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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W07
審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 登録しない W07
管理番号 1338332 
審判番号 不服2017-6855 
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-12 
確定日 2018-02-28 
事件の表示 商願2016- 23374拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、別掲のとおりの構成からなり、第7類「エスカレーター」を指定商品として、平成28年3月3日に立体商標として登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、『エスカレーター』を容易に認識させる立体的形状からなるところ、その立体的形状は、『エスカレーター』を取り扱う業界において、一般的に採用し得る商品の形状の範囲内にとどまるものというのが相当であるから、これをその指定商品『エスカレーター』に使用するときは、単にその商品の品質、形状を普通に用いられる方法で表示するものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号該当性について
立体商標における商品の形状に係る判示について
商品の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品の形状は、多くの場合に、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されたと認められる形状は、特段の事情のない限り、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
また、商品の具体的形状は、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるといえる。しかし、同種の商品について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状として、商標法第3条第1項第3号に該当するものというべきである。その理由は、商品の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
さらに、商品に、需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても、当該形状が専ら商品の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法第4条第1項第18号の趣旨を勘案すれば、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。その理由として、商品が同種の商品に見られない独特の形状を有する場合に、商品の機能の観点からは発明ないし考案として、商品の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる(知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)第10555号判決、平成19年(行ケ)第10215号判決、平成22年(行ケ)第10253号判決)。
イ 本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、別掲のとおり、階段と手すり等が螺旋状に上方から下方にかけて右回りに湾曲した立体的形状からなるものである。
ところで、本願の指定商品である「エスカレーター」は、辞書によると、「人・貨物を昇降する階段状の動力装置」(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)と掲載されている。
また、一般的に目にするエスカレーターの形状は、おおよそ手すりを有した階段状のものである。
そうすると、本願商標は、その指定商品との関係からすれば、上記のとおり螺旋状に湾曲したエスカレーターの立体的形状を表したものといえる。
さらに、エスカレーターを取り扱う業界においては、商品の機能性及び美感の向上の観点から、エスカレーターの手すりに着色したり、踏段幅にバリエーションを持たせたり、施設の内観や外観と調和するようにエスカレーターをデザインすることは一般的に行われていることである。
してみれば、本願商標の立体的形状は、エスカレーターについて、機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ、また、エスカレーターの形状として、取引者、需要者において、機能又は美感上の理由による形状の変更又は装飾等を施したものと予想し得る範囲のものというのが相当であるから、それを超えて、上記形状の特徴をもって、商品の出所を識別する標識として認識させるものとまではいえない。
以上によれば、本願商標を、その指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、エスカレーターの形状の一類型を表したものと認識するにとどまるものであるから、本願商標は、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標を表示するにすぎないものである。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)商標法第3条第2項該当性について
請求人は、「本願商標が、本来的な識別力を有さず、商標法第3条第1項第3号に該当するものであると敢えて仮定した場合でも、相当長期にわたる使用又は短期間であっても強力な広告、宣伝等による使用の結果、同種商品の形状から区別し得る程度に周知となり、需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至った立体商標は、商標法第3条第2項の規定によって識別力を有する。」旨を主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第59号証を提出しているので、本願商標が、商標法第3条第2項に該当するに至ったものであるかについて、請求人の提出した証拠及び主張を検討する。
ア 本願商標と使用商標との同一性について
請求人は、本願商標と使用商標との同一性について「甲第6号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第18号証、甲第20号証ないし甲第22号証、甲第25号証ないし甲第29号証、甲第32号証ないし甲第38号証に掲載されているエスカレーターを見ると、当該エスカレーターは、踏段と、前記踏段の左右に手すり、内側板及びデッキボードを備え、かつ下から上又は上から下に向かって左右に湾曲した形状であることから、本願商標の形状と同一の特徴を備えている。・・・甲第23号証、甲第24号証、甲第30号証に掲載されているエスカレーターは、エスカレーター全体が若干視認しづらいところはあるものの、当該エスカレーターが踏段と手すり、内側版及びデッキボードを備え、かつ下から上又は上から下に向かって左右に湾曲した形状であるという特徴が備わっていることが容易に看取されるため、これに接した需要者は、本願商標と使用事例が同一のものであると認識するのが相当である。・・・甲第31号証では、主としてエスカレーターの側面が掲載されているところ、かかる証拠からも、エスカレーターが下から上又は上から下に向かって左右に湾曲しているという本願商標の基本的な特徴であり、かつ需要者に強烈な印象を与える立体的形状が容易に看取されることから、その特徴に基づき本願商標と同一の形状であると認識され得る。・・・甲第39号証のエスカレーターの標準外形寸法に係る一覧表を基に、請求人の提出に係る証拠中に実物の写真が掲載されている国内のエスカレーターの外形寸法を比較したところ、各エスカレーターの形状が同一視し得るものであることが判る。」旨を主張している。
ところで、商標法第3条第2項の要件における使用商標については、「商標法第3条第2項の要件を具備するためには、使用商標は、出願商標と同一であることを要し、出願商標と類似のもの(例えば、文字商標において書体が異なるもの)を含まないと解すべきである。なぜなら、同条項は、本来的には自他商品識別力がなく、特定人の独占にもなじまない商標について、特定の商品に使用された結果として自他商品識別力を有するに至ったことを理由に商標登録を認める例外的規定であり、実際に商品に使用された範囲を超えて商標登録を認めるのは妥当ではないからである。そして、登録により発生する権利が全国的に及ぶ更新可能な独占権であることをも考慮すると、同条項は、厳格に解釈し適用されるべきものである。」(知財高等裁判所 平成18年(行ケ)第10054号判決)と判示されているところである。
そこで、請求人から提出された使用の証拠をみるに、甲第6号証、甲第15号証ないし甲第18号証及び甲第20号証に示されているエスカレーターの形状は、階段と手すり等が螺旋状に上方から下方にかけて左回りに湾曲した立体的形状(以下「使用商標」という場合がある。)であり、本願商標である階段と手すり等が螺旋状に上方から下方にかけて右回りに湾曲した立体的形状とは外観が明らかに相違するものである。
また、甲第7号証ないし甲第13号証、甲第22号証ないし甲第39号証及び甲第41号証ないし甲第50号証の証拠からは、立体的形状の全体が確認できないか、又は外観が明らかに相違するものである。
そうすると、請求人の提出に係る甲各号証に示されているエスカレーターの外観は、本願商標と同一のものとは認められない。
イ 広告宣伝の方法、期間、地域及び規模について
請求人は、雑誌、新聞記事、インターネットの紹介記事や商品カタログなどを証拠として提出し、「本願商標が使用されたエスカレーターについては、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、中日新聞といった新聞紙面に大々的に広告が掲載されている(甲15?甲19)。また、これらの広告は出願人のウェブサイトにおいても紹介されている(甲20、甲21)。・・・1984年から現在に至るまで、読売新聞、毎日新聞、日刊工業新聞といった一般紙や産業・経済紙の紙面又はニュースサイト、日経メカニカル、日本建築センター機関誌のビルディングレター、日本電気協会報、日本機械学会誌、Elevetor Journal、ELEVATOR WORLDといった専門誌、インターネット上のウェブサイトなど多岐に亘る媒体で紹介されている。・・・各種新聞雑誌及びインターネット上のウェブサイトにおいて本願商標を使用したエスカレーターが数多く取り上げられていることから、メディアの関心の高さと、これに接する読者の数からすれば、本願商標が大変多くの人々に、その販売実績と共に視覚的に印象づけられる結果となっていることは明らかである。」旨を主張している。
ところで、商標法第3条第2項の判断については、「商標登録出願された商標が、商標法第3条第2項の要件を具備し、登録が認められるか否かは、使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用された結果、判断時である審決時において、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否かによって決すべきものであり、・・・」(知財高等裁判所 平成21年(行ケ)第10388号判決)と判示されているところである。
そこで、請求人から提出された使用の証拠をみるに、請求人の提出した証拠の雑誌、新聞記事、インターネットの紹介記事や商品カタログなどは、その頒布された部数、頒布地域、頒布の方法及びウェブサイトのアクセス数等が不明であり、広告宣伝の費用、期間、地域及び規模も明らかにされていないから、どの程度の範囲の需要者の目にふれたのかが不明である。
ウ アンケート調査について
請求人は、「エスカレーター」の取引者、需要者を対象として、インターネットを通じアンケート調査を実施し(甲51?甲59)、「本願指定商品である『エスカレーター』の取引者・需要者の多くは、本願商標に係る立体的形状で表される商品を、出願人(請求人)に係るものであると認識しており、また、このエスカレーターの特徴点がその湾曲している形状にあると認識され、看者に対し極めて強い印象を与えているので、本願商標に係る立体的形状はこのアンケート結果に照らしても、充分に自他商品識別標識たる機能を備えたものである。」旨を主張している。
しかしながら、回収された320回答のアンケートの調査結果によれば、本願商標を表示して「これは何だと思いますか。」との問い(Q1:後掲1)に対し、例えば、「エスカレーター」、「螺旋型エスカレーター」、「三菱電気のエスカレーター」、「スパイラルエスカレーター」等のように、本願商標の立体的形状から「エスカレーター」を認識させると回答した者は、70%(224回答)であり(甲52、甲54)、「製造メーカーをご存知ですか。」との問い(Q3:後掲2)に対し、「知らない」と回答した者は、63.8%(204回答)であり、さらに、エスカレーターの選定・提案・購入に関わった者(154名)を対象にしたQ3の問いに対して、55.8%(86回答)の者が「知らない」と回答している(甲56)。また、「このエスカレーターの特徴をご存知ですか。」との問い(Q5:後掲3)に対し、「知らない」と回答した者は、62.8%(201回答)であり、「湾曲している」と回答した者は、24.4%(78回答)である(甲59)。
以上のアンケート調査の結果によれば、本願商標の立体的形状は、「エスカレーター」の取引者、需要者において、70%の多数の者が「エスカレーター」であると認識し、63.8%の者が製造メーカーを「知らない」と回答しており、さらに、62.8%の者が、該エスカレーターの特徴を「知らない」と回答していることからすると、本願商標の立体的形状は、容易に「エスカレーター」の形状を表した一類型であると認識されるということができるものの、その形状における特徴をもって、請求人の業務に係る商品を表すものとして需要者の間で広く知られているものであると判断することはできない。
エ その他の請求人の主張について
(ア)請求人は、「1984年に業界初として本願商標の立体的形状とされたエスカレーターを発売開始し、その形状の斬新性から需要者、取引者の間で評判となり、以来、出願人は本願商標が使用されたエスカレーターを製造、販売し続けている。また、本願商標に係るエスカレーターは、販売開始以来、今日に至るまで一貫して出願人(請求人)のみが製造しているものである。そして、現在のエスカレーター市場では、本願商標が使用されたエスカレーターについては出願人のシェアが100%となっている。以上より、出願人は1984年に本願商標の立体的形状とされたエスカレーターを発売して以来、30年以上にわたって本願商標が使用されたエスカレーターのシェアを100%のまま維持し続けていることから、需要者、取引者からみて本願商標の立体的形状を有するエスカレーターは特定の出所に係る商品であることを充分に認識させることとなっているとするのが相当と考える。」旨を主張している。
しかしながら、請求人の螺旋状に湾曲したエスカレーターの納入(販売)実績は、1984年から現在まで、日本全国で24件程度(甲14)しかなく、螺旋状に湾曲したエスカレーターとしてのシェアは100%であるとしても、日本全国でのエスカレーターの設置件数からすれば、本願の指定商品である商品「エスカレーター」におけるそのシェアは、ほんのわずかなものといえる。
(イ)請求人は、「本願商標が使用されたエスカレーターの受賞歴については、1989年に(財)日本産業デザイン振興会からグッドデザイン賞を受賞している(甲9)。この実績は、本願商標を構成する立体的形状が然るべき審査機関において優れたものであるという評価を受けたということであり、すなわち、本件立体形状は人々の記憶・印象に刻みこまれ易い特徴を持ったものと認定されたと解釈できるものである。」旨を主張している。
しかしながら、本願商標の立体的形状が、1989年にグッドデザイン賞を受賞しているとしても、この受賞は28年以上も前のものであり、前記アンケート調査結果に照らしても、その当時の人々の記憶、印象が、現在まで継続しているとはいい難く、このことをもって、該立体的形状が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者に認識され、自他商品の識別力を獲得しているとはいえないものである。
したがって、請求人の上記主張は、いずれも採用できない。
オ 以上のことからすると、本願商標は、取引者、需要者の間に広く認識されているとはいい難いものであり、その指定商品について使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものとはいえない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備しない。
(3)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、かつ、同法第3条第2項の要件を具備するものでもないことから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。


後掲1(アンケート調査Q1)

Q1 これは何だと思いますか。あなたが思い浮かべたものを記入してください。

後掲2(アンケート調査Q3)

Q3 これはエスカレーターですが、あなたはこのエスカレーターの製造メーカーをご存知ですか。ご存知の場合、そのメーカーを記入してください。ご存知ない場合、「知らない」をお選びください。

後掲3(アンケート調査Q5)

Q5 あなたはこのエスカレーターの特徴(他のエスカレーターと異なる特徴)をご存知ですか。ご存知の場合、その特徴を記入してください。ご存知ない場合、「知らない」をお選びください。
別掲 別掲(本願商標)


審理終結日 2017-12-26 
結審通知日 2017-12-27 
審決日 2018-01-12 
出願番号 商願2016-23374(T2016-23374) 
審決分類 T 1 8・ 17- Z (W07)
T 1 8・ 13- Z (W07)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 光治 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 榎本 政実
木住野 勝也
代理人 加藤 恒 

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