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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W11
管理番号 1358727 
審判番号 無効2018-890042 
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-08 
確定日 2019-12-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5852247号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5852247号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5852247号商標(以下「本件商標」という。)は、「Mpow」の欧文字を標準文字により表してなり、平成27年12月28日に登録出願、第11類「照明用器具及び電球類,家庭用電熱用品類,浄水装置,冷暖房装置,冷凍機械器具」を指定商品として、平成28年4月27日に登録査定、同年5月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標(以下、「引用商標1」という。)は、「MPOW」の欧文字を横書きした構成からなり、同じく、請求人が引用する商標(以下、「引用商標2」という。)は、別掲1のとおり、「MPOW」の文字を図案化した構成からなり、いずれも「スマートフォン用自撮り棒、ヘッドフォン、照明装置」(以下、「使用商品」という。)に使用しているとするものである。なお、請求人は、アメリカ合衆国において、上記と同じ態様の商標(米国登録第4841872号商標、米国登録第4762936号商標)を所有しているものである。
なお、上記の引用商標1及び引用商標2をまとめていうときは、以下、「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第72号証を提出した。
1 無効の理由
本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定より、無効にすべきものである。
2 具体的理由
(1)請求人について
請求人である香港▲ぱ▼拓遜科技有限公司(英文名称:MPOW TECHNOLOGY CO.,LIMITED)は、2015年2月2日に設立された中国法人(有限責任公司)であって(甲4)、主に家庭用電化製品や附属品を専門に扱い、多彩な製品を提供している。また、請求人は、カリフォルニア、ロンドン、ベルリンにオペレーションセンターを有し、主にECサイトの「Amazon」や小売店を通して、10力国以上の地域で商品を販売している(甲5)。
さらに、請求人は、引用商標2を使用したブランド(以下「Mpowブランド」という。)を展開しており、「スマートフォン用自撮り棒」「ヘッドホン」「照明装置」などのスマートフォン関連商品及び家電用電化製品を企画・販売している(甲6?甲8)。現在、Mpowブランドの商品は、たとえば、「Amazon.com」、「eBay.com」、「gearbest.com」、「wish.com」等のECサイトなどにおいて、その販売を確認できる(甲9?甲14)。
なお、請求人は、「深セン チエンハイ パートゥシュン ネットワーク アンド テクノロジー(英文名称:Shenzhen Qianhai PatuoxunNetwork&Technology)」(以下「深セン社」という。)と業務提携しており(甲15、甲16)、ECサイト「Amazon」でのMpowブランド商品の販売を委託し、深セン社を介して、自身のMpowブランドの商品を我が国においても流通させている。
(2)引用商標について
引用商標は、辞書等に掲載されていない造語であって、請求人の代表者がハウスマークとして使用するため、2012年に独自に考案したものである。
引用商標2は、請求人の代表者が中国で著作権登記を行っている(甲17、甲18)。
実際、これらの引用商標は、請求人のウェブサイトや請求人のMpowブランド商品について使用されている(甲19?甲21)。
また、本件商標と引用商標を比較すると、本件商標と引用商標は、アルファベットの綴りを同一とするものであり、その外観上の差異は商標の識別性に影響を与えるものではなく、またその構成上生じる「エムポウ」、「エムパウ」の称呼は共通するものであるから、両商標は社会通念上同一又は極めて類似するものといえる。
ここで、請求人は、Mpowブランドの商品として、遅くとも2014年10月6日には、米国において、「ヘッドホン」を販売しており(甲22)、その後、商品ラインアップを増やしながら、ECサイトを主な販売ルートとして、種々のスマートフォン関連商品・家庭用電化製品を世界中で販売している。より具体的には、我が国において、Mpowブランドの「スマートフォン用自撮り棒」は遅くとも2015年3月24日から(甲23)、「ヘッドホン」は遅くとも2014年10月14日から(甲24)、「照明装置」は遅くとも2015年7月3日から(甲25)、それぞれECサイト「Amazon」で販売が開始された。ここで、当該「Amazon」上で販売者として表示されている「Patech」は、深セン社が運営するオンラインショップであり(甲26)、上述のとおり、請求人は、深セン社を介して、自身のMpowブランドの商品を市場に供給している。とくに、請求人のMpowブランドの商品中、「スマートフォン用自撮り棒」、「ヘッドホン」及び「照明装置」は、その機能性と優れたコストパフォーマンスから人気を博し、遅くとも2015年末頃には、米国及び我が国において、請求人の人気商品として定着している。
たとえば、米国では、2015年8月3日から同年10月31日の短期間に、Mpowブランドの「スマートフォン用自撮り棒」が39,969個、「ヘッドホン」が49,471個、「照明装置」が4,444個、それぞれ販売された。
また、我が国においても、2016年3月18日から2017年1月1日の期間に、Mpowブランドの「スマートフォン用自撮り棒」が4,226個、「ヘッドホン」が31,400個、「照明装置」が42,111個、それぞれ販売された。
被請求人による本件商標の登録出願前(2015年12月28日前)には、動画投稿サイトの「Youtube」において、請求人のMpowブランド商品に関する多数のユーザー動画が投稿されており(甲27?甲29)、たとえば、甲第30号証の動画は2015年5月7日に公開され、視聴回数は320,034回にのぼる。
その他、ネット上には、本件商標の登録出願前に、請求人のMpowブランド商品に関する多数のウェブサイト記事が投稿されている(甲31?甲33)。
たとえば、Mpowブランドの「ヘッドホン」購入者による2015年10月31日付商品レビュー記事(甲31)、「照明装置」購入者による2015年11月21日付商品レビュー記事(甲32)、「照明装置」の2015年6月9日付商品紹介記事(甲33)がある。このように、請求人のMpowブランド商品は、本件商標の登録出願前より、米国及び我が国における取引需要者から非常に注目されていたことが分かる。
また、請求人は、本件商標の登録出願前より、Twitterの公式アカウントにおいて、自身のMpowブランドの商品について多くのツイートを投稿しており(甲34?甲37)、主に米国の取引需要者に向けて、請求人のMpowブランド商品を訴求させていた。
さらに、Instagramでの公式アカウントにおいても、請求人は、本件商標の登録出願前から、自身のMpowブランドの商品について多くの画像を投稿しており(甲38?甲40)、主に米国の取引需要者に向けて、請求人のMpowブランド商品を訴求させていた。
以上のように、請求人のMpowブランドの商品は、被請求人による本件商標の登録出願前から、ECサイトを介して米国及び我が国で販売され、人気を博しており、Youtube、Twitter、Instagramを含むネットメディアにおいて注目を集めていた。
そうすると、ネット上での商取引が頻繁に行われている今日のネットメディアの影響力に鑑みれば、引用商標は、本件商標の出願時において、米国及び我が国における取引需要者の間では、少なくとも「スマートフォン用自撮り棒、ヘッドホン、照明装置」について、請求人の商標として広く知られていたと推認される。
なお、請求人は、2013年にMpowブランドを立ち上げて以降、商品ラインアツプを増やしつつ、引用商標を現在に至るまで継続して使用している。とくに、Mpowブランドの「照明装置」は、2016年上半期の日本Amazonランキングで大賞に輝いており(甲41)、我が国の取引需要者の間で高い人気を得ている。
また、Google及びYAHOO!JAPANのインターネット検索エンジンで「Mpow」を検索すると、その検索結果は、請求人のMpowブランド商品が上位に表示され(甲42、甲43)、その画像検索においても、請求人のMpowブランド商品が多く表示される(甲44、甲45)。
さらに、請求人のMpowブランドは、Facebook、Twitter等のウェブサイトにおいて、公式アカウントが開設されており(甲46?甲49)、ネットユーザーに対して、その商品を訴求させている。
加えて、請求人は、本件商標の登録出願前から、米国において、引用商標を出願し、登録している(甲2、甲3)。
したがって、被請求人は、本件商標の出願前から、引用商標の権利化を達成していたことが認められる。また、登録に至っていないものの、本件商標の出願前から、引用商標2について欧州連合体商標(旧共同体商標)の出願をしており(甲50)、商標登録を図っている。
さらに、本件商標の登録出願後ではあるが、請求人は、我が国を含む世界各国(日本、カナダ、メキシコ、スペイン、ブラジル、イタリア)において、引用商標を出願し、商標登録を図っている。
(3)被請求人について
過去に2017年の年末まで掲載されていたインターネット求人情報サイト「楽天仕事紹介」によると、被請求人である「株式会社サイクステック」は、2013年に設立され、従業員5人からなる零細企業であって、通信販売業、携帯電話・タブレット・パソコン端末用保護ケース、その周辺アクセサリーなどの製作・販売、国際貿易業務などを事業内容とする(甲51)。被請求人のホームページは存在しないが、現在、ECサイトの「楽天市場」において、「CITUS Online」というネットショップを運営している(甲52、甲53)。そうすると、請求人が主にECサイトを通してスマートフォン関連商品や家庭用電化製品を販売していることから、被請求人と請求人とは、同種商品(スマートフォン関連商品及び家庭用電化製品)について同種の販売手法(ECサイトを利用した通信販売)を採用する点で、互いの事業が競合する関係にあるものと認められる。
また、「CITUS Online」のユーザーレビューより、被請求人はECサイト「Amazon」を利用した事業活動を行っていると伺われるところ(甲54)、「Amazon」上におけるスマートフォン関連商品及び家庭用電化製品の市場動向に相当程度の関心を持っていたはずであり、それを調査・把握していたと推測されることから、本件商標の出願時において、「Amazon」上で人気を博していた被請求人のMpowブランド商品についても、被請求人は予め知っていたものと推認される。
さらに、「CITUS Online」では、モバイルバッテリー、電動二輪車、電子タバコ、アロマ加湿器、ヘアアイロンなど様々な商品が販売されているものの(甲55)、本件商標の使用は一切確認できず、被請求人が主に使用している商標は「CITUS」である(甲52)。
また、本件商標の出願から約2年が経過した現在までに、被請求人によって本件商標が使用された事実も認められない。
ここで、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で、過去に被請求人の名義で出願された商標登録出願を検索すると、従業員5人ほどの零細企業であるにもかかわらず、2018年6月5日までに76件もの出願・登録情報が検索され、うち75件が商標登録されている(甲56)。従業員数5人ほどの零細企業が、これら75件もの登録商標全てを実際に使用し、又は近い将来使用する予定があると考えるのは不合理である。
また、これら75件の中には本件商標の登録も含まれるが、請求人が調査したところ、請求人以外の他人の商標も含まれていることが判明した(甲57?甲66)。
加えて、請求人が調査を進めたところ、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)において、被請求人は、株式会社であるにもかかわらず、過去に少なくとも59件もの他人の商標登録出願を代理していることを確認した(甲67)。そのうち、商願2015-113554号は、本件商標と社会通念上同一の商標「Mpow」について、本件商標の出願とほぼ同時期である2015年11月5日に出願されたものであり、出願人は「東京天城株式会社」である(甲68)。
そして、「東京天城株式会社」は、過去に被請求人と同様に他人の商標をいわば先取り的に出願し、その登録後、当該他人に対する譲渡により利益を得ている(甲69?甲72)。
そうすると、被請求人と「東京天城株式会社」は通じており、被請求人による本件商標の出願登録行為は、上述した「東京天城株式会社」による譲渡行為のように、請求人に対して本件商標を買い取らせる目的を有していたか、請求人との競合関係に鑑みれば、少なくとも請求人の商標使用を制限することにより事業上の優位性を得る目的を有していたものと推認される。
この点に関して、本件商標は、その登録出願の際に周知であった引用商標と社会通念上同一又は極めて類似しており、引用商標は造語よりなるものであることから、本件商標が偶然に引用商標と一致したとは認め難い。
そうすると、特許庁商標審査便覧の商標法第4条第1項第19号の規定の趣旨においても被請求人の目的(不正の目的)は推定される。
さらに、被請求人による上記出願代理行為は、「他人の求めに応じて報酬を得て」行ったものと考えられ、弁理士法第75条に違反する非弁行為であることが伺われる。
(4)無効理由の根拠法条への該当性
ア 商標法第3条第1項柱書について
本件商標の出願から約2年半が経過した現在までに、被請求人によって本件商標が使用された事実は確認できない。そして、被請求人は、従業員5人からなる零細企業であるにもかかわらず、他人の商標を含む76件もの商標登録出願を行っており、さらには、被請求人の法秩序を乱す悪質な性格からして、請求人に対して本件商標を買い取らせる目的又は請求人の事業活動を阻害する目的も推認される。
そうすると、被請求人は、請求人の使用する引用商標ないし商号について出願し、登録された商標を収集しているにすぎないというべきであって、本件商標は、登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上、被請求人にはその使用意思も認められない。ゆえに、本件商標は商標法第3条第1項柱書に違反する。
イ 商標法第4条第1項第7号について
本件審判では、(1)本件商標は、造語である引用商標と社会通念上同一又は極めて類似するものである。また、(2)引用商標が請求人により種々のネットメディアを通じて広告されている状況において、被請求人が本件商標の登録出願を行っている。(3)被請求人は本件商標以外にも、他人の使用する商標を含む79件もの商標登録出願を行っている。(4)被請求人の法秩序を乱す悪質な性格からして、請求人に対して本件商標を買い取らせる目的又は請求人の事業活動を阻害する目的も推認される。
そうすると、本件商標は、不正な目的をもって剽窃的出願されたものと認められるから、公序良俗に反することは明らかであり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第19号について
引用商標は、本件商標の出願時において、米国及び我が国における取引需要者の間で、少なくとも「スマートフォン用自撮り棒、ヘッドホン、照明装置」について請求人の商標として広く知られていたと推認され、本件商標は、これら引用商標と社会通念上同一又は極めて類似するものである。また、被請求人による本件商標の出願登録行為には、請求人に対して本件商標を買い取らせる目的又は請求人の商標使用を制限することにより事業上の優位性を得る目的が推定される。
したがって、本件商標は、その出願時において、我が国又は外国で周知の引用商標と同一又は類似する商標であって、不正の目的をもって使用するものと認められるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
エ 商標法第4条第1項第10号について
引用商標は、本件商標の出願時において、我が国における取引需要者の間で、少なくとも「照明装置」についての請求人の商標として広く知られていたと推認され、本件商標は、これら引用商標と社会通念上同一又は極めて類似するものである。また、本件商標の指定商品中「照明用器具及び電球類」(第11類)は、請求人の使用に係る商品「照明装置」を包含する商品概念であり、これらは同一又は類似するものと認められる。
したがって、本件商標は、その出願時において、我が国で周知の引用商標と同一又は類似する商標であって、その指定商品も請求人の業務に係る商品と同一又は類似するものであるため、商標法第4条第1項第10号に該当する。
オ 商標法第4条第1項第15号について
引用商標は、本件商標の出願時において、我が国における取引需要者の間で、少なくとも「スマートフォン用自撮り棒、ヘッドホン、照明装置」についての請求人の商標として広く知られていたと推認され、本件商標は、これら引用商標と社会通念上同一又は極めて類似するものである。
また、引用商標を構成する文字は、請求人が独自に考案した造語であって、請求人のハウスマークとして使用されるものである。
さらに、請求人は、主に家庭用電化製品や附属品を専門に扱い、多彩な製品を提供している。
加えて、本件商標の指定商品「照明用器具及び電球類,家庭用電熱用品類,浄水装置,冷暖房装置,冷凍機械器具」は、請求人が専門に取り扱う家庭用電化製品の部類に属するものであり、請求人と被請求人はいずれもECサイトを利用した通信販売によって商品を流通させていることから、ECサイトにおける家庭用電化製品の部類において、商品の需要者が一致する。
そうすると、本件商標の出願時において、被請求人によって本件商標が使用された場合には、その商品に接する取引需要者は、その商品が請求人の商品であるとか、請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる可能性は十分に予想され、需要者がその出所について混同を生じることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)結び
以上述べたとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反し、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)請求人と被請求人(商標権者)について
ア 請求人について
請求人は、2015年2月2日に設立された中国法人(有限責任公司)であって(甲4)、主に家庭用電化製品や附属品を専門に扱い、「Bluetooth」受信機から「iPhone」ヘッドセットまで多彩な製品を提供している。また、請求人は、カリフォルニア、ロンドン、ベルリンにオペレーションセンターを有し、主にECサイトの「Amazon」や小売店を通して、10力国以上の地域で商品を販売している(甲5)。
さらに、請求人は、引用商標2を使用したMpowブランドを展開しており、「スマートフォン用自撮り棒」、「ヘッドホン」及び「照明装置」などのスマートフォン関連商品及び家電用電化製品を企画・販売している(甲6?甲8)。Mpowブランドの商品は、「Amazon.com」、「eBay.com」、「gearbest.com」及び「wish.com」などにおいて、販売されている(甲9?甲14)。
そして、請求人のMpowブランドの「照明装置」は、2016年上半期の日本Amazonランキングで大賞を受賞しており(甲41)、また、「Google」及び「YAHOO!JAPAN」のインターネット検索エンジンで「Mpow」を検索すると、請求人のMpowブランド商品が上位に表示される(甲42?甲45)。
加えて、請求人は、本件商標の出願前から、米国において、引用商標を出願し、商標登録を受けている(甲2、甲3)。
イ 被請求人(商標権者)について
被請求人は、2013年に設立された従業員5人からなる企業であって、通信販売業務、携帯電話・タブレット・パソコン端末用保護ケース、その周辺アクセサリーなどの製作・販売、国際貿易業務などを事業内容としており(甲51)、現在、ECサイトの「楽天市場」において、「CITUS Online」というネットショップを運営している(甲52、甲53)。この「CITUS Online」においては、モバイルバッテリー、電子タバコ、アロマ加湿器、ヘアアイロンなど様々な商品が販売されている(甲55)。
(2)商標の類否について
本件商標は、「Mpow」の欧文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、英和辞典等の外国語辞典や一般の辞書等に掲載されているものではなく、特定の観念を生じさせることのない一種の造語と理解、認識されるものであるから、本件商標は、その構成文字に相応して「エムパウ」又は「エムポー」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
一方、引用商標1は、「MPOW」の欧文字を横書きしてなり、また、引用商標2は、別掲1のとおり、図案化が施されているものの、「MPOW」の欧文字からなるものと容易に認識できるものであって、当該各「MPOW」の欧文字は、本件商標とその綴りを同一にするものであるから、引用商標からは、本件商標と同じく「エムパウ」又は「エムポー」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。
そして、本件商標と引用商標を比較すると、両商標は、称呼及び観念に違いはなく、外観において、前者が大文字と小文字の組合せからなるのに対し、後者が大文字のみからなることや書体の相違及び文字のデザイン化の有無に差異を有するものの、その構成文字の綴りを同一にすることから、外観上、近似した印象を与えるものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、上記した外観、称呼及び観念を総合的に判断すれば、互いに相紛れるおそれのある類似する商標というべきである。
また、本件商標の指定商品は、引用商標の使用商品中の「照明装置」と同一又は類似の商品を含むものである。
(3)本件商標権者によるその他の商標出願(日本)と、該出願に係る商標と同一綴りからなる他人の登録商標(外国)について
商標権者は、別掲2のとおり、本件商標と引用商標の関係以外にも、先に存在する外国における他人の登録商標と、その構成文字の綴りを同じくする同一又は類似の商標を、その後、我が国に複数出願し、登録している事実が存在する。
そして、別掲2に挙げる商標は、いずれも造語からなるところ、このような商標を複数件、商標権者1社が偶然に採択したとは考えがたいことからすれば、本件商標の登録出願の経緯には、請求人の引用商標を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたもの推認する蓋然性は高いものといえる。
(4)判断
以上からすれば、商標権者は、その取り扱いに係る商品が請求人の使用商品と同一又は類似の商品を含むものであって、インターネットの通販サイトを利用して商品の販売をしている販売形態において共通している。
そして、商標権者が、外国における他人の登録商標と、その構成文字を同じくする同一又は類似の商標を、我が国で複数出願し、登録している状況を鑑みれば、本件商標は、請求人による引用商標の使用開始及び米国における引用商標の商標登録の出願の日の後に我が国に出願したものであって、本件商標と引用商標の構成文字は辞書等に掲載されていない造語であり、その独創性は高いものといえ、商標権者が偶然に引用商標と同じ綴りからなる商標を採択したとは想定できず、むしろ、本件商標の出願は、請求人の引用商標の存在を認識し、引用商標が日本において登録していないことを知った上で、請求人の事業を阻害することを目的に剽窃して採択したものと推認できる。
してみれば、本件商標の登録出願の経緯には、請求人の引用商標を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたものとして、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることは、健全な商取引の遂行を阻害し、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反するものである。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号の該当性について
(1)商標法第3条第1項柱書について
請求人は、「被請求人は、請求人の使用する引用商標ないし商号について出願し、登録された商標を収集しているにすぎないというべきであって、本件商標は、登録査定時において、現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上、被請求人にはその使用意思も認められないから、本件商標は商標法第3条第1項柱書に違反する。」旨主張する。
しかしながら、商標法第3条第1項柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用する」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合に限らず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されることから、仮に、商標権者が、現在本件商標の指定商品に係る業務を行っていないとしても、当該業務を将来行う意思があれば足りるといえる。
そこで、本件商標についてみると、本件商標の登録査定時に、本件商標権者が本件審判請求に係る指定商品について本件商標を現に使用をしている又は使用をする予定があることについて、格別に合理的な疑義があったものとはいえないし、また、使用をしている又は使用をする予定があることを否定し得るに足る証拠の提出はない。
したがって、本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないということはできない。
(2)商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号の該当性について
甲第5号証ないし甲第14号証によれば、請求人は、引用商標を「スマートフォン用自撮り棒、ヘッドホン、照明装置」等に使用していることが認められ、また、甲第27号証ないし甲第40号証によって引用商標が本件商標の出願日前から使用されていたことが認め得るとしても、該証拠は、インターネットのウェブサイトの動画、記事が殆どであるところ、ウェブサイトは、関心のある者が自らアクセスしない限り入手できない情報であるから、一般的な消費者が情報を得る媒体とは必ずしもいえないものである。
また、引用商標を付した使用商品に関する外国及び我が国における売上高、市場シェアなどの販売実績を示す証拠や広告宣伝の費用、方法、回数など、商標の使用の事実を量的に把握することができる証拠は提出されていない。
そして、請求人は、米国において引用商標を出願し、登録され(甲2、甲3)、欧州連合体商標の出願をしており(甲50)、我が国を含む世界各国(日本、カナダ、メキシコ、スペイン、ブラジル、イタリア)において、引用商標を出願し、商標登録を図っているとしても、このことをもって直ちに当該商標が取引者、需要者間に周知著名なものとなるものではない。
さらに、請求人は、米国では、2015年8月3日から2015年10月31日の短期間に、Mpowブランドの「スマートフォン用自撮り棒」が39,969個、「ヘッドホン」が49,471個、「照明装置」が4,444個、それぞれ販売され、我が国においても、2016年3月18日から2017年1月1日の期間に、Mpowブランドの「スマートフォン用自撮り棒」が4,226個、「ヘッドホン」が31,400個、「照明装置」が42,111個、それぞれ販売された旨主張しているが、そのことを裏付ける証拠の提出はない。
してみると、申立人の提出に係る甲各号証によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が、申立人の業務に係る商品の商標として、米国及び我が国の取引者、需要者の間において、広く認識されていたものとは認められないものである。
そうすると、本件商標を、その指定商品について使用しても、これに接した需要者が申立人の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生じさせるおそれのないものといわざるを得ないことから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
また、商標法第4条第1項第10号及び同第19号の適用にあたっては、請求人標章が請求人の商品を表示するものとして我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていることが適用要件の一つと解されるところ、上記の認定のとおり、引用商標は本件商標の登録出願の時において、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているものとは認められないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものとはいえないものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものとはいえないものであるが、商標法第4条第1項第7号に該当するから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。
別掲 別掲1 引用商標2


別掲2
商標権者による、他の商標出願と、該出願に係る商標と同一綴りからなる外国における他人の登録商標
1 商標「DORCY」について
ア 商標権者
商標の態様:「Dorcy」
登録第5845986号商標
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 :平成27年12月4日
イ 権利者:Dorcy Inyernational,Inc.(米国)(甲57、甲58)
商標の態様:「DORCY」
登録第1263927号商標(米国)
指定商品:第4類、第6類ないし第9類、第11類及び第12類に属する商品
出願日 :1981年(昭和56年)11月20日
2 商標「iRULU」について
ア 商標権者
商標の態様:「iRuLu」
登録第5852223号商標
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 :平成27年12月19日
イ 権利者:USA111 INC.(米国)(甲59、甲60)
商標の態様:「iRULU」
登録第5096073号商標(米国)
指定商品:第9類に属する商品
出願日 :2014年(平成26年)12月31日
3 商標「Coomatec」について
ア 商標権者
商標の態様:「Coomatec」
登録第5855806号商標
指定商品:第11類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 :平成28年1月8日
イ 権利者:Coomatec Inteligence.,Limited(香港)(甲61、甲62)
商標の態様:「Coomatec+図形」
登録第011968351号商標(欧州連合)
指定商品:第7類、第9類及び第11類に属する商品
出願日 :2013年(平成25年)7月9日
4 商標「BAFX」について
ア 商標権者
商標の態様:「BAFX」
登録第5858356号商標
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 :平成27年12月3日
イ 権利者:BAFX Products,LLC(米国)(甲63、甲64)
商標の態様:「BAFX」
登録第4940231号商標(米国)
指定商品:第9類に属する商品
出願日 :2015年(平成27年)7月15日
5 商標「Blusmart」について
ア 商標権者
商標の態様:「Blusmart」
登録第5865797号商標
指定商品:第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
出願日 :平成27年12月3日
イ 権利者:SHENZHEN CITY ABK TECHNOLOGY CO.,LTD(中国) (甲65、甲66)
商標の態様:「Blusmart」
登録第4755741号商標(米国)
指定商品:第9類に属する商品
出願日 :2014年(平成26年)10月28日


審理終結日 2018-11-27 
結審通知日 2018-11-29 
審決日 2018-12-12 
出願番号 商願2015-129500(T2015-129500) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W11)
T 1 11・ 22- Z (W11)
T 1 11・ 18- Z (W11)
T 1 11・ 271- Z (W11)
T 1 11・ 25- Z (W11)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 光治 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 田中 幸一
榎本 政実
登録日 2016-05-20 
登録番号 商標登録第5852247号(T5852247) 
商標の称呼 エムパウ、エムポー、パウ、ポー、ピイオオダブリュウ 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 

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