明らかであり、かつ、自らが代表取締役を務めるFECジャパン社設立の資金を提供させ、請求人との日本国内代理店契約締結を強制する目的等のために本件商標を先取り的に出願し登録を受けたことが推認される。
上記のとおり、被請求人は、本件商標の登録出願日時点において、本件商標が請求人商品を表すもの、及び引用商標が需要者間で広く知られていることは当然知っていたこと、被請求人は、日本で請求人商品を取り扱いたい意思はあるが明確な契約はないこと、被請求人が有するFECジャパン社のウェブサイト上にて引用商標を使用し、請求人と同一視されるおそれのある業務内容を記載していること等の事実・事情を総合すれば、被請求人は、未だ本件商標が日本において登録出願されていないことを奇貨として、請求人との日本国内代理店契約締結を強制する目的、又は本件商標の顧客吸引力を希釈化若しくはこれに便乗し不当な利益を得る目的等の不正の目的があったことが推認される。
3 商標法第4条第1項第7号該当性
(1)上記のとおり、本件商標の取得には、商標法第4条第1項第19号に規定する「不正の目的」が推認されるのみならず、被請求人は、請求人と一定の取引関係にあった者であり、その関係を通じて知り得た請求人の使用する商標を剽窃したといわざるを得ない。
そうとすれば、本件商標は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するもので、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標というべきである。
(2)被請求人は、「出願時には両者に協力関係があったことから、被請求人が本件商標を出願することについて請求人は容認していたはずである」と主張するが、請求人は、被請求人による本件商標の出願を2019年3月10日のコープさっぽろの担当者からの連絡により知ることになったのである(甲81)。
被請求人は、「請求人は自ら引用商標について登録出願することができたにもかかわらず、それを怠っており、それを案じた被請求人が今後の営業に支障をきたすことをおそれて本件商標について出願した」と主張しているが、商標権の不在を案じているのであれば、請求人に対して本件商標の出願を要請すべきところ、その事実はなく、ゆえに「出願を怠った」との主張は失当であり、被請求人の行為は著しく社会的相当性を欠くものであるといわざるを得ない。
さらに、被請求人は、本件は私人間の争いであり、一般需要者に影響を与える公益とは関係のない事項である旨主張するが、本件商標は、第三者たる被請求人が商標を剽窃的に出願したものであり、その登録は国際商道徳に反し、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し、公の秩序を害するものであること明らかである。
4 むすび
以上の理由により、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に違反してされたものであり、同法第46条第1項第1号の規定により無効にされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
1 本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(1)引用商標の周知性について
ア 請求人は、「POS台湾市場においての占有率はトップを誇り、さらに、2011年度POS国際市場において、第5位(4%)の地位に至った(甲14)。」と述べているが、台湾でのPOSシステムの市場では台湾Flytech Technologiesが最大手となっており(乙1)、同社は、米国、日本、中国及び香港にも支社があり、カスタマーエンゲージメント技術を持って20年以上続いている英国のBox Technologies社を買収するほどの大企業となっている(乙2)。
このことから、請求人が台湾市場においてトップの占有率を保持していることは疑いがある。
イ 請求人の述べている2016年度の営業収入(甲15)は、POSシステム及びその関連商品の販売以外の収入も含むと解されるので参考にならない。
ウ 請求人は、「製品販売総数は127,062台、53機種に及んでいる(甲16号)。」と述べているが、証拠資料は請求人が作成した資料と思われ、客観性がない。また、「製品販売総数」の「製品」とはどの製品か不明であり、引用商標が付された商品であるかも不明なため参考にならない。
エ 請求人は、「本件商標の登録出願日よりも前から今日に至るまで、世界各国の展示会に請求人商品を出展している(甲20)。」と述べている。商標は人の目に触れ、又は耳で聞くことによって認知され、出所識別機能を発揮することによって周知されているものであるため、商標が何らかの形で表示されている必要がある。甲第21号証から甲第62号証の証拠資料からは、一部の展示会では引用商標が展示会の看板等で表示されたことを示しているが、その他の展示会では引用商標がどのように表示されていたのか、又は表示された事実があるかも不明である。
オ 請求人は、コープさっぽろでのPOSレジの導入事例について述べているが、コープさっぽろの店舗は北海道内にとどまる(乙4)。日本国内において広い範囲の需要者に知られていたことにはならない。
カ したがって、請求人は、これらの証拠資料によっては、引用商標が外国又は日本国内の需要者の間で広く知られていたことを証明するに至っていない。
(2)本件商標と引用商標の類否
本件商標は、欧文字「FECJAPAN」の標準文字からなり、各文字が同書体、等間隔に表示されて一連一体の商標を構成し、当該文字から一連に「エフイーシージャパン」又は「フェックジャパン」の称呼が生じ、辞書等に掲載がない造語であり特定の観念を生じない。
引用商標は、「エフイーシー」又は「フェック」の称呼が生じ、辞書等に掲載がない造語であり特定の観念を生じない。
本件商標の称呼「エフイーシージャパン」と引用商標の称呼「エフイーシー」を対比すると、音数が7音と4音と大きく異なり、外観も8文字と3文字の構成では一見して識別することが可能であり、観念についてはいずれも生じないため比較することができず総合的に観察して非類似の商標といえる。
(3)被請求人の不正の目的について
被請求人は、2012年頃から請求人と共同でPOS開発を開始している。そして、2017年当時、プロジェクトを請求人から依頼されて被請求人が事業計画書を作成している(乙5)。そして、FECジャパン社を設立し(甲71)、その際に、請求人及びFECジャパン社以外の第三者が商標「FECJAPAN」又はこれに類似する商標を無断で登録することによる不利益を事前に防止するために2017年4月12日に本件商標について出願をし、登録を受けたものである(甲1)。なお、出願の際においても、請求人と被請求人が代表を務めるFECジャパン社との間で、エルメス社用の評価サンプル版POSを貸し出す取引があり、共同で事業を行っていたことを示している(乙6)。
上記経緯に鑑みれば、被請求人の行為は、(ア)引用商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、請求人の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取的に出願したものではなく、むしろ、請求人が日本で事業を展開する際に、被請求人が請求人と共同で事業を行い、他人に引用商標を登録されることによるリスクを回避するために商標登録出願をしており、(イ)引用商標の出所表示機能を希釈化させたり、その名誉を棄損させる目的をもって出願したものではなく、そして、(ウ)信義則に反する不正の目的で出願した場合にも当たらないため、「不正の目的」の要件を満たさない。
2 本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(1)請求人が述べる日本における活動についてみるに、2012年には既に被請求人が常務取締役を務めるデュアルカナム社とPOSレジの共同開発を始め、2012年末から店舗に採用し、2014年3月時点でコープさっぽろの全108店舗に合計1,100台を納入したとあり、さらに、KIOSK端末も共同で開発し、2016年3月から店舗に約250台設置している。2017年には、共同開発のモバイル型POS端末をコープさっぽろの移動販売向けに供用を開始していると述べている。この間、請求人は自ら引用商標について登録出願することができたにもかかわらず、それを怠っており、それを案じた被請求人が今後の営業に支障をきたすことをおそれて本件商標について出願したのである。出願時には両者に協力関係があったことから、被請求人が本件商標を出願することについて請求人は容認していたはずである。
したがって、被請求人の行為は、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものではなく、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当しない。
(2)請求人と被請求人の争いは、いわば私人間の争いであり、本来、当事者間における契約や交渉等によって解決調整が図られるべき事項であって、一般需要者に影響を与える公益とは、関係のない事項である。
そして、被請求人が日本において、引用商標と類似する本件商標の登録出願をし、登録を受ける行為が当然に「公の秩序や善良な風俗を害する」ということにはならない。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有する者であることについては、争いがないから、本案に入って審理する。
1 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標が他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標であるかについて
ア 請求人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア)請求人は、台湾におけるPOSシステムのメーカーである(甲3ないし甲11)。
(イ)請求人のウェブサイト(甲3、甲12、甲13及び甲20ないし甲62)及び台湾又は中国における各種のウェブサイト(甲6及び甲9ないし甲11)には、引用商標1が表示されている。
(ウ)台湾又は中国における各種のウェブサイトにおいて、請求人の名称が「FEC」と略称されて表示されている(甲5、甲7、甲10及び甲11)。
(エ)請求人は、2011年度POS国際市場において、世界5位、シェア4%であった(甲14、甲75及び甲76)。
(オ)請求人の台湾における2016年度の営業収入は3,108,038千台湾ドルであり(甲15)、製品販売総数は127,062台、53機種であった(甲16及び甲77)。
(カ)請求人は、台湾において「台湾エクセレンス賞」を2013年及び2016年に受賞した(甲17ないし甲19)。
(キ)請求人は、各国で開催された多数の展示会に出展した(甲20ないし甲62)。当該展示会のうち、いくつかの展示会会場において引用商標1が表示されている(甲51、甲54、甲58、甲61、甲78及び甲79)。
(ク)請求人は、台湾、中国、米国及び欧州において引用商標1を商標登録している(甲66ないし甲70)。
(ケ)請求人は、コープさっぽろの子会社であるデュアルカナム社と2012年からPOSレジを共同開発し、同年末から新しいレジを店舗に採用し、2014年3月にコープさっぽろの全108店舗に合計1,100台を納入し、また、電子マネーやポイントカードなどの情報やクーポン発券の機能を持つKIOSK端末も共同開発し、2016年3月から店舗に約250台を設置し、さらに、モバイル型POS端末も共同開発し、2017年春から採用した(甲63ないし甲65)。
イ 判断
(ア)前記ア(ア)ないし(ク)によれば、請求人は、台湾におけるPOSシステムのメーカーであり、2011年度POS国際市場において、世界5位、シェア4%であり、台湾における2016年度の営業収入及び製品販売総数は相当程度あり、台湾において2013年及び2016年に「台湾エクセレンス賞」を受賞し、各国で開催された多数の展示会に出展していることが認められる。
また、請求人のウェブサイト、台湾又は中国における各種のウェブサイト及び請求人が出展したいくつかの展示会会場に、引用商標1が表示されており、また、台湾又は中国における各種のウェブサイトにおいて、請求人の名称を「FEC」と略称して表示されていることが認められる。
さらに、請求人は、台湾、中国、米国及び欧州において引用商標1を商標登録していることが認められる。
しかしながら、引用商標1は、請求人のウェブサイトにおいて表示されているものの、台湾又は中国における他のウェブサイトへの表示は僅かであり、また、請求人が出展した各国の展示会において、引用商標1が表示されている展示会会場は僅かであり、さらに、請求人の名称が「FEC」(引用商標2)と略称されているのは、台湾又は中国における僅かなウェブサイトのみである。
そうすると、引用商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして外国(台湾)における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(イ)前記ア(ケ)によれば、請求人は、我が国において、2012年(平成24年)からコープさっぽろの子会社であるデュアルカナム社と各種のPOSレジを共同開発し、コープさっぽろに対しある程度の台数を納入していることが認められる。
しかしながら、我が国において引用商標が使用をされていることを示す証拠は何らなく、また、コープさっぽろ以外の者との取引を示す証拠はない。
そうすると、引用商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(ウ)前記(ア)及び(イ)のとおり、引用商標は、他人(請求人)の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
(2)本件商標が不正の目的をもって使用をするものであるかについて
ア 請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、次の事実が認められる。
(ア)請求人は、コープさっぽろの子会社であるデュアルカナム社と2012年(平成24年)からPOSレジなどの共同開発を行ってきた(甲63ないし甲65)。
(イ)被請求人は、デュアルカナム社の常務取締役であった(請求人の主張)。
(ウ)平成29年4月5日にFECジャパン社が設立され、被請求人が代表取締役となった(甲71)。また、請求人は、FECジャパン社の株主である(甲73)。
(エ)FECジャパン社のウェブサイトにおいて、請求人商品を取り扱っている旨の記載がある(甲72)。
(オ)被請求人は、平成29年4月12日に本件商標を登録出願した(甲1及び甲2)。
(カ)請求人は、2019年(平成31年)3月10日に、被請求人による本件商標の登録出願を知った(請求人の主張及び甲81)。
(キ)請求人は、2019年(令和元年)8月1日に、被請求人に対して、被請求人は請求人の同意なく本件商標の商標登録を行ったとして、本件商標の譲渡を要求した(甲73)。
(ク)請求人は、2019年(令和元年)9月12日に、被請求人に対して、再度本件商標の譲渡を要求した(甲74)。
イ 判断
前記アによれば、被請求人は、請求人と平成24年からPOSレジなどの共同開発を行ってきたデュアルカナム社の常務取締役であったこと、被請求人は、請求人が株主であるFECジャパン社の代表取締役であること、FECジャパン社は請求人商品を取り扱っていることが認められる。
そうすると、請求人と被請求人とは、平成24年以降、業務上密接な関係にあったということができる。
そして、その関係は、前記ア(カ)ないし(ク)のとおり、請求人が被請求人による本件商標の登録出願を知り、被請求人に対して本件商標の譲渡を要求する平成31年3月10日ないし令和元年9月12日まで、少なくとも、その前年である平成30年頃までは、継続されていたものと推認することができる。
そのような関係にあった被請求人が、前記ア(オ)のとおり、平成29年4月12日に本件商標を登録出願し、商標登録を受けたとしても、このことにより、本件商標が不正の目的をもって使用をするものということはできない。
他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものであるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものということはできない。
(3)以上のとおり、引用商標は、他人(請求人)の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものではなく、また、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものではない。
そうすると、たとえ、本件商標が引用商標と同一又は類似の商標であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるといえる(平成17年(行ケ)第10349号判決)。
しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっては、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば、出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合(例えば、外国法人が、あらかじめ日本のライセンシーとの契約において、ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや、ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、そのような措置を怠っていたような場合)は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成19年(行ケ)第10391号判決)。
(2)請求人は、本件商標は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するもので、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標である旨主張している。
(3)前記1(2)イのとおり、請求人と被請求人とは、平成24年以降、業務上密接な関係にあったということができ、その関係は、少なくとも平成30年頃までは、継続されていたものと推認することができる。
そして、前記1(2)ア(オ)のとおり、被請求人が本件商標を登録出願したのは、平成29年4月12日であり、請求人と被請求人とが業務上密接な関係にあったときといえる。
また、請求人が、平成24年以降、本件商標が登録出願された平成29年4月12日までの間、自ら引用商標を登録出願したことを示す証拠はなく、また、被請求人又は共同開発の相手が自ら商標登録出願をしないことや、商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採っていたことを示す証拠もない。
そうすると、請求人は、自らすみやかに引用商標を登録出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたといわなければならず、また、契約等によって被請求人からの本件商標の登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、それを怠っていたといわなければならない。
してみると、前記(2)の請求人の主張は、請求人と被請求人との間の商標権の帰属等をめぐる問題というべきであって、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべき問題というべきであるから、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合に該当するということはできない。
(4)他に、本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であるというべき事情は見いだせない。
(5)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に該当するものではなく、その登録は、同項の規定に違反してされたものではない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲
別掲 引用商標1





審理終結日 2020-12-02 
結審通知日 2020-12-07 
審決日 2020-12-21 
出願番号 商願2017-50558(T2017-50558) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W0937)
T 1 11・ 222- Y (W0937)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 勉柿本 涼馬 
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 山田 啓之
板谷 玲子
登録日 2017-12-08 
登録番号 商標登録第6002688号(T6002688) 
商標の称呼 フェックジャパン、フェック、エフイイシイジャパン、エフイイシイ 
代理人 きさらぎ国際特許業務法人 
代理人 須藤 浩 

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