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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X09
管理番号 1358810 
審判番号 取消2018-300118 
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-02-26 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5096674号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5096674号商標の第9類「電気通信機械器具,電話機械器具,有線通信機械器具,搬送機械器具,放送用機械器具,無線通信機械器具,無線応用機械器具,遠隔測定制御機械器具,音声周波機械器具,映像周波機械器具,電気通信機械器具の部品及び附属品,電子応用機械器具及びその部品,電子応用機械器具,電子管,半導体素子,電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く),電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5096674号商標(以下「本件商標」という。)は、「bitwallet」の欧文字を標準文字で表してなり、平成19年4月18日に登録出願、「電気通信機械器具,電話機械器具,有線通信機械器具,搬送機械器具,放送用機械器具,無線通信機械器具,無線応用機械器具,遠隔測定制御機械器具,音声周波機械器具,映像周波機械器具,電気通信機械器具の部品及び附属品,電子応用機械器具及びその部品,電子応用機械器具,電子管,半導体素子,電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。),電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」を含む第9類、第3類、第14類、第16類、第18類、第20類、第21類、第24類、第25類、第26類、第27類、第28類及び第29類に属する商標登録原簿記載の商品を指定商品として、同年12月7日に設定登録、同29年12月5日に存続期間の更新登録がなされているものである。
そして、本件審判の請求の登録(予告登録)は、平成30年3月12日になされたものである。以下、本件審判の請求の登録前3年以内を「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第7号証を提出した。以下、証拠については、「甲1」のように表示する。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第9類「電気通信機械器具,電話機械器具,有線通信機械器具,搬送機械器具,放送用機械器具,無線通信機械器具,無線応用機械器具,遠隔測定制御機械器具,音声周波機械器具,映像周波機械器具,電気通信機械器具の部品及び附属品,電子応用機械器具及びその部品,電子応用機械器具,電子管,半導体素子,電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。),電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」(以下「請求に係る指定商品」という。)について継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存在しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 平成30年7月17日付け審判事件弁駁書による主張の要点
平成30年6月6日付け審判事件答弁書において、以下の(1)ないし(3)のとおり、被請求人は本件商標を指定商品「電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータプログラム」(以下「本件商品1」という。)に使用していることを証明していない。
(1)本件商標を使用しているとの被請求人主張が事実でないこと
被請求人は、本件商標を、本件商品1について、要証期間内に日本国内において使用している旨主張するが、被請求人は自らのウェブサイトにおいて、2012年6月1日(金)をもって、「ビットワレット」の使用を中止することを発表し(甲3)、以後の楽天グループとしての電子マネーのサービスは、商標権者の被請求人ではなく、楽天Edyオペレーション株式会社(以下、「楽天Edyオペ社」という。)(乙1の申請人)によって、「楽天Edy」のサービス名称で提供されている。乙1の関東財務局長宛の登録申請書(写し)中「8.業務の内容及び方法」「(1)前払式支払手段の種類、名称、発行価格及び支払可能金額等」の表には、「前払式支払手段の名称」のカラムに楽天Edyをサービス名に用いる旨しか記載されておらず、「ビットワレット」、「bitwallet」の名称については全く言及がない。
したがって、「日本国内において使用している」との被請求人の主張は、上記自らのウェブサイトでの宣言と真っ向から矛盾するものであって、事実ではない。
なお、被請求人は、「乙3のような態様でのプログラムについての使用は今後も継続されることは当然である。」と主張するが、当該使用され続けるとされる「被請求人が発行した電子式プリペイドカード」は、「楽天Edy」の名称を使用して発行されている電子式プリペイドカードである(乙1)から、上記主張は、本件審判で対象とされている本件商標の使用に関するものではなく、失当である。
(2)被請求人は、本件商品1に、本件商標を「使用」していることを証明できていないこと
被請求人は、「本件商標と社会通念上同一の商標をこのように表示して、電磁的方法により行う映像面を介して役務を提供することは、商標法第2条第3項第7号に規定される使用に他ならない。」と主張するが、商標法第2条第3項第7号は指定役務の商標の使用についての条文であり、本件審判で検討されるべきは、本件商品1についての使用であるから、指定役務についての使用を主張しても意味が無く、この点において上記被請求人の主張は失当である。
また、被請求人は、「してみると、上記スマートフォンの画面に「(c)bitWallet,Inc」(審決注:(c)は、○印内に「c」文字が小さく表されている。以下同じ。)と記載することは・・・スマートフォン等にダウンロードして使用されるプログラムについての使用であり、かつ、サーバー上のプログラムの提供に関する商標の使用である。」と主張するが、指定商品についての商標の使用は、「商品又は商品の包装に標章を付する」か(商標法第2条第3項第1号、第2号)、「商品・・・に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する」必要がある(同項第8号)。被請求人は、本件商品1又はその包装に商標を付していることを証明しておらず、本件商品1の広告として、本件商標を使用している旨も証明していない。
(3)被請求人において、商標法第50条第1項の使用の事実がないこと
ア 被請求人は、2016年5月9日、子会社として楽天Edyオペ社を設立し(甲4)、同社が、関東財務局長に登録申請書を提出している(乙1の1面)。そして、同年10月1日、楽天Edy株式会社(旧商号はビットワレット株式会社)(甲3、甲4)は、電子マネー(楽天Edy)の事業を楽天Edyオペ社に承継した後、楽天株式会社に吸収合併されて消滅した(甲4)。そして、楽天Edyオペ社は、商号を変更し、楽天Edy株式会社(二代目)となった(甲4)。
したがって、電子マネー(楽天Edy)のサービス提供主体は、二代目の楽天Edy株式会社であり、被請求人ではない。被請求人が電子マネー(楽天Edy)のサービス提供主体であるかのような被請求人の主張は誤りである。
イ 乙1は、貸金決済に関する法律に基づき、関東財務局長に提出された申請書であり、この申請書自体は、商標法第2条第3項各号の使用を裏付ける証拠ではない。
乙2は、電子式プリペイドカードの写真であるとされるが、実際に使用されている時期が不明であり、乙1及び乙2ともに、商標法第2条第3項各号の「使用」を証明する証拠とはならない。
また、乙1及び乙2は、2012年6月のブランド変更前(過去)の電子マネー「Edy」の発行元の会社が「ビットワレット株式会社」であることを示す証拠にはなり得ても(甲3)、商標法第2条第3項各号の「使用」を裏付ける証拠とはならない。
さらに、乙2については、「ビットワレット株式会社」の表記は、「Edy発行元」(過去の発行元(甲3))として、カードの右下に、目をこらさないと判読出来ない程度の小さな文字で表示されているにすぎず、商標として使用されているわけではない(商標的使用態様となっていない。)。
商標は出所識別表示として機能するものである以上、通常の取引・流通過程で需要者から視認可能な状態で使用される必要がある(最高裁平成12年2月24日第一小法廷決定 パチスロ機事件)。したがって、乙2において、ほとんど視認できないような小さな文字で表示される「ビットワレット株式会社」の表示は商標として使用されているとはいえず、商標法第2条第3項各号にいう「使用」といえない。
また、商標法第50条第1項の「使用」があったことが立証されるためには、「商標が商品または役務の自他識別・出所表示として使用されていること、いわゆる商標的使用がなされていること」が必要とされている(東京高裁平成13年2月28日判決 DALE CARNEGIE事件 甲6)。 したがって、被請求人の主張は、商標法第50条第1項の「使用」の意義を正しく理解しないものであって、失当である。
乙3は、印刷が不鮮明であり、仮に、視認(判読)できるとしても、客観的に見て、需要者や消費者が、乙3のウェブサイトの画面を見た場合に商標(出所識別標識)として「(c)bitwallet,Inc」を認識するとはいえず、これが「・・・役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」(商標法第2条第3項第7号)であるとはいえない。
さらに、被請求人は、乙4の1、乙4の2を根拠として、乙3の「(c)bitwallet,Inc」の表示は、「この(c)の使用により、そこで提供されるプログラムの出所が被請求人であることが容易に理解される。」と主張するが、ウェブサイトに掲載される(c)表記によって、当該ウェブサイトを表示させているプログラムの出所が認識されることはない。この点において、被請求人の上記主張は、前提に誤りがある。
被請求人は、本件商標登録が取り消されると、bitwalletのドメイン名が使用できなくなるので、その観点からも本件商標登録が取り消されるべきではないと主張する。
しかしながら、こうした通知の際に需要者が着目するのは、ECサイトを利用した事実の確認であって、通知された電子メールの@マーク以下のドメインには注意を払われない。したがって、@マーク以下のドメインを「@rakuten.co.jp」とか「@rakuten-edy.co.jp」と変更しても、被請求人のいう「需要者において出所の混同が生じることにより、取引秩序に混乱を来し、これまでの被請求人による本件商標の使用により本件商標に化体した業務上の信用が害されることとなり、ひいては、需要者の利益を保護するという法目的に反する」というような事情は存在し得ない。
(4)まとめ
以上のとおり、乙1ないし乙3をもって、商標法第50条第1項にいう登録商標の使用があったことは証明されていない。
3 令和元年6月13日付け審判事件弁駁書による主張の要点
(1)被請求人のいう「カード型商品」の引渡しについて
被請求人は、乙2の写真に示された商品を「カード型商品」(以下、被請求人主張の「カード型商品」及び「電子式プリペイドカード」をまとめて「被請求人カード型商品」という。)として、同商品は「電子通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」(以下、「本件商品2」という。)に含まれるものであり、当該被請求人カード型商品を占有するエンドユーザーに対して電子決済のたびに観念上「貸与」しているので、商標法第2条第3項第2号の「引渡し」に該当する旨主張する。
しかしながら、商標法第2条第3項第2号の「引渡し」とは、「物のうえの現実の支配を移転すること」をいうところ、被請求人によるカードの有効性認証の時点で「物のうえの現実の支配を移転」しているものではないので、同号の「引渡し」には該当しない。
また、乙2に示される被請求人カード型商品の「ビットワレット株式会社」の表示は、目をこらさないと視認できず、「人の知覚によって認識することができる」ものではないので、商標法第2条第1項にいう「商標」に該当せず、仮に該当するとしても、商標的使用とはいえず、商標法第50条にいう「登録商標・・・の使用」に該当しない。
乙2の被請求人カード型商品に本件商標が付されていると仮定した場合でも、被請求人カード型商品が「返却」を前提として貸与される商品であるとすると、被請求人による2012年6月1日(金)の商号変更及びブランド変更によって乙2の被請求人カード型商品が使用されていないことは明白であるから、この観点でも、本件商標が使用されているとはいえない。
(2)「(c)bitwallet,Inc」が、本件商標の本件商品1についての使用となるか
被請求人が、決済説明のために示したスマートフォンの画面に、「(c)bitwallet,Inc」とウェブサイト上で標章を付しても、これが、プログラムである本件商品1について標章を付するものとはならないことは明らかであり、商標法第2条第3項第1号又は同2号に該当する行為にはならない。
また、「(c)bitwallet,Inc」は単なる著作権表示であって、これがプログラムである本件商品1の出所識別機能を有することはない。
(3)コンピュータプログラムのダウンロードについて
乙3のスマートフォン上の画面のプログラムは、被請求人の管理するサーバーに存在し、クラウド上で起動しているものである可能性もあり、乙3のみをもって同プログラムがスマートフォンにダウンロードされていると断定できない。
需要者が、「(c)bitwallet,Inc」の表示に接した場合、当該表示がプログラム著作権帰属表示であると認識することは現実にはありえず、当該画面上に表示されたコンテンツの著作権の帰属に関する表示であるという程度の認識しかもたない。
(4)乙7について
乙7には、「2010/09/07」と表示されており、仮に、乙7が、指定商品である「電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータプログラム」がダウンロードされたスマートフォンの実際の画面であるとしても、これは2010年(平成22年当時)の使用を立証するものにしかならない。
(5)被請求人のブランド変更について
被請求人は、「楽天グループとしての位置付けをさらに明確化し、グループの各サービスとの相乗効果の最大化を図るために、ブランドを変更します。」(甲3)と宣言し、平成24年6月1日にブランド変更を実施し、その後本件審判請求時まで5年8ヶ月の期間があったことを考慮すると、ブランド変更の移行期間があったとしても、本件審判請求登録前3年前には既に切り替えが終わっていたといえる。
(6)乙8について
新たに提出された乙8は、実際のカードを縦横2.5倍位拡大した写真である点で、電子決済の現場(取引実情)で使用されるカードそのものを再現したものではないので、不当な証拠である。
(7)被請求人の理解
請求人は、乙2のカードを電子決済に使用した場合、取引実情の下で商品商標又は役務商標として需要者が認識するのは「Edy」の標章であると理解するのが素直であり、正しいと主張しているのであり、被請求人は請求人の主張を理解していない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙1ないし乙9(枝番号を含む。)を提出した。
1 平成30年6月6日付け審判事件答弁書の要点
(1)被請求人は、本件商標を、本件商品1について、本件審判の請求登録日である平成30年(2018年)3月8日前3年以内に日本国内において使用している。
(2)本件商標の使用
乙3の被請求人が運営するウェブページでは、被請求人カード型商品を使用して決済を行う手順が記載されており、説明中に掲載されるスマートフォンの画像の下部に「(c)bitwallet,Inc」と表示されている。上記表記のうち、「(c)」は単なる記号であり、「Inc.」は企業であることを表示する部分にすぎないから、それらを除いた「bitwallet」の部分は、本件商標とは欧文字「w」が大文字と小文字の差異はあるが、本件商標と社会通念上同一の商標であることは明らかである。
なお、乙1には、被請求人(審決注:本件審判の被請求人である楽天株式会社は、本答弁書において「被請求人」を「本件商標登録時の権利者及び合併後の権利者」として記載している。)が発行する被請求人カード型商品の発行元として「ビットワレット株式会社」と記載されている。また、乙2の被請求人カード型商品の券面には、発行元として「ビットワレット株式会社」が鮮明に表示されており、これらの使用態様のうち、片仮名「ビットワレット」は、本件商標と社会通念上同一の商標である。
(3)使用商品・役務
乙1及び乙2の記載から明らかなとおり、被請求人は、本件商標と社会通念上同一の商標を、被請求人カード型商品の発行に関連する業務について使用しており、乙3に表示されるとおり、被請求人は、前記役務の提供にともなって提供されるプログラムについて、本件商標と社会通念上同一の商標「bitwallet」を使用している。
ア 本件商標の権利者の変遷及び本件商標の採択
本件商標は、ビットワレット株式会社(以下、「本件商標出願人」という。)により平成12年11月15日に出願され登録された後、同24年6月21日に「楽天Edy株式会社」に名義変更、同30年2月2日に一般承継により、「楽天株式会社」に移転された。
本件商標の登録時の権利者である本件商標出願人は、2001年1月18日、家電、通信、金融、自動車等の幅広い業界で日本を代表する11社の出資により設立され、Edyの名称で、被請求人カード型商品にかかる事業を展開してきた。被請求人カード型商品は、電子マネーの先駆けとして、2001年にサービスを開始して以来、幅広い業界に導入され、多くの需要者に利用され、被請求人は、本件商標の出願以来、その使用を継続している。具体的な使用の例として、乙1ないし乙3の使用がある(審決注:原文の甲1ないし甲3は誤記。)。
イ 被請求人による本件商標の使用の具体的な内容
乙1は、関東財務局長宛に、2016年5月27日付で被請求人が提出した「登録申請書」の写しである。これは、資金決済に関する法律に定める、第三者型前払式支払手段(前払式支払手段の発行者以外の第三者から商品の購入やサービスの提供を受ける場合にも、これらの対価の弁済のために使用できる前払式支払手段。以下、この意味で「被請求人提供役務」という。)、いわゆるプリペイドカードを発行する者に対して提出が義務づけられている申請書類である。本件申請書の7面に、券面の記載事項として、電子マネーEdyの発行元が本件商標出願人であることが明記されている。
乙2は、本件商標出願人が発行した被請求人カード型商品で、現在も使用されているものであるが、乙1の申請書に明記されているとおり(審決注:原文の甲1は誤記。)、被請求人カード型商品の発行元として、本件商標出願人が記載されている。
上記証拠により、被請求人が、本件商標と社会通念上同一の商標を使用して、被請求人カード型商品を発行し、それに関するサービスを提供していることがわかる。
乙3は、本件要証期間内である2017年3月26日に被請求人がインターネット上に掲載していたページ中、本件商標を使用したサービスに関する部分の写しである。このウェブページには、被請求人が発行する被請求人カード型商品を使用して決済を行う手順が記載されており、説明中に掲載されるスマートフォンの画面の写真画像下部に「(c)bitwallet,Inc」と記載されている。当該表記は、著作権を表示する表記であるが、本件のようなウェブサイトの作成にあたって発生する著作権の対象としては、主に、そのサイトに掲載される文章、写真、画像及びプログラムがある。乙3のウェブページは、被請求人カード型商品の利用方法を記載したページ、いわゆる取扱説明書(取引書類)の電子版であり、当該取扱説明書に掲載されたスマートフォンの画面は、需要者が被請求人の発行する電子マネーを利用する際にスマートフォンに表示される画面である。
被請求人が提供する電子マネーにかかる取引は、プリペイドカードやスマートフォンで行われるところ、スマートフォンでの利用の際、需要者のスマートフォン上では、html等のマークアップ言語で作成されたプログラム(以下、単に「プログラム」と記す)が起動する。乙3のスマートフォンの画像は、ウェブブラウザ上でサーバーからプログラムをダウンロードし、スマートフォン上で起動した状態を表すものである。この画面上に、「(c)bitwallet,Inc」の表記が使用されており、この使用により、そこで提供されるプログラムの出所が被請求人であることが容易に理解される。
本件商標と社会通念上同一の商標をこのように表示して、電磁的方法により行う映像面を介して役務を提供することは、商標法第2条第3項第7号に規定される使用に他ならない。
一方、役務の提供を電子的に行う際に使用されるものである以上、表示制御などプログラム単体で動く部分と、サーバーとのやり取りにより、サーバーのプログラムを利用して、都度その処理結果を表示し、処理する部分があることは当然である。
してみると、上記スマートフォンの画面に「(c)bitwallet,Inc」と記載することは、前払式証票の発行又は被請求人カード型商品の発行に関する使用であるとともに、スマートフォン等にダウンロードして使用されるプログラムについての使用であり、かつ、サーバー上のプログラムの提供に関する商標の使用である。
ウ 本件商標の使用の継続性
本件出願人については、会社名の変更から5年程度しか経過しないうちに合併が行われ、その後3ヶ月しか経過していない。本件出願人は、被請求人カード型商品の発行を開始してから14年間、商標「ビットワレット」は、商標「Edy」とともに、本件出願人の提供する電子マネーサービスの代名詞として、需要者の間に広く知られてきた。また、被請求人カード型商品は消耗品ではないため、一度所持すれば、その後に新しいカードに変更することは稀であるが、被請求人カード型商品の券面に記載されている商標とそれに関連する情報を掲載したページ(オンライン取扱説明書)に記載されている商標が異なることは需要者の混乱を招くおそれがあり、被請求人が発行した被請求人カード型商品が使用され続ける限り、前述した乙3のような態様でのプログラムについての使用は今後も継続されることは当然である。
加えて、乙3に示すとおり、被請求人は、ネットショツピングにおける支払いを電子マネーで行う需要者に対して、被請求人が決済開始メール、決済完了メールを送付する際のメールアドレスのドメイン名としてbitwallet.co.jpを使用しているが、仮に本件商標の登録が取り消された場合、被請求人はドメイン名の変更を余儀なくされ、需要者において出所の混同が生じることにより、取引秩序に混乱を来し、これまでの被請求人による本件商標の使用により本件商標に化体した業務上の信用が害される。
エ 商標法第50条所定の「使用」
不使用取消審判における登録商標の使用態様について、近時の判決(平成28年(行ケ)第10115号)において、「・・・上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法第2条第3項各号)されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。」と判示されている。
かかる判断に鑑みれば、被請求人による本件商標の上記の態様での使用は、商標法第50条第1項に規定する「指定商品についての登録商標の使用」として十分である。
オ 以上のとおり、本件商標は、請求に係る指定商品について、要証期間内に日本国内において使用されている。
2 審尋に対する平成31年4月16日付け被請求人の回答の要旨
当審において、被請求人が提出した証拠からは、要証期間に本件商標が本件使用商品に使用されたものとは認められないとする審尋に対して、被請求人は次のとおり回答した。
(1)乙2の商品は、本件商品1に含まれる商品ではないが、記憶装置、演算装置を含み、認証処理や金銭支払い処理のためのプログラムがインストールされたICチップ並びにコイルアンテナによる近距離無線通信ユニットの埋め込まれたカード型の通信機器であるから、「電気通信機械器具」及び「電子応用機械器具及びその部品」の性質を有し、これらの概念に含まれる商品である(本件請求に係る指定商品に含まれる)。
このような商品は、「Felica」と称される技術が用いられていることで知られている(乙5)。かかる技術は、携帯電話にも使用されており、乙2では、被請求人が、本件商品2の概念に含まれる商品について本件商標を使用していることを証明している。ここで、被請求人カード型商品は、被請求人提供役務を希望する者(ユーザー)に対して、その役務の提供をうけるにあたってユーザーに貸与されるものであり、その役務の提供を希望しなくなった際に返却されることを前提としてユーザーに提供される商品である。この点は、被請求人提供役務の利用約款の第12条に規定されており(乙6の1)、被請求人提供役務のみならず、いわゆる電子マネーやプリペイドカードを発行しそれによって代金の決済を行う業界において、サービスの提供を受けるために必要な機器やカードは、ユーザーに「貸与」されることが慣習となっている(乙6の2;プリペイドカード「nanaco」に関する会員規約第3条)。
また、電子マネーの決済には、被請求人カード型商品、カードの読み取り機械及び電子マネーを管理しているサーバが構成要素として存在し、エンドユーザがカードを読み取り機にかざすたびに、使用するカードが有効なものか確認する処理があり、有効であると認証された場合に決済処理に移る。すなわち、カードが被請求人からユーザーに物理的に貸与のための引渡しがなされた際のみならず、カードが有効であると認証されるたび(カードが使用されるたび)に、本件商標と社会通念上同一の商標が記載されているカードが、被請求人からエンドユーザーに対して貸与されるとみなすことができ、電子マネーの場合には、商標の使用の一態様である「商品の貸与(引渡し)」は、一般的な物品の貸与とは異なる。
すなわち、一般的な貸与では、対象物品の占有を移転させた後には、貸主と借主の間でのやり取りは、返却までは原則として発生しないが、電子マネーの場合には、単にカードの占有が移転する行為時点だけでなく、支払の都度、カード認証処理を通じて、借主と貸主との間で、「貸す」「借りる」という意思表示の合致が行われており、これは、支払処理の都度、新たな「商品の貸与(引渡し)」が行われているに他ならない。
したがって、被請求人によるかかる行為は、商標法第2条第3項第2号の使用の定義に規定される「引渡し」に該当する。
(2)乙3に表示されるウェブサイトの内容中に挿入されたスマートフォンの画面の写真の中に表示されている著作権表示「(c)bitWallet,Inc.」は、本件商品1についての著作権の所在、すなわち、本件商品1の出所を表示している。携帯電話やスマートフォンを利用して被請求人提供役務である電子マネー決済を行う場合、決済のたびに、スマートフォン上にhtml等のマークアップ言語で作成されたプログラムが起動し、スマートフォン上にダウンロードされる。このスマートフォンの画面では、商標であるEdyのロゴ以外に著作物と認識できるものは存在せず、この画面上の著作権表示が、ウェブサイトのコンテンツの著作者を表示するものではない。当該画面に表示される内容中、著作権の対象となるものは、ダウンロードされたプログラム又は提供されているプログラム以外にはないから、需要者は、「(c)bitWallet,Inc.」は、そのプログラムの著作者(出所)が表示されていると認識し理解するのが自然である。よって、乙3に示すウェブページは、2017年5月26日時点で、被請求人が役務提供時において、被請求人提供役務の需要者の利用端末(スマートフォン)に、コンピュータープログラムがダウンロード(提供)され、その利用端末画面上に、「(c)bitWallet,Inc.」が、その上記ダウンロードされたコンピュータープログラムの出所として表示されることを、その操作を説明するパソコン画面をもって証明するものである。
なお、乙7は、乙3中の2頁目「手順3.お支払い完了」、3頁目上部の2つのスマートフォンの画像を拡大したものであり、実際のスマートフォン画面上の画像は、乙7のとおりである。
このように、「(c)bitWallet,Inc.」が、需要者の端末に表示されることが、コンピュータープログラムについて、商標法第2条第3項第2号に規定する、商品に「標章を付したものを・・・電気通信回線を通じて提供する行為」に該当することは明らかである。
3 令和元年8月5日付け審判事件答弁書の要旨
(1)商標法第2条第3項第2号の「引渡し」に関し、請求人は「引渡し」とは「物の現実の支配を移転すること」を意味するから、商標の使用に該当しない旨主張するが、被請求人カード型商品は、電子マネーの決済においてエンドユーザがカードを読み取り機にかざすたびに、当該カードに付されたIDがブラックリストにのっているかいないかを確認する処理が行われ、有効であると認証された場合に決済処理に移る。
すなわち、物理的にカードがユーザーに提供されただけでは、被請求人提供役務の提供を受けることはできず、電子マネーによる支払の都度、カード認証処理によりはじめて、借主と貸主との間で、「貸す」「借りる」という実質的な意思表示の合致が行われ、ここで、被請求人カード型商品の「貸与(引渡し)」が行われることから、被請求人の主張に誤りはない。
(2)請求人は、被請求人提供役務について「ブランド変更」されたことにより、被請求人カード型商品は被請求人によって回収されたから、被請求人カード型商品が使用されていないと主張しているが、被請求人提供役務の開始時から現在まで役務の提供を受けている者は、当該役務の提供を受け始めた当初に貸与された被請求人カード型商品(乙2)を継続して使用しており、被請求人がブランド変更後に回収を行って新しいカードに交換した事実はない。したがって、前記主張は、明らかに根拠を欠くものである。
(3)請求人は、乙3のウェブサイトにおける「(c)bitWallet,Inc.」の記載について、ウェブサイト上に標章を付しても、プログラムについて標章を付するものとはならないと主張するが、プログラムは無体物であり、その商品について、直接、標章を付することはできない。そのため、プログラムが提供されるウェブサイト上に、そのプログラムの商標を便宜的に表示することは、現在の取引においては一般的に行われていることは例を挙げるまでもない。
また、請求人は、乙3のみでは、被請求人のプログラムがダウンロードされていると断定することはできないと主張している。しかしながら、ウェブサイトを構成するhtml等のマークアップ言語自体がプログラムであり、ウェブサイトを表示する需要者の携帯電話端末上に当該プログラムをダウンロードしない限り、需要者の携帯電話端末のブラウザ上で作動させることができず、需要者がウェブページを閲覧することができないのは、いうまでもない。また、乙3の2/4ページ目で、確認して支払うという箇所をクリックすると、支払完了というページヘ遷移することが示されているが、クリックの度にプログラムをダウロードしなければ、別のウェブページに遷移しないことは、この画像からも明らかである。
(4)請求人は、乙3及び7は、そこに表示されているコンテンツを吟味しない限り、その著作権表示がプログラムのそれであると認識できないが、需要者はコンテンツの著作物性を吟味することはないことから、需要者が「(c)bitWallet,Inc.」をみて、プログラムの出所を表示していると判断することはないと主張する。しかしながら、本件において提出した乙3及び乙7は、一般的なウェブページのように様々な情報が掲載され、文章、写真、画像など著作権の対象が表示されているページではなく、コンテンツに著作物が存在しないことは明らかである。したがって、需要者は、「(c)bitWallet,Inc.」の表示がそのページのコンテンツに関するものではないことを直ちに理解し、この表示は、このページを動かしているプログラムの著作権表示だろうと容易に認識できる。
(5)請求人は、乙7により、被請求人が本件商標を本件商品1について使用していないことが明らかになったと述べているが、当該請求人の主張には、理由がない。
(6)請求人は、乙8(乙2の拡大写真)が不当な証拠であると主張するが、同証拠は、乙2として提出した、現在においても実際に使用されているカードの券面を明らかにするために便宜的に提出したものである。現在所有しているクレジットカードや電子マネーのカードを見れば分かるとおり、いずれの文字も必死に目をこらさなければ見えない部分などなく、実物を見ればその文字が容易に認識できることは明らかである。
(7)請求人は、乙9の審決と本件は事案が異なると主張するが、事案がそれぞれ異なることは当然であり、取引のたびに、需要者が書籍の奥付をいちいち確認することはない。この点において、請求人の主張は前提を誤っている。
本件では、カードの発行者が、通常記載されている箇所(券面下部)に記載され、登録商標「bitWallet」と社会通念上同一の商標を含む「ビットワレット株式会社」が記載され、その記載のうち「株式会社」の文字は法人の種類を表すものであって識別標識としての機能を果たし得ない点で前記審決と共通しており、この共通性に基づいて、本件は、当該審決と同様に解されるべきである。

第4 当審の判断
1 被請求人の立証責任
商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。
すなわち、本件商標の使用をしていることを証明するには、商標法第50条第2項に規定されているとおり、被請求人は、(1)本件要証期間に、(2)日本国内において、(3)商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、(4)本件商品のいずれかについての、(5)本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標の使用(商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用行為)をしていることをすべて証明する必要がある。
2 被請求人の主張及び同人が提出した証拠によれば、以下のとおり認めることができる。
(1)本件商標は、本件出願人により平成19年4月18日に出願され、同年12月7日に設定登録された後、その商標権については同24年6月21日に登録名義人を「楽天Edy株式会社」に表示変更され、同30年2月2日に一般承継により、「楽天株式会社」に移転された。
(2)乙1は、2016年(平成28年)5月27日付けで、楽天Edyオペ社が関東財務局長宛に提出した、貸金決済に関する法律第8条第1項による第三者型発行者の登録を行う「登録申請書」の写しであり、登録の商号又は名称として、「楽天Edy株式会社」が記載され(第2面)、前払式支払手段の名称として、【IC型】楽天Edy(Edy)及び【サーバ型】楽天Edyオンラインの2種類が記載され(第4面)、当該登録申請書の8.(5)前払式支払手段の見本又はその券面及び裏面の写しの項目に、EdyのロゴマークとともにEdy発行元として「ビットワレット株式会社」(本件使用商標1)が記載されている(第7面1頁及び2頁)。楽天Edyオンラインに関する資金決済法に基づく情報提供を記載した【別紙】の「6.利用上のご注意」の項目に、「楽天Edyオンラインは、楽天Edy株式会社が発行する電子マネーです。」と記載されている。
(3)乙2は、被請求人カード型商品の画像で、同カードの左上にはEdyのロゴマーク、同右下にはEdy発行元として、本件出願人の名称及び住所が記載されている。同画像は2018年3月27日に撮影、撮影者は被請求人従業員であるが(被請求人主張)、当該被請求人カード型商品に発行日等の時期を特定するような記載はない。被請求人カード型商品(乙2)の拡大画像(乙8)も同様である。
(4)乙3は、被請求人カード型商品の利用方法に関する楽天Edy株式会社のウェブサイトの写しである。「スマートフォンサイトでのお支払い手順」として、手順1から手順3までスマートフォンでの画像が示されており、当該画像中の本件商標の使用部分を鮮明化した乙7の1ないし乙7の3では、画像の下部に「(c)bitwallet,Inc.」(本件使用商標2)の表示を確認できる。なお、乙3の各葉の下端右方に紙出力日を表したものと認められる「2018/04/19」の記載があるが、同乙3の上端左方には「https://edy.rakuten.co.jp/howto/osaifukeitai/pay」「7 captures」30 May 2015-26Mar 2017」の記載、同じく、右方には、「MAR」、「26」及び「2017」を上から順に縦にしてなる記載があり、かつ、下端左方に該ウェブサイトのURLである「http://web.archive.org/web/20170326200205/https:// edy.rakuten.co.jp/howto/osaifuk…」の記載がある。この記載からは、「2017年(平成29年)3月26日」にURLを「https://edy.rakuten.co.jp/howto/osaifukeitai/pay」とするウェブページを、アーカイブしたものと推認される。
(5)乙6の1は、被請求人が2017年3月1日時点で使用されていたと主張する「楽天Edyサービス利用約款」の写しであるところ、1頁ないし4頁のウェブサイトの写しには掲載日の記載はなく、当該写しの上部に、「NOV 7 2017」の記載があり、2頁目下方には「楽天Edyサービス利用約款:PDF311KB 10ページ(2017年3月1日)」と記載されている。
乙6の1の5頁以降の「楽天Edyサービス利用約款」の本文によれば、本約款は楽天Edy株式会社が提供する電子マネー「Edy」に関する規定であり、利用者が「Edy」を使用する場合に適用される(同約款第1条)。
そして、当該約款第7条にEdyの使用について、同第12条にはEdyの払戻しについて記載され、当該約款の条文及び最後の頁に(2015年6月29日版)との記載があり、【お問合せ・ご相談窓口】として、楽天Edy株式会社、住所及び電話番号が記載されている。
(6)以上から、楽天Edy株式会社は、本件商標の前商標権者(平成24年6月21日から同30年2月1日まで)であって、貸金決済に関する法律第8条第1項による第三者型発行者として、電子マネー「楽天Edy(Edy)」による前払式支払手段の提供業務を行い、当該業務に当たり、その利用者のための被請求人カード型商品には、「ビットワレット株式会社」が発行元として記載されている。当該被請求人カード型商品の発行時期は不明であるが、前記第三者型発行者の登録申請が2016年(平成28年)5月27日付となっていることから、同業務を行うため少なくとも同登録申請日以降に発行されたことがうかがえる。
また、オンラインによる前払式支払手段の提供業務に関し、スマートフォン上の画面での決済を行う際の手順を説明した楽天Edy株式会社のウェブサイトにおいて、2017年(平成29年)3月26日」の時点で同スマートフォン上の決済画面の下部に「(c)bitWallet,Inc.」を表示したことが推認されるが、同決済画面を利用した実際の商品(コンピュータプログラムなど)の取引(譲渡や引渡し)についての時期、数量などの証左はない。
3 上記2によれば、以下のとおり判断できる。
(1)本件商標の使用に係る商品について
被請求人は、乙2の被請求人カード型商品に記載されている「ビットワレット株式会社」(本件使用商標1)の記載、及び乙3のウェブサイト上の被請求人カード型商品の使用方法に関する手順中のスマートフォンの画像下部に「(c)bitWallet,Inc.」(本件使用商標2)の記載をもって、請求に係る指定商品中「電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム」(本件商品1)及び電通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」(本件商品2)について本件商標を使用していると主張しているので、この点について判断する。
なお、商標法第50条における商品とは、「市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならないと解すべきである。」(平成16年(行ケ)第337号)旨判示されている。
ア 乙2の被請求人カード型商品は、楽天Edy株式会社が提供する前払式支払手段において、上記役務の利用者に対して発行され、「楽天Edy」又は「Edy」の表示のある加盟店においてのみ決済手段として使用できるものである(乙1第4面他)。そして、上記役務の利用者は、当該被請求人カード型商品の発行を受けた後は、当該カードを自由に第三者へ譲渡する等の処分が禁止されていることから(乙6の1 約款第5条)、当該被請求人カード型商品は、上記役務の提供を受ける者の利用に供する物であって、その譲渡は制限されている。
イ 乙3によれば、ウェブサイト上に掲載されている、スマートフォンの画面に表示される決済手順は、ネットショップにおいて商品を購入した利用者に対し、楽天Edyという決済手段を利用して、スマートフォンによる購入代金の支払いを可能にする、いわば「電子的手段による支払代金の決済」という役務に関するものと認められ、いわゆるプログラムに関する商取引を内容とするものと認められる証左はない。
(2)被請求人カード型商品及び当該カード型商品の使用方法に関する手順中のスマートフォンの画像への記載が、本件審判の請求に係る指定商品の範ちゅうに含まれるか
上記(1)の商品に関する判示によれば、被請求人が本件商標の使用を主張する被請求人カード型商品及び当該カード型商品の使用方法に関する手順中のスマートフォンの画像への記載は、いずれも独立して商取引の対象として流通に供されるものでなければ商標法上の商品ということはできない。
上記(1)のとおり、被請求人カード型商品は、被請求人提供役務の利用を目的としてのみ発行されるものと認められるものであるから、仮に、被請求人カード型商品が、通信機器としての性質を有するものであるとしても、当該役務を離れて第三者への流通を前提とした商品とはいい難い。また、当該被請求人カード型商品は、残高等の情報が事前に記録(入力)された状態で利用者に渡されることからすると、未記録の磁気カードに該当するものではない。そうすると、被請求人が商品であると主張する被請求人カード型商品は、それ自体が本件商品2の「電通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」として、市場において独立して商取引の対象として流通に供される性格の商品とはいえないものである。
また、スマートフォンの画面上に表示される決済手順は、「電子的手段による支払代金の決済」という役務についての決済手順を記載するものであって、本件商品1「電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム」についての取引を内容とするものとは認められず、また、仮に本件商品1についての譲渡又は引渡しであるとしても、商品としての使用の事実(譲渡等の時期や数量、相手方など)についての証明や証拠の提出もない。
以上よりすると、請求人カード型商品及び当該カード型商品の使用方法に関する手順中のスマートフォンの画像への記載は、いずれについても、独立して商取引の対象として流通に供される商品とはいえないものである。
(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、被請求人カード型商品はFeliCa技術を有する本件商品2に属する商品であり、エンドユーザーに対して、電子決済のたびに観念上「貸与」しているので、商標法第2条第3項第2号の「引渡し」に該当する旨主張するが、前記のとおり当該被請求人カード型商品は前払式支払手段の発行という役務の提供の際に用いられるものであるから、当該カードが市場において独立して商取引の対象として流通に供される物、すなわち商品ということはできない。
仮に当該カードがプログラム機能を有する商品であるとしても、独立して「電子通信機械器具」及び「電子応用機械器具及びその部品」として取引の対象となっている実情は見いだせず、かつ、当該カードを商品として譲渡等を行った事実を裏付ける証左の提出もないことから、被請求人の主張は採用できない。
イ 被請求人は、スマートフォン上では、html等のマークアップ言語で作成されたプログラムが起動し、当該プログラムの起動した画面上に「(c)bitWallet,Inc」の商標を使用していることから、当該プログラムの提供は、スマートフォン等にダウンロードして使用されるプログラムの提供であり、かつ、サーバー上のプログラムの提供である旨主張する。 しかしながら、電子計算機用プログラム又はダウンロード可能なコンピュータプログラムが商品として把握されるためには、ダウンロード等により、ユーザーに当該コンピュータプログラムそのものが送信され、ユーザーがそれをハードディスク等に記録し、継続して管理・支配できるものでなければならず(「産業財産権法の概要」 平成14年法律改正 特許庁ホームページ参照)、本件のように、被請求人が当該コンピュータプログラムの機能を提供するにすぎない場合は、コンピュータプログラムが商品として流通しているとは認められない。
そうすると、被請求人提出のスマートフォン画面(乙3)において、ht
ml等のマークアップ言語で作成されたプログラムが起動し、起動した画面上に「(c)bitWallet,Inc」と表示されることをもって、被請求人が本件商標を電子計算機用プログラム又はダウンロード可能なコンピュータプログラムについて使用しているとはいえない。
3 まとめ
上記のとおり、被請求人の答弁の全趣旨及び乙各号証を総合的に判断しても、被請求人が提出した証拠によっては、被請求人は、その請求に係る指定商品中「電子計算機用プログラム,ダウンロード可能なコンピュータープログラム,電子通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」について、本件商標を使用していることは認められず、また、本件審判の請求に係るその余の指定商品について、本件商標を使用したものと認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定商品について、本件商標を使用していたことを証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、請求に係る指定商品について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
以上から、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定商品中「結論掲記の指定商品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2019-10-30 
結審通知日 2019-11-01 
審決日 2019-11-28 
出願番号 商願2007-38559(T2007-38559) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (X09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今田 三男 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 木村 一弘
豊田 純一
登録日 2007-12-07 
登録番号 商標登録第5096674号(T5096674) 
商標の称呼 ビットウオレット、ビット、ビイアイテイ 
代理人 奥山 尚一 
代理人 高橋 菜穂恵 

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