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審決分類 審判 査定不服 商4条1項14号 種苗法による登録名称と同一又は類似 登録しない W43
管理番号 1339311 
審判番号 不服2015-6881 
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-13 
確定日 2018-04-24 
事件の表示 商願2014-21566拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は,「JIS」の欧文字を標準文字で表してなり,第41類,第43類及び第45類に属する願書記載のとおりの役務を指定役務として,平成26年3月20日に商標登録出願されたものである。
そして,本願商標の指定役務は,当審における同27年4月13日受付けの手続補正書により,第43類「飲食物の提供,アルコール飲料を主とする飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,カラオケ施設における飲食物の提供,カクテルラウンジ及びナイトクラブにおける飲食物の提供,宴会及びパーティにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),パーティ用料理及び飲料のケータリング」に補正されたものである。

第2 原査定の理由の要点
原査定は,「本願商標は,日本工業標準調査会(経済産業省に設置されている審議会)で,工業標準化法に基づいて工業標準化に関する調査審議を行っている日本工業規格(我が国の工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格)「Japanese Industrial Standards」の著名な略称である「JIS」の文字を標準文字で表してなるから,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する著名な標章と同一又は類似のものと認める。したがって,本願商標は,商標法第4条第1項第6号に該当する。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

第3 当審における証拠調べ通知等
当審において,請求人に対し通知した証拠調べ(平成27年8月10日付け)及び審尋(同28年1月28日付け及び4月7日付け)の内容は,要旨以下のとおりである。
1 本願商標は,「JIS」の欧文字を標準文字で表してなるところ,該欧文字は,広辞苑第六版の「ジス【JIS】」の項によれば,「(Japanese Industrial Standard)日本工業規格。工業標準化法によって制定される鉱工業品に関する国の規格。」の記載があり,同じく「ジス-マーク」の項によれば,「(和製語)ジス(日本工業規格)に基づいて製造業者が認証を受けた商品等に付けるJISのマーク。」の記載がある。
2 「JIS」の欧文字については,以下のインターネット情報がある。
(1)「JISC 日本工業標準調査会」のウェブサイトには,「JIS(Japanese Industrial Standards)とは」のタイトルの下,「JIS(日本工業規格)とは,我が国の工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格です。JISは,2015年3月末現在で,10,599件が制定されています。」の記載がある。
(https://www.jisc.go.jp/jis-act/)
そして,「工業標準化制度の概要」には「我が国の工業標準化制度は,主務大臣(経済産業大臣,国土交通大臣,厚生労働大臣,農林水産大臣,文部科学大臣,総務大臣,環境大臣の7大臣)が,工業標準化法,同施行規則,調査会規則等に規定された手続きに従って,国家行政組織法第8条による審議会である日本工業標準調査会(Japanese Industrial Standards Committee,以下,『調査会』又は『JISC』という。)による調査審議を経て制定される『日本工業規格(Japanese Industrial Standards,以下「JIS」という。)』と,この『日本工業規格』への適合性を評価して証明する制度である『JISマーク表示制度及び試験事業者認定制度』の二本柱で構成されている。」の記載がある。
(https://www.jisc.go.jp/std/outline.html)
また,「『標準化教室』出前授業について」には,「◎経済産業省と一般財団法人日本規格協会では,出前授業を実施しています。全国の小学校,中学校,高校,高等専門学校に講師がお伺いし,『身のまわりにある標準化』や『社会に役立つ標準』などをテーマに,標準の役割や,その重要性などについて,楽しく理解して頂くことを目的としています。」の記載がある。
(https://www.jisc.go.jp/policy/kids.html)
(2)「経済産業省」のウェブサイトにおいて,「日本工業規格(JIS規格)を制定・改正しました(平成27年6月分)」の記載の下,「1.概要」には「日本工業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)とは,鉱工業品の品質の改善,性能・安全性の向上,生産効率の増進等のため,工業標準化法に基づき制定される我が国の国家規格です。JIS 規格は,製品の種類・寸法や品質・性能,安全性,それらを確認する試験方法や,要求される規格値などを定めており,生産者,使用者・消費者が安心して品質が良い製品を入手できるようにするために用いられています。これらの規格は,日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)の審議を経て制定されます。」の記載がある。
(http://www.meti.go.jp/press/2015/06/20150622001/20150622001.html)
(3)「JETRO日本貿易振興機構(ジェトロ)のウェブサイトにおいて,「日本工業規格(JIS規格):日本」の記載の下,「工業標準化法に基づく日本工業規格(Japanese Industrial Standards:JIS)は,主務大臣(経済産業大臣,国土交通大臣,厚生労働大臣,農林水産大臣,文部科学大臣,総務大臣,環境大臣)が,日本工業標準調査会(JISC)による調査審議を経て制定する国家規格です。その目的には,鉱工業製品の適切な品質の設定,製品情報の提供,技術の普及,生産効率の向上,競争環境の整備,互換性・インターフェースの整合性の確保を図る等が掲げられています。基本的にJISは,欧州のEN規格,米国のANSI規格と同様,任意規格で強制規格ではありません。ただし,WTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)など国際標準化(ISOやIEC)の動向に対応しているため,強制法規に引用される場合もあります。例えば,建築基準法(建材のホルムアルデヒド規制),消防法(消防設備の技術基準),電気用品安全法,高圧ガス保安法などの法令に基づく基準とJISは密接に関係しています。」の記載がある。
(https://www.jetro.go.jp/world/qa/04M-100401.html)
(4)「コトバンク」のウェブサイトには,「JIS」について,「ASCII.jpデジタル用語辞典の解説」には,「日本工業規格。日本の工業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格のこと。自動車や電化製品などの工業製品生産に関するものから,文字コードやプログラムコードといった情報処理に関する規格なども,JISによって規定されている。産業カテゴリーごとにAからXまで分類され,情報処理関連はX部門になる。なお,JISは,工業標準化法に基づいて経済産業省に設置されている審議会である,JISC(日本工業標準調査会)によって定められている。」の記載がある。
また,「デジタル大辞泉の解説」には,「ジス【JIS】[Japanese Industrial Standard]《Japanese Industrial Standards》日本工業規格。昭和24年(1949)制定の工業標準化法に基づき,鉱工業品の種類・形状・品質・性能から設計・検査などに制定された規格。認証された製品にはJISマークを表示することができる。[補説]認証は,かつては国または政府代行機関が行っていたが,平成16年(2004)工業標準化法の改正により,民間の登録認証機関が行うようになった。」の記載がある。
(https://kotobank.jp/word/JIS-4155)
(5)「暮らしに役立つ法律の話」(社団法人日本化学工業協会)のウェブサイトにおいて,「工業標準化法(JIS法)と日本工業規格(JIS)」には,「・・・このように他の製品との互換性をもたせたり,製品の品質や安全性について一定の水準を確保したりするために,多様で複雑な物事を単純化および統一化することを,『標準化』といいます。そして,標準化によって定められたルールを『規格』といい,企業が定める社内規格や業界団体が定める団体規格,国が定める国家規格,ISO(国際標準化機構)などの国際標準化機関が定める国際規格などがあります。特に鉱工業分野における標準化のことを『工業標準化』といい,鉱工業分野における日本の国家規格を『日本工業規格』(JIS,Japanese Industrial Standards)といいます。JISそのものは強制法規ではないため,利用するかどうかは任意ですが,JISの制定の手続き等については工業標準化法(JIS法)によって定められており,経済産業省に設置されている日本工業標準調査会(JISC,Japanese Industrial Standards Committee)による調査・審議を経て,それぞれのJISが対象とする内容を担当する大臣(厚生労働大臣,農林水産大臣,経済産業大臣,国土交通大臣など)によって制定されます。」の記載がある。
(http://www.nikkakyo.org/upload/plcenter/642_682.pdf)
(6)「国際化工株式会社」のウェブサイトにおいて,「安全・安心への取り組み」の記載の下,「食物を直接入れる食器は,安全性第一。万が一にも衛生的でない原料・添加剤・顔料を使用しないよう,法律と業界自主規格により規制されています。」の記載があり,「●新JIS認証も取得,製品の品質保証体制も万全」,「1964年にプラスチック製食器類の日本工業規格(JIS S 2029)が制定されると同時に,業界に先駆け表示許可を得ました。2008年10月以降は全面改定された新JISマーク表示制度に基づく認証も取得し,製品の品質保証と品質管理体制にも万全を期しています。この業界トップレベルの社内品質基準とコンプライアンスが,信頼される企業品質を生み出しています。」の記載及びJISマークが表示されている。
(http://www.kokusai-kako.co.jp/factory/safety.html)
(7)「ポリオレフィン等衛生協議会」のウェブサイトにおいて,「プラスチックの知識」の記載の下,「(4)プラスチック製品についている表示やマーク」には,「プラスチック製品を選ぶ目安になるのが品質や安全性を示す『表示』や『マーク』です。」の記載があり,「2 JIS(日本工業規格)」には「食器,バケツ,ゴミ容器,洗い容器,水筒,灯油缶などのプラスチック製品には,JIS規格が適用されています。耐煮沸実験,周期,味,色などの試験を行って品質管理を確保しています。(お問い合わせは経済産業省 産業技術環境局基準認証ユニット,環境生活標準化推進室 03-3501-9283)」の記載がある。
(http://www.jhospa.gr.jp/web/praworld/praworld_1.html)
(8)「一般財団法人 日本文化用品安全試験所」のウェブサイトにおいて,「規格の一覧と対象商品群」には,「1.主な法令と公的規格類」の表題の一覧が掲載されており,「法令/公的規格」の「JIS R 2030(耐熱ガラス製食器)」の「対象商品」には「皿,ボウル,なべ,容器等」の記載があり,同じく「JIS S 2043(ガラスコップ)」には「ガラスコップ,食器,まな板他」の記載があり,同じく「JIS S 2400(陶磁器製耐熱食器)」及び「JIS S 2401(ボーンチャイナ製食器)」には「陶磁器製食器(皿,カップ,椀他)」の記載がある。
(http://www.mgsl.or.jp/tests/glass/tabid/97/Default.aspx)
(9)「JISマーク表示製品の事例」のウェブサイトにおいて,例えば,「電池」,「トイレットペーパー」,「安全マッチ」,「ノートブック」,「プラスチック字消し」等の日用品も掲載されている。
(https://www.jisc.go.jp/newjis/pdf/markseihin.pdf)
3 「JIS」の欧文字は,本願商標の指定役務の提供の用に供される食器類等について,以下の事実がある。
(1)「有限会社内山製陶所」のウェブサイトにおいて,JISマークの表示とともに商品「土鍋」が紹介されている。
(http://banko.or.jp/earthenpot/uchiyama/)
(2)「若泉漆器株式会社」を紹介するウェブサイトにおいて,「最も得意とする技術,アピールポイントなど」に「当社工場は,・・・加えてJIS認証を受けております。」及び「事業概要・内容」に「業務用漆器・食器及びその他関連商品類の製造,販売」の記載がある。
(http://www.echizen-mono.jp/companySearch/companyDetail.php?182)
(3)「ノリタケ金属食器について」のウェブサイトにおいて,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク)等が掲載され,「2 メッキ厚について」には,「銀メッキ厚のJIS規格は以下の通りです。」として「1級」ないし「8級」について記載されている。
(tableware.noritake.co.jp/corporation/pdf/HR2015_112-129.pdf)
(4)「SAKURAI」のウェブサイトにおいて,「製品情報」の「業務用シリーズ」には,「スタイリッシュなSAKSカトラリー ホテル・レストラン向け最高級カトラリーSAKSブランドと業務用SAKURAIブランド,そして誰にでも使いやすいユニバーサルデザインカトラリー。」の記載の下,スプーン,フォーク,ナイフ等の商品が掲載され,「スーパー700」の商品については,「美味しい料理を美味しく食す。慣れ親しんだ道具程手放すことができなくなるもの,それが毎日手にするものであればなおさらです。Saks Super700は,ステンレスの最高級と称されるSUS316L(JIS規格)を初めてカトラリーとして採用しました。」の記載がある。
(http://www.saks.co.jp/products.html)
(5)「iiwanギフト幼児用安心安全食器」のウェブサイトにおいて,幼児用のカップ,皿,スプーン等が掲載され,「<iiwanの安全性>」として「JIS S 2029 プラスチック製食器類」の記載がある。
(http://iiwan.jp/?mode=f1)
(6)「朝日化工株式会社」のウェブサイトにおいて,外食産業用,病院・老人保健施設用としてメラニン食器が掲載され,「鮮やかな色彩とバラエティあふれるデザイン。そして,美しい光沢。 mannen(マンネン)は,ガラスや磁器素材と較べ,極めて効率的な作業性を発揮するメラミン食器です。ひとつひとつが,豊な経験と最新の技術によって創り上げられるマンネンのうつわは,JIS表示認可工場に指定された関西合成樹脂工業株式会社内の工場で,JIS規格を上回る厳しい品質管理に合格した確かな品質が特長。安全面でも,食品衛生法に基いて厚生労働省が設定した規格基準をクリアしています。」の記載がある。
(http://www.asahi-kako.co.jp/product/mannen.html)
4 商標法第4条第1項第6号について,工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕に,以下の記載がある。
「六号の立法趣旨はここに掲げる標章を一私人に独占させることは,本号に掲げるものの権威を尊重することや国際信義の上から好ましくないという点にある。なお,本号は八号と異なり,その承諾を得た場合でも登録しないのであるから単純な人格権保護の規定ではなく,公益保護の規定として理解されるのである。本号の例としては,YMCA,JETRO,NHK,結核予防会のダブルクロス,大学を表示する標章,都市の紋章等がある。また,国とは日本国を,地方公共団体とは地方自治法1条の3にいう都道府県及び市町村並びに特別区,地方公共団体の組合及び財産区並びに地方開発事業団を,これらの機関とは,立法,司法,行政についての国又は地方公共団体の機関をいう。公益に関する団体であって営利を目的としないものの代表的な例は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律2条3号の公益法人である。公益に関する事業であって営利を目的としないものの例は地方公共団体の営む水道事業その他がある。」
5 まとめ
以上からすれば,「JIS」の欧文字は,日本工業標準調査会が認定する,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格を表すものとして,我が国において広く知られているものと認められる。
したがって,「JIS」の欧文字からなる本願商標は,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標と認められ,商標法第4条第1項第6号に該当する。

第4 証拠調べ通知等に対する請求人の意見
1 任意の制度であること
JISCのウェブサイト内,JISマーク表示制度のパンフレット(https://www.jisc.go.jp/newjis/pdf/jis_new_pamph.pdf)の11ページに記載されているとおり,JISマーク表示は,あくまで任意であり,「皿,ボウル,なべ,容器,ガラスコップ,食器,まな板,陶磁器製食器(皿,カップ,椀他)」等の各種日用品について,必ずしも表示されているものではない。
2 JISマーク表示の実情について
「鉱工業品」を初め,「食器,バケツ,ゴミ容器,洗い容器,水筒,灯油缶」などのプラスチック製品等のほか,「皿,ボウル,なべ,容器,ガラスコップ,食器,まな板,陶磁器製食器(皿,カップ,椀他)」等の各種日用品についてのJISマーク表示の実情について調査を行ったところ,実際の取引の現場においてはJISマークが一切表示されていない。
(1)飲食店におけるJISマーク表示の調査結果
本件指定役務である飲食サービス,特に飲食店において食器等にJISマークが表示されているかどうかを調査したが,表示されている食器を見つけることができなかった。その証拠として,喫茶店チェーンの各種食器(コーヒーカップ,ソーサー,スプーン)の写真を提出するが,コーヒーを飲み終わった後のコーヒーカップの底,コーヒーカップの裏,ソーサの裏面など,需要者が飲食の提供を受けるにあたって特に目にしない部分も含めてくまなく確認をしたが,JISマークは表示されていない。また,喫茶店の他の飲食サービスの各種業態の店舗でも同様の確認をしたが,JISマークが表示された食器類を見つけることは一切できなかった。
(2)テイクアウトの食品におけるJISマーク表示の調査結果
テイクアウト用のプラスチック容器におけるJISマークの表示状況も調査したが,JISマークの表示は確認できず,その証拠として,コンビニエンスストアの持ち帰りお弁当容器の写真を提出する。
(3)食器の販売におけるJISマーク表示の調査結果
飲食サービスの他,雑貨店で販売されている食器におけるJISマークの表示状況も調査したが,JISマークの表示は確認できなかった。
3 商標法第4条第1項第6号に掲げる標章であるか否かの拒絶引例適格性について
本号は,本号に掲げる団体等の公共性に鑑み,その信用を尊重するとともに,出所の混同を防いで取引者,需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから,本号にいう「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である(知財高裁 平成24年10月30日判決「平成24(行ケ)10125号」)。
本願商標である「JIS」が,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格を表すものであるとしても,その取引の現場では一切表示されておらず,本件指定役務の取引業者や需要者(飲食店の利用客)が,その取引や飲食において「JIS」に注意を払うことはおよそ考えらない。
本願の指定役務の取引者・需要者が,「JIS」について相当程度注意を払っているという取引の実情を認めることは到底できず,本願の審決時に,「JIS」が,本願の指定役務に係る一定商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていると認めることは困難である。
「JIS」は,取引の現場では一切表示されておらず,本願商標をその指定役務について使用したとしても,「JIS」と誤認,混同を生じることはあり得ず,本願商標をその指定役務について登録したとしても,信義則に反することはなく,「JIS」の尊厳も害することもない。にもかかわらず,本願の指定役務の分野(飲食サービス)と直接関係のない,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格を表すものであること,食器類等の規格が存在していることのみをもって,本願商標の登録を認めないとするのは,不当に民業を圧迫する審査・審判の運用であり,私人たる出願人の利益を著しく害するとともに,需要者の利益,ひいては公益も害することとなる。
4 本願指定役務の提供の用に供するものと引用標章の著名性の根拠について
「本願指定役務の提供の用に供するもの」についての認定には誤りがあり,「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク等)」等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の旨を記載している事実」は引用標章の著名性の根拠とはなりえない。
商標法上の役務についての標章の使用行為として,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し,又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為(商標法第2条3項3号),役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(商標法第2条3項4号),役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(商標法第2条3項5号)」等が挙げられる。
本願指定役務において,具体的には,標章を付した食器類を用いて飲食サービスをなす行為,標章を付した食器類を用いて飲食サービスを行う店内飾る行為が,標章の使用行為に該当する。
しかしながら,梱包された状態や商品である食器類の紹介・説明とともにその食器類を用いて飲食サービスが提供されることはない。また,梱包された状態や商品である食器類の紹介・説明とともに,食器類が店内に飾られることもない。
したがって,本願役務の提供の用に供する物とは,商品の紹介・説明書などは含まず,梱包などもされていない状態で,テーブルやカウンター等に並べられた「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク等)」等の商品そのものと解すべきであり,「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク等)」等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の旨を記載している事実」は,本願指定役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていること(著名性)の根拠にはならない。
5 本件商標の使用とJIS認証の関係性について
公益に関する団体である日本工業標準調査会の営利を目的としない事業とは,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される工業製品の国家規格であり,飲食サービスの質を認定する規格ではない。また,「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク等)」等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の旨を記載している行為は,当然ながら,商品としての食器類の品質を証明する行為であり,その食器類が納入された飲食店のサービスの質(料理の味,サービスの質)を証明するものでもない。
したがって,JIS認証(JISマーク)は,業として本願役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするものにはあたらないものと解される(商標法第2条1項2号)。
6 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕の記載の立法趣旨に関する主張
(1)拒絶引例適格性について
六号の立法趣旨はここに掲げる標章を一私人に独占させることは,本号に掲げるものの権威を尊重することや国際信義の上から好ましくないという点にある,と指摘されたが,本願の指定役務である第43類(飲食サービスの分野)」において,拒絶引例である「JIS」は著名ではないため,そもそも指摘された,ここに掲げる標章,本号に掲げるものではない。
引例標章である「JIS」が,商標法4条1項6号に掲げる標章であるか否かの拒絶引例適格性について判断するに,本号は,本号に掲げる団体等の公共性に鑑み,その信用を尊重するとともに,出所の混同を防いで取引者,需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから,本号にいう「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年10月30日判決「平成24(行ケ)10125号」参照,以下「平成24年知財高裁判決」という)。
当該指定役務に係る取引者とは,いわゆる飲食店への食材や飲料の納入業者が主として考えられ,また,当該指定役務に係る需要者とは,いわゆる飲食店の利用客が主である。一方で引例標章である「JIS」は,日本工業規格の略称として,工業製品に図案化されて付されていることが認められることはあっても,本願商標の指定役務に係る上述の取引者である食材・飲料の納入業者や,需要者である飲食店利用客が,一般に目にする態様で使用されている例はなく,ましてや目立つ態様で使用されていることも認められないことから,工業規格を示す略称として,工業製品の製造業者や購入者がその標章の有無に注意を払うことがあったとしても,飲食店の取引業者や利用客が,その取引や飲食において引例標章である「JIS」に注意を払うことはおよそ考えられない。
これらの事実から,本願の指定役務の取引者・需要者が,引例標章である「JIS」について相当程度注意を払っているという取引の実情を認めることは到底できず,本願の審決時に,引例商標が,本願の指定役務に係る一定商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていると認めることは困難である。
(2)商標法4条1項6号の趣旨から,本号の適用については,本願商標「JIS(標準文字)」をその指定役務である「第43類(飲食サービスの分野)」の役務において使用した場合に,引用標章と出所の混同を招いて,需要者の利益を害するか,また,本願商標をその指定役務において一私人に独占させた場合に,引例標章に係る事業である日本工業規格の権威を害するか否かで適用をすべきについては,上記のとおり,工業規格を示す略称として,工業製品の製造業者や購入者がその標章の有無に注意を払うことがあったとしても,飲食店の取引業者や利用客が,その取引や飲食において引例標章である「JIS」に注意を払うことはおよそ考えられないので,本願商標をその指定役務に使用したとしても,引用標章との関係で,出所の混同を招く事態は想定することはできず,ひいては一般需要者の利益を害することもあり得ない。
また,本願商標を,その指定役務に使用したとしても,引用標章(日本工業規格「Japanese Industrial Standards」の略称である「JIS」)との出所の混同を招くことはなく,本願商標の指定役務に係る取引者・需要者が,本願商標がその指定役務に使用された場合に,本願商標と引用標章の主体である日本工業規格調査会との間に何らかの関係があるとの誤認も生じる余地はないので,引例標章に係る事業である日本工業規格の権威を害することはない。
7 まとめ
以上によれば,第一に,基本的にJISは,欧州のEN規格,米国のANSI規格と同様,任意規格で強制規格ではなく,第二に,実際の取引の現場において,JISマークは一切表示されておらず,「JIS」は著名であるとの判断は,「皿,ボウル,なべ,容器,ガラスコップ,食器,まな板,陶磁器製食器(皿,カップ,椀他)」等の各種日用品についても,JISマークが表示されているものであるとの誤った認定に基づくものである。
仮に本願について商標登録を認められたとしても,公益に関する団体である日本工業標準調査会がJISを認証する行為,および,認証を受けたものがJIS認証を受けている旨,認証を受けた商品JISマークを表示する行為に対し,本件に係る商標権は当然に及ばず,その権利も行使されることはなく,日本工業標準調査会の営利を目的としない事業であるJIS認証の運用及びその公益性を害することはない。
そして,合議体が指摘する2つの知財高裁判決は,商標法第4条第1項第6号に関する事例というだけで,明らかに本件の射程外の判決であり,知財高裁判決から,商標法第4条第1項第6号の趣旨部分を抜き出して,本願商標の登録を認めないという判断は,明らかに失当である。
したがって,工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕に,商標法第4条第1項第6号の公益に関する事業であって営利を目的としないものの例は地方公共団体の営む水道事業その他と記載されていたとしても,本件において,引例標章である「JIS」が,商標法第4条第1項第6号に掲げる標章の適格性を有しない。

第5 当審の判断
1 本願商標の商標法第4条第1項第6号該当性について
(1)商標法第4条第1項第6号について
商標法第4条第1項第6号の規定は,同号に掲げる団体の公共性にかんがみ,その権威を尊重するとともに,出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり,同号の規定に該当する商標,すなわち,これらの団体を表示する著名な標章と同一又は類似の商標については,これらの団体の権威を損ない,また,出所の混同を生ずるものとみなして,無関係の私人による商標登録を排斥するものであると解するのが相当である,と判示されているものである(参考:知財高裁 平成20年(行ケ)第10351号判決)。
(2)本願商標について
本願商標は,「JIS」の欧文字を標準文字で表してなるところ,この「JIS」の文字については,例えば,広辞苑第六版の「ジス【JIS】」の項に,「(Japanese Industrial Standard)日本工業規格。工業標準化法によって制定される鉱工業品に関する国の規格。」の記載があり,同じく,「ジス-マーク」の項には,「(和製語)ジス(日本工業規格)に基づいて製造業者が認証を受けた商品等に付けるJISのマーク。」の記載があることから,該文字からは「日本工業規格としてのJIS」の意味合いを理解させるものである。
(3)「JIS」の標章が,「公益に関する事業であって,営利を目的としないものを表示する標章」であることについて
「JIS」の文字は,前記第3の証拠調べ通知の内容によれば,我が国の工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格である「(Japanese Industrial Standard)日本工業規格。工業標準化法によって制定される鉱工業品に関する国の規格。」を表示する文字であって,そのJIS規格は,国家行政組織法第8条による審議会である「日本工業標準調査会」(Japanese Industrial Standards Committee)による調査審議を経て認定されるものである。
そして,JIS規格は,「経済産業省」のウェブサイトによれば,製品の種類・寸法や品質・性能,安全性,それらを確認する試験方法や,要求される規格値などを定めており,生産者,使用者・消費者が安心して品質が良い製品を入手できるようにするために用いられている旨が記載されているように,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法に基づき制定される国家規格としての公的な制度である。
そうすると,日本工業規格を表す「JIS」の文字は,鉱工業品に関する国の規格であって,国家行政組織法第8条による審議会である「日本工業標準調査会」が認定する我が国の工業標準化の促進を目的とする公益に関する事業であって,営利を目的としないものを表示する標章である。
(4)「JIS」の標章が,著名であることについて
「JIS」の文字については,以下のとおり,多数の辞書や書籍,新聞記事,ウェブページなどで取り上げられており,一般においてよく知られている語である。
ア 「JIS」の文字は,広辞苑第六版に「ジス【JIS】」及び「ジス-マーク」の項目があり,他にも「コトバンク」のウェブサイト,「デジタル大辞泉の解説」,「暮らしに役立つ法律の話」(社団法人日本化学工業協会のウェブサイト(第3 2(4)及び(5))に記載がある。
イ 「例文で読むカタカナ語の辞典第二版」(1994年4月1日 株式会社小学館発行)の「JIS」の項に「(Japanese Industrial Standards)《ジス》日本工業規格.鉱工業製品の規格を標準化し品質の改善をはかるために,工業標準化法によって制定された規格.日本工業標準調査会が調査を行い通産省が認定する.」の記載がある。
ウ 「暮らしの中の表示とマーク」(2002年1月30日 財団法人 日本規格協会発行)の「3.工業標準化法(JIS法)」の項に「工業標準化法は,適正かつ合理的な工業標準の制定及び普及により工業標準化を促進することによって,鉱工業品の品質の改善,生産能率の増進その他生産の合理化,取引の単純公正化及び使用又は消費者の合理化を図り,あわせて公共の福祉の増進に寄与することを目的に1949年に制定され,近年では,1997年に規制緩和を背景として民間の認定機関の活用などを盛り込んだ改正がおこなわれました。」の記載,及び,対象品目とマークの記載がある。
エ 「imidas2006」(2006年1月1日 株式会社集英社発行)の「JIS」の項に「[Japanese Industrial Standards]ジス.日本工業規格.日本の鉱工業製品に関する国家規格.合格品にはJISマークが付く.」の記載がある。
オ 「imidas現代人のカタカナ語欧文略語辞典」(2006年4月30日 株式会社集英社発行)の「JIS」の項に「【Japanese Industrial Standards】ジス.日本工業規格.日本の鉱工業製品に関する国家規格.合格品にはJISマークが付く.」の記載がある。
カ 「現代用語の基礎知識2007」(2007年1月1日 自由国民社発行)の「JIS」の項に「(Japanese Industrial Standards)日本工業規格。ジス。」の記載がある。
キ 「2008年版 経済新語辞典」(2007年9月29日 日本経済新聞出版社発行)の「JIS」の項に「【Japanese Industrial Standard】」日本工業規格。工業標準化法に基づいて規格を統一し,鉱工業製品の品質改善や生産の効率化,互換性の確保を進めるのが狙い。」の記載がある。
ク 「標準パソコン用語事典 最新2009?2010年版」(2009年1月15日 株式会社秀和システム発行)の「JIS(ジス)」の項に「Japan Industrial Standards 日本工業規格。1949年に制定された工業標準化法に基づいて定められた,国内の工業製品に対する国家規格として約1万規格を制定。」の記載がある。
ケ 「現代用語の基礎知識」(2015年1月1日 自由国民社発行)の「JIS」の項に「(Japanese Industrial Standards)日本工業規格。ジス。」の記載がある。
コ 日経テレコンによる新聞記事検索において「JIS規格」の文字を記事検索したところ,1995件の情報が検索され,例えば,以下の記事がある。
(ア)「JISマークの対象拡大,『プラ製』と『レンジ用プラ製』容器を規格統合」(2001/11/28 日本食糧新聞)の見出しのもと,「日本工業規格(JIS)の改正作業を進める経済産業省は26日,『プラスチック製食器』と『電子レンジ用プラスチック製容器』の規格統合を決めた。加熱を施す家電製品の普及で,耐熱性などこれら食器類の品質向上が図られている。そうした現状を規格に反映し,マーク使用など運用を促すことで,消費者保護を強化する。」の記載がある。
(イ)「(今さら聞けない)JIS規格 安心利用が目的,全製品が表示対象に」(2007/8/19 朝日新聞)の見出しのもと,「JISとは,国民がいろいろな製品や施設を安心して利用できるように,品質や性能などを定めた国の規格だ。工業標準化法に基づき49年に導入された。適合は必ずしも義務ではないが,自治体の条例などで順守を求めたり,公共入札の条件になったりする場合もある。経済産業省によると,対象は,家電製品や文房具など身近な品から,化学製品や産業機械まで19部門9728件(06年3月末現在)。検査の手順や用語の使い方なども含まれる。」の記載がある。
上記のように,「JIS」の文字は,多数の辞書,書籍,新聞情報,インターネット情報等に取り上げられ,かつ,使用されている文字であって,「日本工業標準調査会」が認定する,工業標準化の促進を目的とする国家規格である「日本工業規格(Japanese Industrial Standards)」を表す標章として,我が国において一般に広く知られており,著名なものと認められる。
(5)小括
以上のとおり,本願商標は,1949年に制定された工業標準化法に基づいて定められた,国内の工業製品に対する国家規格である「日本工業規格(Japanese Industrial Standards)」を表示する標章であって,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として著名な「JIS」と,同一又は類似の商標と認められる。
したがって,本願商標は,商標法第4条第1項第6号に該当する。
2 請求人の主張について
(1)任意の制度であることについて
請求人は,「JISマーク表示制度のパンフレットに記載されているとおり,JISマーク表示は,あくまで任意であり,『皿,ボウル,なべ,容器・・・』等の各種日用品について,必ずしも表示されているものではない。」,及び,本件指定役務である飲食サービスにおけるJISマーク表示の実情として,『食器,バケツ,ゴミ容器・・・』などのプラスチック製品等のほか,『皿,ボウル,なべ,容器・・・』等の各種日用品について,また,飲食店におけるJISマーク表示,テイクアウトの食品におけるJISマーク表示,食器の販売におけるJISマーク表示について調査を行ったところ,JISマークが表示された食器類を見つけることは一切できなかったなどと述べ,「実際の取引の現場においてはJISマークが一切表示されていない。」旨を主張している。
しかしながら,日本工業規格であるJISマークの表示が任意によるものであり,請求人が調査した範囲において,JISマークが表示された食器類がなかったとしても,「一般財団法人 日本文化用品安全試験所」のウェブサイトによれば,「法令/公的規格」の「対象商品」には,「皿,ボウル,なべ,容器等,ガラスコップ,食器,まな板他,陶磁器製食器(皿,カップ,椀他)」の記載があり,また,本願の指定役務の提供の用に供する物である「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器(スプーン,ナイフ,フォーク等)」等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の旨を記載している事実がある(第3 2(8)及び同3)。
そうすると,工業標準化法に基づいて定められた,国内の工業製品に対する国家規格の名称である,「日本工業規格(Japanese Industrial Standards)」を表示する標章である「JIS」の欧文字は,本願の指定役務の需要者の間においても,知られているものというべきである。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(2)拒絶引例適格性及び「JIS」マークの著名性について
請求人は,「本願の指定役務の取引者・需要者が,『JIS』について相当程度注意を払っているという取引の実情を認めることは到底できず,本願の審決時に,『JIS』が,本願の指定役務に係る一定商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていると認めることは困難である。『JIS』は,取引の現場では一切表示されておらず,本願商標をその指定役務について使用したとしても,『JIS』と誤認,混同を生じることはあり得ず,本願商標をその指定役務について登録したとしても,信義則に反することはなく,『JIS』の尊厳も害することもない。にもかかわらず,本願の指定役務の分野(飲食サービス)と直接関係のない,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される国家規格を表すものであること,食器類等の規格が存在していることのみをもって,本願商標の登録を認めないとするのは,不当に民業を圧迫する審査・審判の運用であり,私人たる出願人の利益を著しく害するとともに,需要者の利益,ひいては公益も害することとなる。」,及び「土鍋,業務用漆器・食器,金属食器・・・等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の旨を記載している事実は,本願指定役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていること(著名性)の根拠にはならない。」旨を主張する。
しかしながら,「JIS」の文字が我が国において著名であることは,国内において長らく該文字が使用されてきた実情から明らかであり,本願の指定役務に係る一定商圏以上の範囲の取引者,需要者に限って異なるものとすべき事情はない。
そして,商標法第4条第1項第6号の規定の趣旨(上記1(1))からすれば,国内の工業製品に対する国家規格である「日本工業規格」を表示する標章であって,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として著名な「JIS」の文字と,同一又は類似の商標である本願商標を,これと無関係である請求人が登録することは,該規格の権威を損ない,また,出所の混同を生ずるものというべきであって,その商標登録を排斥するのが相当である。
よって,JISマークの表示が任意によるものであることや実際の取引の現場においてJISマークの表示が少ないことをもって,本願商標の登録を認めることは適切でなく,また,不当に民業を圧迫する審査・審判の運用との主張は,妥当でなく,到底認めることができない。
(3)本件商標の使用とJIS認証の関係性について
請求人は,「公益に関する団体である日本工業標準調査会の営利を目的としない事業とは,工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(昭和24年)に基づき制定される工業製品の国家規格であり,飲食サービスの質を認定する規格ではない。また,土鍋,業務用漆器・食器,金属食器等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の行為は,当然ながら,商品としての食器類の品質を証明する行為であり,その食器類が納入された飲食店のサービスの質(料理の味,サービスの質)を証明するものでもないから,JIS認証(JISマーク)は,業として本願役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするものにはあたらないものである。」旨を主張している。
確かに,「JIS規格」は,飲食サービスの質を認定する規格ではなく,また,土鍋,業務用漆器・食器,金属食器等の商品の紹介にJISマークを表示し又は認証を受けている等の行為も,商品としての品質を証明する行為であり,その食器類が使用された飲食店のサービスの質を証明するものということもできない。
しかしながら,「JIS規格」を表示する商品は,広範囲であり,土鍋,業務用漆器・食器,金属食器等は,本願の指定役務の「提供の用に供する物」として,広く一般に使用されるものである。
そして,土鍋,業務用漆器・食器,金属食器等の製造・販売をする者が,その製造・販売に係る商品の紹介に,認証を受け,JISマークを表示している実情からすれば,JIS規格は,本件商標の指定役務においても,これらの商品を通じて,その指定役務の提供の用に供する物として,十分に関連性を有するものというべきである。
そうすれば,JISマークが表示される「対象商品」がその指定役務においても,全く関係がないということはできない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
(4)なお,請求人は,本件の審理の終結後である平成28年8月26日受付けの上申書において,「知財高裁判決について,本件事案とは相違し,射程範囲外である旨を主張したが,合議体の見解,反論は全く示されていない。そして,原査定が維持されるなら,審理が十分に尽くされていないものであるから,さらなる審尋をすべきである。」旨を主張している。
しかしながら,本件審理においては,3回の審尋を行って請求人に意見及び反論の機会を与え,審理を十分尽くしてきたものであるから,これ以上の手続は不要と判断し,本件に係る審理の再開は行わないこととした。
3 まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第4条第1項第6号に該当し,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-08-09 
結審通知日 2016-08-22 
審決日 2016-09-07 
出願番号 商願2014-21566(T2014-21566) 
審決分類 T 1 8・ 21- Z (W43)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 海老名 友子榎本 政実 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 大井手 正雄
田中 亨子
商標の称呼 ジス、ジェイアイエス 
代理人 岸尾 正博 
代理人 小野尾 勝 

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