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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y06
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y06
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y06
管理番号 1350765 
審判番号 無効2017-890030 
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-05-26 
確定日 2019-03-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第4927987号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4927987号商標(以下「本件商標」という。)は、「TSA LOCK」の欧文字を標準文字で表してなり、2005年1月7日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、平成17年5月25日に登録出願、第6類「金属製安全錠,金属製鍵,鍵用金属製リング,金属製南京錠」を指定商品として、同年12月22日に登録査定され、同18年2月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び弁駁等において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第50号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきものである。
2 審判請求をすることの利益について
請求人は、アメリカ合衆国運輸保安局(Transportation Security Administration(TSA))(甲2 以下「米運輸保安局」という。)から承認を得たスーツケースなどに搭載されるロック機構、いわゆる「TSA LOCK」を製造販売するものである。被請求人も同様に米運輸保安局から承認を受けて同様のロック機構を製造販売するものであるところ、本件商標が存在することにより請求人が自由にTSA LOCK、TSAロックの語を使用することを妨げられることとなるため、本件審判を請求することについて利益を有する。
3 具体的な理由
(1)商標法第4条第1項第7号
ア 本件商標について
本件商標は上記第1に示すとおりのものである。
本件商標中「TSA」は、米運輸保安局の略語「TSA」と同一である(甲2)。LOCKは「錠」を意味する英単語である。
米運輸保安局は、アメリカ合衆国連邦行政部である国土安全保障省の部局であり、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを受けて、アメリカの運輸システムの安全強化と人や物の自由な交通のために創設された(甲5、甲6)。
米運輸保安局は、世界中の多数の航空安全関係機関と合意を締結し、実行している。これらの合意は、運輸保安局と様々な国の関係当局との膨大な双務協定とともに、世界の航空安全の向上に貢献すると同時に、外国の事業体及び一般の旅行者の間に、運輸保安局とは運輸の保安に特化したアメリカの政府機関であるとの認識を広めた。
保安検査場ではすべての飛行機に積まれる全ての荷物を検査する(甲7?甲10)。物理的に荷物の中身を調べる必要がある場合であって、荷物の錠に鍵がかけられている場合、検査員はそのロック(錠)を破棄することが許されている。ただし、荷物に米運輸保安局が認証するロックがついている場合には運輸保安局はそれを開けるためのマスターキー(鍵)を持っているため物理的に錠を破壊することなく荷物を開けて検査することができる。
米運輸保安局は、請求人及び被請求人の製造販売するロック(錠)のついた鞄を使用することを勧めている(甲7、甲11)。セキュリティチェックが最も厳しいアメリカであっても、これらがついた鞄であれば鍵をかけたまま航空会社に預けることができる。具体的には被請求人及び請求人が各社のロック機構を解錠できるマスターキー(鍵)を米運輸保安局に無償で提供して成り立っている(甲12)。
各社が米運輸保安局との間で契約を結び、その契約書の中で、「米運輸保安局は、他の企業に対しても同様の条件のもとで同様のサービスの提供を求めることがある。被請求人や被請求人のロック(錠)に対して独占的な承認を与えるものではないし、そのような承認があると訴えることはできない。被請求人はTSAロゴを書面での承認なしにそのロック等に使用してはならない。」と述べている。
米運輸保安局は、「TSA LOCK」又は「TSA」の語が商標として使用されることにより、同局がその出所であると需要者に誤認・混同されることをおそれており(甲5、甲12、甲13)、また、単独の業者のみが「TSA LOCK」の語を使用し、その業者の製造販売する「TSA LOCK」こそが米運輸保安局の製造販売したものである、との誤認を生じることをおそれている。なぜなら、米運輸保安局が一企業に「TSA LOCK」の独占的使用を承認したかのような印象を与えるからである。実際には、米運輸保安局は被請求人だけではなく、請求人の製造販売するロック機構(錠)についても承認している(甲7)。米運輸保安局は、この混乱を是正したいと考えている。
さらに、米運輸保安局が請求人に宛てた「『TSA Lock』を商標として登録することについて」という書簡において以下の見解を示している。
米運輸保安局の正式な略称(頭字語)は「TSA」である。合衆国法典第18編第709条「連邦政府機関を示す名称の虚偽広告及び不正使用」により、当該広告がアメリカ合衆国に承認・許可されている合衆国と何らかの関係があるとの印象を与える目的で、連邦政府機関の名称の略称や模倣したものを使用する行為は違法とされている。したがって、米運輸保安局は「TSA」との名称を使用した旅行鞄のロック(錠)がアメリカ合衆国により製造又は承認されたもの、又はアメリカ政府が許可或いは好ましいとした安全機構であると誤った推測がされるおそれのある態様で「TSA」を航空安全用のロック(錠)に使用することに抗議している。アメリカ政府は旅行鞄のロック(錠)の製造はしておらず、旅行鞄の錠のみならずいかなる民間製造業者の製品についても承認を付与するものではない。米運輸保安局は、アメリカの商取引における商品の生産者の承認や特定について、「TSA」との用語又はロゴを含む商標が旅行者に混同・誤認・欺瞞を招くおそれがある場合、いかなる国においても、錠やかばん類について「TSA」との用語又はロゴを使用及び出願することを一切認めていない(甲5、甲12、甲13)。
また、米運輸保安局は、「TSA LOCK」の語は同局が承認するロック(錠)を意味する識別力のない語であると考えている。また、旅行者に混乱を生じ、商業において混乱を生じるため一企業により「TSA LOCK」の語が商標登録され、商標として使用されることを禁止している。すなわち、米運輸保安局は、一企業による「TSA」及び「TSA LOCK」の商標としての独占使用及び登録は認めず、その承認を得たもののみに使用を認めているにすぎない。2016年現在、TSAロック(錠)とマスターキーとの適合関係を示すために「TSA006」といった記号を錠に付すことを許されているにすぎず、商標として「TSA」の文字を錠に付すこと等は認めていない。
被請求人は中国においても「TSA」「TSA LOCK」の商標出願をしたが、請求人がこの登録を阻止した(甲22?甲26)。その際に、米運輸保安局作成の請求人宛ての書簡を提出した(甲5の2)。そこには「米運輸保安局は米商業目的のために商品の提供者の承認・特定に関して混乱を生じるであろう『TSA』の語又はロゴを有するいかなる商標をも承認許可しない。これら商標の異議申立に関してあなたが適切と考えるいかなるアクションでも採ってください。」と書かれている。
イ 日本における「TSA LOCK」に関する認識
ウィキペディアに「TSAロック」の項の記載、スーツケースの製造販売会社やレンタル会社のウェブサイトの記載、大手鞄メーカーであるエース株式会社のウェブサイトの記載、及び海外旅行ガイド本「地球の歩き方」の記載等(甲8?10,14?16)からすると、日本の需要者は、「TSA LOCK」及び「TSAロック」が搭載された鞄は米運輸保安局の職員が特殊ツールを使って解錠が可能な鞄であり、施錠したまま預けることができるもの、と一般的に理解している。
ウ 被請求人による本件商標に至る経緯
・2001年3月11日にニューヨークで起きた同時多発テロを受け、同年11月19日に米運輸保安局が創設された。
・2003年10月 被請求人と米運輸保安局が契約(甲12)。
・2003年に被請求人会社が設立され(甲17、甲18)、同年11月12日に最初のロック(錠)機構が発売された。
・2004年3月 被請求人と米運輸保安局が契約。
・2005年5月25日に被請求人が本件商標を登録出願した(甲1)。
被請求人が、本件商標をその指定商品に独占的に使用する場合、被請求人の商品の出所が、米運輸保安局が出所であるかの誤認を生じるおそれがある。
また、被請求人が、運輸保安局が唯一許可したロック(錠)機構を提供しているかのような誤認を生じるおそれがある。
現に、米運輸保安局が承認許可するロック(錠)機構を提供することを認められているのは被請求人だけではなく、請求人もである。しかし、被請求人が本件商標を独占的に使用する場合、被請求人のみが米運輸保安局から承認・許可されているかのような誤認を生じるばかりでなく、請求人が「TSA LOCK」の語の使用をした場合には商標権侵害に問われるおそれがあるとの懸念があるため、その使用を躊躇せざるを得ず、その営業活動に支障をきたしている。
不正目的について
上記ウによる経緯、並びに2003年1月に、請求人会社の社長であるデビッド・トロップ氏(以下「トロップ氏」という。)は、TSA LOCKのアイディアの提案に関して米運輸保安局に書簡を送付。その当時、被請求人の創設者ジョーン・ヴァミリー(以下「ヴァミリー氏」という。)は、米運輸保安局の受託手荷物検査部門に対するコンサルタントとして働いていた。ヴァミリー氏は、トロップ氏の提案の閲覧、またトロップ氏が米運輸保安局に提供した機密情報や独占的な情報を横領や盗用を否定していること、及び被請求人が米運輸保安局と交わした契約書には、被請求人以外の会社とも同様の承認契約を行う可能性についても示唆され、被請求人は同人のみが独占的に承認を受けるものではないことを認識していたはずであること、にもかかわらず、被請求人は、本件商標と同一態様からなる被請求人別件商標出願の審査において提出した意見書(甲4)おいて、自己のみが独占的使用が認められるべきものであるとの主張をしている。
以上のことから、「TSA LOCK」の語は米国において合衆国法典によって使用を禁じられている語に該当する「TSA」を含むものであり、また、米運輸保安局が「TSA LOCK」又は「TSA」の語が商標として一企業が独占的に使用することを望んでいないものである。
よって、本件商標は、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合に該当するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第15号
本件商標中「TSA」の語は米運輸保安局の英語表記の頭文字「TSA」と同一である。また、「TSA LOCK」及び「TSAロック」の語は米運輸保安局の承認を受けたロック機構であり、米運輸保安局がそのマスターキーを持っており、解錠することができるものである、と認識されている。
したがって、本件商標を被請求人がその指定商品に使用した場合、その商品の出所が米運輸保安局であるとの誤認を生じるおそれがある。また、米運輸保安局と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その需要者が出所について混同するおそれがある。
前述したように、被請求人は、自己以外にも米運輸保安局と契約を締結し、同局が承認するロック機構を提供し、航空運輸の安全に寄与する者がいること、又は、将来存在する可能性があることを知っており、被請求人が本件商標の登録を受けることにより、当該他社が本来自由に使用できるようにすべきである「TSA LOCK」及び「TSAロック」の語を使用することを妨げることとなることをその出願前に十分に認識していたはずである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し、かつ、被請求人は不正目的を有していたといえる。
(3)商標法第4条第1項第16号
これまで述べてきたように、本件商標中「TSA」の語は米運輸保安局の英語表記の頭文字「TSA」と同一である。また、「TSA LOCK」及び「TSAロック」の語は米運輸保安局の承認を受けたロック機構であり、米運輸保安局がそのマスターキーを持っており、解錠することができるものである、と認識されている。
したがって、本件商標を被請求人がその指定商品に使用した場合、その商品は米運輸保安局が承認した金属製安全錠・金属製鍵・鍵用金属製リング・金属製南京錠であり、米運輸保安局がそのマスターキーを保有しており、破壊されることなく開錠できる商品であるとその品質が理解される。しかしながら、本件商標の指定商品には「アメリカ運輸保安局許可の金属製安全錠・金属製鍵・鍵用金属製リング・金属製南京錠」以外の商品も含まれており、これらに対して本件商標が使用された場合には、需要者はこれを「アメリカ運輸保安局許可の金属製安全錠・金属製鍵・鍵用金属製リング・金属製南京錠」との品質の誤認をする。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当するものである。
4 答弁に対する弁駁
(1)造語性について
答弁書において、被請求人は「本件商標が被請求人の造語商標であることは、被請求人が本件商標を使用することになった経緯からも明らかである。本件商標にかかる鍵は、アメリカ運輸保安局の依頼によって設計した『アメリカ運輸保安局の職員が、アメリカ国内すべての空港において、不審物が鞄に入っていると思われる場合は、鞄の持ち主の許可なく、鞄を切断や破壊することなく鞄の鍵を解除することができる鍵(ロック)システムである。』」と述べている。
かかる経緯は、まさに「TSA LOCK」の語が、米運輸保安局の依頼を事の始まりとして、米運輸保安局が空港において鞄を非破壊で開錠することを可能とすることを目的として作られた「米運輸保安局の鍵・錠(LOCK)」であることを裏付けるものである。かかる経緯のもと、本件商標はもともと商品の出所表示力に乏しい語として誕生しているのである。
そして、一般需要者、及び被請求人が「TSA LOCK」は「米運輸保安局(TSA)の鍵・錠(LOCK)」を意味すると認識していることを裏付けるものである。
また、被請求人が当該ロックシステムの設計開発に携わったことや、被請求人が果たした役割は、「TSA LOCK」の語の独占を正当化するものではない。かかるロックシステムを開発し、米アメリカ運輸保安局にマスターキーを提供し非破壊で鞄や錠を開けることを可能にしているのは、被請求のみならず、請求人も同じである。かかる観点からも、被請求人が「TSA LOCK」の語を独占排他的に使用する理由はない。
(2)周知性について
「TSA LOCK」は米運輸保安局の職員が特殊ツールで開錠できるため、乗客が鞄を施錠して空港に預けることができる錠のシステムの名称として周知なのであって、被請求人の業務にかかる商標として周知なのではない。
被請求人の製品には必ず赤いダイヤの図形マークが付されている(甲32)。また、上記「TSA LOCK」の説明書き付近には赤いダイヤの図形マークとTSA LOCK(R)(「(R)」は○の中に「R」の文字を配してなる。以下同じ。)の文字及びTRAVEL SENTRY(R) APPROVEDが組み合わされたロゴが記載されている。これらは、被請求人自身が、単に「TSA LOCK」と記載しても、米国運輸保安局が共同開発し、米運輸保安局がそのマスターキーにより開錠できる錠を示すにすぎず、自己の商品を示す標識として機能しないと自覚していることの表れである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第27号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号違反について
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反する商標である理由として、「米国において合衆国法典によって使用を禁じられている語に該当する『TSA』を含むものであり、また、米運輸保安局が『TSA LOCK』又は『TSA』の語が商標として一企業が独占的に使用することを望んでいない」商標であると主張し、その理由を縷々述べている。とりわけ、本件商標の構成中の「TSA」部分が「米運輸保安局」の略称であり、本件商標は「米運輸保安局が承認許可するロック機構を意味するものとして認識されている」から、識別力を有さず、「米運輸保安局は、アメリカの商取引における商品の生産者の承認や特定について、『TSA』との用語又はロゴを含む商標が旅行者に混同・誤認・欺瞞を招くおそれがある場合、いかなる国においても、錠やかばん類について『TSA』との用語又はロゴを使用及び出願することを一切認めていない」旨主張しているが、以下のとおり、その主張は妥当でない。
(1)本件商標は被請求人の造語商標として識別標識としての機能を有している
本件商標は、「TSA LOCK」の態様からなるが、その構成中の「TSA」は「Travel Sentry Approved」(トラベルセントリーが認定した)の略語である。すなわち、本件商標は、「Travel Sentry Approved Lock」即ち、「トラベルセントリー認定の鍵」を意味する被請求人による造語商標である。
本件商標は、2006年に登録査定がなされた時点において、第6類「金属製安全錠,金属製鍵,鍵用金属製リング,金属製南京錠」に対して、自他商品識別力を有する商標として登録された。同様に、EUIPO(欧州連合知的財産庁)においても、被請求人の、「TSA LOCK」という本件商標と同態様の商標に、識別力が認められて2006年に登録された。EUIPOにおける当該登録に対しては、請求人により2014年4月15日に取消審判が請求されたものの、2016年11月24日の当該審決において、「平均的な需要者は『TSA』のようなEU外の特定の政府機関の名称に必ずしも馴染みがあるわけではない。」、「『TSA』はむしろ特定の意味が付されていない独創的な用語であると判断されるであろう。」と判断され、2006年時のヨーロッパにおいても「TSA LOCK」の造語性が認められ(自他商品識別力が認定され)ている(乙25)。
また、本件商標が被請求人の造語商標であることは、被請求人が本件商標を使用することになった経緯からも明らかである。本件商標に係る鍵は、米運輸保安局の依頼によって設計した「米運輸保安局の職員が、アメリカ国内すべての空港において、不審物が鞄に入っていると思われる場合は、鞄の持ち主の許可なく、鞄を切断や破壊することなく鞄の鍵を解除することができる鍵(ロック)システム」である(乙1?乙3)。
具体的には、被請求人の創設者で取締役社長であるヴァミリー氏は、今から30ないし40年前に空港における勤務経験があり、その職務の一つとして、持ち主不明の鞄が到着すると、税関検査のために鞄を開けなければならない作業があった。当時は、現在の被請求人が本件商標のもとに提供するロックシステムが存在しないため、鞄をこじ開けられて、鞄が破損してしまうという事態が頻発していた。
1985年に発生したエア・インディアの旅客機の手荷物に入っていた爆弾が原因で爆破された事件(乙4)により、すべての国際線の手荷物について爆発物検査を始めなければならなくなったことから、全ての手荷物を、検査のために開けざるをえなくなった。その後さらに、2001年にアメリカ同時多発テロにより、米運輸保安局は、手荷物検査のために、持ち主の許可なしでも破壊することなく鞄を開ける必要性が生じた。
そのことが被請求人の本件商標に係るあらゆる鞄に標準化した「ロックシステム」を生み出す契機となった。
2002年と2003年に、ヴァミリー氏は、米運輸保安局の設立への協力を求められ、現実にその設立に参画して、米運輸保安局で勤務することとなり、米運輸保安局を退職してからも、すべての鞄に共通する一つの「規格」の鍵を生み出すことを提案し、この提案は、鞄のメーカーや米運輸保安局といった関係者全員の賛同を得たため、同氏は、「被請求人が認定した鍵」を意味する「Travel Sentry Approved Lock」の略語である本件商標「TSA LOCK」の使用を開始した(乙1?乙3)。
このロックシステムに関するアイディアについて、請求人は、あたかもヴァミリー氏が請求人のアイディアを盗用したかのような疑念を抱かせる主張をしているが、上記のとおり、本件商標に係るロックシステム(以下「本件ロックシステム」という。)は、ヴァミリー氏が長年温めてきたアイディアが結実したものであり、乞われて米運輸保安局の設立にも参画し、その解決策を提案したものであって、請求人のアイディアを盗用したというのは、明らかに誤りである。
被請求人は、本件ロックシステムを米運輸保安局に提供するにあたって、「トラベルセントリー認定ロックに関するアメリカ運輸保安局及びトラベルセントリー間の覚書/合意書」を2003年10月16日に締結した(乙5、甲12)。
本件ロックシステムは2003年11月より使用が開始され、日本においては、2006年より日本の鞄メーカーで使用が開始された。被請求人は、日本での使用に先だって、その使用開始の前年の2005年に日本において本件商標を商標登録出願し、被請求人の造語商標として識別力を有する商標として登録が認められ、現在に至っている。
以上の本件ロックシステムが成立するまでの被請求人の果たした役割を鑑みれば、本件商標は、被請求人が開発し、提案した鍵を指示する造語商標であり、請求人が主張するような「識別力を有さず、米運輸保安局が承認許可するロック機構を意味するものとして認識されている」商標ではない。
(3)本件商標は、被請求人の業務に係る商標として広く使用され、周知となっている
本件商標は、2003年に米運輸保安局と覚書/合意書を締結して以降、現在に至るまで、日本を含めた全世界の鞄(主としてスーツケース)に使用された被請求人の鍵の商標として広く長年使用され続けており、本件商標は被請求人の業務に係る商標として広く知られるに至っている。
本件ロックシステムは、2003年11月から暫時すべての空港で採用され、同年11月12日に最初の本件ロックシステムが販売された。2004年1月には、ワシントンで行われた全米旅行用品ショーで本件ロックシステムは、旅行者、旅行用品業界、米運輸保安局に対する実際上の利益のみならず、民間企業と政府機関との業務提携の面においても先進的な役割を果たすものと高く評価された。
2005年3月には、初めて本件ロックシステムの生産量が年間1000万個に達した。2013年11月には、本件ロックシステムはその製造数が世界中の220社以上の鍵・鞄メーカーにより年間4000万個に達した。2017年には、空港を利用する二人に一人の乗客が本件ロックシステムを使用している。当該システムは、13か国600か所の空港で、年間12億人の乗客が利用し、500以上の鞄ブランドの3億6000万個の鍵に使用されている(乙2)。
日本においては、2006年5月に本件ロックシステムを採用したが、それはアメリカ以外で初めての国であった(乙2)。それは、創業以来100年以上にわたり旅行鞄を作り続けているサンコー鞄株式会社が、2004年に被請求人と契約を結び、翌年の2005年に日本企業で初めてロックシステムの紹介を行ったことに始まる(乙6)。
その他にも、スーツケースの国内シェア6割近くを誇るエース株式会社(乙7)も、本件ロックシステムを使用している。エース株式会社のウェブサイトには、「TSAロックの使い方」のページが設けられており、そこには「TSA LOCK」の文字には登録表示(R)が付されており、本件商標に係る「TSA LOCK」が被請求人の登録商標であることが明示されている(乙8)。
その他のスーツケースメーカーのウェブサイトやレンタルサイトにおいても、「TSA LOCK」の説明には、「TSA LOCK」が被請求人の登録商標であることを表す登録表示(R)が付され、あるいは、「TSA LOCKとは、アメリカTravel Sentry社が管理・運営する『Travel Sentryシステム』に許可されたロックのことです」(乙9)、「製品に搭載しているTSAロックシステムは米国連邦航空省保安局が認定しTravel Sentry社が管理、運営しているシステムです」(乙10、乙11)、「全てのTSAロックは、アメリカ運輸保安局(Transportation Security Administration)が認定し、TRAVEL SENTRY社が営業管理しているシステムです」(乙12)等と記載されていることから、本件商標は、被請求人の業務に係るロックシステムを意味するものとして日本の取引者・需要者において広く知られている。
(4)商標法第4条第1項第7号の適用範囲について
本号に係る判決(平成17(行ケ)10349号(乙13)、平成19年(行ケ)第10391号(乙14。以下「コンマー判決」という。))の指針に基づいて、本件審判事件を判断すると、請求人は、運輸保安局といった公の団体ではなく、民間企業であり、しかも、被請求人とは競業関係にある鍵メーカーであるから、本件は請求人と被請求人の私人間の紛争あるいは私的な利害の調整を目的とするものと位置づけられ、本件は、商標法第4条第1項第7号の該当性を争う事案ではない。
したがって、請求人が、本件商標の登録について商標法第4条第1項第7号該当性につき論じるのは、そもそも事案の前提において誤っている。
さらに、被請求人は、本件商標の日本での使用に先だって、造語商標である本件商標の使用権を確保すべく商標登録出願したものであるのに対し、請求人は、2003年10月に運輸保安局と契約を締結しているとあるにもかかわらず、被請求人が2005年5月25日に本件商標を商標登録出願するまでの間に「TSA」を含む商標について登録を得る手続きを行っておらず、請求人は自らの利益を守るための適切な措置を行っていない。上記指針に従えば、そのような請求人の適切な処置を行っていない状況で、本件商標の登録につき、商標法第4条第1項第7号該当性の是非について争うべきではない。
(5)商標法第4条第1項第7号に違反した商標ではない
上記(4)に記載したとおり、本件商標の登録については、商標法第4条第1項第7号の該当性について請求人との間で争われるべきものではないが、仮に同号該当性について判断したとしても、本件商標は同号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するという理由はない。
すなわち、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形ではない。本件商標は、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合でもない。本件ロックシステムは、上述のとおり、被請求人が製造販売し、本件商標はその業務に使用する造語商標として広く知られていることから、本件商標の登録が、アメリカにおける商取引において、米運輸保安局との混同・誤認・欺瞞を招くおそれはないというべきである。よって本件商標は、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合にも当たらない。さらに本件商標は被請求人の造語商標として広く知られている一方で、「TSA」が米運輸保安局の略称であると日本を含めた世界において著名となっているとは認められないから、アメリカ若しくはその国民を侮辱するものでもなく、国際信義に反する場合にもあたらない。「TSA」の著名性については、日本では各種国語辞典や現代用語の基礎知識等への記載がなく(乙16)、「TSA」の略称には、「Time Series Analysis(時系列分析)」や「Transition State Analog(遷移状態アナログ)」や「Tumon Specific Antigen(腫瘍特異性抗原)」といったものもある(乙17)ことから、日本において「TSA」が米運輸保安局の略称であると著名に至っていない。したがって、多義語である「TSA」の語を含んだ商標を使用したからといって、アメリカの国民の感情を害したり、国際信義に反することにはならない。
さらに,本件商標は、その商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合にも当たらない。この点、たとえ本件商標が登録されていても、「TSA recognized locks」(TSAが認めた鍵)や「TSA accepted locks」(TSAが承諾した鍵)といった記載で米運輸保安局が認定した鍵を使用することが可能であることから、取引秩序を乱すことにもならず、本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとは到底いえない。実際、米運輸保安局のウェブサイトでは、「TSA recognized locks, such as Travel Sentry or Safe Skies」と記載されている(乙18)。
請求人は、被請求人が本件商標を独占的に使用する場合、被請求人のみが米運輸保安局から承認・許可されているかのような誤認を生じさせるばかりでなく、営業活動に支障をきたしている旨主張しているが、米運輸保安局のウェブサイトに記載されているように、本件商標に係る「TSA LOCK」の記載ではなく、「TSA recognized locks」として使用することが可能であることから、何ら請求人の営業に深刻な支障を及ぼすことはないというべきである。
(6)結論
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。
2 商標法第4条第1項第15号違反について
本件商標は、米運輸保安局の略称とされる「TSA」とは非類似の商標であり、上述のとおり、被請求人の業務に係る商標として周知であることから、その指定商品に使用されたとしても、その商品の出所が、米運輸保安局であると誤認を生じるおそれはない。
すなわち、本件商標は「TSA LOCK」の構成よりなり、その構成全体で一体不可分の商標として認識されるべき商標である。本件商標は、全体でわずか7文字からなるものであって、視覚上常に一体的に把握される。かかる外観上の一体性に鑑みれば、前半部分の「TSA」と後半部分の「LOCK」とを分離して観察する特別の事情は存在せず、本件商標は「TSA LOCK」の構成全体で一体不可分の商標として認識されるとみるのが自然である。
称呼においても、「テイーエスエーロック」と、よどみなく一気に称呼できるものである。したがって、本件商標からは、常に「ティーエスエーロック」の一連一体の称呼のみが生じる。
観念の点からみると、本件商標の構成中、後半の「ロック」の文字部分は「鍵、ロック」といった意味を有する英単語であり、「Advisory Lock」(通知ロック)、「Air Lock」(エア・ロック、気圧調整室)等のように、「Lock」の文字は、前に別の単語が結合されることによって新たな一個の観念を生じさせる働きが強い単語である。
したがって、上記単語例と同様に、「LOCK」の前に「TSA」を結合した態様からなる本件商標は、その構成全体より、被請求人が製造販売する「Travel Sentryが認定した鍵」を意味する造語商標というべきであり、たとえ「LOCK」部分が指定商品に使用されたとき識別力が弱い語であるとしても、「TSA」の語も多義語であって、僅か3文字からなる「TSA」部分のみを、殊更分離・抽出して類否判断をすべきものではない(乙19?乙20)。
本件商標は、同書同大で一連に表されて外観上まとまりよく一体的に構成され、これより生じる称呼も冗長とはいえないことから、「ティーエスエーロック」との一連の称呼のみを生じる一種の造語とみるのが相当である。したがって、本件商標はあくまでも、「ティーエスエーロック」からなる構成全体をもって一体不可分の商標であると理解・認識される。
そして、本件商標はその全体をその要部とすべきであるから、米運輸保安局の略称である「TSA」との比較においても、本件商標全体と「TSA」との類否を判断すべきであり、「TSA」部分と「LOCK」部分とを分離判断したうえで類似すると判断することは、妥当ではない。
以上より、本件商標は「TSA」とは非類似の商標であり、しかも本件商標は、2003年より世界中において被請求人の商品に使用され続けている商標であって、「TSA LOCK」のその構成全体で被請求人の「ロックシステム」の業務に係る商標として広く知られている商標であり、米運輸保安局とはその出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第16号違反について
上述のとおり、本件商標は、被請求人の業務に係る商標として周知であり、本件商標はその構成全体で一体不可分の造語商標であることから、その指定商品に使用されたとしても、その商品の品質について誤認を生じるおそれはないというべきである。本件商標は、被請求人が永年使用を継続してきたことで、我が国においては、特定の鍵を意味するものとして周知であるから、他の鍵との混同や、他の商品との品質の誤認も生じない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第16号に違反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。以下、本案に入って審理する。
1 本件商標は不正の目的で商標登録を受けたものであるか否かについて
(1)本件商標は、平成18年2月10日に設定登録されたものであり、本件無効審判の請求がされた平成29年5月26日には、既に設定登録の日から5年以上経過しているため、本件無効審判の請求の理由中、商標法第4条第1項第15号に該当することを理由とする請求は、「不正の目的で商標登録を受けた場合」に限られることから(同法第47条第1項かっこ書き)、本件商標が「不正の目的」で商標登録を受けたものであるか否かについて、まず検討する。
(2)証拠及び当事者の主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 米運輸保安局(Transportation Security Administration(TSA))は、アメリカの運輸システムの安全強化と人や物の自由な交通のために創設され、国内の空港の安全を確保し、全ての民間航空機の乗員及び貨物の検査等を行っている(甲5?甲7、甲13)。
イ 米運輸保安局が認証するロック(錠)は、米運輸保安局と複数の企業で共同開発され、当該認証ロックは、空港での検査の際に米運輸保安局職員が特殊な開錠ツール(合鍵)を使ってロックを開けることができる仕組みとなっており、当該認証ロックには、請求人又は被請求人に係る図形商標が付されている(甲7?甲11、乙5、乙8)。
ウ 米運輸保安局は2001年(平成13年)9月11日にニューヨークで起きた同時多発テロを受け、同年11月19日に設立された(甲6、甲13)。
エ 2003年(平成13年)10月16日に被請求人と米運輸保安局は、「トラベルセントリー認証用ロック(TRAVEL SENTRY CERTIFIED LOCKS)に関する覚書・合意書を交わした。同書には、「4.責務:」に「米運輸保安局の責務:」の「d.」として「米運輸保安局は、類似のサービスの提供を検討している他の組織に対し、本合意書と同じ条件を提示することができる。」旨、及び同じく「トラベルセントリー(審決注:被請求人)の責務:」の「a.」として「トラベルセントリーは、トラベルセントリー認証ロックについて米運輸保安局が独占的に推奨又は暗示できないこと、トラベルセントリーが当該推奨の存在を主張できないことを了承する。トラベルセントリーは、書面による明確な承認がある場合を除き、トラベルセントリーのロック又は配布用印刷物その他のメディア資料にDHS(審決注:米国国土安全保障省)又はTSAロゴ(DHS/TSA logo)を使用することができない。」旨などが記載されている(甲12、乙5)。
オ 2003年(平成15年)3月に被請求人が設立され、同年11月から米国内の全ての空港で被請求人のロック(錠)の運用が開始された(甲17、乙2)。
カ 2004年(平成16年)3月に、請求人と米運輸保安局との間で請求人のロック(錠)機構に関するマスターキーを米運輸保安局に無償で提供する旨の契約を締結した(請求人の主張)。
キ 2006年(平成18年)5月に、日本において被請人のロック(錠)の使用が開始された(乙2)。
ク 「TSA」の文字は、「米運輸保安局」のほか、「時系列分析」、「遷移状態アナログ」及び「腫瘍特異性抗原」を表す略語であるが、いずれの意味においても、該文字が特定の意味を表すものとして、我が国において広く知られているとはうかがえる証左はない(甲2)。
(3)上記(2)の認定事実によれば、〈1〉米運輸保安局は、2001年(平成13年)11月19日に創立されたこと、〈2〉米運輸保安局は、米運輸保安局が認証するロック(錠)を請求人や被請求人と共同で開発し、当該認証ロックは空港での検査の際に米運輸保安局職員が特殊な開錠ツール(合鍵)を使ってロックを開けることができる仕組みを有すること、〈3〉2003年(平成15年)3月に被請求人が設立され、同年10月16日に被請求人と米運輸保安局は、「トラベルセントリー認証用ロックに関する覚書・合意書を交わし、同年11月から米国内の全ての空港で被請求人ロック(錠)の運用が開始されたこと、〈4〉2006年(平成18年)5月に、日本において被請人ロック(錠)の使用が開始されたことが認められる。
しかしながら,「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が、本件商標の登録査定の日(平成17年12月22日)以前に、米運輸保安局を表すもの、あるいは米運輸保安局の業務に係る商品を表すものとして、我が国の取引者・需要者において広く認識されていることを示す証左は見いだせず、また、職権により調査するも、「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が、本件商標の登録査定の日以前に、米運輸保安局を表すもの、あるいは米運輸保安局の業務に係る商品を表すものとして、我が国の取引者・需要者において広く認識されている事実を見いだすことができない。
そうすると、本件商標の登録出願時及び登録査定時においては、「TSA」及び「TSA LOCK」の欧文字が、米運輸保安局及びその者の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものとはいえないことから、本件商標は、米運輸保安局の著名性にフリーライドし、不正の利益を得るなどの目的をもって登録出願したということはできず、本件商標の登録によっては、他人の商品の出所又は業務の関連性について混同、誤認を生じさせたものとも認めることはできない。
また、被請求人が、本件商標の登録出願時以前より、米運輸保安局が認証するロック(錠)の開発に関与しいていたとしても、本件商標の登録出願の経緯において、被請求人による本件商標の登録出願が、他人に損害を加える目的その他不正の目的で行われたものと認められる証左もなく、また、商取引上の信義則に反する行為を行っていたとまでも、認めることはできない。
したがって、被請求人は、不正の目的をもって本件商標の商標登録を受けたものであると認めることはできない。
(4)したがって、本件商標は、商標法第47条第1項の規定にいう「不正の目的」で商標登録を受けたものには該当しないというべきであるから、同法第4条第1項第15号に違反する旨の本件審判の請求は、これを却下すべきものである。
そこで、上記以外の理由につき本案に入り審理する。
2 商標法第4条第1項第16号の該当性について
請求人提出の甲各号証によれば、上記(2)のとおり、「TSA」及び「TSA LOCK」の文字が、本件商標の登録査定の日以前に、商品「錠」の品質を表すものとして、取引者、需要者に認識されていることを示す証左は見いだせない。
また、本件商標を構成する「TSA LOCK」の文字が何らかの意味を認識させるものであったと認め得る証左も見いだせない。
そうすると、本件商標は、その登録査定時においては取引者・需要者をして、特定の意味を有しない造語と認識されるものと判断するのが相当である。
してみれば、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、商品の品質を表示したものと認識させることもないものといわなければならず、商品の品質を表示するものでない以上、その指定商品のいずれについて使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれもないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものといえない。
3 商標法第4条第1項第7号の該当性について
請求人は、本件商標が(a)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(b)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合に該当するものであるから、本号に該当するものである旨主張する。
しかしながら、(a)については、本件商標が我が国のどの法律によって使用等が禁止されているのかの具体的な主張はないし、「TSA」又は「TSA LOCK」の語が外国において使用等が禁止されているとの趣旨であれば、仮にそのようなものであるとしても、そのことのみをもって、該語が我が国で使用等が禁止されているとはいえないから、本件商標は(a)に該当するものといえない。
また、(b)については、請求人の主張によっては本件商標が特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するというべき理由は明らかでないが、被請求人の主張が上記1(2)エの覚書・合意書に反するとのことを前提としているのであれば、同覚書・合意書に商標登録出願についての記載が見あたらないこと、及びそれに記載された「DHS/TSA logo」がいかなるものであるのか明らかでないことから、かかる前提を認めることはできないし、さらに同覚書・合意書に係るトラブルは基本的には同覚書・合意書に係る両当事者間で解決すべきものであることから、本件商標は(b)に該当するものといえない。
なお、(a)及び(b)のいずれも、合衆国法典第18編第709条「連邦政府機関を示す名称の虚偽広告及び不正使用」によって禁止されているとのことを前提としているのであれば、同法典の条文自体の提示も、本件商標が同条項によって使用等が禁止されているものに該当するとする具体的な理由もないから、かかる前提を認めることはできず、本件商標が(a)又は(b)に該当するものと認めることはできない。
してみれば、本件商標は、上記(a)及び(b)のいずれにも該当するものということはできない。
加えて、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合など、公序良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号を理由とする請求については、不適法なものであって、その補正をすることができないものであるから、同法第56条第1項において準用する特許法135条の規定により却下すべきものである。
そして、本件商標についてのその余の無効理由については、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第16号のいずれにも該当しないものであるから、同法第4条第1項の規定に違反して登録されたものとはいえず、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-05 
審決日 2018-11-16 
出願番号 商願2005-45854(T2005-45854) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (Y06)
T 1 11・ 272- Y (Y06)
T 1 11・ 271- Y (Y06)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 薩摩 純一
田中 幸一
登録日 2006-02-10 
登録番号 商標登録第4927987号(T4927987) 
商標の称呼 テイエスエイロック、テイエスエイ 
代理人 青木 博通 
代理人 中田 和博 
復代理人 小林 彰治 
代理人 池田 万美 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 宮川 美津子 
代理人 柳生 征男 
代理人 神蔵 初夏子 

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