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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W4144
審判 一部申立て  登録を維持 W4144
管理番号 1339347 
異議申立番号 異議2017-900280 
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-12 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
事件の表示 登録第5956787号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5956787号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5956787号商標(以下,「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成28年2月8日に登録出願,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,アロマセラピーの教授,セミナーの企画・運営又は開催,アロマセラピーに関するセミナーの企画・運営又は開催,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」及び第44類「あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,はり,アロマセラピーに関するカウンセリング,アロマセラピーの提供」を指定役務として,同年12月6日に登録査定,同29年6月23日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は,以下のとおりであり,いずれも現在有効に存続しているものである。
1 登録第2704127号商標(以下「引用商標1」という。)は,「COCO」の欧文字を書してなり,昭和61年11月27日に登録出願,第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,平成7年2月28日に設定登録され,その後,2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ,指定商品については,同17年6月8日に,第3類「化粧品,香料類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第520006号商標(以下「引用商標2」という。)は,「Co Co」の欧文字と「コ コ」の片仮名を上下二段に書してなり,昭和31年3月21日に登録出願,第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同33年5月13日に設定登録され,その後,4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ,指定商品については,平成20年11月26日に,第3類「化粧品(化粧用染料及び化粧用顔料を除く。),香料類(薫料,香精,天然じゃ香,芳香油を除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第4492799号商標(以下「引用商標3」という。)は,「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を標準文字で表してなり,平成12年7月21日に登録出願,第3類「化粧品,せっけん類,香料類,かつら装着用接着剤,つけづめ,つけまつ毛,つけまつ毛用接着剤,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用漂白剤,洗濯用ふのり,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」を指定商品として,同13年7月19日に設定登録されたものであり,その後,同23年6月28日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
4 国際登録第1108062号商標(以下「引用商標4」という。)は,「COCO NOIR」の欧文字を書してなり,2011年7月13日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し,2012年(平成24年)1月13日に国際商標登録出願,第3類「Preparations the care of the skin, scalp, hair or nails; preparations for application on the skin, scalp, hair or nails; soap, perfumery, essential oils, cosmetics; non-medicated preparations for toiletry use.」を指定商品として,平成24年12月21日に設定登録されたものである。
なお,引用商標1ないし引用商標4をまとめていうときは,以下「引用商標」という。

第3 登録異議の申立の理由
申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第15号若しくは同第19号に該当するものであるから,同法第43条の3第2項によって取り消されるべきである旨申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第168号証(枝番を含む。)を提出した。
1 引用商標の著名性について
申立人は,著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」により創設され,香水等の化粧品の他,高級婦人服,ハンドバッグ,ベルト,靴,時計,アクセサリー等の宝飾品などのデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするトータルファッションメーカーである。申立人の業務に係る商品は,極めて高い知名度を有しており,いずれも洗練された高品質の商品として知られ,申立人の長年の継続的な努力によって,世界の超一流品としての極めて高い信用が日本においても形成され,著名性を獲得している。
引用商標1及び引用商標2にかかる「COCO」又は「COCO/ ココ」は,この申立人の創設者である「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称に由来するものであり,申立人はこの引用商標1及び引用商標2を,申立人の商品「香水」等に使用している(甲6?甲10,甲13?甲132,甲151,甲153)。
申立人による香水「COCO」又は「ココ」は,1984年7月23日にフランスにおいて発表され(甲38,甲123),次いでヨーロッパにおいて同年9月に発売され(甲32),日本においてはその翌年の1985年9月20日に発売されたものである(甲47?甲94)。
この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は,1985年の日本での発売と前後して極めて多数の新聞,雑誌によって報道,紹介され,また各種雑誌に広告記事が掲載されている(甲28?甲103)。
申立人の香水「COCO」又は「ココ」の日本における発売開始年度である1985年9月から12月末日までの約3ヶ月間だけでも,2億5千万円余の販売実績を達成しており,その後も申立人は継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行っている。また,申立人は日本において,発売開始後も現在に至るまで約30年近くにわたり,該香水「COCO」又は「ココ」に化体した信用,評判,名声を落とさぬよう,1992年度には9億円以上,その後も毎年約4億円近くもの広告費をかけ,継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行い,努力を継続している(甲104?甲112,甲152?甲160,甲162?甲164)。この申立人による不断の努力により引用商標1及び引用商標2が付された商品は継続して高い評価を得ており,世界の一流品を掲載する各種刊行物にも紹介されるに至っている(甲113?甲131)。なお,リサーチ会社「INFOPLAN」による香水の著名度に関する調査においても,著名な香水のトップ3にはすべて申立人の香水がランクされており,この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は,香水を使用する人の78%,香水を使用しない人でも60%,トータルで68%の人が知っており,申立人の信用の維持のための継続した努力の結果が現れているものである(甲132)。その他にも,ファッションに敏感な女性が愛読するファッションのオンライン雑誌「ELLE ONLINE」にて読者が「人生を変えたフレグランス」として 「COCO」が選ばれる等(甲153),1985年に日本で発売されて以降,現在に至るまで非常に長い間,日本の需要者の間で愛されて続けている香水である。
申立人は,引用商標1及び引用商標2にかかる「COCO」又は「ココ」を1984年に発売後,その時代に合わせた「COCO」シリーズを展開している。例えば,2001年には,引用商標3にかかる「COCO MADEMOISELLE」(ココ マドモワゼル)を,2012年には,引用商標4にかかる「COCO NOIR」(ココ ヌワール)を発売した。いずれも,その香水の香りやデザイン,CF等の広告宣伝でも注目を浴び,大ヒット商品となり,引用商標1及び引用商標2にかかる「COCO」と並んで,申立人の香水の人気商品のひとつとなっている(甲12,甲16?甲18,甲20,甲151,甲152,甲154?甲164)。
このことは,1973年に始まったアメリカのフレグランス協会(Fragrance Foundation)がその年の最も優れた香水をニューヨーク市のジャーナリストや香水小売業者の投票により決定される「香水のアカデミー賞」ともいわれる「FIFI賞」(FIFIAWARD)において,その最高の賞として,発売から15年以上経った優れた香水から選ばれている「殿堂入り部門」(Fragrance Hall of Fame)に引用商標1及び引用商標2にかかる「COCO」の香水が1996年に選ばれていることからも,業界内で永年注目を浴び確かな評価を勝ち得ていることは明らかである(甲19,甲20,甲151)。また,引用商標3にかかる「COCO MADEMOISELLE」についても,2002年度の「FIFI賞ベストフレグランス(フランス)」に輝き,2012年度の「メディア・キャンペーン部門」にも選ばれており(甲20,甲151,甲162),申立人の「COCO」シリーズが現在に至るまで,世界中で広く知られ,日本においてもその人気や評判が知れ渡っている。
このように,申立人は,引用商標1ないし引用商標4にかかる「COCO」ブランドにつき,1984年の発売から現在に至るまで,「COCO」に化体した信用,評判,名声等が損なわれぬよう,「COCO」の広告宣伝方法から「COCO」の新シリーズの発売等,不断の努力をし続けている。
以上のことから,本件商標の出願時である2016年にはすでに,引用商標にかかる「COCO」又は「ココ」は,申立人の創設者であり著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られており,また申立人が商品「香水」等に使用する商標として,広く知られ著名性を獲得するに至っていたというべきである。
2 本件商標と引用商標との類似性について
(1)本件商標及び引用商標の構成
本件商標は,漢字「湖香」と筆記体風に書した欧文字「COCO」を上下二段に配した構成よりなる商標である。本件商標は漢字「湖香」と欧文字「COCO」が上下二段に分離され,また「COCO」部分は「湖香」部分に比して極めて大きく記載されている。
よって,「湖香」部分と「COCO」部分は,文字の大小・書体・漢字と欧文字の文字種の違いがあることにより,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標であるといえる。したがって,本件商標は,簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,その構成中の顕著に大きく表された「COCO」部分を要部と捉えて,これから生じる称呼により取引に資するというべきである。
加えて,本件商標の「COCO」部分については,上述したように著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られ,また申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから,その著名性をうけて,本件商標に接する需要者・取引者にとっては,おのずと,下段の 「COCO」部分が強く記噫に残り,該部分が,本件商標の要部として認識されるものである。
したがって,本件商標の構成中「COCO」部分が独立して本件類否判断の対象となる要部となり,当該要部から,「ココ」の称呼が生じるとみるべきである。
一方,引用商標1は,欧文字の「COCO」を書してなり,引用商標2は上段に欧文字の「CoCo」を,下段に片仮名の「ココ」を二段に書してなる構成である。よって,引用商標1及び引用商標2からは自然に「COCO」部分から「ココ」との称呼が生ずるものである。
引用商標3は,欧文字の「COCO MADEMOISELLE」を書してなり,引用商標4は,欧文字の「COCO NOIR」を書してなり,いずれもその構成中に「COCO」の欧文字を含む商標である。そして,引用商標3の構成中「MADEMOISELLE」はフランス語で「未婚女性の敬称」等を意味することから「女性用」といった意味合いを想起させ,引用商標4の構成中「NOIR」はフランス語で「黒色」を意味する言葉であり,これらの語は「化粧品」等の分野においては識別力が弱いというべきである。
よって,引用商標3及び引用商標4からは「COCO」部分より「ココ」との称呼も生ずるというべきである。
(2)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標とを比較すると,各商標はそれぞれ上記の構成からなり,本件商標の「COCO」が,本件商標の要部というべきである。また,本件商標の「COCO」部分は,上述したように著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られた「COCO」を想起させるものである。そして,引用商標「COCO」は,申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから,その著名性をうけて,本件商標においても「COCO」の文字部分が強く印象に残り,その要部として認識されるというべきである。そうすると,本件商標の要部である「COCO」の文字部分と引用商標からは,同一の「ココ」との称呼を生ずる。
以上より,本件商標の要部が「COCO」の文字部分であることから,本件商標と引用商標は,ともに著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られた「COCO」を想起させるものとして共通する観念を有し,外観上も引用商標の「COCO」と同一の欧文字のつづり字からなり,さらに互いに「ココ」の称呼を生ずることから,商標自体が類似するものである。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度
上述のとおり,本件商標の要部は「COCO」の文字部分というべきであり,申立人の業務に係る化粧品,香料類等の商標として著名な「COCO」と文字構成が同一であって,そこから生ずる称呼が「ココ」と同一であることから,本件商標と引用商標は,類似性の程度が極めて高いものである。
(2)引用商標の周知著名性の程度
申立人の業務にかかる商品に使用される商標として,日本を含め世界的に周知著名なブランド名であることは明白である。
そして,著名商標である,引用商標の独創性の程度については,引用商標は,申立人の創業者である「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称に由来するものであり,特定の意味合いを看取させるものではないことから,創造標章であることは明白である。
(3)本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
引用商標の使用に係る「化粧品,香料類」等の商品と本件商標の指定役務である「マッサージ,アロマセラピーに関するカウンセリング,アロマセラピーの提供」等との関係についてみると,「化粧品,香料類」の中には,マッサージを目的にした商品(例えば,マッサージオイル,マッサージクリーム,マッサージローション)やアロマセラピーを目的にした商品(例えば,精油,香料,香水)があり,その用途や用法,品質等からみれば,引用商標の使用にかかる「化粧品,香料類」と本件商標にかかる「マッサージ,アロマセラピーに関するカウンセリング,アロマセラピーの提供」の役務の間の関連性の程度は高いというべきである。また,両者の需要者には,マッサージ,アロマセラピー等の効果について深い関心を寄せる者(主として女性)が含まれるから,両者は,その需要者を共通にするというべきである。さらに近年のファッションにおいては,単に被服やバッグ等の身に着けるものだけを洗練させたりコーディネートするだけではなく,顔や身体そのものについても身に着けるものに合わせて化粧をし,手入れを行う等,頭の先からつま先までをトータルでコーディネートする傾向にある。そして,エステティックやマッサージ・アロマセラピー等の役務提供の際には,化粧水や美容液,美容オイル等の化粧品が使用されており,化粧品メーカーがエステティックサロンやアロマセラピーサロンを営むことは一般的に行われていることである。例えば,DIOR,CLARINS,GUERLAIN,CARITA,資生堂,コーセー,POLAといった有名化粧品メーカーが,エステティックサロンを直営している例が複数存在している(甲145の1?甲145の7)。また,オーガニック化粧品として有名なJurliqueや自然化粧品として有名なVELEDAがアロマセラピーのサロンや,化粧品を販売する横でトリートメントルームを設置し,アロマセラピーを行っている(甲145の8?甲145の10)。
申立人自身も,2015年にパリの5つ星ホテル,リッツ・パリ(Ritz Paris)にスパ「シャネル・オ・リッツ・パリ(Chanel au Ritz Paris)」を開業しており,そのスパでは,申立人のスキンケア商品を使用したトリートメントが受けられる(甲146の1)。
さらに,上記の点については,「美容,理容,エステティック美容(痩身,脱毛,美顔,まつ毛カール含む。),スキンケア美容,ネイルケア美容,アロマオイルを使用する美容」を指定して出願された申立人所有の別件商標で「香水」等に使用される商標として周知著名な「ALLURE」と類似する第三者の商標に対する異申立てあるいは審査において,「指定役務中の『美容,理容』は,ファッションと密接な関係を有するものであり,申立人の業務に係る商品『香水』とは,その点において互いに共通性を有するものである。」(異議2015-900324)と判断され,申立人あるいは申立人と何らかの関係がある者の業務にかかる商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれがあると認められていることからも,アロマセラピーがアロマオイルや香水・精油といった化粧品を使用する美容と関連する役務というべきであるから,本件商標に係る役務と申立人の業務に係る商品が密接な関連性があることは明らかである(甲146の2,甲146の3)。
以上より,本件商標と引用商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に,商品・役務間の関連性,商標自体の類似性の程度,引用商標の著名性の程度,著名である引用商標の独創性の程度,取引者及び需要者の共通性,並びに実際の具体的取引の実情を勘案すると,本件商標がその指定役務に使用されると,取引者及び需要者は,それらの役務が恰も申立人若しくは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると,その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
そして,著名な引用商標と類似するというべき本件商標がその指定役務に使用された場合には,その商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれがあると判断されるべきである。
また,著名な引用商標「COCO」と相紛れるおそれのある本件商標が,当該著名表示に化体した高い名声及び信用にフリーライドすることによって,当該著名表示に化体した名声,信用,及び評判の稀釈化が引き起こされるというべきであり,この引用商標に対する希釈化を防止し,引用商標が有する自他商品識別機能を保護すべきであり,本条の趣旨から考えても本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。
以上のように,本件商標が引用商標1ないし引用商標4を容易に想起させる類似商標であること,引用商標の有する高度な著名性,両商標の指定商品・役務間の関連性が高いこと,及び,その指定商品の取引者・需要者は大部分において重なり合うといった前記具体的実情を考慮すると,本件商標がその指定役務に使用される際には,これに接する取引者・需要者は,恰も申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何等かの関係がある者の業務であるかの如く誤認し,その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである
したがって,本件商標登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してなされたというべきであり,その登録は取り消されるべきである。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標の著名性
引用商標は,申立人の業務及び同人の業務に係る化粧品等について使用された結果,「COCO」のつづり及び「ココ」の称呼のもと,全国的に高い著名性を有する商標であり,引用商標は,商標法第4条第1項第19号に規定する 「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当するものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性
本件商標を引用商標は,上述のとおり互いに類似する商標である。
(3)出願人の「不正の目的
引用商標は,前述のように申立人による長年にわたる努力の積み重ねの結果,取引者,需要者間において広く知られ,高い名声・信用・評判を獲得するに至っており,本件商標の出願時である平成27年(2015年)12月10日には,引用商標はすでに申立人の業務に係る商品に使用される商標として極めて広く知られていた著名商標であり,「COCO」といえば申立人が製造販売する世界的に有名な香水等の化粧品ブランドの「COCO」との観念が一義的に生じるものである。
一方,本件商標の要部は,かかる著名な引用商標の「COCO」と文字構成が同一であって,同一の称呼が生じ,指定役務が申立人の「COCO」が著名性を獲得した「化粧品,香料類」と極めて密接な関連を有する役務であることを考えると,商標権者が著名な引用商標を知らず,偶然に著名な引用商標と同一のつづり及び同一の称呼を生じる文字からなる本件商標を出願したとは考え難く,引用商標の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的で出願,使用されているものと推認される。
したがって,商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当するというべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標の著名性について
(1)申立人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
申立人の提出した甲第6号証ないし甲第20号証,甲第23号証ないし甲第131号証及び甲第151号証ないし甲第164号証を総合すると,申立人の業務に係る商品のうち「香水」について使用される「COCO」又は「ココ」(これらを以下「申立人商標」という場合がある。)は,申立人の創設者である「ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)」の愛称に由来する(甲23,甲24,甲26等)。
申立人商標を付した香水(以下「申立人商品」という。)は,1984年(昭和59年)7月にフランスで発売され,同年9月には,ヨーロッパで発売され(甲17,甲18,甲32等),その報道は,我が国の新聞やファッション雑誌等で紹介され(甲32,甲33,甲35?甲40等),申立人商品は,我が国では,翌年の1985年(昭和60年)9月に発売が開始されたところ,その発売開始の前後を通して,申立人商品の発売に関する記事が,多数の新聞やファッション雑誌等で掲載された(甲41?甲94)。
また,「COCO」の文字を表示した申立人商品の広告がファッション雑誌等に掲載された(甲95?甲109,甲112,甲118,甲119,甲122?甲131)。
その後,申立人は,申立人商品のシリーズ商品として,2001年(平成13年)に,「COCO MADEMOISELLE」の欧文字よりなる商標を付した香水を,2012年(平成24年)には,「COCO NOIR」の欧文字よりなる商標を付した香水を,それぞれ発売した(甲16?甲18,甲151,甲152,甲154?甲164)。
(2)以上の事実によれば,申立人商標に係る「COCO」又は「ココ」の文字は,申立人商品を表示するものとして,「香水」の分野の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。
しかしながら,申立人商標は,申立人が提出した証拠によれば,主として「香水」に使用されているものであって,それ以外の商品について広く使用されている事実は見いだせない。
そうすると,申立人商標の周知性は,「香水」を取り扱う分野である「化粧品」の範囲にとどまるものというのが相当であり,その化粧品の分野を超えて,本件登録異議の申立てに係る指定役務の分野の需要者にまで,広く知られているとは認めがたいものである。
また,本件登録異議の申立てに係る第44類の指定役務「あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,はり,アロマセラピーに関するカウンセリング,アロマセラピーの提供」と,申立人の業務に係る商品「香水」は,一般的にその役務の提供場所とその商品の製造,販売場所が一致するとはいえないし,かつ,同一の事業者によって行われているのが一般的であるということはできないから,両者は相互に類似する役務と商品の関係にあるものと認めることができない。
そして,申立人の提出された証拠によっては,申立人商標が,本件登録異議の申立てに係る指定役務の分野の需要者にまで,広く知られていると認めるに足る証拠を見いだすこともできない。
以上を踏まえると,「COCO」並びに「Co Co」及び「ココ」の文字からなる引用商標1及び引用商標2も,申立人商標と同様に,申立人の業務に係る「香水」及びこれを取り扱う「化粧品」の分野における需要者の間に,広く知られていたと認められるものの,本件登録異議の申立てに係る指定役務の分野の需要者においてまで,広く知られているとは認められないものである。
また,「COCO MADEMOISELLE」及び「COCO NOIR」の文字からなる引用商標3及び引用商標4は,それらを付した「香水」等を発売したことは認められるものの,申立人の業務に係る商品を表すものとして広く知られていたと認めるに足る証拠の提出はないから,引用商標3及び引用商標4は,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く知られているとは認められない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標
本件商標は,別掲1のとおり,「COCO」の欧文字を筆記体風に全体を草のつるを表したような一体的な図形のようにデザイン化して表し,その3文字,4文字目の「CO」の文字部分の上に少し離れて小さく「湖香」の漢字を配した構成からなるところ,該欧文字部分及び漢字部分は,文字の大きさ,表記方法,文字種等の相違により,それぞれが視覚上,分離して看取されるとみるのが相当である。
そして,「COCO」の文字は,辞書に載録されていない語であるから,該文字部分より特定の観念を生じないものであり,また,「湖香」の文字も,辞書に載録されていない語であるから,該文字部分より特定の観念を生じないものであるから,両語は,いずれも特定の観念を生じない造語を表したものとして理解されるものであり,両者の観念上のつながりは見いだせない。
してみると,本件商標からは,「COCO」の文字部分に応じて「ココ」の称呼を生じ,「湖香」の文字部分から,「ココウ」の称呼を生じるというべきであって,特定の観念を生じないものといわなければならない。
イ 引用商標
引用商標1は,「COCO」の欧文字を書してなるものであり,引用商標2は,「Co Co」の欧文字及び「コ コ」の片仮名を上下二段に書してなるものであり,引用商標3は,「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を標準文字で表してなるものであり,引用商標4は,「COCO NOIR」の欧文字を書してなるものである。
そして,その構成文字に相応して,引用商標1及び引用商標2からは,「ココ」の称呼,引用商標3からは,「ココマドモワゼル」の称呼及び引用商標4からは,「ココヌワール」の称呼をそれぞれ生じるものである。
また,引用商標1及び引用商標2は,それぞれ「COCO」の文字を含むから,いずれも「申立人の著名ブランドとしてのCOCO(ココ)」の観念を生じるものであり,引用商標3及び引用商標4は,特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否
そこで,本件商標と引用商標の外観を比較するに,それぞれ上記ア及びイのとおり,本件商標は,「COCO」の文字部分を一体的な図形のようにデザイン化して表した構成態様からなり,また,引用商標は,「COCO」の欧文字をその構成中に含むものであるとしても,普通に用いられる態様で表してなるものであるから,両商標は,外観上,十分に区別できるものである。
次に,称呼においては,本件商標は,「COCO」の文字部分に応じて「ココ」の称呼を生じ,「湖香」の文字部分から,「ココウ」の称呼を生じるものであり,引用商標1及び引用商標2は,「COCO」又は「ココ」の文字部分から,「ココ」の称呼を生じるものであるから,両商標は「ココ」の称呼において,同一のものである。
また,引用商標3及び引用商標4は,それぞれの構成文字に相応して,「ココマドモワゼル」又は「ココヌワール」の称呼を生じるものであるから,本件商標とは,称呼において,相紛れるおそれのないものである。
さらに,観念においては,本件商標は,上記のとおり特定の観念を生じないものであり,引用商標1及び引用商標2は,申立人の著名ブランドとしての「COCO」又は「ココ」の観念を生ずるものであるから,本件商標とは,相紛れるおそれのないものであり,引用商標3及び引用商標4は,特定の観念を生じないものであるから,本件商標とは,比較することはできない。
してみれば,本件商標と引用商標1及び引用商標2とは,称呼においては,同一の称呼を生じるものとしても,外観においては,十分区別できるものであり,観念においては,類似するものではない。
また,本件商標と引用商標3及び引用商標4とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において,十分区別できるものである。
以上からすれば,本件商標と引用商標とは,相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,本件商標は,引用商標と別異の商標であるというべきである。
(2)出所の混同のおそれ
以上のとおり,引用商標は,本件登録異議の申立てに係る指定役務を取り扱う業界において,広く認識されていたものといえず,また,本件商標と非類似の商標であるから,商標の類似の程度は低いものである。
そして,申立人の業務に係る商品と申立てに係る指定役務とは,類似するものではなく,その関連性も低いものである。
してみると,本件商標をその指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者は,引用商標を想起,連想するものとはいえず,該役務が申立人又は同人と経済的,若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると,上記1のとおり,引用商標は,いずれも,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国及び外国の需要者の間で,申立人の業務に係る商品を表す語として,「化粧品」の分野を超えて広く認識されていたとはいえないものであって,上記(1)のとおり,引用商標は,本件商標と非類似の商標であるから,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,本件登録異議の申立てに係る指定役務について,商標法第4条第1項第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから,同法第43条の3第4項の規定により,その登録を維持すべきである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲(本件商標)



異議決定日 2018-04-10 
出願番号 商願2016-18737(T2016-18737) 
審決分類 T 1 652・ 222- Y (W4144)
T 1 652・ 271- Y (W4144)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石塚 文子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 山田 正樹
榎本 政実
登録日 2017-06-23 
登録番号 商標登録第5956787号(T5956787) 
権利者 河越 京子
商標の称呼 ココ、ココー、コカ 
復代理人 池田 万美 
復代理人 佐藤 俊司 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 

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