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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z05
管理番号 1344923 
審判番号 取消2017-300280 
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-04-21 
確定日 2018-09-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4332016号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4332016号商標の指定商品中、第5類「薬剤」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4332016号商標(以下「本件商標」という。)は、「ボタニカ」の片仮名及び「BOTANICA」の欧文字を二段に横書きしてなり、平成10年12月2日に登録出願、第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同11年11月5日に設定登録されたものである。
その後、商標権の一部取消審判により、指定商品中、第5類「失禁用おしめ」については、平成21年3月5日にその登録を取り消すべき旨の確定審決の登録がされ、当該審判の請求の登録日である同20年10月7日に消滅したものとみなされた。
そして、本件審判の請求の登録は、平成29年5月9日である。
なお、本件審判において商標法第50条第2項に規定する「その審判の請求の登録前3年以内」とは、平成26年5月9日ないし同29年5月8日である(以下「要証期間」という場合がある。)。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第7号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第5類「薬剤」について継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 審判事件弁駁書における主張
(1)乙第1号証及び乙第2号証について
乙第1号証の写真の商品サンプルの存在を否認する。
通常、商品サンプルとして300mlは量が多すぎる。乙第2号証のラベルに商品サンプルである旨の表示、製品番号、製造記号、バーコード、容器の原料樹脂、識別マーク(プラマーク等)等の表示が欠けており、家庭用品品質表示法の規制に違反している。前記表示がされていない点に疑義がある。
(2)乙第3号証について
納品書の商品名欄に「ボタニカ用ハンドスプレー/PETボトル300ml」との記載がある。容器販売業者からの納品伝票に、今後容器購入者のもとにおいて充填するであろう購入者の商品の商標が、容器販売業者の作成する納品書に前もって記載されているのは不自然である。通常は容器販売業者自身の品名あるいは製品番号、例えば「PET300スプレータイプ」等(甲1の1、2)のように記載されるのではないか。購入者によって、容器購入後に内容物を充填し、商品化する時にラベルが貼られ、商標が使用されるのであり、それ以前に、空の容器を納品する容器業者が、伝票に内容物の商標を記載しているのはおかしい。この納品書は、真正か否か疑いが濃厚である。乙第3号証の成立を否認する。
(3)乙第5号証について
乙第5号証は「商品別得意先別売上集計表」とあり、集計期間が平成28年10月1日ないし平成29年7月31日であることが記載されている。一方、表外の「出力者情報」には「2017/07/12 15:33:00」の記載があり、この集計表の出力日あるいは作成日が、平成29年(2017年)7月12日であると理解できる。この出力日あるいは作成日は、上記集計期間の末日(平成29年7月31日)より前の日付となっており、日付が前後逆転している。乙第5号証によっては、納品の事実は立証できない。
(4)乙第6号証及び乙第7号証について
乙第6号証及び乙第7号証は、宅急便の発送伝票であるが、宅配業者及び取扱者の受付印がなく、誰もがいつでも作成できるものである。乙第6号証及び乙第7号証によっては発送の事実を立証できない。
さらに、発送伝票の品名欄には「ボタニカ 300cc」の記載があるだけで品番等の記載がなく、配送物の照合もできない。乙第1号証に記載された商品サンプルが配送されたのか特定できない。
加えて、乙第6号証及び乙第7号証は、ヤマト運輸会社の伝票であるが、この会社の伝票は、荷物の大きさにより異なる伝票が使用されている。すなわち、荷物の縦、横、高さの合計が、160cm以内、もしくは重さが25kgまでの荷物の場合は、「宅急便」と呼称し、乙第6号証及び乙第7号証のような赤色の伝票(甲2)が使用され、それ以上のサイズの荷物の場合は、「ヤマト便」と呼称して区別し、緑色の伝票(甲3)を使用している。それぞれの伝票も、左端に、「宅急便」、「ヤマト便」と異なる文字が縦書きされて区別されている。
(5)商品サンプルの頒布について
商標法における「商品」とは、商取引の目的物として流通性のあるもの、すなわち、一般市場で流通に供されていることを目的として生産され又は取引される有体物であると解される。
乙第6号証及び乙第7号証によれば、真偽は別として、商品サンプルは、青森県三戸郡のナカノ農事株式会社と長野県飯田市の株式会社アグリ長野飯田営業所に送られたことになっているが、商品サンプルが2業者に発送されただけで、その後、商品サンプル発送先業者からさらに一般取引者、消費者に頒布された証拠がない。すなわち、被請求人のいう商品サンプルは、試験的に特定のわずか2業者にのみ提供されたものであるため、一般市場で流通に供されることを目的とした「商品」とはいえない。また、このような市場流通前の商品サンプルはデザインや標章の変更もあり得るし、一般消費者が通常目にするものではないため商標の出所表示機能を発揮しているとはいえない。そして、このような名目的な使用行為が、商標法上の使用と認められると、商標の不使用に対する第三者の監視が困難になる。
仮に、一般取引者、消費者に頒布されたとしても、なんらかの書面、同時に配布したであろうパンフレット、商品説明書等も存在するはずである。これらの証拠の提出がないのは不自然であり、頒布の事実が明らかでないから、商標使用の事実も否認する。
3 平成29年11月29日付け口頭審理陳述要領書
(1)被請求人は、被請求人の製造に係る消臭剤(以下「本件消臭剤」という。)の商品サンプル自体が広告媒体であり、これをナカノ農事株式会社及び株式会社アグリ長野に送付した行為が商標法第2条第3項第8号に規定する、いわゆる広告的使用に該当すると主張しているが、妥当でない。同号は「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」と規定しており、有体物たる広告等に商標を付したものを「展示」、「頒布」する行為、無体物の場合は情報に標章を付して「電磁的方法により提供する行為」が使用に該当するとしている。「頒布」とは「広くゆきわたるように分かちくばること」(広辞苑第5版)であり、商品サンプルを特定の2業者にのみ納品しただけでは「頒布」したとはいえない。よって、被請求人の行為は商標法第2条第3項第8号に規定する商標の使用行為に該当しない。
(2)乙第1号証ないし乙第9号証の成立を否認する。
乙第1号証及び乙第2号証は、証拠説明書によれば平成29年6月28日に作成されたものである。しかしながら、乙第1号証の商品サンプルの製造年月日の記載もなく、これらの証拠によっては、同号証に示された商品サンプルが要証期間に存在したとする証拠とならない。
そして商品サンプルの発送された証拠として提出されている乙第5号証は、弁駁書にて述べているように、集計期間とプリントアウトの日付が前後逆転していることによる偽造の疑い及び被請求人自身の作成であり客観性がない。加えて、商品サンプルが発送された証拠として提出された乙第6号証及び乙第7号証の宅配便の発送伝票は、業者の受付印あるいは料金の記載もなく納品の事実を証するものではない。通常は、宅配便の荷受人の受領書の外にも発送人が荷物の発送先から受領証を受取るのではないか。それらの受領を証する書類の不存在、さらには発送伝票の色の相違についての請求人の指摘に関して何ら反論もなく、商品サンプルが発送された事実並びに存在したことを証する証拠がない。
また、乙第8号証及び乙第9号証は、平成29年6月5日に商品サンプル及びチラシが発送されたものであるが、本件審判請求日後のものであって、商品が要証期間に存在した証拠とはならない。
(3)本件商標権の譲渡交渉
請求人は、平成29年4月21日に審判請求を行い、その3日後の4月24日に譲渡の意向の存否を打診するレター(甲4の1)を被請求人に発信し、さらにその3日後の4月27日に電話をして譲渡の意向の確認を行っている。
以下に電話の内容の概略を述べると、被請求人は「家庭園芸用の肥料として使っている」と応じた。そこで請求人は、消臭剤及び芳香剤の関係の薬品についての使用許諾を打診した。被請求人は、「ネットで一般家庭用の分野にも出て行こうとしているので混乱を生じると思う」とのことで譲渡及び使用許諾を拒否し、電話を終えた。
以上の電話交渉では、被請求人が販売しているとされる消臭剤に関しての話は出なかった。それもその当時の6か月前の10月18日から商品サンプルを準備し2社に発送していたと主張しているにもかかわらず、この電話の時点で、使用していた事実が全く話に出ていない。すなわち、本件消臭剤は、要証期間に使用されていなかったからである。このように判断し、不明確な乙各号証の乙第1号証ないし乙第9号証が全て後に作成されたものとみることで全体が理解できる。
4 平成29年12月13日付け上申書における主張
本件商標の譲渡の意向の確認をするために、平成29年4月27日に商標権者にした電話の交信内容を、甲第5号証及びその反訳書にて明らかにする。
この証拠により、本件商標権者が、要証期間に本件商標を薬剤について使用していなかったことが立証される。
5 平成30年1月24日付け上申書(第2)における主張
(1)商品サンプルの存在
被請求人は、株式会社アグリ長野飯田営業所へ商品サンプルが発送された証拠として平成28年10月18日の日付が記載された乙第7号証の宅急便伝票を提出し、さらに、同29年12月13日付の同営業所からの書簡(乙11)を提出し商品サンプルの存在を主張している。
しかしながら、既に述べたように、乙第5号証(審決注:乙第7号証の誤り。)の宅急便伝票は、配送業者の受付印、料金の記載がなく納品の事実を客観的に証するものではなく、誰もが作成できるものである。
そして、乙第11号証の書簡は、平成28年10月の商品サンプルと同29年6月の発送商品に対し、取引先の農家及び一般の知人から寄せられた意見が連絡されたものである。通常、商品アンケートは、新商品の発売前に、商品サンプルを配布し、評判、意見を聞き、その反応の良し悪しにより、商品発売の可否を決定するものである。しかるに、書簡には「平成28年10月と同29年6月頃に受け取ったボタニカについては、取引先の農家及び一般の知人に使って貰いました。」とあり、商品サンプル以外に、平成29年6月の発売商品に対する意見も含めた記載となっている。しかも、商品サンプル発送が平成28年10月、その8か月後の同29年6月に商品発売、さらに商品発売の6か月後の12月13日にアンケートの結果が連絡されている。加えて、「末端価格が高いと売れない。」との意見は、取引業者の発言である。一般消費者であれば「末端価格」という表現はしない。商品サンプルのみならず発売商品についての意見をも含み、かつ一般消費者が使用しない語句を含む書簡は、非常に不自然で、信ぴょう性が少なく、作文であるといわざるを得ない。
そもそも、株式会社アグリ長野は農家向けに農薬、肥料や資材等を取り扱う会社であるにもかかわらず(甲6)、このような会社に一般家庭用向けの消臭剤の商品サンプルを納品すること自体に疑義がある。
(2)納品書(乙3)及び注文書(乙12)
納品書(乙3)には、商品名として「ボタニカ用ハンドスプレー」と記載されている。その理由として、平成30年1月10日付け被請求人提出の上申書において「事前にメーカーである東京光冠容器株式会社とは、同社製品の中から価格、容量、用途等に適合するスプレー容器を選択すべく電話などで相談しており、そのやりとりの中で商品名として既に『ボタニカ』という名称を使用していたにすぎない。」と述べている。乙第12号証は、注文書と掲記される書類である。この書類中には「品物:スプレー式ボトル300cc」の記載があり、「ボタニカ」の名称を使用しておらず、整合性に欠き、そして「スプレー式ボトル」の品名が商品「ボタニカ」であるかも不明であり、このような品番等の記載がないものでは、具体的商品が明確でなく商品取引において伝票の体をなさないものであり、乙第3号証及び乙第12号証に関する説明は、その場しのぎの説明であり信ぴょう性が薄い。
さらに、この書類は注文書と記載されているが、内容は全く注文とは無関係である。そして、この書類の内容は「納品書」作成の依頼である。注文をすれば物品等の納品とともに当然に納品書が届くのが商慣習であるのに、わざわざ納品書を要求し、それも同書類には「作成していただけましたら、PDFでメールをしていただけますでしょうか」と記載されており、つまり、前もって納品書の記載内容を確認するものである。これは、納品がないのに納品書を要求し、あたかも納品されたかのように装おうとする場合しか想像できないし、不自然である。しかも、上記書類の日付が平成29年6月29日と容器の納品日である同28年10月5日より後の注文となっている。加えて、これを誤記として上申している。もし誤記としても、上記した納付書作成の依頼が、商品納付日の3か月前となり、乙第12号証は信ぴょう性がないものである。
(3)商品別得意先別売上集計表(乙5)
被請求人は、集計表における集計期間とプリントアウトの日付が前後逆転している矛盾について、データファイルを開いた際には、集計期間の欄には各月の末日が表示されると釈明をしているが、それを立証する証拠は何も示されておらず、さらにプリントアウトされた平成29年7月12日より1か月以上も前の同年6月5日(乙8、乙9)の納品に関するデータの入力がされてないのは釈明と相違し、また被請求人自身の作成物であり客観性がない。
(4)乙第8号証及び乙第9号証の宅配便の発送伝票
乙第8号証の納品書には、被請求人が2017年6月5日にボタニカ300cc、50本を株式会社アグリ長野飯田営業所に納品したことが記載されている。その証拠としてヤマト運輸株式会社の宅急便の伝票が乙第9号証として提出されている。
乙第9号証には、宅配便業者のヤマト運輸株式会社発行の未収計算書と題するシールが貼付されており、同シールから「1件 486円」及びその下に「ヤマトビジネスメンバーズ」の印字が読み取れる。ボタニカは1本が300ccであるから、50本の総重量は15kgとなる。容器の重量及び同梱されたように記載されている「チラシ」の重量を加えると15kgを超えたものとなる。
そこで宅急便の料金を計算すると、ヤマト運輸のホームページで(甲7)、被請求人の所在地である東京都狛江(関東)から株式会社アグリ長野の所在地である長野市飯田(信越)へのお届け料金は、荷のサイズ140サイズの欄から、最大割引料金(クロネコメンバー割BIG)で1,542円となる(甲7の2)。昨年(2017年)10月に180円値上げされているので値上げ分を差し引いても約1,362円となる(消費税分の微差がでる。)(甲7の3)。
このように料金の記載が相違しており、乙第9号証の伝票も品名欄に、後に「ボタニカ」の記載を加筆して作成したと想像でき、乙第8号証とともに証拠の成立を否定する。
(5)まとめ
以上述べたように、乙各号証を真正なものと認めるには無理があり、乙第10号証以外の乙号証は全て被請求人において作成した疑いが濃厚であり、それらの証拠の真正を否認する。被請求人の主張は全て裏付けのないものであり認められない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
1 審判事件答弁書における主張
被請求人は、植物堆積物から抽出したフミン酸を主原料とし、檜から抽出したヒノキチオールを添加した、天然成分のみを原料とする消臭剤を開発した。これはトイレ、たばこ、ペット、靴など広範囲に適用できる消臭剤であり、第5類「薬剤」に属するものである。
この消臭剤はスプレー式プラスチック容器に入れられ、それに貼付されたラベルには、その中央部分に片仮名「ボタニカ」とやや小さい欧文字「BOTANICA」とが上下二段に表されている(乙1、乙2 以下「本件使用商標」という。)。本件使用商標と本件商標とは、欧文字と片仮名の表示が上下入れ替わっており、また書体が若干異なってはいるが、社会通念上同一であることは明らかである。
また、一例を挙げると、この商品の本格的な販売に先立って、要証期間である平成28年10月18日に新規な商品サンプルとして、株式会社アグリ長野、他1社に頒布された。商品サンプルであるので数量は計200本と限定的なものであり、有償で販売されたものではないが、それ自体商品の広告と見ることができる。すなわち、商標法第2条第3項第8号に定める商品の広告に標章を付して頒布する行為に該当し、標章の使用行為に当たる。
以上のとおり、本件商標は、商標権者によって要証期間に日本国内において使用されたものである。
2 平成29年7月31日付け上申書における主張
(1)被請求人は、答弁書において、被請求人が開発した「消臭剤」を平成28年10月18日に2社に頒布した旨述べ、乙第1号証及び乙第2号証を提出した。乙第1号証は、本件消臭剤を答弁書提出にあたって撮影したものであり、乙第2号証はその容器ラベル自体を複写したものである。
(2)本件消臭剤のスプレー式容器は、東京光冠容器株式会社によって製造され、被請求人に500個が納品された。同メーカーの平成28年(2016年)10月5日付け納品書には、納入された商品が「ボタニカ用ハンドスプレー」と印字されている(乙3)。
また、乙第2号証のラベルは、印刷業者である株式会社ショウエイパックによって印刷され、被請求人に500枚が納品されたものである。同社の平成28年(2016年)10月3日付け納品書には、品名として「ボタニカ300cc用ラベル」と記載されている(乙4)。
これらのラベルと容器を用いた300cc入りの本件消臭剤は、平成28年10月18日にナカノ農事株式会社及び株式会社アグリ長野飯田営業所に向けて、それぞれ100本ずつ納品されたことが被請求人の帳簿に記載されている(乙5)。また、これら2社に対して発送された事実は、宅配便の発送伝票の控えに記載された日付、届け先、依頼主、品名「ボタニカ300cc」等により裏付けられる(乙6、乙7)。
3 平成29年11月15日付け口頭審理陳述要領書における主張
(1)本件消臭剤(乙1)は、需要者側からのフィードバックによって改良される可能性はあるものの、一応の開発を完了したもので「試作品」ではない。
その消臭効果を知ってもらい販売につなげるため、平成28年10月18日に、商品サンプルとしてナカノ農事株式会社及び株式会社アグリ長野飯田営業所に送付されたものである(乙6等)。この消臭剤は、上記2社に対して無償で提供されたが、それは将来の有償での購入を誘引するため、すなわち宣伝目的でされた行為だからである。
商標法第2条第3項第8号は、商標の宣伝広告的機能を保護する趣旨で設けられたもので、商品又はその包装に標章を付する行為など(同項第1号以下)とは別個独立した宣伝広告的使用行為を、それ自体商標の使用行為とみなして保護するものである。ここでは「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」と規定され、宣伝用のチラシやパンフレット、新聞及び雑誌の広告などが典型的な媒体であるとされる。
しかしながら、販売を予定している当該商品と同等の商品サンプルを提供することが、チラシなどを頒布するよりも宣伝広告の媒体として優れていることは明らかであり、広告機能を最も強く発揮することはいうをまたない。
このような商品サンプル提供による宣伝の効果として、実際に平成29年6月5日には、株式会社アグリ長野飯田営業所に対して商品の販売に至っている(乙8、乙9)。
よって、本件消臭剤の引渡しは商標法第2条第3項第8号に定める「商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して頒布」する行為に該当すると解するべきである。
また、必要に応じて随時作成可能なチラシや新聞広告などよりも、販売を予定している商品サンプルの方が証拠価値において優れることは明らかである。
(2)被請求人(商標権者)は、肥料を主体として開発製造を行う法人であり、一般消費者とは異なって日々大量の商品取引を行うことから、宅配便業者(ヤマト運輸営業所)では、発送先ごとの伝票全てに受付印を押捺せず、うち1枚のみに受付印を押捺して済ませるのが実務である。本件の宅配便発送伝票控え(乙6、乙7)に受付印が見られないのはそのためである(同時に発送された別の便には受付印が押捺されたものがある)。よって、受付印の押捺した伝票控えを提出することができない。
(3)平成29年7月29日付け証拠説明書の作成者欄に記載したAは本件商標権者の代表取締役であり(乙10)、これらの書証の撮影(乙1)、複写(乙1、乙2)、印刷(乙5)を行った者である。
4 平成30年1月10日付け上申書における主張
(1)本件消臭剤(乙1)の存在について
要証期間に本件消臭剤が実在したことは、既に提出した乙各号証により明らかになったものと考えるが、さらに、本件消臭剤の受取人である株式会社アグリ長野飯田営業所(乙7)が被請求人に宛ててファクス送信された「消臭剤 ボタニカについて」と題する平成29年12月13日付け書簡(乙11)において、「昨年の10月と今年6月頃に受け取ったボタニカについては取引先の農家及び一般の知人に使ってもらいました。」などと記述されていることから一層明らかである。
(2)納品書(乙3)の「商品名」欄の記載について
被請求人は、製造数量の少ない本件消臭剤について専用の容器を特注することはコストがかかりすぎるため、既製品を使用することとしていた。納品書(乙3)の「商品名」欄において「ボタニカ用ハンドスプレー」との記載があるのは、事前にメーカーである東京光冠容器株式会社とは、同社製品の中から価格、容量、用途等に適合するスプレー容器を選択すべく電話などで相談しており、そのやりとりの中で商品名として既に「ボタニカ」という名称を使用していたからにすぎない。
なお、本件消臭剤の内容液は、被請求人会社の福島工場において製造されたものである。よって、被請求人は当該容器を同工場に直接納品するよう依頼し、それに従って平成28年10月5日に納品されている(乙3、乙12)。
(3)商品別得意先別売上集計表(乙5)について
商品別得意先別売上集計表(乙5)は、本件審判事件において必要となったために平成29年(2017年)7月12日に印刷したものであるが、この集計表は保存されたデータファイルを開いた月の末日までのデータが表示されるようにプログラムされている。集計期間の欄には常に各月の末日が表示されるから、出力者情報に表れた日付と一致しないことは何ら不自然なことではない。
(4)その他
ア 請求人が、「ヤマト便」と称する大型のサイズの荷物については緑色の伝票(甲3)が使用されるとしている点については、被請求人が日々大量の商品の発送を行い、同じ送付先に反復して発送することも多い関係上、同社が宛先等を機械プリントしているが、たまたま予め備え置きした赤色の伝票を継続して使用しており、特に宅配業者から緑色の伝票を使うよう要請されていなかったからにすぎない。
イ 平成29年4月27日の電話交渉において、請求人は、その際に本件消臭剤についての話が出なかったとして通話記録(甲5)を提出し、これにより本件商標が使用されなかったと主張している。しかし、競業者に対して、自らの商品内容を具体的かつ正確に伝える必要性も義務もないし、むしろマーケティングの初期段階にあっては秘匿するのが賢明であるともいえるのであって、根拠のない主張である。
(5)乙第12号証の誤記についての補足
乙第12号証の「注文書」の日付は「平成29年6月29日」と記載されているが、「平成28年6月29日」とすべきを誤って記載したものである。

第4 当審の判断
1 被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(1)乙第1号証は、被請求人によれば、スプレー式プラスチック容器に入った消臭剤の商品サンプルの写真であるところ、容器に貼付されたラベルには、被請求人の名称及び住所とともに、中央部に「植物性 消臭剤」「BOTANICA」「ボタニカ」の文字が付されている。
(2)乙第5号証は、被請求人作成の「商品別得意先別売上集計表」と題する2017年7月12日に出力された書面であり、「集計期間」として「平成28年10月1日?平成29年7月31日」の記載がある。当該売上集計表の「名称」欄の「ボタニカ 300cc」の記載の下に、「28/10/18」「ナカノ農事株式会社」「株式会社アグリ長野 飯田営業所」の記載があり、いずれも「販売返品数量」欄には、それぞれ「100」の記載があり、「総売上高」「消費税」「税込純売上高」の各欄には「0」の記載がある。
(3)乙第6号証は「ナカノ農事株式会社」、乙第7号証は「株式会社アグリ長野 飯田営業所」をそれぞれ宛先とする被請求人が依頼した宅配便発送伝票の写しであり、いずれも「受付日」欄には「28年10月18日」、「品名」欄には「ボタニカ 300cc」の記載があるが、「荷受印」の欄に捺印はない。
(4)乙第8号証は、被請求人による「株式会社アグリ長野 飯田営業所」宛ての2017年6月5日付け納品書の写しであり、「コード・商品名」欄に「ボタニカ 300cc」、「数量」欄に「50」、「単位」欄に「本」、「単価」欄に「750」、「金額」欄に「37,500」の記載がある。
(5)乙第9号証は「株式会社アグリ長野 飯田営業所 ●様」を宛先とする被請求人が依頼した宅配便発送伝票の写しであり、「品名」欄には「チラシ/ボタニカ」の記載があるが、「受付日」欄は空欄であり、「荷受印」の欄に捺印はない。なお、当該伝票には、被請求人宛の2017年6月5日付け「未収計算書」が添付され、「未収 1件 486円」の記載がある。
2 上記1によれば、当審の判断は、以下のとおりである。
被請求人は、スプレーボトル入りの消臭剤(以下「本件商品」という。)であって、そのラベルに本件商標と社会通念上同一と認められる「BOTANICA」及び「ボタニカ」の文字を付した商品について(乙1)、正式販売前の広告のために商品サンプル(無料)を要証期間の平成28年10月18日に、2社(ナカノ農事株式会社及び株式会社アグリ長野飯田営業所)に対し、それぞれ100本送付し(乙5?乙7)、さらに、実際に平成29年6月5日(要証期間後)には、株式会社アグリ長野飯田営業所に対して商品の販売に至っているので(乙8、乙9)、このうち、要証期間に2社に対し、商品サンプルを送付したことは、商標法第2条第3項第8号(商品に関する広告に標章を付して頒布する行為)に該当する行為と解するべきである旨主張している。
しかしながら、乙第5号証は、被請求人の社内作成書類の写しであり容易に作成可能なものにすぎず、また、乙第6号証、乙第7号証及び乙第9号証は、宅配便発送伝票の写しであるところ、当該伝票に受付印などがなかったため、平成29年12月13日に行った口頭審理において、審判長は、被請求人に対し、当該伝票に係る取引の内容(「お問い合わせ送り状番号」、「料金」、「重さ」等)を確認することができる宅配業者保管の取引の控えの提出を求めたが、何らの提出もなかった。
そうすると、被請求人の提出した証拠からは、要証期間に、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を付した本件商品を、商品サンプルとして顧客に送付したということはできないから、商標法第2条第3項第8号に該当する行為を行ったと認めることはできない。
3 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標権者、通常使用権者又は専用使用権者のいずれかが、その請求に係る指定商品について、本件商標の使用をしていることを証明したものということができない。
また、被請求人は、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定商品中、「結論掲記の指定商品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-07-13 
結審通知日 2018-07-18 
審決日 2018-07-31 
出願番号 商願平10-103161 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z05)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大森 健司
特許庁審判官 小松 里美
松浦 裕紀子
登録日 1999-11-05 
登録番号 商標登録第4332016号(T4332016) 
商標の称呼 ボタニカ 
代理人 松田 次郎 
復代理人 伊丹 辰男 
代理人 苫米地 正敏 
代理人 松田 省躬 

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