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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X18
管理番号 1349812 
審判番号 無効2016-890051 
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-08-10 
確定日 2019-03-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5431098号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成29年3月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10094号、平成29年10月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第5431098号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5431098号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成22年8月12日に登録出願、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」を指定商品として、同23年6月30日に登録査定、同年8月12日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第5030662号商標(以下「引用商標」という。)は、「豊岡杞柳細工」の漢字を書してなり、平成18年4月1日に地域団体商標として登録出願、第18類「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」及び第20類「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製のかご,兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製の買い物かご」を指定商品として、同19年3月9日に設定登録、その後、同29年1月10日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第38号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、これらの証拠は、平成30年8月30日付け回答書により提出された上記訴訟時に裁判所に提出された証拠(甲第21号証ないし甲第38号証)を含むものである。
1 本件商標を無効とすべき理由
本件商標は、地域名と商品の原材料とから構成されたものであり、また先願の地域団体商標(引用商標)と同じ意味が生じる類似商標である。にもかかわらず、指定商品を「かばん類」等とし、商標に若干のデザインを加え、表現を少し変えることで、柳行李で著名な豊岡の伝統的工芸品を意味する「豊岡杞柳細工」に類似すると理解されずに登録された。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標と引用商標との類否
(ア)本件商標について
本件商標は、「豊岡柳」の漢字を上段に、「Toyooka」の欧文字を下段に書して、その両文字の間に上下の文字を仕切るように線が引かれ、「柳」の文字の一部が縦に長く伸びている構成からなるものである。
本件商標の構成中下段の欧文字部分は、兵庫県北東部に位置する現存する地名・兵庫県豊岡市を表したものであって、本件商標に接する取引者、需要者は、指定商品の産地又は販売地を表したものとして理解するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。
よって、本件商標は、構成中の上段の「豊岡柳」という漢字部分が下段の欧文字より大きく書されているため、この「豊岡柳」の漢字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部といえる。
してみれば、本件商標の「豊岡柳」の「豊岡」は兵庫県豊岡地域を意味し、「柳」は商品の原材料を示す「コリヤナギ」を意味し、全体として「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳細工を施した商品」若しくは「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品」等の意味合いを認識させる。このことは、実際の本件商標の使用態様からも裏付けることができる(甲3の1?甲3の6)。
したがって、本件商標は、その要部となる「豊岡柳」の漢字部分から「トヨオカヤナギ」の称呼が生じる。
(イ)引用商標について
引用商標は、地域団体商標であり、本審判の請求人は引用商標の権利者である。
引用商標は「豊岡杞柳細工」を横書きしてなるところ、これに接する取引者、需要者は、構成中の「豊岡」から兵庫県「豊岡」市を、「杞柳」は商品の原材料を示す「コリヤナギ」を想起し、全体として「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳細工を施した商品」又は「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品」等の意味合いを認識する。ここで、引用商標中の「細工」とは、「手先を働かせて細かいものを作ること。またそのもの。職人。」(広辞苑第5版)のことであり、その指定商品「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」との関係においては、自他商品の識別機能としての機能を果たし得ない。
よって、引用商標中の「細工」の文字は商品の出所識別標識としての機能を有しないから、引用商標中の「豊岡杞柳」の文字が取引者、需要者に対し、商品の出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものと認められるべきである。
したがって、引用商標は、その要部となる「豊岡杞柳」の文字から「トヨオカキリュウ」若しくは全体として「トヨオカキリュウザイク」の称呼が生じる。
(ウ)類否判断
以上のように、本件商標と引用商標とは、豊岡という同じ地名をいい、柳は杞柳の総称で指定商品との関係で原材料となる同じ「コリヤナギ」のことを指し、「柳(ヤナギ)」と「杞柳(キリュウ)」とで表示は異なり称呼が異なれど、両者は観念上同一若しくはかなり近似し、指定商品との関係で同義語である。
豊岡及びその周辺地域において「柳」といえば、「杞柳」を指し、「杞柳」といえば「柳」のことであること、また「柳」と「杞柳」は、いつの時代でも常に不可分一体の関係にあり、「柳=杞柳」であることが正しく理解されれば、本件商標と引用商標とが、類似であることは明白である。
(エ)引用商標「豊岡杞柳細工」とは
「豊岡杞柳細工」は、その起源は諸説あるが、古いところでは西暦27年に始まるとされ、奈良時代に正倉院の御物として柳(杞柳、コリヤナギ)で編まれた「柳箱」が納められており、2,000年以上の歴史を持つ、伝統的工芸品である(平成4年・経済産業大臣指定)。「豊岡杞柳細工」は、1668年に豊岡の城主となった京極高盛の頃から豊岡の地場産業として全国的に知られるようになり、時代の流れに翻弄されながらも、「豊岡鞄」のルーツとされており、本件商標の査定時には、周知性を有する商標であった(甲4の1?甲4の11)。
(オ)柳まつり、柳の宮(小田井縣神社)
兵庫県豊岡市には、杞柳製品の守護神として祭られる「柳の宮(小田井縣神社)」があり、観光のガイドブックにもよく掲載される神社として知られている(甲5の1?甲5の5)。そして、この神社の夏の例大祭として「柳まつり」が毎年8月1日・2日に開催されている(甲5の6?甲5の8)。例年6万人の人出があるこの祭りは、「杞柳」まつりではなく「豊岡柳」まつり、「柳」まつりとして今に続いており、柳の宮とよばれる小田井懸神社も「杞柳」の宮ではなく、「柳」の宮とよばれており、「豊岡」と「柳」が非常に密接な関係があることが明白である(甲5の1?甲5の8等)。
(カ)柳、杞柳とは
日本では一般に柳というと下へ垂れ下がる「シダレヤナギ」を思い浮かべるようであるが(甲6の1等)、かご等を編むのに用いられる柳、すなわち「コリヤナギ」は、土壌から上に向かって生える低木のことである(甲6の2)。
杞柳製品に用いられるコリヤナギをなぜ「杞柳」というかは諸説あるが行李を作る柳をコリヤナギといい、漢和辞典で「杞」や「杞柳」を引くと、柳の一種であるコリヤナギを意味すると記載されている(甲4の1、甲4の3、甲4の4、甲4の8、甲6の2?甲6の7)。
漢和辞典等から、杞柳=柳であることに疑義がないといえ、「柳」というのは、杞柳にとっては上位概念といえる総称であり、本件商標も引用商標も、いずれも指定商品との関係で原材料となるコリヤナギを指していると結論付けることができる。
イ 本件商標と引用商標の指定商品の類似
「こうり」は本来手提げのものでないため、手持ちのついたかばんとは商品として異なるものと認識しているが、本件商標の指定商品中、第18類「かばん類」と引用商標の指定商品中、第18類「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」とは、商品が類似する。
ウ 結論
以上より、本件商標と引用商標とは、称呼上は「トヨオカヤナギ」と「トヨオカキリュウ」、「トヨオカキリュウザイク」とで異なれど、両者から生じる観念は、上述のとおり、同一若しくはかなり近似している。この点は、たとえ引用商標が地域団体商標であるから、商標全体の構成が不可分一体のものとして判断されたとしても、そこから生じ得る観念に揺るぎはなく、結論は同じである。
してみれば、本件商標は、全体の外観において、引用商標と同一又は類似する文字部分を含み、時と処を異にすれば、相紛れるおそれがあるといえ、商品の取引の実情の観点からも、需要者の通常有する注意力を基準として、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがある類似性があるとものというべきである。また、本件商標と引用商標の指定商品も一部類似するため、本件商標は、本来、引用商標の存在を理由に類似するとして拒絶されるべきであったといえる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人について
請求人である兵庫県杞柳製品協同組合は、歴史をさかのぼると、明治30年、重要物産同業組合法発令時に、柳行李商豊岡同業組合として組織されてから、その時代の法令に応じて改組を繰り返し、現在に至り、昭和50年頃までは日本全国各地(岐阜、大阪、高知等)に杞柳製品の産地があったものの、今では国内唯一の杞柳製品産地組合である。昭和37年(1962年)には豊岡杞柳製品振興協議会と兵庫県杞柳製品生産協同組合が一つになって、現在の兵庫県杞柳製品組合が組織された(甲7の1)。請求人は、国や県・市の支援を受けながら、伝承者として伝統工芸士(現在、14名認定。甲7の2)を誕生させ、地域資源の持つ潜在力を最大限にし、ブランド力を高めるために地域団体商標を取得し、「豊岡杞柳細工」を国際的に通用するブランドとするため、長年にわたって様々な取り組みを行っている。
イ 引用商標及び他人(請求人)の業務に係る商品の周知性について (ア)引用商標の使用開始時期
引用商標の歴史は、上述したように古く、「豊岡杞柳細工」という表示の使用開始時期を特定するのは非常に難しいが、現在のところ、書籍として記載が確認できるものは、昭和60年2月20日発行の「日本の伝統工芸8 近畿」(甲8)である。また、平成4年10月8日に経済産業大臣指定の伝統的工芸品として指定された際には、「豊岡杞柳細工」として指定されている(甲4の9)。
(イ)使用期間
この昭和60年2月頃を引用商標「豊岡杞柳細工」の使用開始時期としたならば、それ以来少なくとも30年以上にわたって、引用商標を指定商品に付して製造・販売を継続して行っている。
(ウ)使用地域
請求人は、兵庫県豊岡市を拠点とし、製造地域は兵庫県豊岡市及びその周辺地域(兵庫県城崎郡等)が挙げられる(甲4の9)。販売地域は、兵庫県豊岡市にある豊岡杞柳細工ミュージアム(甲9の1)のほか、東京・池袋にあった「全国伝統的工芸品センター」での販売(甲9の2)、東京・青山にある「伝統工芸 青山スクエア」での販売(甲9の3)、横浜・玉川・立川・港南台・新宿・日本橋等の高島屋(甲9の4)ほか、有名百貨店での販売が挙げられる。
また、引用商標は地域団体商標であるので、請求人の構成員による使用も挙げられる(甲7の1、甲9の5?甲9の7)。
してみれば、使用地域は兵庫県内にとどまらず、もはや全国規模である。
(エ)周知方法・広告物及びその内容
周知方法・広告物としては、請求人によるパンフレット(甲7の1、甲10の1、甲10の2)が挙げられる。請求人以外の者による周知方法・広告物としては、雑誌、新聞、チラシでの紹介(甲10の3)、テレビ番組(NHKの番組名「イッピン」・平成27年10月25日:甲10の4)での紹介、兵庫県公館・県政資料館展示室3「兵庫の産業」での展示(甲10の5)、さらには伝統的工芸品活用フォーラム事業を通じた東京ビッグサイトでの展示(甲13の1)等、多数挙げられる。
(オ)その他
引用商標「豊岡杞柳細工」という表示では、明治・大正・昭和と「杞柳製品」といえば兵庫県豊岡の「杞柳製品」のことを指し、他人、すなわち請求人の業務に係る商品の著名性は、書籍の内容等の歴史からもわかるように、江戸時代のある時期は骨柳(こうり)の専売制を作り上げる程であった(甲4の1?甲4の7、甲7の1)。そして、「杞柳製品」という表示の使用が確認できる明治時代には、日本国内にとどまらず、アメリカ、フランス、イギリス等での展示会に積極的に出展し、数々の賞を受けている(甲7の1、甲11の1、甲11の2)。大正6年には、アメリカ、カナダ、メキシコ、インド、オーストラリア等に輸出していた記録があり、「柳行李商豊岡同業組合杞柳製品見本帳」の発行がなされている(甲11の3)。また、国が示していた戦時下における価格等統制令や物価統制令による公定価格表・通称「丸公」においても「杞柳製品」の表示が確認できる(甲11の4)。
そして、このように杞柳製品は、明治42年?昭和13年頃には、全国に多数産地があり、杞柳製品が全盛期だった時代に豊岡の杞柳製品は70%のシェアを誇っていた(甲11の1)。このように、豊岡杞柳製品は、日本国内だけでなく海外にも輸出され、外国でも「トヨオカ」の名が知られ、外国人が豊岡へ買い付けに来ていた程である(甲4の1)。この頃、豊岡で、この杞柳産業に従事する従事者は約5,000人とされ、豊岡産のコリヤナギでは足りず、他府県で栽培されたものを集めてもなお、不足する程の生産量で、中国等近隣諸国からコリヤナギを輸入し、年間3,000トンものコリヤナギを使っていたとの記録もある(甲7の1)。そして、戦後は、買物かごとして大流行したこともあって、昭和26年には120万個(甲7の1)を超える売り上げがあったことが記録されている。
そして、昭和48年以降は、中国、台湾、フィリピン等から輸入が増え、ケミカル製品等の台頭により衰退時期を迎えてしまうものの、現在もなお、伝統的工芸品として指定され残っているのは、全国に数あった産地の中でも「豊岡杞柳細工」だけであり、皇室にも愛される由緒あるブランド(甲7の1、甲11の5)である引用商標の周知性は、歴史ある豊岡の「杞柳製品」の著名性と切り離すことはできない。
ウ 出所の混同について
(ア)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標は、その構成中の「豊岡」が兵庫県豊岡市を意味し、「柳」が指定商品の原材料を意味すると正しく理解されていれば、先願として既に登録されていた引用商標を理由に類似するとして拒絶されていたはずである。または、本件商標は現存する地域名と商品の原材料とからなるものであって、独創性のある造語ではないから、本来、商標法第3条第1項第3号や同法第4条第1項第16号に該当するとして拒絶されても何ら不思議はない。引用商標「豊岡杞柳細工」は「豊岡柳」のことであり、本件商標「豊岡柳」は「豊岡杞柳細工」のことである。
(イ)引用商標及び他人(請求人)の業務に係る商品の周知性
引用商標及び他人(請求人)の業務に係る商品の周知性は、上記で述べたとおりである。
(ウ)本件商標が付された商品と他人(請求人)の業務に係る商品の製造スタイル及び販売商品の共通性
本件商標が付された商品は、豊岡杞柳細工の伝統工芸士や豊岡鞄で有名な兵庫県鞄工業組合の組合員でもマスミ鞄嚢株式会社(審決注:「兵庫県鞄工業組合の組合員でもマスミ鞄嚢株式会社」は、「兵庫県鞄工業組合の組合員でもあるマスミ鞄嚢株式会社」の誤記と思われる。)に製造を委託し、彼らの協力を得て、兵庫県豊岡産の柳を編んで作るかばんの企画・製造・販売を開始し、現在まで継続して行っていると被請求人自ら述べており、また、本件商標を付して販売されている商品のパンフレットを始め、あらゆる場面で引用商標が掲載され、「豊岡杞柳細工」の歴史や特性、商品の製造工程、製造スタイル等が記載されている(甲12の1)。
したがって、本件商標が付された商品と引用商標が付された商品とは、商品の品質はいずれも「杞柳製品」というべき商品であって同一といえ、本件商標が付された商品の製造スタイルは、まさに豊岡の先人、そして、請求人が長年築き上げた「豊岡杞柳細工」の歴史ある尊重されるべき製造スタイルである。
また、例えばインターネットで「豊岡柳」と入力してキーワード検索を行うと、トップに被請求人が運営すると思われるウェブサイト「豊岡柳」が表示されるが、その他は上述の豊岡柳まつりに関する記事、若しくは引用商標「豊岡杞柳細工」に関する記事が表示される。甲第9号証の4に示す百貨店での販売状況を撮影した写真や商品を紹介したパンフレット(甲3の5、甲10の1、甲10の2等)、商品のラインナップ(甲12の3、甲12の4、甲9の1?甲9の7等)を比較しても、どちらが本件商標が付されている商品でどちらが引用商標が付されている商品なのか判別できない。
さらに、本件商標が付された商品は、「豊岡鞄」の認定を受けた商品とされ、豊岡鞄の商標と一緒に掲載され広告されており(甲3の1、甲3の3)、需要者にとっては、ますます出所判別不能である。
したがって、本件商標が付された商品と他人(請求人)の業務に係る商品とは、原材料が一致し、生産者は、請求人が認めた伝統工芸士と兵庫県鞄工業組合の組合員であり、販売者、取引系統等を同一にするため、製造スタイル及び販売商品の共通性は極めて高く、商品の性質、用途又は目的における関連性の程度も極めて高いというよりも同一である。
(エ)商品の取引者、需要者の共通性
本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは、いずれも請求人の認定を受けた伝統工芸士が編み、豊岡鞄で有名な兵庫県鞄工業組合の組合員が商品に仕上げる商慣習で行っており、共通する。販売場所についても、有名百貨店にて、期間限定でリミテッドショップとして販売する形式も共通しており、需要者も共通する。
エ 結論
以上より、引用商標の周知性、本件商標と引用商標との類似性等を総合的に勘案すれば、取引者、需要者が、市場に流通する本件商標が付された商品を他人(請求人)の業務に係る商品と誤認する狭義の混同のみならず、本件商標が付された商品と他人(請求人)の業務に係る商品とが経済上又は組織上なんらかの関係がある業者から提供されていると認識する広義の混同の双方が生じるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第16号について
ア 豊岡柳から生じる意味合い
本件商標は、その構成から商標法第3条第1項第3号に該当するものではないとしても、その文字部分からは、「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳細工を施した商品」若しくは「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品」等の意味合いを表す。本件商標の「豊岡」は兵庫県豊岡市を意味し、「柳」は原材料のコリヤナギを意味するものである。
イ 結論
以上より、本件商標を、指定商品中、例えば「かばん類」に使用した場合、これに接する需要者は、「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳細工を施した商品」若しくは「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品」等と商品の品質を表示しているものと認識し、上記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
ア 請求人と被請求人の関係について
本件商標の権利者である中山久美子氏と引用商標の権利者である兵庫県杞柳製品協同組合とは、平成20年度に財団法人伝統的工芸品産業振興協会が、国の補助事業として実施した伝統的工芸品活用フォーラム事業の際にパートナーであった経緯がある。この伝統的工芸品活用フォーラム事業に、請求人は平成22年度、平成24年度にも参加しており、平成20年度も、中山久美子氏と請求人が共同で成果物を発表するはずであった(甲13の1、甲13の2)。
しかしながら、両者協議の上、平成20年度の新商品研究会は不成功に終わり、このとき取り組んだ商品は市場に出さないことを定めて終了した経緯がある。にもかかわらず、中山久美子氏は、この時未発表で市場に出さないと定めたはずの成果物を、請求人に無断で製品化し、販売している。中山久美子氏と請求人との間に関わりがあった(甲13の3、甲13の4)。そして、この時に、信頼関係の下、請求人の構成員である伝統工芸士や豊岡鞄工業組合を請求人が指名して依頼したのであって、「豊岡杞柳細工」の製造スタイルを中山久美子氏に伝承したのは、紛れもなく請求人である。
イ 社会的妥当性と法秩序
商標登録出願の経緯には、中山久美子氏が請求人に何ら承諾を得ることなく、「豊岡杞柳細工」が「豊岡柳」を意味すると承知の上で出願している点につき、商標選択の自由を前提に考えたとしても、許されるべき行為ではなく、著しく社会的妥当性を欠く。そして本件商標のような商標の登録が地域団体商標としてでなく、一個人に認められるとなると、商標法に規定される地域団体商標制度の趣旨をも揺るがす事態になり、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない。
地域団体商標
本件商標が登録された背景には、現在の地域団体商標の運用が、地域名称と普通名称が分離解釈されたり、異なる称呼が生じ得ること等がないという前提の下、管理されていることが考えられる。すなわち、商標全体の構成が常に不可分一体であるとの認識の下、なされていることに起因する弊害であると思料する。さらにいえば、地域団体商標として登録が認められたものに関しては、地域団体商標から生じる観念や土地固有の称呼はもちろん、その地名を知らない需要者がどのように称呼し得るかも含め、通常の商標登録出願とは異なる運用が必要なはずである。
地域団体商標制度は、出願人の制限、商標と指定商品の関係及び一定程度の周知性等、通常の商標登録出願とは異なる登録要件が課せられており、審査が厳しく、指定商品の範囲も限定される。また、地域団体商標は、国が推し進める地域活性の一翼を担う存在であるとされ、特許庁においても、盛んにPRがなされているが、実際に活用しようとすると、商標の類似範囲が狭く、何を保護する制度なのか、理解し難いものになっているのが実情である。さらに、日本の伝統的工芸品を守り育てていく国の事業の一貫である伝統的工芸品活用フォーラム事業に参加したことをきっかけに、これまで培ってきた製造スタイルだけでなく、地域が長年育んできたブランドを少しカタチを変えることで国が商標権という独占排他権を与えてしまっては、地域ブランドを守ることはおろか、様々な事業主や企業と協力して事業を起こすことに歯止めがかかってしまう事態をも引き起こすのである。
エ 本件商標の指定商品の選択について
本件商標は、杞柳製品に付するブランドとして、商標の選択時には、「豊岡柳」を選択しておきながら、指定商品は第20類の「柳製のかご」等でなく、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」とし権利化を図っている。本件商標は、指定商品をこのように「かばん類」等としているから、審査では柳製のかごとは結びつかず、登録に至ったとも推察できる。このような観点からも、本件商標は、商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものである。
オ 結論
以上より、本件商標は、その商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることは、商標法の予定する秩序に反するものとして、到底認めることができない場合に該当するというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
被請求人は、答弁書において、「本件商標と引用商標との外観と称呼が大きく異なることは明白であり、請求人も認めているものと思われる」と主張している。
しかし、その記載は、「柳(ヤナギ)」と「杞柳(キリュウ)」の表示のことを記載しているのであって、請求人は、両商標の外観が大きく異なるとは断じて主張していない。両者は、外観上、同じ文字を含み、豊岡(兵庫県豊岡市)において、「柳」といえば、「杞柳」を指し、「杞柳」といえば「柳」のことであること、また、「柳」と「杞柳」は、いつの時代でも常に不可分一体の関係にあり、柳=杞柳であるのだから、外観上も類似であることは明白である。加えて、両者の需要者が同一であること、これらの商品の需要者は、商品が地域ブランド、伝統的工芸品であることの信頼性から、必ずしも当該商品に付された標章を注意深く観察する者ばかりでないことを考慮すると、本件商標と引用商標とが相紛れる程に類似することは明らかである。
観念については、本件商標が造語で特定の観念を生じないというならまだしも、被請求人自らが「豊岡柳」は、「豊岡(兵庫県豊岡市)の柳」であると認めているとおり、本件商標の観念は、「豊岡(兵庫県豊岡市)の柳」という観念も生じ、指定商品との関係において、「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品」等の意味合いを認識させる。
被請求人は、答弁書において「・・・その慣用語から『杞柳』という馴染みのない語のみを取り出して、ましてやそれを『柳』と同一であるというような間違った観念を想起する者はまずいないであろう。」と主張している。 しかし、被請求人が主張するように「杞柳」が馴染みのない語というのであれば、なおのこと、引用商標に接する看者は、「杞柳」の「柳」から「柳」という観念を想起し得ると考えるのが自然である。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 同号審査基準等
被請求人は、答弁書において「・・・いずれにせよ、引用商標の周知性の如何に関わらず、本件商標と引用商標とは全く類似しない・・・」と主張しているが、商標法第4条第1項第15号は、商標法第4条第1項第11号に該当しない場合でも他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に対して本号の規定を適用するものである。
また、被請求人は、答弁書において「・・・混同を生ずるおそれはなく、実際に一切混同を生じた事実もない。」と主張しているが、商標法第4条第1項第15号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に対して本号の規定を適用するものである。
さらに、被請求人は、答弁書において「商品の用途や目的、製造スタイル、原材料、生産者、販売場所等の共通性は、同じ『杞柳細工』のバッグ製品である以上、共通していて当然の部分である。」と主張しているが、本件商標の「出所の混同」、「出所の混同のおそれ」を検討するに際して、「商品の用途や目的、製造スタイル、原材料、生産者、販売場所等の共通性」の検討が非常に重要であるから、被請求人の主張を認めることはできない。
イ 本件商標と地域団体商標「豊岡鞄」
被請求人は、答弁書において「被請求人は、混同を生じないように、必ず本件商標を商品自体に付し・・・・・請求人の商品には付されることのない有名な地域団体商標『豊岡鞄』を品質の証として付しており・・・」と主張している。
しかし、被請求人自らが認めている行為、それこそが、出所の混同を招いている行為であることに被請求人は気づくべきである。今般、請求人が本件商標の存在を知ったきっかけは、地域団体商標「豊岡鞄」の権利者である兵庫県鞄工業組合の2014年商品ラインナップ(甲16)の中に被請求人の製品がマスミ鞄嚢株式会社の商品欄に掲載されていたことにある。
「豊岡鞄」の源流は「豊岡杞柳細工」であるが、その後「豊岡鞄」は「かばん」として発展したため、異なる組織となっている。とはいえ、同じ兵庫県豊岡市の地場産業であり、源流を同じくするため、需要者に出所の混同を招くことがないよう留意してきた経緯がある。だからこそ、請求人は伝統的工芸品の指定を経済産業大臣から受けたのであるし、地域団体商標制度設立時にいち早く出願し権利を取得したのである。
ウ 販売商品のデザインの共通性・類似性
請求人と被請求人の販売商品の共通性については審判請求書で主張したとおりであり、伝統的工芸品表示事業実施規程及び伝統的工芸品豊岡杞柳細工検査基準(甲4の10)に即して製造されている杞柳製品である点で同一であり、出所が混同する。更にいうならば、販売商品のデザインが共通しており、類似している点でも出所の混同がある(甲3の2、甲19の5)。
このような販売製品のデザインの共通性・類似性からも、両者の間に出所の混同が生じることは明白である。
(3)商標法第4条第1項第16号について
被請求人が、自ら答弁書で認めているように「豊岡の柳(コリヤナギに限らない)」という観念が生じる以上、「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製されたかばん」以外の商品に使用されるとき、商品の品質の質の誤認を生じさせるおそれがあるものといえる。
また、本号の「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれ」とは、その品質又は質がその商品又は役務に現実に存在するか否かを問わず、その商品が有する品質又は役務が有する質として需要者において誤認される可能性がある場合をいうことは審査基準でも明文化されている。
(4)商標法第4条第1項第7号について
ア 社会的妥当性と法秩序について
被請求人は、本件商標は、公序良俗違反でも、社会公共の利益や社会の一般道徳観念に反するものではないと答弁している。
しかし、本件商標は、本来、地域団体商標としてでしか、認められるべきでない商標であり、若干のデザインを加えることで商標法第3条第1項第3号の適用を免れた商標の登録は認められるべきでない。このような登録を認めることは、まさに商標法の予定する秩序に反するものである。
イ 請求人と被請求人の関係について
被請求人は、答弁書において、審判請求書の記載があまりにも事実と異なると主張している。
具体的には、被請求人は答弁書で「請求人からはインターネット等で誰でも入手可能な一般的な歴史背景や製造スタイルの情報を与えられただけで、特別な製造スタイルを『伝承された』というような事実はない。兵庫県鞄工業組合等と連絡をとれたのも別の第三者のおかげである。」旨主張している。
しかし、これらの主張は、請求人の認識とかなり異なる。
被請求人は、請求人との新商品研究会に積極的に関わっており、被請求人と商標権者に協力した伝統工芸士が新商品研究会に同席していた。また、被請求人から提案されるはずの試作品は提出されず成果が得られなかった(甲19の3?甲19の5)。
以上により、請求人と被請求人の関係が分かる。
ウ 請求人と被請求人との誓約書について
平成20年11月13日にデザイン創造工房「めがね」(審決注:被請求人が当時所属していた工房と思われる。)代表八木沼修氏との間で誓約書(甲19の6)を交わしている。
被請求人の行為は、当該誓約書の「7.他人の所有する権利との関係/『成果品』を商品化し、販売する場合、他人の所有する知的財産権を侵害しないように努めます。」に反する。
また、被請求人の行為は、「平成20年度伝統的工芸品活用フォーラム事業実施要領」(甲19の7)の「5.禁止行為(4)」の「研究会において知り得た産地の情報あるいは商品つくりに関する情報を、産地の承諾を得ずに無断で他に漏らした」行為であり、被請求人の行為は許されない。
3 上申書(平成29年2月1日付け)について
(1)平成28年12月27日付で、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会(以下「伝産協会」という。)より、請求人の組合員であり商標権者に協力した伝統工芸士に対して、伝統工芸士称号の一時使用停止の通知があったので、証拠資料として提出する。
伝産協会が下した今般の判断は、伝統工芸士にとって、非常に重い判断であると同時に、本件商標の使用に関わっている伝統工芸士の行為に対するもので、本審判に影響があると考える。また以下、上申により、本件商標が商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第7号に該当することが一層、明らかになった。
(2)被請求人は、平成28年10月18日付答弁書において「商品の用途や目的、製造スタイル、原材料、生産者、販売場所等の共通性は、同じ『杞柳細工』のバッグ製品である以上、共通していて当然の部分である。」と主張している。
しかし、伝統工芸士が編んだ杞柳製品は、産地組合である請求人が検査を行い、検査基準に合格したものに伝統証紙を貼付けることになっている(甲4の10)。これは、「伝統的工芸品には、精巧な類似品も多く、一般消費者が見分けるのはかなり難しいといえ」るので、「伝統的工芸品の普及宣伝のため、『伝統証紙』等を貼付することにより、識別のめやすを提供すること」は極めて重要なことである(甲20の3)。
にもかかわらず、被請求人は、伝統工芸士が編みましたと伝統工芸士の氏名を公表しながら、また「豊岡杞柳細工」の歴史を紹介しながら、経済産業大臣が指定した伝統的工芸品に表示すべく伝統証紙を貼付けることなく販売行為を行っている(甲3の2、甲3の5等)。さらにこのとき、被請求人は産地組合に無断で、地域団体商標(地域ブランド)ではあっても伝統的工芸品でない「豊岡鞄」の認定を受けたとして販売する行為を継続している。
このような行為は「伝産協会が実施している『伝統的工芸品統一表示事業』は共通デザインの『伝統証紙』を貼付することにより、全国的な周知徹底を図り、消費者に伝統的工芸品を安心して購入していただこう」というものに反する。さらには「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法)の目的(甲20の3)に反するといえ、この観点からも本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)甲第20号証の3(4頁)には以下の記載がある。
「10.地域団体商標(地域ブランド)との関係
平成18年4月から開始された『地域団体商標(地域ブランド)』を登録した産地の場合、商標を表示できる製品の範囲は、登録内容に基づいて産地組合で決めることができます。その際、『地域ブランドの名称』と『伝統的工芸品の名称』が同じであって、地域ブランドを表示する商品の範囲と伝統的工芸品の範囲が異なる場合は十分な注意が必要です。
地域ブランド商品すべてが伝統的工芸品であるかのように販売すると、消費者に『誤認混同を及ぼす』行為として、法律に触れるおそれがあるからです。伝統的工芸品には伝統証紙を貼るなどの表示を明確に行うようにすることが求められています。」
上記記載の趣旨を鑑みれば、伝統工芸品ではない地域団体商標「豊岡鞄」の認定品として、地域団体商標「豊岡杞柳細工」の伝統工芸士が作製に携わった商品を販売している行為は、まさに、消費者に「誤認混同を及ぼす行為」である。
伝統的工芸品としての指定を受けるには、製造過程の主要部分が手工業的であること等、厳格な要件が課されている(甲20の3)。
にもかかわらず、伝統的工芸品のことを正しく理解することなく、また、伝統工芸士の役割や伝統工芸士という称号を用いる際のルール(甲20の3)も正しく理解することなく、共同製造・販売者のマスミ鞄嚢株式会社が兵庫県鞄工業組合の組合であるからと、「豊岡杞柳細工」の伝統工芸士を巻き込み、地域団体商標「豊岡鞄」の認定を受けて「豊岡杞柳細工」からなる杞柳製品に本件商標を付して販売を継続している。
(4)以上、本件商標が登録商標であることで、類似することによる出所の混同に止まらず、長年かけて育成し今後も活躍が期待される一伝統工芸士の認定自体をも揺るがす事態となっており、請求人及び産地等に与えるその損害は計り知れない。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号に該当しないことについて
(1)本件商標について
本件商標は、「豊岡柳」の漢字3文字を横書きし、その3文字のアンダーラインである線と、文字「柳」のうちの縦棒(ステム)を大きく下方に延長した線とを交差させてクロス図形を構成し、そのクロス図形の左下部に「Toyooka」の英文字を配した、特徴的なデザインロゴからなる商標である。
本件商標の称呼は、その漢字部分から生ずる「トヨオカヤナギ」である。 また、本件商標は、「豊岡(兵庫県豊岡市)の柳」という観念を生ずるものである。
(2)引用商標について
次に、請求人所有の地域団体商標「豊岡杞柳細工」(引用商標)の外観・称呼・観念について検討する。
引用商標は、地域団体商標であり、商標法第7条の2第1項第2号に規定されるとおり、地域名である「豊岡」と、「商品及び役務を表示するものとして慣用されている名称」である「杞柳細工」とからなる。
引用商標から生ずる称呼については、商標の構成全体を不可分一体のものとして判断し、「トヨオカキリュウザイク」の称呼を生ずる。
引用商標から生ずる観念は、地名「豊岡」が「兵庫県豊岡市」、商標を表示するものとして慣用されている名称「杞柳細工」が「コリヤナギの枝を編んで作った細工物。籠や行李など」である(乙1)ことから、「兵庫県豊岡市で生産されるコリヤナギの枝を編んで作った細工物の籠や行李」という観念を生ずる。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標との外観と称呼が大きく異なることは明白であり、請求人も認めているものと思われるので、請求人が主張している観念上の類似についてのみ検討する。
請求人は、審査基準を提出し、審判請求書においても地域団体商標に関する類否判断基準である「地域団体商標として登録された商標については、使用をされた結果商標全体の構成が不可分一体のものとして需要者の間に広く認識されている事情を考慮し、商標の類否判断においても、商標全体の構成を不可分一体のものとして判断することとする。」を記載している。
しかしながら、自ら敢えて記載したこの基準に則って判断することなく、「細工」部分は「手先を働かせて細かいものを作ること。」等であるから「自他商品の識別機能としての機能を果たし得ない」として省略し、残る「豊岡杞柳」の部分のみを取り出して「『柳』と『杞柳』は、いつの時代でも常に一体不可分の関係にある」(審判請求書)から、引用商標は本件商標と観念において類似すると主張しており、理解に苦しむ。
上記のとおり、引用商標はその構成全体から「兵庫県豊岡市で生産されるコリヤナギの枝を編んで作った細工物の籠や行李」という観念を生ずるのに対し、本件商標からは「豊岡市の柳」という観念を生ずるのであって、観念においても全く異なるものである。
付言すれば、「柳」と「杞柳」も、同一の観念を生ずるものではないことはいうまでもない。「柳」はシダレヤナギ、ネコヤナギ等の350種以上の柳科の樹木の総称であり、「コリヤナギ」はそのうちの一であるにすぎない。柳細工の商品との関係で考えたとしても、柳細工にはコリヤナギ以外の柳も使用される(乙2)のであり、必ずしも「コリヤナギ」ではない。
しかも、「杞柳」はそもそも国語辞典でも検索されないような一般に知られていない語(乙3)であり、「杞柳細工」という慣用語の一部としてのみ知られているものと考えられる。とすれば、その慣用語から「杞柳」という馴染みのない語のみを取り出して、ましてやそれを「柳」と同一であるというような間違った観念を想起する者はまずいない。
以上のとおり、本件商標は、外観・称呼・観念のいずれの観点からも引用商標に類似するものではない。
2 商標法第4条第1項第15号に該当しないことについて
引用商標は、その指定商品「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製のかご」「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製の買い物かご」については、特許庁において相当の周知性を認められたから地域団体商標として登録を受けているのであり、これら商品について周知性を有すること自体は争うものではない。
「バッグ」などのかばん類については、地域団体商標としての登録に値する周知性を有していないために登録が認められなかったものと推測されるが、いずれにせよ、引用商標の周知性のいかんに関わらず、本件商標と引用商標とは全く類似しないのであるから、混同を生ずるおそれはなく、実際に一切混同を生じた事実もない。
なお、請求人は、被請求人の商品と請求人の商品とを、製造スタイル、原材料、生産者、商品の用途や目的、販売場所等で比較し、「・・・比較しても、どちらが本件商標が付されている商品でどちらが引用商標が付されている商品なのか判別できない。さらに、本件商標が付された商品は『豊岡鞄』の認定を受けた商品とされ、豊岡鞄の商標と一緒に掲載され広告されており(中間省略)、需要者にとってはますます判別不能である」(審判請求書)と述べている。
商品の用途や目的、製造スタイル、原材料、生産者、販売場所等の共通性は、同じ「杞柳細工」のバッグ製品である以上、共通していて当然の部分である。パンフレットにおける記載は、地域団体商標「豊岡鞄」の商標権者である兵庫県鞄工業組合が豊岡鞄の歴史の説明として使用している文面をその許可を得て掲載しているものである。豊岡の鞄業界の足跡の一つとして杞柳細工は重要なものであり、歴史を語る上で説明内容に共通する部分があって当然である。
それを需要者が識別できるようにし、そして自己の商品の付加価値を高めていくのが商標であり、地域団体商標はその最たるものではないだろうか。商標以外の部分を比較して商品が似ているから混同を生ずるとか、引用商標とは全く非類似のものとして登録されている地域団体商標「豊岡鞄」が付してあるからますます判別できない、などという主張は理解し難い。
被請求人は、混同を生じないように、必ず本件商標を商品自体に付し、また販売場所等にも大きく表示するようにしている。それに加えて、請求人の商品には付されることのない有名な地域団体商標「豊岡鞄」を品質の証として付しており、使用開始から5年弱の間、引用商標と混同を生じた事実はない。これこそ、商標がその本質的機能である自他商品識別機能を十分に果たしている例であると考える。
3 商標法第4条第1項第16号に該当しないことについて
請求人は、本件商標から「『兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳細工を施した商品』若しくは『兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された柳で作製された商品』等の意味合い表す。」と述べている(審判請求書)。
しかしながら、本件商標からは、前述のとおり、「豊岡の柳(コリヤナギに限らない)」という観念を生ずるにすぎない。
実際のところ、被請求人が本件商標を使用している商品は「豊岡産の柳を原材料に使用した商品」であって、具体的には、豊岡で育てた柳を編んだ柳細工の部分を有するかばん類や、豊岡で育てた柳の皮で草木染を施したかばん類や袋物などであるが、それ以外の商品に使用したとしても品質の誤認を生ずるおそれはないものと考える。
4 商標法第4条第1項第7号に該当しないことについて
本件商標は、公序良俗違反でもなく、社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に反するものでもないことは明らかである。
また、請求人は、「本件商標の指定商品の選択について」として、「『豊岡柳』を選択しておきながら、指定商品は第20類の『柳製のかご』等でなく、第18類『皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具』とし権利化を図っている・・・(中間省略)このような観点からも本件商標は、商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く」(審判請求書)と述べてもいる。
被請求人は、自らが使用する予定のある商品を指定商品として記載して出願したのであり、商標法の規定するとおりであって、至極当然のことである。
「請求人と被請求人との関係について」(審判請求書)の記載があまりにも事実と食い違っているので、以下、事実を述べる。
請求人は、平成20年度の財団法人伝統的工芸品産業振興協会が国の補助事業として実施した伝統的工芸品活用フォーラム事業において、商標権者とパートナーであった経緯について述べている。被請求人と請求人とがこの事業において知り合ったということは間違いではないが、その他の経緯は異なる。
豊岡杞柳細工は、引用商標の登録が認められている「こうり」「かご」「買い物かご」については周知であるものの、若い需要者に受け入れられるような商品分野、例えば、ハンドバッグなどのかばん類では、まだまだブランドとして周知とはいえず、そのブランド力を高めるために、フォーラム事業において外部協力者(デザイナー)として選ばれたうちの一人が、被請求人の中山久美子(旧姓は平野)であった。
被請求人は、企画書(甲13の3)を作成し、更に質問書(甲13の4)を送るなどして、請求人と協力して事業を進めていこうと努力したが、残念ながら、全く信頼関係を築くことができなかった。
請求人は、「両者協議の上、平成20年度の新商品研究会は不成功に終わり、このとき取り組んだ商品は市場に出さないことを定めて終了した経緯がある」(審判請求書)と述べているが、一切そのような取り決めはない。そのような取り決めがあれば、覚書として書面にし、両者署名や捺印をするのが通常であるが、取り決めがない以上、当然そのような書面も存在しないので、請求人も提出していない。
また、請求人は、「信頼関係の下、請求人の構成員である伝統工芸士や豊岡鞄工業組合(被請求人注:兵庫県鞄工業組合のことと思われる。)を請求人が指名して依頼したのであって、『豊岡杞柳細工』の製造スタイルを中山久美子氏に伝承したのは紛れもなく請求人なのである」(審判請求書)と述べているが、請求人からはインターネット等で誰でも入手可能な一般的な歴史背景や製造スタイルの情報を与えられただけで、特別な製造スタイルを「伝承された」というような事実はない。兵庫県鞄工業組合等と連絡をとれたのも別の第三者のおかげである。
このように、請求人とは信頼関係を築けずに終わったとはいえ、被請求人は、この別の第三者に関わったことを契機として、豊岡の鞄製造業者や伝統工芸士など、多数の杞柳細工の関係者や鞄製造者と知り合うことができた。この関係者達との交流から、豊岡の杞柳細工をとりまく問題点が見えてきて、仲間として、共に杞柳細工の将来を考えていきたいと思うようになった。その仲間達から、中山久美子が企画する杞柳細工のバッグの製造・販売に協力してもよい、といってもらえるような深い信頼関係を築き、この事業に発展したのである。
しかし、同じ杞柳細工の商品に関わるのであれば、請求人組合と混同を生ずるようなことだけは避けなければならない。そこで、全く独自に「豊岡柳/Toyooka」をデザイン化したロゴ商標を考えて出願して正式に商標登録を得た上で、これを全商品にきちんと表示して販売するということを徹底してきた。共同製造・販売者のマスミ鞄嚢株式会社が兵庫県鞄工業組合の組合員であることもあって、組合所有の地域団体商標「豊岡鞄」の認定も受けてその商標を付すこともでき、商品の出所をより明確にすることができ、ブランド力を高めることができたものと自負している。
本件商標の使用を開始して5年弱であるが、何ら混同を生じた事実はない。取引者も需要者もみな商標権者の「豊岡柳」ブランドの商品を指定して取引をしてくれるのである。社会的妥当性と法秩序に反するなどといわれるいわれはない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、請求人主張の無効理由のいずれにも該当しないものである。

第5 当審の判断
1 商標第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決;民集54巻6号1848頁)。
(2)商標の類似性の程度
ア 本件商標について
本件商標の外観は、「豊岡柳」の漢字を上段に、「Toyooka」の欧文字を下段に書し、これらの文字の間には横線が引かれ、その構成中の「柳」の文字の一部が縦に長く伸びている。そして、「豊岡柳」の漢字及び「Toyooka」の欧文字は、それぞれ、各文字の大きさ及び書体が同一で、等間隔に、その全体が1行でまとまりよく表示されており、文字の大きさは、漢字が欧文字より大きい。
本件商標の外観は、上記のとおりであり、下段の「Toyooka」の欧文字は、その位置するところとあいまって、上段の「豊岡」の読みを表したものと理解されるため、本件商標からは、「トヨオカヤナギ」との称呼を生じる(なお、この点について、当事者間に争いはない。)。
また、本件商標の上段は、「豊岡柳」という文字から構成されているところ、「豊岡柳」という一連の語は、既成の語として辞書等に掲載されているものではないが、「豊岡」は「兵庫県北部の市。かつては柳行李・柳籠、今はスーツケースなどの生産が盛ん。」を意味し、「柳」は「(ア)ヤナギ科ヤナギ属植物の総称。北半球北部を中心に約400種、日本には約90種。シダレヤナギ・コリヤナギ・カワヤナギなどが代表的。庭木または街路樹として植栽。(イ)特に、シダレヤナギのこと。」を意味するものである(広辞苑第6版)。そうすると、「豊岡柳」という語から、「兵庫県豊岡市の柳(ヤナギ科ヤナギ属植物の総称又はシダレヤナギ)」という観念を生じる。また、後記(3)のとおり、「豊岡」は古くから柳細工(柳の一種であるコリヤナギ(杞柳)の枝を編んで行李や籠等を製作するもの。「杞柳細工」ともいう。)が盛んな地域であり、平成4年に、「豊岡杞柳細工」が通商産業大臣(現経済産業大臣)から伝統的工芸品に指定され、平成19年には、引用商標である「豊岡杞柳細工」が、請求人又はその構成員の業務に係る指定商品(兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり,柳・籐製のかご及び柳・籐製の買い物かご)を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものとして、地域団体商標として設定登録されたことなどからすると、「豊岡柳」の語から、「兵庫県豊岡市で生産された柳細工を施した製品」という観念も生じ得るものといえる。
イ 引用商標について
引用商標の外観は、「豊岡杞柳細工」の漢字を横書きして成る。各文字の大きさ及び書体は同一であり、等間隔に、その全体が1行でまとまりよく表示されている。
また、引用商標は、その構成の全体から、「トヨオカキリュウザイク」の称呼を生じる。
そして、「豊岡杞柳細工」が伝統的工芸品に指定され、前記第2に記載のとおり、請求人は、地域の名称である「豊岡」と請求人又はその構成員の業務に係る商品の普通名称である「杞柳細工」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる「豊岡杞柳細工」という引用商標について、地域団体商標として設定登録を受けたものである。そうすると、引用商標は、その構成の全体から、「兵庫県豊岡市で生産された杞柳細工を施した製品」という観念が生じるほか、兵庫県豊岡市で生産された杞柳細工を施した製品に係る請求人の伝統的工芸品ないし地域ブランドという観念も生じる。
ウ 本件商標と引用商標の対比
以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において類似するとはいえないものの、本件商標をその指定商品に使用した場合は、「兵庫県豊岡市の柳」という観念だけでなく、「兵庫県豊岡市で生産された柳細工を施した製品」という観念も生じ得るものである。そして、その場合には、本件商標の観念は、引用商標から生じる観念と類似するものということができる。
(3)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
ア 請求人提出の証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)兵庫県豊岡市及びその周辺地域(以下「豊岡地方」と総称することがある。)では、古くから、地元で採れるコリヤナギの枝を編んで行李等の商品(杞柳製品)を製作する産業が行われていた。同産業は、江戸時代に、豊岡藩の保護と助成を受けて盛んになり、明治時代以降は、従来から生産されていた行李のほかに、バスケット、手提げ籠等の日常生活で用いられる籠類等を生産するようになって需要が拡大し、日本国内だけでなく海外にも輸出され、昭和26年には買い物籠を主とした手提げ籠の生産数が年間120万個を超え、現皇太子が子どもの頃に愛用していたバスケットが「なるちゃんバッグ」と呼ばれて流行するなど、最盛時には、豊岡市民の約半数が同産業にかかわり、日本国内における杞柳製品の生産額の約8割を占めていた。また、その頃から、杞柳製品と呼称される物には、コリヤナギを原材料とする製品のほかに、籐を原材料とする製品も含まれるようになった。その後、安価な外国製のバスケット類の輸入が増えたことや生活様式の変化などから、多くの廃業や転業が続き、豊岡地方における杞柳製品の生産額は減少したものの、後記(イ)のとおり、現在でも、豊岡地方における伝統的な産業として、杞柳製品の製造は続けられ、その生産額は、日本における杞柳製品の生産額のほとんどを占めている(甲4の1?甲4の8、甲7の1、甲11の1、甲11の4、甲28?甲30、甲35)。
(イ)請求人は、昭和37年に、豊岡杞柳製品振興協議会と兵庫県杞柳製品生産協同組合が発展的に解消して設立された協同組合である(甲7の1)。
請求人は、平成4年10月8日、「豊岡杞柳細工」について、「柳行李」、「小行李」及び「柳・籐籠」の3部門において、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき、当時の通商産業大臣から伝統的工芸品の指定を受けた。伝統的工芸品は、(1)主として日常生活の用に供されるものであること、(2)その製造過程の主要部分が手工業的であること、(3)伝統的な技術又は技法により製造されるものであること、(4)伝統的に使用されてきた原材料が主たる原料として用いられ、製造されるものであること、(5)一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること、の要件に該当する工芸品について、当該工芸品の製造される地域において当該工芸品を製造する事業者を代表する事業協同組合等の申出により、経済産業大臣が、産業構造審議会の意見を聴いて指定するものである。
請求人は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき、豊岡杞柳細工産業に関する振興計画を作成し、国や県・市の補助を受けて、同計画に基づく事業(後継者育成事業、児童・生徒に対する伝統的工芸品教育事業、伝統的工芸品ふるさと体験交流事業、伝統的工芸品活用フォーラム事業、伝統工芸ふれあい広場製作体験等)を行っている。この「豊岡杞柳細工」は、水に浸すと柔らかくなり、乾くと硬くなるという、コリヤナギや籐の性質を利用し、自然木の味わいなどを活かしながら、職人の手によって一つ一つ編み上げていくものであり、籠を編み上げる技法に幾つもの種類があり、製作する人の意図によって様々な作品が出来上がることを特徴とするものである。なお、経済産業大臣から伝統的工芸品の指定を受けている柳製品は、全国で豊岡杞柳細工以外にはない(甲3の3、甲4の8、甲4の9、甲7の1、甲37)。
また、請求人は、平成6年に、伝統的工芸品産業振興協会の伝統工芸士認定事業に参加し、構成員10名が伝統工芸士の認定を受け、伝統的工芸品表示事業を開始して、伝統証紙(経済産業大臣が指定した技術・技法、原材料で製作され、産地検査に合格した製品に貼られる、「伝統マーク」をデザインした証紙)の表示を始めた。そして、請求人は、その頃から、請求人の商標として「豊岡杞柳細工」の使用を開始し、平成13年には、更に構成員5名が伝統工芸士の認定を受けた(甲4の9、甲7の1、甲8、甲9の5)。
(ウ)平成18年4月1日、地域団体商標制度が導入されたことから、請求人は、前記第2に記載のとおり、「豊岡杞柳細工」の文字からなる引用商標を出願し、平成19年3月9日、指定商品を第18類「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」及び第20類「兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製のかご,兵庫県豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施した柳・籐製の買い物かご」とする地域団体商標として、設定登録を受けた(甲2)。
なお、地域団体商標の制度は、従前、地域の名称と商品(役務)の名称等からなる文字商標について登録を受けるには、使用により識別力を取得して商標法第3条第2項の要件を満たす必要があったため、事業者の商標が全国的に相当程度知られるようになるまでの間は他人の便乗使用を排除できず、また、他人により使用されることによって事業者の商標としての識別力の獲得がますます困難になるという問題があったことから、地域の産品等についての事業者の信用の維持を図り、地域ブランドの保護による我が国の産業競争力の強化と地域経済の活性化を目的として、いわゆる「地域ブランド」として用いられることが多い上記文字商標について、その商標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、商標登録を受けることができるとするものである。また、地域団体商標は、事業者を構成員に有する団体がその構成員に使用をさせる商標であり、商品又は役務の出所が当該団体又はその構成員であることを明らかにするものである。
(エ)請求人及びその構成員は、豊岡地方において豊岡杞柳細工を製作している。同事業に従事する事業所は約20社、従業者は約50名であり、年間売上高は約5,000万円である。また、請求人及びその構成員は、引用商標の指定商品であるこうり、かご及び買い物かごのほかに、杞柳細工を施したバンドバッグ、アタッシュケース等のかばん類も製作し、引用商標を付して販売している(以下、請求人及びその構成員が製作する杞柳細工を施した製品を総称して、「請求人商品」ということがある。)(甲7の1、甲9の1、甲9の3?甲9の6、甲10の1?甲10の3、甲31、甲38)。
請求人商品は、豊岡地方においては、請求人の構成員や請求人商品を取り扱う事業者の経営する店舗で販売されているほか、財団法人但馬地域地場産業振興センター、豊岡杞柳細工ミュージアム等においても販売、展示されている。なお、同ミュージアムは、平成18年に玄武洞ミュージアム内に開設されたものであり、杞柳細工に関する資料や製作に用いる道具類等を展示した資料館であって、杞柳細工のかご編み体験もすることができる。また、玄武洞ミュージアムは、鉱物、宝石、化石等を展示する博物館であり、年間約12万人が来館する観光施設である。請求人商品を販売する際には、「経済産業大臣指定伝統的工芸品」「豊岡杞柳細工」「兵庫県杞柳製品協同組合」との表示がされたタグが付されている(甲4の11、 甲9の1、甲10の3、甲33、甲34、甲36、甲37)。
請求人商品は、豊岡地方以外の地域では、伝統的工芸品産業振興協会が運営している東京都所在の全国伝統的工芸品センター(伝統工芸青山スクエア)において販売されているほか、平成18年から平成23年にかけて、横浜、玉川、立川、港南台、新宿、日本橋等の高島屋において、「豊岡杞柳細工 おしゃれなバッグ展」などと題する展示会が各店舗において1週間程度開催され、平成23年及び平成25年に、伝統的工芸品活用フォーラム事業において、東京ビッグサイトにて、多数の伝統的工芸品の出展とともに請求人商品の展示が行われるなど、各地で展示会の開催や販売がされている(甲4の11、甲9の3、甲9の4、甲13の1、甲36、甲37)。
また、請求人商品は、請求人の作成した商品カタログを用いたり、請求人の構成員や豊岡杞柳細工ミュージアムが開設したウェブページ、「YAHOO!JAPANショッピング」、「楽天市場」等のインターネットのサイトを介したりするなどして、通信販売も行われている(甲9の5、甲9の6、甲10の1?甲10の3)。
(オ)前記(イ)のとおり、「豊岡杞柳細工」は、伝統的工芸品に指定されているため、経済産業省(旧通商産業省)伝統的工芸品産業室が監修し伝統的工芸品産業振興協会が編集して年1回発行される冊子「伝統的工芸品の本」に毎回掲載され、豊岡杞柳細工の歴史、特徴、製法等について、請求人商品の写真と一緒に紹介されている。また、前記(ウ)のとおり、引用商標は、地域団体商標として設定登録されているため、経済産業省・特許庁が年1回発行する冊子「地域団体商標」に毎回掲載され、引用商標の構成、権利者、指定商品、請求人商品の写真、連絡先及び関連ホームページのアドレスなどが紹介されている(甲4の9、甲14の1)。
また、請求人は、請求人商品を紹介するパンフレットを作成しており、その表紙には、「杞柳(KIRYU)」「豊岡杞柳細工」と記載され、請求人商品の写真が多数掲載されているほか、豊岡杞柳細工の歴史、伝統的工芸品に指定されていること、その特徴や製法等が紹介されている(甲10の1、甲10の2)。
さらに、前記(エ)のとおり、百貨店等で開催される請求人商品の展示会のチラシや、請求人商品を紹介するウェブページには、引用商標及び請求人商品の写真のほか、豊岡杞柳細工の歴史、伝統的工芸品に指定されていること、その特徴や製法等が紹介されている(甲9の1、甲9の3?甲9の6)。
そのほかに、多数の書籍(「伝統の杞柳製品匠の技、但馬」(財団法人但馬地域地場産業振興センター発行)等)、雑誌(「サライ」(小学館発行)、「BE‐PAL」(小学館発行)等)、新聞(神戸新聞)に、豊岡の杞柳製品又は伝統的工芸品である豊岡杞柳細工について、その歴史、特徴、製法、製作者等を紹介する記事や、請求人商品について、その特徴、製法、製作者等を請求人商品の写真や引用商標とともに紹介する記事が掲載され、平成14年9月発行の「女性自身」(光文社発行)には、皇太子妃が豊岡杞柳細工の手提げ籠を手から提げている写真が掲載され、平成23年10月発行の「女性自身」等の雑誌には、皇后陛下が豊岡杞柳細工の手提げ籠を手から提げている写真が掲載された。また、平成27年10月25日にNHKで放映された番組「イッピン」において、豊岡の杞柳細工が、豊岡地方の名産品である柳細工として取り上げられ、その歴史、特徴、製法、製作者等が紹介された。さらに、豊岡商工会議所や豊岡市役所のホームページにおいて、豊岡市の特産品として杞柳製品(杞柳細工)が紹介されたり、神戸市所在の兵庫県公館・県政資料館において、兵庫の産業として豊岡地方の杞柳細工が紹介されたりしている(甲4の11、甲7の1、甲10の3?甲10の5)。
イ 前記アの認定事実によれば、豊岡杞柳細工は、豊岡地方において古くから製作されてきたものであり、経済産業大臣により伝統的工芸品に指定され、「豊岡杞柳細工」という引用商標が、地域団体商標として設定登録されているものである。また、引用商標を付した請求人商品は、豊岡地方に所在する店舗やミュージアム等の施設で展示・販売されるほか、東京都内の百貨店等で展示会を開催し、インターネットを介した通信販売をするなどして、豊岡地方以外でも販売されている。さらに、請求人商品は、伝統的工芸品に指定され、地域団体商標の登録を受けていることから、経済産業省(旧通商産業省)がそれぞれ年1回発行する冊子に毎年掲載されているほか、多数の書籍、雑誌、テレビ等において、豊岡地方の伝統的工芸品であることや、その歴史、製法、特徴等が紹介されている。これらの事情を考慮すると、引用商標を付した請求人商品は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人又はその構成員の業務を示すものとして、需要者の間に広く認識されており、一定の周知性を有していたものと認められる。
なお、引用商標は、地域の名称である「豊岡」と商品の普通名称である「杞柳細工」を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる地域団体商標であるから、その構成自体は、独創的なものとはいえない。
(4)商品の関連性その他取引の実情
ア 請求人提出の証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)被請求人は、京都府に在住し、「拓心」の屋号で、かばんの企画、製造、販売等の事業を営む者である。被請求人は、平成20年に、伝統的工芸品の作り手とデザイナーやプロデューサーなど様々な分野の専門家が交流を図り、パートナーを選択して新商品開発研究を行って試作品を作り、発表し意見を求める展示会に参加する本件事業に加わり、請求人のパートナーとなったが、新商品の開発には至らず、同事業は終了した(甲3の2、甲19の1?甲19の3、甲19の6、甲19の7)。
しかし、被請求人は、杞柳細工に商品価値を見出したことから、平成22年に本件商標を出願し、平成23年に本件商標の設定登録を受けた。そして、被請求人は、本件商標を付した柳細工のかばん(バッグ、アタッシュケース等。以下、被請求人の販売する上記かばんを総称して「被請求人商品」ということがある。)の製造を開始した(甲1、甲3の2、甲3の5)。
(イ)被請求人商品は、豊岡地方のほか、京都府に所在する被請求人の店舗や百貨店等で販売されている。また、平成25年及び平成26年に、社団法人京都国際工芸センターにおいて、「豊岡柳KAGO展」などと題する展示会が1週間開催されるなどした(甲3の3、甲3の4)。
さらに、被請求人商品は、被請求人が開設したウェブページや他のインターネットのサイ卜を介するなどして、通信販売も行われている(甲3の1、甲3の2、甲3の5)。
(ウ)被請求人が作成した被請求人商品のパンフレットや、被請求人商品の展示会を紹介するウェブページには、本件商標及び被請求人商品の写真が掲載されている。そして、上記パンフレット等に掲載された被請求人商品の写真は、請求人のパンフレット等に掲載された、請求人商品である杞柳細工のかばん類や籠類と外観が類似するものも少なくない(甲3の1、甲3の3?甲3の6、甲9の1、甲9の3?甲9の6、甲10の1?甲10の3)。
イ 本件商標の指定商品は、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」である。一方、前記(3)のとおり、請求人商品は、引用商標の指定商品であるこうり(第18類)、かご及び買い物かご(第20類)のほかに、ハンドバッグ、アタッシュケース等のかばん類も含むものである。
したがって、本件商標の指定商品と請求人商品とは、商品の用途や目的、原材料、販売場所等において共通し.同一又は密接な関連性を有するものであり、取引者及び需要者が共通する。
また、前記アのとおり、被請求人商品のパンフレット等に掲載されている被請求人商品の写真は、請求人商品と外観が類似するものも少なくない。そして、本件商標の指定商品である「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具」が日常的に使用される性質の商品であることや、その需要者が特別の専門的知識経験を有する者ではないことからすると、これを購入するに際して払われる注意力は、さほど高いものとはいえない。
このような被請求人の本件商標の使用態様及び需要者の注意力の程度に照らすと、被請求人が本件商標を指定商品に使用した場合、これに接した需要者は、前記(2)のとおり周知性を有する「豊岡杞柳細工」の表示を連想する可能性がある。
(5)小括
以上のとおり、(ア)本件商標は、外観や称呼において引用商標と相違するものの、本件商標からは、豊岡市で生産された柳細工を施した製品という観念も生じ得るものであり、かかる観念は、引用商標の観念と類似すること、(イ)引用商標の表示は、独創性が高いとはいえないものの、引用商標を付した請求人商品は、請求人の業務を示すものとして周知性を有しおり、伝統的工芸品の指定を受け、引用商標が地域団体商標として登録されていること、(ウ)本件商標の指定商品は、請求人商品と同一又は密接な関連性を有するもので、請求人商品と取引者及び需要者が共通すること、その他被請求人の本件商標の使用態様及び需要者の注意力等を総合的に考慮すれば、本件商標を指定商品に使用した場合は、これに接した取引者及び需要者に対し、請求人の業務に係る「豊岡杞柳細工」の表示を連想させて、当該商品が請求人の構成員又は請求人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され、商品の出所につき誤認を生じさせるとともに、地域団体商標を取得し当時の通商産業大臣から伝統的工芸品に指定された請求人の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。
そうすると、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると解するのが相当である。
2 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、その余の無効理由に論及するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲 本件商標



審理終結日 2019-01-07 
結審通知日 2019-01-10 
審決日 2019-01-25 
出願番号 商願2010-67054(T2010-67054) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X18)
最終処分 成立 
前審関与審査官 岩本 和雄庄司 美和 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 鈴木 雅也
小俣 克巳
登録日 2011-08-12 
登録番号 商標登録第5431098号(T5431098) 
商標の称呼 トヨオカヤナギ、ヤナギ、トヨオカ 
代理人 松村 修治 
代理人 村上 玲子 
代理人 大森 亜子 
代理人 中井 宏行 
代理人 沖本 周子 
代理人 奥村 公敏 
代理人 協明国際特許業務法人 
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