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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2020890007 審決 商標
無効2019890040 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W3637
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W3637
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W3637
管理番号 1361561 
審判番号 無効2019-890033 
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-05-27 
確定日 2020-03-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5800865号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5800865号商標(以下「本件商標」という。)は,「逆瀬川住研」の文字を標準文字で表してなり,平成27年5月22日に登録出願,第36類「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」及び第37類「建築一式工事及び土木一式工事の請負」を指定役務として,同年9月15日に登録査定,同年10月23日に設定登録されたものである。

第2 引用標章
請求人が引用する標章は,「逆瀬川住研」の文字からなり(以下「引用標章」という場合がある。),昭和60年から平成20年まで成川氏設立の逆瀬川住研株式会社に使用された後,平成20年から現在まで,同社から事業を譲り受けた請求人が「建物・土地の売買又は賃借の代理又は媒介,建物・土地の管理」について使用し,需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第25号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効の事由
本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号又は同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により,その登録は無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)商標法第4条第1項第7号について
ア 成川氏設立の逆瀬川住研株式会社
請求人の前身となる逆瀬川住研株式会社(以下「旧逆瀬川住研」という。)が「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」及び「建築一式工事及び土木一式工事の請負」を主たる役務として,昭和60年12月24日に兵庫県宝塚市内に成川氏により設立された(甲2)。
そして,成川氏が平成20年5月26日に逝去したことにより,旧逆瀬川住研の代表権が,同月27日に故成川氏から成川氏の妻に移転している。
その後,旧逆瀬川住研は,平成22年12月30日に解散している(甲2)。
イ 請求人と旧逆瀬川住研の関係
請求人代表者の井原氏は,旧逆瀬川住研に勤務していたが,平成20年9月9日に請求人会社を設立するとともに,同月11日に旧逆瀬川住研における不動産業務全般(「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」)を代表権のある成川氏の妻から譲受し,譲受した当該業務を主たる役務として設立当時から現在まで提供している(甲3,甲4)。
ウ 被請求人と旧逆瀬川住研の関係
一方,被請求人代表者の森氏も,旧逆瀬川住研に勤務していたが,平成20年9月9日に被請求人会社を設立して,旧逆瀬川住研の建設部より「逆瀬川ハウジング株式会社」として独立し,「建築一式工事及び土木一式工事の請負」を主たる役務として提供していた(甲5?甲7)。
その後,平成24年7月1日に「逆瀬川はうじんぐ株式会社」に商号を変更している(甲5?甲7)。
なお,被請求人と請求人とは,資本関係も人的関係も有していない(甲3,甲5)。
エ 被請求人が不動産部門を追加した事実
平成27年2月28日に請求人会社を退職した坂元氏が,同年3月に被請求人会社に不動産専門スタッフとして入社すると同時に,被請求人は新たに不動産部門を立ち上げ,請求人の主たる役務である不動産業務(「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」)の提供を開始している(甲7?甲11)。
その後も,被請求人会社には,坂元氏以外に,平成29年2月28日に退社した宮本氏も入社している(甲12)。
なお,坂元氏及び宮本氏は,請求人会社に勤務している際に知り得た営業秘密について,請求人会社の退職後も,他の事業者に開示,漏洩もしくは使用しない旨を誓約している(甲10,甲12)。
被請求人は,旧逆瀬川住研が,成川氏の死亡後に,請求人代表者の井原氏が所属した営業部門である不動産仲介業務を請求人に譲渡した事実を認めている。
営業部門による上記不動産仲介業務は,旧逆瀬川住研の主要業務であり,当該不動産仲介業務が,成川氏の死亡後に引き継いだ成川氏の妻により,旧逆瀬川住研から請求人に譲渡された事実だけでなく,当該事実を被請求人が認識している事実について,旧逆瀬川住研の取締役であったA氏も証言している(甲24)。
したがって,旧逆瀬川住研の主要業務である不動産仲介業務を請求人が譲受した事実を被請求人が認知していることは,明白である。
オ 「逆瀬川はうじんぐ」(登録第5800864号商標)
被請求人は,本件商標の登録出願日と同一である平成27年5月22日に被請求人の商号の一部である「逆瀬川はうじんぐ」を標準文字とする商標を商標登録出願している(甲13)。「逆瀬川はうじんぐ」による商標は同年10月23日に登録されており,現在,被請求人が当該登録商標の商標権者となっている(甲13)。
力 被請求人が店舗の看板の表記を変更した事実
被請求人は,ウに示すように請求人と何らの関係も有していないにもかかわらず,平成22年4月30日に本件商標を含む「逆瀬川住研グループ」なる表記のある看板を被請求人会社の店舗の看板として設置し(甲14),当該看板を同27年3月まで設置し続けていた(甲15の1?3)。したがって,請求人が被請求人に対して,「逆瀬川住研グループ」なる表記を削除するよう依頼したところ,少なくとも同年10月以降に,被請求人は上記看板における「逆瀬川住研グループ」なる表記を削除している(甲15の4)。
キ 被請求人による広告媒体等への表記
被請求人は,少なくとも平成22年2月以降,工事現場の垂れ幕及び看板や広告媒体などに「逆瀬川ハウジング」なる表記や逆瀬川はうじんぐ商標による表記を行っているが,本件商標による表記を行っていない(甲16,甲17の1?4,甲18の1?9,甲19の1?47,甲20の1?59)。
特に,工事現場の看板については,平成22年5月28日付けのブログ記事にて,逆瀬川はうじんぐ商標の表記による看板を建設予定地(工事現場)に設置する旨を通知している(甲16)。
不正の目的であること
アないしウのように,被請求人代表者の森氏は,請求人代表者の井原氏と共に,旧逆瀬川住研に勤務しており,成川氏の逝去後となる平成20年9月9日に,被請求人会社と請求人会社とが同時に設立されている。
すなわち,被請求人は,請求人会社が本件商標を含む「逆瀬川住研株式会社」による商号で登記している事実を認知している。
また,被請求人は,キに示すように,平成22年2月以降,工事現場の垂れ幕及び看板や広告媒体などに本件商標の表記をしていないものの,カに示すように,店舗の看板に本件商標を含む表記を行っていたため,請求人は,役務の出所混同を防止すべく,当該表記の削除を依頼したところ,同27年10月以降に,当該表記を削除している。
このことから,被請求人は,本件商標が請求人の商標であることを認知している。
さらに,エに示すように,被請求人は,請求人会社の従業員であった坂元氏を雇用した。その上で,被請求人は,坂元氏が請求人に対して秘密保持を誓約しているにもかかわらず,被請求人の主たる役務である「建築一式工事及び土木一式工事の請負」による事業部門に坂元氏を従事させるのではなく,請求人の主たる役務である不動産業務(「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」)による事業部門に坂元氏を従事させて,坂元氏の雇用直後である平成27年3月に,当該不動産業務の提供を開始している。
そして,被請求人は,当該不動産業務の提供を開始した後に,平成27年5月22日に本件商標の登録出願と逆瀬川はうじんぐ商標の登録出願を同時に行っている。
すなわち,被請求人は,請求人の元従業員を雇用することで請求人の主たる役務と同一業務の提供による請求人との競業行為を開始するばかりか,上述のように請求人の商号を認知した上で,競業行為の開始後に,請求人の商標と同一となる本件商標の登録出願を行っている。
その上,本件商標の登録後も,エに示すように,被請求人は,請求人会社を退職したばかりの従業員を複数雇用することでも,請求人の元従業員の雇用により開始した業務に関する請求人のノウハウといった営業秘密を不正に取得し,当該業務による役務を提供し続けている。
これらのことから,被請求人は,請求人の主たる役務を立ち上げて請求人との競合行為を開始した上で,現在まで請求人の営業活動を不正に妨害している。
さらに,カに示すように,本件商標の登録出願以前には,本件商標を含む表記「逆瀬川住研グループ」を使用することで,請求人が築いた信用にただ乗りして被請求人の役務の価値を不正に高めようとしていた事実もある。
ケ 小括
クに示したように,被請求人は,請求人が「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・上地の管理」という主たる役務に「逆瀬川住研」という商標を使用していることを知った上で,本件商標の登録出願前には「逆瀬川住研グループ」なる表記による宣伝を行うばかりでなく,当該「逆瀬川住研グループ」なる表記の削除後は,請求人の主たる役務と同一の役務による事業を立ち上げた後に,本件商標が登録されていないことを奇貨として,請求人の事業の妨害という不正な目的をもって,剽窃的に本件商標の登録出願を行ったものである。
したがって,本件商標は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第10号について
ア 請求人商号について
請求人は,その商号が「逆瀬川住研株式会社」であり(甲3),旧逆瀬川住研から役務「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」による事業を譲り受けている(甲4)。
旧逆瀬川住研の商号も,請求人の商号と同一の「逆瀬川住研株式会社」である(甲2)。
旧逆瀬川住研は,昭和60年12月24日に兵庫県宝塚市内に設立され,平成22年12月30日に解散している(甲2)。
一方,請求人会社は,平成20年9月9日に兵庫県宝塚市内に設立され,同月11日に旧逆瀬川住研より事業を譲り受けた(甲3,甲4)。
このように,本件商標による商標「逆瀬川住研」は,昭和60年から平成20年までの24年間,旧逆瀬川住研に使用された後,平成20年から現在までの12年間,旧逆瀬川住研から事業を譲り受けた請求人により使用されている。
また,請求人会社を設立した平成20年に,請求人が所在している逆瀬川ビルの屋上に,請求人の商号と請求人の連絡先となる電話番号を表示した看板を設置している(甲21)。
請求人は,当該看板以外にも,宝塚市内の阪急電鉄逆瀬川駅前に請求人が所在していることを認知させるために,宝塚市伊子志3丁目2番29号,宝塚市伊子志2丁目12番23号,宝塚市栄町3丁目3番35号,宝塚市逆瀬川2丁目6番4号,宝塚市野上1丁目2番1号にも,請求人の商号を表示させた看板を設置している(甲22,甲23の1?4)。
したがって,商標「逆瀬川住研」が使用された場合,旧逆瀬川住研より事業を正式に譲り受けた請求人による役務であると,兵庫県宝塚市内で広く認知されている。
上述のように請求人の商号が商標として永年使用され続けているため,本件商標の登録出願時(平成27年5月22日)には,本件商標と同一の商標「逆瀬川住研」が,旧逆瀬川住研から事業を正式に譲受した請求人を表すものとして需要者の間に広く認識されている商標である。
また,請求人は,平成20年11月11日より本件審判を請求した令和元年5月24日まで約10年以上にわたって,商号「逆瀬川住研株式会社」を使用して営業活動を継続しており,本件商標と同一の商標「逆瀬川住研」は,請求人を表すものとして需要者の間に広く認識されている商標である。
イ 小括
以上のとおり,本件商標は,請求人が商標として使用する請求人の商号と同一又は類似のものであり,請求人を表すものとして需要者の間に広く認識されている商標であって,その指定役務も同一又は類似のものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである
(3)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は,商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるが,仮にこれに該当しない場合は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第2号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)被請求人代表者の森氏は,昭和60年に旧逆瀬川住研に入社し,取締役,取締役副社長まで務め,同社を独立退社した(甲2)。
請求人代表者の井原氏は旧逆瀬川住研の従業員となり,成川氏が死亡した後に,成川氏の妻が代表取締役社長,森氏が取締役副社長,井原氏が取締役になったが,旧逆瀬川住研は,解散することとなり井原氏が旧逆瀬川住研の不動産仲介業務を主として行うこととし,森氏が従前から業務を行っていた逆瀬川住研建設部の業務を続けることとなった。
被請求人は,逆瀬川ハウジング株式会社の商号で独立したものであって,旧逆瀬川住研のグループ会社として独立したものである。
(2)以上のことは,被請求人のホームページ(乙1,甲6)及びホームページ「会社案内」(乙2,甲7)からも明らかである。すなわち,会社案内(乙2,甲7)のでは,被請求人は旧逆瀬川住研の建設部門を独立させ,逆瀬川ハウジングとの商号をもって旧逆瀬川住研のグループ会社としてスタートしたもので,請求人も被請求人の同じ時期に会社をスタートさせているのである。被請求人は,請求人も旧逆瀬川住研のグループ会社として立ち上げたものだと考えている。
(3)請求人は,覚書(甲4)なるもので旧逆瀬川住研からその営業の譲渡を受けたものと主張している。
覚書(甲4)なるものによれば,不動産業務全般の無償の営業譲渡であり(第1項),譲渡の時期も定められていない(第2項)。また,覚書の第4項及び第5項をみてもわかるように旧逆瀬川住研の営業譲渡など覚書(甲4)によってなされてはいないといえるのである。
旧逆瀬川住研は請求人の営業譲渡がなされたものであるならば,不動産業務全般ができなくなっている旧逆瀬川住研の事業(それが不動産業務全般の事業であるのならば)を支援する余地はないといえるものである。
また,いつが営業譲渡の期日か不明であるが,その期日までに旧逆瀬川住研の資産状況を検討するという意味が何をいうのかも理解できない。覚書(甲4)の第5項の文書は,明らかに営業譲渡がなされるかどうか未定のままの状態を意味する文言といわざるを得ない。
以上のことからしても旧逆瀬川住研から請求人への営業譲渡がなされていないものといえるのである。
(4)請求人は,被請求人が請求人の(事実上)解雇(退職)した従業員を雇い入れ,請求人との競業行為を行った旨,主張している。
従業員は,被請求人を頼って雇い入れしてくれるよう懇請したので,雇い入れたもので両人とも競業行為を行うために雇い入れたものでは断じてない。
そもそも被請求人は設立時の会社定款の目的に「1.不動産の売買,賃貸,仲介及び管理」をあげており,不動産建築には,土地の仕入れが必要不可欠であることから,当初から仲介業務は行っていたものである。
(5)被請求人は旧逆瀬川住研のグループ会社を自負している。それゆえ「逆瀬川ハウジング」の看板の上に逆瀬川住研グループと記載したのである。ここでの「逆瀬川住研」とは旧逆瀬川住研のことを示すのである。被請求人は請求人のグループ会社になるつもりも,なったつもりもない。また,被請求人は「逆瀬川住研」の単独で名称を使うつもりもないし,使っていない。
(6)被請求人は,公序良俗違反で商標登録などしたことはない。社会の秩序・道徳的秩序を乱すようなことは断じてない。請求人も被請求人も旧逆瀬川住研の実体はグループ会社である。統合するはずの旧逆瀬川住研は解散してなくなっているが,両社とも旧逆瀬川住研,代表者であった成川氏の志を引き継ぐかたちで設立されたはずである。
したがって,本件商標は,公序良俗違反の商標登録であることはない。
2 商標法第4条1項第10号について
(1)請求人は旧逆瀬川住研から営業譲渡を受けたと主張するが有効な営業譲渡がなされていないことは,上記1(3)のとおりである。
覚書(甲4)なるものを作成する以前から営業譲渡契約と称する覚書締結の2日前から,逆瀬川住研の商号を使っているのである。
(2)商標法第4条第1項第10号の「需要者の間に広く認識されている商標」とは,請求人の商標ではなく旧逆瀬川住研である。請求人は,成川氏の承諾なく平成20年9月9日から勝手に逆瀬川住研の名前を使い出しただけである。
需要者の間で広く認識されている商標は旧逆瀬川住研だけである。成川氏の信用・外部評価などで営業等が成り立っていたのである。大会社ではない逆瀬川住研にとって代表者が誰であるかは,需要者の認識に重要な意味をもつ。それゆえ,被請求人は逆瀬川住研グループという名称にこだわったものである。
(3)請求人が平成20年9月9日に立ち上げた逆瀬川住研は,商号は同じでも旧逆瀬川住研とは別の会社である。
平成20年9月9日に立ち上げた時点では旧逆瀬川住研は存在していたのである。需要者の認識でも,その違いは認識されていたものと思われる。
請求人の商標は「需要者の間で広く認識されている商標」には該当しないものである。
平成17年の商法改正で,たまたま同一地域で同一商号が併存したにすぎないもので,新しい請求人の会社は文字どおり新設会社で,商標が広く認識されるまでには至っていないものである。
3 商標法第4条第1項第15号について
この点の請求について請求人は,商標法第4条1項第10号に該当しないと認定される場合は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとみることもできる旨述べるが,具体的理由は,何らあげられていないため,同項第15号に該当しないものである。

第5 当審の判断
1 引用標章の周知性について
(1)証拠及び当事者の主張並びに職権調査によれば,次の事実を認めることができる。
ア 旧逆瀬川住研について
旧逆瀬川住研(逆瀬川住研株式会社)は,昭和60年12月24日に,不動産の売買,賃貸,及びその仲介,住宅の建設及び増改築等を目的とし,兵庫県宝塚市中州に設立された会社であって,代表取締役の成川氏が平成20年5月26日死亡し,同月27日に成川氏の妻が代表取締役に就任した。
その後,当該会社は,平成22年12月30日に解散している(甲2)。なお,当該会社の住所は,宝塚市中州一丁目15番2号に移転した後,平成20年11月1日に,宝塚市中州一丁目14番22号に移転している(甲2)。
イ 請求人及び被請求人について
請求人は,平成20年9月9日に,「逆瀬川住研株式会社」を商号とし,不動産の売買,賃貸,仲介及び管理,建築工事・土木工事・造園工事・リフォームの企画,設計,監理及びコンサルテイング等を目的とし,兵庫県宝塚市中州に設立された会社であって,代表取締役は,旧逆瀬川住研の取締役を辞任した井原氏である(甲3)。
なお,当該会社の住所は,宝塚市中州一丁目14番22号から,平成20年11月1日に,宝塚市中州一丁目15番2号に移転している(甲3)。
一方,被請求人は,平成20年9月9日に,「逆瀬川ハウジング株式会社」を商号とし,不動産の売買,賃貸,仲介及び管理,建築工事・土木工事・造園工事・リフォームの企画,設計,監理及びコンサルテイング等を目的とし,兵庫県宝塚市中州に設立された会社であって,代表取締役は,旧逆瀬川住研の取締役であった森氏である。
その後,平成24年7月1日に,「逆瀬川はうじんぐ株式会社」の商号に変更している(甲5)。
ウ 旧逆瀬川住研と請求人との間に係る覚書について
覚書(甲4)は,旧逆瀬川住研の営業を請求人に譲渡し,請求人はこれを譲受する旨合意するものであって,平成20年9月11日に締結された。本件覚書の「1.」には,「乙(審決注:旧逆瀬川住研)はその営業(不動産業務全般)の全部を甲(審決注:請求人)に譲渡し,甲はこれを譲受する。」との記載,「2.」には,「譲渡の時期は,概ね平成20年11月1日以降とし具体的には,今後甲乙協議して定める。」との記載,「5.」には,「営業の譲渡を円滑に推進するため,また細目を協議するために,譲渡の期日までに甲乙双方が会合をおこない,乙の資産状態を検討するものとする。」との記載がある。
エ 請求人による広告について
(ア)広告看板設置契約書(甲21)は,請求人と逆瀬川ビル所有者との間で締結された,平成20年11月3日付けの契約書であるところ,当該契約書には,「(物件)第1条(1)建築の名称 逆瀬川ビル (2)建築の所在 宝塚市中州1丁目15番2号」と記載され,その有効期間は,平成20年12月1日から同21年11月30日までの1年間とされ,その後も請求人が引き続き賃借を希望する場合は,自動的に1年間更新を繰り返す旨の記載がある。そして,当該契約書4葉目の左上部には「逆瀬川ビル」と記載され,「お元気ですか/逆瀬川住研」の文字が表示された看板の写真が4枚掲載されているが,当該写真の撮影日は不明である。
(イ)屋外広告看板設置のための一時使用契約書(甲22)は,請求人と貸主Y氏との間で締結された,平成25年1月15日付けの契約書であるところ,当該契約書には,「第1条(使用目的及び使用料金) 設置場所所在地:宝塚市伊子志3丁目122番4の南側一部」と記載され,その有効期間は,平成25年2月1日から同26年1月31日までの1年間とされ,期間満了に際し当事者双方から何らの申し出がない場合には,自動的に1年間更新を繰り返す旨の記載がある。そして,当該契約書の2葉目には「逆瀬川住研」の文字と「売買 賃貸 管理」の文字が表示された看板の写真が2枚掲載されているが,当該写真の撮影日及び撮影場所は不明である。
(ウ)「逆瀬川住研」の文字と「売買・賃貸・管理」,「売買 賃貸 管理」,「貸ガレージ」又は「不動産のことなら」の文字が表示された看板の写真(甲23の1?4)が8枚掲載され,その左上部に「宝塚市伊子志2丁目12番23号,宝塚市栄町3丁目3番35号,宝塚市逆瀬川2丁目6番4号,宝塚市野上1丁目2番1号」と記載されているが,当該写真の撮影日は不明である。
オ 請求人の提出に係る証拠には,引用標章の役務の提供に関する売上高など取引の実績を示す具体的な証拠の提出はない。
(2)以上より,請求人と旧逆瀬川住研とは,旧逆瀬川住研の営業(不動産業務全般)の全部を請求人に譲渡する旨の覚書を締結し,請求人の住所と旧逆瀬川住研の住所は,平成20年11月1日の時点で入れ替わっていることからすると,請求人は旧逆瀬川住研の不動産業務の事業を継承したものと推認される。
しかしながら,請求人に係る広告は,宝塚市のごく一部の看板に使用されているものであり,その内容も請求人の取り扱いに係る役務が表示されているとはいえないものがほとんどであり,かつ,当該看板もいつ撮影されたか明らかでなく,引用標章の役務の提供に関する売上高など取引の実績を示す具体的な証拠はないことから,引用標章は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る役務「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」を表すものとして,我が国の需要者の間に広く知られていたものとは認めることができない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について
(1)引用標章の周知性について
上記1のとおり,引用標章は,請求人の業務に係る役務「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」を表すものとして,我が国の需要者の間に広く知られていたものとは認めることができない。
(2)本件商標と引用標章との類似性の程度について
本件商標と引用標章は,いずれも「逆瀬川住研」の文字よりなり,同一又は類似の商標であることは明らかであるから,両商標の類似性の程度は非常に高いものといえる。
(3)本件商標の指定役務と引用標章が使用される役務との関連性並びに役務の取引者及び需要者の共通性について
本件商標の指定役務中「建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・土地の管理」と引用標章が使用される役務「建物・土地の売買又は賃借の代理又は媒介,建物・土地の管理」は,同一の役務であり,不動産に関する役務であるといえることから,役務の取引者及び需要者を共通にするといえるものであり,互いに関連性を有する役務といえるものである。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(2)のとおり,本件商標と引用標章との類似性の程度は非常に高く,上記(3)のとおり,本件商標の指定役務と引用標章が使用される役務とは,互いに関連性を有する役務といえるとしても,引用標章は,上記1のとおり,請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると認められないものであるから,本件商標権者が,本件商標をその指定役務に使用した場合,これに接する取引者,需要者が,引用標章を想起又は連想するようなことはないというべきであり,当該役務が,請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は,「被請求人は請求人が『建物・土地の売買又は貸借の代理又は媒介,建物・上地の管理』という主たる役務に『逆瀬川住研』という商標を使用していることを知った上で,本件商標の登録出願前には『逆瀬川住研グループ』なる表記による宣伝を行うばかりでなく,当該『逆瀬川住研グループ』なる表記の削除後は,請求人の主たる役務と同一の役務による事業を立ち上げた後に,本件商標が登録されていないことを奇貨として,請求人の事業の妨害という不正の目的をもって,剽窃的に本件商標の登録出願を行った。」旨主張する。
しかしながら,上記1のとおり,引用標章は,請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであるから,本件商標は,これをその指定役務について使用をすることが,引用標章の周知性による信用及び顧客吸引力に便乗するものということはできない。
そして,請求人は,引用標章の使用開始にあたって,その商標を自ら登録出願をする機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを本件商標権者に求めるべき事情を見いだすこともできない。
さらに,請求人と本件商標権者の間で,あらかじめ,引用標章の使用に関し何らかの契約を締結していた事実も確認できない。
また,請求人が提出した証拠からは,本件商標権者が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正の目的を持って剽窃的に本件商標を出願し,登録を受けたというような本件商標の出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く事実は認められないものである。
その他,本件商標は,その構成自体がきょう激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではないし,本件商標をその指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するということもできず,他の法律によってその使用が禁止されている等の事情も見あたらないことから,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とはいえない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
4 請求人の主張について
請求人は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである旨主張する。
しかしながら,請求人と本件商標権者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべき問題であるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情があると解することはできない。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
5 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同項第10号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2020-01-09 
結審通知日 2020-01-15 
審決日 2020-01-30 
出願番号 商願2015-53168(T2015-53168) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (W3637)
T 1 11・ 22- Y (W3637)
T 1 11・ 25- Y (W3637)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 薩摩 純一
平澤 芳行
登録日 2015-10-23 
登録番号 商標登録第5800865号(T5800865) 
商標の称呼 サカセガワジューケン、サカセガワ 
代理人 特許業務法人 いしい特許事務所 
代理人 小杉 茂雄 

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