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審決分類 審判 一部無効 称呼類似 無効としない W30
審判 一部無効 外観類似 無効としない W30
審判 一部無効 観念類似 無効としない W30
管理番号 1333310 
審判番号 無効2015-890083 
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-10-14 
確定日 2017-10-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5752792号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5752792号商標(以下「本件商標」という。)は,「ゲンコツメンチ」の片仮名を標準文字で表してなり,平成25年6月12日に登録出願,第30類「メンチカツを材料として用いたパン,メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ用調味料,メンチカツ入り弁当,メンチカツ入りの調理済み丼物」を指定商品として,同27年2月20日に登録をすべき旨の審決がされ,同年3月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由において引用する登録第5100230号商標(以下「引用商標」という。)は,「ゲンコツ」の片仮名を標準文字で表してなり,平成19年5月9日に登録出願,第30類「おにぎり,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ」を指定商品として,同19年12月21日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標はその指定商品中の「メンチカツを材料として用いたパン,メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ入り弁当,メンチカツ入りの調理済み丼物」(以下「請求に係る商品」という。)についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。
1 本件商標を無効とすべき理由
(1)本件商標と引用商標との類否について
本件商標の構成中「メンチ」の文字部分は,「メンチカツ」すなわち「挽肉に微塵切りにした玉葱などを加えて小判形などにまとめ,パン粉の衣をつけて油で揚げた料理」(甲5)の略称として,我が国においては広く一般に使用されている(甲6,甲7)。
また,「ゲンコツ」の文字部分についても,「拳骨」すなわち「にぎりこぶし」の意(甲8)として,我が国においては広く一般に使用されている(甲9)。
したがって,本件商標をその指定商品「メンチカツを材料として用いたパン」等に使用した場合,自他商品の識別標識として機能するのは前半部分の「ゲンコツ」の文字部分にあるというべきであるところ,当該「ゲンコツ」の文字部分からは,「ゲンコツ」の称呼及び「にぎりこぶし」の観念を生ずる。
一方,引用商標は,「ゲンコツ」の片仮名からなるものであるから,これより「ゲンコツ」の称呼及び「にぎりこぶし」の観念を生ずる。
したがって,本件商標と引用商標とは,両商標の構成文字数に相違によって外観が相違するとしても,「ゲンコツ」の称呼及び「にぎりこぶし」の観念を共通にする点において,相互に類似する商標である。
(2)指定商品について
本件商標の指定商品中「メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ入り弁当」は,引用商標の指定商品中「サンドイッチ,ハンバーガー,べんとう」と同一の商品であり,また,本件商標の指定商品中「メンチカツを材料として用いたパン」は引用商標の指定商品中「サンドイッチ,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」と類似の商品であるし,本件商標の指定商品中「メンチカツ入りの調理済み丼物」は,引用商標の指定商品中「おにぎり,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,べんとう,ラビオリ」と類似の商品である(甲10)。
(3)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標とは,外観が相違するとしても「ゲンコツ」の称呼及び「にぎりこぶし」の観念を共通にする類似の商標であり,本件商標の指定商品中,請求に係る商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品である。
以上のとおり,本件商標は,その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標たる引用商標に類似する商標であって,当該引用商標の商標登録に係る指定商品又はこれらに類似する商品について使用するものであるにもかかわらず,請求に係る商品については,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標に関する事実経過及び本件商標の使用状況について
ア 平成25年6月14日,請求人は,被請求人からの申出に基づき,引用商標について契約有効期間を平成25年6月15日から同年12月31日までとする商標使用許諾契約を締結した(甲11)。
同契約において引用商標についての通常使用権を許諾した商品は「メンチカツ及びメンチカツを使用した弁当・サンドイッチなど」であった。
イ 上記契約の契約期間満了後となる平成26年1月9日,請求人と被請求人は,引用商標について,改めて契約有効期間を平成26年1月1日から同年6月30日までとする商標使用許諾契約を締結した(甲12)。
同契約において,引用商標について通常使用権を許諾した商品は「(1)メンチカツやコロッケを使用した弁当」,「(2)メンチカツやコロッケを使用したサンドイッチなど」であった。
ウ さらに,上記契約期開満了日の平成26年6月30日,請求人と被請求人は,引用商標について契約有効期間を平成26年7月1日から平成27年6月30日までとする商標使用許諾契約を締結した(甲13)。
同契約において,引用商標について通常使用権を許諾した商品は,やはり「(1)メンチカツやコロッケを使用した弁当」,「(2)メンチカツやコロッケを使用したサンドイッチなど」であった。
エ 上記契約期間満了後,被請求人は,請求人に対し,引用商標について,契約有効期間を平成27年7月1日から平成28年6月30日までとし,通常使用権を許諾する商品を「(1)メンチカツやコロッケなどを使用した弁当(2)メンチカツやコロッケなどを使用したサンドイッチなど」とする商標使用許諾契約締結を申し出たが,請求人は契約締結に応ずることなく現在に至っている(甲14)。
オ その間,被請求人は,
(ア)平成25年7月に「ゲンコツメンチ」の販売を開始し(甲15),
(イ)平成26年6月3日にゲンコツシリーズ第2弾として「ゲンコツコロッケ」の販売を開始し(甲16),
(ウ)平成27年1月には「ゲンコツクリームコロッケ」の販売を開始し(甲17),
(エ)平成27年6月16日,被請求人の設立40周年の記念商品としてゲンコツシリーズの新作「ゲンコツチーズメンチ」の販売を開始している(甲18)。
カ 被請求人においては,
(ア)平成25年5月28日付けで標準文字商標「ローソン ゲンコツメンチ」について商標登録出願をし,平成26年1月24日付けで第29類において商標登録を受け(商標登録第5645587号),
(イ)平成25年6月12日付けで本件商標「ゲンコツメンチ」について商標登録出願をし,平成27年3月27日付けで第30類において商標登録を受け(本件商標登録第5752792号),
(ウ)平成25年7月4日付けで筆文字書きしてなる商標「ゲンコツコロッケ」について商標登録出願をし,平成26年10月10日付けで第30類において商標登録を受け(商標登録第5708397号),
(エ)平成26年1月28日付けで標準文字商標「ローソン ゲンコツメンチ」について商標登録出願をし,平成27年4月17日付けで第30類において商標登録を受け(商標登録第5758605号),
(オ)平成26年3月18日付けで筆文字書きしてなる商標「ゲンコツコロッケ」について商標登録出願をし,平成27年3月27日付けで第29類において商標登録を受け(商標登録第5752807号),
(カ)平成26年9月17日付けで粗円図形内に「ゲンコツ」と「メンチ」を上下二段書きしてなる商標について商標登録出願をしている(商願2014-78521。ただし,平成27年12月16日付けで出願が取下げられた)。
キ 以上の事実経過から明らかなとおり,被請求人は,「ゲンコツ」という統一ブランドのもとに,メンチカツ,コロッケ,クリームコロッケ,チーズメンチといった個別商品を販売することで「ゲンコツ」シリーズという商品展開を行なっていること,そして,そうした商品展開を行うため,請求人が権利を有する引用商標について使用許諾を受けている間に「ゲンコツ」シリーズ商品の販売展開により広く既成事実を形成しつつ,各個別商品についての商標登録出願を行っていたものであることがうかがえる。
(2)被請求人の主張について
ア 被請求人は,本件商標が,外観上一体的に看取されるものであり,構成文字全体から生ずる称呼も語呂良く一連に称呼できるものであって,観念上も全体として特定の意味を有さない一種の造語,あるいは「にぎりこぶし大のメンチ(カツ)」程の意味合いを暗示させるものであるとし,したがって,本件商標は,常に一体不可分のものと認識,把握されるとみるのが自然なものであるから,本件商標中「ゲンコツ」の文字部分のみを分離又は要部観察すべきではないと主張する。
しかるに,標準文字で書された本件商標から「ゲンコツメンチ」なる一連の称呼が生じることは否定し得ないが,本件商標の称呼ないし観念が「ゲンコツメンチ」以外に生じる余地がないということはできないことは以下のとおりである。
(ア)「ゲンコツ」の文字部分が「拳骨」つまり「にぎりこぶし」を意味すること,そして「メンチ」の文字部分が「メンチカツ」の略称,すなわち,「挽肉に微塵切りにした玉葱などを加えて小判形などにまとめ,パン粉の衣をつけて油で揚げた料理」を意味するものであって,本件商標の指定商品との関係においては普通名称に該当することは,いずれも広く一般的に知られているところであるから(甲5ないし甲9),本件商標「ゲンコツメンチ」に接する需要者等においては,これが「ゲンコツ」と「メンチ」の二語が結合したものであると容易に理解し得るのである。
(イ)とりわけ,食品分野において想定される需要者は,老若男女を問わない全ての一般消費者であるから,「ゲンコツ」の語に接する者如何によっては「大きくて硬い親爺のゲンコツ」といった特別な連想をすることも少なくないと考えられる。
(ウ)また,被請求人自らも,全国各店舗にて販売しているメンチカツとコロッケを「ゲンコツ兄弟」と略称したり(甲19),これらにクリームコロッケを加えて「ゲンコツシリーズ」と総称したり(甲20),コロッケの包装袋においては「ゲンコツ」と「コロッケ」を分離して上下二段に併記したり(甲21),またクリームコロッケでは「ゲンコツ」の4文字のみを分離して小さく二段表示したりしている(甲22)こと等からも明らかなように,本件商標とて必ずしも常に一連一体で使用されるものではないことが明らかである。
そうとすれば,たとえ本件商標中の「メンチ」の文字部分が「ゲンコツ」の文字部分と一体となって「ゲンコツメンチ」の称呼ないし観念が生じ得ることがあるにしても,簡易・迅速を尊ぶ商取引の実際に照らしてみるとき,この称呼及び観念とは別個に,そもそも指定商品を直接指称する語には相当しない「ゲンコツ」の文字部分に対応した「ゲンコツ」の称呼と観念もまた生じるものといわざるを得ない。
したがって,本件商標と引用商標の類否判断に際し,本件商標から「ゲンコツ」の文字部分を分離・抽出することは,当然に許されるべきものである。
以上より,「ゲンコツメンチ」をもって外観上も称呼上も観念上も一体的に看取されるとする被請求人の主張は,失当である。
イ 被請求人は,「『ゲンコツ』の語は,食品の分野においては,『ゲンコツ○○(食品名)』のように用いられ,『げんこつ大』あるいは『げんこつのような形』の商品(食品)を表す語として普通に使用されていると評価するのが妥当」であると主張する。
しかしながら,被請求人が「広く一般的に使用されている」と主張してその根拠として挙げた例はごく僅かなものである。そして,「げんこつシュー」(乙1)や「げんこつパイ」(乙4),「げんこつパン」(乙5)については,明らかに商標的な使用がなされていると思われるところ,前述した被請求人における事情と同じく,これらを指定商品に含む登録商標(商標登録第1578810号「拳骨」,甲23)との関係で当該商標権者との間に商標使用許諾等の法的処理がなされているやもしれず,その実態は一切不明である。また,「げんこつカツ」(乙3)は,単にテレビ番組の料理レシピの名称として使用されているにすぎないし,その他の例示(乙7ないし乙10)はいずれも「げんこつ大」又は「ゲンコツ大」という表現であって,大きさを表現する接尾語である「大」の文字を伴ったものばかりである。
そもそも我々人間が物質の大きさを他人に伝えるべく表現する場合,「親指大」,「人指し指大」,「小指大」,「手のひら大」などと人間の身体の部分を用いて比喩するのが習いであって,「にぎりこぶし大」や「げんこつ大」といった表現もまた,対象物の概略の大きさを伝える表現として日常的に汎用されているのであるから,被請求人が例示する唐揚げ(乙7ないし乙9)についても,それが常識的な大きさではないことを驚きをもって伝える表現として「げんこつ大」なる語が使用されていることは明らかである。むしろ,「大」の文字を伴わない「ゲンコツ」や「げんこつ」等が,食品分野における品質表示等として普通に使用されている例が一つも見られないことは,食品分野においても「ゲンコツ」の語自体が「にぎりこぶし」等の本来的意味合いをもって認識され,看者によっては「大きくて硬い親爺のゲンコツ」といった格別の観念まで連想し得ることの現れであるとも考えられる。
すなわち,「ゲンコツ」の第一義的な意味は「にぎりこぶし」の意であるが,その本来の意味から発展して「がんこ」,「力強さ」,「一徹」,「こだわり」,「職人気質」という観念をも呼びおこさせて,その商品にこだわりの一品であるというイメージを付与するものであって,単なる「げんこつ状」,「げんこつ大」の意味にとどまるものではない意味合いを付与するものと考えられる。そして,そこには強い自他商品識別力が認められるものと考える。
被請求人は,「げんこつ」が「げんこつのような形」,「げんこつ大」としか使用されていないかのような実例を挙げることで,「げんこつ」がありふれた言葉であることを強調しようとしているようであるが,そのことは逆に,被請求人が「ゲンコツ」という言葉にこだわっている実態,すなわち,被請求人が「ゲンコツ」ブランドを強調している実態と矛盾しているものであり,そのような事例をいくら積み重ねたところで,本件商標の評価に影響を及ぼすものではない。
本件においては,被請求人が本件商標をどのように使用しているかという状況ないし実態を具体的に評価することがなされるべき判断であって,世間に出まわっている他の商品に「げんこつ」という文字が使われている状況は,本件商標の評価とは無関係であると考える。
以上より,「本件商標の『ゲンコツ』の文字は,自他商品の識別標識としての機能を有さないか,あるいは極めて弱いと評価するのが妥当なものである」とする被請求人の主張は,失当である。
ウ 本件商標中の「メンチ」の語は,指定商品からしても「メンチカツ」の略称以外の意味は生じない。関西弁で「にらむ」という意味合いで用いられる場合には「メンチを切る」と表現されるのであって,「メンチ」だけで「にらむ」という意味合いを生じるわけではない。「メンチ」の語は「メンチカツ」の略称として一義的なのである。
したがって,「メンチ」なる語につき「メンチカツ」の略称以外の意味があるかのような被請求人の主張は詭弁である。
また,「メンチ」が「メンチカツ」の略称としてのみ知悉されており,「ゲンコツ」もまた前述の意味合いで知悉されていることからすれば,本件商標「ゲンコツメンチ」の構成全体で一種の造語と認識,理解されるとする根拠は,全く認められない。
「ゲンコツ」の文字は,単に「にぎりこぶし大の」という意味を有するにとどまらず,強い自他商品識別力を有すると解すべきであり,被請求人の主張は理由がないものである。
エ 被請求人は,本件商標を付した商品「メンチカツ」を2013年6月15日よりコンビニエンスストアにおいて発売しており,同商品は被請求人によって盛大に宣伝広告され,その売上高も相当な金額に上ることから,「ゲンコツメンチ」は,その登録時において被請求人の商標として需要者の間で広く認知されていたものということができる,などと述べている。
しかしながら,被請求人による前記商標使用は,メンチカツやコロッケを指定商品とする商標登録第1470113号「ゲンコツ」(甲24)の商標権者である株式会社紀文食品との間における商標使用許諾契約に基づくものであり,当該商標権についての通常使用権を法的根拠とするものにすぎない(甲25)。被請求人は,前記商品「コロッケ」に先行して発売していた商品「メンチカツ」に付した商標「ゲンコツメンチ」が前記登録商標「ゲンコツ」に類似していると判断し,商標権侵害となることを回避せんがために株式会社紀文食品に使用許諾を申し入れており,その際,将来的に弁当や調理パンについても「ゲンコツ」シリーズの展開を計画していたために,未だ抵触関係にない請求人に対しても,引用商標についての使用許諾を申し入れてきた(甲11)。そして,その後も(被請求人の販売商品「メンチカツ」や「コロッケ」,「クリームコロッケ」とは指定商品が相違しているために抵触関係にはないにもかかわらず)引用商標についての使用許諾契約の更新を催促してきたのである(甲25。ただし,引用商標についての商標使用許諾契約は,平成27年6月30日をもって満了している)。
したがって,このように使用許諾契約を申し入れてきた事実は,被請求人自らも,本件商標「ゲンコツコロッケ」が引用商標「ゲンコツ」に類似していることを認めていることの証左であるといえる。
被請求人の主張する取引の実情等は,あたかも「ゲンコツメンチ」のみの商品展開を示しているかのようであるが,事実は「ゲンコツメンチ」(2013年7月から),「ゲンコツコロッケ」(2014年6月から),「ゲンコツクリームコロッケ」(2015年1月から),「ゲンコツチーズメンチ」(2015年6月から)というゲンコツシリーズの中の1つの商品にすぎず,「ゲンコツ」ブランドでの商品展開がその実体であったものである。
しかるに,被請求人が挙げた新聞等の記事やテレビCM(乙12ないし乙18)と同様のものが「ゲンコツコロッケ」,「ゲンコツクリームコロッケ」,「ゲンコツチーズメンチ」のそれぞれについても展開されているものといえる。
要するに,メンチ,コロッケ,クリームコロッケ,チーズメンチはゲンコツブランドの中の商品群にすぎないという状況こそが事実であり,「ゲンコツ」こそが,被請求人にとっての自他商品識別力を有する要部となっているものである。
人気俳優らが料理店の厨房で「ゲンコツコロッケ」について語るテレビCMにおいて,当該料理店の暖簾に「ゲンコツ」の文字しか表示されていないのは(甲26),まさに被請求人商品のブランドとして「ゲンコツ」を強調したいことの証左である。
そして,そこで使用された「ゲンコツ」ブランドは,当然被請求人の商品企画の中核と考えられていたからこそ,前述したように株式会社紀文食品が有する商標及び請求人の有する引用商標についても慎重に使用許諾契約を締結していたものと思われる。
したがって,本件商標が,需要者の間で広く認知される状況になっていたとしても,それは,引用商標等についての使用許諾契約が締結された状況下で実現されたものであるから,本件商標固有の周知性となるものではない。
オ 被請求人が参考として引用する審決では,引用商標自体が外観上一体的に構成されていることから,その一部のみを引用商標とすることはできないと判断されたにとどまり,逆にこの引用商標が本願商標であり,かつ,この件の本願商標が引用商標となった場合がどうなるのかということを論じているものではないから,本件の参考にはならない。
すなわち,「げんこつ」という商標を使用してハンバーグを提供している先行事業者がいて,後行する事業者が本件の引用商標のもとハンバーグを提供して商標登録が認められるか否かというのが,本件の参考となるべき事例となりうるものであるから,同審決の判断とは全く別論となるものと考える。
3 結論
以上のとおり,本件商標は,その指定商品中の請求に係る商品について,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから,商標法第46条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第19号証を提出した。
1 本件商標について
(1)本件商標の外観上の一体性
本件商標は,願書に表されているとおり,標準文字で「ゲンコツメンチ」の文字を一連に間隔を空けることなく横書きしてなるものであることから,本件商標は,外観上一体的に看取されるものである。
(2)本件商標の称呼の簡潔性
本件商標の称呼に関してみると,本件商標の構成文字全体から生ずる「ゲンコツメンチ」の称呼は,7音から構成されており,語呂良く一連に称呼することが可能である。
(3)本件商標の観念の一体性
本件商標は,上記のとおり,片仮名を一連に表してなるものであることから,本件商標に接した需要者は,「ゲンコツメンチ」を一体的に看取し,全体として特定の意味を有さない一種の造語と認識,理解するとみるのが自然である。
この点,請求人は,本件商標に関して,「ゲンコツ」は「にぎりこぶし」の意味であり,また「メンチ」は「メンチカツ」の略称であると主張し,「ゲンコツ」と「メンチ」を分離観察しているが,仮に,請求人が主張するとおり,本件商標が,「ゲンコツ」と「メンチ」の語の結合からなると認識される場合があるとしても,「ゲンコツ」の語は,後述するとおり,食品の分野においては,「にぎりこぶし」程度の大きさや形を表す表現として使用されていることから,本件商標は,構成全体として「にぎりこぶし大のメンチ(カツ)」程の一体的な意味合いを暗示させると判断するのが妥当なものである。
したがって,本件商標は,仮に「ゲンコツ」と「メンチ」の語の結合からなるものと認識されたとしても,「にぎりこぶし大のメンチ(カツ)」程の意味合いを暗示させることから,本件商標は,観念の観点からみても,一体的に看取されるとみるのが妥当である。
以上のとおり,本件商標は,外観上一体的に表されていること,また全体の称呼も簡潔で語呂良く一連に称呼できるものであって,殊更,略称するほどのものではないこと,さらに観念上も,特定の意味合いを有さない造語,あるいは「にぎりこぶし大のメンチ(カツ)」程の一体的な意味合いを暗示させることから,本件商標は,常に一体不可分のものと認識,把握されるとみるのが自然なものである。
(4)「ゲンコツ」の自他商品識別力
次に,請求人が本件商標の要部であると主張する本件商標の構成中「ゲンコツ」の文字部分の自他商品識別力の強さについて検討する。
「ゲンコツ」の文字は,「にぎりこぶし」を意味するところ,請求人が認めているとおり,「にぎりこぶし」の意として広く一般に使用されている語であることから,造語とは異なり,本来的な自他商品識別力はそれ程強いものではなく,また食品の分野においては,以下に示すとおり,「げんこつ状」あるいは「げんこつ大」の商品であることを表す用語として使用されているものである。したがって,「ゲンコツ」の文字は,自他商品識別力が極めて弱いというのが妥当なものである。
ア 「げんこつシュー」
例えば,株式会社もりもとのウェブサイトにおいて,商品「げんこつシュー」に関して,「げんこつシューは,名前の通り,見た目がげんこつのような形のシュークリーム。」と説明されている(乙1)。
イ 「げんこつカツ」
NHKのテレビ番組「きょうの料理」のレシピを紹介するウェブサイトにおいて,「ごぼうと牛肉のげんこつカツ」に関して,「ゴツゴツとした見た目がボリューム満点の“げんこつ”みたいなカツ。」と紹介されている(乙2)。また「お弁当のかわの」のウェブサイトにおいて,「げんこつカツ」に関して,「げんこつのようにゴツゴツしたフライ。だからげんこつカツ。」と説明されている(乙3)。
ウ 「げんこつパイ」
ウェブサイト「オクルココロ」において,菓子工房モンパリの「げんこつパイ」について,「子供のにぎりこぶし程度のパイ生地に包まれているのは,アーモンドパウダーから作られた,甘さを抑えた香ばしいクリーム。」と説明されている(乙4)。
エ 「げんこつパン」
楽天レシピにおいて,「げんこつパン」について,「げんこつのようなパンです。」と説明されている(乙5)。
日経電子版の第121回 栃木県ご当地グルメ(その3)において,「げんこつパン」が取り上げられ,「げんこつの意味なんですが,見ればわかりますよね。形がげんこつなのです。」と解説されている(乙6)。
オ さらに,各種新聞・雑誌等にも,唐揚げ等の食品の大きさを表現する方法として,「ゲンコツ大」という表現が使用されている。
すなわち,2006年12月22日付け北国・富山新聞夕刊では,「記者のグルメ探検 焼き鳥ダイニング『様・様』(金沢市高尾台4の173)お得で豊富な料理」の見出しの下,「げんこつ大の出来たて唐揚げを山盛りに積んだおもちゃのトラックが楽しい。」と商品が説明されている(乙7)。
2012年2月1日付け日経レストラン第450号47頁でも,「知っておきたい店情報?肉屋(ラーメン店,東京・水道橋)豚大門市場(韓国料理店,東京・小伝馬町)」の見出しの下,「肉屋ということだけあり,中華そばとげんこつ大の唐揚げ3個」と説明されている(乙8)。
2015年6月16日付け毎日新聞 滋賀,地方版でも,「おうみのお店:唐揚げ専門店 とんちゃんくん・南草津店/滋賀」の見出しの下,「看板商品・元祖とんちゃん唐揚げは1個がげんこつ大というボリュームと,かぶりつけば滴る肉汁の多さが自慢だ。」と商品を説明している(乙9)。
さらに,1996年12月26日付け熊本日日新聞夕刊9頁では,「してみて納得=こんにゃく作り 体験道場『おふくろ館』(久木野村)さわやかな風味に感激<してみて納得>」の見出しの下,「耳たぶくらいの硬さになったら,手でげんこつ大に丸め,なべで三十分ほどゆでれば出来上がり。」と説明されている(乙10)。
上掲の事例の如く,「ゲンコツ」の語は,食品の分野においては,「ゲンコツ○○(食品名)」のように用いられ,「げんこつ大」あるいは「げんこつのような形」の商品(食品)を表す語として普通に使用されていると評価するのが妥当なものである。
したがって,本件商標に関して,「ゲンコツ」と「メンチ」の語の結合からなると認識されるとしても,本件商標の「ゲンコツ」の文字は,自他商品の識別標識としての機能を有さないか,あるいは極めて弱いと評価するのが妥当なものであることから,本件商標の構成文字である「ゲンコツ」と「メンチ」は,自他商品識別力の点において,軽重の差異はないと評価するのが妥当なものである。
よって,自他商品識別力の観点からしても,本件商標に関して,特段「ゲンコツ」の部分のみを抽出して,分離観察しなければならない合理的な理由は存在しないと判断するのが相当である。むしろ,「ゲンコツ」の識別力の弱さからいって,「ゲンコツ」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能するというよりも,「ゲンコツメンチ」の構成文字全体をもって,取引に資されるというのが相当なものといえる。
「ゲンコツ」の文字の識別力に関しては,被請求人の商標「ゲンコツコロッケ」(商標登録第5752807号)の拒絶査定不服審判(不服2014-24087)において,引用商標「ゲンコツ」等との類否判断に際し,『「ゲンコツ」の文字は,「げんこつのような形(又は大きさ)」として,形状を暗示させる場合があることは否定できないことから,「ゲンコツ」の文字部分は,識別力がないとまではいえないが,自他商品の識別標識として強力に機能するともいえないものである。そうすると,本願商標は,「ゲンコツ」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能するというよりも,その構成文字全体をもって,取引に資するものというのが相当である』と判示され,引用商標「ゲンコツ」等とは非類似の商標と判断されている(乙11)。このように,被請求人の上記主張の妥当性については,特許庁の審判においても,認められているところである。
(5)「メンチ」の自他商品識別力
また,請求人は,本件商標の構成中「メンチ」は,「メンチカツ」の略称であると主張している。しかしながら,「メンチ」は,ウィキペディア(甲6)に記載されているとおり,「挽肉」を意味する他,「メンチを切る」などの俗語としても用いられることがあるものである。
したがって,本件商標に関して,「ゲンコツ」と「メンチ」の語の結合であると認識される場合があるとしても,「メンチ」の文字部分は,メンチカツの略称とは必ずしも認識されるとは限らないことから,「メンチ」を「メンチカツ」の略称と即断し,分離観察するのは穏当性を欠くものである。
むしろ,本件商標は,「メンチ」の多義性や外観上の一体性を総合考慮すると,「ゲンコツメンチ」の構成全体で一種の造語と認識,理解されるとみるのが自然なものといえる。
(6)小括
以上のとおり,本件商標は,外観上の一体性や称呼の簡潔性を考慮すれば,構成全体で一体不可分の一種の造語と認識,理解されるとみるのが妥当であることから,その構成全体から「ゲンコツメンチ」の一連の称呼のみが生ずると判断するのが相当である。
また,仮に,本件商標について,「ゲンコツ」と「メンチ」の語の結合からなるものと認識されたとしても,「ゲンコツ」と「メンチ」の間には,自他商品識別力に関して軽重の差異はないこと,また構成文字全体から「にぎりこぶし大のメンチ(カツ)」程の一体的な意味合いを暗示させること,さらにその外観の一体性及び称呼の簡潔性をも総合勘案すれば,やはり本件商標は,「ゲンコツメンチ」の構成全体をもって,不可分一体のものと認識,理解されると判断するのが妥当なものといえる。
したがって,本件商標は,その構成文字全体から,「ゲンコツメンチ」の称呼が生じ,観念については,特定の観念は生じないか,あるいは生じるとしても「げんこつ大のメンチ(カツ)」程の意味合いを暗示させる程度であることから,単なる「ゲンコツ」の称呼及び「握り拳」の観念は生じないと判断するのが相当なものである。
2 取引の実情等
本件商標の使用状況について説明すると,被請求人は,フランチャイズチェーン展開するコンビニエンスストア「ローソン」において,2013年6月15日から,商標「ゲンコツメンチ」を商品「メンチカツ」(以下「本件商品」という)に使用しており,本件商品は,年間3000万個以上を販売するヒット商品となっている(乙12)。
また,被請求人は,ゲンコツメンチを2013年6月に日本全国でテレビCMを放映したほか(乙13),2014年4月にも,日本全国でテレビCMを放映している(乙14)。
そして,本件商品は,発売日同日に放映されたフジテレビのテレビ番組「リアルスコープ」に取り上げられたほか(乙15),雑誌「週刊プレイボーイ」(乙16)や,テレビ東京の「WBSビジネスサテライト」など各種メディアに取り上げられている(乙17)。
さらに,日経MJの2013年ヒット番付においても,被請求人の「ゲンコツメンチ」が西の前頭に選ばれている(乙18)。
以上のとおり,「ゲンコツメンチ」は,被請求人によって盛大に宣伝広告されており,また売上高も相当な金額に上がることから,「ゲンコツメンチ」は,本件商標の登録時において,被請求人の商標として,需要者の間で広く認知されていたものということが出来るものである。
本件無効審判において,本件商標の登録無効を求められた商品は,「メンチカツを材料として用いたパン,メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ入り弁当,メンチカツ入りの調理済み丼物」であるところ,当該商品は,被請求人のフランチャイズチェーン展開するコンビニエンスストア「ローソン」において販売されるものであり,当該商品と「メンチカツ」は,需要者が共通し,また同じ店舗で販売されることから,本件商標に接した需要者は,本件商標から,周知となっている被請求人の上記「ゲンコツメンチ」を使用した商品と理解し,被請求人の周知商標「ゲンコツメンチ」を想起するものといえる。
3 引用商標
引用商標は,「ゲンコツ」の片仮名よりなることから,その構成文字より,「ゲンコツ」の称呼が生じ,また,「握り拳」の観念が生ずるものといえる。
4 本件商標と引用商標の類否
本件商標の外観は,「ゲンコツメンチ」の片仮名を標準文字で表してなるものに対し,引用商標は,「ゲンコツ」の片仮名を標準文字で表してなるものであることから,両商標は,外観において,語尾における「メンチ」の有無において明確に相違するものである。
次に,本件商標の称呼は,その構成文字全体から「ゲンコツメンチ」の称呼が生ずるのに対し,引用商標は,その構成文字より「ゲンコツ」の称呼が生ずることから,両商標は,称呼において,語尾における「メンチ」の有無において明瞭に相違するものである。
さらに,本件商標は,構成全体として,一種の造語と認識されるとみるのが自然であることから,特定の観念は生じないと判断するのが相当である。また,「ゲンコツメンチ」は,被請求人の商標として周知になっていることから,本件商標から,上記「ゲンコツメンチ」を想起させる場合があるといえる。さらに,仮に,本件商標について,「ゲンコツ」と「メンチ」の結合からなると認識されるとした場合,「げんこつ大のメンチ(カツ)」程の意味合いを暗示させるともいえる。
これに対し,引用商標は,その構成文字より,「握り拳」の観念が生ずるものである。
そうすると,両商標は,本件商標について,特定の観念は生じないとした場合は,観念において対比することは出来ないが,本件商標から生ずる想定される上記の観念と対比した場合であっても,引用商標とは,観念が異なるものである。
したがって,本件商標は,引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれにおいても相違するものである。
また,「ゲンコツメンチ」は,上述したとおり,被請求人の商品名として需要者の間に広く認知されており,本件商標に関しても,周知になっている被請求人の「ゲンコツメンチ」を想起させることから,本件商標をその指定商品に使用しても,引用商標を付された商品とは容易に区別可能であり,両商標を使用した商品の出所について誤認混同するような事態は考え難いものである。
この点,請求人は,本件商標の構成中「メンチ」の文字部分は,「メンチカツ」の略称として,我が国においては広く一般的に使用されており,自他商品の識別標識として機能するのは「ゲンコツ」の部分であることから,本件商標からは,「ゲンコツ」の称呼及び「にぎりこぶし」の観念が生ずると主張している。
しかしながら,このような分離観察,要部観察は,商標の構成の一部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合など特別の事情がある場合に限られるところ,これを本件商標についてみると,本件商標は,願書に表されているとおり,「ゲンコツメンチ」の片仮名を一連に間隔を空けることなく表示してなるものであり,「ゲンコツ」の文字部分が強調された外観とはなっていないものである。
また,「ゲンコツ」は,「げんこつ大」の食品を表す語として使用されており,自他商品識別力は極めて弱く,また「メンチ」も,必ずしも「メンチカツ」の略称とは認識されるとは限らないことから,「ゲンコツ」の文字部分についてのみ,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといった事情も存在しないといえる。
むしろ,本件商標は,その外観上の一体性や称呼の簡潔性,また「げんこつ大のメンチ(カツ)」程の意味合いを暗示させる観念上の一体性を考慮した場合,その構成文字全体をもって一体不可分のものと認識されるとみるのが自然であり,「ゲンコツ」の文字部分が,独立して自他商品の識別標識として機能を果たすとは到底考え難いものである。
したがって,本件商標は,原則どおり,構成文字全体をもって全体観察するのが妥当であり,請求人が主張するような分離観察,要部観察は,穏当性を欠くものである。
よって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれの点においても類似しないものであり,また本件商標の周知性を考慮した場合,商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれも全く存在しないことから,本件商標と引用商標は,互いに非類似の商標と判断するのが相当である。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,引用商標とは非類似の商標であることから,指定商品の類否を判断するまでもなく,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は,前記第1のとおり,「ゲンコツメンチ」の片仮名を標準文字により表してなるところ,その構成態様は,同じ大きさ,同じ間隔,同じ書体をもって,視覚上,まとまりよく一体的に表されているものであって,その外観上,「ゲンコツ」の文字部分だけが独立して見る者の注意を引くように構成されているものではない。
そして,本件商標は,その構成文字の全体から生じる「ゲンコツメンチ」の称呼も,格別冗長ではなく,淀みなく一連に称呼し得るものである。
また,本件商標は,その構成中「メンチ」の文字部分が,その指定商品との関係において,商品の品質,原材料を表したものと理解される場合があるとしても,構成中の「ゲンコツ」の文字も,「げんこつのような形(又は大きさ)」として,商品の形状を暗示させる場合があることを否定し得ないから,「ゲンコツ」の文字部分は,それ自体が自他商品を識別する機能が全くないとまではいえないものの,取引者,需要者に対して商品の出所標識として強く支配的な印象を与えるものともいえないものである。
そうすると,本件商標は,「ゲンコツ」の文字部分が,独立して自他商品の識別標識として機能するとというよりも,一体的なまとまりのあるものとして看取,把握されるとみるのが自然である。
したがって,本件商標は,その構成全体をもって,特定の意味合いを有しない一体不可分の造語を表したものと認識されるとみるのが相当であり,その構成文字に相応して,「ゲンコツメンチ」の一連の称呼のみを生じるものであり,特定の観念は生じないものである。
さらに,被請求人の製造,販売に係る「ゲンコツメンチ」と称するメンチカツは,2013年(平成25年)6月に発売したとされるものであって,年間3,000万個が販売され(乙12),2013年6月に国内全域のテレビCMにより紹介され,その回数は3,195回におよんでいる(乙13)。そして,「ゲンコツメンチ」は,日経MJの2013年ヒット番付において,西の前頭に選ばれている(乙18)。
そうすると,上記取引の実情によれば,本件商標は,これに接する取引者,需要者をして,一連一体の造語からなるものとして認識されるとみるのが相当である。
(2)引用商標について
引用商標は,前記第2のとおり,「ゲンコツ」の片仮名を標準文字により表してなるところ,その構成文字に相応し,「ゲンコツ」の称呼が生じ,また,「にぎりこぶし」(広辞苑第六版)の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標の構成は,上記のとおりであるところ,両商標の外観を対比すると,その構成文字数,「メンチ」の文字部分の有無において明らかな差異を有するものであるから,外観上,判然と区別することができるものである。
次に,両商標の称呼を対比すると,本件商標から生じる「ゲンコツメンチ」の称呼と引用商標から生じる「ゲンコツ」の称呼とは,後半における「メンチ」の音の有無という顕著な差異を有し,構成音数を異にするものであるから,それぞれを一連に称呼するときは,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,両商標の観念を対比すると,本件商標は,特定の観念が生じないものであるのに対し,引用商標は,「にぎりこぶし」の観念が生じるものであるから,観念において,相紛れるおそれはないものといえる。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれがない非類似の商標というべきものである。
(4)小括
したがって,本件商標の指定商品中の請求に係る商品が,引用商標の指定商品と同一又は類似であったとしても,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 請求人の主張について
(1)請求人は,本件商標中の「メンチ」の文字は,指定商品である「メンチカツを材料として使用したもの及びメンチカツ用調味料」の内容を示す普通名詞として認識され,本件商標において出所並びに自他商品の識別機能を果たすものではなく,「ゲンコツ」の文字部分が自他商品の識別機能を有する要部となる旨主張する。
しかしながら,本件商標は,上記1(1)の認定のとおり,その構成態様によれば,「ゲンコツ」の文字部分のみが独立して看者の注意を引くとはいい難く,また,その構成全体から生ずる称呼の容易性や「ゲンコツメンチ」と称する商品に係る取引の実情をも併せ考慮すれば,本件商標は,取引者,需要者をして,一連一体の造語からなるものとして認識されるといえるから,上記請求人の主張を採用することはできない。
(2)請求人は,「ゲンコツ」という商標に強い自他商品識別力の存在を認めているからこそ,最近まで,被請求人の求めに応じて,引用商標について使用許諾を受けていた旨主張する。
確かに,甲第11号証ないし甲第13号証によれば,引用商標の商標権者である「株式会社ファインフードネットワーク」と被請求人とは,平成25年6月?平成26年6月の期間の引用商標の使用許諾について,商標使用許諾契約書を締結したことが認められるが,仮に,これらが請求人と被請求人との間における本件商標と引用商標とが類似するとの認識の下に締結されたものであるとしても,商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであるから,当事者間における上記各契約書の締結により,本件商標と引用商標との類否の判断が左右されることはない。
よって,上記請求人の主張は,採用することができない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効にすることができない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-05-18 
結審通知日 2016-05-24 
審決日 2016-06-17 
出願番号 商願2013-45015(T2013-45015) 
審決分類 T 1 12・ 262- Y (W30)
T 1 12・ 263- Y (W30)
T 1 12・ 261- Y (W30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭川 一治馬場 秀敏 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 平澤 芳行
中束 としえ
登録日 2015-03-27 
登録番号 商標登録第5752792号(T5752792) 
商標の称呼 ゲンコツメンチ、ゲンコツ 
代理人 新井 悟 
代理人 森 寿夫 
代理人 中川 拓 
代理人 宮城 和浩 
代理人 特許業務法人RIN IP Partners 
代理人 宇佐美 英司 

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