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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Y0915
管理番号 1335223 
審判番号 取消2016-300387 
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-06-07 
確定日 2017-11-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第1611959号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1611959号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、昭和55年2月9日に登録出願、第24類に属する商標登録原簿記載の商品を指定商品として昭和58年8月30日に設定登録され、その後、3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、平成16年8月18日に、指定商品を第9類「電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,レコード,メトロノーム」及び第15類「楽器,演奏補助品,音さ」とする指定商品の書換の登録がされたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成28年6月17日である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用されていないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)乙第1号証について
乙第1号証の「Porter Music Box Company,Inc.(ポーター・ミュージック・ボックス・カンパニー・インコーポレーテッド)」(以下「ポーター社」という。)のホームページはすべて英語で記載され、我が国の取引者及び一般需要者をターゲットとしたウェブサイトの体裁であるとは到底いえないことから、日本での使用事実を示す証拠とはなり得ない。
さらに、乙第1号証のページ右下に「2016/08/12」と思しき日付が印字されているが、これは本件審判の請求登録日より後の日付であって、本件審判の請求登録前三年以内の使用事実を示すものではない。
(2)乙第2号証は、クラシカルミュージック株式会社のホームページからの抜粋である。被請求人は、ページ上部に付された欧文字「PORTER」及びオルゴールの天板部分内側面に表れた欧文字ロゴ「PORTER」及び「Porter」をもって、本件商標と社会通念上同一の範囲内で使用している旨主張する。
しかしながら、乙第2号証に表れた各々の使用態様はいずれも、本件商標とは外観が明らかに異なり、称呼・観念も同一でない。さらに、本件商標の特徴的部分から発揮される識別性と同一の範囲内の使用例とは認められない。
よって、本件商標と社会通念上同一の商標を使用するものとは認められないため、被請求人の主張は失当といわざるを得ない。
さらに、乙第2号証のページ左上に「2016/08/16」と日付が印字されているが、これは本件審判の請求登録日より後の日付であって、本件審判の請求登録前三年以内の使用事実を示すものではなく、証拠力を欠くものである。
ア 本件商標について
本件商標は、やや手書きらしき独特のタッチを用いて右斜めに傾斜した書体にて描かれてなる。
本件商標の構成文字の第2文字目及び第4文字目は、通常、片仮名文字で表す際に用いられる「ー(長音)」とは、配置と造形が明らかに異なるものである。第1文字目「ポ」及び第3文字目「タ」が縦に長く伸び、かつ右に傾斜して特徴的に描かれるところ、第2文字目及び第4文字目は、右に傾斜したこれらの片仮名文字のすぐ傍らに、しかも底辺のラインに沿って短い横棒として表され、「ー(長音)」というよりはむしろ「_(アンダーバー)」のように見え、視覚的に把握され易い態様となっている。
とすれば、本件商標に接する取引者・一般需要者にとって、このような手法にて描かれた態様より、全体として「ポーター」の片仮名文字を想起することはむしろ難しいのであって、特殊な態様にて描かれた第2文字目及び第4文字目をもって、全体として一種の造語として認識するというのが自然である。
このように、本件商標は、特殊に描かれた第2文字目及び第4文字目の態様にこそ構成上の独創性があり、特徴を有するものであるから、これらの部分が外観上強く識別力を発揮する特徴的部分(要部)といえる。
本件商標は、第2文字目及び第4文字目は一般に「ー(長音)」とは視覚的に把握され難いことから、全体より「ポタ」の称呼が生じ、造語として特に一定の意味合いを観念し得ないというのが相当と思料する。
イ 使用商標について
(ア)乙第2号証のページ上部の欧文字「PORTER」(以下「使用商標1」という。)
使用商標1はゴシック体の如き平易な欧文字書体にて「PORTER」と描かれてなるが、本件商標は一種の造語であって、特定の観念を生じず、これより生じる自然称呼は「ポタ」であって、「ポーター」の自然称呼は生じない。よって、使用商標1は、本件商標とは外観のみならず、観念・称呼においても同一でなく、本件商標とは社会通念上同一の商標とはいえない。
加えて、当該使用例は、米国ポーター社の社名表示として付されており、専ら商号としての使用であって、商標としての使用ではない。
(イ)乙第2号証のオルゴール(「スワン・エリート2(名称中の「2」はローマ数字で表記されている。以下同じ。)」及び「バロック」)の天板部分内側面に付された欧文字ロゴ「PORTER」(以下「使用商標2」という。)
甲第3号証に表れた使用商標2には「PORTER」の欧文字が含まれる一方、前記アで認定したとおり、本件商標は一種の造語であって、「ポーター」の自然称呼は生じず、特定の観念も生じない。よって、当該使用例は、本件商標とは外観のみならず、観念・称呼上においても同一でなく、本件商標と社会通念上同一の商標とはいえない。
さらに、使用商標2は、「PORTER」の欧文字が、下方向に湾曲してカーブを描くように付され、前に2個、「POR」と「TER」の間に1個、そして末尾に2個の四分音符を象った図形が配されてなる。この四分音符の図形は、本件商標の構成にはまったく含まれない新しい要素である。
仮に、文字と図形が明らかに別異の要素として切り離して把握できる構成ならば、文字要素のみ抽出して本件商標と対比可能であるが、使用商標2の場合、「POR」と「TER」の間にまで四分音符の図形が配され、「PORTER」の文字全体にわたって図形要素が散りばめられ、文字と図形とが一体化している。
このように、本件商標と単に文字種が相違するということではなく、新たな図形要素が文字と溶け合うように付加された使用商標2が、本件商標が発揮する識別性の同一の範囲を超えた態様であることは明らかであり、かかる観点からも、本件商標と社会通念上同一の範囲内とは到底いえないものである。
(ウ)乙第2号証のオルゴール(「ツインディスク」)の天板部分内側面に付された欧文字ロゴ「Porter」(以下「使用商標3」という。なお、使用商標1ないし使用商標3をまとめていう場合には、単に「使用商標」という。)
甲第4号証に表れた使用商標3には「Porter」の欧文字が含まれる一方、本件商標は一種の造語であって特定の観念を生じず、これより生じる自然称呼は「ポタ」であって、「ポーター」の自然称呼は生じない。よって、当該使用例は、本件商標とは外観のみならず、観念・称呼上においても同一でなく、本件商標と社会通念上同一の商標とはいえない。
さらに、使用商標3は、頭文字のみが大文字にて表され、また極めて特殊なレタリング技法を用いた独特の文字の造形となっている。さらに、頭文字「P」から一且左にアーチを描きつつ、右に折り返して末尾の「r」まで長くたなびく曲線を伴い、全体としてひとまとまりにバランス良く、水が流れるような印象を奏する構成となっている。
このように、本件商標とは単に文字種が相違するということではなく、頭文字の特殊な造形と文字と一体となるように付加された曲線図形が新たに付加された使用商標3が、本件商標が発揮する識別性の同一の範囲を超えた態様であることは明らかであり、かかる観点からも、本件商標と社会通念上同一の範囲内とは到底いえない。
(3)乙第3号証について
乙第3号証は、ポーター社からクラシカルミュージック株式会社に対して発行された請求書(インボイス)であり、被請求人は、これをもって、要証期間内にオルゴールを日本に輸出した事実が明らかであるとする。
しかしながら、同請求書の「Description」欄の「Signed」の署名欄にサインが付されていないにもかかわらず、「PAID 03/10/2016」と支払済みである旨の押印がなされており、このような不備を有する書類は、取引事実を立証するための証拠として不適格といわざるを得ない。
(4)乙第4号証について
乙第4号証は、「現代用語の基礎知識」からの抜粋であり、本件商標の使用事実を立証するものでもなく、立証証拠たり得ないこと明らかである。
(5)乙第5号証について
乙第5号証の「契約書」の第1条では「商標登録第1214689号」と登録番号を明示して使用許諾の対象たる商標が特定されているが、本件不使用取消審判の対象は登録第1214689号ではなく、登録第1611959号である。
全く別の商標登録に基づく使用許諾契約をもって本件商標登録についての使用許諾契約であるとする被請求人の主張は、失当という他ない。
また、被請求人は、乙第2号証の3枚目にて、片仮名「ポーター」を使用していると主張するが、乙第2号証に表れた態様は「ポーターディスクオルゴール」であって、片仮名「ポーター」が独立して使用されている態様ではない。その他、乙第2号証に表れた実際にポーター社が使用している使用商標は、登録第1611959号の登録商標とはその構成態様がどれひとつ一致するものがなく、一見しただけでも明らかに異なっている。
答弁書において、被請求人は、ポーター社による使用商標が本件商標の社会通念上同一の範囲内であると主張する。しかしながら、仮に、乙第5号証の「契約書」第1条の「権利に基づいて」との表現をもって、被請求人が、ポーター社が本件商標と異なる態様で使用することについて、黙示の許諾を与えていたと解する場合でも、ポーター社の使用商標にはどれひとつして本件商標が有する外観上の独特の特徴点を含んだものが存在しない。
よって、本件商標とはもはや別異の商標であるといわざるを得ず、本件商標と社会通念上同一の範囲内とは認められない。
乙第5号証の「契約書」において単に「『PORTER』商標」と記載されているだけでは、被請求人がどの程度に変更が施された態様にまで社会通念上同一の範囲に含まれる商標と認識していたのか、どこまでの範囲についてポーター社に登録商標の使用につき黙示の許諾を与えていたかが全く不明である。よって、乙第5号証の「契約書」をもって、乙第2号証に表れたポーター社の使用商標が社会通念上同一の範囲内にあると認識し、被請求人が黙示の許諾を与えていたことの証左とはならない。
被請求人は、信義則に基づけば、まったく別件である欧文字ロゴ商標についての登録第1214689号についての使用許諾をもって、片仮名ロゴ商標である本件商標についても黙示の許諾を与えていた旨主張する。しかしながら、信義則に照らしても、構成態様の明らかに異なる商標が使用許諾の範囲に含まれるようなことはない。登録第1214689号の他に、本件商標についても使用許諾を行っていたとの認識が被請求人とポーター社との間に存在したというのであれば、契約締結時に、1通の使用許諾契約書に登録第1214689号と本件商標の登録番号を明記するか、あるいは別々に2件の使用許諾契約書を締結するのが取引の常識であり、2件の商標登録について契約書面が存在するはずである。そのような契約書が本件商標についてのみ証拠提出されてこないこと自体が極めて不自然であって、本件商標については使用許諾契約書がこの世に存在しないものと推察せざるを得ない。登録第1214689号についての使用許諾契約書が歴然と書面にて保管されている一方で、本件商標についての契約書が存在しないとの外形状況からは、両当事者間の認識として、登録第1214689号とは異なり、本件商標については使用許諾を行う意思表示が、書面でも口頭でもお互いに存在しなかったと判断せざるを得ないと思料する。互いの意思表示なしに、使用許諾契約は成立しない。よって、信義則に照らして黙示の許諾が存在したとの被請求人の主張は失当というより他ない。
(6)社会通念上の同一について
本件商標の構成上の特徴は、前記(2)のとおり、複数の特徴点を挙げることができるが、そのうちでも識別力を殊更強く発揮する最大の特徴は、第2番目及び第4番目の「ー(長音)」が「_(アンダーバー)」の如く特殊な態様で描かれたとの外観上の特異な表現にある。かかる特異な表現方法により描かれた本件商標は、一見、もはや「ポーター」の文字を表したものとは断じ難い。
一方、乙第2号証に表れたポーター社の使用商標は、「PORTER」又は「Porter」の文字が明瞭に看取できるものであって、ゴシック体調の普通に用いられる書体のものと、本件商標と全く異なる美感を奏するデザインが付されたロゴが存在するが、本件商標の外観上の特徴を具備した構成ではない。また、被請求人が主張する片仮名の「ポーターディスクオルゴール」は、片仮名「ポーター」が独立して使用されている態様ではないばかりか、普通の書体で表され、第2番目及び第4番目の文字も普通の「ー(長音)」の造形である。
このように、使用商標のいずれもが本件商標の最大の特徴点を具備しない以上、本件商標から発揮される特徴ある識別性を当然有さないのであって、社会通念上同一の範囲を超えた使用態様といわざるを得ない。
商標法第50条の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」及び「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商標」とは、当然のことながら、登録商標の構成より認識される識別性の同一範囲内の場合を指すのであって、「ポーター」と判読できるかどうか微妙なまでに高度にデザイン化され、またそのデザイン自体に外観上の独特の特徴がある本件商標のような事案において、すべての「ポーター」「PORTER」ロゴ商標を社会通念上同一の範囲内と認めるものではない。当該要件の充足有無については、「ポーター」と判読でき、「ポーター」の称呼が自然称呼として生じる可能性がどの程度あるのか、そして登録商標と使用商標に含まれるデザインがどの程度構成の軌を一にしたものとして共通するか、あるいは逆にかけ離れた印象を与えるものかに照らして判断されるべきである。
ここで、登録商標が発揮する識別性がどこまで及ぶのか、その範囲を判断する主体は、商標権者ではなく、指定商品の分野の一般需要者・取引者である。仮に、本件商標が既存語「ポーター」を基にして高度にデザイン化されたロゴとして作られたとの被請求人側の創作背景があったとしても、だからといって、本件商標が当然に「ポーター」の片仮名からなる商標と認められるわけではなく、また「ポーター」の自然称呼が当然に生じるとの認定にも繋がらない。あくまでも、本件商標のデザイン化の程度に照らし、指定商品の分野の一般需要者・取引者が「ポーター」の片仮名からなる商標と認識するか、「ポーター」の自然称呼を生じるかの判断を通じて、登録商標が発揮する識別性の範囲を個別に認定するのが適切である。商標権者の主観意図のままに、本件商標が「ポーター」の文字からなり、「ポーター」の称呼を生じると認定され、あらゆるデザインの「ポーター」及び「PORTER」ロゴ商標が本件商標が発揮する識別性の同一範囲内として、社会通念上同一の範囲内と判断されるものではない。
両者のデザインは相当かけ離れた印象を与えるものといえ、これを単なる書体のみの相違であるとか、片仮名と欧文字を相互変換するものであって同一の称呼及び観念を生じるものとは到底いえないものである。
以上より、ポーター社の使用商標は、登録商標が発揮する識別性の同一範囲を超えた態様というべきであって、「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる」及び「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商標」には該当せず、その他社会通念上同一の範囲内にもないと判断せざるを得ない。
本件において、ポーター社の使用商標が本件商標の社会通念上同一の範囲内であるか否かの決定に際しては、商標権者と需要者の利益及び既存の商標権者と後発ブランド主の利益のバランスを考慮しつつ、適切な判断がなされるのが相当と思料する。
(7)まとめ
以上により、ポーター社の使用商標は、いずれも一般需要者・取引者が認識する本件商標の識別性の同一範囲を超えた態様であり、社会通念上同一の範囲を超えた使用であること明らかである。よって、被請求人は、本件登録商標を本件審判の請求の登録前三年以内に日本国内において請求に係る指定商品のいずれかについて使用していたことを証明したとはいえないといわざるを得ない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証を提出した。
1 本件商標の通常使用権
本件商標は、被請求人から通常使用権の許諾を受けたポーター社によって、継続して使用されて今日に至っているものである。
ポーター社は、アメリカ合衆国バーモント州所在のオルゴールメーカであり、1974年の設立以来、高級オルゴールを中心に米国での生産・販売、さらには外国への輸出を行い、現在では高級オルゴールメーカとして広く知られ、その地位を確立している。
被請求人は、登録第1214689号商標「PoRTER」について、ポーター社に対し昭和63年11月21日付で商標使用許諾契約を設定し、「ミュージックボックス、カセットテープ、ステレオレコード、コンパクトディスク」の商品について通常使用権を許諾している(乙5)。
当該契約書の1ページ(第1条及び第2条)には、商品「ミュージックボックス、カセットテープ、ステレオレコード、コンパクトディスク」について、登録第1214689号商標の通常使用権が許諾されていることが明示されている。
商標使用許諾契約を設定している登録第1214689号商標「PoRTER」からは「ポーター」の称呼のみが自然に生じ、片仮名表記された本件商標「ポーター」と類似の商標であることは明らかである。このような状況で本件商標「ポーター」については使用を許諾していないとするのであれば、片仮名表記が一般的に使用されている日本においては、ポーター社は使用を制限されることになる。あるいは、本件商標についてはポーター社に使用許諾を認めていないとして、被請求人自身が本件商標を使用したり、他の第三者に使用許諾を認めることにすれば、ポーター社の意図に反することは明らかであり、ポーター社に不誠実であると言える。そればかりか、実際の取引において、類似の商標を異なる主体が使用することは、取引者・需要者間に出所の混同を引き起こすおそれもあるものであり、商標の適切な使用の観点からも避けるべきことである。
こういった具体的事情を考えると、登録第1214689号商標に対する許諾契約により、本件商標についても信義則に照らして被請求人は黙示の使用許諾を認めているとすることは、極めて妥当なことである。
なお現に、乙第2号証の3枚目において、ポーター社の総販売代理店のクラシカルミュージック社により商品説明中に「ポーターディスクオルゴール」と、片仮名で「ポーター」と表記しているが、被請求人はこれに対しては黙示により使用を許している。
2 本件商標の使用事実
本件商標の使用を証する証拠として乙第2号証及び乙第3号証を提出し、以下に説明をする。
(1)乙第2号証は、ポーター社が販売するオルゴールの日本総代理店である、クラシカルミュージック株式会社のホームページからの抜粋である。
当該ホームページは、ポーター社のオルゴールを宣伝し拡販するための日本公式サイトである。
乙第2号証では、第一に、ポーター社製のオルゴールの一覧を掲載するページのタイトルとして「PORTER」の文字がページ上部に表示され、ポーター社が製造販売する「オルゴール」について、当該会社名の一部を冠した標章で使用商標1を使用している。
第二に、当該ページに掲載されている「SWAN ELITE 2(名称中の「2」はローマ数字で表記されている。以下同じ。)」、「BAROQUE」及び「TWIN DISC」の各商品画像において、商品自体の天板部分内側面にも使用商標2あるいは使用商標3が表示されている。なお、各商品画像に販売価格が明示されており、販売をする目的をもってホームページ上で広告宣伝を行っていることは明らかである。
(2)乙第3号証は、ポーター社からクラシカルミュージック株式会社に対して、2016年3月10日付で発行された請求書(Invoice)である。当該請求書中の商品説明の欄(Description)には、「Swan Elite」と記載されており、これは明らかに、ポーター社が、上述した乙第2号証に掲載されている商品「SWAN ELITE」を、国内正規代理店であるクラシカルミュージック株式会社に向けて輸出したことを示している。
以上のことから明らかなように、被請求人の通常使用権者である米国ポーター社は、その国内総代理店のクラシカルミュージック株式会社を通じて日本国にオルゴールを標章「PORTER」の商標で輸入し販売している。
(3)乙第2号証及び乙第3号証における商品の表示「SWAN ELITE 2」と「Swan Elite」の関係について
ポーター社はディスク・オルゴール「Swan Elite」を、1990年頃から製造している。
「Swan Elite」には、音源である櫛(ローム)と呼ばれる部品が2個あるが、同社は、1990年代の終わりごろに、櫛が1個のモデル(外見や他の構造は同じ)を製造したことがあり、その頃には、両者を区別するために、櫛が1個のものを「Swan Elite」、2個のものを「Swan Elite 2」と呼んでいた。これらのうち、櫛が1個の「Swan Elite」は、1年程度で製造をやめ、「Swan Elite」には、かつて「Swan Elite 2」と呼んでいた1機種のみが残存することとなったが、1機種しか存在しないために「2」と表示する必要がなくなり、単に「Swan Elite」と呼ばれるようになっていった。製造者のポーター社自身は、すでに「Swan Elite 2」とはあまり呼んでいないが、かつての名残で、現在でも「Swan Elite 2」と呼ばれる場合も見られる。
乙第2号証でも、以前から使用していた「SWAN ELITE 2」の表示をそのまま使用しているが、上記に説明したように、現在では「Swan Elite」は1種類しかなく、乙第3号証に表示されている「Swan Elite」とは同一の態様の商品である。
これを裏付ける証拠として、[SHELLBURNE COUNTRY STORE」のウェブサイト(乙6)及び「Christmas Treasures」のウェブサイト(乙7)では、商品のタイトル部分には「SWAN ELITE」とあるが、商品説明では「Swan Elite 2」と表示されており、両表示が同じ商品に使用されている。
また、スイスオルゴール・サロンルヴィーヴル(佐伯貿易株式会社)(乙8)では、写真や商品規格から、このウェブサイトに掲載されている商品は乙第2号証に掲載されている商品と同じものであることが分かるが、ここでは「スワンエリート」の表示が使用されている。日本においても、「SWAN ELITE2」と「Swan Elite(スワンエリート)」が同一の商品であることが分かる。
(4)本件登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用
本件商標は「ポーター」と片仮名文字で表記されているのに対し、乙第2号証のページ上部に表示された使用商標1は「PORTER」と欧文字で表示されている点で相違している。
しかしながら、商標法第50条第1項においては、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」は登録商標と社会通念上同一と認められる商標であるとされている。
乙第4号証として示す自由国民社発行の「現代用語の基礎知識2012」によれば「ポーター」の原語は「porter」であることから、使用権者の使用商標「PORTER」は、本件商標「ポーター」から生じる称呼及び観念と変わらない。同様に、乙第2号証の商品「オルゴール」の裏蓋などに表示された使用商標2あるいは使用商標3の表示についても、いずれもやや図案化されているものの「PORTER」あるいは「Porter」と直ちに認識できるものであり、本件登録商標「ポーター」から生じる称呼及び観念と変わらないと考えるのが妥当である。
このように、乙第2号証における使用商標の表示は、本件商標と表記する文字種の違いは認められるが、本件商標と同一の称呼及び観念を生ずる商標であり、これ以外の称呼及び観念は生じ難いことから、本件商標「ポーター」と自他商品の識別標識として同一の機能を果たしている。よって、乙第2号証のページ上部に表示された使用商標1及び商品に表示された使用商標2あるいは使用商標3の表示は、本件商標「ポーター」と少なくとも社会通念上同一と認められるものである。
(5)取消に係る指定商品についての使用
使用商標2あるいは使用商標3を表示した商品は、乙第2号証のホームページ上の画像から明らかなように、オルゴールであり、「オルゴール」は、第15類の「楽器(類似群コード 24E01)」に含まれるから、使用商標の使用は、本件商標に係る指定商品「楽器」についての使用である。
3 まとめ
以上の事実から、取消請求に係る指定商品に本件商標を付した商品を、本件審判の請求の登録前3年以内に使用している。
本件商標権についての通常使用権者であるポーター社の行為は、商標法第2条第3項第2号に規定される「使用」に該当する。
さらに、正規代理店が、取消請求に係る指定商品を通常使用権者より正規に輸入し、該商品に付された標章の表示の態様を変更することなく、市場で流通をさせていることから、正規代理店の行為も、上記同様に商標としての機能を損なわない使用態様である。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出に係る乙各号証及び同人の主張によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)乙第5号証は、被請求人を甲とし、ポーター社を乙とする商標使用許諾契約に関する契約書であり、第1条として、「甲は、甲の所有する商標登録第1214689号『PORTER』商標の権利に基づいて『Porter』商標の使用を行うことのできる権利を乙に対して許諾する。」とする旨の記載があり、第2条として、「地域:日本」、「期間:この契約の締結日から10年間。但し、期間満了1年以上前にいずれかの当事者が契約終了又は・・・申し出ないときは、さらに10年間存続し、その後も同様とする。」及び「商品:ミュージックボックス、・・・(以下、許諾商品という)」と記載されている。
また、本契約書の末尾に「昭和63年11月21日」、「甲:ヤマハ株式会社 技術企画部長 永井洋平」及び「乙:ポーター・ミュージック・ボックス・カンパニー・インコーポレーテッド 代理人 弁護士佐藤恒雄」の記載と両者の押印がされている。
(2)乙第1号証は、ポーター社のウェブページのプリントアウトと認められるところ、上段に大きく「PORTER」の文字を小さな音符とともに少し装飾的に表し、その下に約4分の1程度の文字で「Music Box Company,Inc.」と表し、「Large Music Boxes」として8機種のミュージックボックス(オルゴール)が紹介され、その中には、猫足の台に置かれたクラシックな形状のオルゴール(以下「使用商品」という。)が「Swan Music Box」として紹介されているものが認められる。また、1ページ目及び2ページ目の右下には、プリントアウトの日と認められる「2016/08」の表示がある。
(3)乙第3号証は、ポーター社からクラシカルミュージック株式会社に発行されたInvoice(請求書)とされるものであり、左上に「Porter Music Box Co.,Inc.」、その右に「Date」として「3/10/2016」の表示がある。
また、「Bill To」及び「Ship To」として「Classical Music Co.,Ltd」の表示があり、「Description of Items Sent:」(発送品目の記述)として「Swan Elite Music Box」、「Order・・・」及び「Invoiced」として「6」、「Rate」として「5,750.00」、「Amount」として「34,500.00」との記載がある。
(4)乙第2号証は、ポーター社が販売するオルゴールの日本総代理店とされるクラシカルミュージック株式会社の2016年8月16日にプリントアウトしたウェブページと認められるところ、「PORTER」の見出しの下、「SWAN ELITE 2」及び「スワン・エリート2」として、乙第1号証で「Swan Music Box」として紹介されているオルゴールと同一機種のオルゴールと認められる画像が掲載されており、その上蓋部分に使用商標2の表示が確認できる。
また、紹介されているオルゴールいずれもが「標準セット価格(ディスク6枚付)」として紹介されており、それらがディスク盤の交換が可能なディスクオルゴールであることが解る。そして、3ページ目には、それらの交換用ディスクの紹介として「ポーターディスクオルゴール専用の別売りディスク盤」と紹介されている。
(5)乙第6号証ないし乙第8号証は、いずれも乙第2号証において「SWAN ELITE 2」及び「スワン・エリート2」として紹介されている商品と同型のオルゴールを扱う社のウェブページのプリントアウトと認められるところ、同じ機種のオルゴールの紹介として「SWAN ELITE」「スワンエリート」及び「Swan Elite 2」の表示が同じオルゴールを指し示すために使用されていることが確認できる。
2 上記1及び被請求人の主張を総合すれば、次のとおり認めることができる。
(1)本件商標とポーター社の関係について
ア 商標権者(被請求人)は、昭和63年11月21日付けの契約書において、米国のポーター社に対し、ミュージックボックス(オルゴール)を含む許諾商品について、商標権者が別途有する「PoRTER」の欧文字よりなる登録第1214689号商標(以下「許諾商標」という。)(別掲2)の商標使用許諾契約を行い、その後も該契約は継続しているものと認められる。
イ 本件商標は前記第1のとおり、「ポーター」の片仮名の長音部分の標記を文字の底部に併せた高さで表されているものであり、需要者をして一見して片仮名の「ポーター」からなるものと理解されるものであり、該文字は、「ポーター」と称呼され、「運搬人」を意味する平易な英語として知られている「PORTER」の語の読みを表したものと認められることからすれば、本件商標は、「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念を生じるものである。
ウ これに対し、許諾商標は、「PoRTER」の欧文字よりなるところ、その構成の第2番目の「o」部分や第4番目の「T」部分等にややデザイン化が施されているとしても、容易に「PoRTER」の欧文字を表したものと看取され、「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念を生じるものである。
エ また、外国語で構成される商品表示については、我が国においては、片仮名に置き換えて使用されることは一般的であると言い得るものである。
そして、乙第2号証において「ポーターディスクオルゴール専用の別売りディスク盤」の表示が使用されているところ、構成中の「ディスクオルゴール専用の別売りディスク盤」が使用商品の別売り商品の用途・内容を表すものであることから、商品ディスクオルゴールの自他商品識別標識として「ポーター」の文字が機能しているものである。
オ 以上から本件商標と許諾商標とは、その称呼、観念を同じくする類似又は社会通念上同一の商標といえる。
そして、我が国での使用を前提とした許諾商標の契約に当たっては、外国語よりなる商標を片仮名でも表すことが一般的な我が国での取引に使用され得ること、ポーター社が販売するオルゴールの日本総代理店とされるクラシカルミュージック株式会社が使用商品について「ポーター」の片仮名を識別機能を有する標識として使用をしていることについて、商標権者が黙認していたことからすれば、商標権者はポーター社に対して、許諾商標の商標使用許諾の契約と同時に、許諾商標と社会通念上同一といえる片仮名「ポーター」からなる本件商標についても、黙示的にその使用を許諾していたとの被請求人の主張は認められる。
(2)ポーター社は、要証期間内の2016年3月10日付けのInvoiceをもって、日本総代理店とする東京都新宿区のクラシカルミュージック株式会社を通じて商品名「SWAN ELITE」とするミュージックボックス(オルゴール)を6台輸入した。
(3)商品名「SWAN ELITE」とするミュージックボックス(オルゴール)は、上記1(5)のとおり、商品名「SWAN ELITE 2」とも表示される場合があり、その上蓋部分には、使用商標2が表示されているものであるから、乙第3号証のInvoice(請求書)によって輸入された商品も同じ機種であり、使用商標2が表示されていたものと推認して不自然なところはない。
なお、使用商品であるオルゴールは、本件審判の請求に係る「楽器」の範ちゅうに含まれるものである。
(4)本件商標は、別掲1のとおり「ポーター」の片仮名をややデザイン化してなるところ、前記(1)イのとおり、片仮名の「ポーター」からなるものと理解されるものであり、「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念を生じるものである。これに対し、使用商標2は、「PORTER」の文字に音符図形が小さく付記的模様の一種として装飾的に表されたものであって「PORTER」の文字部分が自他識別標識として機能する部分と認められるものである。そして、該「PORTER」の文字は、これより生ずる「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念を本件商標と共通にするものであるから、これらを総合すると、本件商標と使用商標2は社会通念上同一と認められる商標である。
(5)したがって、本件商標の使用権者が、本件審判の請求の登録前3年以内にその請求に係る指定商品中「楽器」の範ちゅうに属する商品に本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を付したものを我が国に輸入した(商標法第2条第3項第2号)ということができる。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、本件審判の対象は登録第1611959号商標であるところ、全く別の商標登録に基づく使用許諾契約をもって本件商標登録についての使用許諾契約であるとするはできない。本件商標についての契約書が存在しないとの状況からは、本件商標については使用許諾を行う意思表示が、書面でも口頭でもお互いに存在しなかったと判断せざるを得ないのであって、互いの意思表示なしに、使用許諾契約は成立しないから、信義則に照らして黙示の許諾が存在したとすることはできない。乙第5号証の「契約書」において単に「『PORTER』商標」と記載されているだけでは、被請求人がどの程度に変更が施された態様にまで社会通念上同一の範囲に含まれる商標と認識していたのか、どこまでの範囲についてポーター社に登録商標の使用につき黙示の許諾を与えていたかが全く不明であるから、乙第5号証の「契約書」をもって、乙第2号証に表れたポーター社の使用商標が社会通念上同一の範囲内にあると認識し、被請求人が黙示の許諾を与えていたことの証左とはならない旨述べている。
しかしながら、前記2(1)のとおり、本件商標と許諾商標とは、その称呼、観念を同じくする類似又は社会通念上同一の商標といえ、我が国での使用を前提とした許諾商標の契約に当たっては、外国語よりなる商標を片仮名でも表すことが普通に行われている我が国での使用を前提としていること、同時に片仮名である「ポーター」についても、ポーター社の日本総代理店であるクラシカルミュージック株式会社が使用商品について「ポーター」の表示を使用していることについて、商標権者が黙認していたことからすれば、黙示的にその使用を許諾していたと推認できるものであるから、請求人の主張は採用することはできない。
(2)また、請求人は、本件商標において識別力を殊更強く発揮する最大の特徴は、第2番目及び第4番目の「ー(長音)」が「_(アンダーバー)」の如く特殊な態様で描かれたとの外観上の特異な表現にあるものであって、「ポーター」の文字を表したものとはいえないのに対し、使用商標は、「PORTER」又は「Porter」の文字が明瞭に看取できるものであって、本件商標の外観上の特徴を具備した構成ではないし、また、被請求人が主張する片仮名の「ポーターディスクオルゴール」にしても、片仮名「ポーター」が独立して使用されている態様ではないばかりか、外観上の特徴を具備した構成でもないから、本件商標から発揮される特徴ある識別性を当然有さないのであって、社会通念上同一の範囲を超えた使用態様である旨述べている。
しかしながら、前記2(4)のとおり、本件商標は、ややデザイン化してなるものの、片仮名の「ポーター」からなるものと容易に理解されるものであって、「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念を生じるものである。これに対し、使用商標2は、「PORTER」の文字部分が自他識別標識として機能する部分と認められるものであり、これより生ずる「ポーター」の称呼、「運搬人」の観念は本件商標と共通するものである。これらを総合すると、本件商標と使用商標は社会通念上同一と認められる商標であって、請求人の主張は採用することはできない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標の使用権者が本件審判の請求に係る指定商品中、第15類「楽器」の範ちゅうに属する商品「オルゴール」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明したといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、請求に係る商品について、その登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(登録第1214689号商標)





審理終結日 2017-08-30 
結審通知日 2017-09-07 
審決日 2017-09-26 
出願番号 商願昭55-9014 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (Y0915)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 小松 里美
今田 三男
登録日 1983-08-30 
登録番号 商標登録第1611959号(T1611959) 
商標の称呼 ポーター 
代理人 特許業務法人深見特許事務所 
代理人 平山 一幸 

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