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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W20
管理番号 1356895 
審判番号 無効2018-890044 
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-20 
確定日 2019-10-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5614453号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5614453号商標(以下「本件商標」という。)は,「らくらく」の文字を標準文字で表してなり,平成25年4月17日に登録出願,第20類「家具,机類」を指定商品として,同年8月12日に登録査定,同年9月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する商標は,「らくらく」の文字からなり(以下「引用商標」ということがある。),同人等が昭和61年頃から「正座用の椅子」について使用し,需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲1?15(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法4条1項10号に該当し商標登録を受けることができないものであるから,同法46条1項1号により,その登録は無効とすべきである。
2 具体的な理由
(1)請求人の概要
請求人は,屋号を住友産業として事業を行う個人事業主であり,正座用の椅子の製造販売を主たる事業としている。
屋号の住友産業は,請求人の実父により昭和31年に創業され,その代表である事業主は,平成19年3月まで請求人の実父であり,同年4月から現在まで請求人である。
したがって,商標法4条1項10号における「他人」は,請求人の実父と請求人が事業主の住友産業として,以下説明する。なお,住友産業は,法人でないため,同号の「他人」に該当しないと解される場合には,住友産業を請求人の実父及び請求人と読み替えることとなる。
(2)住友産業の「らくらく」を表示した正座用の椅子の販売個数と販売方法
ア 販売個数
住友産業は,昭和60年頃に他社に先駆けて正座用の椅子を開発するとともに,同61年頃から「らくらく」の表示を付して製造販売を開始した。
そして,「らくらく」の表示を付して販売した正座用の椅子(以下「らくらく正座椅子」という。)の個数は,帳簿が現存する平成12年,同15年ないし同25年の各年で,同12年が11.2万個,同15年が9.1万個ないし同25年が3.3万個である(甲2)。
らくらく正座椅子の各年の販売個数は,販売開始時から右肩上がりで,平成5年頃にピークとなり,その後は右肩下がりとなっている。
右肩下がりとなった理由は,生活様式が和室から洋室となり,正座の機会・習慣が減少し,仏事においても椅子席が主流となり,現在の正座の機会は一部の仏事,茶道,華道,芸事などとなったためと推測される。右肩下がりの状況は,正座椅子の販売業界全体も同様であり,正座椅子の元祖として知られているらくらく正座椅子のシェアが低下したわけではない。
そして,平成12年から同24年(同13年及び同14年を除く。)まで11年間の記帳された販売個数は,71万個余りであり(甲2),販売開始の昭和61年から平成24年までの販売個数では,少なく見積もっても170万個を超えている。
イ 販売個数の算出方法
住友産業は,らくらく正座椅子の販売管理を帳簿に筆記で行っており,具体的には,取引先ごとに販売年月,品名,数量,単価,受入れ金額などを記帳している(甲1)。
そして,取引先は百数十社あり,現存する帳簿の頁数が数千頁に及ぶため,帳簿をそのまま証拠として提出しても煩雑で販売個数を理解するのが困難であるため,請求人代理人がパソコンに入力して取引先ごと,販売年ごとに合計を出力した表で販売個数を算出した(甲2)。
なお,それには取引先を略称で記載しているが,取引先の特定は住所,名称等を別途取引先台帳に記載している。
ウ 住友産業における販売方法
住友産業におけるらくらく正座椅子の製造販売の従事者は,請求人を含めて数名であり,営業専任者はいないため,主たる販売は取引先である問屋・小売店であり,最終消費者への直接販売は,最終消費者同士の口コミなどから電話・はがき等での注文の場合であり,全体の販売個数に占める割合は僅少となっている。
そして,販売当初の昭和60年代は,問屋・小売店開拓により徐々に取引先が増加するとともに,販売個数も増加してきた。
また,株式会社家庭日用品新聞社が旬刊で発行する生活産業新聞にらくらく正座椅子の宣伝広告を掲載することにより,取引先との取引の継続を図っている(ただし,該新聞は平成23年1月に廃刊となった。)。
エ 取引先における販売方法
住友産業から,らくらく正座椅子を仕入れた取引先のうち,家庭日用品雑貨の問屋・小売店は,百貨店・スーパーマーケット・生協などへの催事用の販売,ホームセンターへの販売,カタログ通販,ウェブサイト通販などの販売を通じて,新聞折り込みチラシ配布,カタログ配布,ウェブサイト掲載などにより,らくらく正座椅子を最終消費者に販売している。
また,仏事の問屋・小売店は,お寺・宗教団体・葬儀社などに販売し,これらを通じて,らくらく正座椅子を最終消費者に販売している。
さらに,茶道,華道,芸事の問屋・小売店は,これらに必要な用品の販売に付随して,らくらく正座椅子を最終消費者に販売している。
(3)らくらく正座椅子の宣伝広告
ア 住友産業による宣伝広告の証拠
(ア)生活産業新聞による宣伝広告
住友産業の宣伝広告は,上記(2)ウで言及した生活産業新聞に掲載することにより行っていた。
生活産業新聞は,生活用品に関する生産者及び流通者向けの全国版の業界紙で,生活用品の業界で長年にわたって情報を発信してきた信頼性の高い旬刊の新聞であり,発行部数は55,000部程度であったが,広告主の激減により平成23年1月11日をもって廃刊となった。
生活産業新聞の5年間(平成14年?同18年)の縮刷判を入手できたので,宣伝広告の証拠として提出する(甲3?7)。
(イ)販売時の収納箱の宣伝広告
らくらく正座椅子を取引先などに販売する際には,1個ずつ直方体の収納箱に収納して販売しており,収納箱には正面,側面に「らくらく」の商標が大きく表示されている(甲8)。
なお,包装箱1(甲8の1)は昭和63年頃に,包装箱2(甲8の2)は平成6年頃から,包装箱3ないし包装箱8(甲8の3?8)は本件商標の登録出願前から現在において販売している正座椅子用のものである。
したがって,平成12年前後には年間10万人以上,さらには昭和61年頃から平成25年4月までに少なく見積もっても170万人以上の最終消費者がらくらく正座椅子を購入し,その際に包装箱に表示された「らくらく」に接することで,正座用椅子に表示された商標「らくらく」が広く認識されたことを示している。
(ウ)その他の宣伝広告
上記のほか,らくらく正座椅子の広告を,生活産業新聞を発行している株式会社家庭日用品新聞社の「2005?2006 生活用品 品目別 企業便覧」,同社の「生活産業 企業名鑑 2011年度版」に掲載した(甲9)。
また,住友産業の「創造する企業」と題するカタログ(平成13年頃作成し,取引先に配布。甲10)及び「50音別電話帳 吉野川市版2004年版テレ&パル50」(甲11)にも掲載した。
イ NHK出版による宣伝広告の証拠
NHK出版から平成23年9月1日に「NHKきょうの健康 11月号」の連載「あったらうれしい便利なグッズ」に住友産業の正座いすを写真で紹介したいとして,「らくらく正座椅子」の送付の依頼があった(甲12の1)。
そして,「きょうの健康」(平成23年10月21日発行)に,正座補助具とその使用例の写真2葉が掲載された(甲12の2)。ただし,「らくらく」の記載はない。
さらに,NHK出版の通信販売のため,「きょうの健康」2012年1月号に「住友産業 らくらく正座いす」として掲載される(甲12の3)とともに,現在もウェブサイトに掲載中である(甲12の4)。
ウ 取引先による宣伝広告の証拠
家庭日用品雑貨の問屋・小売店は,百貨店・スーパーマーケット・生協などにおける催事用として販売する際に,事前に新聞の折り込みチラシを需要者に配布している(甲13)。
なお,証拠には年度の記載がないが,それぞれに記載された月日・曜日をカレンダーに照らし合わせると,平成24年であったことが判明する。
正座椅子は,一部の仏事,茶道,華道,芸事の際に使用されるもので,需要者である最終消費者が一定分野の関係者であり,一般の家具のように常時展示在庫販売されることはホームセンターの一部などを除き行われていない。
したがって,らくらく正座椅子の最終消費者への販売は,百貨店・スーパーマーケット・生協などでの催事販売がかなりの割合を占めている。
そして,催事販売においては,事前にチラシによる宣伝広告で販売促進を行っているが,5年以上前のチラシは保管されていないため,提出証拠が限られている。
また,催事販売は,百貨店・スーパーマーケット・生協の催事用スペースが近年なくなる傾向があるとともに,お中元とお歳暮の期間は催事販売ができないために,ウェブサイト通販やカタログ通販を行う取引先が増加している(甲14,15)。証拠は,ウェブサイト通販の取り扱い開始日の記載されたものを例示しているが,取り扱い開始日の記載されたものが少ないために証拠も限定されている。
(4)正座用の椅子に表示した「らくらく」の周知性
住友産業の正座用の椅子に表示した「らくらく」が本件商標の登録出願時及び登録査定時に需要者に周知であることは,下記のとおり明らかである。
ア 「らくらく」を表示した正座用の椅子(らくらく正座椅子)の販売個数は,上記(2)アのとおり,平成12年から同24年(同13年及び同14年を除く。)までの11年間で71万個余りであり(甲2),販売開始の昭和61年から平成24年までは推定で170万個以上であり,正座用の椅子という仏事,茶道,華道,芸事という特殊な需要者においての販売個数として,非常に大きな数値であり,周知であったことを示している。
イ 「らくらく正座椅子」は,催事,ウェブサイト通販,カタログ,通販などで最終需要者に販売されているが,催事においても宣伝広告がなされることにより販売される(甲13)のであり,このような宣伝広告により最終消費者に「らくらく」は周知となっている。
ウ 最終消費者には,正座用の椅子は収納箱に収納された状態(甲8)で販売され,収納箱に「らくらく」が目立つ状態で表示され,購入者である最終消費者に周知となるとともに,口コミで購入者から知人に広がるのである。口コミでの広がりは,例えば催事は期間が限定されているが,催事終了後は住友産業に対して電話,郵便で注文がなされる。
エ NHKの「きょうの健康」(甲12)に取り上げられたことは,NHKのきょうの健康の編集担当者に住友産業のらくらく正座椅子が周知であったことを示している。
オ 正座用の椅子に「らくらく」を表示した宣伝広告を多数行っており(甲3?7),らくらく正座椅子の需要者のうちの取引者には周知となっていることを示している。
(5)被請求人の主張に対して
ア 請求人は,被請求人から本件商標権に基づく権利行使を受けており(乙4の1等),商標法46条2項に規定する「利害関係人」であることは明白である。
イ 第三者商標権(件外商標登録第1335124号)との関係は,本件商標が商標法4条1項10に該当するか否かの審理には無関係であるから,理由がない。
ウ 商標法4条1項10号における,いわゆる「周知商標」とは,ハウスマークであろうと,シリーズネームであろうと,ペットネームであろうと該当するのであるから,住友産業がシリーズネーム「らくらく」を各型番の正座椅子に使用して,正座椅子全体の販売個数によりシリーズネーム「らくらく」の周知性を主張立証することは正当である。
エ 商標法4条1項10号の周知商標は,本件商標の登録出願(平成25年4月17日)時及び登録査定(同年8月12日)時における周知性が審理されるから,平成26年以降の周知性を立証する必要はないことは明らかであり,かつ,正座椅子業界の需要減により販売数量が減少したとしても,既に周知性を獲得した商標については需要者の記憶に残り周知性が維持されるのである。
オ 集計表(甲2)は,帳簿が数千頁もあり,そのコピーを提出することは,煩雑であるばかりか,集計に数日を要するために,集計表にまとめて提出したまでのことであり,必要であれば用意する。
カ 「らくらく正座椅子」の販売方法の立証については,審判請求書及び証拠の全体を総合的に判断すれば,請求人の主張する販売方法が事実であると推認できる。また,必要であれば,口頭審理,当事者尋問で立証することが可能である。
キ 生活産業新聞での宣伝広告について,同新聞が平成23年1月11日に廃刊となったとしても,それまでに正座椅子に使用の「らくらく」が周知性を獲得していれば,本件商標の登録出願日及び登録査定日においても,販売が継続されている(甲2)のであるから,周知性は維持されている。
生活産業新聞は,一般の大衆紙ではなく,販売業者などの取引業者向けであり,発行部数の割に取引業者への宣伝広告効果がある。
平成18年以降から同23年1月11日までの同新聞での宣伝広告がないのは,請求人が入手できた5年間(同14年?同18年)のCD-ROMに収納の縮刷版から印刷したものを証拠として提出したためであって,これらの前後についての宣伝広告は証拠が残っていなかったため,提出していない。また,掲載頁中の1コマであっても広告宣伝効果を否定する理由とはならない。
ク NHK出版による宣伝広告(甲12)は,住友産業の製造販売する「らくらく正座椅子」が「NHK出版 きょうの健康 編集部」に周知であったことを示しているのである。
ケ 請求人が,取引先による宣伝広告に係る証拠を本件商標の登録出願日以前のものとした理由は,商標法4条3項の規定により,商標登録出願日の時に周知商標であることの立証が求められていること,かつ,本件商標の登録出願日から登録査定日まで4か月も経過しておらず,登録出願日に周知商標であったものが登録査定日に周知商標でなくなることは,特別な理由がない限りありえないことから,登録出願日から後の立証を省略したまでである。
(6)結論
以上のとおり,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,請求人の製造販売に係る正座用の椅子を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標「らくらく」と同一又は類似であるとともに,本件商標の指定商品も正座用の椅子と同一であるから,商標法4条1項10号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙1?8(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標の使用
(1)本件商標は,介護用昇降テーブル「らくらく」テーブルとして使用されているものであり,2017年(平成29年)9月に作成されたカタログ(乙1の1)の納入実績の欄に示すように,介護用昇降テーブル「らくらく」テーブルが全国的に販売されている事実がわかる。
(2)本件商標は,第三者に通常使用権の許諾を行っている(乙1の2)。
2 本件審判が請求されるまでの経緯
(1)平成29年12月22日付け通知書で,被請求人から,製造元である住友産業の「らくらく椅子」「らくらく正座椅子」の使用について,その使用を中止するように求め,使用許諾の用意がある旨を請求人に通知した(乙4の1)
(2)平成30年1月12日付け回答書で,屋号「住友産業」の代表である請求人の代理人から,被請求人宛に,関係資料とともに「本件商標権の登録出願日前に,住友産業商品は永年にわたり継続して多数販売しており,住友産業商品の『らくらく』の表示は正座椅子の業界において周知であり,本件商標権について商標法32条1項に規定する先使用権を有している。」旨などの回答があった(乙5の1)。
(3)平成30年2月6日付け書簡で,被請求人から上記代理人に対し,上記(2)の回答書では周知であることが立証されていないとして,ア)周知性を獲得していると主張する商品を具体的に特定し,その根拠を提示すること,イ)「らくらく」表示をした商品で,本件商標の出願後に新たに販売された商品を特定し連絡することを要求した(乙4の3)。
(4)平成30年3月14日付け催告書で,被請求人代理人から上記代理人に対し,上記(3)について回答するよう催告した(乙4の2)。
3 請求の理由に対する答弁
(1)請求の理由についての主張に対しては,争う。
(2)請求人の概要については,争う。
商標法46条2項は「前項の審判は,利害関係人に限り請求することができる。」と規定する。
請求人の「請求人は,屋号を住友産業として事業を行う個人事業主であり,正座用の椅子の製造販売を主たる事業としている。・・・なお,住友産業は法人でないため,同法4条1項10号の『他人』に該当しないと解される場合には,住友産業を請求人の実父及び請求人と読み替えることとなる。」との主張は,認められない。けだし,法人でない住友産業は,「他人」に該当しないことは明白であり,また,提出された甲各号証は,「住友産業」の名称が使用され,請求人の実父名及び請求人名は使用されていないからである。
したがって,商標法46条2項の要件を充足しない。
(3)住友産業の「らくらく」を表示した正座用の椅子の販売個数と販売方法については,争う。
ア 「らくらく」を表示した正座用の椅子の販売個数について
(ア)請求人以外の者が保有する件外商標登録第1335124号は,商標を「らくらく」,指定商品を第20類「家具,建具,屋外装置品(ただし,よしず,天幕,日おおい,雨おおい,苗床幕,寝台,吊床を除く)記念カップ類,葬祭用具」とするものであり(乙3),その指定商品のうち「家具」には「座椅子」等の商品が含まれる。
しかして,該商標登録の登録原簿には,専用使用権,通常使用権等の記載は全くなされておらず,その商標権は平成20年6月21日まで有効であったのであるから,製造元である住友産業は,当該商標権の存在を無視して,「請求人の製造販売に係る正座用の椅子を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標『らくらく』」との主張を行っているものである。上記商標権との関係を立証すべきである。
(イ)請求人は,「らくらく正座椅子の各年の販売個数は,販売開始時から右肩上がりで,平成5年頃にピークとなり,その後は右肩下がりとなっている。」と述べているように,請求人も販売個数が減少していることは認めているところであり,そもそも周知性を認定するに足りる数量ではない。
請求人は,「販売開始の昭和61年から平成24年までの販売個数は,少なく見積もっても170万個を超えている。」と主張しているが,全体の販売個数のみを主張しているものであり,型番等も明確ではない。全体の販売個数のみでは足りず,周知性を獲得するまでの経緯等が重要なのであって,そもそも販売個数が減少している状態では,周知性を獲得するまでの立証が何らなされているものではない。
(ウ)請求人の提出に係る台帳(甲1)から販売個数を転写して集計表(甲2)を作成した点は理解できるが,平成25年時点での数量は,販売個数(型番等は不明)が非常に少なく,しかも,同年以降については立証されていないので,周知性を立証するための証拠としては,十分なものではない。
また,基本となる台帳(甲1)の記載からは,集計表(甲2)を導き出すことはできないものである。
集計表(甲2)に示す主要な取引先の販売個数は,請求人が認めるように右肩下がりである。また,主要取引先以外の販売個数は,H25の欄をみれば明らかなとおり,非常に少ないものであることがわかる。
イ 住友産業における販売方法,取引先における販売方法については,請求人の主張のみであり,具体的な立証がなされていない。
(4)らくらく正座椅子の宣伝広告の証拠については,争う。
ア 住友産業による宣伝広告の証拠について
(ア)生活産業新聞による宣伝広告について
請求人の提出に係る生活産業新聞による宣伝広告は,a)生活産業新聞が,本件商標の登録出願日以前の平成23年1月11日をもって廃刊となっていること,b)生活産業新聞の発行部数は55,000部程度としているが,廃刊までの発行部数の立証がなく,少なくとも減少しかないのであるから,それによる周知性の立証はなし得ないものであること,c)平成14年ないし同18年の宣伝広告の証拠(甲3?7)が提出されているが,同19年から同23年1月11日までのものがなく,継続的な宣伝広告がなされていないこと,d)生活産業新聞の掲載頁の1頁のうちの1コマでしかないこと,e)複数の製品が掲載されているが,これらの製品と集計表(甲2)との整合性が全くなされていないこと等の理由から,継続的な使用がなされているものではなく,周知性を立証するに足りるものではない。
(イ)販売時の収納箱の宣伝広告について
包装箱1(甲8の1),包装箱2(甲8の2)は,共に本件商標の登録出願日以前に既に販売が終了している製品であるから,そもそも周知性の証拠としては足り得ないものである。
また,包装箱3ないし包装箱8(甲8の3?8)は,具体的な製品の包装箱としては認め得るが,そもそも,平成25年までの販売個数が示されている集計表(甲2。なお,甲1から「らくらく正座椅子」は導き出せないことは既に述べた。)との関連性は明らかではないし,それぞれがどのように販売されたのかが明らかではない。
一般的にみても,商品ごとに売行きは異なるのであるから,請求人が述べるように,それぞれの具体的な販売個数等が示されて,初めて,周知性を獲得した商品がどの製品であるのかを決定すべきであり,それを認定すべきである。
そもそも,請求人の製品は,本件商標の登録出願時で売行きが減少の一途をたどっているのであって,過去から全ての製品の販売個数を算定の基礎として周知性の根拠とすること自体に無理がある。
故に,「したがって,平成12年前後には年間10万人以上,さらには昭和61年頃から平成25年4月までに少なく見積もっても170万人以上の最終消費者がらくらく正座椅子を購入し,その際に包装箱に表示された『らくらく』に接することで,正座椅子に表示された商標『らくらく』が広く認識されたことを示している。」との請求人の主張は,何らの根拠もないものであって,到底容認されるものではない。
(ウ)その他の宣伝広告について
請求人提出に係る証拠(甲9?11)は,本件商標の登録出願日以前のものであって,継続的な使用を認め得るに足りる証拠とはなり得ないものである(乙8の1)。
イ NHK出版による宣伝広告の証拠について
請求人も認めるように,「らくらく」の記載がないような証拠(甲12の2)は,証拠足り得ないものであるし,請求人は,証拠が少ないものをあえて誇大に証拠があるかのような表現を行っているものである。
そして,甲12の3は,NHK出版の通信販売のチラシのような1コマに掲載され,かつ,「お申し込み期間 2012年5月31日(木)まで」との記載があり,本件商標の登録出願日以前の期間限定のものであることがわかる。
また,請求人は「現在もウェブサイトに掲載中である(甲12の4)」と述べているが,「× 品切れ」の表示があり,このような掲載頁をそもそも証拠として提出すべきものではない。
ウ 取引先による宣伝広告の証拠について
請求人の証拠(甲13)は,平成24年度単年度のチラシを提出しているものであるが,そもそも,請求人提出の証拠は,本件商標の登録出願日以前のものばかりであり,登録査定時までの証拠はほとんど提出されていない。
(5)正座用の椅子に表示した「らくらく」の周知性については,争う。
住友産業の正座用の椅子に表示した「らくらく」が本件商標の登録出願時及び設定登録時に需要者に周知であるとの主張は,到底容認し得ないものであることは既に述べたところであり,重ねて反論はしないが,登録第1335124号商標(乙3)の登録が請求人の商標が使用される以前から有効に存在していたこと,本件商標は第三者への使用許諾も適正になされていたもの(乙1の2)であることから,本件商標が商標法4条1項10号に該当するとの請求人の主張は,到底容認し得ないものである。
(6)結論における主張は,到底容認し得ないものである。
4 むすび
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 利害関係
被請求人は,本件審判は商標法46条2項の要件を充足しない旨主張しているが,請求人は,被請求人から本件商標に係る商標権に基づき,請求人の商品について商標の使用を中止するよう通知されている(乙4の1等)ことから,本件審判を請求することについて利害関係を有する者と認める。
したがって,本件審判は,商標法46条2項の要件を具備する。
2 引用商標の周知性について
(1)証拠及び当事者の主張並びに職権調査によれば,次の事実を認めることができる。
ア 請求人は,屋号「住友産業」の代表者であり,同屋号(以下「住友産業」を含め「請求人」という。)にて「正座用の椅子」の販売を行っている(乙4,5)。
イ 請求人は,遅くとも昭和63年頃から,「正座用の椅子」の製造,販売を行っていたことがうかがえ(乙5),また,平成14年1月から現在まで継続して販売していると推認できる(甲3?7,14,職権調査)
ウ 請求人が販売する「正座用の椅子」(以下「請求人商品」という。)は,いくつかの種類があり,その広告が生活産業新聞に平成14年1月から同18年12月までに合計75回掲載され,その広告には,それぞれ,商品の写真が掲載され,そのほとんどに「らくらく正座椅子」の文字,品番及び「住友産業」の文字などが記載されている(甲3?7)。
エ 請求人商品の広告や包装箱には,「らくらく正座椅子」の文字のほか,「らくらく万能座椅子」「らくらく椅子」「らくらく正座いす」などの文字が用いられているものがいくつか見受けられるものの(甲3の1,6の1,7の1,8,12の3・4),「らくらく」の文字が単独で用いられていると認められるものは1件(甲8の8)のみである。
オ 請求人が販売する「らくらく正座椅子」の販売個数(甲2)を裏付ける証左,及び請求人商品が「らくらく」と略称されていると認め得る事情は見いだせない。
(2)上記(1)のとおり,請求人商品の広告が「らくらく正座椅子」の文字及び「住友産業」の文字とともに生活産業新聞に平成14年1月から同18年12月まで継続して75回掲載されたこと,請求人が請求人商品を昭和63年頃から現在まで30年以上継続して販売していることがうかがえることから,「らくらく正座椅子」の文字は,請求人の業務に係る商品(正座用の椅子)を表示するものとして,正座用の椅子の取引者,需要者の間にある程度知られていることがうかがえる。
しかしながら,「らくらく」の文字は,仮に請求人の主張する「らくらく正座椅子」の販売数が事実であるとしても,請求人商品には,そのほとんどに「らくらく正座椅子」の文字が使用され,「らくらく」の文字が単独で用いられていると認められるものは1件のみであること,及び請求人商品が「らくらく」と略称されていると認め得る事情も見いだせないことからすれば,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。
そうすると,「らくらく」の文字からなる引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。
3 本件商標の商標法4条1項10号該当性について
上記2のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないから,本件商標は,仮にこれと引用商標が類似する商標であるとしても,商標法4条1項10号には該当しない。
4 請求人の主張について
(1)請求人は,「らくらく正座椅子」が平成12年前後には年間10万個以上,昭和61年頃から平成25年4月までに少なく見積もっても170万個以上販売された,及び生活産業新聞等で多くの宣伝広告を行っているなどとして,引用商標は,請求人の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されている旨主張している。
しかしながら,仮に請求人の主張する「らくらく正座椅子」の販売個数が事実であるとしても,上記2(2)のとおりの「らくらく」の文字の使用の実情からすれば,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないと判断するのが相当である。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。
(2)なお,請求人は2名の証人尋問を申し出ているが,証人尋問によって「証明すべき事実」は,それらを事実と仮定しても上記判断を左右するものとは認められないから,証人尋問は行わないこととした。
5 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してされたものといえないから,同法46条1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2019-03-07 
結審通知日 2019-03-11 
審決日 2019-03-26 
出願番号 商願2013-32553(T2013-32553) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (W20)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今田 尊恵 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 平澤 芳行
田村 正明
登録日 2013-09-13 
登録番号 商標登録第5614453号(T5614453) 
商標の称呼 ラクラク 
復代理人 内山 邦彦 
代理人 仲村 圭代 
代理人 杉本 勝徳 
代理人 羽切 正治 
復代理人 岡田 充浩 

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