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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W05
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W05
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W05
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W05
管理番号 1334533 
審判番号 無効2016-890040 
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-28 
確定日 2017-11-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5664452号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5664452号商標(以下「本件商標」という。)は、「Soylent」の文字を標準文字で表してなり、平成25年(2013年)10月25日に登録出願、同26年(2014年)2月12日に登録査定、第5類「サプリメント,食餌療法用飲料又は食品,乳幼児用飲料又は食品」を指定商品として、同年4月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書及び回答書において要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第32号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを引用するときは、枝番号を省略して記載する。)を提出した。
1 本件商標の無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。
2 具体的理由
(1)請求人について
請求人は、2012年(平成24年)5月3日にアメリカ合衆国(以下「米国」という。)デラウェア州で設立された法人(原語表記「Meow Global Networks,Inc.」)であり、請求人の最高経営責任者は、ロバート・ラインハート(原語表記「Robert Rhinehart」。以下「責任者」という。)である(甲1)。
請求人は、商品の製造及び譲渡を行う際に、ロサラボ(原語表記「Rosa Labs」)という商号を用いている (甲2、甲3)。
また、責任者を指す通称として、ロブ・ラインハート(原語表記は「Rob Rhinehart」)、ロブ(原語表記は「Rob」)及びラインハート(原語表記は「Rhinehart」)を用いている。
(2)請求人の使用する商標について
請求人は、「Soylent」の欧文字を書した商標及び矩形の枠内に「soylent」の欧文字を書した構成からなる商標を使用している(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)(甲4、甲17、甲18)。
(3)引用商標を付した商品について
請求人は、引用商標を付した商品(以下「引用商標に係る請求人商品」という。)を製造し、自らのインターネットホームページ及びインターネット通信販売業者の「アマゾン」において譲渡している(甲17、甲18)。
引用商標に係る請求人商品は、サプリメント、栄養補助食品、食餌療法用食品、食餌療法用飲料に属するもので、人間が生命を維持するのに不可欠な栄養素、例えばタンパク質、脂質、糖質等を含む複数種類の栄養素を有する食品から構成され、粉状の水で溶いて摂取するもの(甲4、甲11?甲15)と、あらかじめ液状にして包装用容器に詰めた飲料タイプのもの(甲17、甲18)とがある。
(4)引用商標の使用事実について
ア 責任者は、2012年(平成24年)に請求人である法人を設立し、モバイル通信のグローバルネットワークに関する技術を開発していたが、同年12月頃から、開発資金が不足し、食生活に悪影響が及んだため、簡易かつ安価に必要な栄養を補給できる食品を自ら開発し、「soylent」と命名した。
当該商品が現在の引用商標に係る請求人商品の原型となり、責任者は、事業として当該商品を譲渡するため、インターネットを利用した資金調達を行った。これが大成功を収めたことから、2013年(平成25年)3月以後、英語でインターネットメディアに掲載され(甲11?甲15)、同年5月以後には、日本語でも掲載された(甲20、甲21)。
引用商標は、インターネットの百科事典ウィキぺディア(日本語)にも掲載されている(甲19)。
イ 責任者は、2013年(平成25年)5月21日以後に引用商標の使用を開始し、同年8月頃に引用商標に係る請求人商品を発表すると共に商業化し、同年9月には、インターネットを利用した資金調達で集めた100万アメリカドル(約1億円。以下、アメリカドルを「ドル」といい、日本円への換算は1ドル100円とする。)の事前予約に対する140,000個の引用商標に係る請求人商品の出荷を開始した(甲5、甲13、甲16)。
ウ 請求人は、インターネットを利用した資金調達で、2013年(平成25年)5月21日から2014年(平成26年)5月6日までの期間に、26,380人から、3,201,067ドル(約3億2千万円)の資金を調達した(甲32)。
エ 請求人が引用商標に係る請求人商品の販売から得た収入は、2014年(平成26年)が8,597,033ドル(約8億5千万円)、2015年(平成27年)が32,110,762ドル(約32億1千万円)、2016年(平成28年)が48,601,140ドル(約48億6千万円)である(甲24)。
粉末状の引用商標に係る請求人商品の1か月分の商品代金は約32ドルであるから(甲17)、この収入を得るためには相当数の引用商標に係る請求人商品が販売されたことが明らかである。
オ 2016年(平成28年)の販売先は、米国全土及び米国以外の地域の需要者である(甲26)。
カ 2016年(平成28年)に、請求人が引用商標に係る請求人商品の以下の(ア)ないし(ウ)等の宣伝広告に要した金額の合計は、4,839,765ドル(約4億8千万円)である(甲25)。
(ア)甲第27号証は、請求人が、マイアミトロリーバスに引用商標に係る請求人商品に係る宣伝広告を掲載した際の契約書兼請求書である。
(イ)甲第28号証は、請求人が、アマゾンにおいて、引用商標に係る請求人商品のキャンペーンを実施した際の請求書である。請求人は、アマゾンにおける宣伝広告を、継続的に実施している。
(ウ)甲第29号証は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「フェイスブック」に引用商標に係る請求人商品に係る宣伝広告を掲載した際の請求書である。請求人は、フェイスブックにおける宣伝広告を、継続的に実施している。
フェイスブック利用者は、フェイスブック上の画像をクリックすることにより、請求人や引用商標に係る請求人商品に関する情報を入手でき、引用商標に係る請求人商品を購入することができる(甲30)。
キ 責任者は、本件商標の商標登録出願の日より前に、引用商標が需要者の間で広く認識されていた事実を証明するため、以下の事実について宣誓する(甲31)。
(ア)請求人は、2012年(平成24年)に設立され、2013年(平成25年)2月14日から引用商標に関するビジネスを継続的に行っていること。
(イ)請求人は、2012年(平成24年)12月に引用商標を選択したこと。
(ウ)請求人は、2013年(平成25年)2月13日に自身のウェブサイトにおいて引用商標を発表したこと(宣誓書に添付した証拠A)。
(エ)宣誓書に添付した証拠Aが契機となり、甲第11号証ないし甲第14号証のインターネット記事に引用商標が掲載され、多くのメディアの関心を集めたこと。そして、これらの記事は全て本件商標の商標登録出願の日より前に公衆が閲覧可能であったこと。
(オ)請求人は、引用商標を2013年(平成25年)2月21日に米国において商標登録出願し、2014年(平成26年)5月20日に商標登録を受けていること。
(カ)インターネットによる資金調達において、2013年(平成25年)10月24日までに、7,045人が65ドルの1週間分を、1,440人が130ドルの2週間分を、3,120人が255ドルの1か月分の引用商標に係る請求人商品を注文したこと。2013年(平成25年)10月24日までに約1,500,000ドル(約1億5千万円)の資金を調達し、2013年(平成25年)末までに約2,100,000ドル(約2億1千万円)の資金を調達したこと(宣誓書に添付した証拠B)。
(キ)引用商標に係る請求人商品の収益について、2013年(平成25年)は2,100,000ドル(約2億1千万円)、2014年(平成26年)は6,497,033ドル(約6億4千万円)、2015年(平成27年)は32,110,762ドル(約32億円)、2016年(平成28年)は48,601,140ドル(約48億円)であること。
(ク)引用商標に係る請求人商品の広告に要した費用について、2013年(平成25年)は38,526ドル(約380万円)、2014年(平成26年)は85,292ドル(約850万円)、2015年(平成27年)は1,336,110ドル(約1億3千万円)、2016年(平成28年)は4,839,765ドル(約4億8千万円)であること。
ク 請求人は、クラウドファンディングやソーシャル・ネットワーキング・サービス等のインターネット上の情報を活用した電子商取引により事業を行う企業であり、周知性の認定にあたっては、従来型企業のように工場、事務所、店舗等の事業所の数や、雑誌、新聞、業界紙等の紙媒体への掲載や紙媒体における宣伝広告、テレビ、ラジオ等従来型の宣伝広告を重要視することなく、請求人が電子商取引により資金調達、商品の譲渡及び宣伝広告を行っていることが考慮されるべきである。
ケ 上記アないしクから、引用商標は、遅くとも2013年(平成25年)中頃には我が国及び米国において、周知性を獲得していたといえる。
引用商標に係る請求人商品は、バージョン2.0まで改良が進み、請求人及び責任者は、引用商標に係る請求人商品の成分及び味を改善するための研究を継続して行い、改良した引用商標に係る請求人商品の発表と譲渡も継続して行っている(甲4、甲17)。そのため、引用商標の周知性は、現在に至るまで維持されている。
(5)請求人の外国における商標登録出願について
請求人又は責任者は、引用商標に係る請求人商品の製造及び譲渡のために、米国において、「SOYLENT」の欧文字からなる商標と、矩形の枠内に「Soylent」の欧文字を書した構成からなる商標について、商標登録を受けている(甲5)。
また、米国以外にも、カナダと中華人民共和国香港特別行政区において、「SOYLENT」の欧文字からなる商標について、商標登録を受けている(甲6、甲7)。
さらに、請求人は、2件のマドリッド協定議定書による国際登録を受けている。1件目の国際登録第1253651号は、矩形の枠内に「soylent」の欧文字を書した構成からなる商標であり、領域指定として我が国のほかに中華人民共和国、欧州共同体、シンガポールを指定している(甲8)。2件目の国際登録第1258400号は、「SOYLENT」の欧文字からなる商標であり、領域指定として我が国のほかにコロンビア共和国、欧州共同体、インド、メキシコ合衆国、ノルウェー王国、ロシア連邦、スイス連邦を指定している(甲9)。この国際登録については、既にノルウェー王国での商標登録を受けている(甲10)。
上記2件の国際登録は、我が国において、本件商標を引用した商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を受けている。
(6)本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標と引用商標との類否
本件商標は、「ソイレント」の称呼を生じ、既成語ではないため、特定の観念を生じないものである。
一方、引用商標は、「ソイレント」の称呼を生じ、既成語ではないため、特定の観念を生じないものである。
そこで、本件商標と引用商標とを比較すると、称呼を同一とし、外観においても同視し得るものであるから、両商標は、類似の商標である。
イ 本件商標の指定商品と引用商標に係る請求人商品との類否
引用商標は、「サプリメント,栄養補助食品,食餌療法用食品,食餌療法用飲料」について使用している(甲4、甲11、甲12、甲13、甲14、甲15)。
一方、本件商標の指定商品は、第5類「サプリメント,食餌療法用飲料又は食品,乳幼児用飲料又は食品」であるところ、そのうち「サプリメント,食餌療法用飲料又は食品」は、引用商標に係る請求人商品と同一である。
また、「乳幼児用飲料又は食品」について、近時は、成人用の飲食料品と幼児用の飲食料品に同一の商標が用いられている取引の実情がある(甲23)。
このような取引の実情に鑑みると、「乳幼児用飲料又は食品」の製造者が、「サプリメント,栄養補助食品,食餌療法用食品,食餌療法用飲料」の製造者と、同一製造者あるいは密接に関連する者である場合もある。
また、「乳幼児用飲料又は食品」と「サプリメント,栄養補助食品,食餌療法用食品,食餌療法用飲料」は、販売方法においても、スーパーの食品売場やドラッグストアなどの同一店舗で販売されているため、需要者及び取引者も近似する。
そうすると、本件商標の指定商品中、「乳幼児用飲料又は食品」は、引用商標に係る請求人商品の「サプリメント,栄養補助食品,食餌療法用食品,食餌療法用飲料」と類似するものといえる。
ウ 結論
本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念等によって取引者及び需要者等に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると酷似するものであり、本件商標は、引用商標に係る請求人商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
したがって、本件商標は、引用商標と出所の混同を生じるものである。
(7)商標法第4条第1項第7号を根拠とする無効原因について
引用商標に係る請求人商品は、本件商標の出願日前である2013年(平成25年)3月以後において、英語でインターネットのメディアに掲載されており(甲11?甲15)、同年5月22日及び10月23日には、日本語でインターネットのメディアにも掲載されている(甲20、甲21)。
そして、責任者は、2013年(平成25年)5月21日には引用商標の使用を開始し、同年8月15日には商業化をした(甲5)。
被請求人が、本件商標の出願前に引用商標の存在をインターネットの情報から入手するのは、現代において容易なことである。
さらに、被請求人が本件商標を指定商品に使用した事実や使用の準備をしている事実はない。
してみると、被請求人が偶然の一致により本件商標を採択したと考えることはできず、引用商標を知った上で、引用商標が商標登録出願をされていないことに乗じて、剽窃的な商標登録出願により本件商標を得たものといえ、このような被請求人の行為からは、請求人の商品を日本国内の市場から排除することや、請求人に本件商標を高値で売りつける等の何らかの不正な意図をもっていたことが容易に推測できる。
そうすると、本件商標を維持することは、請求人の正当な利益を害すると共に、公正な商取引の秩序を著しく害するものであり、公序良俗に反するものである。
また、国際的な商取引が活発に行われている現代において、外国人が我が国に商標登録出願するまでの間にされた剽窃的な商標登録出願による商標登録を維持することは、国際信義に照らしても許されるものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(8)商標法第4条第1項第10号を根拠とする無効原因について
上記(6)のとおり、本件商標と引用商標とは、類似する商標であり、本件商標は、引用商標に係る請求人商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
そして、上記(4)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において周知性を獲得しており、その周知性は本件商標の登録査定時においても維持されていた。
そうすると、本件商標と引用商標との非常に高い類似性を考慮すると、被請求人が本件商標を使用した場合は、取引者及び需要者において、被請求人の商品が引用商標に係る請求人商品であるとの出所の混同が生じることとなる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(9)商標法第4条第1項第15号を根拠とする無効原因について
上記(6)のとおり、本件商標と引用商標とは、類似する商標である。
そして、上記(4)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において周知性を獲得しており、その周知性は本件商標の登録査定時においても維持されていた。
そうすると、本件商標と引用商標との非常に高い類似性を考慮すると、被請求人が本件商標を使用した場合は、取引者及び需要者において、被請求人の商品が請求人の商品であるとの狭義の混同が生じるのみならず、被請求人の商品は、請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるという、広義の混同をも生じることになる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(10)商標法第4条第1項第19号を根拠とする無効原因について
上記(4)のとおり、本件商標の登録出願時において、引用商標に係る請求人商品は周知性を獲得し、その周知性は現在に至って維持されており、上記(6)のとおり、本件商標と引用商標とは類似する商標である。
また、引用商標に係る請求人商品は、本件商標の登録出願前である2013年(平成25年)3月以後において、外国語でインターネットのメディアに掲載され、2013年(平成25年)5月22日及び10月23日に、日本語でインターネットメディアにも掲載されている。
そして、責任者が2013年(平成25年)5月21日には引用商標の使用を開始し、同年8月15日には商業化をしたこと、現代において、被請求人が本件商標の登録出願前に引用商標の存在をインターネットの情報から人手するのは容易であること、被請求人が現在においても未だ、本件商標を指定商品に使用した事実、あるいは、使用の準備を行っている事実がないことからすると、被請求人は、請求人が商標登録出願を行っていないことに乗じて商標登録出願して商標登録を受けたものである。
そうすると、本件商標は、使用許諾契約の強要や、請求人に引用商標を高値で売りつける等の請求人に損害を与える不正の目的をもって使用するものと推測できる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(11)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同項第15号及び同項第19号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、上記第2において述べた請求人の主張に対し、答弁していない。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)請求人提出の証拠方法及び同人の主張によれば、次の事実を認めることができる。
ア 請求人は、2012年(平成24年)5月3日に米国で設立された法人である(甲1)。引用商標は、請求人が、その責任者が開発した簡易かつ安価に必要な栄養を補給できる食品について使用する商標であり、当該食品は、請求人の運営するホームページ及びインターネット通信販売の「アマゾン」において販売されている(甲4、甲17、甲18)。
イ 責任者は、2013年(平成25年)2月13日、自身のウェブサイトに、自宅キッチンでの上記(1)の食品の開発(実験)の経緯と、それを「Soylent」と呼んでいる旨を記載した記事(英語)を掲載した(甲31の2)。
ウ 責任者は、2013年(平成25年)2月21日、米国において、「SOYLENT」の文字からなる商標を出願し、その後登録された。(甲5)。
エ 2013年(平成25年)3月13日、インターネットメディアに、引用商標に係る請求人商品に関する責任者のインタビュー記事(英語)が掲載された(甲11)。また、同年5月に3件、同年8月に1件、他のインターネットメディアに、引用商標に係る請求人商品に関する記事(英語)が掲載された(甲12?甲15)。
オ 2013年(平成25年)5月22日及び同年10月23日に、インターネットメディアに、引用商標に係る請求人商品に関する記事(日本語)が掲載された(甲20、甲21)。
カ 請求人は、2013年(平成25年)5月21日に、クラウドファンディング(インターネットを通じた不特定多数の個人からの小口資金調達方法)により、引用商標に係る請求人商品の商品化のための資金調達を開始した。なお、資金提供者には、引用商標に係る請求人商品を購入する者のほか、引用商標を付したティーシャツを購入する者及び資金の提供のみを行う者が含まれ、請求人は、引用商標に係る請求人商品を購入する者に対してのみ、引用商標に係る請求人商品を譲渡(販売)している(甲16、甲31の3、甲32)。
キ 請求人は、2013年(平成25年)8月頃、上記カのクラウドファンディングを通して事前予約した者に対して、引用商標に係る請求人商品の出荷を開始した(甲13、甲31の3)。
(2)外国における周知性について
上記(1)によれば、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、請求人の業務に係る商品を表示するものとして使用されていたと認められる。
しかしながら、引用商標に係る請求人商品の原型が開発されたのは、本件商標の登録出願の8月ほど前であり、その後改良を重ね商品として出荷されたのは、登録出願のわずか2、3月ほど前で、開発から出荷までの約半年間に、引用商標に係る請求人商品が、どこで、どれくらいの数量が販売されたかは明らかではなく、また、請求人により、積極的な広告宣伝活動等が行われた事実も見いだせない。
そして、請求人が主張するように、請求人がインターネット上の情報を活用した電子商取引により資金調達、商品の譲渡及び宣伝広告等を行う企業であり、従来型の宣伝広告を行わない傾向があるとしても、本件商標の登録出願前に掲載されていたと認めることのできる、インターネット上での引用商標に係る請求人商品に関する記事の件数は、請求人及び責任者のホームページ上のもの、クラウドファンディング及びインターネット通信販売サイト上のものを除けば、閲覧者数が明らかではないインターネットメディア上に掲載された6件にとどまり、決して多いものとはいえない。
また、請求人は、引用商標に係る請求人商品の販売により得た収入、広告宣伝費の内訳を記載した資料や、これを裏付けるための取引書類等を提出しているが、資料の数値(金額)は、本件商標の登録出願後の取引に係るものが多く、取引書類には引用商標との関係が不明なものも含まれているから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性を認める根拠とすることはできない。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして外国の需要者の間に広く認識されていたものということはできない。
(3)日本国内における周知性について
上記(1)のとおり、本件商標の登録出願前の引用商標に係る請求人商品に関する日本語の情報は、インターネットメディア上の記事が2件あったにとどまる。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内の需要者の間に広く認識されていたものということはできない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標と引用商標は、それぞれ前記第1、前記第2の2(2)の構成からなり、いずれも横書きした「Soylent」の文字からなるもの又は横書きした「soylent」の文字をその構成中に有するものであり、その構成文字が同一であるから、外観において類似し、同一の称呼を生じ、観念において相違はないものといえる。
したがって、本件商標と引用商標とは、類似する。
そして、本件商標の指定商品は、引用商標に係る請求人商品と類似する。
しかしながら、引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとはいえないものであるから、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(請求人)あるいはその者と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはなかったものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記2のとおり、本件商標は、引用商標と類似の商標であって、引用商標に係る請求人商品と同一又は類似の商品について使用するものとしても、上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、他人(請求人)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていたものとはいえない。
また、請求人は、引用商標に係る請求人商品に関する情報が、本件商標の登録出願前に英語及び日本語のインターネットメディアに掲載されており、被請求人が、本件商標の登録出願前に引用商標の存在をインターネットの情報から入手するのは容易であったこと、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した事実(使用の準備)がないことを理由に、被請求人は、本件商標の使用許諾契約の強要や請求人に引用商標を高値で売りつける等の請求人に損害を与える不正の目的をもって使用するものと推測できる旨主張しているが、提出された証拠には、そのような行為があった事実や蓋然性があることを示す証左はないから、単に、本件商標を使用した事実がないことのみをもって、不正の目的をもって使用をするものとまではいえない。
以上からすると、本件商標は、不正の目的をもって使用をするものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は、被請求人が偶然の一致により本件商標を採択したと考えることはできず、引用商標を知った上で、引用商標が商標登録出願をされていないことに乗じて、剽窃的な商標登録出願により本件商標を得たものといえ、本件商標を維持することは、請求人の正当な利益を害すると共に、公正な商取引の秩序を著しく害するものであり、また、国際的な商取引が活発に行われている現代において、外国人が我が国に商標登録出願するまでの間にされた剽窃的な商標登録出願による商標登録を維持することは、国際信義に照らしても許されるものではない旨主張している。
しかしながら、請求人が提出した証拠からは、本件商標が、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない又は国際信義に反するなど、公序良俗に反するものというべき事情を見いだすことはできない。
また、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的であるなど他人に不快な印象を与えるような構成のものではなく、社会の一般的道徳観念に反するもの又は法律により禁止されているものとすべきものともいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-05-31 
結審通知日 2017-06-05 
審決日 2017-06-26 
出願番号 商願2013-83885(T2013-83885) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W05)
T 1 11・ 271- Y (W05)
T 1 11・ 22- Y (W05)
T 1 11・ 25- Y (W05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 敏 
特許庁審判長 青木 博文
特許庁審判官 松浦 裕紀子
田中 亨子
登録日 2014-04-18 
登録番号 商標登録第5664452号(T5664452) 
商標の称呼 ソイレント 
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所 

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