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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W25 |
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管理番号 | 1337203 |
審判番号 | 無効2016-890037 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-05-31 |
確定日 | 2018-02-01 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5767947号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5767947号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5767947号商標は,「DAVID ARCHY」の欧文字を表してなり,2014年(平成26年)6月10日に,域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して,同年11月28日に登録出願,同27年5月13日に登録査定,第25類「被服,毛皮製被服,下着,水泳着,靴,帽子,靴下,手袋,スカーフ,ベルト」を指定商品として,同年5月29日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 利害関係 請求人は,平成23年3月2日から,中国において,「DAVIDARCHY」(以下「本件表示1」という。)及び別掲のとおりの「(飾り文字)DAVID ARCHY」(以下「本件表示2」という。)を使用した下着類の販売を開始した。 また,請求人は,平成26年9月13日から,日本において本件表示1及び2を使用した下着類の販売を開始した(甲2)。 請求人は,日本において本件表示1及び2を使用した下着類をAmazon.co.jpを通じて販売していたところ,Amazon.co.jpから「登録商標番号:5767947」の権利を侵害しているとの連絡を受けた(甲3の1)。 よって,請求人は,本件商標の存否について利害関係を有する者である。 2 無効事由 本件商標は,商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。 3 無効原因 (1)商標法第4条第1項第19号について ア 売上について 請求人の販売する本件表示1及び2を使用した下着類の商品(以下「本件表示商品」という。)は,中国において,平成23年から,実店舗(甲4)やインターネット通販により販売されている。 本件表示商品の売上げは,中国において,平成23年度に63.2万元,平成24年度に308.6万元,平成25年度に620.5万元と推移し,本件商標の出願時である平成26年度には553.7万元,本件商標の登録時である平成27年度には274.4万元である(甲2)。 イ 利用者数について 本件商標の出願時までの過去5年間の本件表示商品の売り上げは,累計1820万元であり,本件表示商品の単価が約25元から125元であること(甲5)からすると,約14万5600枚(1820万÷125)ないし約72万8000枚(1820万÷25)の商品を売上げている。 中国国民の民間企業の平均年収が3万元強程度であるから,本件表示商品の金額は非常に高価であり,本件表示商品は,中国の富裕層の男性を対象とする製品であるといえる。また,上記の数量が販売されていることからすれば,本件表示商品は,請求人の販売サイトを閲覧し商品の購入を検討している者はさらに多いといえる。 ウ メディア紹介 (ア)Beijing Smashing E-commeree CO.,Ltdの通信販売の成功事例において,請求人がメンズパンツの分野に特化して豊富な種類の製品を提供していることが紹介されている(甲6の1及び2)。 (イ)Amazon中国の紹介サイトにおいて,請求人がメンズアンダーウェアの専門ブランドであって,中国で立ち上げて海外にも展開して成功していること(甲7の1及び2),米国Amazonで順調に売上げを伸ばしていることが紹介されている(甲8の1及び2)。 そして,Amazonのセミナーにおいて,本件表示商品は,AMAZON中国の成功事例として紹介されている(甲9の1及び2)。 (ウ)以上のように,中国国内の売上高,購入した者・購入を検討した者の数及びメディア紹介の状況からすれば,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,本件表示1及び2は,中国における需要者の間において,請求人の販売する下着類を表示するものとして広く認識されたものである。 エ 本件表示1及び2と本件商標とが同一又は類似であること 本件商標は,「DAVID ARCHY」の欧文字からなるのに対し,本件表示1及び2は,「DAVID ARCHY」の文字又は「DAVID ARCHY」の飾り文字からなるものであるから,本件商標と本件表示1及び2とは,同一又は極めて類似性の高いものである。 オ 不正の目的があること (ア)被請求人の販売状況 被請求人は,日本国内において,本件商標を使用した下着類を販売していない。 Amazonにおいて,「DAVID ARCHY」及び「デヴィッド・アーキ」で検索すると,複数の下着類の商品がヒットし(甲10の1及び2),それらの複数の商品の識別番号は,請求人がDAのIDで出品した商品一覧の識別番号と一致する(甲11の1ないし3)。 よって,Amazonにおいて,販売されている「DAVID ARCHY」を使用した商品は,全て請求人の商品である。 そして,被請求人は,日本においてAmazonを経由して請求人に対して本件表示商品の販売が本件商標の侵害であると警告してきた。 なお,このような警告は,日本に限られず,イギリス,ドイツ,フランスにおいても行われた(甲3の2ないし9)。 (イ)外国での対応状況 被請求人は,本件商標と同一の商標について,欧州(本件商標の基礎出願)と米国で登録出願した。 そして,本件商標の基礎出願は,欧州において商標登録がなされ(甲12),本件商標と同一の商標が米国で商標登録された(甲13の1)。 しかし,米国においては,異議申立がなされて,被請求人は何ら応答せず,米国における商標登録は取り消されている(甲13の2)。 また,欧州においては,無効審判が提起され(甲14の1及び2),審判に係属している。 被請求人が事業の目的で商標登録出願をしたのであれば,異議申立に対して積極的に応答して権利の維持を試みると考えられるところ,被請求人は,そのような対応をしていない。 請求人は,米国では平成25年から本件表示商品の販売を開始し,欧州では平成26年から本件表示商品の販売を開始した。被請求人の欧州及び米国の商標登録出願は,販売開始後に行われていた。 このことは,被請求人が事業の目的ではなく,米国での登録商標を高値で請求人に売却しようとした目的であったといえる。 そして,その目的と同様に,我が国においても本件商標を高値で請求人に売却しようとした目的があったといえ,本件商標は,不正の目的で登録出願されたものである。 (ウ)被請求人及び請求人の国籍 被請求人及び請求人は,ともに中国法人である。 そして,請求人は,販売する本件表示商品を,本件商標の優先権主張日の平成26年度,中国国内において553.7万元を売り上げている。 これらのことからすれば,被請求人は,当然に請求人の本件表示1及び2を知って本件商標の登録出願を行ったと考えられる。 (エ)本件商標の観念 本件商標は,男性用下着や衣服等において,その商品の品質等を示すものではなく,一般的に採択されるものではない。 また,被請求人は,中国法人であって,上記のような名前を有するものでもない。 そのため,被請求人が偶然に「DAVID ARCHY」なる商標を登録出願することはありえない。 カ 以上より,本件商標は,中国における需要者の間に広く認識された本件表示1及び2と同一又は類似するものであって,不正の目的の下で登録出願されたものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第7号について 本件商標は,上述のような不正の目的の下で登録出願されており,国際商道徳に反するものであって,公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく,国際信義に反し公の秩序を害するものであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであるといえ,商標法第4条第1項第7号に該当する。 2 回答書(平成29年4月3日付け) (1)売上について 請求人は,Tmall(天猫),京東,Amazon中国等のインターネット通販を通じて,本件表示商品を販売していた。 甲第15号証の1ないし4,甲第17号証の1及び2,並びに甲第19号証の1ないし4は,各証拠の右上に「davidarchy」の表示があるように,インターネット通販において,それぞれ本件表示商品を販売していた売上・数量等の具体的な販売状況である。 (2)下着業界研究報告書について 下着業界研究報告書(以下「本件報告書」という。甲21及び甲22)は,2014年(平成26年)1月,委託に基づいて金石投資有限公司が作成したものであり,これによれば,中国における下着業界の概況として,消費のレベルが向上するとともに,需要が多元化し,機能性とファッション性が日増しに重要視されるようになっており,デザイン上の改革として,David Archyが,立体裁断を施した男性用パンツを発売したことが記載されている。 また,本件報告書によれば,下着業界においてEコマースが一つの市場として確立されており,Eコマースのアパレルにおける取引総額は,3000億元に達し,Eコマースでの売り上げは,アパレル業界における総取引額の20%を占めるに至っている。 そして,Eコマースの取引額シェアとしては,Tmall(天猫)が61.4%のシェアを獲得している。 Tmall(天猫)で男性用下着を検索すると,DAVID ARCHYの表示が,「UNIQLO」,「Calvin Klein」等の世界的著名ブランドと肩を並べて上位に表示される。また,年間成長率100%を達しているブランドとして,DavidArchyが紹介されている。 (3)本件表示の著名性 ア 中国における2014年1月当時の著名性 上記(1)に鑑みれば,請求人のブランドである「DavidArchy」は,2014年の1月時点(本件報告書作成時点)において,既に,中国における男性下着業界をけん引する主要ブランドの一つであり,中国において,男性下着を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことは明らかといえる。 (4)本件商標の登録出願時及び登録査定時における中国での著名性 本件報告書が作成された時点(2014年1月)までにおけるTmall(天猫)での本件表示商品の平均売上額は(2012年及び2013年の売上平均額),「1,936,360.13元」であるところ,Tmall(天猫)での2014年度における本件表示商品の売上額は,当該平均売上額を上回る「2,033,814.08元」となっており,また,2015年度における本件表示商品の売上額は,当該平均売上額をやや下回るものの,これと同水準といえる「1,646,487.6元」となっている(甲15及び甲16)。 このような実績(売上推移)に照らすならば,請求人のブランドである「DavidArchy」は,遅くとも,2014年1月の時点において,中国での著名性を獲得し,その著名性は,今もなお維持されているのであるから,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,本件表示1及び2が,中国で男性下着を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことは明らかである。 なお,請求人は,本件表示商品を,中国No.2のECプラットフォームである京東で販売しており,ここでの2014年度における売上額は,Tmall(天猫)での平均売上額とほぼ同水準(「1,697,818.81元」)である(甲15ないし甲18)。 また,本件表示商品のAmazonでの売上額は,Tmall(天猫)での売上額に比べ劣るものの(甲15,甲16,甲19及び甲20),Amazonは,世界的に著名なECプラットフォームであることに加え,請求人のブランドである「DavidArchy」は,Amazon中国における成功事例として紹介されているのであるから,請求人のブランドである「DavidArchy」が獲得した中国での著名性は,今もなお維持されていることは明白である。 第3 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の上記主張に対し,何ら答弁していない。 第4 当審の判断 1 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)本件表示1及び本件表示2の周知性について 請求人は,本件表示1及び2を,男性用下着の広告に使用しており(甲4),本件表示商品は,中国においてインターネットで販売され(甲5),我が国においてもインターネットで販売されている(甲10及び甲11)。 そして,甲第15号証及び甲第16号証によれば,2012年10月から2015年までの「Tmall(天猫)」での売上は,約760万元(審決注:約1億2400万円),甲第17号証及び甲第18号証によれば,2013年10月から2014年までの「京東」での売上は,約224万元(審決注:約3700万円),並びに,甲第19号証及び甲第20号証によれば,2012年から2015年までの「Amazon中国」での売上は,約286万元(審決注:約4700万円)である。 また,甲第21号証の「金石投資有限公司」の本件報告書(一部の翻訳は,甲22)によれば,2008年以降,下着専門ブランドがEコマースを拠点として台頭していること(同号証の16頁),Eコマースの取引額シェアは,天猫が61.4%であり,「京東」が18.6%であること(同号証の26頁)及び「・・・David Archyなどのブランドは,年間成長率100%以上を実現している。」(同号証の38頁)旨の記載がある。 上記事実からすれば,本件表示1及び2は,請求人の商品「男性用下着」を表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,中国における需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 (2)本件商標と本件表示1及び本件表示2との類似性について ア 本件商標について 本件商標は,上記第1のとおり,「DAVID ARCHY」の欧文字を表してなり,これからは,「デビッドアーキー」の称呼を生じ,「DAVID」の欧文字は「デイビッド(男の名)」の意味を,「ARCHY」の欧文字は「政治,政体」の意味を有する英語であるとしても,これらを一連に表した「DAVID ARCHY」の欧文字からは,直ちに特定の意味合いを認識させるものではないから,一種の造語として理解され,特定の観念を生じないものである。 イ 本件表示1及び本件表示2について 本件表示1は,「DAVIDARCHY」の欧文字を表してなり,本件表示2は,別掲のとおり,「DAVID ARCHY」の欧文字をデザイン化して表してなるものであるから,これらからは,「デビッドアーキー」の称呼を生じ,特定の意味合いを認識させることのない一種の造語といえるものであるから,特定の観念を生じないものである。 ウ 本件商標と,本件表示1及び本件表示2との類否について 本件商標は,「DAVID ARCHY」の欧文字からなり,本件表示1及び2の「DAVIDARCHY」の欧文字及びデザイン化して表した「DAVID ARCHY」の欧文字と,つづりを同じくするものであるから,外観において近似した印象を与えるものである。 そして,本件商標と本件表示1及び2とは,「デビッドアーキー」の称呼を同じくし,構成文字のつづりを同じくするものであるから,観念において異なることのないものである。 そうすると,本件商標と本件表示1及び2とは,外観において近似し,「デビッドアーキー」の称呼を同じくし,観念において異なることのないものであるから,極めて類似する商標というべきである。 (3)本件商標の指定商品と,本件表示1及び本件表示2を表示した請求人商品について 本件商標の指定商品は,本件表示1及び2を表示した請求人の商品「男性用下着」を含むものである。 (4)不正の目的の有無について 本件表示1及び本件表示2は,上記1のとおり,請求人の商品「男性用下着」を表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,中国における需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 そして,本件表示1及び2は造語であって,上記(1)のとおり,本件商標と両表示とは,極めて類似する商標というべきである。 そうすると,本件商標は,本件商標権者が偶然に採択したものとは考え難く,むしろ,本件商標の登録出願当時,請求人の使用に係る本件表示1及び2の存在を認識したうえで,請求人の当該表示が我が国において商標登録されていないことを奇貨として,請求人の当該表示と極めて類似する本件商標を登録出願したもの推認されるから,不正の目的があったものと判断するのが相当である。 (5)したがって,本件商標は,その登録出願時ないし登録査定時において請求人の業務に係る商品を表示するものとして,中国における需要者の間に広く認識されていた他人(請求人)の表示(商標)と同一又は類似であって,不正の目的をもって使用をするものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。 2 まとめ 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第19号違反してされたものであるから,その余の請求の理由について検討するまでもなく,同法第46条第1項に基づき,無効とすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (本件表示2) |
審理終結日 | 2017-09-04 |
結審通知日 | 2017-09-07 |
審決日 | 2017-09-25 |
出願番号 | 商願2014-100533(T2014-100533) |
審決分類 |
T
1
11・
222-
Z
(W25)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 浦崎 直之 |
特許庁審判長 |
早川 文宏 |
特許庁審判官 |
田中 亨子 平澤 芳行 |
登録日 | 2015-05-29 |
登録番号 | 商標登録第5767947号(T5767947) |
商標の称呼 | デイビッドアーキー、デービッドアーキー、デビッドアーキー、デービッド、デビッド、アーキー、アーチー |
代理人 | 弁護士法人 ベリーベスト法律事務所 |