ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申立て 登録を維持 W25 審判 一部申立て 登録を維持 W25 審判 一部申立て 登録を維持 W25 審判 一部申立て 登録を維持 W25 審判 一部申立て 登録を維持 W25 審判 一部申立て 登録を維持 W25 |
---|---|
管理番号 | 1371025 |
異議申立番号 | 異議2020-900093 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-30 |
確定日 | 2021-01-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6214148号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6214148号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6214148号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成よりなり,平成31年4月3日に登録出願,第9類「測定機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」,第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「遊戯用器具,運動用具,釣り具」を指定商品として,令和元年12月18日に登録査定,同2年1月7日に設定登録されたものである。 2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,登録異議の申立ての理由において引用する商標は,以下のとおりである。 (1)国際登録第695685号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2に示すとおりの構成よりなり,2001年(平成13年)11月6日に国際商標登録出願(事後指定),第9類「Nautical apparatus and instruments; surveying apparatus and instruments; electric regulating apparatus; photographic apparatus and instruments; cinematographic apparatus and instruments; optical apparatus and instruments; weighing apparatus and instruments; apparatus for recording, transmitting and reproducing sound or images; magnetic recording media, sound recording disks; automatic vending machines and mechanisms for coin-operated apparatus; cash registers; calculating machines, data processing and computer equipment; fire extinguishers; sunglasses, corrective glasses and sports glasses; spectacle frames, spectacle glasses, spectacle cases, eyeglasses chains, pince-nez.」,第14類「Precious metals and their alloys and goods made of these materials or plated therewith included in this class; jewelry, bijouterie, precious stones; horological and chronometric instruments.」,第16類「Passport cases.」,第18類「Leather and imitation leather; handbags, shoulder bags, beach bags, sports bags, schoolbags, travelling bags, credit card holders, document holders, empty cases for cosmetics, key cases, haversacks, back bags, purses not made of precious metal, wallets; animal skins, hides; travelling trunks, cases; umbrellas, parasols and walking sticks; whips and saddlery.」及び第25類「Clothes, footwear, headgear.」を指定商品として,2002年(平成14年)9月6日に設定登録されたものであり,現に有効に存続しているものである。 (2)申立人が日本国内外で被服や履物などに使用していると主張する商標は,別掲3のとおりの構成からなる商標(以下「引用商標2」という。)である。 以下,上記(1)及び(2)の商標をまとめていう場合は,「引用商標」という。 3 登録異議の申立ての理由 申立人は,本件商標は,その指定商品中の第25類「全指定商品」について,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申し立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)申立人の周知・著名性について 申立人であるイタリアの法人,ジョルジオ アルマーニ エス.ピー.エー.(英文名称:Giorgio Armani S.P.A.)は,デザイナーであるジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)により1975年にイタリアのミラノに設立されたファッションハウス(最新の高級服のメーカー)であり,高級ホテル(アルマーニ ホテルズ)や高級リゾートのチェーンビジネスのみならず,世界中でカフェやバー,ナイトクラブの運営も行っている(甲3)。 アルマーニブランドは,ファッション業界で最も権威のあるブランドと紹介され,メインブランド「ジョルジオ アルマーニ」の他,複数の姉妹ブランド,化粧品,リゾート,高級レストランなど多彩な事業を展開して「アルマーニ」と総称される(甲4)。 (2)申立人の創立者ジョルジオ アルマーニについて 申立人は,イタリアのファッションデザイナーであるジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)により1975年に設立されたものである(甲3?甲5)。 ジョルジオ アルマーニは,同じくイタリアを代表するファッションデザイナーである,ジャンフランコ・フェッレ(Gianfranco Ferre:末尾の「e」の上には,アクサンテギュ記号が付されている。),ジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)とともに,「ミラノの3G」と呼ばれ,その一翼を担い,世界中で知られており,その知名度を表す最たるものとして,ファッションデザイナーとしては2人目として,アメリカの「Time(タイム)」誌の表紙を1982年に飾り,1940年代のクリスチャン・ディオール以来約40年ぶりにファッションデザイナーとして表紙を飾った。イタリア人としては,ノーベル賞受賞劇作家のルイジ・ピランデルロに次いで2人目である(甲5)。 また,1981年のGQ誌の「メンズ・スタイル・アウォード・フォー・ベスト・ファッションデザイナー賞」を皮切りに,1985年にはイタリア政府から,イタリア共和国功労勲章「コメンダトーレ章」を,1986年にはその最高位「グランデ・ウッフィチャーレ章」を,1987年には「共和国功績勲章」,「大騎士賞」を授与されている。受賞歴はイタリア国内にとどまらず,1988年にはスペイン国王から,世界最高のファッションデザイナーに贈られる「クリストバル・バレンシアガ賞」を,1989年には日本でも「繊研賞」を授与されている。 つまり,ジョルジオ アルマーニは,20世紀で最も成功したデザイナーであり,著名な番付「フォーブズ(Forbs)」の世界長者番付にもランクインされている(甲5)。 (3)申立人の日本での事業について 申立人は,1987年に,Giorgio Armani Japan株式会社を設立した。そして,日本進出から30年を経過した現在でも,日本で認知される高級ブランドの1つとして,東京の銀座や青山のみならず日本各地で出店を続け,現在では日本国内で64店舗を擁しており,申立人のブランドの日本国内での知名度が高いことがうかがえる。 (4)引用商標の周知・著名性について 申立人とそのブランドであるGiorgio Armaniは40年以上も世界各国で広く事業活動を行っている。引用商標も「アルマーニ ジーンズ(Armani Jeans)」,「アルマーニ ジュニア(Armani Junior)」,「エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)」,「EA7 エンポリオ アルマーニ(EA7 Emporio Armani)」などの4つの個別ブランドの展開に際して使用されている。したがって,その保有するブランド(商標)と引用商標は,日本国内のみならず,世界各国で周知・著名なものとして認知されていることに疑いはない。 ア 売上高 2014年ないし2018年の申立人のアニュアルレポートによれば,売上高(1ユーロ130円で換算)は,2012年は29億2840万ユーロ(約3807億円),2013年は30億4720万ユーロ(約3961億円),2014年は,31億3580万ユーロ(約4077億円)を記録している。また,全世界での「アルマーニ(Armani)」ブランドの商品の販売額は,2015年は40億1150万ユーロ(約5200億円),2016年は39億4040万ユーロ(約5120億円),2017年は39億2660万ユーロ(約5104億円),2018年は38億600万ユーロ(約4947億円)を記録している(甲8)。 上記金額を見ても,申立人ブランドの世界での市場規模は大きく,ブランドの持つ価値が高く,申立人の商標並びにブランドが需要者に周知されていることが分かる。 イ 日本での売上高 2012年ないし2017年の日本における被服類,鞄等,商品の売上高は,いずれの年も,これらの総計だけで64億5千万円から81億円以上の売上を達成している。 ウ 世界での売上高 2012年ないし2017年の世界における被服類,鞄等,商品の売上高は,いずれの年も391億円から444億円以上の売上を達成している。 エ 広告宣伝費 申立人が日本を含む世界各国で費やしたGiorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ)ブランドに関する2012年ないし2017年の広告宣伝費は,いずれの年も,最低23億円以上,最高時は29億円以上の広告宣伝費をかけており,申立人がその所有するブランドの育成と価値の向上に力を入れていることが分かる。 オ 商品の販売個数 申立人は引用商標を,自身のブランドのうち,「アルマーニ ジーンズ(Armani Jeans)」,「アルマーニ ジュニア(Armani Junior)」,「エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)」及び「EA7 エンポリオ アルマーニ(EA7 Emporio Armani)」などの4つの個別ブランドに関し(2017年より,「Armani Junior」と「Armani Jeans」は撤退),被服,鞄や小物などの革製品,宝飾品,靴などの販売に際し使用している。アルマーニに関わるその全体では,毎年6000万個程度の商品を販売している。 カ 引用商標を広告・宣伝を目的に使用された例 申立人の日本向けのインターネットホームページの写しによれば,引用商標が複数のページに表示され(甲9),申立人のビジネスと引用商標とが密接に関わっており,引用商標が国内外の消費者の目に触れる機会が多いことが分かる。 キ 国内での雑誌等への掲載事例 申立人は日本国内で,雑誌等へ引用商標が付された商品の広告掲載を行っている(甲10)。 ク 世界各国での引用商標の商標登録例 申立人は,引用商標1を世界83か国の国別の商標登録のほか,65か国を指定国として指定した,マドリッド協定議定書に基づく国際登録商標を所有し,引用商標1の世界的な法的保護を確保の上,使用している(甲11の1)。また,引用商標2については,35の国と地域にて商標登録をしている(甲11の2)。 ケ 引用商標を付した商品の日本への輸入実績 引用商標は,上記オに記載した4つの個別ブランドに関して,商品に縫い合わされたタグや吊るしタグに付されて使用されている。 申立人は,それら商品を,ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社へ輸出し,販売している。その証として,当該会社が申立人にした注文に対し,販売・発送した商品を掲載した請求書の一部と,その商品を申立人の所在するイタリアのミラノより,航空便で発送した際に使用した発送状(甲12の1?甲12の4)から,「アルマーニ ジーンズ(Armani Jeans)」,「アルマーニ ジュニア(Armani Junior)」などが発注され,イタリアより日本へ輸出されていることが確認できる。引用商標は,こうして輸入される商品に付され,日本国内でも店舗などで,引用商標をタグなどに付したまま販売されている。 コ Brand Financeによる評価 英国に拠点を持つ,世界のブランドの評価を行う事業者Brand Finance社は,2019年のイタリアのブランドトップ50を分析している。申立人のブランドの総称である「Armani」について,第14位にランク付けしている。金融商品の格付けと同様の評価体系を有しており,最高ランクAAA+であるところ,ArmaniブランドはAA+の評価を得ている(甲13)。 (5)商標法第4条第1項第10号違反について 申立人とその傘下にある各ブランドは,被服や履物など,第25類の商品,特に,被服,ベルト,履物,下着類などについて日本国内で周知といえる。申立人は,日本国内では商標登録していないものの,引用商標2も所有し(甲11の2),日本国内外で使用している(甲9)。引用商標2は,鷲が両翼を広げて頭を向かって左方向に向けた図形を表しており,その表現方法が,横線を重ねることにより表現されている点に大きな特徴点がある。 本件商標は,引用商標2とその外観・観念上極めて近似している。なぜなら,本件商標は,鳥が両翼を左右に大きく広げた状態を表しており,その姿を,横線を重ねて表現している点で,申立人商標の特徴を取り込んでいる。申立人の引用商標2と類似する商標を申立人以外の者が,被服や履物に使用すると本件商標を看取した需要者をして,その商品の出所について,申立人と混同を生じさせる。 (6)商標法第4条第1項第11号違反について 申立人の引用商標1は,ファッション業界において世界的に周知・著名であるといえる。引用商標1は,申立人の商品のデザインのモチーフとして多数使用されている(甲9)。また,引用商標1は国内外において周知・著名な商標といえ,服飾関係の商品に付されていた場合には容易に,申立人の引用商標1が想起され,記憶の中で対比されることとなる。 商標の類否判断は,外観,称呼及び観念をバランス良く対比しながらなされるところ,本件商標は,これを看取した需要者をして容易に,鳥が両翼を左右に大きく広げた状態を表していると認知させる。そして,その状態を,横線を重ねることにより表現している。これは,引用商標1が,鷲の両翼を広げて頭を向かって左方向に向けた図形を表しており,その表現方法が横線を重ねることにより表現するという技法を用いており,図形の外観と印象が極めて近似している。商標の類似判断は,時と処を別にして行う隔離観察で行うところ,本件商標に接した需要者は,国内外で周知・著名なブランドである申立人の引用商標1と混同して想起及び認知する。 したがって,両商標の外観は極めて近似した外形からなり,極めて似通っているとする印象を生じさせるため,外観が類似している。 称呼の点については,本件商標は文字を含んでおらず特定の称呼は生じないが,引用商標1は,「ジーエー」と称呼できる。しかし,アルファベッ卜2文字からなる語には,商標が備えるべき自他商品等識別の機能が備わらないため(商標法第3条第1項第5号),本件商標との類否判断に影響を及ぼさない。 観念については,引用商標1は,鷲をモチーフにした図形商標であり,鷲ないし鳥の観念を生じる。本件商標も,鳥が翼を広げた状態を表す図形からなるのであるから,観念は鳥である。両商標ともに,鳥や鷲の観念を生じ,同一又は類似といえる。 以上により,本件商標は引用商標1とは外観上極めて紛らわしく,観念上も類似しているため,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあることは否定できないから,本件商標と引用商標1とは類似するというべきである。 また,申立ての対象とした本件商標の指定商品は,第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であるところ,引用商標1の第25類の指定商品とは同一又は類似の商品に該当する。 したがって,本件商標は,引用商標1と同一又は類似する商標であって,同一又は類似する指定商品にかかる出願であり,商標法第4条第1項第11号に違反して登録された商標である。 (7)商標法第4条第1項第15号違反について 本件商標は,引用商標1との関係において商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたと確信するものであるが,この類否判断の基準をもってしても本件商標と引用商標1とが類似するとはいい得ないとした場合であっても,引用商標が申立人の商標として日本国内において周知・著名であることからすると,本件商標がその指定商品について使用されたときには,需要者,取引者をして,申立人の提供する商品であるかのごとく,又は申立人と経済的・組織的に何らかの関連を有するものの提供に係る商品であるかのごとく,その出所について需要者をして誤認混同を招くことは明らかである。 本件商標が,第25類の指定商品「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」に使用されると,第25類に属する被服の分野で特に周知・著名な引用商標と,商品等の出所の混同のおそれが生じることとなる。 したがって,本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないとした場合であっても,本願商標は同項第15号に違反して登録されたものであり,その登録は取り消されるべきものである。 (8)商標法第4条第1項第19号違反について 引用商標は,申立人の周知・著名な商標として世界各国で認識されることからすると,これと類似する本件商標を指定商品に使用する場合には,鷲の外形を横線で表した引用商標に化体した知名度にフリーライドして,不正の利益を得る目的のもと使用することになり,商標法第4条第1項第19号に該当し,本件商標はこの規定にも違反して登録されたものである。 4 当審の判断 (1)引用商標の周知性について ア 申立人の提出に係る甲各号証及び申立人の主張によれば,以下のとおりである。 (ア)申立人は,デザイナーであるジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)により1975年にイタリアで設立された高級服のメーカーである。 (イ)申立人は,我が国において,1987年に,Giorgio Armani Japan株式会社を設立し,国内で64店舗を有する(申立人の主張,甲7)。 (ウ)申立人の2014年から2018年までのアニュアルレポートを提出し,全世界での「アルマーニ(Armani)」ブランドの商品の販売額を主張するが,その詳細は不明である(甲8)。 (エ)申立人は,2012年ないし2017年の日本及び世界における被服類,鞄等,商品の売上高,申立人が世界各国で費やしたGiorio Armani(ジョルジオ アルマーニ)ブランドの2012年ないし2017年の広告宣伝費などを主張するが,それらを客観的に裏付ける証拠の提出はない。 (オ)甲第9号証は,申立人の主張によれば,ジョルジオ アルマーニのウェブサイトであるところ,引用商標が,被服,ベルト,履物等に使用されていることが確認できるが,それが掲載された時期は確認できない。 (カ)2015年及び2016年に我が国の雑誌2誌及び申立人のカタログに引用商標が付された被服,履物,バッグが掲載されたとはいい得るとしても,上記雑誌及びカタログ等の発行部数やその普及度(具体的にどの程度の規模,期間,範囲において頒布されたものか)は不明である(甲10)。 (キ)その他の提出された証拠を総合してみても,引用商標が使用された商品について,我が国における販売期間,売上高や市場シェアなどの事業規模,宣伝広告の程度などを具体的に把握し得るものは見いだせず,本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の程度を推しはかることはできない。 イ 以上のとおり,申立人の提出に係る証拠によっては,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国及び外国における需要者に広く認識されているものとは認めることができない。 (2)本件商標と引用商標の類否について ア 本件商標について 本件商標は,別掲1に示すとおり,同じ長さで,同じ太さの横線を左右に4本ずつ等間隔に上方に向けて階段状に広がるようにずらして配置し,これらの中央に1本の短い縦線を配した構成からなる図形であるところ,当該図形は,既成の具体的な事物,事象を表したものや,親しまれているものというべき事情は認められため,本件商標は特定の称呼及び観念を生じないものである。 イ 引用商標について (ア)引用商標1について 引用商標1は,別掲2に示すとおり, 長さの異なる太い横線で,左右に両翼を広げ,右方を向いた猛禽類をデザイン化した図形と,この図形の中央下部に重なるように「GA」の文字を白抜きに配した構成からなるところ, 当該図形は,既成の具体的な事物,事象を表したものや,親しまれているものというべき事情は認められないため,当該図形からは特定の称呼及び観念を生じるとはいい難いものである。 また,引用商標1の構成中の「GA」の白抜き文字は,当該文字に相応して「ジーエー」の称呼を生じるものの,当該文字は,既成の具体的な事物,事象を表したものや,親しまれているものというべき事情は認められないため,特定の観念を生じないものである。 したがって,引用商標1は,その構成中の「GA」の文字に相応して「ジーエー」の称呼を生じるものであり,特定の観念を生じないものである。 (イ)引用商標2について 引用商標2は,別掲3に示すとおり, 長さの異なる太い横線で,左右に両翼を広げ,右方を向いた猛禽類をデザイン化した図形からなるところ,当該図形は,既成の具体的な事物,事象を表したものや,親しまれているものというべき事情は認められないため,引用商標2は特定の称呼及び観念を生じるとはいい難いものである。 ウ 本件商標と引用商標との類否について (ア)本件商標と引用商標1との類否について 本件商標と引用商標1とを比較すると,引用商標1は,中央部に描かれた部分が右向きの鋭いくちばしを有する猛禽類の頭部を表し,底辺からV字状に左右に描かれた部分が広げた両翼を示すごとく,猛禽類の特徴を端的にとらえたシルエット風に表現したものとして看取されるのに対し,本件商標は,左右に階段状に広げられた図形の中央に短い縦線が1本立っているのみで猛禽類にみられるような特徴的な表現をした点は何ら看取されるものでない。 また,本件商標の構成中に,特定の文字を有さないのに対し,引用商標1は,その構成中に「GA」の白抜き文字を有することから,両者は,視覚的印象を全く異にするものである。 そうすると,本件商標と引用商標1とは,時と処を異にして離隔的に観察した場合においても,外観上,相紛れるおそれはなく需要者の通常有する注意力を基準として考慮すれば容易に区別することができるものである。 次に,称呼においては,本件商標は特定の称呼を生じないものであり,引用商標1は「ジーエー」の称呼を生じるものであるから,両商標は,称呼上,紛れるおそれはないものである。 さらに,観念においては,両者とも特定の観念を生じないから,両商標は,観念を比較することができない。 以上のことから,本件商標と引用商標1とは,観念においては比較することができず,外観においては,これらを容易に区別できるものであり,称呼においては,これらが紛れるおそれはないから,これらの点を総合的に考慮すれば,本件商標と引用商標1とは,非類似の商標であって,別異の商標といわなければならない。 その他,本件商標と引用商標1とが類似するというべき事情は見いだせない。 (イ)本件商標と引用商標2との類否について 本件商標と引用商標2とを比較すると,引用商標2は,中央部に描かれた部分が右向きの鋭いくちばしを有する猛禽類の頭部を表し,底辺からV字状に左右に描かれた部分が広げた両翼を示すごとく,猛禽類の特徴を端的にとらえたシルエット風に表現したものとして看取されるのに対し,本件商標は,左右に階段状に広げられた図形の中央に短い縦線が1本立っているのみで猛禽類にみられるような特徴的な表現をした点は何ら看取されるものでないから,両者は,視覚的印象を全く異にするものである。 そうすると,本件商標と引用商標2とは,時と処を異にして離隔的に観察した場合においても,外観上,相紛れるおそれはなく需要者の通常有する注意力を基準として考慮すれば容易に区別することができるものである。 また,本件商標と引用商標2とは,いずれも,特定の称呼及び観念が生じないため,これを比較することはできない。 以上のことから,本件商標と引用商標2とは,外観において,これらは容易に区別できるものであり,称呼及び観念においては,これらが紛れるおそれはないから,これらの点を総合的に考慮すれば,本件商標と引用商標2とは,非類似の商標であって,別異の商標といわなければならない。 その他,本件商標と引用商標2とが類似するというべき事情は見いだせない。 (ウ)本件商標と引用商標の類否について 上記(ア)及び(イ)のとおり,本件商標と引用商標とは,外観において,これらは容易に区別できるものであり,称呼及び観念においては,これらが紛れるおそれはないから,これらの点を総合的に考慮すれば,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であって,別異の商標といわざるを得ない。 (3)商標法第4条第1項第11号該当性について 上記(2)ウ(ア)のとおり,本件商標と引用商標と1は,別異の商標である。 したがって,本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品とは,同一又は類似するものであるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第10号該当性について 商標法第4条第1項第10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定している。 そして,引用商標は,上記(1)のとおり,申立人の業務に係る商品を表すものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。 そうすると,本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品とは,同一又は類似するものであるとしても,本件商標は,同号の適用要件を欠くものといわざるを得ない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。 (5)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 引用商標の周知性について 上記(1)のとおり,引用商標は,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができない。 イ 引用商標の独創性について 引用商標1は,長さの異なる太い横線で,左右に両翼を広げ,右方を向いた猛禽類をデザイン化した図形と,この図形の中央下部に重なるように「GA」の文字を白抜きに配した構成からなるものであり,引用商標2は,長さの異なる太い横線で,左右に両翼を広げ,右方を向いた猛禽類をデザイン化した図形からなるものであり,いずれの商標もありふれたデザインである等の事情は見受けられないことから,引用商標の独創性は高いものといえる。 ウ 本件商標と引用商標との類似性について 上記(2)ウ(ウ)のとおり,本件商標と引用商標とは別異の商標であり,全体として異なる視覚的印象や記憶を与えるものであって,類似性の程度は高いとはいえないものである。 エ 本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との関連性について 本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品は,いずれも,被服や被服に関連する商品であり,これらは,製造業者,販売場所及び需要者等を共通にするものである。 したがって,本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品とは,密接な関連性を有している。 オ 出所混同のおそれについて 本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品は,製造業者,販売場所及び需要者等を共通にするものであり,かつ,引用商標は,独創性が高いものであるとしても,上記アのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,申立人の業務に係る商品を表示する商標として周知,著名とはいえず,また,上記ウのとおり,引用商標は,本件商標とは,別異の商標であるとすると,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者が,引用商標又は申立人を連想又は想起するとは考え難い。 そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,その取引者,需要者をして,当該商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできない。 その他,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (6)商標法第4条第1項第19号該当性について 商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。 そして,上記(1)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国又は外国の需要者の間で,申立人の業務を表すものとして,広く認識されていたとは認められないものであり,かつ,上記(2)のとおり,引用商標と本件商標とは非類似の商標であって,別異のものであるから,同号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。 そして,請求人の提出に係る証拠によれば,本件商標権者による本件商標の使用が引用商標に蓄積された名声や信用にフリーライドし,それらを毀損させるものというべき事実は見いだし難いばかりでなく,他に,本件商標は不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正の目的をもって使用をするものであることを具体的に示す証拠はない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (7)申立人の主張について 申立人は,本件商標は,これを看取した需要者をして容易に,鳥が両翼を左右に大きく広げた状態を表していると認知させ,その状態を,横線を重ねることにより表現しているから,引用商標が,鷲の両翼を広げて頭を向かって左方向に向けた図形を表しており,その表現方法が横線を重ねることにより表現するという技法を用いており,図形の外観と印象が極めて近似している。また,称呼については,本件商標は特定の称呼は生じないが,引用商標1は,「ジーエー」と称呼できるとして,本件商標との類否判断に影響を及ぼさないし,観念については,両商標ともに,鳥や鷲の観念を生じるものいえる旨主張している。 しかしながら,本件商標は,上記(2)アのとおり,同じ長さの,同じ太さの横線を左右に4本ずつ等間隔に上方に向けて階段状に広がるようにずらして配置し,これらの中央に1本の短い縦線を配した構成からなる図形であるところ,当該図形が,需要者において容易に既成の具体的な事物,事象を表したものとみることはできず,ましてや,本件商標は,引用商標のような,猛禽類とみられるような特徴はいっさい見られないものであるから,視覚的印象が似ているものとはいい難いものである。 したがって,申立人の上記主張は採用することができない。 (8)まとめ 以上のとおり,本件商標の登録は,その指定商品中,登録異議の申立てに係る指定商品について,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものとはいえず,他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから,同法第43条の3第4項の規定により,維持すべきである。 よって,結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標1) 別掲3(引用商標2:原本は,甲第11号証の2を参照。) |
異議決定日 | 2021-01-20 |
出願番号 | 商願2019-46846(T2019-46846) |
審決分類 |
T
1
652・
263-
Y
(W25)
T 1 652・ 271- Y (W25) T 1 652・ 222- Y (W25) T 1 652・ 261- Y (W25) T 1 652・ 25- Y (W25) T 1 652・ 262- Y (W25) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 赤澤 聡美 |
特許庁審判長 |
小松 里美 |
特許庁審判官 |
豊田 純一 榎本 政実 |
登録日 | 2020-01-07 |
登録番号 | 商標登録第6214148号(T6214148) |
権利者 | 朝日ゴルフ株式会社 |
代理人 | 中谷 武嗣 |
代理人 | 特許業務法人筒井国際特許事務所 |