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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X35
管理番号 1344927 
審判番号 取消2017-300359 
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-05-26 
確定日 2018-09-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5528319号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5528319号商標(以下「本件商標」という。)は、「FOREST」の欧文字及び「フォレスト」の片仮名を二段に書してなり、平成23年5月27日に登録出願、第35類「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む第35類及び第36類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、同24年10月12日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成29年6月12日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、同26年6月12日ないし同29年6月11日である(以下「要証期間」という。)。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定役務中、第35類「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての登録を取り消す、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「本件取消請求役務」という場合がある。)について、商標権者は、日本国内において、継続して3年以上使用していない。また、商標登録原簿上は、本件商標に専用使用権、あるいは通常使用権が設定、許諾されている事実も見あたらない。
よって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により、本件取消請求役務に関して取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人が使用している標章は、本件商標と同一ではない点について
本件商標は、欧文字「FOREST」と片仮名「フォレスト」を上下二段に書してなるものである。
これに対し、被請求人は、自身の書籍販売サイト(以下「書籍ウェブページ」という場合がある。)において、欧文字「FOREST」を使用している旨主張する。
しかしながら、乙第1号証によると、被請求人によって使用されている標章は、欧文字「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」である。
ア 被請求人使用標章の態様
乙第1号証の第12頁において、オレンジ色の矩形枠内に白抜きの文字で「物品販売」と表示され、その下に「書籍 FOREST」と表され、さらにその下に「暮らしを豊かにするヒント」と書されている部分があるところ、上中下の3段からなる同表示部分において、中段の「書籍」と「FOREST」の文字は、「書籍」が「FOREST」に比してやや大きく、かつ両者の間に若干の間隔はあるとはいえ、(a)上段と下段の「物品販売」及び「暮らしを豊かにするヒント」の文字に較べて共に大きく表示されており、(b)これらは同一の色で表され、(c)同一書体(丸味を帯びたゴチック書体)で、かつ、(d)横一段に、全体としてデザイン的な一体性をもって表されている。加えて、「ショセキフォレスト」の全体の称呼も特段冗長ではなく一気に発音され、さらに、「書籍 FOREST」の文字からは、書籍が沢山あること等を暗喩する「書籍の森」といった一体的観念が生じ得る。すなわち、これに接する当該書籍ウェブページの閲覧者は、かかる(a)ないし(d)とが相俟ったその外観的な態様から、また、その全体の称呼及び観念から、「書籍」部分と「FOREST」部分とを一体的に認識し記憶することになる。
したがって、被請求人が使用している標章は、「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」である。
イ 答弁書の記載等について
乙第2号証は、大日本印刷株式会社(以下「大日本印刷」という。)作成の証拠であるが、同社は、被請求人の書籍ウェブページを、同書証中一貫して「書籍 FOREST」と表示している。かかる事実は、請求人及び被請求人以外の者から客観的にみても、書籍ウェブページの名称が「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」と認識されることを示している。
また、被請求人自身も、乙第2号証を「販売実績及び『書籍 FOREST』サイトへのアクセス履歴」と表示している。大日本印刷作成の書証のタイトルをそのまま写したものであろうが、この点に関してなんらの釈明も加えていない事実は、被請求人自身が、自らの使用に係る標章が「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」であることを自認していることの証左である。
ウ 被請求人に求められる証明
商標法第50条第2項が被請求人に立証を求めているのは、「登録商標の使用をしていること」である。
この点、標章「書籍 FOREST」は、本件商標と、そもそも同一ではない。
したがって、被請求人は、本件取消請求役務について、「登録商標の使用をしていること」を証明していないので、商標登録の取消を免れない。
エ 被請求人は登録商標に類似する可能性のある標章を使用しているにすぎない
被請求人は、本件取消請求役務との関係において「書籍」の文字部分の自他役務識別力が乏しいことを根拠に、被請求人が使用している標章は「FOREST」であると主張している。
しかしながら、標章「書籍 FOREST」において、たとえ「書籍」部分単体での自他役務識別力が弱くその要部が「FOREST」部分となるとしても、そのことによって標章「書籍 FOREST」の使用が「FOREST」の使用となるものではない。
すなわち、飽くまで使用しているのは「書籍 FOREST」であり、その要部が「FOREST」となって、これが本件商標と共通するということであるならば、これらは非同一の相互に類似する標章ということであり、被請求人は、単に本件商標に類似する可能性のある標章を自己のサイトに表示しているにすぎない。
オ 小括
以上のとおり、被請求人は、本件取消請求役務について、「登録商標の使用をしていること」を証明していない。証明されているのは、標章「書籍 FOREST」が、書籍ウェブページで用いられている事実である。
そのような証明によっては、商標登録の取消を免れることはできない。
なお、被請求人は、書籍ウェブページにおける「clubforest/クラブフォレスト」の使用も、「forest/フォレスト」部分が要部であるから本件商標の使用を立証するものであると主張するが、「clubforest」及び「クラブフォレスト」はそれぞれ全体で一体的なものであるから、その使用が本件商標の使用に該当しないことは明白である。
(2)被請求人による標章の使用行為は、商標としての使用ではないことについて
商標法第50条第2項が被請求人に立証を求めているのは、「請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていること」であるが、ここでいう「使用」が、商標としての使用を意味しているか否か、つまり出所を識別するための標識としての機能を発揮する使用でなければならないのかといった点については、議論がある。
しかしながら、この点学説において「2条3項の要件を形式的に満足する場合でも、それが出所を識別する表示として使用されていなければ、商標として使用されているとは認められない」とする有力説があり(甲3)、裁判例においても、「商標法50条の適用上、『商品』というためには、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならず、また、『商品についての登録商標の使用』があったというためには、当該商品の識別表示として同法2条3項、4項所定の行為がされることを要する」として、登録の取消を免れるためには、出所表示機能を発揮する使用でなければならないことを明示的に説くものがある(東京高判平成13年2月28日。甲4)。
もとより登録主義の下においてであっても、商標は、使用により信用の蓄積がされることを前提として商標登録が認められるものであり、それによって商標権者は全国的な排他的権原を獲得するものである。商標に信用が化体するのは、それが商標として使用されるからである。商標として使用されていない、そのため需要者の信用が化体することが期待できない商標について、敢えて強力な全国的排他的権原を与え続ける必要はない。商標法第50条第2項の「使用」は、自他商品役務を識別するための標識として用いられていることをいうと解すべきである。
この点、被請求人が使用しているのは、標章「書籍 FOREST」であって「FOREST」ではないが、以下のとおり、その標章「書籍 FOREST」すらも、商標的使用態様によって使用されているものではない。
ア 被請求人使用標章の使用態様
答弁書によれば、被請求人が開設するウェブサイト「club forest/クラブフォレスト」(以下「本件ウェブサイト」という場合がある。)は、「被請求人と建築請負契約又は被請求人が建築・リフォームした住宅について売買契約を締結」した顧客であって、しかも別途会員登録をした者のみが閲覧できるサイトである。
書籍ウェブページは、本件ウェブサイトの中の物品販売サービスのためのサイトの一部であるから、やはり上記の特定の顧客であって別途会員登録をした者のみに限定して提供されているものである。
実際、インターネット上の検索エンジンで「書籍 FOREST」を検索してみても、書籍ウェブページは、一切ヒットしない(甲8)。
イ 一般の需要者との関係
被請求人は、答弁書において「書籍 FOREST」の存在を一般に周知するための広告宣伝等が行われているといった事実は立証していない。したがって、検索エンジンにもヒットしないウェブページの存在を、一般の需要者は、認知のしようがない。
このように、書籍ウェブページは、そもそも一般の需要者による閲覧が排除されているばかりか、検索エンジンですらヒットしないのであるから、一般の需要者は、当該ウェブページの存在そのものを認識することができない。一般の需要者に、その存在すら知られておらず、知ることすらできないウェブページに表示されている標章「書籍 FOREST」は、需要者をして、被請求人の提供役務と他の提供役務とを区別するための標識として機能するものではない。
ウ 本件ウェブサイトの会員との関係
(ア)本件ウェブサイトにおいて提供されている役務は独立した役務ではないこと
本件ウェブサイトは、上記アに記載のとおりのサイトであり、同サイトは、被請求人が建築等した住宅について、当該住宅のメンテナンス等に係る種々の情報提供、いわばアフターサービスの提供を目的としている旨、被請求人自ら答弁しているものと思われ、答弁書において、同サイトへのアクセスが、単に被請求人によって住宅を建築等しただけではなく「当該住宅を現在も引き続き所有している」場合にのみ許されるとされていることからしても、同サイトにおける情報提供等が、被請求人によって建築等された住宅に関するアフターサービスであることを示唆している。
商標法上の「役務」は、「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきものをいう」(甲9)。
ウェブサイトにおける販売目的で書籍を取り揃えるといった行為が、一般的に「他人のために行う労務又は便益」に該当し得ることは否定しないが、本件において、被請求人の提供する便益は、被請求人の住宅建築に係る役務あるいは商品に連なったものであり、住宅建築に係る役務あるいは商品を抜きには提供されないものであることが明らかである以上、本件ウェブサイト内で提供されている役務は、そもそも商標法上の役務としての独立性を欠く。
また、本件審判において被請求人が立証すべきは、本件取消請求役務についての登録商標の使用事実である。同役務は、小売役務であるが、小売役務は単に商品を販売していれば足りるというものではなく、顧客に対して「便益」が提供されていなければならない。
乙第1号証によると、被請求人が書籍ウェブページで販売している書籍は、僅か8冊にすぎない。なお、本年(審決注:平成29年)8月1日付けで作成された乙第2号証に添付されている書籍ウェブページの写しによると、同ウェブページで販売されている書籍の数が同日時点で5冊に減っている。書籍の小売役務を提供する主体の典型例は書店であるが、書籍の小売業務において、僅かに8冊ないし5冊の商品を並べるといった程度では、常識的な視点からすると、書籍の販売に関して顧客への「便益」が図られているとは到底いい難く、この点においても、書籍ウェブページでの提供役務が商標法上の役務に該当するかは疑わしい。
すなわち、本件ウェブサイトの会員との関係において、標章「書籍 FOREST」は、商標法上の役務ではないものについて表示されているにすぎず、被請求人は指定役務についての登録商標の使用を立証していない。
(イ)商標としては使用されていないこと
仮に書籍ウェブページにおいて提供されている役務が商標法上の役務であるとしても、そもそも標章「書籍 FOREST」は、会員が書籍ウェブページにアクセスする際の目印になっていない。
乙第2号証の記載及び乙第1号証によると、書籍ウェブページには、(a)ログインページ、(b)ウェブサイトトップページ、(c)オンラインショップ階層のページを経て辿り着く(乙1)。
つまり、本件ウェブサイトの利用者は、標章「書籍 FOREST」を一切目にすることなく、ログインページから問題の書籍ウェブページにまで辿り着く必要がある。会員がその間目にするのは「オンラインショップ」や「書籍」の文字だけである。かかる事情から、本件ウェブサイトの会員が、標章「書籍 FOREST」を目印として、書籍ウェブページにアクセスしているものでないことは明らかである。
もとより書籍ウェブページに「書籍 FOREST」と表示されている以上、同ウェブページにまで辿り着いた会員は、それを同ウェブページの「名称」の類と認識するではあろう、とはいえ、ウェブページの「名称」が直ちに「商標」となるものではない。先のとおり、商標とは自他の商品役務を識別するための標識であり、需要者がそれを頼りに目的の商品役務に辿り着くための目印である。ログインページ、トップページ、オンラインショップの各階層ページのそれぞれにおいて、標章「書籍 FOREST」は一切使用されておらず、本件ウェブサイトの会員は、それを書籍ウェブページにアクセスするための目印とすることはできない。書籍ウェブページにアクセスするための目印として機能していない以上、同サイトの会員においてすら、標章「書籍 FOREST」は、商標として機能していない。
(ウ)リピーターすらいないこと
なお、答弁書での主張、乙第2号証及び乙第3号証によると、書籍ウェブページにおける書籍の販売実績は、2016年7月1日からの1年で11冊とのことである。
すなわち、この1年で11件の売買契約が成立したことになるが、乙第3号証として提出された「書籍注文管理帳票」によると、このうち9件が、クレジットカードによる決済となっている。残り2件は代金引換による販売である。同書証においては、11の帳票に記載されている各顧客のログインID等が塗りつぶされてはいるものの、クレジットカードによる決済がされた9件については各帳票末尾にクレジットカードの末尾4桁の数字が記載されている。これによると、決済に用いられたクレジットカードの番号の末尾四桁は、一つも重複しておらず、これら9件の売買契約は別々の会員との間で被請求人が交わしたものである。
つまり、当該書籍ウェブページでひとたび書籍を購入して、その後再び同ウェブページに訪れて改めて書籍を購入した者は、代引きによる2件の取引を行った者があるいは同一人であるかもしれないといった可能性が残ることを除けば、ほぼ存在していない。
仮に書籍ウェブページで書籍を購入し、当該ウェブページの名称を記憶して、後日このウェブページに戻って再び書籍を購入した者(いわばリピーター)がいるといった事実があれば、それがたとえ僅か数名程であったとしても、少なくとも当該数名の会員においては標章「書籍 FOREST」が事実上商標として機能したことを意味するかもしれない。
しかし、被請求人の提出した証拠によれば、代引き取引を行った者が同一人である可能性を除けば、書籍購人後に再びこのウェブページで書籍を購入した者の存在は確定できない。むしろ証拠が示すのは、これら僅か10名ほどの会員においてすら、標章「書籍 FOREST」は、具体的には商標として機能していない。
エ 小括
以上のとおり、被請求人は、その書籍ウェブページにおいて、標章「書籍 FOREST」を表示してはいるものの、一般の需要者は当該ウェブページの存在すら知らないのであるから、これらの者において標章「書籍 FOREST」が自他役務を識別する標識として機能する余地はない。
また、同ウェブページにおいて提供される役務はそもそも独立性を欠いており、また、その会員は、書籍ウェブページにアクセスするためのルート(ログインページから、トップページから、オンラインショップのページから、書籍ウェブページまでの各階層を辿る経路)において標章「書籍 FOREST」を一切目にすることがないのであるから、標章「書籍 FOREST」は、会員との関係においても、自他の役務を区別するための標識としては機能していない。
さらに、乙第3号証に示された11件の売買契約を具体的にみてみても、標章「書籍 FOREST」が、書籍ウェブページを示す目印として機能したとは到底推認できない。すなわち、「識別標識として機能していない以上、混同も生じないので、商標権を維持して他社の商標選定の自由を制約する理由に乏しい」。
したがって、被請求人は、商標法第50条第2項によって求められている「登録商標の使用をしていること」を証明していない。
(3)被請求人による標章の使用行為は、登録を維持するに足る十分な使用ではないことについて
ア 被請求人による駆け込み使用及び形式的使用
(ア)駆け込み使用
請求人は、自身の登録出願において、本件商標を引用した拒絶理由が通知されたため、平成28年3月25日付けで被請求人宛てに書面を送付し、本件商標に係る商標権の分割譲渡を申し入れ、両者の間で合意となった(甲11、甲12)が、その後、被請求人は態度を翻し、交渉が引き延ばされた結果として、本件審判が請求されることになったものである。
甲第11号証の書簡の中で、被請求人代理人は、「住友林業株式会社におきましては、子会社における事業展開において、『印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』の役務を使用する意向であり、同指定役務について今後も権利が必要であると考えております」と述べている。
つまり、甲第11号証の書面が請求人代理人に対し送付された平成28年5月20日の時点で、被請求人は、当該指定役務に本件商標を使用していなかった。
一方、被請求人が提出する乙第1号証は、平成28年6月27日付けで公証がされている。
すなわち、その使用を証明しようとして提出した同書証は、請求人と被請求人との間でいったん合意が成立した平成28年5月23日以降に作成されたものであって、しかも、同年5月20日の時点で被請求人は本件商標を使用していなかった。これらを前提とすると、同証拠が意味する事実は、いったん成った合意を覆す可能性が生じたことに起因して、商標法第50条第1項の取消を免れるために、被請求人が、「駆け込み使用」を行った事実である。
(イ)ごく僅かな使用
書籍ウェブページにおける書籍の販売実績は、2016年7月1日からの1年で11冊である。その間の売上は、合計すると、16,764円である(乙2の2)。平均して月に一冊売れるかどうか、月に1,000円の売上が上がるかどうかという程度であって、事業としてまったく成立していない。
被請求人が行っているのは、インターネットを通じての書籍の販売である。膨大な数の商品が販売されるロングテールビジネスの代表格であるネット上での書籍の販売業務において、僅か数冊しか品揃えのないネット書店など、常識外である。被請求人は顧客に対し十分な便益を図っているものではない。
まして被請求人は大企業であるから、僅かに数冊の品揃えで月の売上が1,000円強といった程度の事業に、真摯に取り組んでいるとは到底考え難い。
被請求人は、商標法第50条第1項の取消を免れるために、単に形式的に「書籍 FOREST」を自己のウェブページに表示したにすぎない。
イ 十分な使用ではない
以上述べたとおり、被請求人は、請求人からの申し入れを契機として、いったん合意が成った後に、これを覆す可能性が被請求人側に生じたことを前提として、商標法第50条第1項の取消を免れるために標章「書籍 FOREST」の駆け込み使用を開始したものである。
この点に関して、商標法50第条第3項が存在しており、乙第1号証が作成されたのは本件審判が請求される1年以上も前であるから、請求人は、もとより本件審判において同項の適用を主張するものではない。
とはいえ、そもそも商標権の効力は全国に及ぶものである。商標法第50条第1項の取消を免れる為には、「全国的に他人の商標の使用を禁止することになる登録商標権を維持しようというからには、単に商標法第2条第3項の要件を満足し、出所識別表示として機能したことがあるというだけでは足りず、それ相応の使用をなして頂く必要があると解すべきであろう」(甲3)。
8冊のみの品揃えで、一年でたったの11冊の販売、僅か1万数千円といった微々たる売上しかない書籍ウェブページにおいて、標章「書籍 FOREST」を駆け込みで、かつ形式的に表示したからといって、権利を維持するに足るそれ相応の使用をなして頂いたとは到底いえない。この程度の使用によって、全国的に排他権を享受する商標権を維持することを認めるべきではない。
この点に関連し、当事者間の交渉が難航したため、審判請求の登録に先立って商標権者が日本工業新聞に広告を掲載したという事例(東京高判決平成5年11月30日。甲13)があり、学説においても、同判決を支持するものがある(甲3)。
本件において被請求人が行った標章「書籍 FOREST」の使用行為は広告に係る行為ではないから、もとより上記事件における一度切りの広告とは、その行為そのものは異なる。しかし、性質は同じである。本件の被請求人も、請求人との交渉の破綻を予期し、そのため駆け込みで、単に不使用取消の審判を免れる目的で、実際には商標として機能しない、したがって信用の蓄積作用もない不必要な表示を、自己のウェブページで行い、あたかも登録商標を使用しているかのような外観を呈する行為をなしたにすぎない。
そもそも被請求人の本件ウェブサイトには、当該サイトの運営者が被請求人であることを熟知している会員しかアクセスできないのである。提供する役務の出所を知悉している会員に、わざわざ敢えて改めて各小売役務の出所足る提供主を示す必要はない。実際、乙第1号証において、「クラブフォレスト」ないし「clubforest」以外に、個別の提供役務について使用されている出所識別標識らしき表示は一切みられない。書籍ウェブページにおいてのみ「書籍 FOREST」が使用されていること自体、異常である。このことは、被請求人が登録商標を使用しているかのような外観を呈する行為をなしたにすぎないことの証左である。
したがって、請求人の標章「書籍 FOREST」の使用行為は、「登録商標の使用」として十分なものではない。
ウ 小括
以上のとおり、被請求人は、単に商標法第50条第1項の取消を免れるために標章「書籍 FOREST」を自己のウェブページに表示しているのみであって、そのような使用は、全国的に排他権を享受する商標権を維持するに足りない。
したがって、被請求人は、商標法第50条第2項によって求められている「登録商標の使用をしていること」を証明していない。
(4)むすび
被請求人が使用していると主張している標章は、標章「書籍 FOREST」であって、本件商標と同一のものではない。また、その標章の使用行為は、商標的使用態様によるものではなく、また、形式的な使用行為にすぎない。
したがって、被請求人は商標法第50条第2項によって求められている「登録商標の使用をしていること」を証明していない。
3 口頭審理陳述要領書(平成29年12月20日付け)における主張
(1)本件商標と被請求人の使用標章「書籍 FOREST」の社会通念上の同一性について
ア 被請求人の使用標章について
被請求人は、使用している標章が「書籍 FOREST」であることを認めた上で当該標章と本件商標とが社会通念上同一であると主張しているのではなく、飽くまで使用している標章それ自体が「FOREST」であると主張し、その理由として、「書籍」の文字は、取扱商品のカテゴリーを表示しているにすぎないので、需要者は同文字を商標の一部として認識することはないからであると述べている。
しかしながら、たとえ取扱商品ないし役務のカテゴリーを表示する文字であっても、そのことのみを理由に、需要者が当該文字を商標の一部として認識しない等とはいえない。
例えば、放送局が放送するニュース番組に関しては、その番組名において、たとえ「ニュース」の文字が放送番組の内容を表示しているにすぎないとしても、我々需要者は「ニュース」の文字を含めて、その番組名を全体的に一体的なものとして認識している。また、書店名についても同様である。「書店」ないし「ブック」の文字が小売業のカテゴリーやその取扱商品を表しているからといって、そのことによって直ちに需要者が「書店」ないし「ブック」の文字を除いた部分単独でこれらの書店名と認識するわけではない。もとよりこれらについて略称が生じることはあり得るし、実際に書店の幾つかについては略称での具体的な取引実態があるものとは推測されるが、それは、とりわけ著名な書店であること等に起因しており、書店について、常に一般的に「書店」や「ブック」の文字を除いて需要者がその書店名を認識するといったことはあり得ない。
仮に書籍ウェブページが著名であり、これが需要者において「FOREST」の名称で認識されているといった特段の事情があれば別論もあり得ようが、年間でたかだか10冊程度の書籍が販売されたにすぎないウェブページであってなんら著名とはいえない「書籍 FOREST」のウェブページに関しては、「FOREST」部分がこれ単独で顕著な自他役務識別力を発揮しているといった取引実態の存在はまったく推認できない。
「書籍 FOREST」は、その外観上、称呼上及び観念上、需要者においてその全体が一体的に認識される構成でなる。被請求人が使用している標章は「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」である。
イ 標章「書籍 FOREST」と本件商標は社会通念上の同一性を欠くことについて
標章「書籍 FOREST」の構成中の「書籍」の文字そのものが、被請求人の提供役務との関係において自他役務識別力の弱いものであることは、取り立てて否定しない。しかし、「書籍」の文字部分の自他役務識別力が弱いことによって直ちに、「書籍 FOREST」と本件商標との間で社会通念上の同一性が肯定されるものでないことは明らかである。
ウ 小括
被請求人が使用している標章は、「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」である。
加えて、たとえ当該標章「書籍 FOREST」中の「書籍」部分の自他役務識別力が弱いにしても、本件商標との類似性を議論するのであれば格別、少なくとも、そのことのみを理由に「書籍 FOREST」が商標法第50条第1項の括弧書きに準ずるものに該当することはない。
よって、被請求人は、本件取消請求役務について、「登録商標の使用をしていること」を証明していない。
(2)本件商標と被請求人の使用標章「clubforest」及び「クラブフォレスト」との社会通念上の同一性について
ア 「club」等の自他役務識別力について
「club」及び「クラブ」の自他役務識別力が弱いとしても、そのことによって、商標「clubforest」及び「クラブフォレスト」と本件商標との社会通念上の同一性が直ちに肯定されるものではない。
また、仮に「club」及び「クラブ」の文字についてその自他役務識別力の多寡を検討する必要があるとしても、本件審判において問題とすべきは、飽くまで本件取消請求役務との関係における自他役務識別力の多寡であり、会員制サイトとの関係における自他識別力ではない。被請求人は様々な証拠(乙13)を提出してはいるものの、いずれも会員制サイトの名称に「club」及び「クラブ」の文字が使用されている例であって、本件取消請求役務との関係で「club」及び「クラブ」の文字の自他役務識別力が弱いことを証明するものとなっていない。
したがって、そもそも本件取消請求役務との関係で「club」及び「クラブ」の文字が自他役務識別力を欠くことを前提とする被請求人の主張は論拠を欠く。
イ 商標「clubforest」の態様
本件ウェブサイトのページの左肩に表された商標中、欧文字の「clubforest」部分は、全体がロゴタイプ化されていて一体的に表されている。このような外観的構成からすれば、需要者が「clubforest」のロゴタイプをそれ全体で一体のものと認識することは明らかである。しかも被請求人は同ロゴタイプの右肩に「TM」の記号を付してこれが被請求人の商標であることを明示している。もとよりこれは「forest」部分についてのみ付されているものではない。実際、被請求人は本件商標とは別に片仮名「クラブフォレスト」と欧文字「clubforest」とを二段で書して成る商標を登録出願し商標登録を得ている(商標登録第5396155号)。
すなわち、「クラブフォレスト」及び「clubforest」がこの態様において一つの商標であることを自認している。本件商標とは異なる商標であることを自認して「クラブフォレスト」及び「clubforest」について別途商標登録を受けているにもかかわらず、本件商標と「クラブフォレスト」及び「clubforest」は同一であるなどとする主張は当を得ない。
(3)商標的使用態様での使用が必要であることについて
被請求人は、知的財産高等裁判所の3つの裁判例を示して(乙15)、商標法第50条第1項の取消を免れるための「使用」については、商標的使用態様による使用であることを要しないと述べている。
これは、「商標的使用不要説」に立つ主張と思われるが、この論点に関して最高裁判所の判断があるというのであれば兎も角も、被請求人の指摘する商標的使用不要説を採る裁判例は、いずれも知財高裁の特定の部における特定の裁判長の下での判決にすぎない、むしろ同項の「使用」に関しては、これまで多くの学説が、商標的使用態様による使用であることを要すると説き(商標的使用必要説)、これまでの裁判例も概ねこの解釈で一貫している(甲16)。上記3つの判決後に発表された論文等においても、商標的使用不要説が強く支持されているわけではない。
登録主義の下においてであっても、商標は、使用により信用の蓄積がされることを前提として商標登録が認められるものであり(商標法第3条第1項柱書)、それによって商標権者は全国的な排他的権原を獲得するものである。商標に信用が化体するのは、それが商標として使用されるからである。商標として使用されていない、そのため需要者の信用が化体することが期待できない商標について、敢えて強力な全国的排他的権原を与え続ける必要はない。商標法第50条第1項の「使用」は、自他商品役務を識別するための標識として用いられていることをいうと解すべきである。
他に明確な論拠も示さず、ただ知財高裁の特定の部における僅かな数の裁判例のみを引き合いに、商標法第50条第1項の取消を免れるための「使用」については商標的使用態様による使用であることを要しないなどとする被請求人主張は失当である。
(4)標章「書籍 FOREST」は商標として使用されていないことについて
ア 商標として使用されているのは「clubforest」あるいは「クラブフォレスト オンラインショップ」であることについて
新たに提出された乙第3号証の2及び乙第12号証によると、被請求人のサイトにおける書籍の購入に係る取引は全11件である。乙第1号証の第12頁以降のサムネイル面像がすべて「書籍」を示しているとすると、当該11件の取引において書籍のみがその取引の対象となったのは、(a)大阪府居住の顧客、(b)栃木県居住の顧客、(c)愛知県居住の顧客及び(d)東京都居住の顧客との4件のみである。残りの7件の取引においては、すべて「モップの達人」「給気レンジフィルター(アレルフィルター)新天井付・丸型1セット10枚入り」等の書籍とは別の商品が同時に購入されている。
このような取引の事情からすると、被請求人の本件ウェブサイトの会員は、様々な物品が販売されている物品販売サイトである「クラブフォレスト オンラインショップ」を訪れ、書籍に限らず、同オンラインショップ内の様々なコーナーに掲載されている様々な商品を、各コーナーを横断しつつ適宜選択して、購入しているものと理解される。
実際、乙第4号証に別添された資料は、被請求人サイトにおいて商品を注文する際に現れる画面とのことであるが、これらの画面にはどこにも「書籍 FOREST」は表示されていない。表示されているのは、各ページ左肩の「clubforest」及び「クラブフォレスト オンラインショップ」のみである。
需要者がこのような販売態様でのサービスを他のサービスとの区別の目印にするのは、店舗の名称に相当する「クラブフォレスト オンラインショップ」であり、各物品販売コーナーに付された表示を、独立した役務に係る商標として一般的に認識することはない。
請求人は、需要者が標章「書籍 FOREST」に接してこれを同ページの名称の類と認識するであろうことは否定しないが、他人の提供役務との区別に用いられている、すなわち商標として使用されていると認識するのは「クラブフォレスト オンラインショップ」あるいは「clubforest」であって、標章「書籍 FOREST」ではない。同標章は商標として使用されているものではない。
イ リピーターがいないことについて
被請求人は、被請求人による標章の使用は商標としての機能を果たすものであるとし、その理由を述べているが、そもそも8冊や5冊といった品揃えをもって顧客に満足を与える「品揃え」といえるのかは甚だ疑わしいが、実際問題として「次回も他の書籍販売サイトではなく、書籍ウェブページ『FOREST』を訪れ」た者は、皆無である。弁駁書でのこの指摘に対して被請求人は一切反論をしていない。やはり書籍ウェブページのリピーターはいないのである。なお、今回の新たに提出された乙第3号証の2ないし乙第12号証においても全11件の取引における商品の配送先(お届け先)住所が全件バラバラである。この事実からしても、結局リピーターが皆無であることは明らかである。
被請求人によれば、本件ウェブサイトの利用者は10万人もいるそうである。しかし、その中に1人として、具体的に書籍ウェブページで繰り返し書籍を購入した者はいない。実際にはそのような者がいないにもかかわらず「次回も他の書籍販売サイトではなく、書籍ウェブページ『FOREST』を訪れるようになる」などとする主張は、被請求人の単なる願望を述べているにすぎない。むしろそのようなリピーターが現れることによって「書籍 FOREST」が「商標としての識別機能ないし出所表示機能、品質等保証機能を果たしている」ことになるというのであれば、そのような者が存在していない以上、標章「書籍 FOREST」は、具体的には、「商標としての識別機能ないし出所表示機能、品質等保証機能を果たして」いない。
(5)名目的な使用にすぎないことについて
ア 十分な使用ではないことについて
たとえ「審判の請求前3月」以上前からの使用である場合でも、それが形式的ないし名目的な使用にすぎないものである場合、そのような使用は商標法第50条第1項の「使用」には該当せず、商標登録の取消を免れないとの理解は、同条の一般的な理解である(甲3)。
もっとも、どのような使用をもって「形式的」といい、あるいは「名目的」というのかについては議論があり得るところではあるが、一般論として、少なくとも全国的な排他権原を維持し第三者の商標選択の余地を狭めるに足りるといった程度には十分な使用がされていなければならないことは、商標法第50条の審判の趣旨からして自明であろう。「全国的に他人の商標の使用を禁止することになる登録商標権を維持しようというからには、単に同法第2条第3項の要件を満足し、出所識別表示として機能したことがあるというだけでは足りず、それ相応の使用をなして頂く必要があると解すべき」(甲3)なのである。
このような観点において、被請求人は、決して、全国的な排他権原を維持し第三者の商標選択の余地を狭めるに十分な使用は行っていない。
被請求人は単に、(a)1年でたかだか11冊、(b)売上は僅かに16,764円といったウェブページの、(c)僅か1箇所に、標章「書籍 FOREST」を表示しているにすぎない。
また、乙第4号証に別添えされた各画面においても使用されていないから、標章「書籍 FOREST」が使用されているのが乙第1号証第12頁の1箇所のみであることは、新たに提出された証拠からも明らかである。
イ 単に取消を免れようとするにすぎない使用であることについて
被請求人による標章「書籍 FOREST」の使用は、これが単に不使用取消の審判を免れる目的で、実際には商標として機能しない。
したがって信用の蓄積作用もない不必要な表示を自己のウェブページで行い、あたかも登録商標を使用しているかのような外観を呈する行為をなしたにすぎないことは明らかである。
この点に関連して被請求人は、交渉過程において「被請求人に不利となる事項を秘匿していた」などと主張し、交渉の経緯について不服を述べるが、被請求人のこのような指摘は意味がない。
(6)名目的使用であることについて
被請求人は、被請求人自身が自ら述べているように、また、「企業イメージを悪化させる」「紛争に巻き込まれる」「(信用が)毀損される」といった理由によって、急遽標章「書籍 FOREST」の使用を開始したものである。
乙第1号証の記載から推して、被請求人の「クラブフォレスト オンラインショップ」内には、「書籍」だけではなく、「メンテナンス」、「お手入れ・お掃除用品」、「防犯・防災」、「日用品」等々の種々の販売コーナーがあるはずである、仮に標章「書籍 FOREST」の使用が登録取消を免れるための名目的なものではなく、被請求人における何かしらのブランド戦略に基づいたものであるというのであれば、これら書籍以外の各コーナーにおいても、書籍の販売コーナーと同様に、例えば「日用品 FOREST」などと表示されていて然るべきである。
標章「書籍 FOREST」はそれまでは使用されていなかったものであり、その後開始された使用の内容も、10万人もの会員を対象としていると号するとは謂え会員ではない他の一般の需要者はその存在すら知ることができず、しかもその10万人と号される会員においてすら一人たりともリピーターが存在していない、1年でたかだか11冊、売上は僅かに16,764円といった、極く細々としか動いていない、様々な商品を扱うオンラインショップ内の1コーナーにおいて、その僅か1箇所に、これを表示しているにすぎない。「僅か1箇所での表示」と「一度切りの広告」とはその性質を同じくしており、専ら商標登録の取消を免れる目的で、名目的に急遽、あたかも登録商標が使用されているかの様な外観を与えるために行われた行為であって、仮に形式的には商標法第2条第3項各号の使用行為に該当するにしても、同法第50条第1項の「使用」に該当するものではない。
4 上申書(平成30年1月31日付け)における主張
(1)被請求人の使用標章について
被請求人は、被請求人が使用している標章は「FOREST」であると主張する。
しかしながら、このような主張は被請求人従業者による陳述と矛盾する。
乙第4号証は、被請求人の従業者であり、かつ被請求人サイトを通じた業務のリーダーであるS氏の陳述書であるが、S氏は、(他ページに表示された書籍の文字をクリックすると)当該書籍販売コーナーのページ上段に「書籍 FOREST」が表示されると陳述している。
被請求人サイト運営の責任者の一人が、表示しているのは「書籍 FOREST」であると陳述しているのであり、かかる陳述は、被請求人が使用しているのは標章「書籍 FOREST」であるとする請求人の主張を支える証左である。
(2)商標的使用不要説について
被請求人は、上申書2において様々述べ商標的使用不要説が正当であるとする。その理由として、「異なる判例がある場合、優先順位としては、上級審の判例が優先され、同級審の判例どうしでは新しい判例が優先するのが判例実務である」と述べている。
そもそも被請求人は、学説は法源ではないなどと主張するが、それは当たり前であり、同様に、裁判例も法源とはなり得ない。我が国の法システムは判例法を基礎とするものではないのであるから、制定法の解釈適用において、常に上級審の示す規範が優先し、かつ同級審では最新の判決のそれが優先するなどといったことはあり得ない。我が国において、高等裁判所が示した規範と異なる規範を地方裁判所が示して事件の解決を図るといった例は、枚挙に暇がない。
なお、知財高裁における審決取消訴訟に関しては、商標権者(被告)の使用標章について、需要者は「出所自体を示すものではないと理解する」と認定し、審決を取り消した裁判例が最新である(知財高裁平成29年12月25日判決。甲26)。仮に、同級審の判決においては最新の判決が示す規範が優先されるとする被請求人主張が正当であるならば、むしろ本件審判事件においては、商標的使用必要説を前提とするこの裁判例を参照しなければならない。
(3)標章「書籍 FOREST」は商標として使用されていないことについて
被請求人が乙第18号証を提出したことにより、標章「書籍 FOREST」ではなく、商標として使用されているのは「clubforest」あるいは「クラブフォレスト オンラインショップ」であることがより明確となった。
乙第18号証は、被請求人の本件ウェブサイト中、様々な商品を販売する「クラブフォレスト オンラインショップ」の写しである。同書証全86頁中、標章「書籍 FOREST」が表示されているのは、第40頁上段の一箇所のみである。
その一方で、(a)すべてのページの左肩に「clubforest」のロゴ及びその下段に「クラブフォレスト オンラインショップ」の文字が表示されており、(b)初めての利用者に対しては、第66頁に「クラブフォレスト オンラインショップへようこそ!」と表示した上で、すべての商品等に関して一括して同サイトの利用方法が説明されている。さらに、(c)商品の注文は、乙第4号証に別添えされたショッピングカート等の画面において、すべての商品について一括して行われる。もちろんショッピングカートの画面においても、表示されているのは「clubforest」のロゴと「クラブフォレスト オンラインショップ」の文字である。
需要者がこのような態様のオンラインショップでの小売役務と他の小売役務との区別の目印にするのは、すべてのページに繰り返し表示され、利用ガイドにおいても明確に記載されている「clubforest」及び「クラブフォレスト オンラインショップ」である。
本件も上記(2)の知財高裁判決と同様であり、86頁に及ぶ乙第18号証においては、確かにその一箇所に「書籍 FOREST」の表示がされている。他方、すべてのページにおいて、それが商標であることを示す「TM」の記号とともに「clubforest」のロゴが目立つ態様で表示されている他、同様にすべての頁において「クラブフォレスト オンラインショップ」と併せて表示されている。このような事実関係に照らせば、「クラブフォレスト オンラインショップ」サイトにおけるこれら表示に接した需要者は、同サイトにおいて多用されている「clubforest」のロゴ及び「クラブフォレスト オンラインショップ」こそが被請求人の小売役務の出所を表示しているのであって、「書籍 FOREST」の文字部分は書籍販売コーナーの名称の類を表示したものにすぎず、小売役務の出所自体を示すものではないと理解するのが自然である。
この点に関連して、被請求人は、請求人が標章「書籍 FOREST」を書籍販売コーナーの名称の類と認めていることは「FOREST」が商標として機能していることを認めるものであると述べるが、「名称」と「商標」が異なる概念であることは自明であり、「商標として機能する」とは、自他役務の識別の為の目印として機能するということである。目印一般が商標なわけではない。
また、被請求人はイオンの標章「REWARD KITCHEN」の使用を例に挙げて請求人の主張を否定するが、請求人は、飽くまで「各物品販売コーナーに付された表示を、独立した役務に係る商標として一般的に認識することはない」と述べたのである。もとより例外はあり得る。そもそも商標法第50条第1項の適用において問題とすべきは、使用されている商標における信用化体の可能性の存否ではない。その登録商標に具体的に信用が化体している事実があるか否かである。商標法は商標権者に3年間の猶予期間を与えているが、当該期間が経過するに至ってもなお具体的に信用の化体していない登録商標はその登録を取り消されるのである。被請求人の示す上記イオンの例は、標章「REWARD KITCHEN」の下で提供される総菜(デリカ)販売に係る役務と、他の総菜販売に係る役務とが明確に区別されるよう、総菜の特徴付けを含む品質管理が行われるとともに、宣伝広告活動等によって積極的に信用の蓄積が図られている例である(乙22)。現に需要者において、これと他の役務とを区別しての評価がされている(乙23)。このように役務の具体的な取引態様等との関係で実際に商標として機能していると目される例と、サイト全体の中の僅か一箇所に表示されているにすぎず、また、書籍販売に係る役務を個性化して且つそれについて積極的に広告宣伝を行う等といった営業努力がされているわけでもなく、具体的にはリピーターすら一切存在していない本件の例とは、同列に論じられるものではない。
以上に加えて被請求人は、本件ウェブサイトでは提携企業のサービスが提供されており「本件取消請求役務を提供している企業が被請求人自身なのか提携企業なのかを識別可能となっているから、被請求人による使用標章の使用行為が商標的使用であることは明らか」と述べているが、同一サイト内で提携企業のサービスが提供されていると何故「書籍 FOREST」が商標として使用されているといえるのかその論拠が不明であり、そもそも提携企業の提供している役務は小売役務ではないのであるから、そのような提携企業の存在は、小売役務との関係で「書籍 FOREST」が商標として機能しているか否かという議論とまったく関係がない。
(4)名目的な使用にすぎないことについて
ア 名目的な使用は請求人の独自の概念ではないことについて
被請求人は、「請求人がいう『名目的』使用は請求人の独自の概念であ」ると述べている。
しかし、もとより「名目的使用」の概念は、請求人独自のものではない。甲第13号証として提出したVUITTON事件判決において用いられた概念であり、これを受けて特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(第20版)』においても、「なお、単に不使用取消しを免れるためだけの名目的な使用の行為があっても、使用とは認められない」と解説されている(甲27)。
イ 単に取消を免れようとするにすぎない使用であることについて
被請求人は、標章「書籍 FOREST」の使用は、「当初の予定(甲11)に従って、本件商標を使用したにすぎない」と述べているが、この主張には信ぴょう性がない。
被請求人は使用予定があったことの根拠として、「甲第11号証第1頁下から2行から同第2頁第2行」を示すが、ここに記載されているのは「子会社の事業展開において」使用する意向があるという内容である。飽くまで子会社における使用の意向であり、被請求人の使用予定ではない。
仮に「書籍 FOREST」の使用がブランド戦略に基づく予定された使用であるというのであれば、被請求人は、その予定を記した計画書や企画書の類を示せば足りるのであり、そうであるにもかかわらず、そのような資料は未だ一切示されていないのは、計画自体が存在しないからであろう。
このように、被請求人において「書籍 FOREST」の計画的使用の事実は存在しないとみるのが自然である。むしろ今回提出された乙第18号証をみれば、請求人との交渉を契機として、本件取消請求役務についての商標登録の取消を免れるために、急濾書籍の販売コーナーにのみ「FOREST」の文字を付け足したにすぎないことは明白である。被請求人の使用は「単に不使用取消しを免れるためだけの名目的な使用の行為」(甲27)であって、「使用とは認められない」。
(5)むすび
被請求人が使用している標章は、標章「書籍 FOREST」であって、本件商標と同一のものではない。その標章の使用行為は、商標的使用態様によるものではなく、また、名目的な使用行為にすぎない。
したがって、被請求人は、商標法第50条第2項によって求められている「登録商標の使用をしていること」を証明していない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第23号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は、「FOREST」の欧文字と「フォレスト」の片仮名を併記してなるものであるところ、商標権者である被請求人は、本件商標の欧文字「FOREST」を要証期間に第35類の本件取消請求役務に使用している。
(1)本件商標の使用について
被請求人は、被請求人と建築請負契約又は被請求人が建築・リフォームした住宅について売買契約を締結し、当該住宅を現在も引き続き所有している顧客家族向けに、住まいの維持管理に関する情報や暮らしに役立つ情報を提供することを目的として、本件ウェブサイトを開設している。当該ウェブサイトを通じ、リフォームや保険の見直し、土地活用、補修・修理等について幅広い情報・サービスを提供しているところ、当該サイトでの物品販売サービスにおける書籍ウェブページに欧文字「FOREST」を使用している。(乙1)
(2)商標が使用されている役務
上記(1)の態様での書籍販売は、請求に係る指定役務「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(第35類)に該当する。
(3)使用行為
書籍ウェブページの名称として本件商標の欧文字部分「FOREST」を使用する行為は、商標法第2条第3項第7号「電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」に該当する。
(4)使用時期及び取引実績
本件ウェブサイトは、2010年に開設され、当該サイトを通じた書籍等の物品販売サービスを含む各種サービス等の提供は現在に至るまで継続的に運営されており、現在では10万世帯以上が利用することができる。
乙第1号証は、書籍ウェブページを含む本件ウェブサイトの各ページをプリントアウトし、「2016年6月24日」の確定日付を付与されたものである。これにより、少なくとも当該時点で本件商標の「FOREST」が使用されていたことが客観的に証明される。
書籍ウェブページの利用状況については、2016年7月1日から2017年6月30日までの1年間で、当該ウェブページへのアクセス数は800を超え(乙2)、実際に当該ウェブページを通じて11冊の書籍が購入されている(乙2、乙3)。
なお、書籍ウェブページの左上にも記載されている大元のウェブサイト名「club forest/クラブフォレスト」についても、その「club/クラブ」部分については顧客である会員が集う場所を示唆する言葉である点で識別力が弱いと考えられるため、その要部は「forest/フォレスト」となる。
したがって、「club forest/クラブフォレスト」の使用もまた、本件商標の使用を立証するものである。
(5)まとめ
以上述べたことから、本件商標が、要証期間に商標権者である被請求人によって本件取消請求役務について使用されていたことが客観的に証明される。
2 口頭審理陳述要領書(平成29年12月6日付け)における主張
(1)被請求人が本件商標を使用していることについて
ア 乙第2号証について
乙第2号証の作成者である大日本印刷情報イノベーション事業部Y(以下「Y氏」という。)と被請求人との関係は以下のとおりである。
Y氏は、大日本印刷の情報イノベーション事業部に所属しており、「本件ウェブサイト」及び同ウェブサイト内の通信販売用サイト(以下「clubforest通販サイト」という場合がある。)を担当している(乙4、乙5)。
被請求人は、大日本印刷に対し、被請求人の顧客向けウェブサイト「本件ウェブサイト」及び「clubforest通販サイト」の制作・管理・運営を委託している(乙4?乙7)。「clubforest通販サイト」には書籍販売用サイトである書籍ウェブページが含まれる(乙1、乙5)。
イ 乙第3号証について
(ア)乙第3号証「書籍注文管理帳票」の作成者、及びこれが「いかなる書類であるのか」について
乙第3号証「書籍注文管理帳票」の作成者は、被請求人の従業員であって、「本件ウェブサイト」及び「clubforest通販サイト」の管理・運営等を担当する住友林業株式会社住宅事業本部営業推進部(以下「推進部」という。)S(以下「S氏」という。)である。
乙第3号証「書籍注文管理帳票」は、S氏が推進部のパソコンより大日本印刷の「clubforest通販サイト」の各注文を管理している大日本印刷のサーバーにアクセスして表示させた画面を印刷したものである(乙4)。
(イ)乙第3号証に記載されている商品が乙第1号証の書籍であることについて
乙第3号証に記載されている各商品が書籍である点については、同書籍がインターネット上の書籍ウェブページで販売されている(乙8)こと及び書籍にのみ割り当てられるISBNコード(乙11)が付与されていること等から明らかである。
次に、乙第3号証に記載されている商品が乙第1号証の書籍である点については、乙第3号証に記載されている商品名が「捨てない収納術」となっている商品を例に説明すると以下のとおりである。
乙第1号証の「捨てない収納術」をクリックした画面の「カートに入れる」をクリックした後に順次表示される購入者が必要事項を入力等するための各画面には、「捨てない収納術」の品番として「SFC-SSJ-00-00」が割り当てられている(乙4)。
一方、乙第3号証の「書籍注文管理帳票」においても、商品名「捨てない収納術」に対して上記と同一の品番である「SFC-SSJ-00-00」が割り当てられている。
さらに、乙第3号証の「配送問い合わせ番号」と「決済ID」は、書籍の注文が確定すると自動的に割り当てられるものであるところ、当該各番号に対応するヤマトシステム開発株式会社(以下「ヤマトシステム」という。)の「お届け明細表」(乙4)、すなわち、乙第3号証の注文と同一の注文に対応する「お届け明細表」に記載されている商品名(「捨てない収納術」という商品名)と品番(「SFC-SSJ」(後部に付加される4桁の数字はカラーやサイズを指定するためのものであるところ、カラーやサイズのバリエーションがない商品の場合は「00-00」が指定されるため、「SFC-SSJ」と「SFC-SSJ-00-00」は全く同一の商品を表している。)も一致している。
なお、ヤマトシステムは、「clubforest通販サイト」において注文された商品の物流全般について被請求人より委託を受けている事業者であり、「clubforest通販サイト」における各注文について、注文情報を受けとる者である(乙4、乙9)。
また、当該「お届け明細表」に記載されているJANコード「9784391146424」は、「捨てない収納術」の裏表紙(乙4)に記載されている「JANコード」とも一致し、さらに、乙第3号証の2と乙第4号証別添3を比較すれば、購入者の住所も一致している。
同様に、乙第3号証の2に記載されている他の商品である「森の心地よさと暮らす 里庭スタイルの住まい」についても、乙第1号証の書籍であることは、ヤマトシステムの「お届け明細表」(乙3の2)、同商品の表紙及び奥付を比較して、「配送問い合わせ番号」、「決済ID」及びJANコード等をたどることにより確かめることが可能である(乙11の2、乙12)。
ウ 小括
以上のとおり、被請求人の書籍の販売実績は、被請求人以外の事業者(大日本印刷、ヤマトシステム)より提供された資料等による客観的裏付があるから、乙第1号証の「書籍 FOREST」が実体のある書籍販売用のウェブページであることが客観的に証明された。
したがって、少なくとも乙第1号証に確定日付が付与された日である2016年6月24日の時点で、本件商標の「FOREST」が、商標法第2条第3項第7号に該当する使用がなされたことが認められる。
(2)請求人の主張に対する反論
ア 使用標章が本件商標と社会通念上同一であることについて
(ア)使用標章「FOREST」について
請求人は、弁駁書において「書籍 FOREST」全体で一体的である旨主張するが、以下のとおり、当該主張は失当である。
各種商品を取り扱う販売サイトにおいて、利用者の利便性を図るため、カテゴリー別に取扱商品を表示し、利用者が現在どのカテゴリーの取扱商品を閲覧しているのかについて簡単に確認できるよう、取扱商品のカテゴリー名をサイトの目立つ位置に表示することは一般的に行われており、書籍ウェブページにおいても、顧客である利用者に対して便益の提供を行うため、「書籍」というカテゴリーに含まれる取扱商品を閲覧していることを表示しているにすぎないのであるから、当該書籍ウェブページの「書籍」の文字が、商標の一部として利用者に認識されることはない。「書籍」の文字は、本件取消請求役務との関係において、取扱商品に該当するものであるから、自他役務識別力を欠くことは商標審査基準に照らし明らかである。
よって、書籍ウェブページの「書籍」の文字は、商標の一部として認識される事はなく、被請求人の使用標章は「FOREST」であり、請求人の主張は失当である。
(イ)「clubforest」及び「クラブフォレスト」について
請求人は、弁駁書において、「clubforest」及び「クラブフォレスト」は、それぞれ全体で一体的であると主張する。
しかしながら、企業が顧客を対象に提供する会員制サイトにおいて、その名称として「club」、「クラブ」又は「倶楽部」の文字を含んだ標章を使用することが一般的であるという実情があり(乙13)、被請求人も自己の会員制サイトにおいて「club」及び「クラブ」の文字を含んだ標章を使用しているのであるから、当該会員制サイトにおいて提供される役務については、「club」及び「クラブ」の文字部分の自他役務識別力は極めて弱く、「forest」及び「フォレスト」の文字部分のみが出所表示として認識され得るといえる。
よって、書籍ウェブページにおいて提供されている本件取消請求役務について、「forest」及び「フォレスト」の文字部分のみで自他役務識別標識としての機能を果たしていて、そこに被請求人の業務上の信用が蓄積されているのであるから、請求人の主張は失当である。
(ウ)使用標章が本件商標と社会通念上同一であることについて
本件商標は、「FOREST/フォレスト」であるところ、上段の「FOREST」の文字は、「森林。山林。」等を意味する平易な英単語であり(乙14)、下段の「フォレスト」の文字部分は上段の「FOREST」の読みを表したものと認められる。そうすると、上段及び下段のいずれの使用であっても、その称呼及び観念を同一にするものであり、社会通念上同一視できることは、審判便覧より明らかである。
そして、使用標章「FOREST」は、本件商標の上段と同一であり、また、使用標章「clubforest」及び「クラブフォレスト」についても、それぞれ「forest」及び「フォレスト」の文字部分が独立して出所表示として認識されるものであって、「forest」については大文字と小文字の違いはあるものの同一の綴りからなるものであるから、審判便覧の例に照らして、それぞれ本件商標の上段と下段と同一であるとみて差し支えない。
よって、使用標章「FOREST」、「clubforest」及び「クラブフォレスト」は、いずれも本件商標と社会通念上同一である。
イ 被請求人による標章の使用行為は、商標法第50条第1項にいう「使用」であることについて
(ア)商標的使用が商標法第50条第1項にいう「使用」であることの要件ではないことについて
請求人は、弁駁書において、被請求人による標章の使用行為が商標としての使用ではないと主張している。
しかし、「商標法50条の主な趣旨は、登録された商標には、その使用の有無にかかわらず、排他的独占的な権利が発生することから、長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは、当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の幅を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので、一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求できるというものである。上記趣旨に鑑みれば、商標法50条所定の『使用』は、当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。」と認められている(知財高裁平成27年11月26日 平成26年(行ケ)10234号審決取消請求事件判決(乙15の1)。知財高裁平成28年9月14日 平成28年(行ケ)10086号審決取消請求事件判決(乙15の2)、知財高裁平成28年11月2日 平成28年(行ケ)10115号審決取消請求事件判決(乙15の3)同旨)。
したがって、商標法第50条第1項にいう「使用」が商標的使用でなければならないことを前提とする請求人の上記主張は失当である。
(イ)また、仮に、商標法第50条第1項にいう「使用」が商標的使用でなければならないとしても、被請求人による標章の使用行為は、商標的使用であるから、商標法第50条第1項にいう「使用」にあたる。以下その点について詳述する。
a 会員向けのサイトにおいて標章「FOREST」を使用する場合も自他役務等の識別標識として機能することについて
請求人は、弁駁書において、被請求人の書籍ウェブページが被請求人の顧客向けのサイトであり、顧客以外の需要者が閲覧できないことを理由に、「需要者をして、被請求人の提供役務と他の提供役務とを区別するための標識として機能するものではない。」と主張しているが、そもそもこの「需要者」には被請求人の顧客も含まれる。現在ではおおよそ10万世帯の顧客(乙4)が会員として書籍ウェブページにアクセスすることが可能であり、顧客は同ウェブページにアクセスし書籍を購入する際に、同ウェブページに表示された標章「FOREST」に接することとなる。そして「FOREST」を被請求人の業務に係る役務である本件取消請求役務に係る商標と認識し、これら顧客との関係において商標「FOREST」に業務上の信用が化体するのであるから、商標「FOREST」が出所表示機能及び役務の質の保証機能等を発揮していることについて疑う余地は無い。
したがって、限定された顧客のみを対象とした役務に商標を使用することによっても自他役務等の識別機能は果たされ、商標に業務上の信用は化体するのであるから、被請求人の上記主張は独自の見解にすぎず、失当である。
b 被請求人が書籍ウェブページにおいて提供する小売等役務は商標法上の役務であることについて
請求人は、弁駁書において、本件ウェブサイトが開設された目的が「住まいの維持管理に関する情報を提供する」ことであったことを理由に、書籍ウェブページにおいて提供されている役務が被請求人によって建築等された住宅に関するアフターサービスであり独立した役務ではないと主張しているが、そもそもあるサイトが設立された目的と、そのサイトにおいて提供されている役務が商標法上の「役務」であるかとは無関係である。
小売等役務が商標法上の役務であることには疑いが無く、被請求人は書籍ウェブページにおいて、被請求人の顧客に対し、商標法上の役務として、書籍の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を行っているのであるから(乙1?乙12)、請求人の主張は失当である。
c 品揃えが豊富でなくても書籍の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供となることについて
請求人は、「書籍の小売業務において、僅かに8冊ないし5冊の商品を並べるといった程度では、常識的な視点からすると、書籍の販売に関して顧客への『便益』が図られているとは到底言い難い。」と主張するが、どのような商品をどの程度取り揃えるかについては営業主の自由であり、単に品揃えが豊富であるだけが顧客に対する便益となるのではなく、厳選した書籍を陳列するということも当然として「小売の業務において行われる顧客に対する便益」に属するものである。したがって、請求人の上記主張も失当である。
d 小売等役務を提供する場面において標章が使用されていれば商標としての機能を果たすことについて
被請求人の使用標章は以下のとおり商標としての機能を果たすものである。
本件ウェブサイトの会員、すなわち被請求人の顧客は、書籍ウェブページに辿り着き、同ウェブページにおいて書籍を購入する際に「FOREST」商標を目にしながら品揃えや陳列といった、書籍の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を受け、同商標の下において提供された役務の質に満足し、商標「FOREST」の文字に化体した業務上の信用に吸引され、次回も他の書籍販売サイトではなく、書籍ウェブページ「FOREST」を訪れるようになるのである。そこにおいては、明らかに標章「FOREST」が被請求人の顧客との関係において、商標としての識別機能ないしは出所表示機能、品質等保証機能を果たしているといえる。
このように、書籍ウェブページにおいては、被請求人の顧客との関係において、商標としての識別機能ないしは出所表示機能、品質等保証機能を果たす態様で使用されているのであるから、請求人の上記主張は失当である。
(3)請求人の「被請求人による標章の使用行為は、登録を維持するに足る十分な使用ではないことについて」との主張について、
ア 法律上の根拠がないこと
請求人は、「被請求人による標章の使用行為は、登録を維持するに足る十分な使用ではないことについて」縷々述べているが、本件商標を取り消すべき条文上の根拠を述べていないから、当該記載部分は法律上の主張ではない。
イ その他の点について
請求人は、商標法第50条第3項の適用を主張するものではないと述べているため、「駆け込み使用」と章題が付された部分がいかなる論拠をもとに記載されているのか定かではないが、少なくとも、同規定との関係での審判請求のスケジュール管理を怠ったのは請求人であって、被請求人に責任があることではない。
また、請求人の「ごく僅かな使用」、「十分な使用ではない」と章題が付された部分についても、独自の見解を縷々述べるのみで、法律上の根拠がないため全く意味がないものである。引用されている裁判例(甲13)についても、同判例は登録商標の指定商品にかかる商品を販売せず広告のみしていた事案であって、本件商標の指定役務に対応する商品を実際に販売している本件と何ら関連性はない。
3 上申書(平成30年1月12日付け)における主張
(1)被請求人が使用している標章は「FOREST」ではなく「書籍 FOREST」であるとの主張に対して
乙第1号証第9頁ないし第11頁は、クラブフォレストオンラインショップのトップページの写しであるところ、この左側に表示されている「物品販売商品カテゴリー」(乙1)の「書籍」をクリックすると、「FOREST」の標章が使用されている、「書籍」のカテゴリーの商品一覧ページへと移動する(乙18)。他のカテゴリーについても、これと同様の操作により、又は「物品販売商品カテゴリー」(乙1)の各カテゴリーの表示をクリックすると表示されるその下位のカテゴリー表示のうち一番上の「○○○一覧」(○○○はカテゴリーを表す文字)の表示をクリックすることにより、それぞれのカテゴリーの商品の一覧ページへと移動する。
そして、上記乙第18号証の第4頁、第7頁等を見れば明らかなように、他のカテゴリーの商品一覧ページにおいても、それぞれのカテゴリーの表示が、オレンジ色の横長の長方形を背景に白抜き文字で表示された「物品販売」の表示の下に位置に、「書籍」の文字(乙1)と、同じ位置に同じ書体、同じ文字の大きさで同様に表示されており、このことからも、「書籍」の文字が需要者に取扱商品のカテゴリーを示すために表示されていることは明らかである。
さらに、被請求人が使用している「FOREST」の標章は、カテゴリー表示である「書籍」の文字とスペースを隔てて、「書籍」の文字よりもやや小さく細い半角欧文字で、「書籍」の文字とは独立して把握される態様で表示されている(乙1)。
したがって、この「FOREST」の文字とカテゴリー表示として需要者に認識される「書籍」の文字とが「需要者においてその全体が一体的に認識される」とする請求人の主張は失当である。
(2)商標法第50条第1項の取消を免れるための「使用」について
ア 請求人の商標的使用不要説にかかる主張に対して
(ア)法解釈論上、法の特定の用語に対して定義規定が置かれている場合、当該用語の解釈は当該定義規定によりなされることはいうまでもないところ、商標法における用語「使用」については、商標法第2条第3項に定義規定が置かれているのであるから、商標法第50条第1項の「使用」については、当該定義規定に従えばよいのであり、特段、条文上の根拠がない「商標的使用」などという概念を持ち出す理由はない。また、商標法第50条第1項の審判が認容された場合、被請求人に付与された商標権すなわち財産権が取り消されるという効果が生じる以上、商標法に定義規定が置かれているにもかかわらず、当該規定を無視して、当該定義より「使用」の範囲が狭まる基準を商法第50条第1項に適用することは許されるべきではない。
(イ)最新の知的財産高等裁判所判例(乙15)が説示したように、商標的使用不要説が商標法第50条の趣旨に沿うものである。
(ウ)商標的使用不要説にたった裁判例は、現知的財産高等裁判所第4部のもの(甲15)以外に、東京高判平成3年2月28日判時1389号128頁、平成11年(行ケ)第183号、東京高判平成12年4月27日平成11年(行ケ)第183号、東京高判平成13年9月25日平成13年(行ケ)第23号等もあり「知財高裁の特定の部における僅かな数の裁判例のみを引合いに」しているとする請求人の反論は事実に反する。
(エ)請求人は「多くの学説が、商標的使用態様であることを要すると説き・・・」と述べ、あたかも商標的使用必要説が多数説のように主張するが、商標的使用不使用説にたつ学説も枚挙にいとまがなく(乙19)、請求人の当該主張は事実に反する。
イ 被請求人よる使用標章の使用行為は商標的使用であること
被請求人の会員向けウェブサイト「本件ウェブサイト」内には、被請求人自身が提供しているサービス以外にも、被請求人と提携する複数の企業(以下「提携企業」という。)によるサービスが含まれている(乙1、乙18、乙20、乙21)。
したがって、使用標章が書籍ウェブページに表示(商標法第2条第3項第7号に該当する「表示」)されることによって、被請求人のウェブサイト「本件ウェブサイト」の会員(世帯10万世帯以上)が、本件取消請求役務を提供している企業が被請求人自身なのか提携企業なのかを識別可能となっているから、被請求人よる使用標章の使用行為が商標的使用であることは明らかである。
(3)請求人の「標章は商標として使用されていない」との主張について
ア 商標として使用されているのは「clubforest」あるいは「クラブフォレスト オンラインショップ」であるとの主張について
オンラインショップは取扱商品のカテゴリー分けが容易かつ明確に行えるという特徴があり、利用する側の需要者にとっても、現在どのカテゴリーの商品を閲覧し、どのような商標の下、その小売等役務が提供されているのかを容易に認識することができるのであるから、書籍ウェブページの目立つ位置に付された標章「FOREST」は、同ページで提供される役務「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の商標として認識されることに疑いはない。
請求人においても、需要者が標章「FOREST」に接してこれを同ページの名称と認識することは認めているところであるが、これは標章「FOREST」が同ページの目印として機能していることを認めるものであり、標章「FOREST」が商標として使用されていることを認めるものである。
よって、標章「FOREST」は商標として使用されていることは明らかである。
イ 「リピーターがいない」との主張について
請求人は、リピーターがいないという独自の基準を設けて商標的使用を否定する。
しかしながら、請求人も認めるように、被請求人はその書籍ウェブページにおいて標章「FOREST」を同ページの目印として使用し、要証期間の1年間に11冊の販売実績があった事実を立証しているのであるから、これによって標章「FOREST」の商標的使用は、完全に証明されたというべきである。
また、請求人は、書籍の品揃えが少ないことについても指摘するが、乙第18号証から明らかなとおり、被請求人は書籍だけでなく他の取扱商品においても品揃えについて単に数の多さを追求してはいない。被請求人は既存顧客との継続的な信頼関係を築くことを意図して商品を取り揃えているのであり、このような営業手法は営業主の自由に帰すべき問題であって第三者である請求人が干渉すべき問題ではない。
以上より、不使用取消審判請求の答弁として被請求人が示した1年間の販売実績11件の中に、商標的使用の条件としてリピーターがいることを求める請求人の主張は、失当である。
(4)請求人の「名目的な使用にすぎないことについて」という一連の主張について
請求人がいう「名目的」使用は請求人独自の概念であり、商標登録の取消理由として法定されておらず、本件商標が取消されるべきか否かと何ら関連性はないから本件審判において考慮されるべきではない。当該部分に記載された内容は、結局のところ、請求人の独自の主観的評価ないし希望を述べたにすぎず、法的主張ではない。
むしろ、商標法第50条各項の要件を満たす1年間に11冊の販売実績があるという事実は、本件商標にかかる継続的な役務提供が証明されていると評価されるべきものであり、「名目的な」使用などという評価がなされる余地はない。
ア「十分な使用ではないことについて」との主張について
商標法上、「電磁的方法・・・により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供」(商標法第2条第3項第7号)しさえすれば、「使用」にあたるのであり、当該「役務」の履行回数やその履行により生じた対価、「表示」箇所の多寡が商標法第50条第1項の「使用」の判断に影響するとは、どこにも規定されていない。
そもそも、被請求人は、「FOREST」を表示した書籍ウェブページにおいて、広く網羅的に書籍を販売することを意図しているのではなく、被請求人から住宅を購入した顧客に役立つ書籍を厳選して提供することによって、当該顧客と継続的な信頼関係を築くことを意図しているのであり、そのような営業方針に沿って、本件商標を使用することは「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」(商標法第1条)という商標法の目的にかなうことはいうまでもない。
したがって、請求人の当該主張は失当である。
イ「単に取消を免れようとするにすぎない使用であることについて」との主張について
(ア)請求人が「交渉の経緯」と題を付して縷々述べている点については、結局のところ、本件審判請求前の交渉において、請求人が被請求人を説得するのに失敗して、被請求人の代表権のある者の意思表示を得ることが出来なかった(いかなる契約の締結にも至らなかった)ことを示しているにすぎず、本件審判請求の成否とは何ら関係のないことである。
(イ)「名目的使用であることについて」と題が付された部分についても法律上、意味のある主張は一切なされていない。
請求人は、東京高等裁判所平成5年11月30日判決(VUITTON事件判決)と本件との関係において「当該事件で問題となったのは・・・・新聞紙上における『一度切りの広告』といった程度の商標の使用行為が商標権者の登録を維持するに足りる使用行為と言えるのかという点である。この観点において、上記判決と本件とは事案を共通にしている。」と主張する。
しかしながら、被請求人は、本件商標に関して、少なくとも1年間にわたり、商標法第2条第3項第7号に該当する使用行為を継続し、しかも、実際に当該使用行為に関する取引も複数成立している。したがって、「一度切りの広告」しかなされなかった上記判決と本件とが事案を共通にするという評価が成り立つ余地はない。
(ウ)「メンテナンス」、「お手入れ・お掃除用品」、「防犯・防災」、「日用品」等の「販売コーナー」において「FOREST」の文字が使用されているか否かを問題にしている点についても、本件商標が使用されているか否かとは何ら関係がない。
本件商標が使用されているか否かは、本件取消請求役務について、使用標章が商標法第2条第3項第7号に該当する行為がなされているか否かが問題となるのであって、他の販売コーナーに関するウェブサイトは関係がないからである。
4 上申書(平成30年2月9日付け)においての主張
(1)請求人の「商標として使用されていない」との主張に対して
請求人が甲第26号証として提出した知財高裁平成29年12月25日(平成29年(行ケ)第10126号)判決(以下「甲26判決」という。)は、同一の使用役務に対して、登録商標であることを示す○の中に「R」の文字を付した「ベガスベガス」や「VEGAS VEGAS」等の標章と、それらの省略形と考えられる「ベガス」の標章の両方が表示された折り込みチラシにおいて、当該折り込みチラシにおける各標章の大きさや位置関係を前提に、「ベガス」が使用されていたか否かが判断されたものであって、当該判断が、直ちに他の判断に一般化されるようなものではない。少なくとも、請求人は甲26判決の論理を本件不使用取消に適用できる根拠を述べていないから、請求人による判例の引用として不適切である。
両事案の共通性を見出すことは困難を極めるものであり、甲26判決を本件の判断において考慮に入れる余地はない。
そして、標章「FOREST」は自他役務識別力を十分に有するものであるところ、請求人も認めるとおり標章「FOREST」は需要者に映像面(書籍ウェブページ)の名称として認識されるほど顕著に表されているのであるから、当該映像面を介して行われる役務「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について標章「FOREST」が自他役務識別機能及び出所表示機能を十分に発揮していることに疑いは無い。つまり、標章「FOREST」の商標的使用は完全に証明されているのである。
(2)請求人の「名目的な使用」である旨の主張に対して
請求人は、東京高等裁判所平成5年11月30日(平成4年(行ケ)第144号)判決(以下「甲13判決」という。)及び「特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(第20版)」の商標法第2条第3項第8号に対する注釈(甲27)を証拠に「名目的な使用」は請求人独自の概念ではないとした上で、被請求人による本件商標の使用が名目的な使用であると主張している。
しかしながら、請求人の主張によれば、請求人がいう「名目的な使用」とは「ブランド戦略等何らかの計画に則った使用ではない」使用を意味しているようであるところ、当該解釈は特許庁や裁判所における「名目的な使用」という概念を無視したものであって失当である。
すなわち、甲13判決及び甲第27号証から明らかなように、特許庁や裁判所の判断において認定されている「名目的な使用」とは、「単に不使用取消しを免れるためだけの」使用を意味することは明らかである。
そして、被請求人による使用標章の使用は、要証期間の少なくとも1年間に、商標としての諸機能を発揮する態様で、商標法第2条第3項第7号に該当する使用行為を継続し、第三者との間で売買契約が実際に成立するという効果が生じるといった態様のものであり、「単に不使用取消しを免れるためだけの」という評価が下される余地がないことは明らかであるから、「名目的な使用」に該当しない。
したがって、「名目的な使用」にかかる請求人の主張は理由がない。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る乙各号証及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)被請求人は、同人と建築請負契約又は被請求人が建築・リフォームした住宅について売買契約を締結し、当該住宅を現在も引き続き所有している顧客家族向けに、住まいの維持管理に関する情報や暮らしに役立つ情報を提供することを目的とし「clubforest」という名称のウェブサイト(本件ウェブサイト)を開設しており、当該ウェブサイトには、「物品販売」を内容とするウェブサイトが含まれているところ、これは、カテゴリー別に「メンテナンス」、「お手入れ・お掃除用品」、「防犯・防災」、「日用品」、「インテリア」、「ガーデニング」「録音・スポーツ」、「バラエティ・おもちゃ」、「書籍」及び「ペット」のカテゴリーに分かれており、それぞれのカテゴリー毎に様々な商品が掲載されており、会員登録することによって、掲載されている商品を当該ウェブサイトを通じて購入することができる(乙1、乙4、乙18)。
(2)2016年6月24日を印刷日とする本件ウェブサイト(乙1)には、「物品販売」の見出しの下、「書籍 FOREST」(以下「使用商標」という。)の文字が表示された書籍ウェブページがあり、「商品一覧」の項には、表題を「捨てない収納術」、「?森の心地よさと暮らす?里庭スタイルの住まい」及び「?森のステキを楽しむ?里庭スタイルの樹木セレクト」とする書籍のほか5冊の書籍の写真並びに販売価格が表示されている。
また、2018年1月9日を印刷日とする書籍ウェブページには、使用商標が表示され、「商品一覧」の項には、表題を「捨てない収納術」とする書籍のほか3冊の書籍の写真並びに販売価格が表示されている(乙18)。
さらに、購入する書籍名をクリックすると、出版社、著者及びその内容等を紹介するウェブページが表示される(乙4)。
そして、大日本印刷の情報イノベーション事業部のY氏が平成29年8月1日付けで作成した「販売実績及び『書籍 FOREST』サイトへのアクセス履歴」の表題の書面(乙2)には、対象期間を2016年7月1日ないし2017年6月30日とする、上記ウェブページにおける販売実績表(添付2)が添付されており、これには、同期間に販売された11冊の書籍の品番、書籍名、個数、金額等が記載されているところ、例えば、「品番」を「SFC?SSJ?00-00」、「書籍名」を「捨てない収納術」とする書籍が2017年(平成29年)5月に1冊販売され、また、「品番」を「RK-MKK-SSS-00-00」、「書籍名」を「?森の心地よさと暮らす?里庭スタイルの住まい」及び「品番」を「RK-MST-SSJ-00-00」、「書籍名」を「?森のステキを楽しむ?里庭スタイルの樹木セレクト」とする書籍が2017年(平成29年)2月にそれぞれ2冊販売されことが記載されている。
(3)被請求人は、上記(2)の本件ウェブサイトに掲載するコンテンツの制作業務、具体的には、企画・デザインの作成、制作・運行管理、当該ウェブサイトのサーバへの搭載及び上記各業務に付随する業務を大日本印刷に委託する契約を平成25年4月1日に行っている(乙6)。
そして、大日本印刷は、被請求人宛に、品名を「クラブフォレストサイトコンテンツ運用5月分」とする「請求書」を平成27年5月27日付けで作成した。
また、平成29年11月27日付けで作成された被請求人住宅事業本部営業推進部のS氏の陳述書(乙4)には、本件ウェブサイトの制作・管理・運営は大日本印刷に委託し、通信販売用サイト(物品販売のウェブサイト)の制作・管理・運用は、当初、ヤマトシステムに委託していたが、平成28年3月から、大日本印刷へ一括して委託することとした旨の記述がある。
そして、大日本印刷は、被請求人宛に、件名を「住友林業様営業推進部様/ECサイトリプレイス 運用費」とする「精算御見積書」を平成29年9月22日付けで作成し、品名を「ECサイト運用費9月(営業推進部)」とする「請求書」を同月30日付けで作成した(乙7)。
なお、平成29年11月21日付けで作成された大日本印刷の情報イノベーション事業部のY氏の陳述書(乙5)には、当該事業部が、被請求人からの業務委託に基づき、被請求人のウェブサイト「clubforest」及び同サイト中の書籍販売用サイト(書籍ウェブページ)について、「ECサイト(電子商取引用サイト)」の構築から運営までを提供するサービスを展開している旨の記述がある。
(4)被請求人は、ヤマトシステムと「物流管理業務」を含む業務に関する「業務委託基本契約書」を2010年8月2日に契約した。そして、当該業務の詳細は、別途「覚書」を交わすこととしており、その後、当該「覚書」は、旧契約を破棄するものとして、2012年9月1日付け、2013年5月1日付け、2015年7月1日付けで締結しており、その2015年7月1日付けの「覚書」によれば、その委託業務の内容は、委託物品の入出庫・在庫管理・梱包・保管・発送業務、付帯する荷役作業、受注業務等であり、作業要領には、ヤマトシステム規定の宅配用伝票及び納品書を使用することが定められている(乙9)。
(5)書籍の販売については、商品名を「SFC?SSJ?00-00/捨てない収納術」とする書籍が、「注文番号:A10142017051400010」として2017年(平成29年)5月14日に注文され、その入金が同日に行われ、発送元を被請求人とする、上記品名及び注文番号を同じくする商品が、同月15日を受付日としてヤマト運輸を通じて大阪府所在の顧客に発送され(乙2、乙3の2、乙12)、また、商品名を「RK-MKK-SSS-00-00/?森の心地よさと暮らす?里庭スタイルの住まい」及び「RK-MST-SSJ-00-00/?森のステキを楽しむ?里庭スタイルの樹木セレクト」とする書籍が、「注文番号:A10142017021500008」として2017年(平成29年)2月15日に注文され、その入金が同日に行われ、発送元を被請求人とする、上記品名及び注文番号を同じくする商品が、同月16日を受付日としてヤマト運輸を通じて栃木県所在の顧客に発送された(乙2、乙3の2、乙12)。
2 上記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)使用者について
使用商標が表示されているウェブサイト(乙1)は、被請求人が大日本印刷に委託して開設しているものであるから、使用商標の使用者は、被請求人(商標権者)と認められる。
(2)使用商標について
使用商標は、「書籍 FOREST」の文字からなるところ、その構成中の「書籍」の文字は、本件取消請求役務である「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」との関係において、その販売に係る商品名を表すものといえることから、自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものである。
そうすると、使用商標は、その構成中、「FOREST」の文字部分が独立して自他役務識別標識としての機能を果たす要部として認識されるものである。
そして、本件商標は、「FOREST」の欧文字及び「フォレスト」の片仮名を上下二段に書してなるものであるところ、「FOREST」は「森、森林」の意味を有する英語であり、また、「フォレスト」の片仮名は、上段の英語の読みを表記したものである。
してみれば、使用商標の要部である「FOREST」の文字部分は、本件商標の上段の欧文字部分と同じ綴りであるから、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものである。
(3)使用役務及び使用時期について
上記1(1)及び(2)のとおり、被請求人は、同人の顧客を対象とする本件ウェブサイトを開設しているところ、これには、物品販売を目的とするウェブサイトが含まれ、さらに、当該物品販売のウェブサイトは、商品のカテゴリー別に分かれており、それには、商品「書籍」を掲載した書籍ウェブページが含まれている。
また、書籍ウェブページには、平成28年6月24日時点において、使用商標の表示の下、8冊の書籍が掲載され、2018年(平成30年)1月9日を印刷日とする書籍ウェブページ(乙18)にも、使用商標の表示の下、4冊の書籍が掲載されていることからすれば、被請求人は、遅くとも、平成28年6月24日には、書籍の販売を目的とした書籍ウェブページに、使用商標を表示し、販売にかかる書籍の写真とともに、その内容及び価格等を表示していたといえる。
さらに、平成28年7月ないし平成29年6月の期間に、書籍ウェブページを通じて、11冊の書籍が販売されたことが認められる。
そして、書籍ウェブページの印刷日である平成28年6月24日は、要証期間である。
(4)小括
以上からすれば、被請求人(商標権者)は、要証期間に日本国内において、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を使用して、「印刷物」の範ちゅうに属する「書籍」を複数冊取り揃えた物品販売のウェブページ、すなわち、インターネット上のオンラインショッピングサイトにより販売したことが認められる。
そして、インターネット上のオンラインショッピングサイトにおいて、使用商標を表示して、商品「書籍」の販売のために商品の品揃え、商品説明等を行う行為は、「印刷物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」といえるものであり、商標法第2条第3項第7号にいう「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」に該当するものと認められる。
3 請求人の主張
請求人は、「被請求人は、請求人からの申し入れを契機として、いったん合意が成った後に、これを覆す可能性が被請求人側に生じたことを前提として、商標法第50条第1項の取消を免れるために標章『書籍 FOREST』の駆け込み使用を開始したものである。・・・8冊のみの品揃えで、一年でたったの11冊の販売、僅か1万数千円といった微々たる売上しかない書籍ウェブページにおいて、標章『書籍 FOREST』を駆け込みで、かつ形式的に表示したからといって、権利を維持するに足るそれ相応の使用をなして頂いたとは到底いえない。この程度の使用によって、全国的に排他権を享受する商標権を維持することを認めるべきではない。」、「被請求人によれば、本件ウェブサイトの利用者は10万人もいるそうである。しかし、その中に1人として、具体的に書籍ウェブページで繰り返し書籍を購入した者はいない。・・・リピーターが現れることによって『書籍 FOREST』が『商標としての識別機能ないし出所表示機能、品質等保証機能を果たしている』ことになるというのであれば、そのような者が存在していない以上、標章『書籍 FOREST』は、具体的には、『商標としての識別機能ないし出所表示機能、品質等保証機能を果たして』いない。」及び「被請求人において『書籍 FOREST』の計画的使用の事実は存在しないとみるのが自然である。・・・請求人との交渉を契機として、本件取消請求役務についての商標登録の取消を免れるために、急濾書籍の販売コーナーにのみ『FOREST』の文字を付け足したにすぎないことは明白である。被請求人の使用は『単に不使用取消しを免れるためだけの名目的な使用の行為』(甲27)であって、『使用とは認められない』」と主張している。
しかしながら、本件審判の請求は、平成29年5月26日であるところ、上記のとおり、被請求人は、使用商標を本件審判の請求の三月前以前に使用しており、本件審判の請求がされることを被請求人が知った後の使用ではないことからすれば、被請求人が、商標法第50条第1項の取消を免れるために、同項第3号の「駆け込み使用」を行ったとはいえないものである。
また、上記2のとおり、被請求人は、販売を目的とした多種類の商品を販売するインターネットオンラインショッピングサイトにおいて、商品「書籍」の販売のためのウェブページに使用商標を表示し、2016年7月ないし2017年6月の1年間に複数回に分けて11冊の書籍を販売した事実が認められることからすれば、当該ウェブページ接する需要者が存在し、そこに大きく表示されている使用商標を自他役務識別標識として認識するというのが自然であり、被請求人は、使用商標を本件取消請求役務に使用したものというべきであるから、当該商品の販売数及び売上高が少ないこと、リピーターの存在が確認できないこと及び書籍のウェブページにのみ使用商標が表示されていることをもって、使用商標を本件取消請求役務に使用していないものとすることはできない。
したがって、請求人の上記主張は、認めることができない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が、その請求に係る指定役務中、「印刷物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていたことを証明したものと認められる。
したがって、本件商標の登録は、その請求に係る指定役務について、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-06-28 
結審通知日 2018-07-02 
審決日 2018-07-30 
出願番号 商願2011-36394(T2011-36394) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X35)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 健司 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 中束 としえ
山田 正樹
登録日 2012-10-12 
登録番号 商標登録第5528319号(T5528319) 
商標の称呼 フォレスト 
代理人 特許業務法人浅村特許事務所 
復代理人 松川 直樹 
代理人 五味 飛鳥 

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