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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W17
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W17
管理番号 1347806 
審判番号 無効2016-890058 
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-29 
確定日 2018-12-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5840125号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成29年7月20日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10170号,平成30年3月22日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 登録第5840125号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5840125号商標(以下「本件商標」という。)は,「PPF」の欧文字を標準文字で表してなり,平成27年10月23日に登録出願,第17類「熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用プラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム,プラスティック基礎製品」を指定商品として,同28年3月8日に登録査定され,同年4月8日に設定登録されたものである。

第2 手続の経緯
本件商標については,平成28年9月29日に「本件商標の登録を無効とする。」旨の無効審判の請求があったところ,当該請求については,平成29年7月20日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「第一審決」という。)がされた。
請求人は,第一審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に出訴し,これが平成29年(行ケ)第10170号事件として審理された結果,平成30年3月22日に,「特許庁が無効2016-890058号事件について平成29年7月20日にした審決を取り消す。」との判決が言い渡された(以下「本件判決」という。)。
その結果,第一審決が取り消され,本件判決は,確定した。
本件判決中,「第5 当裁判所の判断」の「2 取消事由2(商標法3条1項1号該当性についての判断の誤り)について」において,「原告(審決注:請求人)は,審判手続において,商標法3条1項1号該当性について明示的には主張していないものの,上記第2の2(1)(審決注:本件判決中の『審判手続における原告(請求人)の主張の要旨』)のとおり,『その商品の内容である自動車本体の保護フィルムを普通に用いられる方法で表示するものとして一般的に認識されていた。』と主張し,審判請求書(甲40)には,より直接的に「以下の動画においても,『PPF』は,自動車本体を保護するフィルムを意味する用語として普通に使用されている。」(18頁から19頁)と記載していたのであるから,実質的には本件商標が商標法3条1項1号に該当する旨を主張していたと認めるのが相当である。」旨の判示がなされた。

第3 請求人の主張の要点
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第111号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお,これらの証拠は,平成30年6月25日付け回答書により提出された上記訴訟時に裁判所に提出された証拠(甲第23号証ないし甲第111号証)を含むものである。
1 無効理由
本件商標は,商標法第3条第1項第3号又は同第6号及び同法第4条第1項第16号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
(1)商標法第3条第1項第3号該当性
本件商標「PPF」は,自動車分野において,「Paint Protection Film」の頭文字をとった略語である。「ウィキペディア/Wikipedia」のウェブサイトによると,「Paint Protection Film(PPF)」は,「新車や中古車の塗装された表面に貼る(Paint)ことで,飛び石,虫や小さな擦り傷等の外的要因から保護(Protection)するための熱可塑性ウレタン製フィルム(Film)」である旨の説明がなされている(甲2)。
そして,甲第2号証によれば,「Paint Protection Film(PPF)」は,以下の経緯により開発されたことが記載されている。
ア 他の多くの消費財と同様に,ペイント プロテクション フィルムは,(米国の)軍隊によって最初に開発され,利用された。ヴェトナム戦争の間,ヘリコプター回転翼や他の繊細な軍隊の移動部品は,しばしば空中の金属片や破片によって損傷を受けた。これらの移動部品を保護するため,米国の軍隊は,3M社に対して,目立たず,かつ軽量な解決法の考案を依頼した。
イ 時がたつにつれ,自動車産業は,「PPF」の保護の利益に気づくようになり,「PPF」は,原型のフィルムと連動することは困難であったにもかかわらず,間もなくレース用自動車に採用されるようになった。3M社自動車部のマーケティングマネージャーであるキャシー ラム氏によると,「最初のフィルムは,ヘリコプター回転翼がざらざらとして砂だらけの環境において腐食することから守ることが目的であったため,より厚く,あまり適合していなかった。ヘリコプター回転翼は自動車の表面に比べて,平面的で複雑ではなかったため,高度に柔軟性があり,快適なフィルムであることは要求されなかった。
ウ 今日の自動車用「PPF」は,高度に快適で,光学的に明度があり,様々な厚さや色を入手することが可能である。3M社,テクラ社(Tekra),及びエクスペル社(Xpel)といった米国の主要なPPF製造者の多くは,(PPF)施工者に対して完全な訓練,及び/又は,高額の施工費用としている排他的な同意に署名することを要求している。
エ 上記アないしウの開発の経緯についての記述は,2014年9月12日に検索された情報を参照(References)したものであるとの記載より,「Paint Protection Film」の略語である「PPF」は,本件商標の登録査定日である平成28(2016)年3月8日よりも前に,その商品の内容である自動車本体の保護フィルムを普通に用いられる方法で表示するものとして一般的に認識されていたことが推認される。
オ 「PPF」は,自動車の傷を修復するフィルムを意味する用語として,インターネットのウェブサイト(英文)(甲3?甲7),インターネットのウェブサイト又はブログ(日本語)(甲8?甲15)で使用されている。 また,本件商標の登録出願前に,請求人が「PPF」を使用し,「PPF」が,自動車本体の傷を修復するフィルムを意味する用語として普通に用いられる方法で使用されていた事実を示す証拠として,請求人のカタログ類を提出する(甲16?甲22)。
さらに,動画においても,「PPF」は,自動車車体を保護するフィルムを意味する用語として普通に使用されている。
カ 小括
上記のウェブサイト,カタログ類や動画からも明らかなように,本件商標は,自動車関連の分野において,その商品の原材料,品質を普通に用いられる方法で表示するものとして認識されるものであり,商標の機能である自他商品の識別標識として認識され得ないというべきである。
また,「PPF」の語は,取引一般において,取引の内容を説明するために必要かつ適切な表示として機能するものであるから,誰もが自由に使用できるようにしておく必要があり,特定人の独占的使用を認めると,円滑な取引を阻害するなど公益上の問題が生じるおそれがあるというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に係る無効理由を有する。
(2)商標法第3条第1項第6号該当性
仮に,本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当しない場合であっても,「PPF」の語は,上記(1)からも明らかなように,多数の業者が取引に際して用いているものであるから,「PPF」といっても,何人の業務に係る商品であるのか認識することができず,商標の機能である出所識別機能を有しない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に係る無効理由を有する。
(3)商標法第4条第1項第16号該当性
本件商標は,「Paint Protection Film」を意味する略語として,自動車関連の分野において,一般的に用いられている。そうすると,本件商標を自動車関連商品以外の指定商品である「熱可塑性ポリウレタンフィルム」及び「プラスティック基礎製品」について使用すると,商品の品質について,誤認を生じるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に係る無効理由を有する。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は,「そもそもウィキペディアは不特定多数の人間が任意に書き込め,編集できるフリー百科辞典(『辞典』は『事典』の誤記と思われる。)であるから,証拠能力として疑問である」と,主張している。
これに対し,ウィキペディアが誰でも編集できるフリー百科事典であるという点については認めるが,ウィキペディアは証拠能力として疑問である,との主張については,妥当ではない。
ここで,「証拠能力」とは,証拠方法として用いる適格を意味する。自由心証主義を広く認める民事訴訟では原則として証拠能力の制限はなく,伝聞証拠なども証拠能力は認められている(有斐閣「法律学小辞典[第5版]」第659頁参照)。
そうすると,私人間の紛争解決手続について規定する民事訴訟法に類似する規定を定める商標法施行規則を適用する商標登録の無効審判事件においても,あらゆる書面が証拠となり得ると考えるべきであるから,ウィキペディアが不特定多数の人間が任意に書き込め,編集できるフリー百科事典であるからといって,証拠能力として疑問とはいい得ず,証拠能力を備えているというべきである。
(2)請求人が海外の英語で表示されるウェブサイトを証拠としていることについて,「英語は基本的に言葉として違うため,海外の事例は日本では適用されない」との被請求人の主張は,妥当ではない。
工業所有権の保護について規定するパリ条約は,各国商標独立の原則を採用し,商標の登録出願及び登録の条件は,各同盟国において国内法令で定め(パリ条約第6条(1)),いずれかの同盟国において正規に登録された商標は,他の同盟国において登録された商標から独立したものとすると規定する(パリ条約第6条(3))。
上記より,請求人は,被請求人の商標権の効力が日本国以外の国や地域において及ばないことを承知している。
しかしながら,無効審判の実務において,外国語文献を証拠として提出することは認められおり(「審判便覧(第16版)」34-01.1「無効審判,特許(商標登録)異議の申立ての証拠における外国語文献の取扱い」),海外のウェブサイトであっても証拠として使用されるべきである。
(3)甲第8号証の「PPF」がペイントプロテクションフィルムの短縮形として使用されている,との被請求人の主張は妥当であるが,ペイントプロテクションフィルムという文言が文章中で長すぎるために「PPF」を使用しているという主張は,妥当ではない。
ウェブサイトにおいては字数制限がなく,かつ「PPF」と追記することにより,さらに文言が長くなるのであるから,被請求人の主張は妥当性を欠く。そうすると,甲第8号証においては,「スクラッチガード」という商品の原材料又は品質を表すために「PPF」が使用されていると考えるのが妥当である。
(4)甲第9号証の「PPF」は,被請求人が使用したものを転載して使用している,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人は,甲第9号証のエイブリィ・デニソン・ジャパン株式会社とは取引先である旨述べているが,被請求人がエイブリィ・デニソン・ジャパン株式会社に対して,本件商標の使用を認めているのであれば,証拠として商標の使用許諾書を提出すべきところ,答弁書にそのような証拠書類は提出されていない。
仮に,他者が被請求人のウェブサイト等の文章を転載して使用しているとしても,そのことにより「PPF」が原材料や品質を表すものではないことが否定されるべきものではない。
(5)甲第10号証の掲載時期が特定できない,との被請求人の主張は,妥当ではない。
甲第10号証の各頁右下欄には「2016/8/30 18:45」と明確に記載されている。よって,甲第10号証は,平成28年8月30日に掲載されていたことは容易に特定可能である。
また,被請求人は,甲第10号証の「PPF」は,被請求人の「PPF」を使用していると推認される旨述べているが,その意味が不明である。
仮に,被請求人の答弁が,他者が被請求人のウェブサイト等の文章を転載して使用しているということを意味しているとしても,そのことにより「PPF」が原材料や品質を表すものではないことが否定されるべきものではない。
(6)甲第11号証の「PPF」は,被請求人が使用していた「PPF」を使用していた,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人は,甲第11号証のクラッド社が被請求人のウェブサイトを無断転載したことに対して抗議メールを送り,同社からの返信による謝罪メールを証拠書類(乙2)として提出しているが,抗議メールを送付する前後のクラッド社のウェブサイトについては,証拠として提出されておらず,クラッド社が,「PPF」を被請求人の業務に係る商品について使用している,と明確にはいい得ず,乙第2号証のみでは証拠として十分とはいえない。
なお,上述のとおり,他者が被請求人のウェブサイト等の文章を転載して使用しているとしても,そのことにより「PPF」が原材料や品質を表すものではないことが否定されるべきものではない。
(7)甲第12号証のカービューティーサロンエース社に対して,被請求人が「PPF」の使用を許可している,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人は,甲第12号証のカービューティーサロンエース社は,被請求人の取引先であり,本件商標「PPF」の使用を許可している証拠として,乙第3号証を提出しているが,乙第3号証は,取引先企業登録フォームであって,被請求人が自身の登録商標(登録第5836442号)を使用していることを証明しているにすぎず,「PPF」が原材料や品質を表すものでないことを示すものではない。
(8)甲第13号証の「PPF-50」は「PPF」とは異なる商品名である,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人が,どのような趣旨で「PPF-50」が「PPF」とは異なる商品名であると述べているのか,理解しかねるが,甲第13号証の頁下部には,「ペイント保護フィルム 製品仕様」の品番に「PPF-50」との記載がある。ハイフン(-)及び数字(50)は,商品の品番として,一般的に使用されるものであるから,「PPF-50」は,自動車の保護フィルムとして普通に表示される「PPF」の商品の品番と理解して差し支えないものと思われる。したがって,「PPF-50」は,自動車の保護フィルムである「PPF」の一種であると考えられる。
(9)甲第14号証のボンド大阪社に対して,被請求人が,加盟店である株式会社エスアンドカンパニーを通して「PPF」の使用を許可している,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人は,ボンド大阪社に対して「PPF」の使用を許可していることの証拠として,株式会社エスアンドカンパニーがボンド大阪社に宛てた請求書を提出している(乙4)。
しかし,当該請求書からは,株式会社エスアンドカンパニーがボンド大阪社に対して,本件商標「PPF」の使用を許可しているとは,明確に認識することができない。
(10)甲第15号証の「みんカラ」は不特定多数の自動車ユーザーが近況や自分のクルマの説明や整備状況,装着部品などを掲載するブログである,との被請求人の主張は認めるが,「みんカラ」に掲載されている文言は各ユーザーが被請求人のウェブサイトからの転載や施工店舗での説明,雑誌記事や広告などにより知識を得ている,との被請求人の主張は,妥当ではない。 また,当社(被請求人の)ウェブサイトはグーグル・ジャパンにて「PPF」で検索すると2016年12月4日時点で最上位に出てくるので,各ユーザーからブログ掲載時に専門知識を得ようとして被請求人のウェブサイトから転載している,との被請求人の主張も,妥当ではない。
請求人は,被請求人が証拠として提出した乙第5号証及び乙第6号証を確認したが,「PPF」の記載は数多く見受けられるものの,いずれも被請求人の業務に係る商品について使用されている商標とは,明確には認識することができない。むしろ,「PPF」はペイント・プロテクション・フィルムの略語であり(乙5,乙6),自動車の保護フィルムを普通に表示するものとして認識されているというべきである。
(11)2011年7月21日に,(被請求人が)請求人のウェブサイト上に被請求人のウェブサイトからの無断転載を発見し,(請求人に対して)訂正を求めるメールを送っている,との被請求人の主張は,妥当ではない。
乙第7号証は,被請求人の従業者が,被請求人の代表者に宛てて,社内検討用に送った電子メールの写しである。もし,被請求人が,乙第7号証に記載の内容の電子メールを請求人に対して送っていたのであれば,電子メールの宛先は,被請求人のドメインではなく,請求人のドメイン宛に送られているべきである。そして,請求人は,乙第7号証と同内容の電子メールを被請求人より2011年7月21日に受信したという事実を確認できていない。
仮に,請求人のウェブサイトに被請求人のウェブサイトの内容に類似する記載が含まれていた時期があったとしても,そのことにより「PPF」が原材料や品質を表すものではないことが否定されるべきものではない。
(12)自動車業界において「PPF」は違う意味としても使用され,混同を避けブランド名を保護するためにも商標登録は必要である,との被請求人の主張は,妥当ではない。
法は,商標を保護することにより,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図るとともに,需要者の利益を保護することを目的とする(商標法第1条)。「PPF」が保護フィルムに関する分野で原材料又は品質を示すものとして使用されているにもかかわらず,商標登録されることは,被請求人以外の者が商品の原材料名として「PPF」を使用することができなくなり,需要者の利益に反する結果になる。したがって,「PPF」が商標登録されていることは,法の目的に反していると思料する。
なお,被請求人の主張,証拠として提出した乙第10号証及び乙第11号証は,本件商標「PPF」が商標権として特定の者に独占的に権利を付与することが適切か否かという論点から外れるものである。
(13)2016年11月に開催された全米規模の自動車部品,用品関連のショーであるSEMAショーにおいて出展各プロテクションフィルムメーカーが発行するパンフレット類には「PPF」表記は見受けられない,また,米国において「PPF」が広く業界内に認知されている一般的な総称ではない,との被請求人の主張は,妥当ではない。
被請求人が証拠として提出した乙第16号証においては,第2頁上部に「Paint Protection Film」の文字,第2頁下部には「PPF」の文字及び自動車の車体にフィルムを施す画像が添付されており,「PPF」表記がされている。
また,被請求人は上記を立証するための証拠として,乙第12号証ないし乙第17号証を提出しているが,根拠が外国語文献の場合,上記(2)のとおり,公平性を担保する観点から翻訳文を添付することが求められているところ,英文で記載された乙第12号証ないし乙第17号証には該当箇所についての翻訳文が添付されていない。
さらに,外国語文献に基づいて,米国において「PPF」が広く業界内に認知されている一般的な総称ではない,と主張することは,上記(2)の主張と矛盾する。

第4 被請求人の主張
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を審判事件答弁書において要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第17号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は,商標法第3条第1項第3号又は同第6号,及び同法第4条第1項第16号に該当せず有効である。
2 請求人の主張に対する反論
(1)請求人は,甲第2号証で「ウィキペディア/Wikipedia」のウェブサイトによる引用を行っているが,そもそもウィキペディアは不特定多数の人間が任意に書き込め,編集できるフリー百科辞典であるから,証拠能力として疑問である(乙1)。
(2)甲第3号証ないし甲第7号証では海外の英語で表示されるウェブサイトを証拠としているが,英語は基本的に言葉として違うため,海外の事例は日本では適用されないから,証拠能力として疑問である。
(3)甲第8号証に関しては,ペイントプロテクションフィルムという文言が文章中で長すぎるため,その短縮形として「PPF」を使用していると推認される。
(4)甲第9号証に関しては,エイブリィ・デニソン・ジャパン株式会社は被請求人の取引先であり,ウェブサイトでの「PPF」の使用は当社が使用したものを転載して使用していると推認される。
(5)甲第10号証に関しては,BRAINTEC,INCのウェブサイト上での「PPF」使用は掲載時期が特定できないが,被請求人が使用している「PPF」を使用していると推認される。
(6)甲第11号証に関しては,GRAD.incは同ウェブサイト上で被請求人ウェブサイト「Yes!PPF」上の記載内容を無断コピーしたことを発見し,2014年10月13日に被請求人からメールによる抗議を行っている。その結果,GRAD.incより転載を認める謝罪メールが届き,記載の変更を行ってもらっている。したがって,被請求人が使用していた「PPF」をウェブサイトに転載して使用していたと推認される(乙2)。
(7)甲第12号証に関しては,トータルカービューティーサロンエースは被請求人取引先で,被請求人から「PPF」使用を許可している(乙3)。(8)甲第13号証に関しては,株式会社サイバーレップスのウェブサイト上では「PPF-50」という固有商品名称として使用しているが「PPF」とは異なる商品名である。
(9)甲第14号証に関しては,ボンド大阪社は被請求人が展開する「Yes!PPF」の加盟店である株式会社エスアンドカンパニーの取引先であり,同社を通して「PPF」使用を許可している(乙4)。
(10)甲第15号証に関しては,「みんカラ」は不特定多数の自動車ユーザーが近況や自分のクルマの説明や整備状況,装着部品などを掲載するブログである。その「みんカラ」に掲載されている文言は,各ユーザーが被請求人のウェブサイトからの転載や施工店舗での説明,雑誌記事や広告などにより知識を得ていると推認される。当社ウェブサイトはグーグル・ジャパンにて「PPF」で検索すると2016年12月4日時点で最上位に出てくるので,各ユーザーがブログ掲載時に専門知識を得ようとして被請求人のウェブサイトから転載していると推認される(乙5,乙6)。
(11)甲第16号証ないし甲第22号証に関しては,2011年7月21日に,請求人のウェブサイト上に被請求人のウェブサイトからの無断転載を発見し,訂正を求めるメールを送っている。被請求人はペイントプロテクションフィルム事業を2007年からスタートし,2010年4月には「PPF」を使用している。また,その時点でのウェブサイトには「Copyright(○の中にc)2010 ProtectionFilm.info」との記載があり,訂正を求めるメールの時期と甲第16号証ないし甲第22号証の時期を考えると請求人は被請求人のウェブサイトを参考にしていたと推認できる。2012年5月11日の請求人のウェブサイトでは「PPF」は使用されていない(乙7?乙9)。
(12)自動車業界において「PPF」は違う意味としても使用され,混同を避けブランド名を保護するためにも商標登録は必要である(乙10,乙11)。
(13)2016年11月に開催された全米最大規模の自動車部品,用品関連のショーであるSEMAショーおいて出展各プロテクションフィルムメーカーが発行するパンフレット類には「PPF」表記は見受けられず,米国においても「PPF」が広く業界内に認知されている一般的な総称ではないことが分かる(乙12?乙17)。
(14)総括
2007年よりペイントプロテクション事業を開始し,日本での同事業のパイオニアとして現在も同事業を行っている被請求人は,2010年6月19日のウェブサイト上でも既に「PPF」を使用している。各証拠でも分かるように,被請求人は,同事業開始当初より「PPF」をフィルムブランド名として使用し,一般に認知されるように様々な努力を行ってきた。「PPF」を商標登録し,ブランドを保護すると同時に,業界の正しい発展のために使用していくことは多くの同業者にとって利益をもたらすことは間違いない。

第5 当審の判断
1 請求人が申し立てた無効理由について
請求人は,審判請求書の請求の理由において,上記第3の1(1)エのとおり,「 『Paint Protection Film』の略語である『PPF』は,本件商標の登録査定日である平成28(2016)年3月8日よりも前に,その商品の内容である自動車本体の保護フィルムを普通に用いられる方法で表示するものとして一般的に認識されていた」(審判請求書第17頁)と主張し,上記第3の1(1)オのとおり,より直接的に「以下の動画においても,『PPF』は,自動車本体を保護するフィルムを意味する用語として普通に使用されている。」(同第18頁?第19頁)と記載しているものである。
してみれば,請求人は,本件判決において判示されているとおり(上記第2参照),実質的には,本件商標は,「自動車の車体表面を保護するためのフィルム全般」(以下「本件商品」という。)を意味する普通名称として,日本国内で広く使用されていた商標であるから,本件指定商品のうち,「自動車本体の保護用プラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」との関係で,商標法第3条第1項第1号に該当する旨を主張しているものと認めるのが相当である。
したがって,以下,本件商標の商標法第3条第1項第1号該当性について検討する。
2 商標法第3条第1項第1号該当性について
(1)「PPF」の文字の使用状況について
請求人提出の証拠によれば,本件商標の登録査定前の本件商品に関連する「PPF」等の語の使用状況については,以下のとおりである。
ア 海外メーカーのウェブサイト等
(ア)3M社のウェブサイト(平成26年5月26日時点。甲47)
「Paint Protection Film of the future is here now. Introducing NEW 3M(TM ) Scotchgard Paint Protection Film Pro Series」(訳:ペイントプロテクションフィルムの未来は今ここにあります。3M(商標)の新しいスコッチガード ペイントプロテクションフィルム プロシリーズを紹介。)の見出しの下,「There are many choices in the market today for paint protection films (PPF) ,・・・(訳:ペイントプロテクションフィルム(PPF)の市場にはたくさんの選択肢があります。)との記載がある。
また,「Where can I put Paint Protection Film on my vehicle?」(訳:ペイントプロテクションフィルムを車のどこに貼ることができるのか。)の見出しの下,「Paint Protection Film can be professionally installed anywhere you want to protect your vehicle finish from scratches, chips,stains and other damaging elements.」(訳:ペイントプロテクションフィルムは,あなたが傷,切粉,汚れなどの損傷から車の仕上げを保護したいと考えるあらゆる場所に,専門家の手により施工することができます。)との記載がある。
(イ)LLumar社作成の公式動画(平成27年7月27日公開。甲49の1)
「LLumar PPF - Full Hood」の見出しの下,「This video demonstrates how to install LLumar paint protection film to the full hood of a vehicle. 」(訳:このビデオは,車両のフルフードにLLumarのペイントプロテクションフィルムを施工する方法を示します。)との記載と共に,ある人物がフィルム状の物を自動車の車体に貼り付けようとしているサムネイル画像が表示されている。
(ウ)Avery Dennison社のパンフレット(平成27年作成。甲50)
自動車の画像及びフィルム状の物を自動車の車体に貼り付けようとしている画像と共に,「Avery Dennison AWF 1500 Series Paint Protection Film offers protection against stone chips, road debris, insect stains and weathering, without degrading the original paint colour. 」(訳:エイブリイデニソンのAWF1500シリーズのペイントプロテクションフィルムは,元の塗料の色を損なうことなく,飛び石,道路の破片,虫による汚れ,及び風化を防ぎます。)との記載があるほか,「1500 PU Gloss」,「1502 PU Matte」との商品名を付した本件商品の諸元が記載されている。
(エ)XPEL社のウェブサイト(平成28年3月3日時点。甲48)
「PAINT PROTECTION FILM」の見出しの下,「XPEL paint protection film works as an invisible layer of armor over your car's finish.」(訳:XPELのペイントプロテクションフィルムは,あなたの車の仕上げの上に,目に見えない装甲の層として機能します。)との記載と共に,「XPEL ULTIMATE」,「XPEL STEALTH」,「XPEL TRACWRAP」,「XPEL XTREME」及び「XPEL ARMOR」との商品名を付した本件商品が紹介されている。
イ 国内メーカー,業者のウェブサイト等
(ア)カーコーティング業者のブログ(甲78の1,甲78の2)
平成23年9月3日のエントリに,「『ペイントプロテクション・フィルム』施工致します」,「『ペイントプロテクション・フィルム』は1枚の透明な特殊フィルムで塗装面をコーティングすることで飛び石やキズから愛車を守る新しい発想のボディー保護アイテムです。」との記載,同年11月22日のエントリに,「GRAND SLAMからPPFまで,新車施工でずっとキレイを保っていただきます!」,「とりあえずPPFを施工しました!」,「良い事ばかりのPPF・・・」との記載がある。
(イ)被請求人のウェブサイト
a 平成23年11月15日時点(甲54の2)
「What’s PPF?」の見出しの下,「ペイント・プロテクション・フィルム(以下:PPF)とは,透明のポリウレタン製フィルムを自動車やバイクなどのボディ表面に貼ることで,外的な要素からボディを保護し,傷がつくことを防ぐ製品のことを指します。ほかにも『ヌードブラ』や『クリアーブラ』,『スクラッチガード』など様々な名称がありますが透明フィルムで塗装面を保護するという点で同じ『プロテクション・フィルム』と総称されています。」,「PPFはアメリカで誕生しました。その起源はカーナビゲーションや携帯電話と同様に軍用で,ヘリコプターや戦闘機のキャノピー(搭乗座席窓)やプロペラなどの保護が目的でした。・・・2000年代に入り,自動車用のマーケット拡大のために自動車用としての製品開発が始まり,今ではアメリカを中心に10社程度のフィルム製造メーカーがビジネスを行っています。」との記載がある。
b 平成25年6月21日時点(甲54の1)
「透明フィルムでボディを守る愛車保護の新しいスタンダード」の見出しの下,「そこでボディに貼る透明フィルム『ペイント・プロテクション・フイルム(PPF)』が登場。・・・Yes!PPFは日本で最も多くの施工実績を持ち,限られた施工店にて取り扱いをすることで高い施工技術と商品知識を持つPPFのプロ集団です。」との記載がある。
(ウ)請求人のウェブサイト(平成25年2月22日時点。甲51の1)
「Paint Protection Film 透明なフィルムが愛車を守る」の表題,「PPF-Movie」の見出しの下,自動車のボンネット部分が透明な素材で覆われているかのような画像と共に,「・・・初公開したプロテクションフィルム(開発編)のプロモーションムービーを公開致します。」,「車を所有していると色々な原因でキズついてしまいます。ユニグローブペイントプロテクションフィルムは,そんなキズからボディを透明なフィルムで保護する画期的な製品です。貼って,剥がせて,元通りになる・・・」との記載がある。
(エ)3Mジャパン社のウェブサイト(平成27年3月12日時点。甲58)
「スクラッチガード」の見出しの下,「車体を傷やサビから守ったり,摩耗・異音の発生などを効果的に防止したりなど,様々な用途に使える透明ペイントプロテクションフィルム(PPF)です。」,「スクラッチガードは,厚さ0.21mmの透明ペイントプロテクションフィルム(PPF)です。愛車の様々な箇所に貼ることで,ボディをキズから守ることが出来ます。」との記載がある。
ウ 国内雑誌の記事,広告等
(ア)ゲンロク平成20年12月号(同月1日発行。甲55の1)
被請求人を紹介する記事中に,「すでにボディコーティングを施行しているXKですが,いま注目のペイントプロテクションフィルムを装着してみました。」,「・・・私の目的は,飛び石などによるキズ防止フィルム“ルーマ?”の施行である。もともとルーマーは,ビルの窓に貼る飛散防止フィルムとか,サッシに貼る盗難防止フィルムなど建材用フィルムを扱うアメリカの会社で,クルマ用のプロテクションフィルムを新たに開発したという。」との記載がある。
(イ)スペシャルカーズ(モーターファン別冊)(平成21年3月24日発行。甲55の2)
「貼るだけで飛び石の被害を低減!ボディを守る透明の鎧」,「LLumar PAINT PROTECTION FILM ルーマー・ペイントプロテクションフィルム」,「・・・透明な保護フィルムを塗装の上に貼ってしまう“ルーマー”のペイントプロテクションフィルムだ。このルーマーペイントプロテクションフィルムは,高分子,高透過ポリウレタンでできた厚さ150μの無色透明なフィルム」,「愛車を飛び石から守りたい人にとって,要注目のアイテムとなりそうだ。」との記載がある。
(ウ)ゲンロク平成24年8月号(同年6月26日発売。甲55の3)
被請求人を紹介する記事中に,「PPF,施工しました」の表題,「さらに進化したPPF」の見出しの下,「北米・テキサス州に本拠を構えるXPEL社が取り扱うペイント・プロテクション・フィルム(PPF)。専門メーカーである強みを活かし,さまざまなモデルに対応したPPFを世界中に販売する。」,「・・・今月は以前から気になっていたボディチューニング,ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)を施行した。」,「PPFは柔軟性が高くて硬化しにくいポリウレタンを基本素材としています。例えば走行中のクルマの場合,ボディ面にとっての最大の敵は飛び石になります・・・。・・・PPFで保護しておけば,安心だと思います」,「さてPPFの仕上がりのほどは,次号詳しく報告するつもりだ。」との記載がある。
(エ)af imp.平成24年11月号(甲28)
「最高峰の『PPF』技術を求めて,アメリカXPEL社で武者修行!ボディを柔軟性のある透明フィルムで保護するペイントプロテクションフィルムが今,新しい。」,「ボディ保護に効く新技,PPFの存在に注目を!」,「日本のスタイルアップシーンでは,ヘッドライトへのカラード施工でまずは注目を集めたペイントプロテクションフィルム(PPF)。ラッピングに使われるフィルムと違って,PPFは透明のポリウレタン製で非常に柔軟性が高い。」との記載がある。
(オ)アメ車マガジン平成24年12月号(甲27)
「PAINT PROTECTION FILM」の見出しの下,「アメリカで人気爆発の注目アイテム『PPF』」,「今,アメリカで話題のプロダクツがある・・・その名も『ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)』」,「ペイント・プロテクション・フィルム(以下PPF)というものを聞いたことがあるだろうか? 読んで字のごとくだが,愛車の塗装面を飛び石やイタズラ,鳥のフンや虫の体液,荷物の積み降ろしなどで発生するキズから守ってくれるフィルムだ。」との記載がある。
(カ)ゲンロク平成25年7月号(同年5月25日発売。甲57の1)に,被請求人が取り扱うXPEL社製の本件商品の広告が掲載されており,「Protection film=Yes!PPF」の見出しの下,「XPEL『フィルム』で守る,愛車保護の新しいスタンダード」,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)をご体感いただく・・・」との記載がある。
また,同誌平成26年4月号(同年2月26日発売)から平成28年3月号(同年1月26日発売)にかけての少なくとも8号に掲載された請求人の広告に,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)」との記載がある(甲57の4,甲57の5,甲57の7?甲57の12)。
(キ)各雑誌の購読者及び発行部数
上記各雑誌の購読者は,主に高級車及び外国車の愛好家であり,発行部数は次のとおりである(甲101,甲103?甲104の2,甲111)。
ゲンロク 15万部(平成28年10月時点)
アメ車マガジン 15万部(平成25年4月時点)
af imp. 15万部
エ ユーザーのブログ等
平成22年から平成28年1月にかけて執筆された本件商品に関する投稿記事(本件商品を施工した,少なくとも異なる13名のユーザーによるもの。)において,本件商品を指すものとして「PPF」の語が単独で,又は「ペイントプロテクションフィルム」,「Paint Protection Film」の語と共に使用されている(甲15,甲86?甲97)。
オ ウィキペディア(英語版。平成22年9月16日時点。甲45の1)
「Paint protection film」の項目に,「Paint Protection Film (PPF)AKA Clear Bra is a thermoplastic urethane film that is applied to the leading painted surfaces of a new or used car in order to protect the paint from stone chips, bug splatter and minor abrasions.」(訳:ペイントプロテクションフィルム(PPF),別名クリア・ブラは新車や中古車の塗装面を飛び石や虫,軽度な擦り傷から守るために塗装面に施工される熱可塑性ウレタンフィルムです。),「The film is manufactured by these major companies 3M, Llumar, Bekaert, Avery Dennison -nano fusion,XPEL-value, standard and premium,Sharpline-DuraShield+, VentureShield and others.」(訳:フィルムは以下の主要メーカーによって製造されています。:3M,Llumar,Bekaert,Avery Dennison-nano fusion,XPEL-value,standardおよびpremium,Sharpline-DuraShield+,VentureShield,その他)との記載がある。
(2)判断
上記(1)の認定事実を前提として,「PPF」の語が本件商品の普通名称に当たるか否かを検討する。
ア 本件商品は,軍用ヘリコプターの回転翼の損傷を防ぐためのフィルムを起源とするもので,その技術が自動車の塗装面を保護するためのフィルムとして転用されたものである(甲2,甲54の2)。
本件商品は,飛び石や虫などによる自動車の車体の傷や汚れを防ぐための保護フィルムであるから,主な需要者は,自動車の車体にそのような傷や汚れが付くことを特に厭うような高級車や外国車の所有者であり,主な取引者は,本件商品の製造者,輸入者などのほか,本件商品を自動車の車体に施工する業者と認めるのが相当である(甲76,甲98)。
イ 上記(1)ア及びオによれば,外国における本件商品の主要メーカーのウェブサイトでは,本件商品を指す用語として「paint protection film」及び「PPF」の語が特段の注記もなく使用されており,自社商品を識別するために,3M社は「Scotchgard」,Avery Dennison社は「AWF1500シリーズ」,XPEL社は「XPEL ULTIMATE」等といった独自の商標を用いていることが認められる。さらに,インターネット上の百科事典といえるウィキペディア(英語版)には,「Paint protection film」の項目に,「PPF」の語と共に本件商品の説明が記載されている(なお,ウィキペディアは,誰もが自由に記事を執筆できるものであるが,正確性を担保するための一定の仕組みが構築されているし(甲45の2?甲45の4),本件において問題となっている項目の記載内容は,本件商品の主要メーカー等のウェブサイトにおける記載と整合しているから,信用するに足りるものというべきである。)。これらの事実によれば,英語圏においては,本件商標の登録査定当時,「paint protection film」の語は本件商品の一般的名称として,「PPF」の語はその略称(「paint protection film」の各単語の頭文字を組み合わせたものであることは明らかである。)として,それぞれ使用されていたと認めるのが相当である。
ウ そして,上記(1)イからエにおいて認定したとおり,本件商品の国内メーカーや施工業者のウェブサイト,雑誌の記事及び広告,ブログの投稿記事において,本件商品が,アメリカ発の先端的商品としてしばしば紹介され,かつ,その記事の中で,本件商品を指す用語として,「ペイントプロテクションフィルム」,「PPF」,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF)」の各語が繰り返し使用されていたことも明らかである。
そうすると,本件商品の取引者や需要者は,本件商標登録査定当時,上記(1)イからエに認定したような国内の記事を通じて,あるいは,上記(1)アに認定した国外の商品紹介記事等に直接接することによって(アにおいて認定したとおり,本件商品の需要者は,高級車や外国車を保有する消費者であるから,車やその美観の維持等について関心や意識が高いことが予想され,また,取引者は,そのような需要者を相手とする業者であることを考えると,国内の記事に関心を持った需要者や取引者が,国外の情報をも得ようとすることは十分に考えられるところであるし,現に,そのようなことが起こっていたことがうかがわれる。),「ペイントプロテクションフィルム」は,車の保護フィルムである本件商品一般を指す言葉であり,「PPF」はその略称であると認識していたものと認められる。
エ この点,ゲンロク平成27年9月号から平成28年3月号にかけて掲載された被請求人の広告には,いわゆるチェックマークと「Yes!PPF PAINT PROTECTION FILM」を組み合わせて意匠化したロゴと,「ペイント・プロテクション・フィルム(PPF:ピーピーエフ)」の語が記載されているところ(甲57の10?甲57の12),これらの広告のみを見る限りにおいては,「PPF」の語が,被請求人の販売・施工する自動車用車体・ガラス保護フィルムの出所識別標識として使用されているとみる余地もある。
しかし,これらの広告は,本件商標の登録査定日の約半年前からされたものにすぎず,それ以前からされている他者による「PPF」の語の使用状況に鑑みると,本件商品の取引者及び需要者においては,「PPF」の語が本件商品の一般的な略称として用いられていたとの判断を左右するに足りないというべきである。
オ 以上によれば,本件商品の取引者及び需要者は,本件商標の登録査定時において,「PPF」の語を本件商品の一般的な略称と認識していたと認めるのが相当である。
したがって,「PPF」の語は,本件商品の普通名称に当たるというべきである。
(3)小括
本件商標は,上記第1のとおり,「PPF」の欧文字を標準文字で表してなるものであるから,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当することは明らかである。
そして,「PPF」の文字は,上記(1)及び(2)のとおり,取引者及び需要者において,本件商品の一般的名称「ペイントプロテクションフィルム」の略称であると認識される普通名称であり,これを指定商品中「自動車本体の保護用プラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」について使用しても,単にその商品の普通名称普通に用いられる方法で表示するものというのが相当である。
したがって,本件商標は,その指定商品中「自動車本体の保護用プラスティックフィルム,自動車本体の保護用熱可塑性ポリウレタンフィルム,自動車本体の保護用塩化ビニル樹脂フィルム」について,商標法第3条第1項第1号に該当するものである。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
上記2において認定したとおり,「PPF」の語は本件商品の普通名称に当たるところ,熱可塑性ポリウレタンフィルムは本件商品の代表的な素材であるといえるから(甲2,甲8,甲18の3,甲45の1,甲51の2,甲54の2,甲58),本件商標を「熱可塑性ポリウレタンフィルム」全般に使用すると,他の用途に用いるための当該フィルムについても,自動車の車体表面を保護するためのものであると誤って認識される可能性があるというべきである。
また,本件商品はプラスチック製品の一種であるから,本件商標を「プラスティック基礎製品」に使用すると,自動車の車体表面の保護以外の用途や,フィルム以外の形状を有するものに用いるための当該基礎製品についても,自動車の車体表面を保護するためのフィルム全般に関連する製品であると誤って認識される可能性がある。
したがって,本件商標は,本件指定商品のうち,「熱可塑性ポリウレタンフィルム」及び「プラスティック基礎製品」との関係で,本件商品以外の商品について使用される場合には,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標といえ,商標法第4条第1項第16号に該当する。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第1号及び同法第4条第1項第16号に該当し,その登録は,同法第46条第1項第1号に違反してされたものであるから,他の無効理由について言及するまでもなく,同条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-10-04 
結審通知日 2018-10-10 
審決日 2018-11-06 
出願番号 商願2015-102589(T2015-102589) 
審決分類 T 1 11・ 11- Z (W17)
T 1 11・ 272- Z (W17)
最終処分 成立  
前審関与審査官 板谷 玲子 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 鈴木 雅也
真鍋 恵美
登録日 2016-04-08 
登録番号 商標登録第5840125号(T5840125) 
商標の称呼 ピイピイエフ 
代理人 泉 通博 

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