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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効としない W42
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W42
審判 全部無効 外観類似 無効としない W42
管理番号 1326017 
審判番号 無効2016-890010 
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2017-02-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5748383号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5748383号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成26年1月15日に登録出願され、第42類「電子計算機用プログラムの提供,クラウドコンピューティングネットワークのアクセス及び使用に用いるオペレーティングソフトウェアの設計・作成又は保守,医療データに関する電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・電子計算機用プログラム・インターネットの使用及び操作方法に関する紹介及び説明」を指定役務として、同年12月9日に登録査定、平成27年3月13日に設定登録されたものである。

第2 請求人が引用する商標
請求人が引用する登録第4065363号商標(以下「引用商標」という。)は、「CRONOS」の欧文字を横書きしてなり、平成7年8月2日に登録出願、第9類「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品」を含む商標登録原簿記載の商品を指定商品として平成9年10月3日に設定登録され、その後、平成19年9月18日に商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、商標権の一部取消し審判が請求され、平成21年3月5日に指定商品中「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具」についての登録を取り消す旨の審決の確定登録がされているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
1 本件審判請求の利益について
本件商標と引用商標とは類似し、指定役務と指定商品も類似するから、本件商標が、商標法第4条第1項第11号に該当することは明らかである。
請求人は、引用商標の権利者であり、請求人の和文名は、「クロノス株式会社」、英文名は「Xronos Inc.」である(甲11)。
請求人は、本件商標と類似する引用商標を保有するものであるから、本件無効審判を請求する利益があるものである。
2 商標法第4条第1項第11号該当性
(1)商標の類似
ア 本件商標は、上段に「LSCクラウド」と小さな文字で書し、その下に上段の3倍の大きさの文字で、上段とは異なる書体で「Xronos」と書してなるものである。
これに対して、引用商標は、欧文字で「CRONOS」と書してなるものである。
本件商標が大きく「Xronos」と書された部分は本件商標の要部となることは明らかである。この部分と引用商標を比較すると、頭文字の「K」(審決注:「X」の誤記。)と「C」の違いがあるのみで、「RONOS」の部分が一致するので、外観上も類似することは明らかである。
イ 次に、観念について比較すると、両商標とも、特定の観念を有しない造語であるから、観念における相違点はない。
ウ さらに、称呼について比較すると、本件商標の要部である「Xronos」の部分からは、「クロノス」の称呼が、引用商標「CRONOS」からも「クロノス」の称呼が生ずるから、両商標は称呼において類似するとは明らかである。
実際に本件商標の使用されている本件商標権者のホームページをみると、「Xronos(クロノス)とは」と使用されおり(甲3)、本件商標権者自らも「クロノス」と称呼しており、他社のウェブでも「クロノス」と称呼されている(甲13)。
また、独立行政法人工業所有権情報・研修館の特許情報プラットフォームにおける出願・登録情報の称呼をみても、本件商標の「Xronos」の部分は、「クロノス」と称呼されている(甲1)。
請求人の英文名は、「Xronos Inc.」であり、和文名は「クロノス株式会社」で、やはり、「クロノス」と称呼されている(甲11、甲12)。
「Xro」の部分は、「XROST」が「クロスト」、「CS-XROSS」が「シーエスクロス」、「HumanXrossHeart」が「ヒューマンクロスハート」と称呼されているように、「クロス」と称呼されるのが取引の実情である(甲14?甲16)。
エ このように、本件商標は、引用商標と称呼、外観において類似し、観念上の違いもないので、本件商標が引用商標に類似することは明らかである。
請求人が共同で出願した、商標「XRONOS」(以下「拒絶商標」という。)は、「CRONOS」商願及び本件商標に類似するとして拒絶された(甲18)。
すなわち、拒絶商標、「CRONOS」商標及び本件商標は、類似と判断されていた。かかる点からも、本件商標は引用商標に類似する。
本件商標及び引用商標のように、アルファベットからなる商標については、スペルが違っても、称呼が同一の場合には、全体的印象が同じなので、判決にあるように類似と判断している(甲4?甲6)。
また、本件商標のように2段からなる商標で、上段と下段の大きさが異なる場合には、大きい文字列の商標が要部となることは、判決においても認めるところである(甲7)。
(2)本件商標の指定役務と引用商標の指定商品の類似
ア 本件商標の指定役務と引用商標の指定商品中「電気通信機械器具,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク及び磁気テープ,その他の電子応用機械器具及びその部品電子応用機械器具」は、共に電子計算機用プログラム、電子計算機に関する役務、商品であり、同一の営業主が製造、販売、提供する商品と役務の関係にあることは明らかである。
また、需要者も電子計算機利用者で共通し、商品と役務の内容も電子計算機用プログラムということで共通する。
イ よって、引用商標に類似する本件商標が指定役務に使用されれば、引用商標の指定商品を製造、販売する事業者において、役務の提供がなされている者と需要者に誤認されることは明らかである。
ウ 特許庁の類似商品・役務審査基準(甲8)、特許庁審決(甲9)、裁判例(甲10)からも、本件商標の指定役務が引用商標の指定商品に類似することは明らかである。
(3)以上より、本件商標は、引用商標と商標が類似し、指定役務と指定商品も類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)外観
本件商標の「Xronos」の部分が要部となることは明らかであり、これが要部とならないとの被請求人の主張は失当である。
2015年10月21日の異議決定(甲22)でも本件商標の「Xronos」の部分が「圧倒的に顕著」「独立して印象的」と要部であることを認めている。
本件商標の「Xronos」と引用商標「CRONOS」では、頭文字が「X」と「C」で異なるのみであり、あとの「ronos」と「RONOS」が全く同一であるから、外観上の印象が同じとなり、外観上類似することは明らかである。
(2)称呼
本件商標の要部である「Xronos」から生ずる称呼は、「クロノス」であることは明らかである。
ア インターネットで検索しても、甲第19号証の通り、「Xro」は、「クロ」と称呼されている。
イ 商標の類否判断においては、具体的な取引の実情を斟酌するのが最高裁の立場(氷山印事件・最判昭和43年2月27日)であり、また、知的財産高等裁判所においても、商標の称呼の認定において、具体的な取引の実情としてホームページ上でどのように称呼されているか参酌している(POUT事件・知財高判平成19年6月27日)。
ウ 被請求人自身のホームページ上で「Xronos(クロノス)」と読み仮名を振っており、また、上記の通り他社も「Xro」の部分を「クロ」と称呼してホームページで記載しているので、具体的な取引の実情を斟酌すれば、本件商標の「Xronos」の部分が「クロノス」と称呼されることは明らかである。
エ さらに、辞書(研究社「新英和中辞典」、「ランダムハウス英和大辞典」、weblio「英和辞典・和英辞典」)においても、Xから始まる語は、「ク」と称呼されている。
オ 以上の通り、具体的な取引の実情、商標の登録例、辞書の記載、特許情報プラットフォームにおける商標出願・登録情報によれば、本件商標が「クロノス」と称呼されることは明らかであり、本件商標は「エックスロノス」とのみ称呼されるとの被請求人の主張は失当である。
(3)観念
本件商標「Xronos」の意味は一般の辞書には掲載されておらず(甲21)、また、引用商標「CRONOS」についても、「ギリシャ神話(巨人)」との解説があるのみであり、被請求人が主張するような農耕の神までの意味の記載がない(甲21)。
よって、本件商標「Xronos」と引用商標「CRONOS」に接した需要者は、両商標とも、ギリシャ神話の神と把握するか、または、両商標の意味を把握できないとするのが取引の実情といえる。
本件商標から「LSCクラウドPACS」から「クラウコンピューティングサービスによる医用画像管理システム」が生ずると主張するが、このような観念を直観することは一般的にありえないし、仮にあったとしても、指定商品との関係で自他商品別力のない観念であるから、商標としての自他商品識別力のある観念とは言えない。
よって、本件商標と引用商標の間には、自他商品識別標識としての観念の違いがあるとは言えない。
(4)結語
本件商標から「クロノス」の称呼が生ずることは明らかであり、本件商標と引用商標とは称呼上同一であることは明らかである。
また、外観上も、両商標ともアルファベットで、「RONOS」の部分が同一であり、異なるのは頭文字の「X」と「C」の違いしかすぎず紛らわしいことは明らかである。
さらに、取引者、需要者は、両商標の観念上の違いを把握できない。
これらを踏まえ、本件商標と引用商標を総合して比較すると、両商標が取引者、需要者に与える印象、記憶、連想は紛らわしく、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
よって、本件商標は引用商標に類似するものであり、商標法第4条第1項第11号に該当する。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審判を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標と引用商標の類似について
(1)外観
ア 引用商標の外観は、「CRONOS」という標準文字のみで構成されている。
他方、本件商標の外観は、全体が長方形で囲われ、青色の背景に、文字は白抜きとなっており、文字については、左側に大きく「X」という文字が記載され、中央上部に「LSCクラウドPACS」、その下部に「ronos」という文字が記載されているというものである。また「X」という文字については、左上から右下にかけての線が太い線とそれより細い線の2本で構成された図柄となっており、特に目立つ外観となっている。
以上のことからすれば、一般人が両商標を見比べたときに見間違うことは考えられず、両商標の外観は、明確に区別し得るものであって、相互に類似しないことは明らかである。
イ これに対し、請求人は、本件商標の要部は「Xronos」という文字部分であり、これと引用商標との違いは「X」と「C」のみで、「RONOS」の部分が一致するので、外観上類似すると主張する。
しかしながら、前述したように、本件商標は中央上部の目立つ位置に「LSCクラウドPACS」という文字が存在しており、しかも後述するとおり、当該部分は「LSC」が提供する「クラウド方式の医用画像管理システム」との観念を生じさせ、識別力がある部分であるから、その部分を捨象した「Xronos」という文字部分のみで引用商標との類否の判断をすることは失当である。
また、請求人が要部であるとして類似性を主張する部分についても、本件商標は、外観上最も注目されやすく強調された図柄にもなっている頭文字が引用商標と異なっており、また、同一の文字部分に関しても大文字か小文字かで異なり、さらに、青色の背景に白抜き文字か白地に黒文字かで異なっているのであるから、請求人が主張する部分ですら外観は類似しているとはいえない。
(2)称呼
ア 引用商標「CRONOS」から生じる称呼は、「クロノス」である。
他方、本件商標の称呼は、まず「LSCクラウドPACS」という文字部分については、「エルエスシークラウドパックス」または「エルエスシークラウドピーエーシーエス」との称呼が生じる。「PACS」は、本件商標が使用される商品ないし役務の需用者である医療関係者からすれば、「Picture Archiving and Communication System」すなわち医用画像システム画像管理システムの略であることが明らかであり(乙1)、「パックス」または「ビーエーシーエス」が自然な称呼である。
次に「Xronos」という文字部分から生じる自然な称呼は「エックスロノス」である。すなわち、「X」から始まる英単語がほとんど存在しないところ、極少数の「X」を頭文字とする単語の頭の発音は「ゼ」か「エックス」とされ、「X」の後に子音字が続くときは「エックス」と発音されていること、及び本件商標が特に「X」という文字を強調した図柄となっていることからすれば、「X」を単独で「エックス」と称呼し、「ronos」から生じる称呼「ロノス」をつなげて「エックスロノス」と称呼するのが自然である。
以上のとおり、両商標から生じる称呼は全く異なり、明確に区別し得るものであって、相互に類似しないことは明らかである。
イ 請求人は、被請求人のホームページにおいて「Xronos(クロノス)とは」と使用しており(甲3)、他社のウェブサイトでも「Xronos」が「クロノス」と称呼されており(甲13)、請求人も、英文名が「Xronos Inc.」で、和文名が「クロノス株式会社」であるから、「Xronos」を「クロノス」と称呼していると主張する。
しかしながら、請求人が引用する他社のウェブサイトは、被請求人のサービスを紹介したものであるから(甲13)、「Xronos」を「クロノス」と読ませているのは、結局、請求人と被請求人のみである。
そして、請求人及び被請求人が「Xronos」を「クロノス」と読ませているとしても、商標の称呼は、商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層が通常どのように称呼するかにより判断されるのであり、商標使用者の主観的称呼は称呼決定の基準とはならない。
ウ 上記アで述べたとおり、「X」から始まる単語はほとんどなく、「X」を「ク」と発音するものは、省略表記の「X‘mas」または「Xmas」を「クリスマス」と称呼する例外的な場合だけであり、その場合でも「X」を「ク」ではなく「クリス」と称呼している。それ以外、一般に「X」を「ク」と称呼する英単語は皆無であるから、「Xronos」という文字部分から通常生じる称呼は、「エックスロノス」と称呼するのが自然といえる。
エ また、「Xro」という文字列が「クロ」と称呼されるとの主張する。
しかしながら、請求人が引用する例は一部の企業が当て字を用いているものと考えられ(甲14?甲16)、一般にそのような称呼が生じるものではない。また、いずれの例も「XROS(S)」という文字列の「S」の文字までを含めて「クロス」と称呼するものであり、おそらくは「cross」と「十字=X」を掛けた当て字的使用と推測されるのであり、その例から、本件商標の称呼が「クロノス」とされることはない。
(3)観念
ア 「CRONOS」は一般的な英和辞典であれば収録されており、また「クロノス」は一般的な国語辞典であれば収録され、ギリシャ神話の解説書でも必ず言及される大地及び農耕の神であり、ゼウスの父親である。したがって、引用商標「CRONOS」は、ギリシャ神話における大地及び農耕の神の観念を生じさせるものである。
他方、本件商標については、まず、「LSCクラウドPACS」という文字部分について、そのうち「LSC」という文字部分が被請求人の略称で(乙2)、被請求人のイメージカラーである青色(乙2)の背景と相俟って、被請求人の観念を、「クラウド」という文字部分はクラウドコンピューティングサービスの観念を、「PACS」という文字部分は、「Picture Archiving and Communication System」の略語であって、医用画像管理システムの観念を生じさせるものである(乙1)。なお、本件商標が使用される役務の需要者からすれば、「PACS」は医用画像管理システムの観念を生じさせるものである(乙1、乙3)。次に本件商標のうち「Xronos」という文字部分については、収録語数が多い英和辞典でさえも見当たらない造語であり、本件商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層をして特定の既成の観念を生じさせるものでない。
以上からすれば、引用商標から生じる観念はギリシャ神話における大地及び農耕の神であり、本件商標から生じる観念は、被請求人「LSC」が提供するクラウドコンピューティングサービスによる医用画像管理システムというものに尽きているから、両者の観念に類似はない。
イ これに対し、請求人は、本件商標の要部は「Xronos」であると述べ、本件商標についてはこの部分のみを対象として、両商標ともに特定の観念を有しない造語であると主張する。
しかしながら、上記アで述べたとおり、引用商標「CRONOS」はギリシャ神話における大地及び農耕の神の観念を生じさせるものである一方、「Xronos」は造語であって特定の観念を生じさせるものではないから、両者から生じる観念は類似しない。
(4)その他の請求人の主張
ア 請求人が共同出願した拒絶商標が引用商標と本件商標に類似するとして商標登録を拒絶されたから、引用商標と本件商標とは類似すると主張する。
しかしながら、一般に、商標Aと商標Bとが商標法上類似し、かつ商標Aと商標Cとが商標法上類似するとしても、当然に商標Bと商標Cとが商標法上類似するとはいえないから、請求人の主張は論理的に誤っている。
そして、本件商標と引用商標は外観、称呼及び観念のいずれも類似せず、両商標が類似しないことについては、上記(1)ないし(3)で既に述べたとおりである。
イ また、請求人は、甲第4号証ないし甲第6号証の裁判例を引用した上で、本件商標及び引用商標のようにアルファベットからなる商標については、スペルが違っても称呼が同一の場合には全体的印象が同一なので裁判所も類似すると判断しているとも主張する。
しかしながら、本件商標はアルファベットのみからなる商標ではないし、甲第4号証及び甲第6号証の裁判例は、称呼以外にも外観及び観念も比較した上で類否の判断をしており、甲第5号証の裁判例も、原告が称呼の同一性の有無のみを争っていたからに過ぎないから、請求人の主張は、本件に関する前提事実の認識を誤っている。
ウ また、請求人は、甲第7号証の裁判例を引用し、同裁判例においては上段と下段の大きさが異なる場合には大きい文字列が要部となることを裁判所も認めている旨主張し、外観、称呼及び観念の類否判断において、要部のみを比較対象とすべきであるという主張を展開する。
しかしながら、甲第7号証の裁判例においても、要部以外も比較した上で商標全体として類否の判断を行っており、同裁判例は、請求人が主張する要部のみを比較対象とするというような判断基準を採用していない。
そして、本件においては、本件商標のうち「X」及び「ronos」の全体に占める割合が大きいとしても、構成中の「LSC」の文字部分が被請求人の会社名の略称であって、同文字部分も自他識別力が高いことからすれば、当然同文字部分も含めて類否の判断がなされるべきである。
2 まとめ
ここで、以上の事情を総合して本件商標と引用商標との類否を改めて検討する。
まず、外観については、上記1(1)で述べたとおり、本件商標が青色の四角囲みの背景の中に白抜きの文字で構成されているのに対し、引用商標は単に標準文字のみから構成されている。また、本件商標は、「X」という文字部分が特に強調された図柄となっていて、中央上部の目立つ部分に「LSCクラウドPACS」という文字列が配置されていて、引用商標と共通するのは大文字と小文字の相異を捨象した上での、引用商標を構成する文字列の一部「ronos」と本件商標のうち「RONOS」という文字部分のみであり、本件商標と引用商標の外観は大きく相異する。
次に、称呼については、上記1(2)で述べたとおり、本件商標から生じる称呼が「エルエスシークラウドパックス」「エックスロノス」であるのに対し、引用商標から生じる称呼は「クロノス」であり、両商標から生じる称呼も類似しない。
最後に、観念についても、上記1(3)で述べたとおり、本件商標から生じる観念は請求人が提供するクラウドコンピューティングサービスによる医用画像管理システムの観念である一方、引用商標から生じる観念はギリシャ神話における大地及び農耕の神の観念であるから、両商標から生じる観念は全く類似しない。
したがって、本件商標と引用商標は類似しないことが明らかである。

第5 当審の判断
1 本件商標
本件商標は、別掲のとおりの構成からなるところ、青色で塗り潰した長四角形内に白抜きで大きく顕著に表された「Xronos」(「X」の文字が図案化されている。以下、同じ。)の文字とその上部に白抜きで小さく表された「LSCクラウドPACS」の文字とが常に一体不可分にのみ認識し、把握されるべき格別の理由は見出し難く、構成中、語頭の文字に図案化を伴い、大きく顕著に表された「Xronos」の文字部分が、看者に強く支配的な印象を与える部分といえることから、該文字部分を要部としてとらえ、独立して自他役務の識別標識としての機能を果たすものというべきであり、これより生ずる称呼及び観念をもって取引に資される場合が少なくないものといえる。
そして、「Xronos」の文字は、外国語辞典には見られない綴りであって、親しまれた既成の観念を有する成語とはいえず、一見して直ちに称呼し難いものであるが、語頭の「X」の文字が一際大きく目立つ態様で表されていることから、「エックスロノス」の称呼を生ずるものというのが相当である。
また、英和辞書(甲21)によれば、「X」の文字は、「Christ」、「Christian」及び「cross」の略語として使用される場合もあるところ、例えば、「cross」を「xross」のように、「x」の文字を「ク」と発音させ使用される例がある(甲19)ことからすれば、本件商標を構成する「Xronos」の文字部分についても、「X」の文字部分を「ク」と発音し「クロノス」と一連に称呼する場合もあるということを否定することはできない。
そうすると、本件商標は、「Xronos」の文字部分に相応して「エックスロノス」及び「クロノス」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
2 引用商標
引用商標は、前記第2のとおり、「CRONOS」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「クロノス」の称呼及び「(ギリシャ神話)クロノス」(甲21)の観念を生ずるものといえる。
3 本件商標と引用商標との類否について
外観については、本件商標が青色で塗り潰した四角形内に白抜きで文字を表し、かつ、引用商標にはない「LSCクラウドPACS」の文字を有するのに対し、引用商標は「CRONOS」の文字のみからなるものであるから、両商標は、外観上明確に区別することができるものである。
さらに、本件商標の「Xronos」の文字部分を要部として分離抽出して引用商標と比較してみても、上記文字部分は語頭の「X」の文字が図案化され、かつ、大きく顕著に表され、これに続く「ronos」の文字は小文字で表されているのに対し、引用商標は全て大文字で一連に表されているものであって、看者がそれぞれから受ける印象は全く別異のものであるから、両者は、外観上、判然と区別し得るものといえる。
この点について、請求人は、「頭文字が『X』と『C』で異なるのみであり、あとの『ronos』と『RONOS』が全く同一であるから、外観上の印象が同じとなり、外観上類似する」旨主張するが、引用商標が同じ大きさで普通に「CRONOS」と書してなるのに対し、本件商標の「Xronos」の文字部分は、これらの商標に接する者の注意を惹きやすい語頭において、綴り字が異なり、さらに「X」の文字が図案化され大きく顕著に表されていることからすれば、その印象が大きく異なるものであることは上記のとおりであるから、請求人の主張は採用することはできない。
次に、称呼については、「クロノス」の称呼において本願商標と引用商標の称呼は共通する場合がある。
また、本件商標は、上記のとおり既成の観念を有するものとはいえないから、特定の観念は生じないのに対し、引用商標は、「(ギリシャ神話)クロノス」の観念が生ずるものであるから、観念において相紛れるおそれはない。
そうすると、本願商標と引用商標とは、「クロノス」の称呼を共通にする場合があるとしても、これが外観における顕著な差異を凌駕するものではなく、観念においても相紛れるおそれはないものであるから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、両商標は、これを同一又は類似の商品及び役務に使用しても、商品及び役務の出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標というべきである。
4 請求人の主張について
請求人は、拒絶商標の審査において、「CRONOS」商願(引用商標)及び本件商標が引用されて拒絶されたから、本件商標と引用商標も類似する旨主張する。
しかしながら、該審査例は、引用商標と本件商標の類否について判断したものではなく、そもそも、商標の類否判断は、比較する商標の対比において、個別具体的に判断されるものであるから、請求人の挙げた審査例があることをもって、本件商標も類似するということにはならないし、本件商標と引用商標とが非類似の商標であることは、上記3で述べたとおりであるから、請求人の主張は、採用できない。
その他、両商標が類似するというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標と引用商標は、非類似の商標というべきであるから、本件商標の指定役務及び引用商標の指定商品の類否について検討するまでもなく、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に該当するものとはいえない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)(色彩は、原本を参照されたい。)




審理終結日 2016-12-26 
結審通知日 2017-01-05 
審決日 2017-01-19 
出願番号 商願2014-5380(T2014-5380) 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W42)
T 1 11・ 262- Y (W42)
T 1 11・ 263- Y (W42)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 藤田 和美
今田 三男
登録日 2015-03-13 
登録番号 商標登録第5748383号(T5748383) 
商標の称呼 エルエスシイクラウドパックスクロノス、エルエスシイクラウドピイエイシイエスクロノス、エルエスシイクラウドパックス、エルエスシイクラウドピイエイシイエス、エルエスシイ、クラウドパックス、クロノス 
代理人 中田 和博 
代理人 青木 博通 
代理人 杉本 太郎 
代理人 柳生 征男 

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