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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W31
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W31
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない W31
管理番号 1368236 
審判番号 無効2018-890008 
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-05 
確定日 2020-10-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第5963342号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5963342号商標(以下「本件商標」という。)は,「キリンコーン」の文字を標準文字で表してなり,平成28年12月7日登録出願,第31類「とうもろこし(野菜),コーン(野菜),生食用又は加熱調理用のとうもろこし(野菜),食用のとうもろこし(野菜),スイートコーン,未成熟とうもろこし,とうもろこしの種子,とうもろこしの苗」を指定商品として,同29年6月22日に登録査定,同年7月14日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由において,商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録第5882929号商標(以下「引用商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成28年3月3日登録出願,第31類「とうもろこし」を指定商品として,同年9月16日に設定登録されたものであるが,その後,令和2年4月27日に商標登録を無効にすべき旨の審決が確定し,その抹消の登録が同年5月21日にされているものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の利益について
請求人は,自己の所有に係る引用商標を自己の業務に係る商品「とうもろこし」について使用し,現に業務を行っている。本件商標は,引用商標と同一の「キリンコーン」の文字を書してなり,その指定商品も互いに同一又は類似するものであるから,被請求人がこれをその指定商品に使用するときには,請求人の事業に甚大な影響が生じる。
また請求人は,別掲のとおりの商標を平成29年1月4日に商標登録出願(商願2017-195号)したところ,本件商標を引用された拒絶理由通知を受け,登録査定の障碍になっている。
したがって,請求人は本件審判請求をするについて利害関係を有する。
2 無効事由
本件商標は,商標法第3条第1項柱書,同法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当し,同法第46条第1項第1号により,その登録を無効にすべきものである。
(1)商標法第3条第1項柱書について
被請求人は,本件商標をその指定商品について実際に使用しておらず,また使用する蓋然性を有していないことが明らかである。
被請求人の主な事業は「ビール等のアルコール飲料,清涼飲料」である。とりわけ本件商標の指定商品「とうもろこし」を取り扱った事実は見当たらないし,その関連するグループ企業においても指定商品「とうもろこし」を取り扱っている事実は見られない。
したがって,本件商標は,自己の業務に係る商品又は役務に使用する商標とはいえず,商標登録を受けることができないものであるから,商標法第3条第1項柱書に該当し,その登録は無効である。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標は,構成文字を同じくし,外観において差異を有するものの,称呼及び観念を同じにする同一又は類似の商標である。
平成29年1月より採用された国際分類表第11-2017版対応「商品及び役務の区分」に基づく類似商品・役務審査基準に「とうもろこし(穀物)」及び「とうもろこし(野菜)」が追加された経緯,辞書類の記載,インターネットで検索される商品「とうもろこし」の取引の実情及び一般消費者等取引者,需要者の認識等を総合勘案すれば,引用商標の指定商品第31類「とうもろこし」は,「とうもろこし(穀物)」及び「とうもろこし(野菜)」の両方に属する商品であるから,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは,互いに同一又は類似するものである。
よって,本件商標と引用商標は同一又は類似する商標であって,同一又は類似する商品に使用するものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は,引用商標と同一又は類似し,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品に使用するものであり,請求人が,インターネットを利用した通信販売を行っている事実を承知のうえで,その業務を妨害する目的で出願,登録を受けたものである。
引用商標の出願から登録までの間,被請求人は,引用商標について,出願の取り下げをするよう申し入れた。これに対し,請求人は,特許庁の審査結果に委ねる旨回答し,審査結果は登録査定となった。その後,被請求人は,引用商標の商標登録の放棄をするように要求してきたが,請求人は既に引用商標を商品「とうもろこし」に使用する準備を行っておりこれに応じる意思がない旨返答した。そのような経緯の最中に本件商標が出願,登録された。
かかる本件商標の出願から登録までの経緯をみれば,たとえ,引用商標が商標法第4条第1項第19号の要件である周知商標とはいえなくとも不正目的以外の何物でもない。
したがって,本件商標は,請求人が,引用商標を指定商品について使用し事業を行っていることを知っており,これを妨害する目的で出願,登録を受けたものであることが明らかであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
1 商標法第3条第1項柱書について
(1)商標法第3条第1項柱書の要件について
商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用している商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標であると解される。そして,出願人が法人の場合は,出願商標の指定商品及び指定役務が法人の目的の範囲内に含まれるときは,そのような商標登録出願をしている以上,その登録査定時において,およそ当該商標を使用する意思が認められないなどの特段の事情が無い限り,当該商標を使用する意思があるものと解される(知財高裁平成27年(行ケ)第10221号同28年8月9日判決参照)。
(2)被請求人の事業について
被請求人は,「食料品の製造販売」,「肥料及び飼料の製造販売」及び「種苗及び花き,蔬菜,果実等農産物の生産販売」等の事業を営む会社の事業活動を支配・管理すること等を事業の目的とするところ(乙1),本件商標の指定商品は,食料品又は農産物に属する商品であるから,被請求人の事業の範囲内のものである。
(3)本件商標を指定商品に使用する意思
「コーン」の文字が,単に「トウモロコシ」を意味するものとして広く一般的に認識されること(乙13)に加えて,「KIRIN」,「キリン」及び「麒麟」の商標(以下「本件標章」という。)がキリングループの業務に係る商品を表示する商標として周知著名であることを考慮すると(乙9?乙12),本件商標がその指定商品に使用される場合,「キリン」の部分は,それのみでも,キリングループの商品を示す商標として機能を発揮しているといえる。
被請求人は,本件標章を個々の商品名を表示する商標(ペットマーク)として採択することは考えておらず,本件標章と社会通念上同一といえる本件商標を個々の商品名を表示する商標に採択することが選択肢の一つと考えている。
また,現に本件標章を付した野菜のとうもろこし(以下「本件商品」という。)を購入する需要者がこれを「キリンコーン」と称呼して取引する可能性があり,将来的にも,本件標章を付した本件商品の販売に際し,その広告,価格表又は取引書類等に「キリンコーン」の文字を表示する可能性もあるから,本件商標は,被請求人が使用する意思のある商標といえる。
以上よりすれば,本件商標は,その登録査定時に,少なくとも,将来自己の業務に係る商品に使用する意思のある商標といえるものであるから,商標法第3条第1項柱書の「自己の業務について使用をする商標」である。
請求人は,本件商標は,自己の業務に係る商品又は役務に使用する商標とはいえず,商標登録を受けることができないものであるから,商標法第3条第1項柱書に該当し,その登録は無効である旨主張しているが,本件商標の指定商品が被請求人の事業の目的の範囲に含まれ,本件商標が被請求人の業務に係る商品について使用される商標であるから,請求人の当該主張には,理由がない。
2 商標法第4条第1項第11号について
被請求人は,本件審判の請求の日前に,引用商標の登録を無効にすることについて審判を請求しており(無効2017-890075),引用商標の登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは,引用商標に係る商標権は,初めから存在しなかったものとなるため,本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当することはない。
3 商標法第4条第1項第19号について
引用商標は,商標法第4条第1項第19号の「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当せず,また,そのことを認めるに足りる証拠はない。
被請求人の周知著名な商標「キリン」に一般名称の「コーン」を加えた商標を出願することが,請求人の事業を妨害する目的での出願と指摘される理由はない。
被請求人は,食料品又は農産物の生産販売と密接な関係を有する事業をしており,数ある農産物のうちでも,とうもろこし(野菜)等の野菜については,販売上のリスクもあり得ると考え,本件商標の商標登録出願をしたものであり,不正の目的はない。
商標法第4条第1項第19号に該当するという,請求人の主張は失当である。
4 結論
よって,請求人が主張する無効事由はいずれも存せず,請求人の請求には理由がない。

第5 当審の判断
請求人が,本件審判を請求する法律上の利益を有することについて,当事者間に争いがないので,本案に入って審理する。
1 商標法第3条第1項柱書の該当性について
(1)商標法第3条第1項は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」と規定し,登録出願に係る商標がその出願人において,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件として定めている。
そして,商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」における「使用をする」とは,「現在使用をしているもの及び使用をする意思があり,かつ,近い将来において信用の蓄積があるだろうと推定されるものの両方を含む。」と解される(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕)。
(2)被請求人提出の証拠及び同人の主張によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被請求人は,「食料品の製造販売」,「肥料及び飼料の製造販売」及び「種苗及び花き,蔬菜,果実等農産物の生産販売」等の事業を営む会社の事業活動を支配・管理すること等を事業の目的としている(乙1)。
イ 被請求人の子会社であるキリンビール株式会社(乙3)は,平成29年(2017年)11月25日,JA兵庫六甲と協働で野菜等の農産物の販売を行うイベントを開催した(乙4)。
本件商標の指定商品には,現在行っている事業に関連する商品を含むものである。
(3)上記(2)によれば,以下のとおり認めるのが相当である。
被請求人提出の証拠によれば,本件商標の登録査定時の前及び現在において,被請求人が本件商標を使用した事実は認められない。
しかしながら,上記(1)のとおり,商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」とは,現に行っている業務に係る商品又は役務について,現に使用している場合に限らず,将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されることから,仮に,被請求人が,本件商標の登録査定時に,その指定商品に係る業務を行っていないとしても,当該業務を将来行う意思があれば足りるといえる。
そして,現在において,商標権者が本件商標をその指定商品について使用をしていないとしても,将来においてまで使用する意思が全くないとはいい難いものであり,また,請求人が提出した証拠からは,商標権者が将来においても本件商標を使用する意思がないものとみるべき具体的な証拠は見いだせない。そして,本件商標の登録査定時に,商標権者が本件指定商品に係る事業について,現に行っているか又は行う予定があるかについて,格別に合理的疑義があったものと認めることはできないものである。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないとはいえない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
請求人が,商標法第4条第1項第11号に該当するとして,引用した引用商標の商標権は,商標登録原簿によれば,上記第2のとおり,令和2年5月21日に本商標権の抹消の登録がされているものである。
そうすると,引用商標に係る商標権は,初めから存在しなかったものとみなされるから,当該引用商標をもって本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした請求人の主張は理由がなくなったものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に揚げるものを除く。)」と規定されている。
そして,請求人は,引用商標が,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標である旨の主張はしておらず,その証拠の提出もない。
そうすると,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とは認められないものであって,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
そして,不正の目的についても,請求人は,「本件商標は,請求人がインターネットを利用した通信販売を行っている事実を承知のうえで,その業務を妨害する目的で出願,登録を受けた」旨主張しているが,引用商標の周知・著名性は上記のとおり認められないものであり,請求人が提出した甲各号証を総合的にみても,被請求人が,本件商標を使用して請求人の業務を妨害しているなどの事実は見いだせないし,他に,本件商標が不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項柱書,同法第4条第1項第11号及び同項第19号に違反してされたものではないから,同法第46条の第1項の規定により,その登録を無効とするべきでない。
よって,結論のとおり審決する。

別掲 引用商標及び商願2017-195号商標(色彩は原本参照。)


別掲
審理終結日 2020-08-25 
結審通知日 2020-08-27 
審決日 2020-09-08 
出願番号 商願2016-137968(T2016-137968) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (W31)
T 1 11・ 26- Y (W31)
T 1 11・ 222- Y (W31)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 真規子 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 平澤 芳行
佐藤 松江
登録日 2017-07-14 
登録番号 商標登録第5963342号(T5963342) 
商標の称呼 キリンコーン、キリン 
代理人 星原 正明 
代理人 藤森 裕司 
代理人 飯島 紳行 
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所 
代理人 岡田 健太郎 
代理人 辻居 弘平 

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