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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W05 審判 全部申立て 登録を維持 W05 審判 全部申立て 登録を維持 W05 審判 全部申立て 登録を維持 W05 |
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管理番号 | 1365180 |
異議申立番号 | 異議2019-900353 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-04 |
確定日 | 2020-07-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6182168号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6182168号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6182168号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成よりなり,平成30年10月24日に登録出願,第5類「乳幼児用粉乳,乳幼児用飲料,乳幼児用食品」を指定商品として,令和元年8月16日に登録査定,同年9月20日に設定登録されたものである。 2 引用商標等 (1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する商標は次のアないしケのとおりであり(以下,それらをまとめて「引用商標」という。),いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 ア 登録第5115614号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 登録出願日:平成19年2月7日 優先権主張:2006年(平成18年)9月7日 ニュージーランド 設定登録日:平成20年2月29日 指定商品及び指定役務:第5類「動物の人工受精用精液・DNA・胚・卵子,乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク」,第29類「牛乳,全乳製のクリーム,その他のクリーム,全乳製の粉乳,脱脂粉乳,その他の粉乳,乳清,乳清を加味した乳製品,バター,チーズ,乳飲料,その他の乳製品」及び第44類「獣医業,動物の飼育,育種目的の為の動物に関する臨床検査」 イ 登録第5112243号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:別掲3のとおり 登録出願日:平成19年2月7日 優先権主張:2006年(平成18年)8月30日 ニュージーランド 設定登録日:平成20年2月22日 指定商品及び指定役務:第5類「動物の人工受精用精液・DNA・胚・卵子,乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク」及び第44類「獣医業,動物の飼育,育種目的の為の動物に関する臨床検査」 ウ 登録第4867135号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲4のとおり 登録出願日:平成16年5月21日 設定登録日:平成17年5月27日 指定商品:第29類「牛乳,全乳製のクリーム,その他のクリーム,全乳製の粉乳,脱脂粉乳,その他の粉乳,乳清,乳清を加味した乳製品,バター,チーズ,乳飲料,その他の乳製品」 エ 登録第6044549号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲5のとおり 登録出願日:平成29年9月5日 設定登録日:平成30年5月18日 指定商品:第5類「乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,栄養補助食品,プロテインを主原料とする栄養補助食品」及び第29類「粉乳,牛乳,クリーム,バター,チーズ,ヨーグルト,乳飲料」 オ 登録第6044550号商標(以下「引用商標5」という。) 商標の構成:別掲6のとおり 登録出願日:平成29年9月5日 設定登録日:平成30年5月18日 指定商品:第5類「乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,栄養補助食品,プロテインを主原料とする栄養補助食品」及び第29類「粉乳,牛乳,クリーム,バター,チーズ,ヨーグルト,乳飲料」 カ 登録第6102183号商標(以下「引用商標6」という。) 商標の構成:別掲7のとおり 登録出願日:平成29年9月5日 設定登録日:平成30年11月30日 指定商品:第5類「乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク,食餌療法用飲料,食餌療法用食品」及び第29類「粉乳,牛乳,クリーム,バター,チーズ,ヨーグルト,乳飲料」 キ 登録第6044548号商標(以下「引用商標7」という。) 商標の構成:a2 MILK(標準文字) 登録出願日:平成29年9月5日 設定登録日:平成30年5月18日 指定商品:第5類「乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,栄養補助食品,プロテインを主原料とする栄養補助食品」及び第29類「粉乳,牛乳,クリーム,バター,チーズ,ヨーグルト,乳飲料」 ク 登録第6048401号商標(以下「引用商標8」という。) 商標の構成:a2 Store(標準文字) 登録出願日:平成29年11月9日 優先権主張:2017年(平成29年)9月26日 ニュージーランド 設定登録日:平成30年6月1日 指定商品及び指定役務:第5類「乳児用食品,乳児用粉ミルク,食餌療法用食品,食餌療法用飲料,栄養補助食品,プロテインを主原料とする栄養補助食品」,第9類「コンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),電子出版物(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)」,第29類「粉乳,牛乳,バター,チーズ,クリーム,ヨーグルト,乳飲料」,第30類「アイスクリーム,氷菓,フローズンヨーグルト,デザート菓子,デザートプディング,冷菓,ペストリー(菓子),菓子」及び第35類「乳児用食品・乳児用粉ミルク・食餌療法用食品・食餌療法用飲料・栄養補助食品・プロテインを主原料とする栄養補助食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,粉乳・牛乳・バター・チーズ・クリーム・ヨーグルト・乳飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,アイスクリーム・氷菓・フローズンヨーグルト・デザート菓子・デザートプディング・冷菓・ペストリー(菓子)・菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,オンラインによる乳児用食品・乳児用粉ミルク・食餌療法用食品・食餌療法用飲料・栄養補助食品・プロテインを主原料とする栄養補助食品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,オンラインによる粉乳・牛乳・バター・チーズ・クリーム・ヨーグルト・乳飲料の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,オンラインによるアイスクリーム・氷菓・フローズンヨーグルト・デザート菓子・デザートプディング・冷菓・ペストリー(菓子)・菓子の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,広告,販売促進のための企画及びその実行の代理,顧客に対するロイヤルティプログラム(マーケティング)の運営及び管理」 ケ 登録第5743365号商標(以下「引用商標9」という。) 商標の構成:THE a2 MILK COMPANY(標準文字) 登録出願日:平成26年4月1日 優先権主張:2014年(平成26年)2月24日 サモア独立国 設定登録日:平成27年2月20日 指定商品:第5類「乳児用食品,乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク,食餌療法用食品及び飲料」及び第29類「牛乳,クリーム(乳製品),全乳製の粉乳・脱脂粉乳・その他の粉乳(乳幼児用のものを除く。),乳清,乳清を加味した乳製品,バター,チーズ,乳飲料,その他の乳製品」 (2)申立人が,本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するとして引用する商標は,別掲8のとおりであり(以下「使用商標」という。),申立人が「乳製品」ついて使用し,オーストラリア連邦において広く認識されていると主張するものである。 3 登録異議の申立ての理由 申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第19号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第80号証を提出した。 (1)商標法第4条第1項第11号の該当性について ア 商標の類否について (ア)称呼について 機器や部品類ではない牛乳等の乳製品の取引分野においては,一般の需要者,取引者が英文字と数字の組合せだけで,品質や用途などの特定を行っているという状況はない。 したがって,商品ごとに判断した場合,乳製品に関して「a2」の文字に識別力が欠如しているとし,常に類否判断の対象から除外することには妥当性がない。 以上のように,「a2」の文字部分は,未だ引用商標の指定商品において識別力を発揮しており,引用商標からは「エーツー」の称呼が自然に生じるものである。 本件商標は,「a2」の文字を太文字で大きく表した構成となっている。 本件商標の称呼に関しては,下方の片仮名により,「エーツーエーツー」の称呼が生じるところ,「a2」の文字は顕著に大きく表されていることから,簡易迅速性が求められる通常取引おいて,一般の需要者及び取引者においては,「エーツーエーツー」だけでなく,単に「エーツー」と称呼する可能性は十分にあり,むしろその称呼の方が自然である。 このように,本件商標と引用商標は,称呼の共通性から実取引上,誤認,混同を生じるおそれがあり,称呼の共通性から類似する商標である。 (イ)観念について 牛乳には,カゼインたん白質が含まれており,その主なカゼインの一つがベータカゼインである。様々な型のベータカゼインの中で最も一般的なものが,ベータカゼインA1及びベータカゼインA2と呼ばれるものである。牛乳の種類としては,ベータカゼインA1を多く含む牛乳と,ベータカゼインA2を多く含む牛乳が存在する(甲23)。 すなわち,「A2」は牛乳のタンパク質成分の型を表しているものであるが,この情報は,栄養学等の科学的専門分野に精通している乳製品の研究者にとっては通常の知識の範囲であるものの,一般の消費者,取引者がこの情報を知っている状況にはない。 したがって,「A2」の表示であっても「a2」の表示であっても,一般消費者や取引者が,乳製品との関連において看取したとしても,その科学的な意味までも理解することはできず「A2」の表示であっても,「a2」の表示であっても,一般の消費者や販売者においては特別な観念は想起できない。 一方,引用商標の要部は「a2」であり,上述のとおり「a2」から特定の観念は生じないため,商標全体としても特定の観念は生じない。 したがって,本件商標と引用商標とは,観念において比較することはできない。 (ウ)外観について 本件商標と引用商標1ないし引用商標6とは,細部において相違するところはあるが,商標全体から受ける視覚的印象の観点からみれば,一般需要者が見間違いを起こしやすく,混同してしまう可能性は十分にある。 本件商標と引用商標7ないし引用商標9は,全体観察をする場合,混同を生じるほど類似しているとはいえないと考えるが,要部の称呼の共通性を凌駕する程,外観において相違するものではない。 (エ)商標の類似性についてのまとめ 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,構成において異なるところはあるものの,実際の取引場面においては,称呼の共通性から商品の出所を混同するおそれがあり,また観念においては,特定の観念が生じないことから比較することが出来ない。さらに外観においては,本件商標と引用商標1ないし引用商標6は,一般需要者等に見間違い及び混同を引き起こすほど類似しており,本件商標と引用商標7ないし引用商標9は,全体として混同を生じるほど類似しているとはいえないが,その称呼の共通性を覆すほどの特徴はないものである。 したがって,本件商標と引用商標とは全体として類似するものである。 イ 指定商品の類否 本件商標の指定商品である第5類「乳幼児用粉乳,乳幼児用飲料,乳幼児用食品」は,引用商標の指定商品中例えば第5類「乳児用牛乳及び乳児用粉ミルク」,例えば第29類「粉乳,牛乳」,及び指定役務中例えば第35類「乳児用食品・乳児用粉ミルク・食餌療法用食品・食餌療法用飲料・栄養補助食品・プロテインを主原料とする栄養補助食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」などと類似している。 ウ 審決例 不服2005-25214において,「濃淡が異なるやや図案化した『fTC』の文字とその左側にハート状の図形を配し,それを3個横一列に表してなる商標」と「FTC」について,外観において相違し,観念上比較すべくもないものであるとしても,その称呼を共通にする類似の商標といわなければならないと判断されている(甲24)。 エ 小括 以上述べたように,本件商標と引用商標は「エーツー」の称呼を共通にする類似の商標であり,観念については比較することができず,外観についても,本件商標と引用商標1ないし引用商標6は類似しており,また,本件商標の指定商品は引用商標の指定商品及び指定役務と類似する。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第19号について 申立人は,オーストラリア連邦において,「a2」の文字を含んだ数種の商標を登録及び使用し,需要者の間に広く認識されている。中でも,使用商標は,最も多くの商品に使用され,宣伝広告においても主要商標として広範囲かつ大々的に使用されている。 したがって,商標法第4条第1項第19号については,以下に述べるオーストラリア連邦における使用商標の周知・著名性の証明によって適用される。 ア オーストラリア連邦における使用商標の周知・著名性 (ア)The a2 Milk Company Limitedの歴史 申立人の前身であるA2 Corporation Limitedは,2000年にニュージーランド国で設立され,2014年4月に,会社名がThe a2 Milk Company Limitedに変更された。申立人は,2004年にニュージーランド証券取引所(NZX)に,2015年にオーストラリア証券取引所(ASX)に上場した。それ以来,売上高の増大と共に株価も上昇してきた(甲25)。現在では,オーストラリア連邦を最重要マーケットとし,ニュージーランド,アメリカ合衆国,イギリス,中国,日本,アセアン諸国等において,世界的規模で活発に事業展開している。 申立人は,研究開発の場において,A1プロテインを含まないA2プロテインのみの乳製品を消費者に提供することをコーポレートミッションとし,その方針下に牛乳を主力商品とする多種の乳製品を販売している。申立人は,自社の科学的研究に基づき,A1プロテインを含む乳製品は健康被害を引き起こすと考え(甲26),消化機能の弱い人でも安心して摂取できる乳製品として,A2プロテインのみのミルクを提供するようたゆまぬ企業努力を続けてきた。申立人が,オーストラリア連邦において,逸早くA2プロテインのみのミルクの製造販売を開始したパイオニア的存在であることは,インターネット版総合経済情報サイトのSankeiBizの記事で紹介されている(甲27)。 なお,上述したように,科学的な用語としての「A1プロテイン」や「A2プロテイン」は一般の消費者においては知識のない語であり,オーストラリア連邦においても「a2」は識別力を発揮している。 申立人は,近年の健康志向ブームと相まって,使用商標のブランドで,ミルクの販売を行い,その人気と認知度は年々上昇し,2019年度(2018年7月1日?2019年6月30日)のグループ企業全体の総売上高は,約NZ$13億(約913億円,NZ$=70円で換算,以下同じ。),前年比41.4%増を記録し(2018-2019年次報告書の抜粋,甲28),2019年下半期には,グループ企業全体の総売上高は約NZ$8億(約564億円),前年比31.8%増を記録した(2018-2019年次報告書の抜粋,甲29)。 2018年には,ニュージーランド最大手の酪農家であるフォンテラ社と原料供給・製品製造・販売について包括的戦略的パートナーシップを締結するなど(甲30),更に事業を拡大させている。このことは,インターネット上のビジネス記事やブログでも度々取り上げられている(甲31)。 (イ)グループ企業の総売上高及びオーストラリア連邦における売上高 申立人のグループ企業全体及びオーストラリア連邦における売上高は,2011年度(2010年7月1日?2011年6月30日。以下同様。)はそれぞれ約29.5億円から,2019年度は約913.0億円及び約589.7億円と,2010年から2019年にかけて着実に売上高を伸ばし続け,約9年間でグループ企業全体では約31倍,オーストラリアにおいては約20倍となった。 (ウ)オーストラリア連邦におけるマーケットシェア 各乳製品のオーストラリア連邦におけるマーケットシェアは,ミルクが2012年5月ないし2019年6月で各年8.0%ないし11.2%,乳児用調製粉乳が2013年3月ないし2019年3月で各年0.5%ないし36.8%,粉ミルクが2018年7月ないし2019年6月で18.1%,アイスクリームが2015年3月ないし2016年3月で0.4%,クリームが2016年4月ないし2017年4月で0.8%であった。 特に,ミルクのマーケットシェアは,2019年末時点で11.3%,2019年下半期の売上高は約52.29億円,乳児用調整粉乳の2019年下半期の売上高は246.4億円を記録した。これらのマーケットシェア及び売上高からも,申立人の乳製品がオーストラリアにおいて主要なブランドになっていることがわかる。 (エ)販売店及び商品提供場所 使用商標など「a2」の文字を含む商標(以下「使用商標等」という。)の付された申立人の乳製品は,オーストラリア連邦だけでも,2大スーパーマーケットを含む3,395以上のストアで販売されており(甲32),その販売店の数は現在も増え続けている。 さらに,申立人の乳製品は,シドニー及びメルボルンを中心に,2009年以来250以上のカフェで使用されている(甲33)。 (オ)商品パッケージ及び商品陳列の様子 使用商標の付された申立人の乳製品は,ストアの中でも主要通路側に配置され,消費者の目に付きやすく,かつ商品を手に取り易い場所に陳列されている(甲34)。使用商標等を付した商品パッケージを2003年から使用し続けた結果(甲35),オーストラリア連邦における消費者の間で「a2」ブランドの乳製品は認知された。また,当初から標章には常に「TM」シンボルを付し,その標章が申立人の商標であることを消費者に認識してもらうように努めてきた。 (カ)宣伝広告 a 宣伝広告費用 申立人は,特に2010年頃から大規模な宣伝広告及びキャンペーン活動を行ってきた。グループ企業全体の宣伝広告費用は,2013年度ないし2019年度で各年約3.2億円ないし約94.7億円である。 特に,オーストラリア連邦において宣伝広告に力を注いだ結果,消費者の間で使用商標等を付した商品の認知度は飛躍的に高まった。 b テレビ・ラジオ 申立人は,2004年からテレビやラジオにおいて多くの宣伝活動及びキャンペーンを行った(甲36?甲50)。 これらコマーシャルやキャンペーンの中で,使用商標等が画面に何度も表示され,また,「a2」の名称が繰り返し語られ,オーストラリア連邦の視聴者及びリスナーに申立人の商品ブランドが深く印象づけられた。 c 掲示板広告 申立人は,多くの沿道掲示板広告(甲51)及びショッピングセンターでの掲示板広告(甲52)を行った。 d オンライン広告 2010年2月から,バナー広告及びサイドバー広告を利用してオンライン広告を行っており(甲53),検索連動型広告及びバナー/サイドバー広告の到達度(広告閲覧数)は,ミルクが2010年2月ないし2016年6月で約784万及び約1億400万,乳児用調製粉乳が2013年9月ないし2016年6月で約45.8万及び約957万と高い到達度を記録した。 これらの数字からも,本件商標の出願時において,申立人の使用商標等を付した製品が広く消費者に知れ渡っていたということは明らかである。 e ストア内でのプロモーション及び販売促進用品 2015年8月にColesマーケットにおいて,アイスクリームの試食会を行った(甲54)。 ストア内では販売促進用品を使用し,商品を目立たせるよう工夫している(甲55)。 f 賞金キャンペーン 2016年及び2018年には,賞金当選キャンペーンを行った(甲56)。 g ウェブサイト インターネットアーカイブ(記録保管所)から入手した「a2 Australian Website(www.a2milk.com.au)」の印刷画面からも明らかなように,2005年から今日まで,申立人はウェブサイト上でも常にTMシンボルを付して使用商標等を使用し続けてきた(甲57)。 当該ウェブサイトへのアクセス数は,2015年1月ないし12月が約39.2万,2016年1月ないし12月が約47.0万と,多くの消費者にアクセスされた。 また,グループ全体では,ウェブサイト(投資家向けの情報サイト(甲58),アメリカ合衆国のサイト(甲59),中国のサイト(甲60))を開設している。 上記のように,長期,かつ,広範囲にわたって使用商標等をウェブサイトに使用し続けたことにより,当該商標は,多くの消費者に認知された。 h ソーシャルメディア 申立人は,Facebook,Twitterなどのソーシャルメディアにもアカウントを取得し,広告ページを開設している(甲61?甲65)。 i マスメディアによる報道 オーストラリア連邦において,申立人の経営戦略と製品に関しては,マスメディアで数多く取り上げられてきた。 2007年ないし2016年の間に多くの新聞に,申立人及び「a2」ブランドの製品に関する記事が掲載された(甲66)。その中には,オーストラリア連邦で有名な新聞が含まれている。これらの新聞を多数のオーストラリア人読者が購読していることに鑑みると,これらの膨大な量のプレス報道により,「a2」の文字を含む使用商標が,本件商標の出願時において,オーストラリア連邦の消費者の間に広く知られるようになっていたことは明らかである。 また,ラジオ放送やテレビ放送でも,申立人商品に関することが多く取り上げられた(甲67)。 j 2017年及び2018年にインターネット上で配信された記事 申立人及び申立人の商品に関する様々な記事がインターネット上で配信された(甲68?75)。これらの記事からも,申立人のブランドの認知度が飛躍的に高まったことが理解できる。 (キ)オーストラリア連邦及びその他の国での商標登録 申立人は,20年近く前から自社製品のブランドマークである「a2」の文字を含む商標をいくつも登録し(甲14,甲15,甲17,甲18,甲21),使用し続けている。また,オーストラリア連邦だけではなく,ニュージーランド,アメリカ合衆国,中国,日本等を含む世界35か国において多くの「a2」の文字を含む商標を出願又は登録している。 (ク)インターネット検索結果 申立人がオーストラリア連邦において周知・著名であることは,インターネット検索からも明らかである。検索エンジンGoogleの国設定を「オーストラリア」にし,「a2」の文字を検索すると,上位29件の内,22件が申立人のウェブサイト又は申立人の商品に関する記事であり(甲76),これは,a2ブランドがオーストラリア連邦において広く認識されていることを示している。 (ケ)特許庁の審査における判断 申立人の商標の周知・著名性については,日本国特許庁における過去の審査例における拒絶理由において,申立人の登録商標が引用されると共に,オーストラリア連邦における周知性の肯定的な判断も示されている(甲77?甲80)。 これらの出願については,その後登録査定されているが,申立人は,上記拒絶理由で述べられた「類似の認定」と「オーストラリア連邦における周知の認定」は正しいものと考えている。 イ 本件商標と使用商標の類似性について (ア)称呼について 本件商標は,二段併記の片仮名文字で表記されているとおり,「エーツーエーツー」の称呼が生ずるところ,該称呼は冗長であることから,一般需要者及び取引者においては,商品名として呼びやすいように「エーツーエーツー」を短縮し,「エーツー」と称呼するのが自然である。 一方,使用商標は,明らかに「a2」の文字が識別でき,この部分から「エーツー」の称呼が生じる。 このように,本件商標と使用商標は,同一の称呼を含み,実取引上,誤認・混同を生ずるおそれがあり,称呼の共通性から類似する商標である。 (イ)観念について 上記(1)ア(イ)で述べたとおり,「A2」は牛乳のタンパク質成分の型を表しているものであるが,一般消費者は,この情報を知っている状況にはなく,「A2」を乳製品との関連で看取したとしても,それは英文字と数字の組み合わせであって,その科学的な意味までも理解することはできない。 したがって,「A2」の表示であっても,「a2」の表示であっても,一般消費者や販売者においては,特別な観念は想起できない。 よって,本件商標と使用商標とは,観念において比較することはできない。 (ウ)外観について 本件商標と使用商標は細部において相違するところはあるが,商標全体から受ける視覚的印象の観点からみれば,一般消費者が容易に見間違いを起こしたり,混同してしまう可能性は十分ある。 (エ)商標の類似性のまとめ 本件商標と使用商標とは,構成において異なるところはあるものの,取引過程で販売場所と販売時を同じくした場合,称呼の共通性及び外観の類似性から商品の出所を混同するおそれがあるものである。 ウ 不正の目的について 上述のとおり,使用商標が,本件商標の出願日前よりオーストラリア連邦の需要者の間に広く認識されていたことは明らかであり,このような周知な使用商標と共通の称呼を有する類似の商標を出願し,登録することは,使用商標に蓄積された信用,名声及び顧客吸引力にただ乗りするものであり,使用商標の出所表示機能を希釈化させるおそれがある。 このような状況から,本件商標は,不正の目的をもって出願されたことが推認される。 エ 小括 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 当審の判断 (1)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標 本件商標は,別掲1のとおり,「a2」の欧文字及び数字の右上に小さな数字「2」を配し(以下「a22」と表示する。),そして,それらの下に「エーツーエーツー」の片仮名を表した構成からなるところ,その構成中の右上の小さな数字「2」は,二乗(同一の数(文字・式)二つを掛け合わせること。「広辞苑第六版」)を表すものと容易に看取させ,また,下段に「エーツーエーツー」の片仮名があることからすれば,「a22」の部分を「a2」の二乗を表したものと容易に理解するものといえること,また「エーツーエーツー」の称呼も格別冗長とはいえないものであるから,本件商標はその構成全体から「エーツーエーツー」の称呼のみを生じ,特定の観念は生じないというのが相当である。 なお,申立人は,本件商標から「エーツー」の称呼が生じるとして,審決例を提示しているが,当該審決例の登録商標は,図形と文字とを結合したものを3つ横に並べて表示されているものであり,本件商標とは,図形の有無や態様が明らかに異なるから,当該審決の判断が本件商標の判断において,そのまま当てはまるとはいえず,また,本件商標中の「a2」の部分が需要者に強く印象づけるとか,「a2」以外の部分が識別標識としての機能がないといった事情は見いだせない。 したがって,上記申立人の主張を認めることはできない。 イ 引用商標 (ア)引用商標1ないし引用商標6は,別掲2ないし別掲7のとおりの構成からなり,図形と文字との結合商標であるところ,これらよりは,「エーツー」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 (イ)引用商標7は,上記2(1)キのとおり,「a2 MILK」の文字を標準文字で表してなるところ,これよりは,「エーツーミルク」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。 (ウ)引用商標8は,上記2(1)クのとおり,「a2 Store」の文字を標準文字で表してなるところ,これよりは,「エーツーストア」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。 (エ)引用商標9は,上記2(1)ケのとおり,「THE a2 MILK COMPANY」の文字を標準文字で表してなるところ,これよりは,「ザエーツーミルクカンパニー」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。 ウ 本件商標と引用商標との類否 (ア)外観について 上記ア及びイのとおり,本件商標と引用商標とは,いずれも「a2」の欧文字及び数字を共通にするとしても,他の文字の有無や図形の相違などにより,商標全体としてみたときには,外観において,明らかな差異を有するものであるから,本件商標と引用商標とは,外観において相紛れるおそれはない。 (イ)称呼について 本件商標からは,上記アのとおり,「エーツーエーツー」の称呼のみを生じるのに対し,引用商標からは,上記イのとおり,「エーツー」,「エーツーミルク」,「エーツーストア」又は「ザエーツーミルクカンパニー」の称呼を生じる。 そして,本件商標から生じる「エーツーエーツー」の称呼と,引用商標から生じる「エーツー」,「エーツーミルク」,「エーツーストア」又は「ザエーツーミルクカンパニー」の称呼とは,音構成及び構成音数において明らかな差異を有することから,称呼において相紛れるおそれはない。 (ウ)観念について 上記ア及びイのとおり,本件商標及び引用商標からは,特定の観念は生じないものであるから,観念において比較することはできない。 (エ)小括 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,観念において比較できないとしても,外観及び称呼において相紛れるおそれのないことが明らかであるから,これらの商標が需要者に与える印象,記憶,連想等を総合してみれば,両商標は,非類似の商標と判断するのが相当である。 したがって,本件商標は,引用商標と非類似のものというべきものであるから,その指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似であるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 (2)商標法第4条第1項第19号該当性について ア 使用商標のオーストラリア連邦における周知性について (ア)申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,申立人はニュージーランドのオークランドに所在し,同国,オーストラリア連邦,中国などにおいて牛乳など乳製品の販売を行っていること,申立人のグループ企業の総売上高は,2018年度約9.2億NZ$(約645.6億円),2019年度約13.0億NZ$(約913.0億円)であり,同じく宣伝広告費は2018年度約7,365万NZ$(約51.6億円),2019年度約1億3,530万NZ$(約94.7億円)であることが認められる(甲28)。 そして,申立人の商品(乳製品)は,2016年頃にオーストラリア連邦における乳製品市場で10%近いシェアであったこと(甲27),オーストラリア連邦においても,申立人の商品には使用商標など「a2」の文字を含む商標(使用商標等)が付され,また,同商品の広告などに使用商標等が用いられていること(甲34?甲39,甲42?甲44,甲47?甲49,甲51,甲58)がうかがえる。 しかしながら,オーストラリア連邦における申立人の商品の売上額,及び同じく使用商標を使用した商品の売上額を示す証拠は見いだせない。 (イ)上記(ア)のとおり,申立人はオーストラリア連邦において乳製品の販売等を行っており,グループ企業の総売上高が2019年度において約913億円であることに加え,申立人の商品は,2016年頃にオーストラリア連邦の乳製品市場で10%近いシェアであったこと及びオーストラリア連邦の主要な食料品チェーンなどで販売されていることがうかがえることを考慮すれば,申立人の商品は,オーストラリア連邦の需要者の間である程度知られているものということができる。 しかしながら,オーストラリア連邦における申立人の商品の売上額及び使用商標を使用した商品の売上額を示す証拠は見いだせないから,申立人の商品は,オーストラリア連邦の需要者の間に広く知られてものと認めることはできない。 なお,仮に申立人の商品が2016年頃にオーストラリア連邦の乳製品市場で10%近いシェアであったことが事実だとしても,その時点のみのものであるし,何より,かかるシェアが申立人の商品の周知性を基礎付けるほど高い市場シェアであると認めるに足りる証拠は見いだせない。 したがって,使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人の業務に係る商品「乳製品」を表示するものとしてオーストラリア連邦における需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 なお,使用商標は申立人の業務に係る商品を表示するものとして我が国又はオーストラリア連邦以外の外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることもできない。 イ 本件商標と使用商標との類否について 本件商標は,上記(1)アのとおり,その構成中「a22」の欧文字と数字に相応して「エーツーエーツー」の称呼のみを生じると判断するのが相当であり,その構成中,「a2」の欧文字と数字部分が,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。 そして,本件商標と,別掲8のとおりの使用商標とは,両者の外観,称呼,観念のいずれの点においても,及びそれらを総合してみても類似しないものであること明らかであり,他に本件商標と使用商標が類似するというべき事情は見いだせない。 したがって,本件商標と使用商標は非類似の商標であって,別異の商標というべきものである。 ウ 不正の目的について 申立人提出の全証拠及び職権で調査するも,本件商標が,使用商標の名声などにただ乗りする,使用商標の出所表示機能を希釈化させるなど不正の目的をもって使用をするものとの事情は見いだせない。 エ 小括 上記アのとおり,使用商標は申立人の業務に係る商品を表示するものとしてオーストラリア連邦の需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり,上記イのとおり,本件商標と使用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標であって別異のものというべきであり,更に上記ウのとおり,本件商標は不正の目的をもって使用をするものと認めることはできないものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (3)むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえず,他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきである。 よって,結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2 引用商標1(色彩は原本参照。) 別掲3 引用商標2 別掲4 引用商標3 別掲5 引用商標4 別掲6 引用商標5 別掲7 引用商標6 別掲8 使用商標 |
異議決定日 | 2020-07-13 |
出願番号 | 商願2018-132796(T2018-132796) |
審決分類 |
T
1
651・
263-
Y
(W05)
T 1 651・ 222- Y (W05) T 1 651・ 262- Y (W05) T 1 651・ 261- Y (W05) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 早川 真規子 |
特許庁審判長 |
佐藤 松江 |
特許庁審判官 |
須田 亮一 平澤 芳行 |
登録日 | 2019-09-20 |
登録番号 | 商標登録第6182168号(T6182168) |
権利者 | 株式会社オールダーランド |
商標の称呼 | エーツーエーツー、エイツーエイツー、エイニエイニ、エイツーツー、エイニニ |
代理人 | 江藤 聡明 |