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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W03
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W03
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W03
管理番号 1337229 
異議申立番号 異議2017-900067 
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2018-01-22 
異議申立件数
事件の表示 登録第5899095号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5899095号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5899095号商標(以下「本件商標」という。)は、「ボーテ・ド・ココ」の片仮名を横書きしてなり、平成28年4月1日に登録出願、第3類「オーデコロン・香水及び化粧品,せっけん類及び歯磨き,清浄用及び保湿用のクリーム・オイル・ローション」を指定商品として、同年9月23日に登録査定、同年11月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が本件登録異議の申立ての理由に引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第2704127号商標(以下「引用商標1」という。)は、「COCO」の欧文字を横書きしてなり、昭和61年11月27日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成7年2月28日に設定登録され、その後、同17年6月8日に指定商品を第3類「化粧品,香料類」とする指定商品の書換登録がされたものである。 2 登録第520006号商標(以下「引用商標2」という。)は、「Co Co」の欧文字及び「コ コ」の片仮名を上下二段に横書きしてなり、昭和31年3月21日に登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同33年5月13日に設定登録され、その後、平成20年11月26日に指定商品を第3類「化粧品(化粧用染料及び化粧用顔料を除く。),香料類(薫料,香精,天然じゃ香,芳香油を除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第4492799号商標(以下「引用商標3」という。)は、「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を標準文字で表してなり、平成12年7月21日に登録出願、第3類「化粧品,せっけん類,香料類,かつら装着用接着剤,つけづめ,つけまつ毛,つけまつ毛用接着剤,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用漂白剤,洗濯用ふのり,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」を指定商品として、同13年7月19日に設定登録されたものである。
4 国際登録第1108062号商標(以下「引用商標4」という。)は、「COCO NOIR」の欧文字を横書きしてなり、2011年7月13日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して、2012年(平成24年)1月13日に国際商標登録出願、第3類「Preparations the care of the skin, scalp, hair or nails; preparations for application on the skin, scalp, hair or nails; soap, perfumery, essential oils, cosmetics; non-medicated preparations for toiletry use.」を指定商品として、平成24年12月21日に設定登録されたものである。
なお、引用商標1ないし4をまとめて「引用商標」という場合がある。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の3第2項の規定によって取り消されるべきものである旨申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第168号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有する証拠において、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 引用商標「COCO」の著名性について
申立人は、著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」により創設され、香水等の化粧品の他、高級婦人服、ハンドバッグ、ベルト、靴、時計、アクセサリー等の宝飾品などのデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするトータルファッションメーカーである。申立人の業務に係る商品は、極めて高い知名度を有しており、いずれも洗練された高品質の商品として知られ、申立人の長年の継続的な努力によって、世界の超一流品としての極めて高い信用が日本においても形成され、著名性を獲得しているというべきものである。
引用商標1及び2に係る「COCO」又は「COCO/ココ」は、申立人の創設者の愛称又は通称に由来するものであり、申立人はこの引用商標1及び2を、申立人の商品「香水」等に使用している(甲6?甲10、甲13?甲132、甲151、甲153)。
申立人による香水「COCO」又は「ココ」は、1984年7月23日にフランスにおいて発表され(甲38、甲123)、次いでヨーロッパにおいて同年9月に発売され(甲32)、日本においてはその翌年たる1985年9月20日に発売されたものである(甲47?甲94)。
この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は、1985年の日本での発売と前後して極めて多数の新聞、雑誌によって報道、紹介され、また、各種雑誌に広告記事が掲載されている(甲28?甲103)。
申立人の香水「COCO」又は「ココ」の日本における発売開始年度である1985年9月から12月末日までの約3ヶ月間だけでも、2億5千万円余の販売実績を達成しており、その後も申立人は継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行っている。また、申立人は日本において、発売開始後も現在に至るまで約30年近くにわたり、当該香水「COCO」又は「ココ」に化体した信用、評判、名声を落とさぬよう、1992年度には9億円以上、その後も毎年約4億円近くもの広告費をかけ、継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行い、努力を継続している(甲104?甲112、甲152?甲160、甲162?甲164)。この申立人による不断の努力により引用商標1及び2が付された商品は継続して高い評価を得ており、世界の一流品を掲載する各種刊行物にも紹介されるに至っている(甲113?甲131)。なお、リサーチ会社「INFOPLAN」による香水の著名度に関する調査においても、著名な香水のトップ3にはすべて申立人の香水がランクされており、この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は、香水を使用する人の78%、香水を使用しない人でも60%、トータルで68%の人が知っており、申立人の信用の維持のための継続した努力の結果が現れているものである(甲132)。その他にも、ファッションに敏感な女性が愛読するファッションのオンライン雑誌「ELLE ONLINE」にて読者が「人生を変えたフレグランス」として「COCO」が選ばれる等(甲153)、1985年に日本で発売されて以降、現在に至るまで非常に長い間、日本の需要者の間で愛されて続けている香水である。
申立人は、引用商標1及び2に係る「COCO」又は「ココ」を1984年に発売後、その時代に合わせた「COCO」シリーズを展開している。例えば、2001年には、引用商標3に係る「COCO MADEMOISELLE」(ココ マドモワゼル)を、2012年には、引用商標4に係る「COCO NOIR」(ココ ヌワール)を発売した。いずれも、その香水の香りやデザイン、CF等の広告宣伝でも注目を浴び、大ヒット商品となり、引用商標1及び2に係る「COCO」と並んで、申立人の香水の人気商品のひとつとなっている(甲12、甲16?甲18、甲20、甲151、甲152、甲154?甲164)。
このことは、1973年に始まったアメリカのフレグランス協会(Fragrance Foundation)がその年の最も優れた香水をニューヨーク市のジャーナリストや香水小売業者の投票により決定される「香水のアカデミー賞」ともいわれる「FIFI賞」(FIFI AWARD)において、その最高の賞として、発売から15年以上経った優れた香水から選ばれている「殿堂入り部門」(Fragrance Hall of Fame)に引用商標1及び2に係る「COCO」の香水が1996年に選ばれていることからも、業界内で永年注目を浴び確かな評価を勝ち得ていることは明らかである(甲19、甲20、甲151)。また、引用商標3に係る「COCO MADEMOISELLE」についても、2002年度の「FIFI賞ベストフレグランス(フランス)」に輝き、2012年度の「メディア・キャンペーン部門」にも選ばれており(甲20、甲151、甲162)、申立人の「COCO」シリーズが現在に至るまで、世界中で広く知られ、日本においてもその人気や評判が知れ渡っているというべきである。
このように、申立人は、引用商標に係る「COCO」ブランドにつき、1984年の発売から現在に至るまで、「COCO」に化体した信用、評判、名声等が損なわれぬよう、「COCO」の広告宣伝方法から「COCO」の新シリーズの発売等、不断の努力をし続けている。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)結合商標類否判断
本件商標のような結合商標に関する類否判断の手法について、最高裁判決は、商標の類否判断においては具体的な取引の実情を考察すべき点を明らかにしている(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。
また、一般に、商標の類否を考察するに際して、最高裁判決は、原則として、商標の全体を一体のものとして観察することを前提としているが、結合商標類否判断における要部観察の重要性を明らかにしている(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁)。
さらに、東京高裁判決では、商標の類似とは、「商標中に商品識別機能を有するとは認められないような付記や付飾部分が存在する場合には、これを除いた部分を要部として特定し、これを比較対照する要部観察も、全体的観察と併せてする必要がある。」との判断を明確に示している(東京高裁昭和58年11月7日刑三部判決)。
例えば、過去の判決例や審決例においても、商標の類否判断の際に考慮すべき具体的取引の実情に先願権を有する他人の商標の著名性を考慮すべきであることが認められている(甲147?甲150、甲165、甲166)。 本件においても、引用商標が上記1のように、商品「香水」等に関して高度な著名性を有していることから、本件商標と引用商標の類否判断の際には、引用商標が有するこの著名性を取引の実情として考慮すべきである。
(2)本件商標及び引用商標の構成
本件商標は、「ボーテ・ド・ココ」の片仮名を横書きにした構成よりなる商標である。この本件商標の構成文字たる「ボーテ・ド・ココ」は一連で特定の熟語的意味合いを持つものでなく、また構成文字である「ボーテ」は、「美しさ」等の意味合いを有するフランス語の「Beaute」であり、化粧品等の取引業界においては一般的に認識されている語であり、第3類の本件指定商品との関係でみた場合には、何ら自他商品を識別する機能は有しない。
このことは、過去の審査例においても、「化粧品」等を指定商品として出願された「BEAUTE」の欧文字を含む商標に対し、自他商品識別力がないと判断されている(甲144?甲146)。
これらの事実は、本件商標の構成中「ボーテ」の文字部分に自他商品等識別力がなく、また、「ド」部分は「?の」を意味するフランス語であることから、「ココ」部分が要部として他の部分との類否判断の対象となることを示すものである。
加えて、本件商標の「ココ」の文字部分については、上記1のように著名なデザイナーの愛称又は通称として広く知られ、また申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから、その著名性をうけて、本件商標に接する需要者・取引者にとっては、おのずと、「ココ」部分が強く記憶に残り、該部分が、本件商標の要部として認識されるものである。
したがって、本件商標の構成中「ボーテ・ド」の文字部分からは、自他商品識別標識としての独立した称呼や観念は生じず、専らそれ以外の部分すなわち「ココ」の文字部分が本件類否判断の対象となる要部というべきであり、当該要部から、「ココ」の称呼が生ずるとみるべきである。
一方、引用商標1は、「COCO」の欧文字を横書きにしてなる構成よりなり、引用商標2は、上段に「CoCo」の欧文字を、下段に「ココ」の片仮名を二段に書してなる構成である。よって、引用商標1及び引用商標2からは自然に「COCO(CoCo)」の文字部分から「ココ」との称呼が生ずるものである。
引用商標3は、「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を横書きにした構成よりなり、引用商標4は、「COCO NOIR」の欧文字を横書きにした構成よりなり、いずれもその構成中に「COCO」の欧文字を含む商標である。そして、引用商標3の構成中「MADEMOISELLE」の欧文字はフランス語で「未婚女性の敬称」等を意味することから「女性用」といった意味合いを想起させ、引用商標4の構成中「NOIR」の欧文字はフランス語で「黒色」を意味する言葉であり、これらの語は「化粧品」等の分野においては識別力が弱いというべきである。よって、この引用商標3及び引用商標4からは「COCO」の文字部分より「ココ」との称呼も生ずるというべきである。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標とを比較すると、各商標はそれぞれ上記の構成からなり、本件商標の「ボーテ・ド」の文字部分については、化粧品という指定商品の関連分野において識別力が弱く、「ココ」が、本件商標の要部というべきである。また、本件商標の「ココ」部分は、上記1のように著名なデザイナーの愛称又は通称として広く知られた「COCO(ココ)」を想起させるものである。そして、引用商標「COCO」は、申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから、その著名性をうけて、本件商標においても「ココ」の文字部分が強く印象に残り、その要部として認識されるというべきである。そうすると、本件商標の要部である「ココ」の文字部分と引用商標からは、同一の「ココ」との称呼を生ずる。
以上より、本件商標の要部が「ココ」であることから、本件商標と引用商標は、ともに著名なデザイナーの愛称又は通称として広く知られた「COCO」を想起させるものとして共通する観念を有し、さらに、互いに「ココ」の称呼を生ずることから、商標自体も類似するものであるといえ、また、その指定商品がともに「化粧品」を含むことから、互いに紛れるおそれがある類似の商標であるというべきである。
(4)小括
本件商標は、上記のとおり、その要部を「ココ」とし、その出願日前の出願に係る申立人の引用商標に類似する商標であって、その引用商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するというべきである。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)最高裁判決において、「混同を生ずるおそれ」の有無の判断要素を認定している(最高裁平成10(行ヒ)85号)。
上記判例に鑑みると、商品の出所混同のおそれの判断は、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に商品間の関連性、商標自体の類似性の程度、他人の商標の著名性の程度、著名商標の独創性の程度、取引者及び需要者の共通性、並びに実際の具体的取引の実情を勘案したうえで、総合的に判断されるべきものである。
この点を本件商標と引用商標について検討すると、まず、引用商標の著名性については、上記1のとおり、香水を含む化粧品等につき、世界的な著名性を有していることはいうまでもないことである。そして、本件商標と引用商標との類似性についても、ともにその商標の要部として生ずる称呼が「ココ」であり、本件商標と引用商標は互いに類似する商標である。
そして、著名商標である、引用商標の独創性の程度については、引用商標は、申立人の創業者の愛称又は通称に由来するものであり、特定の意味合いを看取させるものではないことから、創造標章であることは明白である。さらに、取引者及び需要者の共通性については、本件商標はその指定商品に「化粧品」を含むものであり、引用商標もその指定商品に「化粧品」等を含むものである。このように指定商品の分野が同一であるので、商品の用途又は目的も同一であり、その取引者・需要者は共通であるというべきである。また、いうまでもなく、申立人は引用商標の指定商品である化粧品等の製造販売を行っており、申立人の業務の根幹を成すものである。
さらに、申立人は、「COCO(ココ)」だけでなく、その後のブランド展開にあたって、「COCO MADEMOISELLE」や「COCO NOIR」等、「COCO」を含む香水ブランドを発売していることからも、「ココ」と単に「美しさ」を意味するにすぎない「ボーテ(Beaute)」との組み合わせからなる本件商標は、申立人の著名な「COCO」ブランドのシリーズの一つとして需要者等において認識されうるものであり、取引上相紛らわしいものである。
以上より、本件商標と引用商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に、商品間の関連性、商標自体の類似性の程度、引用商標の著名性の程度、著名である引用商標の独創性の程度、取引者及び需要者の共通性、並びに実際の具体的取引の実情を勘案すると、本件商標がその指定商品に使用されると、取引者及び需要者は、それらの商品があたかも申立人若しくは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
加えて、上記最高裁判決において、商標法第4条第1項第15号の趣旨から、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、フリーライド及びダイリューションを引き起こすようないわゆる「広義の混同を生ずるおそれがある商標」をも含むと判示している。
本件においても、著名な引用商標「COCO」と相紛れるおそれのある本件商標が、当該著名表示に化体した高い名声及び信用にフリーライドすることによって、当該著名表示に化体した名声、信用、及び評判の稀釈化が引き起こされるというべきであり、この引用商標に対する稀釈化を防止し、引用商標が有する自他商品識別機能を保護すべきであり、本条の趣旨から考えても本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。
(2)小括
以上のように、本件商標がその指定商品に使用される際には、これに接する取引者・需要者は、あたかも申立人又は申立人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務であるかのごとく誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標の著名性
上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務及び申立人の業務に係る化粧品等について使用された結果、「COCO」の綴り及び「ココ」の称呼のもと、全国的に高い著名性を有する商標であり、引用商標は、商標法第4条第1項第19号の「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」に該当するものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性
本件商標と引用商標とは、上記2のとおり互いに類似する商標である。
(3)出願人の「不正の目的
商標法第4条第1項第19号について、東京高判平成14年10月8日(平成14年(行ケ)第97号)では、「商標法4条1項19号は、もともとただ乗り(フリーライド)のみならず、稀釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)の防止をも目的とする規定」であると説示していることより、同号における「不正の目的をもって使用するもの」とは、具体的には「日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ、その名声を毀損させる目的をもって商標出願する場合」や、「その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願する場合」等が該当する。なお、過去の審決例においても同様の説示がされているところである。
しかるところ、引用商標は、上記1のように申立人による長年にわたる努力の積重ねの結果、取引者・需要者間において広く知られ、高い名声・信用・評判を獲得するに至っており、本件商標の出願時である平成28年(2016)4月1日には、引用商標はすでに申立人の業務に係る商品に使用される商標として極めて広く知られていた著名商標であり、「COCO(ココ)」といえば申立人が製造販売する世界的に有名な香水等の化粧品ブランドの「COCO」との観念が一義的に生ずるものである。
一方、本件商標の要部は、かかる著名な引用商標の「COCO」と同一の称呼が生じ、指定商品が申立人の「COCO」が著名性を獲得した「化粧品」と極めて密接な関連を有する商品であることを考えると、本件商標権者が著名な引用商標を知らず、偶然に著名な引用商標と同一の綴り及び同一の称呼を生ずる文字からなる本件商標を出願したとは考え難く、引用商標の有する高い名声、信用、評判にフリーライドする目的で出願、使用されているものと推認される。したがって、本件商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するというべきである。
5 結び
以上のように、本件商標は、商標法第第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第43条の3第2項の規定により、その登録は取り消されるべきものである。

第4 当審における取消理由の要旨
当審において、本件商標権者に対し、「本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。」旨の取消理由を平成29年9月27日付けで通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えた。

第5 商標権者の意見
上記第4の取消理由に対し、商標権者は、何ら意見を述べるところがない。
第6 当審の判断
1 申立人商標の著名性について
(1)申立人の提出した甲第6号証ないし甲第132号証及び甲第151号証ないし甲第164号証によれば、以下の事実を認めることができる。
申立人は、香水等の化粧品をはじめ、高級婦人服、ハンドバッグ、ベルト、靴、アクセサリー等の製品の製造販売等を業とするトータルファッションメーカーである(甲114等)。申立人の業務に係る商品のうち「香水」について使用される「COCO」又は「ココ」(これらを以下「申立人商標」という場合がある。)は、申立人の創設者である「ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)」の愛称に由来すること(甲21?甲26等)、申立人商標を付した香水(以下「申立人商品」という。)は、1984年(昭和59年)にパリで発表され、同年9月には、ヨーロッパで発売され(甲17、甲18、甲32、甲38等)、その報道及び我が国での今後の発売に関する報道は、我が国の新聞や様々なファッション雑誌等で紹介された(甲33、甲35、甲37?甲42等)。申立人商品は、我が国では翌年の1985年(昭和60年)9月に発売が開始されたところ、その発売日の前後を通して、申立人商品の発売に関する記事が多数の新聞やファッション雑誌等で掲載され(甲43?甲94)、また、申立人は、発売日後も継続して申立人商品の広告を多数のファッション雑誌等に掲載した(甲95?甲109、甲112等)。そして、申立人商品は、ウェブサイトでも紹介され(甲151、甲153等)、数多くの香水に関する専門誌や書籍等にも取り上げられた(甲8?甲10、甲12?甲18等)。また、申立人商品は、アメリカのフレグランス協会がその年の最も優れた香水をニューヨーク市のジャーナリストや香水小売業者の投票により決定される「香水のアカデミー賞」ともいわれる「FIFI賞」において、その最高の賞として、発売から15年以上経った優れた香水から選ばれている「殿堂入り部門」に1996年に選ばれ(甲19、甲20、甲151)、1997年(平成9年)12月の時点において、リサーチ会社「INFOPLAN」が大阪と東京における10歳代から40歳代800人を対象とした香水のブランド知名度に関するアンケート結果では、申立人の取扱いに係る商品が上位3位を占め、申立人商品は、そのうち第3位であった(甲132)。その後、申立人は、申立人商品のシリーズ商品として、2001年(平成13年)に、「COCO MADEMOISELLE」の文字からなる商標を付した香水を発売(甲11、甲16?甲18等)、2012年(平成24年)には、「COCO NOIR」の文字からなる商標を付した香水を発売(甲152、甲161、甲163、甲164)した。そして、これらのシリーズ商品の包装容器には大書した「COCO」の商標が付されている(甲6)。
(2)上記(1)で認定した事実によれば、申立人商標は、申立人商品を表示するものとして、本件商標の登録出願日前より、香水の分野の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められ、その著名性は、本件商標の登録査定日においても継続していたものと認めることができる。
2 商標の類否判断
商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号、同43年2月27日第三小法廷判決)。
そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号、同38年12月5日第一小法廷判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号、同5年9月10日第二小法廷判決、最高裁平成19年(行ヒ)第223号、同20年9月8日第二小法廷判決)。
以上を踏まえて、本件商標と引用商標との類否について判断する。
3 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
上記第1のとおり、本件商標は、「ボーテ・ド・ココ」の片仮名を横書きしてなり、その指定商品を「オーデコロン・香水及び化粧品,せっけん類及び歯磨き,清浄用及び保湿用のクリーム・オイル・ローション」とするものである。
ところで、その構成中の「ボーテ」の文字部分は、香水、化粧品等の分野において、商標や商品に関する表示に多用されるフランス語で、「美、美しさ」等を意味する「Beaute(最後の「e」にアクサンテギュがある。)」の読み仮名であり、「ド」の文字部分も「から、の」を意味する前置詞「de」の読み仮名であって、化粧品等の分野においては、これらの語は、普通に使用されているものである。
そうすると、本件商標をその指定商品について使用するときは、「ボーテ・ド」の文字部分は、上記意味合いを取引者、需要者に認識、理解させるとみるのが相当であるから、自他商品の識別機能を有しないか、あるいは、有するとしても極めて弱いものといわなければならない。
そして、上記1のとおり、本件商標の構成中の「ココ」の文字部分は、本件商標の登録出願日には既に、申立人商品を表示するものとして、我が国の香水を取り扱う分野の取引者、需要者の間に広く認識されていた申立人商標のうち、「ココ」と同一の綴り文字からなり、また、これより生ずる「ココ」の称呼も同一であることからすれば、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「ココ」の文字部分に強く印象付けられ、当該商品が申立人商品とその生産者、販売者を同じくする商品であると想起又は連想する場合も決して少なくないものとみるのが相当である。
そうすると、本件商標は、これを常に構成全体をもって一体不可分の商標を表したと把握、認識されるものではなく、強く支配的な印象を与える「ココ」の文字部分より、単に「ココ」の称呼をも生ずるものといわなければならない。
また、該「ココ」の文字部分は、申立人商品を表示するものとして著名であるから、申立人の著名ブランドとしての「COCO」又は「ココ」の観念を生ずるものである。
(2)引用商標
上記第2のとおり、引用商標1は、「COCO」の欧文字を横書きしてなるものであり、引用商標2は、「Co Co」の欧文字及び「コ コ」の片仮名を上下二段に横書きしてなるものであり、引用商標3は、「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を標準文字で表してなるものであり、引用商標4は、「COCO NOIR」の欧文字を横書きしてなるものである。
そして、上記1のとおり、引用商標1を構成する「COCO」の文字並びに引用商標2を構成する「Co Co」及び「コ コ」の各文字は、申立人商品を表示するものとして、我が国の香水を取り扱う分野の取引者、需要者の間に広く認識されていた申立人商標と同一又は類似の商標であるといい得るものである。また、上記1のとおり、引用商標3及び4は、申立人商品のシリーズ商品の商標であるところ、引用商標3を構成する「MADEMOISELLE」の文字部分は、フランス語で「未婚女性の敬称」等を意味し、指定商品との関係では「女性用」といった商品の用途を、引用商標4を構成する「NOIR」の文字部分は、フランス語で「黒色」を意味し、指定商品との関係では商品の色彩を、それぞれ、想起させるものであるから、両文字部分は自他商品の識別力がないか、もしくは極めて弱いものというべきであって、引用商標3及び4は、それぞれの構成中の「COCO」の文字部分が、看者に強く支配的な印象を与える部分であるといえるものである。そして、当該「COCO」の文字部分は、上記と同様のものとして、我が国の香水の分野の取引者、需要者の間に広く認識されていた申立人商標と同一又は類似の商標であるといい得るものである。
そうすると、引用商標1及び引用商標2からは、その構成文字に相応して、「ココ」の称呼を生ずるものであり、引用商標3からは「ココマドマゼル」及び引用商標4からは「ココノワール」の称呼が生ずるほか、それらの構成中、独立して商品の出所識別標識としての機能を有する「COCO」の文字に相応して、「ココ」の称呼をも生ずるものであり、引用商標に接する取引者、需要者は、申立人の著名ブランドとしての「COCO」又は「ココ」の観念を生ずるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標の構成中、強く支配的な印象を与える「ココ」の文字部分と引用商標との外観を比較すると、引用商標1を構成する「COCO」の文字並びに引用商標3及び4の構成中、強く支配的な印象を与える「COCO」の文字部分とは、構成文字を異にするものであるが、引用商標2を構成する「コ コ」の文字部分とは、構成文字の綴りを共通にするものであるから、本件商標と引用商標2は、外観上類似するものである。
そして、本件商標と引用商標とは、上記(1)及び(2)のとおり、「ココ」の称呼及び申立人の著名ブランドとしての「COCO」又は「ココ」の観念を同一にするものである。
そうすると、本件商標と引用商標2とは、外観上類似し、称呼及び観念を同一にするものであり、本件商標と引用商標1、3及び4とは、外観において異なるとしても、称呼及び観念を同一にするものであるから、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
(4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否
本件商標は、上記第1のとおり、第3類「オーデコロン・香水及び化粧品,せっけん類及び歯磨き,清浄用及び保湿用のクリーム・オイル・ローション」を指定商品とするものである。
これに対し、引用商標の指定商品は、上記第2のとおり、いずれも第3類「化粧品」を指定商品中に含むものである。
してみると、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、同一又は類似の商品ということができる。
(5)小括
以上によれば、本件商標は、引用商標と類似する商標であって、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品に使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、他の申立ての理由について判断するまでもなく、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2017-12-05 
出願番号 商願2016-43178(T2016-43178) 
審決分類 T 1 651・ 261- Z (W03)
T 1 651・ 262- Z (W03)
T 1 651・ 263- Z (W03)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大橋 良成 
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 青木 博文
原田 信彦
登録日 2016-11-25 
登録番号 商標登録第5899095号(T5899095) 
権利者 飯塚 佳世子
商標の称呼 ボーテドココ、ボーテド、ボーテ、ココ 
復代理人 佐藤 俊司 
復代理人 池田 万美 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 

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